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色の種類3 類語関連語(例句)

色の種類3 類語関連語(例句)

●真紅●深浅●新緑●煤色●雀色●菫色●赤褐色●赤色●石竹色●セピア色●鮮紅●蒼白●空色●代赭色●橙色●卵色●玉虫色●丹青●茶色●茶褐色●土気色●土の色 土色●朱鷺色 鴾色●どす黒し●鳶色●茄子紺●生白し●納戸色●丹●肉色●虹色●鈍色●乳白色●鼠色●濃厚●濃淡●灰色●バイオレット●白紙●白蛇●白色●白兵●肌の色●鳩羽鼠●花色●縹色●薔薇色●緋●鶸色●ピンク●深緑●葡萄色●ブラック●ベージュ●碧空●紅墨色●ほの紅し●真蒼●真白し●真赤●真黒●真青●真白●水色●緑 みどり●翠●緑色●紫 むらさき●萌黄●萌葱●桃色●山吹色●雪白●利休色●瑠璃●ろうかん●若紫●藁しべ色●ホワイト●つまくれない●菜の花色●くれなゐ


●真紅 
お花畑ゆふべ真紅の霧を噴く 堀口星眠 火山灰の道
かげろふよ真紅の椅子に掛けたまへ 進藤一考
がまずみの真紅母より便り来ず 石寒太 翔
げんげ田真紅一瞬にして白もどる 三谷昭 獣身
この薔薇のための真紅と思ふほど 今橋眞理子
すさまじき真紅捩れて雁来紅 八木林之介 青霞集
どぜう屋の炭火真紅に冬来る 細見綾子 黄 瀬
ひとり覚めポンポンダリアの真紅なり 瀧勧進帳
ふくろふに真紅の手毬つかれをり 加藤秋邨 怒濤
アマリリス眠りを知らずただ真紅 堀口星眠 営巣期
ガーベラの真紅の中に妻が居る 吉原波路
サルビヤの真紅伴天連ここに瞑る 下村ひろし 西陲集
ネッカチーフの真紅捲かれぬ踊らむか 毛塚静枝
バラ真紅天の濃淡うばひけり 河野南畦 『硝子の船』
仏桑花真紅の声を挙げて基地 山田みづえ
冬ばらの真紅に未来うるほへり 柴田白葉女 『夕浪』
初暦真紅をもつて始まりぬ 藤田湘子
南天の真紅撒きしは鵯か吾子か 堀口星眠 営巣期
厚房の真紅めでたし麻耶参 大谷句佛
口に薔薇それも真紅ぞタラップ゜踏む 本城佐和
古根に浮きて虎杖の芽や真紅 西山泊雲 泊雲句集
吸ふ息のはげしさ春のばら真紅 杉本寛
吾にまだ燃ゆるものあり薔薇真紅 石川文子
唐突の真紅がよけれ猩々木 高澤良一 鳩信
地球儀の列島真紅桜の夜 朔多恭
夕焼けて真紅のくらげ渦とゆく 佐野まもる 海郷
夕焼へ真紅の玻璃扉ひらき出づ 鷲谷七菜子 黄 炎
夕焼消え真紅の薔薇を抱き来し 野見山朱鳥
大いなる紅葉の真紅揺らぎをる 京極杞陽 くくたち上巻
大寒や真紅に伸びる日の翼 相馬遷子 山河
太子会やかかげて貝の華真紅 飯田晴子
婚の燭焔をたつるとき薔薇真紅 加藤耕子
子への愛編み込むセーター真紅なる 杉森かつ江
実南天柄まで真紅や自若たり 草田男 (聚光院の利休自刃の間の内外にて)
実南天紅葉もして真紅なり 鈴木花蓑
実茨のひとかたまりの真紅かな 岡田日郎
富士茜真紅の冬日しづみければ 篠原梵 雨
寒梅に夕日の真紅浸み透る 笹尾操子
巨いなる真紅の如露を農婦提ぐ 石田波郷
布団はね咳きむせぶもの真紅なり 中尾白雨 中尾白雨句集
干梅の夜も真紅の香を送る 高橋利雄
忘年や醸(う)れて梅酒の真紅 辻桃子
愛染や花の荒びの真紅 長谷川 櫂
戸の隙に真紅の日あり寒の入 相馬遷子 山河
旅情まづ梯梧の真紅那覇五月 河野静雲
春の夜の灯を消せばなほ真紅の衣 長谷川かな女 雨 月
春暮るる雉子の頬の真紅 福田蓼汀
梅干の種の真紅と蟻地獄 近藤一鴻
梅雨めくや入日真紅に真円に 相馬遷子 山河
森の奥の夜の雪のおくの真紅のまんじ 高柳重信
椿真紅椿純白霊気満つ 滝青佳
檀の実裂ける力ぞ真紅 斎藤素子
母病むや闇に真紅の躑躅燃え 相馬遷子 雪嶺
活けられて寒薔薇真紅なる呪詛 嶋田麻紀
流水に真紅うつらず蛇苺 山口誓子
海人の子に真紅の破魔矢にぎらしむ 原田喬
渓紅葉真紅の妻の振りかへる 落合水尾
渾身の力は真紅冬木の芽 折井眞琴
火炉の天真紅に染みぬ春の闇 樋口玉蹊子
焚火やがて真紅となりぬ四辺なし 栗生純夫 科野路
爆心地真紅は薔薇のほかになし 池田秀水
牡丹に未開の真紅かじか領 原裕 青垣
犬の舌枯野に垂れて真紅なり 野見山朱鳥
猟期果つ真紅のシャツを風に吊り 菅原多つを
玉の緒の今こそ真紅初日いづ 千代田葛彦
畳よりすぐに真紅に雛の段 中田みづほ
皮の真紅身に滲みおり堅き桃 田川飛旅子 花文字
真紅とはこの花のことアマリリス 川口咲子
真紅とは瞼にともる唐辛子 中村明子
真紅なる薔薇抱かされぬ秋灯裡 石塚友二
真紅もて白昼を継ぐ灌仏会 小笠原理
秋湖澄み富士の落日真紅なり 富安風生
秋航へ鮫の真紅の肺を見て 齋藤愼爾
簪の珠真紅かねたたき 中田剛 珠樹以後
粉炭の火掻けばたのしき真紅あり 篠原梵 雨
絨毯の真紅に年の豆こぼれ 大野紫水
網膜に芥子の真紅を真紅に鐫り 竹下しづの女句文集 昭和十二年
老いらくの血を耀かす薔薇真紅 小出秋光
耳袋真紅に鶴を見てゐたり 喜多みき子
膝掛は真紅花見の人力車 村上美枝
船絵馬の旭真紅に雪解かな 野沢節子 八朶集
芍薬や蕊の心まで真紅にて 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
花咲蟹茄でて真紅を越えにけり 吉田紫乃
草田男忌薔薇の真紅がくづれさう 蛯名晶子(薫風)
菜殻火の立ちしふところこそ真紅 皆吉爽雨 泉声
蓬莱の国の真紅の賀状かな 小宮山政子
薔薇の芽の真紅を洗ふ雨となりぬ 岡田日郎
薔薇の芽の真紅詩の血を師より享け 早崎明
薔薇は真紅すつくと挿されありにけり ふけとしこ 鎌の刃
赤城君真紅の薔薇だよ「さようなら」 橋本夢道 無類の妻
踊り子へやんやと放つ薔薇真紅 嶋田麻紀
踊る夜を嬢っこ真紅のしごき帯 高澤良一 素抱
返り咲くための蕾を真紅にす 池田秀水
釣られざま鱸真紅の口開く 磯直進
鍵束の紐を真紅に父亡き秋 神尾久美子 掌
雪の嶺真紅に暮るゝ風の中 相馬遷子 山国
雪をんな襦袢は真紅かも知れぬ 山元志津香
青いのと真紅と笊のたうがらし 川崎展宏 冬
青天と辛夷とそして真紅な嘘 三橋鷹女
青木の実青きを経たる真紅 貞弘衛
鞭かざす馬上の友や薔薇真紅 角田 泰子
馬柵の下凍る苔桃真紅なり 堀口星眠 火山灰の道
鳥雲に真紅の毬をかなしめり 永島靖子
鳳凰木真紅に咲けり蝶湧けり 石原八束 『藍微塵』
鶏冠の真紅ながるる露むぐら 堀口星眠 営巣期
麦稈を焚く火の真紅その日暮し 平畑静塔
黐の実の真紅きはまる法隆寺 佐々木蔦芳
ぶな・いたや炉に静けしやまくれなゐ 林原耒井 蜩
まくれなゐなる睡蓮の一巻葉 上野さち子
初日いまわが遺伝子のまくれなゐ 引地冬樹
寒椿咲き切れずあるまくれなゐ 島村茂雄
明日ひらく牡丹にしてまくれなゐ 大石悦子 群萌
春疾風火を抱き窯まくれなゐ 長谷川櫂 天球
洲の芦の騒ぎ竃火まくれなゐ 木村蕪城 寒泉
浜なしのくらつとゆれるまくれなゐ 松澤昭 麓入
湯上りの子のまくれなゐクリスマス 赤松子
生国や寒の朝日のまくれなゐ 木附沢麦青
秋耕の鞍のざぶとんまくれなゐ 竹下しづの女
笹みどり鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
絶海の一方向のまくれなゐ 横山康夫
芍薬の芽のまくれなゐ手毬唄 寺井瑞魚
金時の墓の病葉まくれなゐ 松永みね子
一政の心頭の薔薇真くれなゐ 高澤良一 宿好
一葉忌以後に散る葉の真くれなゐ 佐野まもる
不忠不孝の人山茶花の真くれなゐ 飯島晴子
八重白梅支ふる萼の真くれなゐ 都筑智子
啼きあぐる鶴口中の真くれなゐ 上野さち子
嘘質すべきか椿の真くれなゐ 稲垣きくの 牡 丹
土用芽のわけてもばらは真くれなゐ 篠田悌二郎
大賀蓮神も仏も真くれなゐ 古谷比呂子
寒椿その一喝の真くれなゐ 徳武貞子
明日は明日の旅あり焚火真くれなゐ 伊藤京子
湿原の冬木に実あり真くれなゐ 殿村莵絲子 雨 月
紅梅は蕾のうちの真くれなゐ 高澤良一 鳩信
美男かつら誰がつけし名ぞ真くれなゐ 山崎豊女
言ひすぎし悔い冬薔薇の真くれなゐ 鈴木とし子
遍路笠きりりと紐の真くれなゐ 永沼弥生
開かんとして躑躅たち真くれなゐ 中川宋淵 命篇
●深浅
●新緑 
あの丘に熊鷹が居て新緑なり 福富健男
いくつかの部屋新緑の椅子の部屋 山口誓子
きよお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中 金子兜太(1919-)
わが心わが身新緑の山に入る 相馬遷子 雪嶺
一雨きて新緑空を覆ひけり 井山茂臣
並木新緑花道めきて別れけり 原子公平「浚渫船」
列車快走す新緑の防雪林 内藤吐天 鳴海抄
十重二十重新緑まとふ西方寺 佐藤恒朗
去年の雌花くろいやしやの新緑 北原白秋
友讃へあふ新緑の若者たち 福田甲子雄
口を漱ぎて新緑の駅にまた 中田剛 竟日
古塔小さし洩れ日翻りの新緑に 石原八束 空の渚
塔仰ぐとき新緑に染まりつゝ 稲畑汀子
天気もちにもって新緑寸又峡 高澤良一 ぱらりとせ
夫を待つ坂多き街新緑の 対馬康子 愛国
妻子いつ呼べるや新緑の真只中 石橋辰之助
姨岩を囲む新緑柔らかし 野村倶子
実験の火は新緑の上に育つ 古舘曹人 能登の蛙
宿一歩出て新緑に目を細む 高澤良一 素抱
少年よ新緑を汝がたてがみに 渡辺恭子
山毛欅新緑足跡残してはならぬ 津田清子
師の句集言葉の飛沫新緑に 肥後悦子
快復す新緑に躬をふかく容れ 池田秀水
忽ち拡がり拡がる新緑は野武士的 山岡敬典
摩天楼より新緑がパセリほど 鷹羽狩行「翼灯集」
新緑がもえても 平和の鳩が とびたゝない 吉岡禅寺洞
新緑が人のすきまを埋めてゆく 中田 美子
新緑が新緑を染め人を染め 星野椿「星野椿句集」
新緑にさだかならざる目鼻かな 京極杞陽 くくたち下巻
新緑にしばし讀書の瞳を癒す 新井フミ
新緑にひたりて心透明に 岡部 菊
新緑にひたる贅沢職を辞す 林良子(知音)
新緑にひゞかひ堂の階を踏む 米沢吾亦紅 童顔
新緑に伸びし眉毛を切りおとす 相馬遷子 山河
新緑に俗を離れて離宮かな 幸数限
新緑に含みて釘の酸ゆきかな 長谷川櫂 天球
新緑に吹きもまれゐる日ざしかな 深見けん二
新緑に命かがやく日なりけり 稲畑汀子「障子明り」
新緑に噎せて大日峠越え 浅場英彦
新緑に慣れたところで山下る日 高澤良一 素抱
新緑に抱き余す子の手足かな 長谷川櫂 天球
新緑に指染めて指す滝への道 高橋悦男
新緑に栗鼠の神出鬼没かな 神田貴代
新緑に浮浪者蒼き目をしたる 対馬康子 吾亦紅
新緑に神の笛吹く男の子 若林かつ子
新緑に立つけだるさは祖母ゆずり 鎌倉佐弓 天窓から
新緑に紛れず杉の林立す 山口波津女
新緑に鑿の重みの道具箱 長谷川櫂 天球
新緑に開発すすむ石油の香 大島民郎
新緑に雨ひかり降り降りやまず 柴田白葉女 花寂び 以後
新緑の 陰影の深さ 鮎解禁はまだです 吉岡禅寺洞
新緑のうねり隣家を遠くせり 大山昭雄
新緑のなかに陶焼く一戸あり 井上てつこ
新緑のなかまつすぐな幹ならぶ 桂信子 黄 瀬
新緑のなか新緑の旧火口 原 雅子
新緑のもとにて髪の吹かれ立ち 藤後左右
新緑のアパート妻を玻璃囲ひ 鷹羽狩行(1930-)
新緑のジャックナイフとパセリ買う 岸本マチ子
新緑のダム白炎の水吐けり 前山松花
新緑のレース綴れり御堂筋 西村和子 かりそめならず
新緑の中にひかりのこぼれきてキリストのごとく立つ黒き幹 浅野光一
新緑の中や*いもりの水しづか 中村秋晴
新緑の中より白鳳城聳ゆ 中森美年子
新緑の中鼎談の椅子置かれ 池田秀水
新緑の光へと旅立ちにけり 明石はま子
新緑の名城公園散策す 籠谷充喜
新緑の城に掲げし寄附の額 宮坂静生 青胡桃
新緑の夜空混み合ふ電波かな 仲寒蝉「海市郵便」
新緑の大沼小沼蝦夷にして 町 春草
新緑の天にのこれりピアノの音 目迫秩父
新緑の寺の電話を借りにけり 増田龍雨 龍雨句集
新緑の山並鏡なせりけり 原裕 『王城句帖』
新緑の山径をゆく死の報せ 飯田龍太
新緑の山迫り来て声となる 高久フミ
新緑の島根を洗ふ濤の段 西島麥南
新緑の庭より靴を脱ぎ上る 山口誓子
新緑の彩のちがひも信濃かな 加藤哲也
新緑の押し寄せてゐる一山村 高澤良一 素抱
新緑の朝いつせいに送信す 吉田悦花
新緑の枝混り合ひ許し合ふ 保坂リエ
新緑の森をいできし濁り水 鈴木六林男 国境
新緑の椎の最も昂れる 百合山羽公
新緑の槐の陰に小鮒売 小林螢二
新緑の此岸に村はかたまりて 高澤良一 素抱
新緑の水に老醜山椒魚 浅羽緑子
新緑の流れうれしき蛇石かな 矢島渚男 延年
新緑の深さ競ひて医科法科 小松原みや子
新緑の町へ来る汽車の音です 北原白秋
新緑の真っ只中の車椅子 長曽我部里子
新緑の真中の我に闇ひとつ 藤木加代子
新緑の真只中に祝はるる 長谷川回天
新緑の紀ノ川渡り結納す 重松文江
新緑の肺に溶け入る湖畔荘 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
新緑の血潮を永久に龍馬像 渡辺恭子
新緑の街をゆく掌をポケットに 藤後左右
新緑の街路樹幹を敵と知らず 斎藤玄
新緑の裏山見せに母背負ふ 宮谷昌代
新緑の郵便局を左折せよ 島田牙城
新緑の重なり合うて長谷舞台 塩川雄三
新緑の野点の席に雲流る 小林律子
新緑の闇よりヨーヨー引き戻す 浦川聡子「水の宅急便」
新緑の雨や石上のかたつむり 内藤吐天 鳴海抄
新緑の雨古靴と古鞄 小出秋光
新緑の風にゆらるるおもひにて 飯田蛇笏 椿花集
新緑の香に新緑の風を待つ 稲畑汀子
新緑へでて遊びたい仏たち 谷口ふみ子
新緑へ窓を閉ざして修道院 泊 康夫
新緑めぐらし胎児育ててむわれ尊 金子皆子
新緑もビルも流れて子を産みに 森田智子「全景」
新緑やあきらかに捧げ元帥刀 渡邊水巴 富士
新緑やいよいよふるぶ屋根と墓 田川飛旅子 花文字
新緑やうつくしかりしひとの老 日野草城
新緑やかぐろき幹につらぬかれ 日野草城
新緑やこつてり絵具つけて画く 高田風人子
新緑やたへにも白き琴弾く像 山口青邨
新緑やたましひぬれて魚あさる 渡邊水巴
新緑やまた水楢に歩をとゞめ 佐野青陽人 天の川
新緑やもつたいなくて帽子とる 太田土男
新緑やグレンミラーの風つれて 大原禎子
新緑やチヨークで道に道を描き 対馬康子 純情
新緑や人の少なき貴船村 波多野爽波「舗道の花」
新緑や仰ぎて叩く楡の幹 望月皓二
新緑や兄欲る東大構内に 秋元不死男
新緑や夜まで遊ぶ鹿を見し 阿部みどり女
新緑や己が命をゆさぶらん 石川眞弓
新緑や愛されたくて手を洗う 対馬康子 純情
新緑や暁色到る雨の中 日野草城
新緑や暮らしの端に欅立つ 岩淵喜代子 朝の椅子
新緑や木椅子に昨夜のしめりあり 岡和絵
新緑や水恋鳥が啼きしと云ふ 渡辺水巴 白日
新緑や濯ぐばかりに肘若し 森澄雄「雪櫟」
新緑や生れし子に逢ふ硝子越し 福永 耕二
新緑や皇居名残の霊柩車 渡辺水巴 白日
新緑や目薬させば目の新た 長崎雁来子
新緑や石をこえゆく水の音 曽我玉枝
新緑や神居古潭の家煙る 穴井太 原郷樹林
新緑や絶壁のひび海に入る 新田祐久
新緑や芥のごとき汽車の中 百合山羽公 故園
新緑や菩薩六体顔ほてる 米村昌子
新緑や足どり軽き宮参り 横溝三男
新緑や飛びゆくもののためらはず 岩田由美 夏安
新緑や飛騨国神斧持つて 矢島渚男 延年
新緑や髪の捲きかたかへて見き 加藤知世子
新緑や魚棲むらんか枝に石に 渡辺水巴 白日
新緑や鳥語木語と縫い歩き 穴井太 原郷樹林
新緑をしきりに揺する不発弾 穴井太 原郷樹林
新緑を洗い晒して雨あがる 丸山實子
新緑を見透かせぬなり遺骨抱き 澁谷道
杉の香に新緑邃し楞厳寺 河野南畦 湖の森
村は新緑戸籍に死にし兵帰る 橋本夢道 無礼なる妻
来る・たしかな新緑をあなたが来る 田中 陽
来る日が来て母焼く新緑のなかに 山本つぼみ
森深き新緑の中幹が立つ 中島斌雄
植ゑられてすぐ新緑に加はれり 上田五千石
水飲んで新緑の山膨らます 小島健 木の実
河原木もまた新緑を怠らず 綾部仁喜 寒木
海中にも新緑のあり揺らぎをり つじ加代子
滝の如き新緑貧を遊びをり 小林康治 玄霜
眼帯の宇宙半減して新緑 山本すわ子
硝子の新緑光今朝来た蠅 北原白秋
硝子絵の騎士新緑の窓へ向く 柳田 稔
神木や新緑界を抽んでて 上田五千石 田園
篁子が匍ひ出した梅の新緑 北原白秋
職退かな新緑の渦組みほつれ 上林 裕
西塔残花に在り東塔は新緑に 日野草城
車窓新緑故山に向ふうづくまり 森澄雄 雪櫟
雑木の新緑見おろして何か光る木 北原白秋
●煤色 
夜のみ知足煤色淡め灯の障子 香西照雄 対話
●雀色 
二日はや雀色時人恋し 志摩芳次郎
春雷や雀色時妻待てば 清水基吉 寒蕭々
棗の実雀色時地より湧く 小池文子 巴里蕭条
目借時雀に雀色の草 岩淵喜代子 硝子の仲間
稲雀黄に溺れずに雀色 栗原加実
竹の皮散るよと見れば雀色 清水基吉 寒蕭々
花降れる地べたに雀色動く 高澤良一 燕音
芽ぶき雨雀色時過ぎにけり 宮坂静生 春の鹿
萱を負ひ雀色時おし黙る 山口誓子
蓑干して左千夫生家は雀色 松山足羽
雀らに雀色時炉火ほしや 石野兌
雀色時雨は光輪持ちて降る 大野林火
雪を削ぐ流れひしめく雀色 成田千空 地霊
●菫色 
伊勢海老のどことは言はず菫いろ 角川照子
ねむる子に北の春暁すみれ色 成田千空
峯雲の翳の陸地の菫色 八木林之介 青霞集
暖冬の月上げて空菫色 田川飛旅子
ねむる子に北の春暁すみれ色 成田千空
すみれ色の催眠薬の朧なり 内田美紗 誕生日
●赤褐色 
鰻焼き一筋の母赤褐色 青木節子
●赤色 
例ふれば恥の赤色雛の段 八木三日女 紅 茸
火の国の牛は赤色麦の秋 谷合青洋
●石竹色
●セピア色 
わが声のセピア色かも暑気中り 西村梛子
セピアとは眼裏のいろ去年今年 皆吉司
セピアの写真泛く 鮭上る日の珈琲店 伊丹公子 アーギライト
フランスの秋はセピアと申せませう 笠原蜻蛉子
忽然と/紫影色(セピア)/羽つけし/一家族 折笠美秋 火傅書
惜春の少年の子規セピア色 岩田佳世子
春はあけぼの復刊本もセピア色 渡邊かづ子
暮れなずむセピアの家並み一葉忌 西本公明
水温む長堤いまだセピア色 長谷川昌子
炉明りやセピアに褪せてレノンゐる 橋本榮治 麦生
魂のセピア色なる終戦日 菱川イツ子
●鮮紅 
日のみ鮮紅万象暁の凍ての中 福田蓼汀 秋風挽歌
灯蛾や医師鮮紅の薬吾に与へ 橋本榮治
花びらの鮮紅崩す牡丹鍋 関根常夫
鮭の切身の鮮紅に足とむる旅 能村登四郎
鮮紅のサーモン切身聖夜くる 高澤良一 宿好
●蒼白 
ごきぶりを打つ蒼白の刻にゐて 小澤克己
まどろみの後蒼白の牡丹かな 塚本邦雄 甘露
わが紅葉蒼白なればいちにちみる 阿部完市 にもつは絵馬
一瞬蒼白の踏切をおき喪の東北 金子兜太 蜿蜿
万緑を抜けし列車は蒼白に 小林 武
司教にある蒼白の丘疾風の鳥 金子兜太
大綿に蒼白の渦浮きあがる 村上高悦
山霧を行かせ蒼白なり氷河 有働亨 汐路
抗癌剤効きゆく桜蒼白に 中尾杏子
故郷の蒼白の文字と水の空 阿部完市 証
暦日を詰め蒼白の新日記 楠本憲吉
母も来て見よ四弁蒼白なるどくだみ 鮫島康子
流氷の蒼白に日をとどめをり 佐藤 国夫
深昼寝して蒼白に起き出づる 能村登四郎
片影を僧の蒼白来つ往きつ 殿村莵絲子 雨 月
蒼白きものふるへ来る月の霜 渡辺水巴 白日
蒼白き雲海に富士日の出待つ 沢 聰
蒼白くかもしか佇てる岩の上 坊城としあつ
蒼白く夕かげりたる辛夷かな 鈴木花蓑句集
蒼白となりて入りゆくさくらかな 岸田稚魚 『雪涅槃』
蒼白な火事跡の靴下蝶発てり 赤尾兜子
蒼白に黎明のぼり凍りつく 成田千空 地霊
蒼白のキリスト水餅に触りて 小川双々子
蒼白の国境にきて 哄笑ふかな 富澤赤黄男
蒼白の磔像肋らに夜露ため 後藤綾子
蒼白の軍鶏のたましひ月夜なり 酒井破天
蕨ひく山の大きさなど蒼白 松澤昭 父ら
離陸後に会う既望の蒼白と 澁谷道
●空色 
おはじきは今朝の空いろ芙蓉咲く 古沢太穂
そらまめの葉裏空色招提寺 沢木欣一
また逢わんいぬのふぐりは空色に 古沢太穂 古沢太穂句集
ネクタイは鳩の空色七五三 後藤夜半 底紅
久方の空色の毛糸編んでをり 久保田万太郎(1889-1963)
寒烏傾くときは空色に 加藤知世子 黄 炎
曙の空色衣かへにけり 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
朝顔のみな空色に日向灘 川崎展宏
沼と空色を同じに蘆花日和 石井とし夫
目薬は夜も空色猫の恋 宮脇白夜
稲雀日は空色に磨かれて 津田清子 礼 拝
空は空いろ水は水いろ原爆忌 滝井清子
空色のクレヨン眠る五月かな 横溝藤子
空色のゴム手袋や牡蠣を割る 松本みず代
空色の山は上総か霜日和 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
空色の水飛び飛びの枯野かな 松本たかし
空色は男の色よ新学期 田島秀子
空色は褪めつつ母と洗う罎 津沢マサ子
空豆空色負けるということ 阿部完市
長月の空色袴きたりけり 一茶
長月の空色袷きたりけり 小林一茶
露草の空色の花の咲くあたり 堺利彦 豊多摩と巣鴨
麦藁を染めバラ色に空色に 後藤夜半 底紅
●代赭色 
金盞花挙げて畑土代赭いろ 高澤良一 随笑
スラムの掌うごめく黒と代赭の壁 安西篤
きたぐにのぶら~している代赭の馬 細谷源二
●橙色 
屋根替へし橙色に峡の雨 滝春一
楪に橙色を流しけり 増田龍雨 龍雨句集
胡麻屋 油屋 雪降る奥の橙色 伊丹公子 陶器の天使
●卵色 
あたたかやあひるの雛の卵色 牛山一庭人
寒月も盈ちゆき頃の掻卵色 横澤放川
渇水季卵色なる電気點く 石塚友二
絵のある茶碗を子に買ふ春日も卵色 磯貝碧蹄館 握手
補陀落の那智の春月卵いろ 前山松花
鮎の斑の卵色なるつかれかな 志城柏
●玉虫色 
たましいの玉虫色に春暮れたり 橋石 和栲
玉虫の死して玉虫いろ失せず 遠藤若狭男「青年」
玉虫の玉虫色の生き難し 津嶋 和
葉ぼたんの玉虫色の中の闇 早乙女文子
雪降る淵玉虫色に紬織る 加藤知世子 花寂び
香水に玉虫色の目となんぬ 三谷昭 獣身
●丹青 
丹青のついに氷柱となりにけり 五島高資
応挙が丹青あはれ萩の中 会津八一
●茶色 
とげの木に蔓草枯れて茶色の實 枯草 正岡子規
ミニヨンの唄に茶色の毛虫あり 長谷川かな女 雨 月
六月やひき茶色なる舞扇 今泉貞鳳
冬の日や茶色の裏は紺の山 夏目漱石
如月の工夫大きな茶色の目 中村草田男
子山羊ねて青草の中茶色の目 中山純子 茜
昼顔に茶色の蝶の狂ひ哉 昼顔 正岡子規
朝顏の澁色茶色なども咲きぬ 朝顔 正岡子規
木瓜の実は茶色にまろし秋立ちぬ 渡邊水巴 富士
沢山の蝶々をれど皆茶色 星野立子
海南風死に到るまで茶色の瞳 橋本多佳子「紅絲」
石を蹴る どこも茶色の防風林 星永文夫
稚虫背にうすうすと茶色の斑 阿部みどり女 月下美人
稲妻の蚊帳をすかして茶色なり 子規句集 虚子・碧梧桐選
箒売り木枯沁みし茶色の瞳 八牧美喜子
紅葉してゐるや茶色に紫に 岸本尚毅
紫蘇畠の茶色に秋の別れかな 癖三酔句集 岡本癖三酔
花の川往き来の鴨の頭の茶いろ 高澤良一 素抱
菜の花や雲は茶色の入日影 菜の花 正岡子規
遠い昔の秋や茶色の皮表紙 栗林千津
野分あと茶色の蝶をつけ戻る 細見綾子 黄 炎
雨のふるさくら咲き出て茶色哉 滝井孝作 浮寝鳥
鳥渡る茶色の卵ひびわれて 穴井太 原郷樹林
●茶褐色 
桃の虻皆光り飛び茶褐色 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
田舎にて老母も虻も茶褐色 永田耕衣 驢鳴集
●土気色
●土の色 土色 
まひる野や土色草色のバツタ跳ね 中拓夫 愛鷹
むらさき茸夜は土色となつてをり 石脇みはる
土色に光る横顔別れ霜 早乙女未知
土色の 黄昏色の 頭ののこれる 富澤赤黄男
土色の冬ひしひしと野にきびし 長谷川素逝 砲車
土色の蜥蜴流人の墓ひとつ 宮坂静生 雹
日かげれば麦蒔消えぬ土色に 鈴木花蓑句集
秋蝶の土をはなれて土色に 古館曹人
萌ゆる色を耕してゆく土色に 及川貞 榧の實
お降りのつくづく深き土の色 宇咲冬男
ラガー等の土の色はや暮色帯ぶ 宮坂静生 青胡桃
井守手を可愛くつきし土の色 中村汀女
人死や雪の融けたる土の色 桑原三郎 龍集
名月やしづまりかへる土の色 許六
地雲雀の一生背負う土の色 土井孝
孕みたる雀がゐたる土の色 榎本冬一郎 眼光
寒肥やひと艶増せる土の色 檜 紀代
日短かや土の色して藁の屋根 成田千空 地霊
曇る田も春へ急げる土の色 阿部みどり女
猪の昨夜に荒らせし土の色 平山邦子
畑打やや僅に乾く土の色 法師句集 佐久間法師
直土の色改り蟻の変 下村槐太 天涯
紅梅や古き都の土の色 蕪村
萩か根や露にぬれたる土の色 露 正岡子規
蒟蒻すだれ土の色して道せばむ 宮津昭彦
蒟蒻玉土の色もて乾くなり 福原十王
蜂の巣の土の色して生まれたり 宮田正和
蝶とんで黄土の色にまぎれざる 依田明倫
蟷螂は渋民村の土の色 菅原多つを
鍬始め一と打ちごとの土の色 矢口由起枝
雪ふつて屍に沁みつ土の色 日夏耿之介 婆羅門俳諧
●朱鷺色 鴾色 
母のみが朱鷺色といふ蓮咲きぬ 金久美智子
足袋履いてみて朱鷺色の朝かな 鈴木允子
朱鷺色の衿裏なりき雪の宿 橋石 和栲
冬安居佐久の端山の鴾色に 土屋未知
●どす黒し
●鳶色 
冬の鳶色の夕暮 かけぬけたのは 霊柩車だつた 吉岡禅寺洞
初日いつもの鳶色の日輪となる 菅裸馬
剣鳶色花の皮膚もつアンドロメダ 河野多希女 納め髪
受験日の鳶色の眼を発たせけり 都筑智子
寒地農頬鳶色の秋日和 久米正雄 返り花
鳶色を富士見西行に着せむ 渋谷道
●茄子紺 
漬茄子紺きつぱりと朝の卓 松本有美子
真夏日の茄子紺 亡母の好きな色 中田敏樹「デ・キリコの箱」
茄子紺に恵那山昏るる涼しさよ 西本一都
茄子紺の会津の空や雁渡る 今泉貞鳳
茄子紺の空と暮れける我鬼忌かな 鈴木しげを
茄子苗や茄子紺といふ茎の色 瀧 春一
●生白し 
なま白き鬼灯の花雨を呼ぶ 高澤良一 素抱
まんじゅさげ生白の茎にょきにょきと 高澤良一 宿好
引きぬきし十薬の根の生白さ 横山房子
蟻はらふときわが肘の生白さ 百合山羽公 故園
●納戸色 
母の日の山が暮れゆく納戸色 中村明子(萬緑)
納戸色秋風母の羽織より 川崎展宏
綿虫や納戸色なる妹背山 矢部白茅
鳥渡る納戸色なる湖の町 小田 亨
●丹
●肉色 
ある街の木瓜の肉色頭を去らず 三谷昭 獣身
冬近き薪は肉色霧巻く小屋 大井雅人 龍岡村
塗椀の内の肉色秋の暮 金子青銅
年終る運河の夕日肉色に 三谷昭 獣身
芽吹く前の谷は肉色友の家 大井雅人 龍岡村
●虹色 
てんたう虫虹色夫が掌より立つ 小池文子 巴里蕭条
ストックや安房虹色に夕暮れて 大見川久代
ビーズの衣跼む虹色寒ともし 中戸川朝人 星辰
ルノアールの裸婦は虹色冬に入る 瀧 春一
夢こそ短し虹色の蟻失せて 齋藤愼爾
春光へ炉火虹色に燃親ふ 加藤知世子 黄 炎
時雨虹色うらがへるとき二重 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
替へたての水虹色にヒヤシンス 平田はつみ
枯れ透ける地や虹色の中尊寺 殿村莵絲子 牡 丹
検温の腋下虹いろ雪遠し 寺田京子 日の鷹
沖に出て気球虹色卒業期 小野恵美子
虹消えて虹色の蟻失せにけり 堀井春一郎
虹色に蜘蛛の囲懸かる雨上り 上原花宵
虹色の光ひとすぢつらら折る 仙田洋子 橋のあなたに
虹色の波くる悶絶しそうな夜 八木三日女 落葉期
雉歩く頸の虹色さざめかせ 長嶺千晶
雪光満つ夜明けの湖は虹色に 加藤知世子 黄 炎
鶏頭のチカ~~と虹色に 京極杞陽 くくたち上巻
黒鯛の潮のしたたり虹色に きくちつねこ
●鈍色 
にび色の浦より低く末枯るる 文子
カーテンに鈍色寒き塑像かな 雉子郎句集 石島雉子郎
多喜二忌や鈍色の浪くづれたる 大竹多可志
蒲の穂の鈍色人に知られぬ過去 青木千秋
親不知沖鈍色に海猫帰る 戸塚あらた
鈍色の命婦の袴春寒し 春寒し 正岡子規
鈍色の地球に沿つて蚯蚓這ふ 辻村麻乃
鈍色の淡海のうみや秋の暮 石塚友二
雪片となるまではただ鈍色に 猪俣千代子
鷹渡る彼方や鵜川鈍色に 松井利彦
●乳白色 
蝉交む乳白色の部分かな 永田耕衣 吹毛集
●鼠色 
明け易き夜頃や富士の鼠色 明け易し 正岡子規
銀鼠色の夜空も春隣り 飯田龍太
●濃厚
●濃淡 
その奥の闇の濃淡虫時雨 成井 侃
につこうきすげ風の濃淡流れたり 鍵和田[のり]子
ものの芽の濃淡うつし川ふかむ 山本つぼみ
バラ真紅天の濃淡うばひけり 河野南畦 『硝子の船』
典雅にふるえて 蘭の濃淡 華僑の店 伊丹公子 アーギライト
咲き満ちて濃淡のある櫻かな 阿部みどり女
夾竹桃の影の濃淡 母来る道 伊丹公子 時間紀行
幽霊が出る城 尖塔への闇の濃淡 伊丹公子 アーギライト
日が射せば蝌蚪に濃淡ありにけり 前山松花
日光きすげ風の濃淡流れたり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
朝霧に陽射し濃淡森の脳波 平井さち子 完流
木漏れ日の濃淡竹は皮を脱ぐ 鈴木定代
梅の香の濃淡風のうらおもて 朝倉和江
梅雨雲の濃淡悼む世の濃淡 古沢太穂 古沢太穂句集
沖までの潮の濃淡雁渡し 柊 愁生
濃淡の紅葉の奥を秘境とす 柴田白陽
濃淡の霧にしづみぬ羽黒杉 山上樹実雄
疎林起伏に菫濃淡妣の国へ 鍵和田[ゆう]子 未来図
病棟のひとの濃淡ゆすらうめ 片岡秀樹
盆唄のやみの濃淡ながれだす 桜井博道 海上
真闇にも濃淡ありし追儺の灯 根岸善雄
眠りにも濃淡ありぬ月日貝 小泉八重子
緑蔭の濃淡抜けてわが身なる 河野多希女 月沙漠
花岩菲色に濃淡なかりけり 高浜年尾
降る雪のつもる濃淡ありにけり 志摩芳次郎
露草や濃淡絶し今朝の空 中村草田男
青芝に雨意の濃淡くちすすぐ 安東次男 裏山
鵜舟ゆく闇に濃淡ありにけり はやし 碧
●灰色 
一羽なりや頭に入りくる灰色雁 阿部完市 軽のやまめ
冴え返る空灰色に凧一つ 会津八一
初冬の雲灰色に沖の方 桑村竹子
川みごと灰色鷺(ぐれいへろん)やさらすほそぬけ 阿部完市 軽のやまめ
巨き秋雲灰色の背もたのもしき 香西照雄 対話
暗黒の宇宙を負へり灰色のクレーターのさき月の地平線 宮柊二
曼珠沙華ある日とつぜん灰色に 岩淵喜代子 硝子の仲間
汐ふきや稲荷の裏の海灰色 長谷川かな女 花 季
灰色の世界を仄と虹照らし 稲畑廣太郎
灰色の午後風そひぬ冬の雨 高木晴子
灰色の夜空の下の雪の山 高木晴子 晴居
灰色の椅子ばかり枯林の音楽堂 柴田白葉女 花寂び 以後
灰色の男と冬の海がある 角川春樹
灰色の空低(た)れかかる枯野哉 夏目漱石 明治三十二年
灰色の街よ中也の雪が降る 橋本榮治 麦生
灰色の象のかたちを見にゆかん 津沢マサ子(1927-)
灰色の雪と見るにただならず二月二十六日 栗林一石路
灰色をふくみ大塊秋の雲 上野泰 春潮
百合鴎灰色に河口曇りゐたり 長谷川かな女 花寂び
神馬灰色秋蝿に眼をしばたたき 長谷川朝風
蛾を救ひその灰色はふり向かず 加藤知世子 黄 炎
酒場灰色 北欧水夫の髪溶けそう 伊丹公子 メキシコ貝
●バイオレット
●白紙 
こほろぎの夜深みたる白紙かな 晏梛みや子
ともしびを囲ふ白紙秋祭 山本洋子
なまなまと白紙の遺髪秋の風 飯田蛇笏 雪峡
ほたと落ちし墨も白紙のうらゝけき 碧梧桐
わが前の白紙いつまで虫の故郷 成田千空 地霊
わが前の白紙に零下三度の灯 阿部みどり女
ペンの影白紙にありて死を論ず 浅井冬男
三伏の白紙につつむ絵蝋燭 吉田汀史
二ン月の風や白紙を繰るごとし 竹田[ろうかん]
冬曙白紙明りといふべかり 中村明子
初辰や白紙きよらに塗り机 上川井梨葉
利休忌の白紙にちかき置手紙 上田日差子(1961-)
含羞や白紙のうえの寒卵 河合凱夫 飛礫
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女
夏シャツまくつて 見えない敵を白紙に描く 伊丹三樹彦 樹冠
夏嵐机上の白紙飛びつくす 正岡子規
夕蝉や追悼の稿まだ白紙 鈴木鷹夫 大津絵
寒月や白紙の飛狩のあと 加舎白雄
少年に白紙おかれて冬の鵙 桂信子
年明ける畳に白紙いちまいと 稲垣暁星子
弥生 ここに白紙春のあなたに『妾薄命』 宇多喜代子
形代の白紙袂のあるあはれ 福田蓼汀 秋風挽歌
懐に白紙一帖更衣 岩木躑躅
拡げおく白紙へ何か死ににくる 森田智子
文字あまた白紙に戻る夜の雷 松村筺花
新年の白紙綴ちたる句帖哉 新年 正岡子規
新玉の句帳の白紙初心とす 田中英子
明け易きものの白紙書きちらし 林原耒井 蜩
明易し白紙を巻ける旅枕 河野博行「貴船菊」
春昼の白紙にぬぐふ母の櫛 野澤節子 『存身』
曲り角で夕陽と別れ明日は白紙 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
枇杷の核の沁み拡がれる白紙哉 西山泊雲 泊雲句集
梅一輪活けて白紙の海がある 対馬康子 吾亦紅
浮塵子来て未だ白紙の稿横這ふ 岡本圭岳
湯上りの心は白紙夕端居 上野泰 佐介
湯豆腐や白紙にもどす子の進路 川崎慶子
湲流に初蝶の白紙漉村 松崎鉄之介
濃く磨りし墨と白紙や夏籠 尾崎迷堂 孤輪
火事遠し白紙に音のこんもりと 飯田龍太
爪切つて白紙に包む夜の秋 中拓夫
白紙にもらふ用意や唐がらし 飯田蛇笏 山廬集
白紙に一と握りづゝ舳倉海苔 前田普羅 能登蒼し
白紙に包みし土産蕗の薹 高浜虚子
白紙に土筆の花粉うすみどり 後藤夜半 底紅
白紙に委任の愛の手形ぞサフランは 原子公平
白紙に拭ひて船の初鏡 宮武寒々 朱卓
白紙に置きたる露もありにけり 松藤夏山 夏山句集
白紙に置く錐一本の残暑光 鈴木鷹夫 渚通り
白紙に鱸よこたへ祝ぎの家 綾部仁喜 寒木
白紙より湧く影のあり日雷 桂信子 遠い橋
白紙を張りあましある燈籠かな 後藤夜半 翠黛
眼をとぢて白紙のごとき秋夕べ 奥きく
睡蓮の深みへ捨てし白紙かな 柿本多映
神棚に貼りし白紙や夜の秋 吉武月二郎句集
禰宜平服白紙に鯛焼横たへて 平井さち子 鷹日和
空蝉を白紙に置きて二日過ぐ 赤尾冨美子(南風)
空蝉を置いて白紙に翳り生む 鍵和田[ゆう]子 浮標
童女来て白紙をねだる暮春かな 加倉井秋を
笹枯れて白紙の如しかたつむり 竹下しづの女句文集 昭和十一年
胸中の未来は白紙小鳥来る 穐好樹菟男
脚つまみ白紙の上へ蚊の骸 高澤良一 素抱
花冷の裏も表も白紙かな 大澤保子
苗代や浄き白紙を鳥おどし 高橋淡路女 梶の葉
薔薇を詠むことを白紙にして戻る 古舘曹人 能登の蛙
行燈の白紙厚し鳥曇 金久美智子
誘蛾灯次のぺージは白紙かも 竹貫示虹
露寒や裏は白紙の喪の花輪 林翔 和紙
露時雨窓下白紙の暁けゐるや 角川源義
青葉木菟弔辞の紙のまだ白紙 宮田正和
青葉騒白紙に戻す死後のこと 久保田豊秋
●白蛇 
珠の白蛇は置物にして橙固し 長谷川かな女 花寂び
白神のかの白蛇の眠る淵 黒田杏子 花下草上
白蛇の変化(パリナーマ)だやひるの川 安井浩司 密母集
白蛇の白光水をすすみけり 黒田杏子 花下草上
白蛇の舌のつめたきさくらかな 緒方敬
白蛇生むごとくに月の今年竹 鳥居美智子
神いまだ穴を出でざる白蛇かな 蛇穴を出づ 正岡子規
花に逢ふ白蛇に逢ふははに逢ふ 黒田杏子
金運の白蛇様も穴を出づ 後藤 章
●白色 
おとといから白色鸚鵡に言つたりす 阿部完市 鶏論
フォロ・ロマーノでの瞑想姿勢 白色の 黄色の 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
マッチの炎の白色男ら厚着して 桜井博道 海上
初夢の花白色にその名失せ 大塚季代
少しづつ違ふ白色重ね着て 須川洋子
白色に包む島山夏の昼 沖手一恋
鵙も木も石も白色旅に出るか 宇多喜代子
●白兵
●肌の色
●鳩羽鼠
●花色 
ぎぼうしの花色の雨つづきけり 平塚司郎
くちなしの花色なして梅雨のランプ 内藤吐天 鳴海抄
むめが香に濃き花色の小袖かな 許六 正 月 月別句集「韻塞」
らふそくの花絵花色春待てり 神戸サト
一筋のうすき花色花うぐひ 浜岡延子
太陽に遠き花色花茗荷 大橋敦子
射干にその花色の蝶の来る 橋爪靖人
屠蘇袋花色絹の匂ひ哉 屠蘇 正岡子規
散り浮いて合歓の花色まぎれざる 高浜年尾
湧く雲も胡麻の花いろ奥秩父 高澤良一 宿好
花色のはなし一ケをかざる支店 阿部完市
花色の御納戸いろに雁の空 長谷川久々子
●縹色 
三伏の葛西や鯉の縹色 宮坂静生
五月逝く江戸手拭の縹色 綾部仁喜 寒木
伊良古崎春あけぼのの縹いろ 辻田克巳
冬三日月浮く丘のそら縹いろ 柴田白葉女 『月の笛』
初がすみうしろは灘の縹色 赤尾兜子
百日白近江の空こそ縹色 増田十王
竜の玉宵月の辺は縹色 中村草田男
花蓼や縹色もめん晒す川 野村喜舟
花鳥風月何処の道も縹色 攝津幸彦 鹿々集
●薔薇色 
しばらくは嶺の薔薇色凍豆腐 柿沼茂
ガヴアジュースの気だるい薔薇色 波出てきた 伊丹公子 機内楽
ツベルクリン薔薇色に出て入学期 三嶋隆英
バラ色に子の指眠る聖母祭 増成栗人
中年や薔薇色の癒を抱えゆく 水野真由美
乞食の嬰児貌薔薇色や初詣 正雄
仲春や子は薔薇色の頬もてり 島田とし子
冬薔薇色のあけぼの焼跡に 石田波郷
初空の薔薇色雀恍惚と 石塚友二
夕焼過ぎなほ薔薇色の帆を置けり 佐野まもる 海郷
大寒や霜薔薇色の貯炭の頭 小林康治 玄霜
寒卵薔薇色させる朝ありぬ 石田波郷(1913-69)
寒念仏に今薔薇色の鶴見川 安永千鶴
山野跋渉せし猪肉の薔薇色 細見綾子 黄 炎
御嶽の雪バラ色に鳥屋夜明 山口青邨
悪しき日も子の抛つ独楽は薔薇色に 石寒太 あるき神
打水に濡れた小蟹か薔薇色に 北原白秋
新年を見る薔薇色の富士にのみ 西東三鬼
春鴉紫に猫薔薇色に 相生垣瓜人 微茫集
氷岳薔薇いろ しばしとどまれ 神の刻 伊丹公子 機内楽
白露に薄薔薇色の土龍の掌 川端茅舎
睡り立つ禽は薔薇色五月来ぬ 堀口星眠 営巣期
薄氷や薔薇色に城ねむらせて 小池文子 巴里蕭条
薔薇色のあくびを一つ烏猫 日野草城
薔薇色の初明りさせ病者らに 藤沢周平
薔薇色の暈して日あり浮氷 鈴木花蓑句集
薔薇色の海はヨットを淋しくす 野見山朱鳥
薔薇色の肉を手渡す夜の秋 櫂未知子 蒙古斑
薔薇色の肺に外套を黒く着る 日野草城
薔薇色の舌を狐も吾も蔵す 山根真矢
薔薇色の蛋白質を吐く神か 夏石番矢 人体オペラ
薔薇色の西日といひて何せむに 相生垣瓜人 微茫集
薔薇色の雲の峯より郵便夫 橋本多佳子
薔薇色銀色ゴリラの色のあまたなり 水野真由美
裂かれたる猪の肛門薔薇色に 宮丸千恵子
酒薔薇色澁澤龍彦忌の眞書 馬場駿吉
階段を来る薔薇色の家族計画 仁平勝 花盗人
隙間風薔薇色をこそ帯ぶべけれ 相生垣瓜人
雪へ開く薔薇色の傘春近し 田川飛旅子 花文字
雲バラ色浅蜊一皿買ふ頭上 牧野白嶺
雲海の薔薇色つくす日の出まへ 小林碧郎
麦藁を染めバラ色に空色に 後藤夜半 底紅
●緋 
<クローン牛>次々生れこの世紀緋のサルビアが地上を統ぶる 三井修
あたたかな緋鯉集ひぬ一と餌に 原子公平
あぶな絵の緋のいろ 鵙の贄のいろ 星永文夫
あらたまの彩はこびきし緋連雀 きくちつねこ
ある日ふと怒りに似たる緋桃咲く 福谷俊子
あわあわと命連れ立つ緋連雀 安田 笙
うぐひ漁千曲の投網緋にからむ 堤 圭慥
うつれるは緋毛氈のみ雛鏡 西本一都 景色
おくんちの緋の毛氈に猫も居る 下村ひろし 西陲集
かな~や緋の毛氈に茶をたまふ(九月廿日陽明文庫に折口信夫先生をむかへて) 『定本石橋秀野句文集』
かまど火の見えて緋桃の風雨かな 大峯あきら 鳥道
かんばせに緋をながしたる障子かな 中田剛 珠樹
がっくりと見せ場つくりぬ緋の牡丹 高澤良一 鳩信
くれなゐの浪打ちよする緋の牡丹 稲垣きくの 牡 丹
ここ河津緋寒桜の田舎咲き 高澤良一 ぱらりとせ
こてい牛に緋飾をして謡初 四明句集 中川四明
この山に緋桃が咲いて御開帳 森澄雄
だだ押しの僧の緋衣緋の木沓 山中みねこ
ぢつとしてゐぬ緋目高の数読めず 松尾静子
てうちてうちあはゝと緋木瓜咲きにけり 高澤良一 さざなみやつこ
ぬれいろに夜昼となく緋薔薇さく 飯田蛇笏 春蘭
ひしめきつ冠羽揃えて緋連雀 久永光子
ひとときの夕焼よりも緋の記憶 櫂未知子 貴族
ひと本の緋桃咲き満つ吉備津彦 内藤恵子
ふるさとは緋蕪漬けて霰どき 蒼石
ふるへねば緋の寒牡丹とは言へず 坪田晴美
ぼうたんの濤に緋の刻白の刻 手塚美佐 昔の香 以後
ぽつかりと浮きし緋鯉や春の水 比叡 野村泊月
まなうらの緋を積む雪の降りにけり 斎藤玄
ゆたかにも水の濁りて緋鯉かな 大木あまり 火球
よう放し支度盥に緋鯉入れ 高澤良一 寒暑
りんご刺す木に黄連雀緋連雀 西岡晴子
わが闇の宝庫となりし緋桃の木 渋谷道
わびしらに桜ちるなり緋の袴 散桜 正岡子規
カンナの黄雁来紅の緋を越えつ 飯田蛇笏 椿花集
カンヴァスを抱く裘は緋に映えて 石原八束
サルビアの映ると見しは緋鯉飼ふ 大島民郎
サルビアの緋の一枚の馬券買う 対馬康子 純情
サルビヤの緋に魅入られし男の脚 河野多希女 琴 恋
パスワード忘れて緋鯉錦鯉 松田ひろむ
フラメンコ好きな夫なりカンナ緋に 小川礼子
ポインセチア思ひつめたる緋をかかぐ 菊地 正
モスリンのやうな緋鯉の色茫と 京極杞陽 くくたち上巻
一幹の緋寒桜に行脚僧 野中千秋
一束の緋薔薇貧者の誠より 杉田久女
一滴の雨もとどめず緋のダリア 中村菊一郎「林中空明」
一身を緋にみごもれるうぐひかな 小林子
乙女椿緋乙女椿苗木市 西本一都 景色
二月の籠鶯の緋總かな 原石鼎
五合目に雪来て緋蕪洗ひをり 福田甲子雄
休日をポインセチアの緋と暮るる 遠藤恵美子
優(やさ)踊りこれ男にや緋の袖裏 高澤良一 素抱
冬に入る一本の緋は僧の傘 小島千架子
冬の水緋鯉打つべく落ちにけり 落合水尾
冬の蜂聖画しづかに緋に燃えつ 小池文子 巴里蕭条
冬休となりしマントの緋裏かな 久米正雄 返り花
冬休みとなりしマントの緋裏かな 久米三汀 返り花
冬帽をぬがるる緋裏ちらと見し 亀井糸游
冬日浴びをる夫の背緋鯉の背 中山純子 沙羅
冷まじきまで緋縅の甲斐の山 根岸善雄
冷まじや箪笥に納む明治の緋 相澤いさを
凌霄の木戸口に緋をかぶりけり 斉藤利枝
出初して緋威の肌消防車 百合山羽公 寒雁
初勤行門跡は緋の衣召し 光野昌平
初春の香のものとて緋のかぶら 大橋敦子
初雪や笠に付けたる緋(べに)のきれ 服部嵐雪
刻々と緋を溜めてゐる石榴の実 飯田龍太
十月桜咲き先帝の御衣の緋 伊藤いと子
厚化粧する緋のカンナ咲きにけり 谷口桂子
厚物咲ピアノカバーの裏は緋に 中戸川朝人 星辰
口結ぶボイラー守りに緋のつつじ 澤木欣一
古瓦積まれて緋桃まつ盛り 松村蒼石 雁
古草の緋いろに十二単かな 小林鱒一
古頭巾裏は燃え立つ緋羅紗かな 高浜虚子
吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに 草田男
周防とや緋鯉の水に指ぬらし 飯島晴子
咲きそむる緋寒桜の名護の町 磯野多希
噴煙は阿蘇のかんむり緋連雀 藤原和子
国頭の山の桜の緋に咲きて、さびしき春も 深みゆくなり 釈迢空
土佐が画や春の裾山緋の袴 春の山 正岡子規
土牢の影さす雛の緋を飾る 紀音夫
土砂降りとなりたる国栖の緋桃かな 大峯あきら 鳥道
土雛市桃は*しもとに緋をあつむ 松木敏文
夏痩せて鼓の緋緒ぞいたましき 雉子郎句集 石島雉子郎
夕映や壜にふくらむ目高の緋 丹羽 啓子
外套の裏は緋なりき明治の雪 山口青邨(1892-1988)
夢の世に緋鯉とならばほつそりと 鍵和田[のり]子
夢の中わたしは緋鯉誰か呟く 一ノ瀬タカ子
大いなる緋鯉にじみて照る氷 佐野青陽人 天の川
大牡丹塵吸ひ底に緋を湛ふ 香西照雄 素心
大琵琶の天指す丸太緋蕪干す 古谷彰宏
大雨の緋鯉を獲たり四つ手守 木津柳芽 白鷺抄
大鯉のことに緋鯉の水澄めり 横岡たかを
太宰府や梅干す巫女の緋の袴 森永英子
太郎冠者てふ緋牡丹や緋の煩悩 山本光胤
奔り出す緋縅落葉一騎あり 林 翔
奥庭やもみぢ蹴あぐる緋の袴 紅葉 正岡子規
妻も亦敵かも知れぬ緋のカンナ 藤田守啓
娘に贈る帯のひとすぢ緋連雀 田原シヅ
婢を具して登校の児の緋のマント 竹下しづの女句文集 昭和十一年
子を寝かせ緋鯉現るように妻 松本勇二「海程句集」
宝恵駕をはみ出て厚き緋座蒲団 森薫花壇
宴果てぬ猩々木の緋に疲れ 文挾夫佐恵
宵闇の緋鯉にはかに非を明かす 攝津幸彦
寒桜緋のマフラーを巻き直し 高澤良一 素抱
寒牡丹雪被てその緋ふかめけり 鈴木真砂女 夕螢
寒緋桜ひらく真下の猫の神 白澤良子
寒緋鯉とほきおもひをあぶり出す 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
寒緋鯉医師への言葉整ふる 鍵和田[ゆう]子 未来図
寒緋鯉花瓣のごとく沈みけり 大串章
小焚火の黄を得ぬ遠火は緋の巨花ぞ 香西照雄 素心
屈託もなくて緋鯉の浮き沈み 渡辺たか子
山の緋鯉じつと沈みゐたゞに冴ゆ 林原耒井 蜩
山の緋鯉危きばかり冴えゆく日々 林原耒井 蜩
山雀や舞台は敷きし緋毛氈 野村喜舟
巡禮や緋鯉にひらく大扉 古舘曹人 砂の音
巫女の緋は春の水皺に綾なせる 阿部みどり女
師走の身触れあふ緋鯉長挨拶 香西照雄 対話
平氏二十三代緋木瓜つぶらにて 鷲谷七菜子
幼児脱ぎ緋の濃き下着スィートピイ 香西照雄 素心
広芝の風の行方にカンナの緋 中口飛朗子
床下に緋鯉を飼つて鯉屋敷 前田まさを
店も狭に緋扇舞はせちやつきらこ 高澤良一 ももすずめ
庭に飼ふ鯉の緋衣灌仏会 堀口星眠 樹の雫
引かんとや小松かくれの緋の袴 子の日 正岡子規
御僧の遺愛の緋鯉とて大き 森重昭
御田植うる緋袴胸に高結び 岸風三楼 往来
心経を唱へ緋鯉の稚魚放つ 山本悦子
恤ぬりし野万朶の緋寒桜かな 桑田青虎
恵那山は雲被て深し緋連雀 皆川盤水
惜春の座や脇息と緋座布団 細井蕗有
愛一途緋桃は藪を透きにけり 木下夕爾
手すさびによごす団扇の緋房かな 高橋淡路女 梶の葉
手入れよき古墳に返り咲く緋かな 上溝かつら
折るべからずの蓮取るべからずの緋鯉哉 蓮の花 正岡子規
抱へたる大緋手鞠に酔ふごとし 飯田蛇笏 霊芝
振袖の緋がこぼれけり初茶の湯 中川いさを
捨ても着もせぬ緋のコートまた出しぬ 佐々木いく子
掛鏡死して緋木瓜になりたるよ 栗林千津
掻き曇り緋寒桜に雪しぐれ 伊東宏晃
撫子の八重は一重は緋は白は 会津八一
放たれし緋鯉のくるりくるりかな 高澤良一 寒暑
斑鳩の潰えし土塀緋桃咲く 伊東宏晃
料峭の緋目高すぐに見失ふ 西山せつ緒
新しく緋鯉加へし幟立つ 松田義朗
新松子鼓の緋の緒締め直す 谷中隆子
日盛りや新田の緋合歓田に落ちぬ 鳥居美智子
映りたるつゝじに緋鯉現れし 高浜虚子
春ときに緋鯉の狎れのうとましき 飯田 龍太
春の夜や重ねかけたる緋の袴 春の夜 正岡子規
春芝へ絨毯の緋の流れやむ 高梨花人
時計鳴り猩々木の緋が静か 阿部[しょう]人
晝たけて行く緋や箔や無韻雛の位置 安斎櫻[カイ]子
曲水の円座にどかと緋衣の僧 江口竹亭
有明に緋鯉釣るべき柳かな 古白遺稿 藤野古白
朝市の映れる川に緋鯉飼ふ 泉春花
木の実雨ちなみに姪は緋菜と瑠南 笠井百合彦
木下闇しどみに末の緋がひとつ 木津柳芽 白鷺抄
木洩日の尾の緋鯉なり詩仙堂 瀧澤和治「看花」
木瓜の緋に手を出し刺され老いたるよ 守田梛子夫
未婚の夏過ぎぬ木馬の緋の手綱 友岡子郷 遠方
松さびて緋鯉も居らず秋の水 秋の水 正岡子規
枝もろし緋唐紙破る秋の風 松尾芭蕉
梟の森にかけたき緋の毛布 鳥居真里子
梶の鞠緋の水干をかすめたる 大石泉冷
極月の法師をつつむ緋夜着かな 飯田蛇笏 山廬集
楸邨佇つ秋の緋暗き大蓖麻に 赤城さかえ
死の十日あとの空より緋連雀 友岡子郷 春隣
死者不在昼ともる臘と緋の法衣しづかなる読経のこゑあがるとき 葛原妙子
母と子の手波に大き緋鯉来る 加藤 典昭
母のベッドありしあたりの緋絨毯 大木あまり 火球
比叡の水引きて里坊緋鯉飼ふ 川勝 春
毛氈の緋のはなやぎや年忘 久保田万太郎 流寓抄
水なきがごとくに緋鯉澄みゐたり 茨木和生 丹生
水に摶たれて白き緋鯉の泳ぎけり 長谷川かな女 雨 月
水仙の国の海ゆく緋毛氈 兵頭幸久
水仙や試筆のあとの緋毛氈 久保より江
水涕に裂くや逢ふ夜の緋縮緬 尾崎紅葉
水涼し緋鯉真鯉と浮き変り 今村蕾橘
水美し山都は川に緋鯉飼ふ 岡田日郎
水色の空へ芥子の緋乾きけり 阿部みどり女
氷水きて緋毛氈の端濡らす 石川桂郎
池くらく緋鯉を散らす夏越かな 深見けん二 日月
池普請緋鯉は別にしてありし 関戸靖子
流し雛緋の一連となりてゆく 三好潤子
海女単衣緋の細帯を垂らし解く 猿橋統流子
涅槃会の僧を待ちゐる緋毛氈 吉野義子
消魂の春の緋無垢をおもふかな 久保田万太郎 流寓抄
灌仏や忍び参りの緋の袴 仏生会 正岡子規
火口開けば緋縅のごと火夫たくまし 細谷源二
炭焼の住める山家や緋鯉飼ふ 根岸善雄
父の忌は紺母の忌は緋の朝顔よ 松尾隆信
牡丹の緋のふうはりとぬけだしぬ 松澤昭 山處
牡丹散るにかくまで緋を尽し 渋谷天眠
牡丹緋の色のらんらんと燃えし燃え盡きたり 荻原井泉水
猩々木緋をうち重ねしぐれけり 千代田葛彦 旅人木
玉座あり緋蕪洗ふ流れあり 大峯あきら 鳥道
生きものはもういや緋目高飼ふことも 及川貞
生徒の眼緋桃買ふ吾を祝福す 林翔 和紙
田楽の緋の装束へばつた飛ぶ 井村和子
留守の庭緋椿咲くは華々し 龍胆 長谷川かな女
痩身の宮司さやかに緋を纒ふ 鳥居美智子
白桃の八重の花辯に降る緋桃 原コウ子
白桃は沾み緋桃は煙りけり 芥川龍之介 我鬼句抄
白秋亡し緋目高のぼる三の井手 有働亨 汐路
盆梅や八重も一重も緋も白も きくちつねこ
真姿の池に緋鯉の生まれけり 河村むつ子
真鯉の上に緋鯉出たがる幟かな 田中かずみ
真鯉の髭緋鯉の髭や冬泉 川崎展宏 冬
真鯉緋鯉触れ合うてゐる朧かな 井上康明
眼裏に昔が光る緋鶏頭 高見加代子
石の原緋の一脚の椅子もなし 大井恒行
石叩死の緋縅を閨のうち 古舘曹人 能登の蛙
祝月緋綿も見えて綿屋かな 村上鬼城
神の庭緋鯉の跳ねし水匂ふ 藤谷紫映
神座の緋鯉を啖らふ雪女 石原八束
禅林のなまめくものに寒緋鯉 鍵和田[ゆう]子 浮標
秋の鯉緋なるはとほくなみがくれ 飯田蛇笏 春蘭
秋暗しまた燃え返すカンナの緋 林原耒井 蜩
秋澄みて緋鯉は人に親しかり 高橋利雄
秋雨や色のさめたる緋の袴 秋雨 正岡子規
移し植えて信濃の緋桃三年ごし 松村蒼石 雁
種俵緋鯉の水につけてあり 星野立子
空席の緋いろ深しや二の替 鷹羽狩行
空梅雨に緋とかげしづむ拓地かな 飯田蛇笏
窯跡の緋の陶片や冬の山 小川軽舟
端居僧緋鯉真鯉に会釈して 座光寺亭人「流木以後」
竹の穂の絡まりて高き緋桃哉 西山泊雲 泊雲句集
竹を好む主に咲きし緋桃かな 尾崎迷堂 孤輪
節分の巫女の緋ばかま雪を刷き 斎藤一菜
粉河寺肩掛の緋も蘇鉄樹下 石原八束
紅壺に収めし緋の裳石榴蕾む 香西照雄 素心
紅梅や翠簾をこぼるゝ緋の袴 紅梅 正岡子規
素盞嗚の緋の川上の夏蜜柑 うさみとしお
経唱へ緋鯉を放つ奈良乙女 山田春生
緋かぶらや手織木綿の湖国人 山本古瓢
緋かぶらをさげて伊賀より来りける 細見綾子
緋ごろもの何僧正や歌かるた 静雲
緋ざくらを遠望のまま道撓む 耕二
緋に念じ白に祈らむ牡丹寺 林昌華
緋のいろのたちまち遠し流し雛 角川照子
緋のダリヤ引き緊りゆく轆轤の輪 多田裕計
緋の僧のゆふべ踏み行く紅葉かな 青蘿
緋の夜具をかむりて聴くや坊時雨 近藤一鴻
緋の彩は発心さそふ緋衣草 小川文子
緋の桃に近寄り過ぎぬ心拍音 高澤良一 燕音
緋の牡丹一点見据ゑ生きること 河野多希女
緋の牡丹崩れしのちは寧からむ 吉野トシ子
緋の牡丹赫と眼尻切れしかと 野澤節子 黄 炎
緋の目高布袋葵の根に孵る 遠藤アサ子
緋の糸を曳いて椿は落つるなり 齋藤愼爾
緋の絨毯吾をみちびく避寒宿 山口青邨
緋の色のセーターを着る夕まぐれ 米須盛祐
緋の色の他は薄れて涅槃絵図 田所節子
緋の色の尾びれをひろげ金魚草 岬雪夫(狩)
緋の菫木箱ともども匂ふなり 中田剛 珠樹
緋の蕪にはかなき霜の命かな 霜 正岡子規
緋の蕪の三河嶋菜に誇つて日く 蕪 正岡子規
緋の蕪や膳のまはりも春けしき 春 正岡子規
緋の蕪尽きて紅梅の散らんとす 紅梅 正岡子規
緋の蕪干し千那寺を守りけり 花岡明美
緋の袈裟のずしりと後の更衣 川澄祐勝
緋の袍に萎れかゝれる葵かな 五十嵐播水 播水句集
緋の褪せしように生きるや草茂る 長谷川かな女 牡 丹
緋の蹴出し流れるやうに阿波踊 鈴木石夫
緋の躑躅ここにかしこに人乾き 清水径子
緋の鯉に鴉恋ひして夏旺ん 鈴木鷹夫 春の門
緋の鯉の緋いろめでたき初景色 三田きえ子
緋ぼたんにパレットひらく寒日和 平井さち子 鷹日和
緋めだかの卍巴に水辺晴れ 山田弘子 懐
緋めだかの集散に目の狂ひだす 竹田登代子
緋をまといいる初蝉のつぎの蝉 澁谷道
緋ダリヤに今日も椅子並め老夫婦 左右木韋城
緋マントや母へ手出さんふためきに 中村草田男
緋寒桜ちる沖縄を終の地に 八牧美喜子
緋寒桜の暗闇にふれ火傷する 岸本マチ子
緋寒桜ほうと見とれて雪国びと 中山純子 沙 羅以後
緋寒桜見むと急ぎて日暮れけり 邊見京子
緋座布団たまはる彼岸の鐘の中 青邨
緋木蓮の焔なす下三輪車 森澄雄
緋桃さく水車の裏の桑畑 寺田寅彦
緋桃の下をとこが出でて釜みがく 柴田白葉女
緋桃の緋畑の空にぶちまけて 高澤良一 ぱらりとせ
緋桃みるわが青春は遠く去り 高橋淡路女 淡路女百句
緋桃ゆさゆさわが振袖の水死体 八木三日女
緋桃咲き極まりて葉をまじへたり 高浜年尾
緋桃咲き畑まつすぐに畝つくる 柴田白葉女 花寂び 以後
緋桃咲く何に汲みても水光り 岡本眸
緋桃咲く恋風もそのあたりより 友岡子郷
緋桃暮る村の水場にをみなごゑ 加藤耕子
緋桃菜の花遺残空洞胸に抱く 石田波郷
緋桜を浴び人の世にブルータス 玉城一香
緋梅かつと棄て身の彩の夕日刻 殿村莵絲子 花寂び 以後
緋梵天黄梵天父の雪かたし 河野多希女 月沙漠
緋椿に雪を忘れし羆座す 長谷川かな女 牡 丹
緋毛氈に菜の花こぼししは誰 岡田史乃
緋毛氈の上に春筍の籠 川崎展宏
緋水鶏のかくれし蘆や吹きなびき 鷹野 清子
緋水鶏の走りかくれし草を刈る 市村究一郎
緋目高のつついてゐるよ蓮の茎 原石鼎
緋目高のわれに似るてふ眼のあたり 上村占魚 球磨
緋目高の一つ孵りてよりぞくぞく 上村占魚
緋目高の上目遣いに逝くなんて 糸大八
緋目高の小さなる程せはしなや 星野立子
緋目高の溌剌として気ぜはしく 今泉貞鳳
緋目高の生の喜びめく泳ぎ 山下美典(河内野)
緋目高の生れていまだ朱もたず 五十嵐播水
緋目高の稚魚のぞき見る重なりて 中屋敷久米吉
緋目高の糶らるる春の愁ひかな 北見さとる
緋目高の緋は兄弟の秘密なり 栗林千津
緋目高の見詰むる風の行方あり 永井龍男
緋目高の赤くなりきぬ目のうしろ 星野立子
緋目高を数へてをりし男かな 栗林千津
緋目高を買ひ来し灯の下にこそ 永井龍男
緋緞子の美しき夏の蒲団かな 高橋淡路女 梶の葉
緋縅の如全山の粧ひぬ 山本歩禅
緋縅の蝶吹き上げよ那智の瀧 筑紫磐井 婆伽梵
緋縮緬噛み出す箪笥とはの秋 三橋敏雄 眞神
緋縮緬着て男衆六斎会 東野鈴子
緋蕪も飛騨の炭火も赤きころ 石原八束 仮幻の花
緋蕪一つ育つ子の畑万愚節 大橋敦子
緋蕪菁を買ふ乳母車かたへにし 石原八束
緋衣をまとふ方丈初芝居 佐久間慧子
緋衣を一著日灼和尚かな 河野静雲 閻魔
緋袴と紫袴弓始 塩川雄三
緋袴に坐してひとりの寒復習 黒田杏子 花下草上
緋袴のよぎりしあとの寒牡丹 水田光雄
緋襷の火傷はふかしほととぎす 野澤節子 『駿河蘭』
緋連雀あさきねむりの縁をとぶ 渋谷道
緋連雀きのうのことはみな忘れ 宮崎重作
緋連雀一斉にたつてもれもなし 阿波野青畝
緋連雀冠毛立てて群れ下りし 原田浜人
緋連雀死亡通知が舞ひ戻る 塚本邦雄
緋連雀空に渦巻き屋根越ゆる 藤ケ谷恭子
緋金魚に日蓮の性あらむかな 筑紫磐井 婆伽梵
緋鯉うかみでて顔真赤水澄めり 池内友次郎 結婚まで
緋鯉一つ池ににじみ出て梅雨明けの夕ベの 人間を彫る 大橋裸木
緋鯉一群婚礼衣裳になる途中 かわにし雄策
緋鯉散り切味持てる山の水 野中亮介
緋鯉泳ぐくにいま若菜のくになつかし 阿部完市 春日朝歌
緋鯉浮く池の小さし康成忌 岡田壮三
緋鯉浮上 花嫁の父 話しだす 伊丹公子 アーギライト
緋鯉真鯉卯の花腐しうれしくて 阿波野青畝
緋鯉跳ね菩薩の慈悲のごときもの 和知喜八 同齢
緋鹿子にあご埋めよむ炬燵かな 杉田久女
練供養地蔵菩薩は緋の衣 延江金児
縁側に緋毛氈ある日傘ある 京極杞陽 くくたち下巻
羽な焼きそ燃ゆる緋桃の枝の鳥 尾崎紅葉
翁忌へ行かなと緋の菜洗ひをり 北村保
肢長く姙り緋桃緋を尽す 和知喜八 同齢
能登どこも緋蕪畑を畑境 不破幸夫
舟へ運ぶ真水さざめく緋桃の季 熊谷愛子
芋洗ふ底を濁せし緋鯉かな 西山泊雲 泊雲句集
芥子は緋に羊汚れて草食める 上野さち子
芭蕉堂の緋布団に座し五月雨るる 原 コウ子
芯熱の去らず木瓜の緋うとみけり 吉野義子
花冷や絨毯の緋や恋ひわたる 齋藤玄 飛雪
花野にて耳に緋房は羊の仔 林翔 和紙
若き日の母の哀楽緋角巻 下山田禮子
草木瓜の花山国の緋を極め 飯田龍太
荒野にて緋桃三本燃えさかる 小枝香穂女
菊人形遊女は緋菊薄く着て 吉田ひろし
菊暮れぬ菊見の宴の緋毛氈 松藤夏山 夏山句集
葉櫻にひまな茶店の緋毛氈 成瀬桜桃子
蒲の穂に緋の絨緞の見ゆる家 飯田龍太「春の道」
蓄へし緋のあからさま桃ひらく 原コウ子
蕪引て緋の蕪ばかり殘りけり 蕪引く 正岡子規
藪柑子久女鷹女と緋の系譜 山根真矢
藻の花にふつと浮出る緋鯉かな 藻の花 正岡子規
藻の花に緋鯉の頭隠れけり 藻の花 正岡子規
蚊喰鳥この緋枕のみる夢は 後藤綾子
行人とありまぼろしの緋連雀 鈴木修一
行年の落葉の下の緋鯉かな 比叡 野村泊月
被てみたきもの羅の緋の僧衣 正木ゆう子 静かな水
跳ねし緋鯉の行方見てをり秋の暮 吉野義子
身に沁むや即身仏の緋の法衣 鈴木フミ子
逢ひにゆくカンナの緋途切れざる 高浦銘子
逢ひに行く緋のマフラーを背に刎ねて 辻田克巳
遠会釈するも芥子の緋の一杯に 阿部みどり女
遣羽子や官女老いたる緋の袴 遣羽根 正岡子規
郵便受の屋根のみ夏の緋開拓村 香西照雄 素心
野馬追の公達にして緋の母衣を 猪俣千代子
野馬追の緋の母衣孕みおん大将 富安風生
野馬追の緋縅の武者若からず 大堀柊花(狩)
野馬追の緋縅の濃し青田濃し 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
釣殿の橋をめぐれる緋鯉かな 籾山梓月
鉾を待つ二階手摺の緋毛氈 比叡 野村泊月
銃袋緋にぞ背負ひて猟始 亀井糸游
銚子緋繻春風吹くや古衣店 春風 正岡子規
開き初む厨に活けし緋桃より 樋笠文
闇にまで少し間のあり緋のカンナ 池谷硬司
雛壇の緋が暗闇にひろがれり 耕二
雛段の緋にも疲るる齢かな 能村登四郎 菊塵
雪の嶺四方にはしれり緋の菜干す 橋本鶏二 年輪
雪ひひと緋の裏わびし妻の帯 細谷源二 砂金帯
雪吊の見ゆる部屋なる緋の蒲団 鈴木鷹夫 風の祭
雪夜消す灯の残像の緋から青 千代田葛彦 旅人木
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪掻の巫女の緋袴舞ふに似て 田塚 公晴
雪林の朝日を浴びに緋連雀 堀口星眠 樹の雫
雲助の裸で寝たる緋木瓜かな 泉鏡花
霙降る池の緋鯉は沈みけり 今成無事庵
霜旦のイエスに通す緋毛氈 高澤良一 ねずみのこまくら
霜来るが早しと言へり緋の菜漬け 細見綾子 黄 瀬
頬の辺に裏の緋ちらと雪頭巾 杉山々
風のごときひかり走れりカンナの緋に 山崎為人
風を帰し妻の手籠の緋蕪かな 黒川憲三
養鯉池雨に緋鯉のうすぼんやり 高澤良一 寒暑
餓鬼岳は紅葉緋縅岩鎧ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
香水の緋とおぼしきが駆け抜けし 鳥居おさむ
馬の背や緋蕪のぞかすお霜月 石橋秀野
鬱の日の沸点にゐて緋の躑躅 石寒太 翔
鬼燈も紅葉しにけり緋金巾 尾崎紅葉
鯉の緋に水のうるむや実朝忌 高木杜萌子
鯉の跳ね万緑一瞬緋の入りぬ 尾崎弘子
鱗一枚落して緋鯉沈みけり 長谷川かな女 雨 月
鵜篝の百の緋文字をしたたらす 加藤耕子
鶏頭の緋はもの思ふ色ならむ 辻美奈子
黄塵や逃げし緋鯉が橋の下 岸本尚毅 鶏頭
黄鶲が出れば緋鶲雪の上 原石鼎 花影以後
黒繻子に緋鹿子合はす暮春かな 飯田蛇笏 霊芝
鼬傷片目に受けし緋鯉かな 茨木和生 往馬
●鶸色 
さんしゆゆの鶸色に母屋没しけり 高澤良一 ももすずめ
麦の芽の鶸色となり泊つるかな 中西舗土
●ピンク 
クーラーにピンクのリボン モンロー忌 沙羅冬笛
コスモスのピンクが与党他は野党 林 直入
サンタみな揃ひのピンク新世紀 後藤比奈夫 めんない千鳥
子の踵ピンクに染めて初稽古 上窪則子
春立つやピンクの象のビスケット 須川洋子
時の日や砂をピンクに砂時計 鈴木栄子
毛皮欲しピンク兎の貯金箱 塩貝朱千
灯を寄せしカーネーシヨンのピンクかな 中村汀女
片想い今はピンクの椿が好き 大高翔
芥子坊主阿片のピンク液を秘む 粟津松彩子
錠剤の一つはピンク秋深む 矢村三生
●深緑 
げんげ田や花咲く前の深みどり 五十崎古郷
バード・ウィーク湖の際まで深緑 鷹羽狩行
七夕の風吹く岸の深みどり 飯田龍太
人死して家毀たるる深みどり 河合照子
倶利伽羅の深みどり照り蝉時雨 文挟夫佐恵 黄 瀬
天の川内海夜も深みどり 西村公鳳
子かまきり薄みどり草深みどり 鈴木しげを
家苞や通草は山の深みどり 中島月笠 月笠句集
小春日や丘の小藪の深みどり 西山泊雲 泊雲句集
小春日や鳴門の松の深みどり 高濱年尾 年尾句集
春の海や暮れなんとする深緑 前田普羅 新訂普羅句集
柊の花のともしき深みどり 松本たかし
水浅く一語一音深緑 原裕 青垣
水筒の茶がのど通る深みどり 辻田克巳
深みどり汲めば色なし冬の朝 朝木奏鳳
深緑の山が吐き出す荒神輿 後藤軒太郎
深緑の湖たつぷりと失語症 伊藤敬子
炎天の色やあく迄深緑 炎天 正岡子規
穂俵も七日事なき深みどり 竹原泉園
竹伐りて深緑毫も損なはず 村上冬燕
耳傷に山の陽山の深みどり 佐藤鬼房 鳥食
花終へし擬宝珠を加ふ深みどり 岡本 眸
葉畳となり十薬の深緑 飯村周子
蓮の実のその深緑物語り 金子皆子
踏みわたる余寒の苔の深みどり 日野草城
醒めて業苦池は深緑に抱かれをり 岩田昌寿 地の塩
雨あびしシャツがちぢむや深緑に 古沢太穂 古沢太穂句集
青蔦の静かな夜の深みどり 加藤楸邨
魚棲まぬ湖の葉月の深みどり 田中敦子
鮒釣の子供の去りし深緑 山本洋子
鴛鴦流れ妹山背山深みどり 大峯あきら 宇宙塵
鹿の子に奈良のあけぼの深みどり 山本梅史
龍の玉吾子が嫁く日は深みどり 大峯あきら
●葡萄色 
まだ濡れぬ海女ゐて葡萄色の湾(若狭湾) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
啄木の墓に野ぶだう色づきぬ 井村和子
折れまがり葡萄色のシーツあり 九月隆世
猟鳥の死に切りし眼の葡萄色 右城暮石 上下
●ブラック 
コーヒーはブラックがよし巴里祭 森 礼意三
珈琲はブラック生き過ぎたかも知れぬ 立岩利夫
コーヒーはブラックにする寅彦忌 森 武司
●ベージュ 
ポケットの深きベージュのコート着て 高橋和子
●碧空 
また産まれしか 碧空に<幸福>の歔欷 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
一塊の碧空実梅太らする 阿部みどり女
囀りや卒塔婆と杉の碧空に 阿部みどり女
大根を抱き碧空を見てゆけり 龍太
岩ひばり日輪碧空の中に小さし 岡田日郎
操縦士撃たれ碧空に身をもめる 細谷源二 鐵
日もすがら碧空を恋ひ石蕗の花 飯田龍太 遅速
柳絮飛ぶ王陵出でし碧空に 西野喜美子
栴檀の実を碧空に冬休 森田峡生
水張りしごとき碧空辛夷咲く 岸原清行
真二つに碧空割れん菊の花 佐野青陽人 天の川
短日の碧空たたく揚花火 石原舟月
碧空に冬木しはぶくこともせず 篠原鳳作 海の旅
碧空に命とりあふまたたきをせず 細谷源二 鐵
碧空に山するどくて雛祭 飯田龍太
碧空に山充満す旱川 龍太
碧空に振れども鳴らず釣鐘草 西村碧雲子
碧空に支那の子父を撃たれたり 細谷源二 鐵
碧空に消ゆる雲あり夏蕨 岡田日郎
碧空に濡れ訪ね来る荷物かな 攝津幸彦
碧空に鋭声つづりてゆく鳥よ 篠原鳳作 海の旅
碧空のひかりを収め秋の蝉 飯田龍太
碧空の下にあり四方に落花降る 池内友次郎 結婚まで
碧空へつづく山家の白障子 角田宗実子
碧空へ花野の帯をかかげたる 川崎展宏 冬
碧空やわれに束の間てんと虫 金子皆子
藪入の碧空の凧澄めるかな 種茅
裸木の碧空頼むけしきかな 臼田亜浪 旅人
鉄骨の碧空ふかく鋲をうつ 細谷源二 鐵
雑沓を出て碧空の寒さかな 中島月笠 月笠句集
露の父碧空に齢いぶかしむ 飯田龍太
●紅墨色
●ほの紅し 
手毬つき身のうち暗くほの紅く 齋藤愼爾
春眠といふうす暗くほの紅く 岡本眸
白桃を食ふほの紅きところより 佐藤鬼房
●真蒼 
ことごとく枯れて天竜真蒼なり 草間時彦 櫻山
冬の天海の上にて真蒼なり 大谷碧雲居
初鳩や真蒼に晴れし大欅 篠原一男
夏山を統べて槍ヶ岳真蒼なり 水原秋櫻子
少女期の真蒼な顔幣辛夷 川崎展宏
硝子戸に嶺々が真蒼し春炬燵 宮坂静生 青胡桃
野の闇に真蒼の車輪除夜の汽車 宮武寒々 朱卓
雪きしむ馬上真蒼な君の夜 桜井博道 海上
●真白し 
少年の裸真白し七日堂 坂口江寒
島庁は真白し日傘人松に 久米正雄 返り花
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
桶底の豆腐真白し初氷 草皆五沼
水仙のりゝと真白し身のほとり 多佳子
眠りよるインコ真白し夏の月 横光利一
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し 川端弘
神の梅かくも真白し勝たでやは 渡邊水巴 富士
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
●真赤 
「日の丸」が顔にまつはり真赤な夏 中村草田男
いけかへてグラヂオラスの真赤かな 松葉女
うそ寒の爪先に落ち真赤な葉 鷲谷七菜子 花寂び 以後
うめもどきの真赤感謝のようにあり 北原志満子
お向ひの壁が真赤で夜なべ鍛冶 藤木清子
かけ金の真赤に錆て寒哉 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
くちづけのあとの真っ赤なトマト切る 大高翔
さいころの一の目真つ赤雪の国 蝦名石蔵
さびしくてならぬ真赤に火をおこして 阿部完市 無帽
せわしさのふと梅もどきもう真赤 清水素生
たらたらと日が真赤ぞよ大根引 川端茅舎(1897-1941)
ななかまど真つ赤盲学校の坂 佐藤淑子
なんばんが真つ赤山の日山の風 冨舛哲郎
また外れ真っ赤な嘘の油照 高澤良一 寒暑
みじかきは真赤の花の立葵 高木晴子 晴居
みちのくの頬の真赤な雪女郎 渡辺二三雄
みどり児が真っ赤になりて力むとき身丈かすかに延びているらし 土岐恭子
みんみんの響く真赤な砂糖壺 山田径子
わたしには氷いちごの真っ赤なやつ 高澤良一 ぱらりとせ
オリーブの真赤に熟れて放哉碑 野上美代子
ガスマスクやけに真赤な雲だけだ 平畑静塔
サルビアの真赤な殺し文句かな 徳永球石
サルビヤに真っ赤な風が起ちにけり 高澤良一 寒暑
ジヤケツ真赤く縄飛はまだ出来ず 富安風生
ストーブの真赤受験期どつと来し 宮坂静生 青胡桃
ストーヴを真赤に焚いて蕪村論 太田寛郎
ダリヤ真赤に熾んな自己主張 山岡敬典
トマト真赤みな子を連れてきようだい寄る 古沢太穂 古沢太穂句集
トランペット晩夏真赤にまつくらに 小檜山繁子
バレンタインの日なり灼かれて真赤な鉄 見学 玄
ボートの腹真赤に塗るは愉快ならむ 西東三鬼
ポインセチアの真つ赤をもつて祝福す 山崎ひさを
ポインセチア抱いて真赤なハイヒール 西坂三穂子
メスの記憶真赤な花の地に噴き立つ 野澤節子 黄 瀬
ヴァレンタインの日なり灼かれて真赤な鋲 見学玄
一位の実真赤ぞ義仲挙兵の地 江崎成則
一筋に秋や真赤な蟻の道 小檜山繁子
一聯の世にも真赤な唐辛子 遠藤梧逸
七輪の口が真赤に春来る 河野静雲 閻魔
万歳や真赤な月の雑木山 辻桃子 桃
下闇に宮も鳥居も真赤なり 木下闇 正岡子規
不断燈仏の林檎真赤にす 林火
亀の鳴くこゑを真赤と思ふなり 鈴木鷹夫 千年
人の死や納屋に真赤なとうがらし 北原志満子
人を分け真赤な燠の運ばるる 長谷川櫂 天球
今日の余白に真赤な炭と碁盤の斑 平井さち子 完流
仏前に柿が真赤よ農の葬 大熊輝一 土の香
仰臥さびしき極み真赤な扇ひらく 野澤節子 黄 瀬
伝説の途中真赤な椿落つ 大盛和美
何か言へ鬼灯むいて真赤なり 加藤楸邨
信頼せり靴下の真赤な男 阿部完市 証
傘寿過ぎの夫の真赤な春帽子 中森百合子
六月や真言宗が真赤なり 原田喬
冬ざれの牛に真赤な唐辛子 大貫弘司
冬の星暗し山の灯真赤なり 阿部みどり女
冬の海かへり見すれば日の真赤 椎橋清翠
冷し牛夕日いよいよ真赤なり 村山古郷
凩や真赤になつて仁王尊 夏目漱石 明治二十八年
初刷の真赤な日の出佳かりけり 野澤節子
千年の節目に唐辛子が真赤 歌津絃子
古城趾の冬日真赤に四郎の忌 原 菊翁
向日葵と塀を真赤に感じてゐる 白泉
咳き込んで真赤な薔薇のたちあがる 阪本道子
哭いてゐる舌が真赤で涅槃変 阿波野青畝
唐辛子真っ赤子育て奮闘記 福本五都美
嘘つかぬ舌も真つ赤ぞかき氷 橋本榮治 越在
嘘はいや真赤な薔薇の棘ささる 伊藤道子
土用灸真赤な雀飛びちがふ 菅裸馬
土砂降りへ人参真赤にぬきはなつ 秋山淡適
壮年過ぎし後ろ真赤や曼珠沙華 伊東昌信
夕日真赤に湖へ葉ふるふ若狭柿 西村公鳳
夕焼の真赤に御用納かな 藺草慶子
夕陽に熟柿いよ~真赤なる 寺田寅彦
夜祭の秩父別して真赤なり 落合水尾
大寒や真赤な苺店先に 逸見静江
大木の雪真赤なる火事明り 井上白文地
奥阿仁駅しぐれ真赤な箱ポスト 田村九路
妻へ帰る大地真赤や秋の暮 榎本冬一郎 眼光
姫杉の真赤に枯れしあつさ哉 暑 正岡子規
子烏の口中不気味なる真赤 山口笙堂
子等の絵に真赤な太陽吹雪の街 金子兜太
実南天二段に垂れて真赤かな 風生
実南天紅葉もして真赤也 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
家出づる頭上鬼凧の舌真赤 加藤知世子 花寂び
寺町の真赤なポルシエ灼けてをり 佐々木悦子(帆船)
小原村土手に真赤な酸葉の芽 渡辺昌代
小春日の章魚は真赤に染められし 川端茅舎
尾を振れば一面真つ赤金魚玉 小泉洋一(花鳥来)
山寺で商ふ真っ赤な渋団扇 高澤良一 素抱
山寺に筍を炊く火が真つ赤 鈴木鷹夫 春の門
山蟻や割れて真赤な桃の幹 長谷川櫂 天球
忘れざるために真赤な落葉踏む 石寒太 翔
忘年や真赤な薔薇の束を抱き 吉田トヨ
怒り型なる唐辛子真赤くふもならず 加藤知世子 花寂び
恋よ夢よ橋のたもとの真赤な実 林原耒井 蜩
手毬真つ赤堅き大地に跳ね返り 河内静魚
敗戦の年の真赤な天井守 川崎展宏 冬
斜塔となつて見かへれば寒い真赤な絶景 高柳重信
旱天の亀裂真赤な唐辛子 吉田未灰
春の月真赤な箱が帰りけり 清水東洋子
晩稲刈真赤なものを置きにけり 大峯あきら 鳥道
曼珠沙華真赤な嘘でかたまれり 伊藤敬子
月の餅搗くや鶏頭真赤なる 渡辺水巴
末枯れて真赤な富士を見つけたり 内藤鳴雪
杏の核真っ赤に蟻の総掛かり 高澤良一 随笑
来る年のための真赤な魚かな 如月真菜
来年ハ真赤ニ咲クゾ梨ノ花 石寒太 炎環
松笠の真赤にもゆる囲炉裏かな 村上鬼城
林檎真つ赤唖者の頷き幾たびも 成田千空 地霊
林檎真赤五つ寄すればかぐろきまで 野澤節子 黄 瀬
枯櫟原厳冬の旭を真赤透く 森 澄雄
梅漬の種が真赤ぞ甲斐の冬 飯田龍太(1920-)
梅雨貧し花でも真赤に画いてやれ 岡部六弥太
椋鳥とんで妻にかがやく西真赤 飴山實 『おりいぶ』
椿真赤嫉みアダムのむかしより 稲垣きくの 黄 瀬
武者ねぶた瞋恚も恋も真赤ぞよ 行方克巳
死ぬときは真赤なドレス鰯雲 小笠原慶子
死の顔の笑みけり唐辛子の真赤 豊山千蔭
母よ藷が真赤に晩年もいいね 北原志満子
毒茸や赤きは真赤黄は真黄 正岡子規
水洟やどこも真赤な実南天 爽波
氷下魚釣る夜は真赤な頭燈つけ 若木一朗
沈む日の真赤を囃し鳰の鳴く 石井とし夫
沢蟹を獲る手真赤にしてゐたり 茨木和生
浅草と書きて真赤な団扇かな 藺草慶子
海とほき国ぼうたんの日が真赤 鍵和田[のり]子
海神の真赤な歓喜上元會 下村ひろし 西陲集
清汁(すまし)椀の見込真赤や飢餓透し 三橋敏雄 畳の上
溶鉱炉注連飾して真赤なり 富安風生
火掻棒真赤や雪中にて異郷 小檜山繁子
灼けず濡れず真赤な水着肉余る 下田稔
烏瓜一つ真赤に不埒なる 浅野昭治
焼酎の中に真っ赤な人体図 井沢唯夫
熔鉱炉注連飾して真赤なり 風生
牛通り過ぎてすかんぽ真赤なり 内藤吐天 鳴海抄
犬の舌枯野に垂れて真赤なり 野見山朱鳥(1917-70)
狐火や真赤な紐の落ちてゐて 藺草慶子
狸汁花札の月空真赤 福田蓼汀
狸汁花札の空月真赤 福田蓼汀
目隠しの中が真つ赤や福笑ひ 阿部静雄
真っ赤な魚が獲れ蚕豆の花ざかり 瀧 春一
真実は一つチューリップ真赤 木田千女
真赤い野生のチユーリツプ久女の墓 藤岡筑邨
真赤なる河内の月に夜鷹啼く 大峯あきら
真赤なる野火の彼方にはす心 細谷源二 砂金帯
真赤な日落ちゆくことも猟名残 石井とし夫
着ぶくれてゐて愛などと真赤な嘘 伊藤トキノ
祈祷師のセーター厚く真赤なる 岩崎照子
神の留守ポスト真赤く立てりけり 藤岡筑邨
福寅の口真赤なる鞍馬かな 辻田克巳
禾負けの肌を真赤に麦脱穀 大熊輝一 土の香
秋水へ真赤な火から煙来る 草田男
秋蝉や槐多の裸僧真赤なり 原田喬
空梅雨の夕日真赤に落ちにけり 小林一行
空真つ赤妻に秋刀魚を買はせをり 町田しげき
絵日記の西瓜真赤に熟れてをり 北見さとる
緋鯉うかみでて顔真赤水澄めり 池内友次郎 結婚まで
繭玉の中に真赤な大きな玉 京極杞陽 くくたち上巻
罌粟真つ赤思考回路を外れ真つ赤 戸田かづ子
罌粟真赤廃墟の壁に咲くときも 稲垣きくの 黄 瀬
美ヶ原走る真赤な雪上車 行実みよ子
耕衣忌のアスパラガスの実が真つ赤 村上幸子
自転車が倒れて真つ赤田植寒 佐々木六戈 百韻反故 初學
苗を植う秋は真赤なかまつかの 林原耒井 蜩
草枯に真赤な汀子なりしかな 高浜虚子
落日をゆく落日をゆく真赤い中隊 富澤赤黄男
葉桜や真赤に洗ふ消防車 百合山羽公 故園
葉鶏頭の露真白にも真赤にも 高浜虚子
薔薇真っ赤売り込み一切おことわり 高澤良一 素抱
薔薇真赤ひたすらサキソホンを吹き 森田ていじ
藁屋根に干されて真つ赤唐辛子 山地曙子
藪の家真赤な橇を蔵ひけり 吉本伊智朗
虚の壁のやぶれ真赤に寒椿 和田悟朗 法隆寺伝承
血のやうな真赤な日が沈み冬の野を汽車の走る 四丁句集第一巻 鵜沢四丁
貧しさの村の真赤な七かまど 吉田 慶子
足元の真赤な冬の夕焼かな 石田郷子
踊らんかな(瀕死)真赤な血の手拍子 高柳重信
躑躅真赤にいくさごころの消え残る 小出秋光
遠足ややつれし顔が真赤な師 中村草田男
酪農の掌の真赤なる霧の中 久米正雄 返り花
鉄工葬をはり真赤な鉄うてり 細谷源二 鐵
鉄工葬終り真赤な鉄打てる 細谷源二
銀杏散る中へ真赤なポルシェゆく 小川背泳子
閻王の燭に真赤な地獄変 福田蓼汀 山火
閻王の真赤な怒り笏落し 小山南火
降誕祭布教所真赤な新車来て 鍵和田[ゆう]子 未来図
雨貧し花でも真赤に画いてやれ 岡部六弥太
雲の裏真赤に燃えて冬木立 梅田ひろし
風の芥子真っ赤にさだかならぬ記憶 木下夕爾 遠雷
風吹いて故郷明るし真赤な父 阿部完市 絵本の空
風邪熱のあやつる夢の蝶真赤 上村占魚 『自門』
驟雨来る肉屋で借りる真赤な傘 初村迪子
鬼の豆食ふ夜真赤に癩の炉火 村越化石
鬼殻の真赤なスープ暑気払ふ 野沢節子
鬼灯や真赤な嘘を吐く女 野村喜舟
鮨桶の中が真赤や揚雲雀 波多野爽波 『一筆』
鳩の街溶けて真赤な氷水 佐川広治
鳶のこゑ島の椿を真っ赤にす 高澤良一 宿好
鴎翔ぶ晩夏の腋の真赤なり 小檜山繁子
鵯の啄ばみ落す真赤な実 大高芭瑠子
鶏のとさか真赤や涅槃西風 尾川政人
鶏頭の真赤な稲を刈りにけり 斉藤美規
麦苅られてかみなりの臍が真赤な 冬の土宮林菫哉
黄いろなる真赤なるこの木瓜の雨
この集団が動くのだまつかな旗がつづくのだ 橋本夢道 無禮なる妻抄
ザボン吸いまっかな丘に登って睡る 三谷昭 獣身
夕焚火生命線のまつかつか 大倉郁子
心臓がまつかに歩きゐる冬ざれ 内田暮情
消炭を夕べまつかな火に戻す 三橋鷹女
空にまっかなうろこが跳ねる金曜日 穴井太 ゆうひ領
老人に楓まつかな芽を吹けり 小島千架子
花ぐもりまつかな船を焼いてゐる 攝津幸彦
西瓜甘ければ眼前まつかなり 清水径子
赤ん坊の蹠まつかに泣きじやくる 篠原鳳作 海の旅
金属の建築まっかな雲曳いて 松本恭子 二つのレモン 以後
雪くらむ厨まつかに蟹ゆだる 吉野義子
雪嶺の裏側まっかかも知れぬ 今瀬剛一
●真黒 
おでん屋を出て真つ黒な土手がある 岡本眸
からす猫よ汝は真黒の夢を見るか 橋本夢道 無礼なる妻
ひとり身の胸まで包むショール真黒 菖蒲あや 路 地
りんどうのほとり真っ黒火山弾 高澤良一 ぱらりとせ
夜光虫真黒き島が来て過ぎぬ 山口波津女 良人
寒風の真黒き架線ああ家に 齋藤愼爾
揚羽など真黒きものら涼しげなり 三橋鷹女
故国へかへる真つ黒の汽車にゆられかへる 酒井桐男
春に飽き真黒き蝌蚪に飽き飽きす 西東三鬼
春眠の三人の子の髪真黒 上野泰 春潮
杉菜の下無為やはらかき真黒土 中村草田男
横這の目の真つ黒や太閤忌 菱科光順
沖鋤の腹真黒なる切身かな 茨木和生 倭
浅蜊舟真黒に塗られ雨をゆく 西村公鳳
湯元の辺穂の真っ黒な猫じゃらし 高澤良一 素抱
漢方の粒真黒に秋の風 富安風生
炎天を真つ黒な傘さしてをり 久米正雄 返り花
炭火途中にて真つ黒に消えゐたる 右城暮石 声と声
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
犇めくものは真黒に秋祭 折井紀衣
白百合に真黒き蝶のねむりたる 寺田寅彦
真っ黒い太陽を描く孤児である 九堂夜想
真っ黒な閻魔の怒気をふりかぶり 高澤良一 随笑
真つ黒な帽子の上の春の月 鈴木鷹夫 千年
真つ黒な牛の顔ある通草かな 岸本尚毅 鶏頭
真つ黒な鳥が物言う文化の日 出口善子
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
真黒き冬の海あり家の間 高浜虚子
真黒き釣鐘を見て昼涼し 桂信子 草樹
真黒なソ連船泊つ晩夏かな 志城 柏
真黒な夜雲散りゆく額の花 川崎展宏
真黒な太陽をあぐ片葉の葦 熊谷愛子
真黒な怒りかくさずアネモネは 行方克巳
真黒な手鞠出てくる炭団哉 正岡子規
真黒な杭にしばらく春の鳥 柿本多映
真黒な毛虫の糞や散松葉 散り松葉 正岡子規
真黒な泥積みあげて池普請 岸本隆雄
真黒な葵の花のさかりかな 楠目橙黄子 橙圃
真黒な蝶の狂ひけり雲の峯 雲の峯 正岡子規
真黒な蝶の狂ひや雲の峯 雲の峯 正岡子規
真黒な鯉を誘ひて秋の鯉 斎藤玄 雁道
真黒に嵩む晩夏の茄子貰ふ 百合山羽公 寒雁
真黒に花見る人のさかりかな 花見 正岡子規
真黒に茄子ひかるや夏の月 夏の月 正岡子規
真黒に蟻の集りたる暑さかな 暑 正岡子規
真黒の腸を抜かれしさよりかな 佐川昭吉
砂漠に妻匂う一直線に真黒に 和田悟朗
稲は穂に嶽真つ黒に星を生み 雨宮抱星
色鳥の舌は真黒かも知れぬ 関口眞佐子
花の中鐘真黒な音を出す 桂信子
螢狩真黒き山かぶさり来 上野泰 佐介
貯炭場の細き真黒き春雨なり 西東三鬼
起きていた鏡ぼく真つ黒に存在して 堀葦男
開帳の仏真つ黒みそさざい 菅原鬨也
露すずし真黒の汽車牧をきる 石原舟月
飛んでくる虻真っ黒け二輪草 高澤良一 随笑
ぎつしりと星紅葉山まっくろに 藤本草四郎
ことしもおはりの虫がまつくろ 山頭火
これちょうだい まっくろ黒助凍てなまこ 高澤良一 寒暑
まっくろな水平線に鮫の花嫁 夏石番矢 楽浪
まっくろな目ゆえ鼠は殺される 宇多喜代子
まつくろな嘘もあるべし蛇苺 高橋悦男
まつくろな土いちにちのわれに鋤かれたり シヤツと雑草 栗林一石路
まつくろな牛を押し出す冬霞 田村ひろし
まつくろな穴のありたる汐干かな 山西雅子
まつくろな藤原仏や菱咲ける 辻桃子
まつくろな蜘蛛下りてくる炭火かな 廣瀬直人
まつくろな雪雲鍬の浅使ひ 平畑静塔
まつくろな雲の飛びゆく良夜かな 長谷川櫂 天球
まつくろな鴨にあたりし春日かな 仙田洋子 雲は王冠
まつくろに供華のちぢめる春焚火 山西雅子
まつくろに蓬枯れたる伊吹かな 阿波野青畝
寒鮒をまつくろに飼ひ双生児 原田喬
手習のまつくろ草紙山眠る 龍岡晋
灰の底よりまつくろな椿の実 夏井いつき
猫の恋風呂まつくろに沸きにけり 原田喬
秋夕焼芯はまつくろかもしれぬ 夏井いつき
考えることをやめてまつくろの太陽のもとにはたらく 橋本夢道 無禮なる妻抄
雪明かり牛まつくろに立ち止る 志賀たいじ
高熱の煤降り雀まつくろけ 寺田京子 日の鷹
●真青 
*ひつじ田や小草も萌えて真ッ青に 西山泊雲 泊雲句集
いもむしの真つ青なるを日に蹴り出す 林原耒井 蜩
お札流し真青な海に広がりぬ 藤原明窓
きさらぎの空と真青なり田波立つ 木津柳芽 白鷺抄
きりぎりす腸の底より真青なる 高橋淡路女 梶の葉
すずかけの幹真青なる祭かな 今井杏太郎
ずず玉の真青な闇に昼の虫 辻桃子 ねむ
たんぽぽの絮真青な空目指す 高橋よし
どの窓も開けて真青や楸邨忌 田村正義「水輪」
びいどろに夏の蘇苔真青なる 加藤楸邨
ふくちりや長く真青の竹の箸 草間時彦 櫻山
まくなぎを抜け切つて湖真青なり 手島 靖一
みちのくのわらび真青に箸に沁む 島みえ
むさしのの空真青なる落葉かな 水原秋櫻子
やがて壊す家に真青ないぼむしり 鈴木鷹夫 風の祭
ゑのころはうぶで真青で澄みきるそら 高澤良一 随笑
ガラス浮子真青に積まれ夏怒濤 川村紫陽
クローバの真青に晴れし夜べの雨 五十崎古郷句集
一月の空が真青久女の忌 猪島蘇風
一本の真青なる竹梅雨に入る 納 譲二
一村の真青な湖雛あられ 渡辺純枝
一片の葉の真青なる柚の実かな 飯田蛇笏
七月の海真つ青な暦剥ぐ 玉田年春
六月の臥龍梅とは真つ青な 岸本尚毅 鶏頭
冬の竹伏目ゆるさず真青なり 石田あき子 見舞籠
冴返る日の真っ青なポリバケツ 伴場とく子
切先へ息入れて葱真青なり 殿村菟絲子 『牡丹』
初時雨こぼせし空のいま真青 藤崎久を
初月やまだ真青なる楡の空 古賀まり子 緑の野以後
古都覆ふ真青の天や中也の忌 土田澪子
墳冷えて竹の真青におそはるる 鷲谷七菜子 天鼓
夏山を統べて槍ケ岳真青なり 水原秋櫻子
多喜二忌の海真つ青に目覚めけり 木村敏男
守宮出て真青な夜が玻璃に満つ 加藤楸邨
寒肥や天真青にかむされる 木村蕪城
幾日も空が真青や鳥総松 副島いみ子
強風の山真青や薬狩 櫛原希伊子
形代の行方の水の真青なる 原田豊子
忌の中に摘む真青な蕗の薹 豊島紀久
愛 真っ青な竹藪に入る 畠中妙子
懐手解くべし海は真青なり 大牧広
捨畑の桑真青に初伏かな 木村蕪城
掛稲の真青な葉のあら~し 高野素十
日本海真青なり街露に濡れ 川島彷徨子 榛の木
春や行く閑庭の歯朶真青なる 渡邊水巴 富士
春近し湧水の藻の真青にも 岸田桂子
時雨つつ竹真青なり四畳小屋 藤田湘子 雲の流域
朝焼の消えて立山真青なり 吉沢卯一
末枯や真青にせまる空一つ 井沢正江 一身
杣が家へ清水引く竹真青なり 野原春醪
枝豆を真っ青にゆで旅疲れ 降籏幸子
柚子真青向田邦子好きな夜で 脇 りつ子
桶の輪の竹真青なり葛晒す 中野詩紅
梅雨の羊歯金堂をめぐり真青なり 水原秋櫻子
榧の実に真青な楕円子に未来 須川洋子
死ににゆく猫に真青の薄原 加藤秋邨 まぼろしの鹿
死にゆく蟷螂真青な鎌かざしつつ 加藤知世子 花寂び
母子草空真青にかたまれり 上野好子
水鳥の真青なる眼をしてをりぬ 今井杏太郎
洗ひ牛葛真つ青に昏れはじむ 石田波郷
浜木綿の真青の葉や春の雨 楠目橙黄子 橙圃
海に注ぐ川真青や灼熱す 松村蒼石
海胆割つて潮の真青にすすぎ食ふ 岸原清行
深雪雲割れて真つ青霊の道 加藤知世子 花 季
清明の月真青に種浸す 武田香津子
火ロ湖に浸る雪田の裾真青 福田蓼汀
狛犬の首に真青な注連飾 藤本安騎生
生國や冬真青な曼珠沙華 柿本多映
真っ青なジャングルジムの公園は空の墓なりくすのきゆれる 江戸雪
真っ青な夏葱選ぶわが歴史 高澤晶子 復活
真っ青な空から柿を*もぎにけり 田中 彬
真つ青な夏葱選ぶわが歴史 高澤晶子
真つ青な空が一面梨受粉 旗川万鶴子
真つ青な空刈り込まれ松手入 小島健 木の実
真つ青な竹梯子吊り冬構 岡本 眸
真つ青な葉もちぎれ飛ぶ青嵐 土永竜仙子
真つ青に芙蓉蕾める葭戸かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
真つ青の海を引き寄せ葭簀茶屋 森下まゆみ
真青さや雉子かくせし谷の歯朶 尾崎迷堂 孤輪
真青なり瑕なき秋の天と海 檜紀代
真青なる孤独に乗りぬハングライダー 水野良明
真青なる檜葉より燃えぬ雛供養 原口洋子
真青なる浪ゆり返す根釣かな 楠目橙黄子 橙圃
真青なる空を残して男梅雨 小宮山 勇
真青なる紅葉の端の薄紅葉 高浜虚子
真青なる能登の荒磯や吹き流し 渡邊那津
真青なる葉を沈めをり秋の水 阿部みどり女
真青な寝茣蓙の上の窶れかな 鈴木鷹夫 渚通り
真青な山の空より落し文 市村究一郎
真青な木の実を拾ふ修那羅神 猪俣千代子 堆 朱
真青な木賊の色や冴返る 漱石
真青な松原被害者は鶴つれ 阿部完市 春日朝歌
真青な水滴らせ新わかめ 斉藤葉子
真青な水輪の芯を泳ぐかな 川村紫陽
真青な河渡り終へまた枯野 橋本多佳子
真青な海に沿ひたる年の市 山田雅子
真青な海へ出て来し夏花摘 茨木和生 遠つ川
真青な海を忘れて松手入 細井みち
真青な穂草を抜きぬ生きたくて 前田不二男
真青な空に鍬立て甘藷を掘る 大平 喜代子
真青な空より風邪をひきこみし 波多野爽波 鋪道の花
真青な竹にからみて葛の花 岩田由美
真青な笊編まれゆく雪の鵙 岸田稚魚 『負け犬』
真青な紫陽花を見し野分かな 岸本尚毅 舜
真青な葉も三三枚返り花 素十
真青な身元怪しき薄荷水 如月真菜(童子)
真青な雨が鬼灯市に降る 清崎敏郎
真青な雨の櫟と寝冷の子 神尾季羊
真青な頭をとおす木莵の夜 和知喜八 同齢
真青な顔して氷室出でて来し 片岡奈王「奈王句集」
真青にわらび煮て風邪忘れけり 及川貞 夕焼
真青に堅き氷の乾きゐる 京極杞陽 くくたち上巻
真青に枝豆飯や一つの忌 甲斐田 久子
真青に海は枯木を塗りつぶす 山口青邨
真青に芦の暮れゆく迎へ盆 鷲谷七菜子 花寂び 以後
真青に菖蒲芽立ちて移公子来ぬ 石田あき子 見舞籠
真青に蕨沈めり母の水 小檜山繁子
真鰯の真青なる背に無頼あり 鳥居三朗
真鰯の真青な背に無頼あり 鳥居三朗
破芭蕉真青の空にあらあらし 阿部みどり女
神杉の実の真青なる手向山 福井貞子
秋の海芥に根づく藻が真青 加藤知世子
稲架のかげ空はうつさず真青の井 栗生純夫 科野路
空も海も風も真青よ七五三 太田土男
空真青水の底まで冬が来て 菅原章風
立ちかこむ杉真青に孟蘭盆会 水原秋櫻子
立ちまじる松真青なり山紅葉 水原秋櫻子
立秋の筏に組まる竹真青 吉野義子
竹を伐る音真青に雨のなか 福田甲子雄
紅を冠り下身真青や早生林檎 中矢荻風
老鴬や真青の空へ声展ぐ 坪井耿青
膝の上に真青な魚がおちてゐる 富澤赤黄男
花の雨竹にけぶれば真青なり 水原秋櫻子
花菖蒲鎌は真青に研ぎにけり 轍郁摩
苔にしむ真青な梅雨の降りやまず 阿部みどり女
菜の花の真っ青な影精神科 斎藤愼爾 秋庭歌
落葉松の日の出真青にほととぎす 千代田葛彦 旅人木
落蝉にいつもの空があり真青 高澤良一 寒暑
蓋置の竹真青なる初点前 平岡しづこ
蓮真青なる夕焼を保母帰る 飯田龍太
蘆刈るや空真つ青に潟の波 秋櫻子
蚊帳吊つて一つ船窓真青なり 中條明
蛇ゆきしあと真青なる風立ちぬ 宮本径考
蛙のむくろ腹見せて炎天の池の真つ青 人間を彫る 大橋裸木
蟷螂の真青に垣の雨晴るゝ 内藤鳴雪
親杉小杉熊出し夜も空真青 赤尾兜子
赤城へ向く葱真青に夜霧の底 加藤知世子 黄 炎
迅雷に一瞬木々の真青なり 長谷川かな女 雨 月
酔ひ初めし芙蓉に空の真青なる 北野まさ子
雉子網のなか真青に蜜柑垂れ 松村蒼石 雪
雨後の森真青に子鹿生れけり 山中 三木
雪割りて真青な笹ひらめかす 加藤楸邨
雪卸し真青の海を見て憩ふ 三宅草木
雪折の松の真青に日本海 児玉南草
雪風となりし笹山真青なり 渡邊水巴 富士
雹のあと蘂真青に梅こぼれ 水原秋櫻子
霧くれば手をつなぐ蘆真青なり 堀口星眠 営巣期
颱風の松立ちなほる真青さよ 加藤知世子 花 季
馬追よ父よ日本真青なり 原田喬
骸骨が抱きあふ真青薄かな 筑紫磐井 婆伽梵
鬼灯のまだ真青なる二つ三つ 若山良子
鯉苗といひ真つ青な水に飼ふ 森田峠 避暑散歩
鰡跳ぶや真青な空の浜離宮 阿部悦子
鵯つつく空の真青を冬芽立つ 木村敏男
鶴来る村空真つ青にあけておく 森澤義生
まっさおな津軽に雫る座禅草 上田多津子
まっさおな海犯し続ける渚の蟹 森田高司
まつさおな微塵とびたち芝刈器 阿波野青畝(1899-1992)
まつさおな雨が降るなり雨安居 藤後左右(1908-91)
まつさおのべらきしきしと泳ぎ出す 三井絹枝
もう種でなくまつさおに貝割菜 永田耕衣(1900-97)
レバノンの空はまっさお鳳仙花 坪内稔典
冬菜まつさお犬醜きも愛さるる 寺田京子 日の鷹
広島漬菜まつさおなるに戦慄す 西東三鬼
旅僧仏盆の前山まつさおに 和知喜八 同齢
植物園に棒立ちの愛まっさおな 八木三日女 落葉期
●真白 
*たら芽ぐむ真白き雲の光りとび 岸風三楼 往来
あかつきの清気真白の酔芙蓉 河野静雲
あたたかく真白き飯よ神のごとわがうつしみの前にかがやく 川端弘
ある期待真白き毛糸編み継ぐは 菖蒲あや あ や
いさざ汲む湖や真白に冬の城 松村蒼石 露
いろいろの涙を知りて梅真白 村山砂田男
おおかたの書を離す日の雪真白 宇多喜代子 象
お手綱のこよなき真白御命講 高澤良一 随笑
かじかんだ手で真っ白の封を切る 大高 翔
からす瓜真白き花の怯え咲き 高澤良一 鳩信
からたち真白その下で料理はじめる 阿部完市 春日朝歌
かゝる世のかゝる真白き団子かな 林原耒井 蜩
くちびるの真白き鯉や山の冬 宮坂静生 樹下
したたかな人のハンカチ真白なる 西川織子
たじろがぬ漢の視線梅真白 吉川能生
たそがれて顔の真白き案山子かな 鷹女
ただ真白逆光の中の弥生 斉藤栄子
とうふ売るため真白なシャツを着る 南利一
のうぜんや真白き函の地震計 日野草城
まだ油ひかぬ真白き苗障子 中田みづほ
まぢかの家真白に干し草虱 友岡子郷 遠方
まばたきを集めれば闇葱真白 鳥居真里子
まゆみの実真つ白な雨山消して 八木林之助
ゆふぐれは真白きからすうりの花 鳥居三朗
キャベツ切口真白層なし颱風来 小檜山繁子
コート黒く足袋真白に春浅き 阿部みどり女 笹鳴
シクラメン真白く佳き事ありさうな 菖蒲あや
ジーンズの洗ひ擦れして梅真白 芝 由紀
パレットの洗ひて真白鶸の森 小林貴子
モンゴルの包の真白き高き月 岬 未知子
一僧の脚絆真白き夏野哉 酒葉月人
一刀の断冬瓜の腹真白 宮崎笛人
一山のふもとの坊の菊真白 久野幸子
一息という刃をつかう蕪真白 宇多喜代子 象
一月の松や真白き真砂ふむ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
主なき障子真白く桟正し 殿村莵絲子 花寂び 以後
二の腕の若さ真白き蛾を殺す 稲垣きくの 牡 丹
五月きぬビルは真白き艦のごと 金尾梅の門
五月来ぬ艇に真白き潮見表 野島抒生
五月空真白くのぞき木曽の駒嶽 橋本多佳子
亡き人へこころ傾く梅真白 川崎俊子
侘助や独りの刻の真白に 加藤知世子
信濃の土間障子真白く婆ばかり 宮坂静生 青胡桃
僧と俗へだつ真白き冬襖 吉野義子
元朝の障子真白く父母遠し 宮坂静生 青胡桃
兄嫁という真白きもの花の時 対馬康子 愛国
八月や真白きものに蛆虫も 辻桃子
八枚の襖が真白鴨の宿 茨木和生 倭
六月や能の亡霊足袋真つ白 北野民夫
写真ほど白鳥真白にはあらず 宇多喜代子
冬の皺真白き紙にありにけり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
冬の草太根真白に持ちてをり 菅裸馬
冬蕪の真つ白な尻積みあげゆく 太穂
冬銀河肩にまはる手真白なる 仙田洋子 橋のあなたに
冷奴真白きものに廃りなし 細木芒角星
冷房やカード真白となる手品 松本美簾
出初式の男等手套真白なる 小川原嘘師
初の子を真白につつみ葱畑 友岡子郷 未草
初ミサのヴェール真白くいただきぬ 辰馬くに子
初桜真白き船の進水す 柳沢君子
初桜鮃の裏は真白にて 茨木和生 丹生
初蝶の腋あくまでも真白なり 斎藤愼爾
別れ蚊帳真白き繭ぞつきゐたる 加藤楸邨
劫初より真白きりようぶ深吉野に 花谷和子
勇気こそ地の塩なれや梅真白 草田男
北枕は北は真白は晴れなり 阿部完市 春日朝歌
十三夜真白くきつき足袋をはく 菖蒲あや 路 地
千代尼忌の紬真白に織りあがる 林さわ子
卒業歌沖に真白き船一つ 濱永育治
印度ムード歌謡真白きダチュラ咲く 如月真菜
受胎してあはあはと過ぐ梅真白 古舘曹人 樹下石上
古き世の風起す扇真白なる 中島月笠 月笠句集
古き代の胡粉真白き屏風かな 阿波野青畝
古寺に真白はかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
唇の塩気うすうす梅真白 長山順子
唐寺を出る真白な日傘かな 有馬朗人
商館も船も真白き日覆張る 山口波津女 良人
啓蟄や真白き船の客となる 牧野洋子
喪の家の真白き皿の無月かな 吉野義子
囀や朝は真白の割烹着 松本美簾
国府跡真白な凧ひきずれる 原田喬
坪の内真白に飾り干大根 伊藤敬子
壬生踊小姓真白き指揃へ 深川知子
壷に真白降雪前に剪りし梅 野澤節子 『未明音』
夏帽に照りて真白き雲ばかり 水原秋櫻子
夏海の匂ひ真白き朝のパン 平井さち子 完流
夏海へ琉歌の石碑真白なる 桑江正子
夏深み真白き飯を夢みけり 林原耒井 蜩
夏落葉焚く煙とて真白かな 高木晴子 花 季
夏近し真白に蔵を塗り替へて 松本美簾
夕焼けの中の灯台だけ真白 福原実砂
夜々芽吹く過去帳夫のあと真白 久保 羯鼓
夜のセロリ真白噛みしむ独立祭 吉野義子
夜桜の真白に闇を焦がしけり 吉田千嘉子
大綿の真白に迫りたるが無し 皆吉爽雨
大風の夜を真白なる破魔矢かな 渡辺水巴 白日
天の扉を次々と開け凧真白 秋山素子
天神の早梅真白き花混むよ 高澤良一 素抱
太穂忌の相模寒月梅真白 澤柳たか子
太箸の真白にうごく火勢なり 鳥居おさむ
失恋の夜の真白きハンカチーフ 成瀬正とし 星月夜
女の児真白いマント着て近より来る 中塚一碧楼
子の幸や冬を真白き乳房含む 川口重美
子供らに真白き未来日記買ふ 橋田憲明
子規に律賢治にとし子梅真白 近藤山子
守り札も肌身にひとりの兵が真白の銃と何を思う 橋本夢道 無禮なる妻抄
寄せて白砕けて真白秋の波 小林 遊
富士真白諸君も髯を剃れという 秋山牧車
寒に入る鷺の真白き恋を見て 堀口星眠 青葉木菟
寒椿しかも真白に母校なる 古舘曹人 能登の蛙
寒風や羽根折つて来る鳥真白 金箱戈止夫
寒鯉を真白しと見れば鰭の藍 水原秋櫻子
小兎や真白の足袋に父とゐて 中山純子 茜
少年の裸真白し七日堂 坂口江寒
就中首里城衛士の足袋真白 北見さとる
尼寺に真白ばかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
尾を曳きて真白き船と日は去りぬ 津沢マサ子
山寺に真白ばかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
山峡に灯が入りリラの花真白 青柳照葉
山棲みに光る水増え梅真白 鷲谷七菜子 花寂び
山眠る真白き山もその奥も 岡田きよ
山翡翆や釣師の飯の真白なる 星眠
山翡翠になんじゃもんじゃの花真白 遠山郁好
山翡翠や釣師の飯の真白なる 堀口星眠
山風に買ふ矢真白き恵方かな 渡辺水巴
岩肌に辛夷散華のなほ真白 岡田日郎
島庁は真白し日傘人松に 久米正雄 返り花
巣箱真白母に問はるるたび瞠る 友岡子郷 遠方
常闇に住むも真白く障子貼り 村越化石
干鱈積む浜の女の髪真白 畑美津恵
幸福感真白き卓布冬灯に垂れ 桂信子
庭稲荷留守なる瓶子真ッ白に 久米正雄 返り花
弓始たすき真白くをみななる 吉田速水
弘法の真白の脚絆初大師 山岡てる子
弟へ真白き花の打球かな 攝津幸彦
徂徠忌や髪の真白き一儒生 池上浩山人
後園の春の真白や梨の花 尾崎迷堂 孤輪
忘れゐし花よ真白き枇杷五弁 橋本多佳子
怠け懈けて雲ぞ真白き四月尽 相馬遷子 山国
性愛や夜も真白き花辛夷 岩淵喜代子 硝子の仲間
息づまるほどに真白き寒牡丹 細川子生
手袋の真白き道士語りだす 日原 傅
托鉢に出払ひて梅真白なり 片野達郎
投扇興酔うて真白き腕見す 小原啄葉
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
放生会果てし真白きすすぎもの 前田留菜
新涼の真白き猫を拾いけり 寺井谷子
新涼の雨真直に真白に 成瀬正とし 星月夜
新涼やダムは真白な水を吐く 平田青雲
新涼や足袋を真白に僧を継ぐ 角野彰子
日が包む成人の日の真白鳩 中条明
日の出いまだ霜が真白のうす明り 貞
日伸びけり真白き富士を雲の中 林原耒井 蜩
旧道の二階障子の夏を真白 皆吉爽雨 泉声
明日はまだ日記真白貝割菜 井浪立葉
明治節真白き鳥のよぎりけり 秦夕美
昔日を啖い夕顔真白かな 永田耕衣 人生
春の顔真白に歌舞伎役者哉 夏目漱石 大正三年
春嵐船に真白き救命具 森 かずを
春待つや帰らねばこそ波真白 野見山ひふみ
春愁のあまり真白き肌着裁つ 馬場移公子
晩涼の真白き蝶に今日のこと 立子
更衣せめて真白な手袋も 高木晴子 花 季
月の波真白きリオに着きにけり 大木さつき
月の芝煙草すふ手が真白なる 渡辺水巴 白日
月山につづく真白き恵方道 粕谷容子
月山に真白き飯を焚き上げぬ 攝津幸彦 鹿々集
月暮れていよよ真白き幟かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
月照らす茅花野ははや真白なり 斉藤栄子
朝燕麦穂の露の真白なる 西山泊雲 泊雲句集
木々の芽や素袷真白き宮大工 雉子郎句集 石島雉子郎
木場深くゐて極月の馬真白 大峯あきら
木蓮は普賢の象の真白かな 尾崎迷堂 孤輪
末枯へ真白な兎走り出す 瀧澤伊代次
東風の船汽笛真白く吹き止めず 山口誓子
松の間に真白き富士のどこかが見ゆ 篠原梵 雨
松の間の障子真白く御歌会 澤木欣一
林中の鶏真白なる落葉どき 斉藤夏風
枝豆の真白き塩に愁眉ひらく 西東三鬼
枯谷を真白き鳥や縁起売 宮坂静生 山開
柊の花の真白き香と思ふ 片山由美子
柊の花真白な謀叛持つ 丸山嵐人
桃むけば燈真白に高原なり 村越化石
桶底の豆腐真白し初氷 草皆五沼
梅真白労咳の子に憧れて 齋藤愼爾
梅真白拍手湧きつぐ柩出し 都筑智子
梅真白臍の緒を切るはさみかな 辻美奈子
梅雨の鶏舎より真白な卵もらふ 千代田葛彦 旅人木
梅雨寒く小蕪真白く洗はるゝ 鈴木真砂女 生簀籠
梅雨篭の布巾真白く晒しけり 中丸シゲ子
梅雨茸の裏は真っ白反抗期 川村智香子
梨の花真白に胸を満たしけり 川崎俊子
梨花白く更に真白く一つの示唆 伊藤敬子
梨齧る児に真つ白な永久歯 丸山依子
椅子を引くボーイ真白き良夜かな 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
極北の街で真白き日記買ふ 有馬朗人 耳順
極彩の中に真白き釈迦寝たり 谷野予志
横に殼有りて真白く蝉生る 波多野幸子
櫨取に真白き雲のひかりとぶ 毛利明流星
死の床に似て夏蒲団真白に 関口ふさの「晩晴」
死火山に積む億年の雪真白 片山由美子 風待月
母の日の妻の真白き割烹着 伊東宏晃
毒茸の真白にくだけ円空墓 鍵和田[ゆう]子 浮標
比良峰々真白尚あり残る雪 田中田士英
気鬱の木に真白な蝶が湧く 柿本多映
水仙のりゝと真白し身のほとり 多佳子
水口のまはり真白に花薺 長谷川櫂 天球
水垢離の素足真白き寒行女 福島百合子
水漬きつゝ新樹の楊真白なり 水原秋櫻子
水芭蕉高野に咲きて真白なる 塚田正子
水鳥の水尾の真白に春隣 渡邊千枝子
氷柱に真白き芯の通りけり 古舘みつ子(天為)
永遠の真白き音符小あぢさし 仙田洋子 雲は王冠
江ノ島の浪と真白き破魔矢かな 佐野青陽人 天の川
沙羅の花真白に得度受戒の日 平田節子
沢庵漬洗はんとする手が真白 京極高忠
泡吹虫羽化せし泡の真白なる 原田清正
波頭よりも真白き初鴎 龍神悠紀子
泰山木は天の生け贄花真白 小川原嘘帥「曲水同人句集」
浄め塩真白なり冬はじまれり 渡邊千枝子
浅間晴れて豌豆の花真白なり 高浜虚子
浅間真白冬の教室汚れ易し 宮坂静生 青胡桃
浮雲の夜も真白に菊月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
海峡も舟も真白き走り梅雨 原勲
滝垢離に褌の真白きそひあふ 筑紫磐井「婆伽梵」
滝壺にゐて真白き夢を作(な)す 松澤昭 神立
滝音の耳慣れしより蝶真白 小泉洋一
瀧垢離に褌の真白きそひあふ 筑紫磐井 婆伽梵
火の山や真白にかづく昨日の雲 南風 水原秋櫻子
火口湖が凍る真白き亀裂もち 品川鈴子
灼け砂の真白目を突く恐山 高澤良一 随笑
炭竃の上に真白に那須ケ岳 岡安迷子
煤逃げの真白きベビー毛布かな 山崎ひさを
燕巣にもどり夕潮真白に 友岡子郷
爽やかや幟真白き字境 伊藤いと子
片々と血は足りてをり梅真白 藤田湘子 てんてん
現身を真つ白にする蜃気楼 下山光子
瑕瑾なき空より落葉墓真白 鍵和田[ゆう]子 浮標
生身魂真白の髪を切りそろへ 山下道子
病みぬればただに真白き秋日かな 五十崎古郷
痛みこそ夫への挽歌朴真白 野見山ひふみ
白きもの真白に洗ふ大暑かな 福田雅子
白息のごと紅梅の蕊真白 吉野義子
白蚊帳のなかは真白き波の音 明隅礼子
白酒や江戸絵の上野花真白 市川東子房
百年後のいま真白な電車がくる 小川双々子
盆棚に薯蕷(じょうよ)饅頭真つ白な 石嶌岳
盆燈籠真白き房に風見えて 高橋淡路女 梶の葉
目にうれし恋君の扇真白なる 蕪村
目に嬉し恋君の扇真白なる 蕪村
真っ白き部屋はゆっくり夏果てぬティッシュの箱をひとつ残して 吉野裕之
真っ白な花に群がる風一目 高澤良一 鳩信
真っ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真っ白に明恵の咲かす茸なり 高澤良一 宿好
真つ白なあの世見たくて芒原 務中正己
真つ白なシーツを敷けば冬の海 和田耕三郎(1954-)
真つ白なハンカチ使ひそびれたる 藤本悦子
真つ白なブラウス復活祭のミサ 都筑智子
真つ白な犀が来てゐる春の風邪 齋藤愼爾
真つ白な産着が真中初写真 金森教子
真つ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真つ白に雨がふるなり除虫菊 楠部九二緒
真ッ白な蛍ぶくろも梅雨の黙 酒井龍也
真白(しんぱく)の滝を遠目に旅ゆくも 金子兜太 皆之
真白きも彩のひとつに百合開く 松山和子
真白きテーブルクロス冷し珈琲 岡松あいこ
真白きトランク初夏の空港に 成瀬正とし 星月夜
真白き富士を見にゆく建国日 深瀬政子
真白き犬なり山川をわたらん鼓笛 阿部完市 春日朝歌
真白き百合拈華微笑に夫を醒ます 加藤知世子 花寂び
真白き神の餅買ふ冬紅葉 大橋櫻坡子
真白き障子の中に春を待つ 松本たかし
真白くに母の刻みし霰餅 あらきみほ
真白さに児の手ためらふ新障子 山口あさ子
真白さのつくばねうけよ初御空 鷹女
真白といふ濃さのあり梅の花 前橋春菜
真白とは激しき色か滝真白 山口超心鬼
真白なものへときめき初日記 長沼直子
真白なるショールの上の大きな手 今井つる女
真白なる十団子を吊る峡の盆 栗田やすし
真白なる十団子添へて盆見舞 梅田 葵
真白なる半衿つけし湯ざめかな 田原重子
真白なる卓布や憲法記念の日 斉木永久
真白なる厨の卵僧自恣日 宮坂静生 春の鹿
真白なる命根持てる薺かな 高本時子
真白なる夏野の果てに面師住む 阿部みどり女
真白なる晩秋蚕の繭の玉 屋舗 信子
真白なる湯気の釜揚うどんかな 草間時彦
真白なる灰を残しぬ牡丹焚 児玉輝代
真白なる猫が墓守る春の暮 吉野義子
真白なる猫によぎられ大旱 楸邨
真白なる皿の息づく二月かな 島田文江
真白なる鯉が過ぎける暮春かな 能村登四郎
真白なシェフのスカーフ巴里祭 菅原章風
真白な壁の途中に蝉の殻 岩田由美
真白な外車を囲み泡立草 頓宮れい
真白な妻の爪屑水引草 香西照雄 対話
真白な寒月岩山の横へ出づ 岡田日郎
真白な皿に一本唐辛子 中嶋秀子
真白な皿に音楽夏立ちぬ 折井紀衣
真白な眼帯のままむなしき春 阿部みどり女
真白な羽吹かれ来し曝書かな 岸本尚毅 舜
真白な肌の背中の水遊び 八木林之助
真白な花に影なし朧月 朧月 正岡子規
真白な菊見て来てより可笑し 野村喜久子
真白な蓮が先づ咲く三室戸寺 高橋繁喜
真白な蛾や掛稲を飛び出づる 岸本尚毅 舜
真白な風に玉解く夏芭蕉 阿波野青畝
真白な風に玉解く芭蕉かな 川端茅舎
真白な鳥先立てて神還る 原田喬
真白にかしらの花や年男 許六
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
真白に李散りけり手水鉢 李の花 正岡子規
真白に物干して豊かなるに似たり 千代田葛彦 旅人木
真白に生れて神馬寒からむ 豊東蘇人
真白に石灰やきのあつさ哉 暑 正岡子規
真白に繭干す庭や雲の嶺 奚魚 六 月 月別句集「韻塞」
真白に行手うづめて山辛夷 高野素十(1893-1976)
真白に鹿の星毛や五月あめ 江戸-楚舟 俳諧撰集「有磯海」
真白斑の鷹に日本語でものをいう 宇多喜代子 象
真白羽を空につらねてしんしんと雪ふらしこよ天の鶴群 岡野弘彦
真葛越し脚下浪湧く真白なり 中村草田男
眠りよるインコ真白し夏の月 横光利一
眠る下りてゆく真白い手紙書く 阿部完市 絵本の空
睡蓮の真白な遺書水浸きけり 丸山嵐人
短夜や伏せて真白き鵬于集 林原耒井 蜩
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し 川端弘
神の梅かくも真白し勝たでやは 渡邊水巴 富士
神仏をたのまず佇てば梅真白 高崎公久
福沸真白き泡をはねあぐる 福田甲子雄
秋の声踏み来る神馬真白なる 林昌華
秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石(1867-1916)
種採ると紙を真白に平かに 皆吉爽雨 泉声
穀象を見ずいま秤る真白米 岡本まち子
穂芒の雁啼くときは真白なる 河野多希女 月沙漠
立春や嬰の真白き土踏まず 森 美砂子
端午の日なれば真白なシーツ干し 如月真菜
笹解けば真白き米や鮎の鮓 鈴鹿野風呂 浜木綿
筑紫次郎見下ろす寺の梅真白 井上千恵子
籾を蒔く日の選ばれて嶺真白 成田千空 地霊
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
終戦日ゆふべ真白き米磨いで 樋笠文
綿菅の真白を吹くや沼の風 飴山 實
羽摶つ鴨われに真白き胸ひらき 石田あき子 見舞籠
老齢の木を真白に杏咲く 百合山羽公 故園
腰痛の一撃脳天真っ白に 高澤良一 寒暑
臼を彫る木屑真白や三十三才 小林黒石礁
舞ひ下りて真白き夏の蝶となる 前山百年
色つきの夢の疲れや真白き蛾 有馬英子
花杏夜も真白き伊豆に来ぬ 福田蓼汀
花臭木滝真向に真白なり 石田波郷
花野より生れて真白きグライダー 窪田英治
苜蓿に落ちて真白き手巾かな 高柳重信
草の戸の真白き飯に初日さす 正雄
草田男の墓真白き薔薇を活くるべし 石嶌岳
荒縄で洗ふ大根真白きまで 冨石三保
荒行のすみたる僧に梅真白 阿部喜久子
菜の花や沖に真白きロシア船 関口青稲
菜の花売りに来る日の富士よ真つ白な 林原耒井 蜩
萩真白海渡りきて子規拝む 西東三鬼
落葉掃く或は真白のさゞんくわも 林原耒井 蜩
葉鶏頭の露真白にも真赤にも 高浜虚子
葱真白に洗ひあげたる櫟原 柴田白葉女 遠い橋
蔵壁は永久の真白さ梅の花 高澤良一 素抱
蕊も真白にていれぎの花小粒 吉野義子
蕗のたう真白き和紙に揚げらるる 玉作奈々緒
蕪村忌の富士真白にあらはるる 滝沢伊代次
薄月の鱈の真白や椀の中 松根東洋城
藪虱木原は雲を真白に 友岡子郷
蜂や秋麗らにす通草棚真白 雪人句集 西村雪人
蜜柑山より真白な雲お正月 川崎展宏
行きはわが足袋の真白く下萌ゆる 中村汀女
行けば行くところに記紀の梅真白 吉田亜司
裏切りの構図真白く梅病める 丸山嵐人
西風吹くや封を切りたる綿真白 松藤夏山 夏山句集
角切らる鹿の真白き眼を見たり 永橋並木
誕生を待つ真つ白な毛糸玉 窪田光代
谷杉の鬱蒼真白深雪かな 松根東洋城
象徴天皇御田植のシャツ真白なり 佐藤 健
跳ぶ兎すでに真白や夜の紅葉 堀口星眠
軒風や雛の顔は真白なる 内田百間
辛夷真白失ふものに気付かずに 津田清子
逆縁の喪に服す父母梅真白 杉本寛
逝きしと言ふ大事を忘る梅真白 折井紀衣
道行きの手と手真白や初芝居 中川和子
野にあそび真白なる富士に驚きぬ 冬葉第一句集 吉田冬葉
野に遊び真白なる富士に驚きぬ 吉田冬葉
野の秋日堪へてみつむるとき真白 中島斌男
野茨の昼の夢なん花真白 原石鼎 花影以後
野葡萄のまだ真つ白に月を待つ 市村究一郎
長葱の白こそ真白仏生会 神尾久美子 桐の木
門出寒く晴れ切る富士の真白かな 松根東洋城
開きゐて真白き翼新日記 小澤克己
闘鶏のうしろ真白き濤がしら 北見さとる
降りて止む降りて止む雪山真白 岡田日郎
障子貼るすぐに真白き秋日跳ね 及川 貞
雪がこひ真白な蕪をかかへて出づ 加藤楸邨
雪ならぬ霜の真白や初雀 尾崎迷堂 孤輪
雪よりも真白き春の猫二匹 高浜虚子
雪より掘り大根の肌真白な 金箱戈止夫
雪割の真白なる芯道に投ぐ 當山孝道
雪夜ふるさと真白き曲り蒼き曲り 加藤知世子 花寂び
雪崩あと兎真白く死にゐたり 田原玉乃
雪解水沈く朽葉に真白き垢 香西照雄 対話
霜真白歳月土に新しき 野澤節子 遠い橋
霧籠めとなりたり真白酒家のあり 阿部完市 軽のやまめ
顔はまだ見えず真白の服の人来る 篠原梵 雨
風邪兆す夕べ真白き懐紙 鈴木鷹夫 大津絵
飛ぶときの腑まで真白き母の鷺 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
駐車場の線の真白き海開 荒井千佐代
鮎釣の腰を真白に水たぎつ 柳芽
鯖街道すこし外れて梅真白 皿井芳子
鯛網の漁師真白き歯で唄ふ 渋谷亮子
鰤日和立山は真白に迫りたり 山出節苑
鴬に覚めて真白き肌着替ふ 河野多希女 琴 恋
鴻毛の真白き沙羅をひろひけり 本多静江
鶴渡る真白きめしを食ひをれば 辻桃子 童子
鷺真白釣瓶落しの千曲川 萩原 憲
麦熟れて夕真白き障子かな 汀女
麦秋の沼を真白に案内図 古舘曹人 能登の蛙
うきくもはましろきものに花野かな 五十崎古郷句集
うみどりのみなましろなる帰省かな 高柳克弘(俳句研究)
えりあしのましろき妻と初詣 日野草城(1901-56)
かなかなやまっしろおばけの宿題帳 岡田葉子
さみどりのいまはましろくキャベツ剥く 篠原梵 雨
のけぞりて腹まつしろや冬の鯉 斎藤梅子
ひらききる百合はまつしろ海炎えゐむ 鷲谷七菜子「銃身」
ましろくて冬菊は喪の色なりし(姉の死四句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
ましろなる団扇に虫のかげはしる 太田鴻村 穂国
ましろなる神父の髯やクリスマス 富安風生
ましろなる筆の命毛初硯 風生
ましろなる鱈に血のありうつくしき 楠本みね
ましろなる鳩一羽翔く養花天 原石鼎 花影以後
ましろにぞをとめがてどるかがみもち 飯田蛇笏 春蘭
まっしろな国になるまで牛を押せ 辻脇系一
まっしろに鶏の羽ばたく幼稚園 松本恭子 二つのレモン 以後
まつしろい初鶏のこえであろう 暁闇のうごき 吉岡禅寺洞
まつしろきところをもつて蠅生る 加倉井秋を 午後の窓
まつしろき鵲のおなかの下へ干す 姫野恭子
まつしろな眼帯をして野にゐたり 渡辺白泉
まつしろな秋蝶轢いたかもしれぬ 夏井いつき
まつしろな空の下なる花疲れ 石田郷子
まつしろになつてみたくて富士みたくて 阿部完市 軽のやまめ
まつしろに薺咲く田へ柩出る 飴山實 辛酉小雪
まつしろに降りまつくらや涅槃雪 斎藤慎爾
みどり児のましろきものを縫はじめ 伊藤雪女
ガソリン入れる男ましろく肥えおりて 岡田耕治
ジャスミンの花垣ましろ適齢期 松田起子
スリッパの裏ましろなる秋の暮 小川軽舟
スワン翔ち双眼鏡をましろにす 田村了咲
ブラウスのましろきことの涼しさよ 岸風三楼 往来
一亭の障子ましろく池に向く 村上冬燕
万緑にとべばましろき鳥ならむ 平井照敏
人日の下着ましろな湖漁師 茨木和生 野迫川
冬鶏のねむりましろきゆらぎかな 平井照敏 天上大風
初風呂へ産子をつつむましろにぞ 下村槐太 天涯
動きやすく蜘蛛ゐて壁のましろさよ 畑耕一 蜘蛛うごく
十薬のましろき襟の信徒たち 平井照敏
卯月来ぬましろき紙に書くことば 三橋鷹女
吹雪まつしろわら塚の同じ傾き 伊藤敬子
吾もまた信長贔屓萩ましろ 谷中隆子
啓蟄の脛ましろなるかじめ採り 松村蒼石 寒鶯抄
地に群るゝ蝶のましろを暮春とす 篠田悌二郎 風雪前
地平線羊ましろく生殖す 富澤赤黄男
塩蒸のましろなる身や桜鯛 長谷川櫂 蓬莱
夏料理ましろき紙のかぶせある 井上弘美「あをぞら」
夏濤の砂にましろし音たてて褪す 篠原梵 雨
夏蝶のましろに現れぬ一位の木 鈴木しげを
夕霽れのさくらましろく火鉢吹く 金尾梅の門 古志の歌
夜の雲のましろさ門木とげ~し 金尾梅の門 古志の歌
子に母にましろき花の夏来る 三橋鷹女「白骨」
小米花殖えゆく産衣みなましろ 福永耕二
山吹のましろきしんよぽんとぬく 太田鴻村 穂国
山桜狐の面のましろなり 小川軽舟
山田鋤く馬のましろし蝉の声 金尾梅の門 古志の歌
山芋を摺りまつしろな夜になる 酒井弘司
山風に棉ふき出でてましろけれ 太田鴻村 穂国
廈あひの雲のましろき撒水車 大橋櫻坡子 雨月
摺りガラスましろに月のかげを堰く 篠原梵 雨
新涼のましろき兎飼はれをり 阿部みどり女
日に昏くつきにましろく田植笠 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
日の温み障子いよいよましろなり 星野立子
早苗田にましろき雲の満ちて来ぬ 篠原梵 雨
春大潮のましろき落差島を結ぶ 篠原梵 雨
昼休みましろき船を見にゆきぬ 細谷源二 鐵
晩涼のましろき蝶に今日のこと 星野立子
村まっしろふり向きざまに暗澹や 大沢輝一
松林の廠舎ましろく蝉ひびき 太田鴻村 穂国
枯萩の焔ましろくすぐをはる 橋本多佳子
柿の上暮れてましろき白馬岳かな 金尾梅の門 古志の歌
江の島の裏はましろの秋の波 長谷川櫂 虚空
海上はひかりてましろ桜東風 茨木和生 三輪崎
滝たゞにましろく秋日峰わたる 金尾梅の門 古志の歌
滝氷柱まつしろに炎えゐたるなり 松澤昭 神立
漉紙のましろき崖をなせりけり 正木ゆう子 静かな水
瀧氷柱まつしろに炎えゐたるなり 松澤昭
炉を切つてましろき助炭かぶせたり 飴山實 『次の花』
炭屋炭無しといふ日はましろなり 渡邊水巴 富士
牡丹焚きしましろき灰を霧濡らす 上野さち子
特老で死ぬるも風情梅ましろ 岩下四十雀
産衣のまっしろ おなじ夏雲飛んでいる 伊丹公子 沿海
石階にましろき日射し蝉時雨 原田青児
砂を落とせばまつしろな月となり 石川さくら
神の杉ましろき藤をかけにけり 岸風三楼 往来
秋の蝶ましろきものは西湖より 黒田杏子 水の扉
秋晴やましろの樺はまつたけれ 石橋辰之助 山暦
秋来ぬと散華の木槿ましろなり 秋櫻子(京都、法然院)
秋燕ましろに飯の干されたり 金尾梅の門 古志の歌
紙漉くやましろの光ゆりおこし 平井照敏 天上大風
編みかさね秋意ましろき一位笠 能村登四郎
翔つものの羽裏ましろき復活祭 古田冴子
聖夜わがましろき胸を診られ臥す 鷲谷七菜子
船を待つ素足ましろき定斎里 佐野まもる 海郷
芭蕉像笠はましろく夏近し 山口青邨
芭蕉布や夕べましろき島の道 片山由美子
花そばや立出て見ればましろなる 高井几董
葉牡丹のまつしろに父と母の家 相生垣瓜人 微茫集
蓮ひらく単語と語法まつしろなり 竹中宏 句集未収録
蛾はしんとましろなり昼うすぐらし 斎藤梅子
蝉声のまつしろな石畳かな 石田郷子
行年やましろき崖に藻の乾き 山西雅子
見をるうち菊のましろさ眼より溢れぬ 篠原梵
逃散の夜のましろき曼珠沙華 夏石番矢(1955-)
達磨忌の霜ましろなる大伽藍 和田祥子
遠山の尾根をましろに草城忌 田中麗子
釣鐘草まつしろの鐘雨に揺れ 福田蓼汀 山火
長き日にましろに咲きぬなしの花 蕪村
関東の男も多弁鱧ましろ 宇多喜代子
鵙の啼く街まつしろに描くかな 松澤昭 神立
鹿の子の雹におどろく尻ましろ 下村槐太 天涯
●水色 
あさがほの水色展べししゞまかな 林原耒井 蜩
たそがれは常に水色死処ばかり 三橋鷹女
みず色の上司の触手冷房音 川崎ふゆき
もみづり遅き谿のあさがほ水色に 林原耒井 蜩
わが八十水色のシャツ牡丹の前 細見綾子
われを視る眼の水色に今年猫 飯田蛇笏 霊芝
ダム奥となりし水色木の芽晴 茨木和生 野迫川
レタス畑水色昼寝の農婦らに 羽部洞然
共用の水色ポロシャツこどもの日 高澤良一 ぱらりとせ
北斗ありし空や朝顔水色に 渡邊水巴 富士
十勝川水色変へて鮭のぼる 矢野越山
夏めくや二人の卓布水色に 小元洋子
夏蚕飼ふ灯を水色に谷の家 福田甲子雄
夕月は水色なせり黐の花 草間時彦
好み縫ふ房は水いろ菊枕 高橋淡路女 梶の葉
故郷を水色のサングラス越し 伊藤トキノ
春愁や水色淡きハーブテイ 山田暢子
死化粧して水色桔梗なりぬ 寺井谷子
母胎につながり水色の灯の暮れ方 林田紀音夫
水洟の水色膝に落つ故郷 永田耕衣
水無月を水色に着て老装ふ 長谷川かな女 花寂び
水色に夜は明けゆくや額の花 木内悠起子
水色に昏るる湿原柳の芽 神田長春
水色のものなべてよし夏夕べ 武田鶯塘
水色のゆふべとなりぬ餅筵 角川春樹
水色のジェリーは春を逝かしむる 林原耒井 蜩
水色のノートめくればてんと虫だまし 穴井太 原郷樹林
水色の一筆箋や雲の峰 環 順子
水色の便箋暑中見舞なる 井手くに子
水色の少女飛び出す大躑躅 岡田史乃
水色の旅のハンカチ洗ひおく 吉村敏子
水色の空へ芥子の緋乾きけり 阿部みどり女
水色の露台も看えて花ぐもり 滝井孝作 浮寝鳥
水色の風を生みつぐ朝顔市 景山薫
水色は清貧の色夏燕 小野久仁子
水色は遠方の色花柘榴 桂信子 黄 瀬
水芭蕉昼の銀河は水色に 林 桂
湯河原の海は水色ミモザ咲く 柳下美砂枝
瀬戸の海や月さへも水色なせり 清水基吉 寒蕭々
目薬をさせば水色五月来る 片山慶子
秋の水色まさり行く金魚かな 乙字俳句集 大須賀乙字
空は空いろ水は水いろ原爆忌 滝井清子
空井戸あり繃帶の鶏水色に 赤尾兜子
綿虫の水色のぼる波郷の忌 貞吉直子
花の下暮れ残る空水色に 奈良邯子
茫茫渡海の水色のふたつの目 阿部完市 軽のやまめ
蜩の止めば水色ひろごりぬ 富澤赤黄男
蜻蛉の翅も水色湖国なれば 成瀬櫻桃子 素心
蝸牛角の水色吾亦紅 宮坂静生 青胡桃
衒いなき娘等水色に囀れり 宮崎敦子
角砂糖に水色の翳笹鳴す 田川飛旅子
蹴り伏せて野菊水色なる故郷 永田耕衣 吹毛集
追憶のいろは水色盆提灯 石川文子
配られて水色の飴涼しさう 都筑智子
金魚飼ふや玻璃の水色まだ寒き 富田木歩
閑庭や水いろ絞り紅注して 林原耒井 蜩
雪解けの水は水色河童橋 有元洋剛
雲海の今水色を置く夕べ 稲畑汀子
霜月の夜を水色に別れきし 秋吉世津子
霜月の菜に咲く花の水色に 廣江八重櫻
風呂敷の水色をとく遅日かな 井上雪
鳥篭を水色に塗ってさびしい 田中久美子
●緑 みどり 
α β γ 緑野の鴉 津田清子
「天緑」は咲きたり泰山木の花 渡辺恭子
あちこちで馬追い鳴いて緑の夜 和知喜八 同齢
あららぎの緑ごもりに織娘の唄 加倉井秋を 『欸乃』
ある寺の人育てたる大緑 宇佐美魚目 天地存問
いたみやまぬまなこ 萬緑も枯れてきた 吉岡禅寺洞
うつぎ咲く緑の雨や詩仙堂 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
うれいありて帽を緑蔭のごと愛す 細谷源二
おほぞらを降り来て緑蜘蛛なりし 松本陽平
おほみゆきかしこ緑蔭むかひあふ 森川暁水 淀
おほらかに緑蔭の外の照り昃り 波多野爽波 鋪道の花
おみくじは吉 古仏とわたしへ緑射す 伊丹公子 メキシコ貝
かさねあふべき肉声に緑さす 中田剛 珠樹
かもめ飛び交ふ万緑の中之島 高野清風
からし菜の湯を通したる緑かな 中村青一路
からまつの緑濡らさず走り雨 鷲谷七菜子 花寂び
がじゆまるの緑蔭ひろし貝細工 岡本まち子
きさらぎや緑控へて杉林 猪俣千代子 秘 色
きさらぎや見えざる緑野にひしめき 相馬遷子 雪嶺
きはまりて連翹の黄は緑さす 松村蒼石 雁
きりぎりす音(ね)のみに緑(あお)き妻の留守 川口重美
くらきまで緑を入れぬ壁鏡 柴田白葉女 遠い橋
くるしさや恋の下萌ほの緑 下萌 正岡子規
くるまれし島の赤子に緑立つ 山本洋子
くるみおはぎ緑雨を大事がる人と 諸角せつ子
けさの春琵琶湖緑に不二白し 今朝の春 正岡子規
こがね虫真昼は緑衣かがやかす 斎藤道子
ここのポストの親しくなりし緑したたる シヤツと雑草 栗林一石路
こぞり立つ松の緑の二十本 稲畑汀子
この位の大きさの緑の翅のある猿を 大岡頌司
この山の眠りの緑ところどころ 長谷川櫂 古志
この緑蔭みなが楽しむ木ですから 岸田稚魚 『紅葉山』
これからの緑の週のみどりとは 松田ひろむ
こんなことに泣けて緑の中にゐる 池本光子(街)
さし柳三尺にして緑ふく 柳 正岡子規
さみしくて肺を緑に染めてみる 松原秀行
されど雨されど暗緑 竹に降る 大井恒行
ざわざわと影も緑となりにけり 本山真木子
すいすいとのびて緑や梅の枝 長谷川櫂 天球
すぐにじむ春菜の緑擂鉢に 有馬朗人 天為
すねて行く緑蔭深きところまで 三好潤子
すべて地のことに緑のさやゑんどう 十河 智
その下に繙けば緑蔭の部屋 鷹羽狩行 十友
その中にへくらの海女も緑摘む 成瀬千代
ただ立てる緑の茎や曼珠沙華 岩田由美 夏安
たんぽぽの開きそめたる緑かな 永井龍男
つまさきだち緑蕚梅を嗅ぐ男 高澤良一 ももすずめ
でか山の弁慶の見得緑立つ 棚山波朗
ところどころ緑萌え立つ砂漠かな 草萌 正岡子規
とどまれば緑総身に能登羽咋 猪俣千代子 秘 色
ともに緑あの子欲しいと童唄 加倉井秋を 『隠愛』
とんぼ生れ緑の視線定まらず 白神あきら
どの鯉も泳ぎどの木も緑立つ 山田麦車
なだれ落つる著莪ことごとく緑なり 太田鴻村 穂国
なつかしやここに緑のつるでまり 稲畑汀子
なづな粥吹けば緑の茎立てり 加藤憲曠
ばくちの木大緑蔭をなせりけり 松田千代子
ぱつちりと血や万緑の中に喀き 千代田葛彦 旅人木
ひえびえと緑金ひかる薔薇の虫 飯田蛇笏 春蘭
ひそと踊る素描ニジンスキイ緑さす 小池文子 巴里蕭条
ひつじ田に三畝の緑をしぐれけり 時雨ひつじ<禾+魯> 正岡子規
ひとがみな魚となりぬ緑蔭に 嶋田麻紀
ひと一人ゐて緑蔭の入りがたき 飯島晴子
ぶつ切の鰡緑蔭へ海女運ぶ 羽部洞然
ぶな峠下りても緑賢治の径 文挟夫佐恵 雨 月
ほぐれそめしは花の緑や華鬘草 仁尾小葉
ほつほつと緑が嬉し蕗の薹 渋谷まさ江
ほとゝぎす緑のほかの色を見ず 相馬遷子 山国
ほんとうは暗緑の腸雪柳 高野ムツオ
ましづかに黄檗山の緑摘 山尾玉藻
またたびの葉の万緑をひらめかす 大橋敦子 匂 玉
まだ大樹ならざる橡も緑蔭に 稲畑汀子
みしみしとみしみしと夜の万緑 高野ムツオ
みちのくの緑は蕗の薹よりぞ 福田蓼汀 秋風挽歌
みちの辺の緑蔭にして小さけれ 高浜年尾
みどりの日緑の上に富士坐る 本間 稔
みゆきかしこ緑蔭もののひびきもなし 森川暁水 淀
もめん縫ふひとつ窓より緑さす 井上雪
やわらかき草のところの緑蔭に 上野泰 佐介
ゆりの木の花の緑盃風溢れ 山田みづえ 草譜
ゆり出だす緑の波や麻の風 惟然「菊の香」
りんご飴緑もありし夜店かな 尾関令子
れもん一つ緑の風の香に立てり 多田裕計
わがこころ万緑に開け放ちけり 石井とし夫
わがひと代木々のひと世や緑立つ 石塚友二
アスパラガス長けて緑の棒畠 高澤良一 ももすずめ
アトリエのひゞ割れ硝子緑光 右城暮石 声と声
アメリカの緑陰に身を抛りけり 依田明倫
アレキサンドリヤ緑をふかむ酷熱に 川島彷徨子 榛の木
オホツクの風万緑に吹きすさぶ 右城暮石 上下
オリーブの銀緑叢中夏帽子 福永耕二
ガイドブック手に万緑の寺めぐり 小松和子
ガラスの眼して万緑に入る男 小泉八重子
ガラス戸の緑の中に捕虜の蠅 上野泰 佐介
キャンパスの緑陰にして戦没碑 岩崎照子
キラ~と栂の緑に日短かし 前田普羅 飛騨紬
クレヨンの緑を選び花火描く 矢島 恵
ケーブルに赤子万緑従へり 野澤節子 黄 炎
ゲリラ兵この万緑にひそむとか 春田ひろ史
ゲルマンの大緑蔭に汽車入りぬ 栗坪和子
コンサートの列の後尾は緑蔭に 鈴木鷹夫 渚通り
コートの線の石灰飛び来緑蔭に 田川飛旅子 花文字
サイクリスト緑蔭に汗拭へるも 高澤良一 さざなみやつこ
サイダー飲むや全山の緑傾けて 藪宕山
ショーウインドーの手袋緑立ててをり 金箱戈止夫
ジイド好きアリサのごとく緑蔭に 高橋笛美
スイッチバックして万緑の深くなる 木村葉子
ストローに緑はしれるソーダ水 館岡沙緻
ストローを走る緑のソーダ水 吉田花宰相
ダムの水万緑へ解き放たるる 山本一歩「一楽」
テニスライン侵さぬ緑蔭恋も可憐 香西照雄 対話
バス停の人それぞれに緑蔭に 城木タネ女
ボートより釣り糸垂らす緑の日 島谷征良
マント緑に葦原邦子来りけり 鈴木栄子
マント緑美髯の首の行きにけり 八木林之介 青霞集
マンハツタン松の緑も背伸して 川崎慶子
モリアヲガエルの卵あはあは緑さす 島田麻紀
ラムネ飲む天地の緑かたむけて 竹腰八柏「火」
レース編む手が緑蔭への触角 寺井谷子
一ところ緑走れり仏手柑 中原野呂
一ツ葉の緑といへぬ黒さかな 一つ葉 正岡子規
一夜緑に遠く氷雨の中の媒酌 小泉八重子
一山の緑の暗き茅の輪かな 石田勝彦 秋興
一徹の緑存しぬ枯芭蕉 行方克己 知音
一揆の地に一歩緑雨の中へ一歩 鈴木飛鳥女
一握の緑うれしき冬夜かな 寺田寅彦
一曲りして万緑の山に入る 佐藤八山
一村は竹緑なる枯野哉 枯野 正岡子規
一水の緑蔭に入るところかな 高濱年尾 年尾句集
一湾の緑薄刃なす東風の波 耕二
一重梅緑の蕚を残しけり 松瀬青々
万歳をして緑蔭を出で来たる 坊城俊樹
万緑いま西湖を玉と抱き眠る 川崎展宏
万緑となる東京や髭伸びつつ 榎本冬一郎 眼光
万緑と我と一瞬弓を引く 今井千鶴子
万緑にあげて祝詞は言葉の祖 赤松[ケイ]子
万緑にくるぶし堅き仏たち 伊藤通明「西国」
万緑にとべばましろき鳥ならむ 平井照敏
万緑になじむ風鈴夜も昼も 蛇笏
万緑になじむ風鈴昼も夜も 飯田蛇笏「椿花集」
万緑になりゆく朝の太極拳 川崎展宏
万緑にゆだねしごとき命かな 青木重行
万緑にゐて天地の息づかひ 川口襄
万緑にラムネ奔騰させ若し 鷹羽狩行「誕生」
万緑にレーニンの禿本を読む 大木あまり 火のいろに
万緑に万の翳りやデスマスク 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
万緑に五重の塔の朱をこぼす 松本澄江
万緑に加はりてあり千枚田 嶋田摩耶子
万緑に包まれ握手掌で包む 川崎展宏
万緑に吾が眼鏡澄み吾が非力 楠本憲吉
万緑に呑まれて消ゆる人の影 安藤綾子
万緑に坐せし新聞凹みしまゝ 右城暮石 上下
万緑に塔を配して奈良を描く 山下美典
万緑に大吊橋の軋む音 山下美典
万緑に小さき生活の窓拭けり 北村佐恵子
万緑に径あり流人墓地のため 戸恒東人
万緑に抑へ込まるゝ一堂宇 高澤良一 ももすずめ
万緑に抱かれしより光る沼 稲畑汀子 汀子第三句集
万緑に抱かれて渓の音弾む 渡辺嘉幸
万緑に朴また花を消すところ 皆吉爽雨(1902-1983)
万緑に染りて命綱外す 中居梨津子
万緑に沈みし鷹の浮上待つ 矢島渚男 延年
万緑に沈む夕日の朱を見たり 福田蓼汀 秋風挽歌
万緑に浮びし長谷の舞台かな 小竹梅堂子
万緑に浸るやこの身稚魚のごと 渡辺トク
万緑に淵のしづけさ極まりぬ 岡本まち子
万緑に溶けこむ手足魚となる よこいみどり
万緑に火を打ち込みぬ登り窯 落合水尾
万緑に硬山かむろなすところ 夏秋仰星子
万緑に磐を配す立石寺 高澤良一 素抱
万緑に美男の僧を点じたる 川崎展宏「観音」
万緑に蒼ざめてをる鏡かな 上野泰 春潮
万緑に鎮もり鎖せる御影堂 川端富美子(河内野)
万緑に鐘鳴る誰の為でもなく 赤尾恵以
万緑に隠れなきかな般若窟 森田純一郎
万緑に頬ふくらませ吹く喇叭 福田蓼汀 秋風挽歌
万緑に黄に横に竹四つ目垣 上野泰 佐介
万緑のあの世この世を風来坊 大口元通
万緑のあまりに激し眩みをり 杉山岳陽 晩婚
万緑のおのれ亡き世のごときかな 岸田稚魚
万緑のくらき一隅童女仏 三品知司
万緑のこの静けさに囲まるる 阿部ひろし
万緑のしたたる谿に温泉あり 上村占魚 球磨
万緑のところどころに天の窓 山本歩禅
万緑のどこに置きてもさびしき手 山上樹実雄
万緑のなかや浮寝の鳰と鴨 中村祐子
万緑のひとつの幹へ近づきぬ 桜井博道 海上
万緑のダムや対角線の風 横川信義
万緑のトロッコ列車児を寝かす 日永田義治
万緑の一幹馬首のごと叩く 狩行
万緑の一点白き握りめし 山崎芳子
万緑の一端を食む牧の牛 柿沼昭治
万緑の一紺として四葩冴ゆ 石塚友二
万緑の一葉を毟り取りにけり 行方克巳
万緑の万物の中大仏 高浜虚子「六百五十句」
万緑の上にみどりの伊吹山 福田蓼汀 山火
万緑の中さやさやと楓あり 青邨
万緑の中に名水訪ねけり 福島五十鈴
万緑の中に胎動日々強く 合原泉
万緑の中のわが身と妻の身と 後藤比奈夫 めんない千鳥
万緑の中の一山杉の鉾 野澤節子 黄 炎
万緑の中の一点美術館 橋本榮治 麦生
万緑の中の炭焼くにほひかな 黒木久典
万緑の中はじめての喪服着る 皆吉司
万緑の中へ中へと家路かな 藤野順子
万緑の中やこぼるゝ麦の飯 萩原麦草 麦嵐
万緑の中や三井寺荒れにけり 野見山朱鳥
万緑の中や吾子の歯生え初むる 草田男
万緑の中や火の山素肌立ち 首藤基澄
万緑の中よりちぎる一葉かな 西海由美子
万緑の中より太き川出づる 加藤憲曠
万緑の中より現れて神の鳩 毛塚静枝
万緑の中学舎のはづむ声 塚本昭子
万緑の中層々と贋アカシア 橋本多佳子
万緑の中残雪の主峰峙つ 伊東宏晃
万緑の中鳳凰は釘づけに 大橋敦子 手 鞠
万緑の中鹿の目のこぼれさう 宮澤美和子
万緑の伊賀城へ鵯とび込めり 新田祐久
万緑の分水嶺に人灯す 加藤耕子
万緑の動いて風の五浦かな 福島壺春
万緑の吉野両断吉野川 右城暮石 上下
万緑の吊橋一人でも揺るる(三波石峡二句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
万緑の墨のごとしや海芋咲き 山口青邨(夏草)
万緑の声あげて「南無妙法蓮華経」かな 橋本夢道 『無類の妻』以後
万緑の天地有情や杣男(鍵谷芳春を詠む) 原裕 『葦牙』
万緑の奥のつめたき水の音 蕗村
万緑の奥より湧きぬ富士の水 山川安人
万緑の宇陀郡抜けて吉野郡 右城暮石
万緑の家に老婆が一人ゐし 右城暮石 上下
万緑の展けて海の沖の照り 枡田国市
万緑の山高らかに告(の)りたまへ 奥坂 まや
万緑の島一艘をつなぐのみ 友岡子郷 風日
万緑の底に棺桶用の樹よ 櫂未知子 蒙古斑以後
万緑の底に物音なく牧場 畠中じゆん
万緑の底に目覚めて老いゆくか 岡本差知子
万緑の底の峡の温泉一人占め 小谷渓子
万緑の底を歩きし髪湿る 森澤照子
万緑の旅のやうやく身に温泉の香 皆吉爽雨 泉声
万緑の朴がしたたる禿頭 和知喜八 同齢
万緑の森に入る目をガラスにして 正木ゆう子
万緑の水うごきをり鳴子峡 青木重行
万緑の水打つ牛飼左千夫墓(「牛飼ひが歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる」左千夫) 角川源義 『秋燕』
万緑の沢渡の湯の秋ざくら 鈴木吾亦紅
万緑の法の高野に献木す 大橋敦子 手 鞠
万緑の深さに少年暴走す 吉田裕子
万緑の深みにはまりゐたりけり 徳永球石
万緑の湖畔はなべて幹倒れ 皆吉爽雨 泉声
万緑の点となるまで車椅子 小田欣一
万緑の狭間の海や船ゆけり 藤田鶴之丞
万緑の端を白刃のやうに行く 小澤克己「雪舟」
万緑の葉先葉先の雨雫 池田澄子 たましいの話
万緑の谿へせり出す厠かな 近藤一鴻
万緑の貌から飛んで蜂来る 秋山夢
万緑の賞味期間の真つただなか 櫂未知子 貴族
万緑の道をあつめて朱唇仏 穴井太 原郷樹林
万緑の重心にゐて鳥になる 広瀬元幸
万緑の隠しきれざる火口壁 飯島正人
万緑の雨に鳥獣生れつぐ 茂恵一郎「雪座」
万緑の雫身に受く西生寺 浦井文江
万緑の風を梳きたる母の櫛 金田町子
万緑は引力窓に身を乗り出し 広渡詩乃
万緑は甲斐の峠に他ならず 萩原麦草 麦嵐
万緑へ一握の粥ふきこぼる 和泉紀恵子
万緑へ人間万歳叫びたし 松村多美
万緑へ大山太鼓とどろけり 三澤治子
万緑へ山小屋の鍵ひびかせり 渡辺桂子
万緑へ打つ鎮魂の鐘ひとつ 川井政子
万緑も窓も無傷と思ふなり 櫂未知子 蒙古斑以後
万緑や「死」に入るごとき櫓門 藤岡筑邨
万緑やおどろきやすき仔鹿ゐて 橋本多佳子「紅絲」
万緑やおぼれさうなる屋根二つ 三宅郷子
万緑やおもへばながき冬ごもり 西本一都
万緑やこけし笑まわす筆さばき 田畑はつ枝
万緑やこの世に開く柩窓 佐藤吟秋
万緑やこぼさぬやうに産湯桶 鷹羽狩行 平遠
万緑やすつと己の道が見え 小澤克己
万緑やにせアカシヤもその一樹 鈴木真砂女
万緑やのぼりきつたる男坂 林 尚子
万緑やはづしてしまひたき頭蓋 吉原文音
万緑やまず深呼吸深呼吸 長田美智子
万緑やまだ炭の香の廃れ炭窯 川村紫陽
万緑やみどり児の掌に生命線 都筑智子
万緑やわが恋川をへめぐれる 角川源義「ロダンの首」
万緑やわが掌に釘の痕もなし 誓子
万緑やわが額(ぬか)にある鉄格子 橋本多佳子(1899-1963)
万緑やイエス打ちたる釘三本 加藤耕子
万緑やバスの後退笛ひとつ 那須淳男
万緑やマリアのごとく子を抱き 日比野睦子(狩)
万緑やラインに絵巻のごと古城 関森勝夫
万緑や一塔とほき世より立つ 西川 織子
万緑や一樹吹きしぼられてをり 串上青蓑
万緑や一舟湖へ網捌く 仁科文男
万緑や一語づつ読むマタイ伝 田島佑子
万緑や不空羂索観世音 長谷川櫂 古志
万緑や主に夫に子に守られて 関藤鈴菜(惜春)
万緑や乱れ許さぬバツハの譜 吉原文音
万緑や二度呼んでひと振り返る 望月百代
万緑や人はその日の色を著て 嶋田一歩
万緑や仏間施錠す飛騨民家 津田 渡
万緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天 鳴海抄
万緑や伐折羅の喝を浴びにきし 高野途上(鷹)
万緑や出土仏は天地指す 木田千女
万緑や力をこめて鐘をつく 非文
万緑や動かぬ山の近づき来 永田耕一郎
万緑や友を焼く火も澄みたらむ 行方克己 昆虫記
万緑や古志の国より塩の道 西本一都 景色
万緑や喪服のゆるす首飾り 石川秀三郎
万緑や囚徒拓きし直線路 松本泰志
万緑や地の涯汀まで樹海 西本一都
万緑や地より剥がせし青目石 西本一都 景色
万緑や墓碑に椿花と刻まれて 上月一香
万緑や声もたてずに病む樹あり 津田清子「七重」
万緑や外から見れば暗き團居 香西照雄 対話
万緑や大きな家の毀さるる 井口公子
万緑や天狗棲むには山低き 石山佇牛
万緑や太初の言葉しづかに炎え 野見山朱鳥
万緑や嬰に会ふたびに言葉増え 馬場美雪
万緑や宇宙膨張続けるか 斉藤まさし
万緑や小諸に花鳥諷詠史 今村征一
万緑や山もろともに渡来せる 和田悟朗 法隆寺伝承
万緑や山羊のきづなも草がくれ 栗生純夫 科野路
万緑や山雨が醒ます昼の酒 石川桂郎 高蘆
万緑や岩殿城址岩あらは 伊藤哲也
万緑や巨石の孤独はじまれる 殿村莵絲子 雨 月
万緑や幹の片側波はしり 近藤一鴻
万緑や庭師に多き当麻族 つじ加代子
万緑や御座船の朱ケゆるぎ無く 岡本差知子
万緑や悲しみをもて胸充たす 殿村菟絲子
万緑や我れを忘れて汝となる 山崎十死生
万緑や抱きしめてのち納骨す 法水有里
万緑や採石山は万の傷 和泉伸好
万緑や揮毫の全紙老を乗せ 赤松[ケイ]子
万緑や撲たれしごとき身の火照り 岡本眸
万緑や旅嚢小さき翁像 松橋幸子
万緑や日月われをめぐるのみ 野見山朱鳥
万緑や木の根の湿り蹠に 原裕 葦牙
万緑や木の香失せたる仏たち 伊藤通明
万緑や木曾路はすべて山の中 今井杏太郎
万緑や杣の葬りの吹流し 西本一都 景色
万緑や校章燦と男子校 細野美代子
万緑や森の鳥語はみな愛語 藤原たかを
万緑や正午鳴り出す時計台 川崎展宏
万緑や死はもろもろの管とれて 三嶋隆英「遠海」
万緑や死は一弾を以て足る 上田五千石 田園
万緑や水につながる死者生者 加藤耕子
万緑や水攻めのあとかたもなし 片山由美子 水精
万緑や江山文庫興りし地 桑田青虎
万緑や波をつくりて紙を漉く 近藤静輔
万緑や泳ぐすがたの病臥身 稚魚
万緑や温泉あるゆゑの山の駅 石山佇牛
万緑や湖をたいらに男寝る 源鬼彦
万緑や湿り貯はふ一据石 村越化石
万緑や溢れせしもの水と恋 河野多希女 納め髪
万緑や瀬音のふかき峠道 林 宏
万緑や火の山鳴りが押しわたる 中條明
万緑や火を焚けばなにか寒さあり 斎藤空華 空華句集
万緑や火急の旅の荷を一つ 車谷知佐子
万緑や父となる子の掌の大き 平田笙子
万緑や牛飼ひの掌のひろく優し 成田千空 地霊
万緑や猿の子はもう猿の貌 山田麦車
万緑や現在位置を朱で示し 蛯子雷児
万緑や球も楽しき右往左往 香西照雄 素心
万緑や生きるためのみ口あける 対馬康子 吾亦紅
万緑や産土神のお百度石 早川翠楓
万緑や産声を待つ控室 浅見まき子
万緑や産屋の刻の移りをり 齋藤玄 飛雪
万緑や異国の仏陀金まみれ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
万緑や病者夕べも麦藁帽 上野さち子
万緑や相模・武蔵の境なく 松尾隆信
万緑や真っただ中にいる乞食 対馬康子 純情
万緑や眼鏡三つを使ひ分け 成田勝子
万緑や磔像錆の血を流す 野見山朱鳥
万緑や秘仏を照らす燭一つ 青野江津子
万緑や筋交ひ打たぬ家もなし 西本一都 景色
万緑や肥後は火の国水の国 山崎幹子
万緑や舟唄水に谺して 土屋うさ子
万緑や草田男そこに今もをり 山本富万
万緑や薩摩切子に日の返り 今泉貞鳳
万緑や血の色奔る家兎の耳 河合凱夫
万緑や血の鮮烈に殉教図 内藤吐天 鳴海抄
万緑や見上げるために山はあり 森川光郎「桔槹句集」
万緑や許せぬものも四囲に満つ 香西照雄 対話
万緑や貧者も得たる母子手帳 磯貝碧蹄館 握手
万緑や野麦峠の工女塚 巾下幸一
万緑や鈴の緒いたむ弁天堂 中村冨美子
万緑や雲に分け入る僧一人 金箱戈止夫
万緑や雲居に紛ふ太龍寺 西岡美江
万緑や青年耶馬の陶に生く 阿部みどり女
万緑や青葉城下を見はるかす 佐藤富美子
万緑や風渡り来て音もなし 塚本繁雄
万緑や高舞ふ一羽鷹と見し 米田双葉子
万緑をしぼりて噴けり間歇泉 三関浩舟
万緑をしりぞけて滝とどろけり 鷲谷七菜子(1923-)
万緑をつまみ配せしごと小島 山田弘子 こぶし坂
万緑をもつて秘したる修験道 加倉井秋を 『隠愛』
万緑をゆくうらごゑをきき覚ゆ 中田剛 珠樹
万緑を一蝶浅くめぐりゐる 阿部みどり女
万緑を下降すケーブルカーに坐し 右城暮石 上下
万緑を切り裂き吾は風となる 日高真明
万緑を吹きなびかせて雨来たる 池口美奈子
万緑を抜けし列車は蒼白に 小林 武
万緑を来て酌む木曾の七笑 加古宗也(若竹)
万緑を来る風若さは白き皿 柴田白葉女
万緑を水に活けたり竹生島 杉浦和生
万緑を統べて一等三角点 栗原稜歩
万緑を統べて神話の塔高し 稲畑廣太郎
万緑を蒐めて伊豆の岬かな 福田清人 坂鳥(附・生い立ちの記)
万緑を顧るべし山毛欅峠 石田波郷
万緑叢中 花柄の忘れ傘 守田椰子夫
万緑日本よ宣戦布告なきベトナム侵略の共犯者 橋本夢道 無類の妻
万緑暗し一石路罪なき命、召し捕らる 橋本夢道 良妻愚母
万緑無情こと切れし吾に口きく海の底 橋本夢道 無類の妻
万緑裡蹄音おこり遠ざかる 大橋敦子
三鬼の骨拾ふ肩まで緑射し 小林康治 玄霜
丹頂の紅つつましき緑の園 山口超心鬼
乳搾る児の眼ん玉の緑立つ 堀越鈴子
乳搾る緑の朝のをんなの手 西島麥南
乳母車緑蔭愛のごとつつむ 伊東宏晃
二の腕細き遺児よ万緑左右に迫り 香西照雄 素心
二十余樹大緑蔭を成せりける 星野立子
二輪草暗緑浄土広がれり 高澤良一 随笑
五千年も妊みて土偶緑さす 北川英子
五合庵緑に巻きたて落し文 竹田恭子
五月の雨岩檜葉の緑いつまでぞ 松尾芭蕉
五月祭緑のペンキすぐなくなる 田川飛旅子
五月蝿なす獣示緑的諸病末てこのいのちてふ美酒(うまき)盡せと 高橋睦郎 飲食
五月雨の竹の緑や朝のパン 碧雲居句集 大谷碧雲居
五欲しづかにあぢさゐの浅緑 ほんだゆき
井戸のみの養生所跡緑蔭に 松岡 隆
亡びたるものらこゑあげ緑樹海 矢島渚男 梟
京の風奈良の緑蔭のみ記憶 神九六
人も又鳩の目をして緑陰に 高澤良一 鳩信
人を待つ緑陰子等の声つつぬけ 寺口成美
人乗れば緑蔭の馬尾を振り出づ 阿部みどり女
人容れて緑陰さわぐひとところ 桂信子 黄 瀬
人穴に没す緑の世界より 百合山羽公 寒雁
今もあるひとつの椅子や緑さす 折井紀衣
令嬢の犬緑蔭に便催す 茨木和生 木の國
伊豆は緑岬めぐれば又岬 辻本草坡
何釣るでなく万緑を釣つてをり 岩岡 中正
余生語る緑蔭に妻坐らせて 山口いさを
使ひ捨てカメラ万緑あふれしむ 北見さとる
信濃なる峠の科の木大木いまし緑す 荻原井泉水
修司忌や詩の行間に緑さし 藤田柊車
修祓のさかき緑雨を滴らす 伊藤敬子
倒れ木は朽つるままなり万緑裡 山本歩禅
傾がり芽ぶく胡桃噴煙緑帯ぶ 宮坂静生 青胡桃
入るを許さざる緑のはげしき新 加倉井秋を
八幡様の緑陰貰ひ屋台建つ 高澤良一 寒暑
八朔や松の緑の曇りなき 片山由美子 風待月
公園の小動物園緑陰に 高濱年尾 年尾句集
公園の揺るる浮橋緑の日 鈴木良戈
公園の緑陰街騒音縦横 高澤良一 鳩信
六尺の緑枯れたる芭蕉哉 枯芭蕉 正岡子規
六甲といふ万緑を横たふる 三村純也「蜃気楼」
円屋根の緑青噴きぬ半夏生 吉田愛子
再会や緑に染まり歩み寄り 嶋田摩耶子
冬かれの紅緑も京をさらんとす 冬枯 正岡子規
冬ざるる緑青を吹く地獄門 斎藤喜信
冬草や径を緑リになしも得ず 尾崎迷堂 孤輪
冷房の窓にはるかな緑十字旗 横山白虹
冷麦の緑うす紅児に取らす 山中蛍火
凍る寂けさ緑すつすと藺を植ゑる 加藤知世子 花寂び
凍滝のうす緑なる襞の数 高濱年尾 年尾句集
凩や芭蕉の緑吹き盡す 凩 正岡子規
出羽びととひとつ緑にいて羽化す 渋谷道
刃のごとく馬立つそれからの緑雨 高橋たねを
刃を入れてメロンの涙緑なる 泉田秋硯
初冬の竹緑なり詩仙堂 鳴雪俳句集 内藤鳴雪、松浦爲王編
初釜にスカート緑濃き乙女 百合山羽公 故園
前山の緑の鬱とまつり鉾 高橋睦郎 稽古
前山の緑も雨気の田草取り 和知喜八 同齢
動くもの皆緑なり風わたる 五百木飄亭
北京の大緑蔭に歩み入る 山田みづえ
十三夜蔦の落葉の緑かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
十月の浮藻花もつ緑かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
十牛図抜け出て牛の緑蔭に 関森勝夫
千年の緑を松の自在釜 松岡青蘿
南無アジア緑と水を飛ぶ蝗 上田 玄
友木の緑たもたれて寒きさるすべり 林原耒井 蜩
口締めし磯ぎんちやくのいま緑 田中憲二郎
古写経の緑を柳かと思ふ 長谷川櫂 天球
古庭の緑蔭そこにこゝにかな 高浜年尾
古書店で本二冊買ふ紅緑忌 阪本春枝
古着売り緑蔭にひろぐ婚衣裳 藤田直子
句碑と歌碑一緑陰を分ちあふ 藤田昌愁
可惜しや万緑とざす霧峠 川畑火川
合唱の緑蔭に朝始まれり 相沢野風村
合掌す緑窓傘雨大居士に 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
吊るされて雉子は暖雨に緑なり 大野林火
名づけえぬ闇にも荒るる緑濃く地球にかなし海のあふるる 市原克敏
吹くたびに緑まさりて七日粥 小沢初江
吹降りの苗田の緑いまだなり 阿部ひろし
和服着て身のひきしまる緑の日 酒井春青
咲きみちてなほ緑がち花野かな 檜紀代
咳止みて万緑滾りゐる寝覚め 斎藤空華 空華句集
回想は遠き緑蔭の家鴨さへ 香西照雄 対話
在天の友らありあり萬緑忌 平井さち子 紅き栞
地下鉄の出口Aより緑さす 烏丸道子
地平大円緑野に細き煙一條 加藤耕子
坦々とあり緑愁の背後の水 友岡子郷 遠方
垂込めて緑あたらし盆支度 藤田湘子
城囲む植田の緑日日濃ゆく 福田蓼汀 山火
堀辰雄吾子はよみ初め緑立つ 能村登四郎
塔なす緑樹母恋ふこの場がまる見えぞ 磯貝碧蹄館 握手
塩街道ローマの松に緑立つ 木暮剛平
墨を以て大萬緑を描きたる 中杉隆世
変電所痣の如くに蔦の緑 田川飛旅子 花文字
夏の蝶翔け青歯朶の日も緑 福田蓼汀 秋風挽歌
夏山の緑うつりし小窓かな 夏山 正岡子規
夏来たり夜はカーテンの緑灯る 岸風三楼 往来
夏深し山襞緑濃き夜明 福田蓼汀 秋風挽歌
夏空読むか学の眼鏡に緑映え 香西照雄 素心
夏蜜柑の種子あつむれば薄緑 川島彷徨子 榛の木
夏蜜柑むき緑陰は二人のもの 富安風生
夕ぐれの卓の緑酒に初苺 飯田蛇笏 霊芝
夕凪や烏賊の胎児の瞳は緑 奥野曼荼羅
夕霞畑いちまいのなほ緑 福田蓼汀 山火
外灯を叩きてともす夜の緑雨 右城暮石 上下
夜の底は緑青の淵寒牡丹 塚本邦雄 甘露
夜の緑螢が示現太古めく 香西照雄 素心
夜をはなれ行く万緑の牧場かな 中田佳都美
大内の森の緑のいよよ濃し 宮成鎧南
大叔母が四人緑蔭の赤ん坊 正木ゆう子 悠
大方の緑の中や遅桜 遅桜 正岡子規
大樹寺の葵の紋に緑さす 藤瀬あや子
大神の鞍懸松や緑立つ 荒木信子
大緑蔭あり日蓮宗大本山 鈴木フジ子(海原)
大緑蔭出て鮮しき声使ふ 後藤秋邑
大緑蔭端の枝白日砕きたる 香西照雄 素心
大緑陰人・鳩・とかげ憩はしめ 高澤良一 鳩信
大緑陰雀らしきが遠く跳ね 高澤良一 素抱
大阪の緑がふるえ朝の蝉 坪内稔典
天を刺す松の緑や夏近し 行く春 正岡子規
天を航く緑濃き地に母を置き 野澤節子 遠い橋
天涯に金鯱のふたつ緑立つ 上田義子
太極拳万緑を押しそれを引く 高橋央尚(松の花)
奈良にあり鹿も我らも緑雨かな 坪内稔典
奈落めく万緑の谷蝶ただよふ 鷲谷七菜子 雨 月
女人高野の緑炎に胸つらぬかる 柴田白葉女 『夕浪』
如己堂の二畳の居間に緑さす 木暮剛平
妻も外出胸に緑の羽根など挿し 岩井野風男
妻を緑雨にいれて朝食をまつなり 阿部完市 春日朝歌
嫁が君家中を緑が走る 堀之内長一
子の墓に杉菜の緑滲む如く 平松措大
子守り子や緑ひねりて草の笛 平畑静塔
子鴉に水も緑の越の国 成田千空
孔雀啼く緑蔭深きところかな 渡利渡鳥
季節労務に海渡る日の緑の羽根 大谷利彦
学僧の戒律の額緑射す 津田清子 礼 拝
宝庫とても半ばは闇や日の万緑 香西照雄 素心
実桃秘め朝の緑蔭端揺るよ 香西照雄 対話
室生寺の塔の高さの緑雨かな 小早川恒(燕巣)
宮城の松の緑の美し國 保田白帆子
家の泉鶯ひそむ緑映す 香西照雄 対話
家蔭に蕗満つ緑の上げ潮どき 香西照雄 対話
寂として万緑の中紙魚は食ふ 楸邨
寂として緑の中の美術館 鈴木律子
寂として萬緑の中紙魚は食ふ 加藤楸邨
小春鳩頸の緑金揺り内足 香西照雄 対話
小桜の笙一管に緑射す 野澤節子
少年の顔となりたり緑さす 中村祐子
尚動く亡き子の時計万緑裡 楢崎六花
尺蠖も緑に擬する山深み 富安風生
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
山に降り海にも降りて緑雨かな 片山由美子
山の緑に染まりて鮎を釣り暮らす 太田鴻村 穂国
山中は独語も緑滴れり 辻田克巳
山桜緑こらへてゐたるなり 矢島渚男 延年
山蟻の背にたらたらと緑さす 森川光郎
山蟻や緑漂ふ五千畳 島村元句集
山鳩の死に緑さす山の樹々 三谷昭 獣身
岩礁の鵜の目緑に冬半ば 柴崎左田男
岬山の緑竹にとぶちどりかな 飯田蛇笏 霊芝
島に古る足踏みミシン緑差す 中嶋秀子
島は緑の泣き濡れ色に眼鏡橋 加倉井秋を 『真名井』
崖の石仏母の匂ひの緑ごめ 河野南畦 湖の森
布引の滝を要の緑世界 小路智壽子
帽章のきらりと緑の週来る 石田阿畏子
干梅の香の緑蔭になごむなり 松村蒼石 春霰
幹高く大緑蔭を支へたり 松本たかし
庭せばめをり緑蔭を作りをり 高木晴子 花 季
庭にして緑蔭なせば朝な立つ 皆吉爽雨 泉声
廃校に束ねし書冊緑立つ 木村蕪城
弑逆(しいぎゃく)あり流れゆく黄裳緑衣 金子兜太 詩經國風
引退にあらず緑蔭に住まふのみ 小山いたる
弟が大緑陰を取り仕切る 益永孝元
御柱邃き緑のさして立つ 西本一都 景色
復活祭泥紅緑に耕耘機 百合山羽公 寒雁
心暗し木賊の緑は更に暗し 田川飛旅子 花文字
思ふ事なき日の素顔緑さす 古賀まり子 降誕歌
恐ろしき緑の中に入りて染らん 星野立子
恩愛をとほくに緑に沈みゆく 柴田白葉女 『夕浪』
恵林寺や緑雨に光る武田菱 菅野邦子
愛鳥週間人も緑にまみれゐて 角田独峰
懺悔の座女来て緑さし渡り 小林康治 玄霜
戀うたの秘呪密教や 繁茂なす夏の緑に滴りて斬! 筑紫磐井 未定稿Σ
手話びとの青春しづか緑立つ 堀口星眠 樹の雫
抽象具象の量感万緑のまつただ中 河野多希女 彫刻の森
拝みたる大緑蔭のほとの神 石嶌岳
指呼の山あっと言ふ間に万緑に 岩谷玉枝
捨苗の緑を捨てて昇天す 百合山羽公 寒雁
据風呂に行春の月緑なり 会津八一
握手した友の手が緑をいっぱいくれた 冬木より子
摘み捨てし松の緑の長が短か 牧月耕
摩周湖にうつる万緑濃く淡く 柴田美代子
放課後の緑蔭の肺ホルン吹く 平井さち子 鷹日和
敏郎忌のうつしゑにさす緑かな 太田蛇秋
文字摺の石や緑雨に綾見たり 大橋敦子
斎の膳はうれん草の緑かな 高野素十
断梅やこのもかのもの緑蟻かな 加藤郁乎
新藁にあるなつかしき緑かな 小河原小葉
新道に緑少き柳かな 柳 正岡子規
方舟(はこぶね)で万緑の梢漂わん 中島斌雄
日が射して植田緑の美を尽くす 山口誓子 大洋
日曜日妻子緑にまぎれ了ふ 原裕 葦牙
日照雨緑陰の人書を閉ぢず 佐藤念腹
昌寿の喪デコボコ道に緑さし 岸田稚魚 筍流し
明水に緑雨止んだり初プール 百合山羽公 寒雁
春なれや猛き緑は彼岸花 岩田由美 夏安
春に問ふ緑の花はいかでなき 蘇山人俳句集 羅蘇山人
春の夜の建てゝ壊した緑の家 富澤赤黄男
春を待つひらきし地図の野は緑 上野泰 春潮
春雨や木立緑に十万家 春の雨 正岡子規
春風や苗圃の緑丈揃ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
時雨たか今朝は緑の麦門冬 随古
晩学や道緑蔭で果つるかに 香西照雄 対話
普賢岳荒惨のまま緑濃し 貪橋羊村
晴天より欅若葉の緑の聲 相馬遷子 雪嶺
暁の花咲く山の緑かな 花 正岡子規
暗きまで沼は緑や烏蝶 依田明倫
暗渠出てすぐ万緑に水染まる 前山松花
暗緑にして赤熱の鮎となれ 安井浩司「人」
暗緑の肖像画ある朝寝かな 波多野爽波 『骰子』
暗緑光あつめ流木上下動 三谷昭 獣身
曇る日々松の緑も遅々と伸び 小原菁々子
月一輪星無数空緑なり 正岡子規
有耶無耶の柳近頃緑也 夏目漱石 明治三十一年
朝シャワー浴びて緑に染まりゆく 藤崎久を
朝寒や緑透いて見ゆ障子窓 朝寒 正岡子規
朝市の山独活にして緑濃き 倉橋みちゑ
朝毎の名演奏者緑立つ 石田波郷
木の根より丸く雪融け緑みゆ 田川飛旅子 花文字
木の緑したゝる奥の宮居哉 滴る 正岡子規
木の芽和皿に取りたる緑かな 温亭句集 篠原温亭
木屋町も緑深しや御忌の鐘 畑 伝一郎
未登緑労務者の眼に秋楕円か 磯貝碧蹄館 握手
朴ならむ万緑に打つ句読点 矢島渚男 船のやうに
朴一樹もて緑蔭をなせりけり 富安風生
杉は緑南天赤きアーチ哉 寺田寅彦
杖挙げて牧の緑を司る 石田勝彦 秋興
来し迅さにて緑蔭を過ぎゆく水 幸治燕居
来迎和讃わくと緑陰人いきれ 諸角せつ子
東京の端の緑蔭炎天寺 鈴木鷹夫 大津絵
東洋へ緑のうさぎよとべとべ 阿部完市 春日朝歌
松緑の死や文字摺草の紙縒咲き 平井さち子 鷹日和
松緑は目の憩ひ処や桃花まぶし 香西照雄 素心
松葉散る松の緑の伸びにけり 正岡子規
枝蛙喜雨の緑にまぎれけり 西島麦南「人音」
枝豆のはじけ緑の夢ひとつ 松田 淑
枝豆の緑鮮やかずんだ餅 渋谷一男
枯芝に松緑なり丸の内 枯芝 正岡子規
枳殻の芽西日に透いて緑かな 五十嵐播水 播水句集
柳は緑ベレ紅と申すべし 三好達治 路上百句
柳緑せり飽食に居る君か(京都の友に) 中塚一碧樓
柴の戸にさす柊の緑かな 妻木 松瀬青々
柿の花一切緑がくれかな 松村蒼石 雁
栴檀の広き緑蔭土佐に来し 野澤節子 遠い橋
栴檀の緑陰に風立ち易し 市野沢弘子
桐落ちて椶櫚緑なる小庭哉 桐一葉 正岡子規
桑の枝に兆す緑や春疾風 久保田ヤスエ
桜貝灯台のガラス緑濃く 田川飛旅子
梅を*もぐこの世の緑身に被き 文挟夫佐恵 雨 月
梅雨の朝酸素分子も緑なり 榎本泰子
梶鞠の衣冠ただせる緑蔭に 岸風三楼 往来
森の道緑雨おもたく止みにけり 松村蒼石 雪
椅子ひとつあらば緑蔭いかによき 沢 聰
椅子一つあらば緑蔭いかによき 沢 聰
植ゑし藺の緑のうねり海明けくる 加藤知世子
椿落ちて万緑叢中一朱唇 楠本憲吉
楷の樹の緑蔭に仁説きにけり 小島健 木の実
楸邨てふ大緑蔭のもうあらず 脇 祥一
楸邨を待ちつづく椅子緑蔭に 熊谷愛子
楽果てたり帰去来緑蔭を 大橋宵火
樅は北方人万緑にこの黒さ 村上冬燕
樗牛の墓緑蔭海を遥かにす 村山古郷
橄欖の実 棚で緑光 港の路地 伊丹公子 機内楽
橋揺れてきて万緑の揺れはじむ 古館曹人
欝緑といふべし島の水際まで 篠原梵 雨
次の旅物色しをり緑の日 高澤良一 素抱
歩みだす万緑といふ枷の中 櫂未知子 蒙古斑
死の肯定万緑のなか水激ぎつ 鈴木しづ子
死語の世に生きおれば緑の繭匂う 斎藤愼爾 夏への扉
母の日に奉仕緑のゴムたはし 百合山羽公 寒雁
母の日の緑雨いちにち母に近く 野澤節子 黄 炎
母は死ねりと緑蔭に来て己に告ぐ 有働亨 汐路
母子合唱つぎの緑蔭つぎの節 中戸川朝人 残心
母子合唱緑蔭も声の一ト炎 中戸川朝人 残心
毛蟲焼く萬緑曇りそめにけり 西島麥南
気がつきし瞳に緑葉や日射病 中村狭野
水の中まで緑蔭のありにけり 藤松遊子
水仙の葱緑の二タ分れかな 菅原師竹句集
水底に緑蔭深く重ねあり 高木石子
水枕に櫂の音ある緑夜かな 大島雄作
水浴に緑光さしぬふくらはぎ 飯田蛇笏 春蘭
水無月の須磨の緑を御らんぜよ 水無月 正岡子規
水草のうすき緑のふるへつゝ 岸風三楼 往来
水草の緑走りし水の中 高濱年尾 年尾句集
水軍の島万緑に盛りあがり 西村旅翠
氷仙や花の次がざる緑伸ぶ 林原耒井 蜩
汐越の松にしたたる緑雨かな 西畠 匙
汚れなき緑の山気摩耶詣 桑田永子
江の島の緑につゞく日傘かな 島村元句集
江南の万緑釦一つ外す 川崎展宏
江東に緑の早き柳哉 柳 正岡子規
池童子二ン月緑さしにけり 永田耕衣 葱室
泊船の一つ緑に冬灯 高澤良一 素抱
洋芹の緑かたまり冬隣 古賀まり子
洗ひ髪夜も緑なす雨降れり 嶋田麻紀
流鏑馬に雨の上りし緑立つ 後藤比奈夫
浅間燃え春天緑なるばかり 前田普羅 春寒浅間山
海の藍ざぼんの緑赤とんぼ 三好達治 路上百句
海よりも野山に降りてこそ緑雨 檜紀代「木染月」
海を俯瞰緑の谷に牛の群 田川飛旅子 花文字
海境なし万緑の志摩と伊勢 百合山羽公 寒雁
海苔*ひびの薄緑にもひろがれり 八木林之介 青霞集
涼しさの動く野山の緑かな 涼し 正岡子規
淡雪の窓辺フルーツパフェに緑 栃倉千江子
深は新なりと大緑蔭をなす 中杉隆世
深吉野は深き万緑無音界 梅本幸子
清晨や先師の句碑に緑さし 伊東宏晃
清水飲む山の緑を傾けて 森内定子
温室出でて緑雨浴びたき旅人木 大島民郎
渺々と緑つらなる柳哉 柳 正岡子規
湖いでてすぐ緑蔭の釧路川 水原秋桜子
湖心透る空緑なり木の実植う 河東碧梧桐
湖深く大暑の緑澄みにけり 鷲谷七菜子 花寂び
湯あみせし如く句碑あり緑蔭に 星野立子
満園の緑や薔薇二三輪 薔薇 正岡子規
満目の緑に坐る主かな 高浜虚子
満目の緑やむせぶほととぎす 相馬遷子 雪嶺
濁世なれども万緑の山河あり 見田英子
濡れそぼつ松の緑やはたたがみ 会津八一
火の山の裾万緑に道はあり 上村占魚 球磨
火山へかけ緑の地なりわらび籠 村越化石 山國抄
炉塞ぎて庭へ出て見る空緑 炉塞 正岡子規
炊き上げてうすき緑や嫁菜飯 杉田久女
炎天に鹿沼麻緑蔭に鹿沼土 西本一都 景色
炎天の高みの黝む緑樹帯 飯田蛇笏 椿花集
焦げくさき雉子の二声緑立つ 福永耕二
煤の沖梅雨緑なる雷火立つ 小林康治 玄霜
熊笹の緑にのこる枯の哉 枯野 正岡子規
熔岩を緑光はしり蝶を誘い 大井雅人 龍岡村
燈を消して冬は緑青色の闇 野澤節子 遠い橋
燕麦の滞りなき薄緑 京極杞陽 くくたち下巻
爪先まで憩う緑陰札所かな 宮田頼行
父のこといち~問はれ緑蔭に 森田峠 避暑散歩
父の愛うすく緑蔭にきて跼む 成瀬櫻桃子 風色
牛乳を飲む万緑に負けぬやう 辻美奈子
物語めき緑蔭に馬車とまる 成瀬正とし 星月夜
犬のいない犬鳴峠という緑陰 鮫島康子
犬の眼の緑に光る櫻の夜 山口誓子 青銅
犬を撫づ島の緑蔭にごるまで 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
狼煙一発万緑の山動きけり 玉川リヨ
猫柳緑金に炎え児の時間 佐藤鬼房
獄中の爪書き「母よ」緑さす 岩崎波久
獣の糞緑に和む深山中 村越化石
玉虫に山の緑の走りけり 中西夕紀
玉虫に眠りの繁み緑濃き 原裕 青垣
玻璃に緑陽がしたたらし湯舟干す 宮坂静生 青胡桃
琴弾けば緑蔭深くむせぶ声 水原秋櫻子
瓜噛むや四方の緑に咽びつゝ 東洋城千句
田を植ゑて森の緑を古びさす 相馬遷子 雪嶺
田楽に塗りつけてある緑かな 長谷川櫂
甲冑の緑光りに冬の蝿 本井 英
畑ものの緑さまざまみな央高 香西照雄 対話
異邦人見る眼も死ねり緑蔭老 林翔 和紙
疾走す緑の髪の青嵐 高澤晶子 復活
病みし馬緑蔭深く曳きゆけり 澁谷道
病院は緑陰ナースは白き風 高澤良一 随笑
癆咳の娘がレース編む緑雨かな 西島麦南 人音
癇の虫冬も緑の草ありて 中尾寿美子
登れども登れども万緑界を出でず 福田蓼汀 秋風挽歌
登緑樹となりて樹医くる松手入 八牧美喜子
白き素顔が涼点頬に緑映え 香西照雄 素心
白き花ばかり目につく緑雨かな 長谷川智弥子
白焔の縁の緑や冬日燃ゆ 松本たかし
白玉享ける石の童顔緑の星 成田千空 地霊
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白緑の蛇身にて尚惑ふなり 飯島晴子
白蓮の固き蕾の緑かな 成瀬正とし 星月夜
白藤の蕾はうすき~緑 佐野青陽人 天の川
白雲を出る日仰ぎつ緑蔭に 草田男
盆栽の松に緑蔭ありにけり 吉田トヨ
目つむれど尚万緑の中に在り 森田幸夫
目つむれば睡魔ふとくる緑蔭に 稲畑汀子
直系一孫緑の羽根の緑立つ 百合山羽公 寒雁
相国寺緑を摘むに命綱 香西信子
眠りをり大緑陰の嬰の足 幸田豊秀
眼の底へひんやり緑滴れり 吉原文音
眼鏡に落つ雨滴しばらく緑ため 桜井博道 海上
瞑目の裡にも緑雨みなぎりぬ 三宮たか志
矢放たれ万緑に吸ひこまれゆく 今井千鶴子
石鼎の句碑万緑の要なす 佐藤夫雨子
破れさうになる時芭蕉緑はなつ 知世子
破風赤く風緑なり寛永寺 薫風 正岡子規
確かなる小さき緑貝割菜 草本 美沙
祓い塩白し万緑おしひらき 長谷川かな女 花 季
神さびて大緑蔭に宮居あり 星野立子
神のため緑をさはに冬菜畑 片山由美子 風待月
秋いまだ大緑蔭と申すべく 田中裕明 先生から手紙
秋烏賊の目の緑なす朝の糶 桂樟蹊子
秋立つや緑新たに金魚の藻 林原耒井 蜩
秘緑俗人なく我等聴いてをる西吹き 梅林句屑 喜谷六花
移動せむと緑蔭はまたうごめきぬ 永田耕衣 吹毛集
稲刈つて畦は緑に十文字 高野素十
稲妻の緑釉を浴ぶ野の果に 黒田杏子 木の椅子
積善の門どつしりと緑立つ 松浦敬親
穴出でし蛇も緑ぞ化粧坂 今福心太
空は五月 海底に立つ暗緑の富士 みごもりを知らぬ男ら 小野興二郎
空気まで色つきさうな緑の日 大谷 栄子
突き上げて仔鹿乳呑む緑の森 西東三鬼
立つや緑命も捨てぬ松の千代 椎本才麿
竹をもて一緑蔭をなすところ 綾部仁喜 寒木
竹生島万緑太りしてゐたり 久染康子
竹緑を踏みわる猫の思ひかな 子規
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
笹鳴や新藁かわく薄緑 碧雲居句集 大谷碧雲居
笹鳴や椿緑り葉篠の中 尾崎迷堂 孤輪
筍の竹になる四方の緑かな 渡辺水巴 白日
箒目を緑雨撫でゆく曽良忌かな 明田ゆき子
簾捲けは山緑なり鮎膾 鮎 正岡子規
糸滝の緑釉の壺大いなる 伊藤敬子
紅緑忌他門の人も来て待てり 右田秀道
純色の緑の山に虹かかる 相馬遷子 雪嶺
紙人形位置定まりて緑の夜 村越化石
素読とは大緑蔭にひびきけり 田中裕明
素通りす魂とられさうな緑蔭は 市野沢弘子
紫陽花や紫尽きて浅緑 紫陽花 正岡子規
紫陽花や緑にきまる秋の雨 秋雨 正岡子規
緑ありて守武の忌を修しけり 高濱虚子
緑からさまざまとして落葉かな 野澤凡兆
緑さしわが揺りかごの五能線 成田千空「忘年」
緑さすと聞けばかなしき五月来ぬ 石野兌
緑さすへくそかづらののぼりかけ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
緑さすやからから熱き骨ひらふ 皆川白陀
緑さすや君と別るゝための黙 小林康治
緑さすや鏡中のわが白髪も 皆川白陀
緑さすモデルルームの自動ドア 高田敬子
緑さす三鬼波郷の亡き後も 小林康治
緑さす下に少年地図ひろげ 大高 翔
緑さす仰臥の夫の髭剃れば 石田あき子 見舞籠
緑さす厨を今も手離せず 横山房子
緑さす唐三彩の壷の口 松井千鶴子
緑さす富貴寺の面取り柱かな 高澤良一 寒暑
緑さす山廬を守りて子ら遠き 和田 和子
緑さす扉を少し開け祈りをり 古賀まり子
緑さす旅墓に逢ひ牛に遇ひ 鷲谷七菜子 花寂び
緑さす春夫旧居の春夫の座 片山由美子「天弓」
緑さす書見器隠り夫睡れり 石田あき子 見舞籠
緑さす未完の畫布の夫に會ふ 石田あき子 見舞籠
緑さす机の角に蚤殺す 百合山羽公 寒雁
緑さす松や金欲し命欲し 石橋秀野
緑さす漬物桶にひざまづく 野沢節子
緑さす白洲を湖とし野外能 大石悦子 群萌
緑さす窓を雨滴の徒競走 高澤良一 素抱
緑さす籐編み籠に籐の鳥 高澤良一 ぱらりとせ
緑さす胸ふれられて軽くなる 二村典子
緑さす薄粥を花のごと餘す 小林康治 玄霜
緑さす階聖歌隊昇らしめ 石田波郷「春嵐」
緑さす鴻山妖怪財布かな 高澤良一 燕音
緑てふ濡れ色にある枝蛙 河野雪嶺
緑なす松や金欲し命欲し 石橋秀野(1909-47)
緑なす都市や獣の匂ひせる 長谷川照子
緑のなか胸ふくらます若さと風 古沢太穂 古沢太穂句集
緑の中東海道線酷使さる 茨木和生 木の國
緑の夜いのち明りを吹き消せり 能村研三
緑の森ぬらして雨の移転以後(横浜郊外・大倉山へ移転二句) 河野南畦 『風の岬』
緑の羽根さして彼岸の餅黄なり 百合山羽公 寒雁
緑の羽根少女に胸を貸し恥ぢらふ 吉田北舟子
緑の羽根心音奏づ上に挿す 本多静江
緑の羽根胸に日曜看護婦たり 松山昌子
緑の羽根黄口童子に呼ばれ買ふ 百合山羽公 寒雁
緑の肉詰まる松笠子の遺骨 香西照雄 素心
緑の週母校に残る大樹かな 岡部名保子
緑の週間きのふもけふも街は雨 岡田日郎
緑の週間ボーイスカウト禿山に 加古宗也
緑の週間始まり雨に奔る川 皆川盤水
緑の頭に亀甲の罅土筆たち 田川飛旅子
緑ふかく未知の行方の栗大樹 赤城さかえ句集
緑ゆえ開かずにおく落し文 高橋将夫
緑ゆく自転車かごにパイ・ミルク 上田日差子
緑ゆらめきて井泉水忌とこそ言わめ 伊沢元美
緑ゆるがす風ばかりなる天城越え 桂信子 花寂び 以後
緑ゆ萬緑答案絶え間なく生まれ 宮坂静生 雹
緑わく夏山陰の泉かな 蓼太「蓼太句集三編」
緑一新の巨松や朝の桜侍す 香西照雄 素心
緑亀はびこる池の暑さかな 高澤良一 素抱
緑伸ぶ散り敷く花と咲く花と 林原耒井 蜩
緑側に出て髪とかす薄暑かな 大場白水郎 散木集
緑光に射られのけぞる理髪椅子 柴田白葉女 花寂び 以後
緑光の白鳥となれ婚儀服 文挟夫佐恵 雨 月
緑児の眼あけて居るや田植雲 前田普羅
緑十重二十重の滝の落つるなり 井上康明(白露)
緑噴きあげし山脈妻になれず 寺田京子 日の鷹
緑増す景に御陵も網戸越 亀井糸游
緑夜漂う方舟見えてわたし見えて 中北綾子
緑子の凧あげながらこけにけり 正岡子規
緑射す神将の剱両刃 津田清子 礼 拝
緑山中かなしきことによくねむる 森澄雄
緑山中一瀑神の一糸とも 野澤節子 遠い橋
緑山中翁と曾良のはなしかな 佐藤美恵子
緑山中魂といふそよぐもの 加藤耕子
緑愁にからまれている白昼夢 高橋三樹雄
緑愁の日記は白いままつづく 高橋三樹雄
緑愁の目がくらければ眼鏡拭く 小松崎爽青
緑愁や少し離れて司書も立つ 友岡子郷 日の径
緑拭きて楓の花を塵とせず 及川貞
緑摘む下にひろがり潦 本山邑多
緑摘む今日も総出の修道士 景山筍吉
緑星金の純粋紛れなし 高屋窓秋
緑樹からたつのおとしご六おとした 阿部完市 春日朝歌
緑樹というか海辺の草に妻 金子兜太
緑樹より翼がのぞく子と立てば 原裕 葦牙
緑樹炎え割烹室に菓子焼かる 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑樹炎え日は金粉を吐き止まず 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑泉に老の手浸す沁むことょ 山口草堂
緑涼し沙彌がくみ来る出ながれ茶 河野静雲 閻魔
緑濃きリボンを揺らす花胡桃 羽根田邦子
緑濃き原爆の日の地の起伏 松浦敬親
緑濃き子の日の小松打ちながむ 飯田蛇笏 山廬集
緑濃き朝の雨降る父の日よ 菖蒲あや
緑濃き母校はいまも女の園 楠節子
緑濃き海を見出でて揚羽ゆく 百合山羽公 故園
緑濃き玉繭供へ秩父祭 大村峰子
緑濃く冬木の梛となりにけり 渡辺政子
緑濃し白根の雪に漕ぎ出づる 太田鴻村 穂国
緑炎の星屑咥へはぐれ雁 小枝秀穂女
緑牡丹年年小さく故園恋ふ 黄川田美千穂
緑眼の蟷螂生身の斧をあげ 福田蓼汀 秋風挽歌
緑眼もて生るる蜻蛉法の山 岡部六弥太
緑秩父枝桑を切り川を見す 和知喜八 同齢
緑立つ乱立せりと云ふ如し 相生垣瓜人
緑立つ二重橋前駅に降り 布施まさ子
緑立つ塩田跡の小学校 江見悦子
緑立つ寂光院の炎上す 梶山千鶴子
緑立つ故人に物を問へとこそ 神尾久美子 桐の木以後
緑立つ日々を癒えたし母のため 古賀まり子 洗 禮
緑立つ明治憲法草せし地 高澤良一 素抱
緑立つ松に雨降り時国家 細川加賀 生身魂
緑立つ母・姉・義兄よ長暇 村越化石
緑立つ西にみづみづしき筑紫 神尾久美子
緑立つ風丹頂のうなじ打つ 清水基吉
緑竹の猗々たり霏々と雪の降る 夏目漱石 漱石俳句集
緑縁を出て雲水の青頭 石塚友二 光塵
緑萌ゆ岩にいのちを与へつつ 雨宮抱星
緑萼梅ときに潮風尖りくる 尾崎よしゑ
緑葉噛んで酒すするなり山の人 金子兜太
緑蔭で会ひし大原女まだ少女 坂根白風子
緑蔭で空にゆきたい子供たち 湊楊一郎
緑蔭といふもののある星に住む 村松紅花
緑蔭といふ奥の間のありにけり 中島たけ子
緑蔭といふ悲しくも深きもの 高橋謙次郎(俳句)
緑蔭に*どをつり下げし百姓家 高野素十
緑蔭にあり美しき膝小僧 加古宗也「八ッ面山」
緑蔭にあるかも知れぬ盗聴器 工藤克巳
緑蔭にいのちいたはる膝そろへ 林翔 和紙
緑蔭におく冬帽の汗のあと 細見綾子 花寂び
緑蔭にかくるゝ如くゐてひろし 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
緑蔭にきて跼む人をおもへばや 成瀬桜桃子 風色
緑蔭にきのふ別れし如話す 今橋真理子
緑蔭にころがつてゐる根株かな 鈴木貞雄
緑蔭にして乞はれたる煙草の火 敦
緑蔭にして睡蓮の紅濃ゆし 岸風三楼 往来
緑蔭にして脚しろくほそき椅子 木下夕爾
緑蔭にして額の花かすかなり 高濱年尾 年尾句集
緑蔭にて「何歳ですか」「忘れたよ」 工藤克巳
緑蔭にひとりの刻を欲りて来し 松井正千代
緑蔭にひろげし地図をかこみけり 柏井古村
緑蔭にまどろむ兵の皆仏 鈴鹿野風呂 浜木綿
緑蔭にみな井戸のある村の家 冨田みのる
緑蔭にむかへり鼻の汗しろき 太田鴻村 穂国
緑蔭にゐて靴磨あぶれたり 鷹女
緑蔭にゐるがその子の母らしく 上村占魚 球磨
緑蔭にトランペットを吹く少女 三浦辰郎
緑蔭にトルソーの胸豊かなり 山下ミドリ
緑蔭にバスの半身乗り入るる 黒木豊子
緑蔭にボートの順を待ちゐたり 高濱年尾 年尾句集
緑蔭にルソーの猿を呼んでをり 文挟夫佐恵 遠い橋
緑蔭に三人の老婆わらへりき 西東三鬼
緑蔭に並ぶ義仲巴塚 大石英子
緑蔭に会釈鷹揚老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に佇ちて一樹の声を聞く 桑原光代
緑蔭に低唱「リンデン・バウム」と云ふ 上田五千石 田園
緑蔭に入りし頭髪火の如し 谷野予志(天狼)
緑蔭に入りて楡とはやさしき名 石田勝彦 秋興
緑蔭に入りゆく息を整へり 市野沢弘子
緑蔭に入りゆく旅終へし如 上崎暮潮
緑蔭に入り兎めく少年よ 鈴木方子
緑蔭に入り緑蔭の外を見る 恒藤滋生
緑蔭に出雲訛も親しかり 鈴鹿野風呂 浜木綿
緑蔭に大き異国の乳母車 藤本朋子
緑蔭に子とをり登つてみせたくなりぬ 篠原梵 雨
緑蔭に小さな出口ありにけり 岩淵喜代子 硝子の仲間
緑蔭に干すTシャツの文字は愛 行方素芳
緑蔭に待てば静かに歩みくる 後藤夜半 底紅
緑蔭に徹夜行軍の身を倒す 相馬遷子 山国
緑蔭に心のみふとたぢどまる 篠原梵 雨
緑蔭に憩ふは遠く行かんため 山口波津女「良人」
緑蔭に憩ふや六腑浄らかに 吉田未灰
緑蔭に憩ふ方(まさ)しくお蔭様 辻田克巳
緑蔭に拾ふ日の斑と約束と 上田日差子
緑蔭に教へ子美貌なるがよし 楠節子
緑蔭に智光燈籠朱文字なる 西本一都 景色
緑蔭に書き訓へ聖家族めく 高橋睦郎 舊句帖
緑蔭に木の股ありて憩ふべく 高濱年尾 年尾句集
緑蔭に染まるばかりに歩くなり 星野立子
緑蔭に椅子あり小樽運河あり 鈴木鷹夫 風の祭
緑蔭に椅子空けておく季羊の忌 吉田亜司
緑蔭に母を待たせてポストまで 池村 惇子
緑蔭に毛沢東の父母の墓 日原傳
緑蔭に浸り由布姫をあはれがる 西本一都 景色
緑蔭に深く沈める祠かな 湯浅典男
緑蔭に無の樫の顔満つるなり 永田耕衣 悪霊
緑蔭に無人の水位観測所 片山由美子 水精
緑蔭に男は優しき潜水艦 夏石番矢
緑蔭に目つむれりよき夫たるや 成瀬桜桃子 風色
緑蔭に盲導犬の気を抜かず 志摩陽子
緑蔭に盲目の感澄しけり 長谷川かな女 雨 月
緑蔭に相寄り志士の墓なりけり 岸風三楼 往来
緑蔭に眼帯の娘をけふも見し 麦南
緑蔭に眼帯の子をけふも見し 西島麦南
緑蔭に眼鏡キラリと老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に石割る鑿の火を放つ 小林洋正
緑蔭に祝女の挿したる蛇の櫛 沢木欣一
緑蔭に縦縞荒く乳房秘め 池内友次郎
緑蔭に置かれて空の乳母車 昌治
緑蔭に美貌やすませゐたりけり 上田五千石 田園
緑蔭に聖者のごとくをられけり 岩岡中正(ホトトギス)
緑蔭に聲ごゑそろふ問答書(どちりいな) 筑紫磐井 婆伽梵
緑蔭に背伸びして見る紙芝居 石川文子
緑蔭に脱ぎ揃へある草履かな 岸風三楼 往来
緑蔭に膝もて余す女かな 右城暮石
緑蔭に自転車止めて賭将棋 吉屋信子
緑蔭に舫ひし如く木のベンチ 行方克巳
緑蔭に若人嫉妬老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に菊水の紋散らしあり 竹中弘明
緑蔭に藻揺れのごとき日向あり 千代田葛彦
緑蔭に蟻殺す童を見て憩ふ 西島麦南 人音
緑蔭に衣脱ぎおとす磧の温泉 山崎冨美子
緑蔭に語りはじめし宇治拾遺 筑紫磐井 野干
緑蔭に読みくたびれし指栞 辻田克巳
緑蔭に読みて天金をこぼしける 誓子
緑蔭に豚肉切り分く目分量 関森勝夫
緑蔭に赤子一粒おかれたり 沢木欣一 往還
緑蔭に身を包みゐて孤なりけり 河野多希女 両手は湖
緑蔭に銭乞ふことを恥とせず 橋本美代子
緑蔭に集ひて心ひとつにす 木原美寿子
緑蔭に顔くらくなり駕着きぬ 山口波津女 良人
緑蔭に顔さし入れて話しをり 橋本鶏二
緑蔭に風のささやき聞こえけり 角皆美代子
緑蔭に飛ばず歩まず千羽鶴 有泉七種「季」
緑蔭に黒猫の目のかつと金 茅舎
緑蔭の「石狩挽歌」碑を唄ふ 伊東よし子
緑蔭のいづみの草にしづむ花 石原舟月 山鵲
緑蔭のかの友にこの友にあふ 大橋櫻坡子
緑蔭のふかければ蝶ゆるやかに 風三楼
緑蔭のわが入るときに動くなり 耕衣
緑蔭のをとこ起つをんな眼のみひらく 中島斌男
緑蔭のベンチあそこが空いてをり 高澤良一 さざなみやつこ
緑蔭のメビウスの輪のひとめぐり 藤本草四郎
緑蔭の一人一人の持つ母国 依田明倫
緑蔭の不如歸(ふじょき)に泣ける御母上様(おかあさま) 筑紫磐井 婆伽梵
緑蔭の中に扉の小さく在り 今橋眞理子
緑蔭の人の目濁り牛角力 殿村莵絲子
緑蔭の人の隣に立ちにけり 綾部仁喜 寒木
緑蔭の人もをらぬに香時計 田中裕明 花間一壺
緑蔭の人去りてより夕長し 後藤夜半 底紅
緑蔭の写真くらくてわれに似ず 相馬遷子 山国
緑蔭の冬の日に似るレストラン 京極杞陽 くくたち上巻
緑蔭の受附暗き名を記す 村上朱楼
緑蔭の園のまはりの道太し 上村占魚 球磨
緑蔭の埴輪にこにこ人を待つ 塩崎翠羊
緑蔭の大きな下の靴磨き 上野泰 佐介
緑蔭の大き目の皿深目の鉢 後藤夜半
緑蔭の大地波打ち幹立てり 池内友次郎
緑蔭の奥かがやきて泉湧く 内藤吐天 鳴海抄
緑蔭の奥処へ垂らす能衣裳 加藤耕子
緑蔭の嬰の夢ごと渡さるる 安田晃子
緑蔭の幹に人入り幹となり 上野泰 春潮
緑蔭の広さは人の散る広さ 稲畑汀子 汀子句集
緑蔭の思はぬ暗さありにけり 清水真紀子
緑蔭の恋うつくしと見て過ぎぬ 岸風三楼 往来
緑蔭の恋のベンチは見ぬがよし 稲垣きくの 黄 瀬
緑蔭の戸毎に朝のミルクあり 辰之助
緑蔭の斑は母子像の母にさす 鷹羽狩行
緑蔭の日の斑を踏めば貝の音 岩淵喜代子 硝子の仲間
緑蔭の昼餉を蚋が侘しうす 竹中九十九樹
緑蔭の昼餉セロリに指濡らす 有働 亨
緑蔭の椅子に安穏老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭の椅子人生長く倦みにけり 木下夕爾
緑蔭の水辺明るきピサロの絵 藤本 保太
緑蔭の洩れ日を蟻が輝き過ぐ 内藤吐天 鳴海抄
緑蔭の海よりしづかなる憩ひ 富安風生
緑蔭の深き紫なすあたり 相生垣瓜人 微茫集
緑蔭の深ければ濃き堆朱盆 鍵和田[ゆう]子 浮標
緑蔭の濃きを選りては揚羽過ぐ 桂信子 花寂び 以後
緑蔭の濃みどり未生以前の父母 松井利彦
緑蔭の濃淡抜けてわが身なる 河野多希女 月沙漠
緑蔭の男女の間の紙袋 鈴木貞雄
緑蔭の石截るひびき繰りかへし 青畝
緑蔭の砥石に水を伸ばしをり 伊藤てい子(*ろうかん)
緑蔭の磴の高さを先づ仰ぎ 稲畑汀子 春光
緑蔭の網目の空よ男同志 綾子
緑蔭の老婆やさしき水間寺 小寺正三
緑蔭の言葉の円さ風来る 飯田龍太
緑蔭の言葉や熱せずあたたかく 中村草田男「銀河依然」
緑蔭の読書深まり人嫌ふ 山本一糸
緑蔭の赤子の欠伸母にうつりぬ 大野林火
緑蔭の走り根に葬終へし人 鵜飼みね
緑蔭の道平らかに続きけり 高浜虚子
緑蔭の野球の球が緑蔭ヘ 鈴木洋々子
緑蔭の風さそひだす研師かな 十川陽子
緑蔭の風少女等はそよぐかに 加藤耕子
緑蔭の風朝刊に蟻おとす 福田甲子雄
緑蔭はなけれど遠き樹海あり 後藤夜半 底紅
緑蔭は人に譲りて戻りけり 山田みづえ
緑蔭は胎のなかまで静かなり 布川武男
緑蔭は詩人の個室風通ふ 小澤克己
緑蔭へ日向の匂ひついて来し 西元貢
緑蔭へ獣語あふれてきて解ける 大西泰世 世紀末の小町
緑蔭へ鳥の死骸を引き寄する 対馬康子 吾亦紅
緑蔭へ鳰をながせる瀬のきほひ 瀧春一 菜園
緑蔭まで麦生の明かさ逢引す 宮坂静生 雹
緑蔭やあるときの君うつくしく 藤後左右
緑蔭やうすはかげろふ漣を追ふ 飯田蛇笏 霊芝
緑蔭やこころにまとふ水の音 木下夕爾
緑蔭やしっぽも眠る犬の昼 吉原文音
緑蔭やなほ卓うつすべく広く 汀女
緑蔭やにべもなき犬いつそ雄々し 平井さち子 完流
緑蔭やひとつふたつは骸なし 久保純夫 熊野集
緑蔭やわが名刻める犬の首輪 瀧春一 菜園
緑蔭やアルキメデスの話など 野木桃花
緑蔭やグレコローマの琴に紋 加藤耕子
緑蔭やボクサー放棄せし男 対馬康子 吾亦紅
緑蔭やラジオながらも琴もれて 波郷
緑蔭や人の時計をのぞき去る 高浜虚子
緑蔭や人待つとなく鐘のそば 岩田由美 夏安
緑蔭や人生時に憩ふべし 高田風人子「明易し」
緑蔭や光るバスから光る母 香西照雄「対話」
緑蔭や少女のひらく文庫本 岡本昌三
緑蔭や少年兜虫を殺し 岸風三楼 往来
緑蔭や彩を極めて深山蝶 東洋城千句
緑蔭や旅人十人容れ余り 近藤一鴻
緑蔭や時には蟻の降つて来て 深見けん二 日月
緑蔭や枝にまたがり足垂るる 林火
緑蔭や母の力のにぎりめし 関森勝夫
緑蔭や泣く子に母の現れて 上村占魚 球磨
緑蔭や渚につなぐヨットあり 秋櫻子
緑蔭や熟寝子も亦神のもの 野村羊声
緑蔭や白き表紙に白き蝶 鍵和田[ゆう]子 未来図
緑蔭や白鳥遠く去りてあり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
緑蔭や眼鏡光りてこちを見る 高浜虚子
緑蔭や矢を獲ては鳴る白き的 竹下しづの女句文集 昭和十年
緑蔭や石にも石の機嫌あり 岡野洞之(早春)
緑蔭や石の情に腰下ろす 引田逸牛
緑蔭や紙屑籠と紙屑と 波多野爽波 鋪道の花
緑蔭や老の話に齟齬多き 松島利夫
緑蔭や蝶きて蜥蜴走つたり 岸風三楼 往来
緑蔭や蝶の白さのただならぬ 春一
緑蔭や蝶明らかに人幽か 松本たかし
緑蔭や読譜乙女の指躍り 岡田貞峰
緑蔭より緑蔭に入る風の径 柴田白葉女
緑蔭より緑蔭より人きたる 津根元潮
緑蔭をよろこびの影すぎしのみ 龍太
緑蔭をよろこびの影過ぎしのみ 飯田龍太
緑蔭を出づる黄の騎手赤の騎手 森田峠 避暑散歩
緑蔭を出てかくれなきわが身かな 佐藤脩一
緑蔭を出てたちむかふ嶺は白根 大橋櫻坡子 雨月
緑蔭を出て仕事着の紺しるし 香西照雄 対話
緑蔭を出でてふたたび老夫婦 長谷川双魚 『風形』
緑蔭を出れば明るし芥子は実に 高浜虚子「虚子全集」
緑蔭を去る新聞をポケツトに 長谷川素逝
緑蔭を大きな部屋として使ふ 岩淵喜代子「硝子の仲間」
緑蔭を幹がもつとも歓べり 綾部仁喜 寒木
緑蔭を彼方の人も立つところ 高澤良一 ももすずめ
緑蔭を来しつめたさの耳飾り 胡倉和江
緑蔭を来し冷たさの耳飾り 朝倉和江
緑蔭を流れ出て来る水迅し 立子
緑蔭を疾き運転手睡いといふ 原田種茅 径
緑蔭を看護婦がゆき死神がゆく 石田波郷
緑蔭を襖のうしろにも感ず 富安風生
緑蔭を見所としたり能を舞ふ 加藤三七子
緑蔭を走り出し子が蝶を追ふ 高濱年尾 年尾句集
緑蔭を過ぐるに空の薄雲が 松瀬青々
緑蔭踏みしだく山靴は大甲虫 宮津昭彦
緑談のとんとんすすみ夏料理 鈴木伊都子
緑談や蜂の集まる石蕗の花 須永トシ
緑身佛眼を白抜きに涅槃吹 中戸川朝人 尋声
緑野ふかく来て白昼を眠りけり 北原志満子
緑金の歯朶や寒巌みづみづし 内藤吐天 鳴海抄
緑金の羽を牝にかけて秋の頸 飯田蛇笏 霊芝
緑金の虫芍薬のただなかに 飯田蛇笏 春蘭
緑闇を泳ぐさまとも胃の腑撮る 文挟夫佐恵 雨 月
緑陰で見知らぬ人と立ち話 服部基子
緑陰にあり美しき膝小僧 加古 宗也
緑陰にゐて釜ゆでの鬼を見る 森田たけし
緑陰にカスタネットを鳴らし売る 岩崎照子
緑陰にゲーテハウスの外厠 坂手美保
緑陰にヘツセの本をかかへ来ぬ 仙田洋子 雲は王冠
緑陰にマスコット回りつつ停車 岩崎照子
緑陰に三人の老婆わらへりき 西東三鬼(1900-62)
緑陰に並びて薄茶給はりぬ 武原はん
緑陰に人馴れ貌の町雀 高澤良一 素抱
緑陰に入りて得るものあるごとし 高澤良一 素抱
緑陰に入ればたちまち世捨人 森川 潔
緑陰に取り出して飲む烏龍茶 高澤良一 素抱
緑陰に子育ての知恵もらひあふ 橋場きよ
緑陰に安心しきつた乳母車 角光雄
緑陰に昔のまゝの力石 吉田伝治
緑陰に未練残して去る素振り 高澤良一 素抱
緑陰に殉教碑あり各地にあり 池田澄子
緑陰に炭焼く杣の仮眠小屋 谷法幸
緑陰に牝鹿は長き睫毛持つ 山田弘子 初期作品
緑陰に盗まれさうな嬰の眠り 古市絵未
緑陰に移す雀の遊び砂 中村ケイ子
緑陰に罠かもしれぬ椅子ひとつ 望月哲土
緑陰に自転車止めて賭将棋 吉屋信子(1898-1973)
緑陰に莫迦げて大き忠魂碑 高澤良一 随笑
緑陰に話して遠くなりし人 矢島渚男 延年
緑陰に達吉の歌碑読み返す 落合ひろ恵
緑陰に重なり透ける葉のかたち 高澤良一 鳩信
緑陰に雨意みなぎつて来けり 辻本斐山
緑陰に風反転し豹の息 桂信子 黄 瀬
緑陰に馬を忘れて行きにけり 高室呉龍
緑陰に鹿屯ろして角くらべ 太田文萌
緑陰のかげというかげ碑句称う 源鬼彦
緑陰のかたちに目醒め昼寝男 齋藤愼爾
緑陰のそれは傀儡を入れし箱 正木ゆう子 静かな水
緑陰のふちどり常に濡れゐたり 齋藤愼爾
緑陰のわが入るときに動くなり 永田耕衣(1900-97)
緑陰のバザーに大英百科かな 井口光石
緑陰の一番古い地蔵尊 光宗柚木子
緑陰の刻とどまれり乳母車 大熊虚阿
緑陰の広さは人の散る広さ 稲畑汀子
緑陰の心拍となり歩みけり 片岡宏文
緑陰の日の眼千粒揺れ止まず 青木重行
緑陰の椅子の乱るるままに去る 直人
緑陰の白バラ緑ならんとす 山口青邨
緑陰の舗道大河をゆくここち 岩崎照子
緑陰の草やはらかく語り暮る 柴田白葉女 遠い橋
緑陰の蕊まで駆けて犬戻る 原 和子
緑陰の話豆から宇宙まで 皆川恵津子
緑陰の雀とんとん走り根越ゆ 高澤良一 素抱
緑陰の鳩と鴉と車椅子 細根 栞
緑陰へ丸太のベンチ無造作に 相原左義長「地金」
緑陰もまたおちつかず揚羽蝶 桂信子 黄 瀬
緑陰や 膨脹宇宙の わらい声 伊東聖子
緑陰やレース模様の陽の揺らぎ 清水由紀子
緑陰や子には子の膳運ぶ家 細谷源二 砂金帯
緑陰や昆虫とりの葉巻のむ 銀漢 吉岡禅寺洞
緑陰や板橋かけて家二軒 岡本松浜 白菊
緑陰や水際に魚の匂ひして 桂信子 遠い橋
緑陰や矢を獲ては鳴る白き的 竹下しづの女(1887-1951)
緑陰や蝶明らかに人幽か 松本たかし
緑陰や釈迦説法の石坐る 安藤葉子
緑陰をよろこびの影すぎしのみ 飯田龍太(1920-)
緑陰を出て外面を構へけり 菊池三千雄
緑陰を来しつめたさの耳飾 朝倉和江
緑雨いまいのちの音か後円墳 松本旭
緑雨かな偲ぶに適ふ路地の幅 能村研三
緑雨です今くちびるに触れないで わたなべじゅんこ
緑雨走る子は父よりも濡れやすし 高杉杜詩花
緑青のガスタンクまで野の雪解 飴山實 『おりいぶ』
緑青の八重山かくれ春の行く 行く春 正岡子規
緑青の吹きをることの菊の如露 後藤夜半 底紅
緑青の青を放てり夕野分 小島千架子
緑青噴いて考えるひと六疊に 荻野雅彦
緑高きことが即ち夏館 高濱年尾
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
緯度たかき緑大圏馬嘶く 成田千空 地霊
罪のごとく瘤負つて駱駝緑蔭に 田川飛旅子 『外套』
美しき松の緑に今日の雨 星野立子
美しき緑走れり夏料理 星野立子「笹目」
老といふ文字のやさしさ緑小春 後藤望洋子
老木の緑蔭のいとこまやかに 風生
老松の賑はひ立てる緑かな 富安風生
老松も若木もこぞり緑立つ 小川濤美子
老桜の洞緑暗に一花舞ふ 近藤一鴻
耳かきで干飯ほぐす緑の夜 金城けい
聖堂を出て緑蔭へ神父かな 奥本たかを
肘若し万緑に弓ひきしぼり 野崎ゆり香
肩まつき百済の鐘に緑雨かな 新田祐久
背の高き神官にして緑立つ 田中裕明 花間一壺
脚も上げ母呼ぶ赤子緑蔭に 香西照雄 素心
腕を上げ万緑の枝つかみけり 松尾隆信
膝におく聖書に緑さしにけり 桑原千穂子
自転車を曳き出す満目緑の夜ヘ 相馬遷子 雪嶺
興福寺緑の週の樹を伐れり 大島民郎
舟に積む石に緑のさしにけり 日原傳
船下りてすぐ万緑の山に入る 春田こでまり
船長の帽に吹かるる緑の羽根 小林 三郎
色ケ浜ゆふべの緑雨蛸壺に 沢木欣一 地聲
芝刈るや緑のしぶき薔薇を消す 京極杞陽 くくたち上巻
芥子園画伝の樹々も緑噴く 文挟夫佐恵 雨 月
芭蕉枯れて緑乏しき小庭哉 枯芭蕉 正岡子規
花の雨苔はいよいよ緑なる 瀧澤伊代次
花嫁を緑蔭に立ち見送りぬ 田中裕明 花間一壺
花藺田の緑にそゝぐ小雨哉 藺の花 正岡子規
芽木林月の緑光ただよへり 飯田蛇笏 椿花集
苔の花苔の緑にうもれ咲く 雨海青人
苗代に雨緑なり三坪程 正岡子規
苗代のおのが緑を泛べたり 阿部ひろし
苗代の二枚つづける緑かな 松本たかし
苗代の密なる緑いつまでぞ 西東三鬼
苗代の雨緑なり三坪程 苗代 正岡子規
苗田の緑そよぎて白き飯茶碗 内藤吐天 鳴海抄
若き父なり緑蔭の匂ひして 岩田由美 夏安
若木はや生む緑蔭の揺れやすし 鷲谷七菜子 花寂び
若楓その緑なる幼さよ 高木晴子 花 季
若竹や緑にうつりて猫とほる 大峯あきら 鳥道
若緑天上天下皆独尊 阿部宗一郎
若緑鎌倉の子の異人めき 宮坂静生 青胡桃
若緑雨の茶会の風情あり 岩下美奈子
英名は緑の狐のしっぽ草 高澤良一 燕音
苺畑ほとりす森の緑かな 尾崎迷堂 孤輪
茅舎忌の緑凝りたる石の苔 蟇目良雨
茜解き*たらの芽緑ならんとす 河野探風
茶の母樹の緑蔭鳥語弾みをり 関森勝夫
茶摘籠金と緑の込み合へる 百合山羽公 寒雁
草に落ち緑の息を雨蛙 関沢咲子
草蜉蝣透ける緑は影生れず 吉年虹二
荘子にありや緑なる何の鳥の渓巣 尾崎紅葉
菊枯れて松の緑の寒げなり 枯菊 正岡子規
菩提樹の緑蔭と知り尊べり 能村登四郎
菩提樹の緑蔭ひろき異人墓地 木付千登子
菱餅のわけても濃ゆき緑かな 下村梅子
萬緑と立枯れの木と相距つ 中杉隆世
萬緑に堪えざる病葉と思ふ 岡本眸
萬緑に朴また花を消すところ 皆吉爽雨
萬緑に滲みがたくしてわかかへで 飯田蛇笏
萬緑に見えざる雨の降りしきる 相馬遷子 雪嶺
萬緑のまつたく昏れて女漕ぐ 横山白虹
萬緑のレールを渡る猫の首 鳥居おさむ
萬緑の中さやさやと楓あり 山口青邨
萬緑の中の眼鏡のすきとほり 上野泰
萬緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男(1901-83)
萬緑の動いて風の五浦かな 福島壺春
萬緑の底に滝あり轟けり 宇田零雨
萬緑の真水であれば夜も匂ふ 鳥居おさむ
萬緑の表面張力道路鏡 的野雄
萬緑やかがやき翔ける夫婦鷹 相馬遷子 雪嶺
萬緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天
萬緑や先師語りて熱くゐる 中村明子
萬緑や嘶きほしき埴輪馬 椎橋清翠
萬緑や子ら食べ盛り伸びざかり 黒川悦子
萬緑や完敗はまた勝者のごと 宮坂静生 雹
萬緑や死は一弾を以て足る 上田五千石(1933-97)
萬緑や火の山の火の匂ふ道(上州草津白根山行) 上村占魚 『自門』
萬緑や父逝き父の部屋そのまま 椎橋清翠
萬緑や牛飼ひの掌のひろく優し 成田千空「地霊」
萬緑や糞るときに斉唱湧く 岸田稚魚
萬緑や索道つよくさびしくて 渋谷道
萬緑や野に聖塔の影二つ 加藤耕子
萬緑を深くぞゑぐる谷と谷 阿波野青畝
萬緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷(1913-69)
落日顔にしみ緑おもたい坂みち シヤツと雑草 栗林一石路
落葉松の緑こぼれん袷かな 渡辺水巴 白日
落葉松の緑冷ゆるか咲く芒 林原耒井 蜩
葉ぼたんのうづまく緑賞めて売る 松添博子
葛を負ふ緑の山を負ふごとし 福永耕二
葡萄垂れ木椅子のひとを緑なす 河野南畦
葡萄酒の壜はあげ底緑の風 平井照敏 天上大風
蓬摘む爪を緑に染めにけり 中園美智代
蓮如みち行く先々に緑立つ 中村青径
蓮莱の嶋の緑や門の松 門松 正岡子規
蔦さがる窓に緑の朝日かな 蔦 正岡子規
蕗の薹紫を解き緑解き 後藤夜半 底紅
薄緑お行の松は霞みけり 霞 正岡子規
薔薇は白砂に散り緑蔭に猿の檻 田川飛旅子 花文字
薪能平安神宮朱と緑 関口比良男
薫風や千山の緑寺一つ 薫風 正岡子規
薺粥箸にかからぬ緑かな 高田蝶衣
藁寺に緑一団の芭蕉かな 高浜虚子
藤村の山河緑雨の中にあり 高尾方子(円)
藪の墓に緑けぶりけり竹の春 渡辺水巴 白日
藪川や緑青浮む秋の風 秋風 正岡子規
虫籠にすきとほりをる緑かな 上野泰 春潮
虹高し野を押しのぼる日の緑 林翔 和紙
蚕豆のゑくぼ緑にゆであがる 松浦敬親(麻)
蚕豆の緑の寝間に一粒づつ 松村多美
蛍火の極限の火は緑なる 山口誓子 雪嶽
蜻蛉うまれ緑眼煌とすぎゆけり 水原秋櫻子
蝉の昼池の萍緑金に 内藤吐天 鳴海抄
蝋涙のケロイドなせり緑の中 中村和弘「蝋涙」
蝌蚪の水森ぐんぐんと緑し来(く) 竹下しづの女句文集 昭和十年
蝦夷赤鹿子育ての季や緑立つ 河府雪於
蝶生れぬ白と緑の餅も搗く 百合山羽公 寒雁
蝿取草緑は油断させる色 菅原くに子(諷詠)
蟷螂の死後の緑の鮮やかに 矢口由起枝
蟷螂の緑眼人を見据ゑをり 西川文子
蟻曳ける翅の緑に光りけり 二口 毅
行く春や緑青をふく釘隠し 渡部義雄
行く春を山青く水緑なり 行く春 正岡子規
行水の膚に流るる緑かな 上野泰 春潮
衛兵の敬礼の頭は緑蔭出て 香西照雄 対話
衣紋古りし松の緑や紙雛 碧雲居句集 大谷碧雲居
裏山や緑くはしきほとゝぎす 相馬遷子 山国
裏箔に緑青塗りし一葉かな 野村喜舟 小石川
裏道に緑陰が見えそこへゆく 桂信子 遠い橋
補聴器や緑陰に聞く風の私語 高橋喜代司
西湖まづ覚め万緑を目覚めしむ 川崎展宏
見おろせば緑陰の燈の星に似て 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
見出でたる緑蔭たゞに見て過ぐる 相馬遷子 山国
見渡すや柳の緑り花の紅 柳 正岡子規
規定錯綜豆のふくらみ緑のまま 香西照雄 対話
解氷期クラブの緑樹灯にあふる 飯田蛇笏 春蘭
記念樹のその緑蔭に子と憩ふ 奈良文夫
記念樹も老いて緑蔭つくりけり 大島民郎
記憶の地図に緑のしるしつけてゆく 芹沢愛子
詩は怒余寒緑を冴えしめて 香西照雄 対話
誰が為か東京に佇つ若緑 齋藤玄 飛雪
谿も嶺も緑の童話ト口走る 加藤知世子 花寂び
豆腐佳しこんこんと緑湧く五月 斎藤空華 空華句集
象使ひ白き横眼を緑陰に 渡辺白泉
貝寄や柳緑なる此夕 蘇山人俳句集 羅蘇山人
赤ひきたち緑ひきたち飾毬 大橋敦子 匂 玉
赤も淋し緑り又くらし走馬燈 松瀬青々
赤松の林明るき緑雨かな 山口耕堂(風)
赤門をかつと照る日の紅緑忌 見学 玄
起き伏しの蔦の緑や五月雨 碧雲居句集 大谷碧雲居
起き臥しや他家の雛に緑さし 榎本冬一郎 眼光
足伸ばす松も緑の大仏へ 高澤良一 宿好
身ほとりに樟の緑の溢れけり 山野井朝子
車窓より好緑蔭を発見す 瓜人
軋みゆく仙山緑や西日中 竹内牧火
近江の田同じ緑の一枚田 山口誓子 大洋
返しても足りない 父にもらひたる緑の時間 茜の時間 内藤三郎
逃げ足をちどりに鹿と万緑と 赤松[けい]子 白毫
通るたび触る緑蔭の大き石 加藤耕子
通夜堂や緑の中の百日紅 百日紅 正岡子規
連弾の肩の触れ合ふ緑雨かな 伊藤公子
連翹や天の緑に枝とどく 百合山羽公 寒雁
道坂となりて万緑もりあがり 成瀬正とし 星月夜
達磨忌や舎利樹緑りに建長寺 尾崎迷堂 孤輪
遠国の船が水吐く緑夜かな 斎藤梅子
遠嶺の如死遠し厚朴の緑かげ 石田波郷
遠望さそはるゝ枯芦に緑まじり 子郷
遠目にも茶の畝々に緑立つ 高橋達次
郭公や辺りを緑に塗り込めて 新井章有
都塵濃し緑恋しと鯉幟 竹下しづの女句文集 昭和十一年
酒が励ます髪膚静かに緑見る 田川飛旅子 『植樹祭』
酸性雨かも知れず暗緑の木々よ 酒井弘司
野のちから山の力の緑噴く つじ加代子
野の緑にはかに若し虹かかる 相馬遷子 雪嶺
野育ちや小枇杷の出臍緑帯び 香西照雄 素心
金環の目の魚釣れて島万緑 木村里風子
釣床に人白うして胡桃緑なり 尾崎紅葉
鉾の緑浴衣の尻を並べたる 長谷川櫂 蓬莱
銀屏風にうつす緑や青葉山 盧元
銅鑼縁より緑青を噴き夏の空 中田剛 珠樹以後
銭持たずなか~冬草の緑 中塚一碧樓
鋸軽く槌が重たし緑蔭下 右城暮石 声と声
鎌倉の松の緑に賀客かな 星野立子
鎌倉の緑蔭を縫ふ郵便夫 岩淵喜代子 朝の椅子
鎖樋伝ひて緑雨たらたらと 高澤良一 素抱
鎮魂の岩のレリーフ緑さす 猪俣千代子
鏡台はパンドラの匣緑さす 松本澄江
長く生きこの万緑のたかぶりに 関口みぐさ
門内に梯子の見えて緑摘む 大気十潮
開山忌了へて緑雨の黄檗樹 大島民郎
開港祝歌あびせ緑蔭明るくす(横浜開港百年祭) 河野南畦 『焼灼後』
間引して緑少き畠哉 間引き 正岡子規
階いくつも緑に近き部屋に来ぬ 宮坂静生 雹
雄心の直きすがたの緑摘む 藤村克明
雑巾刺す十字細かき夜の緑 加倉井秋を 『真名井』
雨上がりたる緑蔭の匂ひかな 行方克己 無言劇
雨晴れて緑したゝる中に寺 滴る 正岡子規
雨蛙緑の皮と共に跳ぶ 百合山羽公
雪の窓メロンの緑レモンの黄 日野草城
雪五寸つらぬく麦の緑なり 小島千架子
雪間より現れし若菜の緑かな 平尾直子
雲は秋の緑剛岬萱ばかり 西垣 脩
雲水の声万緑の堂に満つ 加藤耕子
雲群れて緑の週の始まりぬ 相生垣瓜人
雷光の緑釉も浴び夜のシャワー 野中 亮介
雷後の日森は秘蔵の緑厚く 相馬遷子 山河
霜降りて緑なほ濃き深谷葱 野口佑一
霧にふれ萱の白緑暁けきりぬ 下村槐太 天涯
青年に万緑の塵見えず飛ぶ 原裕 葦牙
青首やおなじ緑の菜摘川 椎本才麿
非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子(1914-99)
靴踏みし跡の緑やクローバー 京極杞陽 くくたち下巻
頬熱きままに緑雨を戻りけり 堤亜由美(月刊ヘップバーン)
頬白ゐて緑蔭の土しづけしや 右城暮石
顔の激流暗緑となり遅れる者ら 堀葦男
顔濡らしきて緑蔭の画架に立つ 千代田葛彦 旅人木
風に吊るガラスの魚に緑さす 吉井操子
風の野のはこべの緑すべらかに 岩瀬良子
風強くして緑蔭の縁躍る 田川飛旅子 花文字
颱風が墓場の緑ひきちぎる 田川飛旅子 花文字
飛火野の緑蔭鹿も影を持つ 田川飛旅子
飛雲菩薩舞ひ出づる日ぞ緑世界(平等院) 河野南畦 『風の岬』
食堂の箸うごくみんな緑の肺 志摩一平
食緑をすてし墓参のやからかな 飯田蛇笏 山廬集
飴一粒にこもる緑光寒驟雨 友岡子郷 遠方
養生や朴一本の緑蔭に 沢木欣一 二上挽歌
馬市がありて緑蔭人だかり 高濱年尾 年尾句集
馬追の緑逆立つ萩の上 高野素十
駄津突に緑の汐も逃げ場なし 百合山羽公 寒雁
駕着けり緑蔭にして地に降りぬ 山口波津女 良人
高楼の緑蔭を抜く街造り 高木晴子 花 季
高熱の緑が覆ふ胸の恐怖(六月下旬胸部疾患に倒る八句) 河野南畦 『黒い夏』
髪を切るわが鏡面に緑濃し 永井龍男
鯉の子をのぞき緑の羽根映す 大島民郎
鯉の跳ね万緑一瞬緋の入りぬ 尾崎弘子
鯉幟きそふ緑のありてよし 後藤夜半 底紅
鯉幟立つべき緑ととのひぬ 後藤比奈夫 金泥
鳥の声春は緑に暮れて行 正岡子規
鳩の発つ風の及べる緑陰は 高澤良一 素抱
鳳梨の皮の緑や那覇の夜 岡野ひさの(岳)
鳴きやめば虫またもとの緑かな 五十嵐播水 播水句集
鴉また物くはへ飛ぶ若緑 大峯あきら 鳥道
鴨緑江節忘れるころの渡り鳥 城門次人
麦の葉や緑うなつく五六寸 青麦 正岡子規
麻打ち洗う運河暗緑の旅なり 金子皆子
黄金週間緑雨に濡らす旅鞄 大江博子
黒ぼこの松のそだちや若緑 土芳 芭蕉庵小文庫
*ひつじ田のみどりに洗ふ介護の瞳 大塚信子
あさみどり濃みどり綾に冬菜畑 星野立子
あめつちのみどりの極み雉子走る 沢木欣一
あめつちの気息ととのふみどりの日 赤澤新子
あらば世にみどりいくつぞ酉の市 増田龍雨 龍雨句集
ありまきのみどりに今日は没入せり 増山美島
あゝさみどり波郷桂郎遊山せむ 斎藤玄 無畔
いなだ盛る笹のみどりに父の記憶 伊藤淳子
いま掛けしばかりの稲のうすみどり 宮下翠舟
うぐひすの声さみどりや花卯つ木 渡邊水巴 富士
うすみどりの手足の大工の名 言え 阿部完市 春日朝歌
うすみどりわれらのテント尖り立つ 篠原梵
うすみどり大根おろしたまり来る 篠原梵 雨
うすみどり樒の花と教へられ 岡田静女
うすみどり色に日かげり花李 松本武千代
うすみどり色に染りて菖蒲の湯 金丸希骨
うつむきて髪みどりなり火取虫 深川正一郎
うねり出すぶだう若葉のみどりの炎 高澤良一 ぱらりとせ
うまおいは子がもつみどり夜の空 大井雅人 龍岡村
うみどりのみなましろなる帰省かな 高柳克弘(俳句研究)
うらゝ日ゃ御簾さみどりに観世音 静 良夜
おほいなる蝦蛄の鎧のうすみどり 見學御舟
おもだかの池みどりなる落穂かな 高橋馬相 秋山越
お供へに歯朶のみどりのほの匂ふ 高橋淡路女 梶の葉
かきまぜし棒もみどりや青みどろ 櫻井幹郎
かげろふのおのれみどりのすきとほり 下村福
きさらぎのみどりあはあは昆虫館 長谷川双魚 風形
きさらぎやうぐひす餅のあさみどり 角川春樹
ぎんなんのさみどりふたつ消さず酌む 堀 葦男
くれなゐをみどりを籠めて花氷 日野草城
けふよりのみどりの蚊帳の環おもし 原石鼎 花影以後
ここに又陸稲のみどり島の冬 深見けん二
こときれてなほ邯鄲のうすみどり 富安風生
こみどりの大雨のなかに囀れり 高橋馬相 秋山越
これからの緑の週のみどりとは 松田ひろむ
さくら咲き出土の酒のまみどりに 野沢節子 八朶集
さみだれの奥にさみどり刷毛目壺 萩原久美子
さみどりに濡るる稗蒔目に寧し 礫川市郎
さみどりのいまはましろくキャベツ剥く 篠原梵 雨
さみどりののひそかぞ釣船草 島谷征良
さみどりの一茎百合を貫けり 正木ゆう子 悠
さみどりの刺身こんにやく花時雨 角川春樹 夢殿
さみどりの夏掛やすし胸の息 きくちつねこ
さみどりの夜や蚊遣火の香の流れ 永峰久比古
さみどりの小蜘蛛登らす指の先 山田みづえ 草譜
さみどりの尾より鷺草咲かんとす 本川晴代
さみどりの山繭生るる神の山 石鍋みさ代「木綿注連」
さみどりの春あけぼのを白魚飯 角川春樹 夢殿
さみどりの森にみなぎる秋日哉 西山泊雲 泊雲句集
さみどりの瓜苗運ぶ舟も見し 松本たかし
さみどりの田に零れ行く鳧の声 恒川とも子(笹)
さみどりの病魔を一日連れ歩く 栗林千津
さみどりの繭に籠りて世を忍ぶ 津田清子
さみどりの菜飯が出来てかぐはしや 高浜虚子
さみどりの萼の王冠冬苺 百瀬虚吹
さみどりの藁の香たつや注連作り 山田英津子
さみどりの輪飾ひとつ旅住居 高橋淡路女 淡路女百句
さみどりの透き羽も重き蛾となんぬ 林原耒井 蜩
さみどりの雨後の芝生の賀茂競馬 加藤子
さみどりの雫しきりに薬降る 檜 紀代
さみどりを山と盛りあげ月見豆 中田恒子
さみどりを秘め白梅の含羞 滝浪さち子
しなやかなみどりを踏みぬ年木樵 山本洋子
しののめのあめのこりたるみどりの日 上谷昌憲
しばし目を癒すさみどり吊忍 吉川智子
しんしんと鉄灼き雪はみどりなり 杉崎ちから
すぎし日の祖父の美髯やみどりの日 佐々木美津子
すみに澄む旱の海上にみどりご 八木原祐計
ずばぬけて欅のみどりよかりけり 高澤良一 さざなみやつこ
その葉より森青蛙みどりかな 横田弥一
そらには音客僧にみどりたてまつる 阿部完市 純白諸事
そらまめのみどりに汗し夕餉の父 桜井博道 海上
たかし忌や生れてみどりの蜘蛛走り 岩崎健一
たつのおとしごみどりの目よりしろい目なり 阿部完市 春日朝歌
たゞならぬ桃のみどり芽春雷す 右城暮石 声と声
ちちははの忌をみどり濃き七月に 岡本 眸
つづれ織る窓まみどりの吉祥草 丸山圭子
つまみ行く堤の松のみどりかな 蝶夢
とくさまみどりその家に僧が来る 友岡子郷 風日
ともしびにうすみどりなる春蚊かな 山口青邨
とんで又みどりに入や松むしり 惟然
どの岬もみどり厚塗り紀の国は 茨木和生 木の國
どの窓も空呼び寄するみどりの日 菊井 義子
なづな摘む小凪の丘のうすみどり 糟谷英城
なづな粥吹きよせて野のあさみどり 稲島帚木
なびき藻のさみどり白魚さそふらし 下村ひろし 西陲集
なまなまと*ばったのみどり自刃の地 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
ひとすぢの草のみどりや鶏乳む 下村槐太 光背
ひと雨に稲架のみどりの無かりけり 高濱年尾 年尾句集
ふるさとは水飯好む母の居て 西池みどり「だまし絵」
ほころびて蕊うすみどり月見草 池内友次郎 結婚まで
またたきにみどりさしそめ雪解星 鷹羽狩行
まぶたみどりに乳吸ふ力満ち眠る 沖田佐久子
まみどりに雨降つてゐる安居かな 土山 紫牛
まみどりの外光鹿の子逸らしむ 藤田湘子 てんてん
まみどりの比叡や霧に撃たれつつ 黒田杏子 花下草上
まみどりの眼のらんらんと山の虻 太田 嗟
まみどりの芹の一箸づつの味 大工原朝代
まみどりの落葉も雨に風鶴忌 八木林之介 青霞集
みどりごに月日はじまる新暦 吉田陽代
みどりごに毛糸編む幸もらひけり 平野 伸子
みどりごに腕つかまるる冷房車 佐々木元嗣
みどりごのいづこを向くも恵方かな 渡辺恭子
みどりごのこぶしもねむるかたつむり 三嶋 隆英
みどりごのてのひらさくらじめりかな 野中亮介
みどりごの目に小鳥来し別れかな 相馬遷子 山河
みどりごの瞠るへ御印文戴きぬ 東條素香
みどりごの舌のちらちら蛍籠 鈴木鷹夫 春の門
みどりごの顔いつぱいのくさめかな 佐々木良子
みどりごの顔そこにある昼寝覚 山下 広
みどりごは「遥」といふ名爽かに 澤村昭代
みどりごは焼野にめつむり羽毛を降らす 夏石番矢
みどりごも七草爪といふことを 西村和子
みどりごをつつみに来るよかげろふは 斎藤玄 雁道
みどりごをイエスの前に昼寝さす 有馬朗人 知命
みどりごを花弁包みにクリスマス 中戸川朝人 星辰
みどりさしくれなゐがさし薄氷 鷹羽狩行
みどりさす大和恋しき八一の書 斎藤典子「大山蓮華」
みどりさす皿に待たれて予約席 大迫智子
みどりさす稜やはらかく稿重ね 中戸川朝人 残心
みどりさす開智学校玉座の間 鈴木妙子
みどりなす海老の複眼かくて夏 宇多喜代子
みどりのおばさん噴水に頭を越されて笑む 磯貝碧蹄館 握手
みどりの亀と一夏をおくる母は死ぬ 阿部完市 純白諸事
みどりの尾の何という夏の人物 阿部完市 軽のやまめ
みどりの日の雨のディズニーランドかな 山田みづえ
みどりの日よちよち歩きのリュックの子 福原千枝子
みどりの日京のほとけを見にゆかむ 佐川広治
みどりの日仁王の両目寄りしまま 金子野生
みどりの日巣箱は雨に濡れどほし 細谷てる子
みどりの日昭和一桁老いにけり 稲畑広太郎
みどりの日緑の上に富士坐る 本間 稔
みどりの日頭数には入りたる 徳弘喜子
みどりの日風もみどりでありにけり 小林草吾
みどりの時計の慰藉あり静かな廃墟 阪口涯子
みどりの畳に鯉のようにわれはいるなり 阿部完市 純白諸事
みどりの穂こぼし初めたり小判草 山田みづえ
みどりまだ残る冬田や狐雨 岡村月子
みどり中櫛こころよくとほりけり 会美翠苑
みどり児がねむるや四辺山粧ふ 相馬遷子 山河
みどり児と蛙鳴く田を夕眺め 中村汀女
みどり児にほほゑみもらふ桃の花 河合 順
みどり児にゆび握られて雪淡し 赤松[けい]子 白毫
みどり児に五指ある不思議冬いちご 川崎ふゆき
みどり児に急かされてゐる冬支度 山田弘子 こぶし坂
みどり児に指掴まるる御慶かな 駒津董子
みどり児に暁の色はや蚊帳を透き 永田耕一郎 氷紋
みどり児に百の約束夏銀河 船橋政子
みどり児に見せつつ薔薇の垣を過ぐ 篠原梵
みどり児に見つめられゐて花疲れ 森田峠 避暑散歩
みどり児に貝ほどの舌山笑ふ 辻 美奈子
みどり児のこぶしに寒ンの極まりぬ 金尾梅の門 古志の歌
みどり児のために乾杯チューリップ 山田弘子 こぶし坂
みどり児のながき眠りや春の雷 河野扶美
みどり児のならぶ産院年の夜 寺西信子
みどり児のましろきものを縫はじめ 伊藤雪女
みどり児のゆめ色鳥が来て醒ます 古市絵未
みどり児のよろこぶ手足天瓜粉 加藤宗一
みどり児の丸き欠伸や桃の花 十河しずえ
みどり児の乳の匂ひや冬日和 二階堂英子
みどり児の喃語に応ふ初湯かな 山崎千枝子
みどり児の固き拳や天瓜粉 吉田昭二
みどり児の声とはならず笑初 稲畑汀子
みどり児の宵つぱりなる春炉かな 森井美知代
みどり児の寝息冬日の中にあり 清本幸子
みどり児の心音聴けり外は雪 水原春郎
みどり児の手を出し眠る春蚊出づ 伊東とみ子
みどり児の指してもみじと風ばかり 工藤眞智子
みどり児の指まで眠る 浜日傘 中田弌子
みどり児の指甘ければ水温む 原子公平
みどり児の日々連翹も日々に濃し 百合山羽公
みどり児の瞳よ空いろの種播かむ 千代田葛彦
みどり児の知恵ふかめいる雪の夜 穴井太 原郷樹林
みどり児の覚めて御慶の客揃ふ 亀井福恵
みどり児の起きてしまひし寝正月 稲畑汀子
みどり児の軽さがこはし秋ざくら 近藤一郎
みどり児の輝く瞳新樹光 見目しつえ
みどり児の顔の埃や冬ごもり 楠目橙黄子 橙圃
みどり児は光まみれやチューリップ 堀江廣明
みどり児は足でよろこぶ蝶の昼 辻本孝子
みどり児も彦星もいま洗ひたて 白澤良子
みどり児も根みつばもいま籠の中 篠田悦子
みどり児も草も水辺や彼岸過ぐ 小林秀夫
みどり児をあやして過ぐる遍路かな 坂本孝子
みどり児を抱きて一家の帰省かな 稲畑汀子
みどり児を籠で提げゆく葉月かな 金澤良枝
みどり児を膝にふはりと女正月 飯島壽子
みどり噴く地へ滲み佇つアタッカー 穴井太 土語
みどり増す星や茂吉忌の前後 高橋道人
みどり子に光あつまる蝶の昼 上田五千石 田園
みどり子に初めての雪降りいだす 有働亨 汐路
みどり子に急ぐ枯野に乳はり来 野見山ひふみ
みどり子に砂漠の果ての煌々と 大西淳二
みどり子に竹筒負はせて生身魂 太祇
みどり子のおならめでたし初笑ひ 福島せいぎ
みどり子のにほひ月よりふと白し 篠原鳳作
みどり子のまばたくたびに木の芽増え 龍太
みどり子のもの見るすがめ春燈 瀧春一
みどり子の匂ふ二日の日向かな 大峯あきら 宇宙塵
みどり子の墨かい付けしさらしかな 蓼太「続明烏」
みどり子の夏着の手足ゆるやかに 関根淑子
みどり子の手型を押して初日記 佐藤信子
みどり子の爪伸びさうな日向ぼこ 高瀬重彦
みどり子の瑞歯の萌えや水芭蕉 沢木欣一 二上挽歌
みどり子の股くびれたる端居かな 相馬遷子 山国
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
みどり子の覚めては眠る菊日和 大峯あきら 宇宙塵
みどり子の足先ぴんと日向ぼこ 今井千鶴子
みどり子の頬突く五月の波止場にて 西東三鬼
みどり子の頭巾眉深きいとほしみ 蕪村
みどり子の風邪に泣きぐせつきにけり 大熊輝一 土の香
みどり子を抱いて霞みてゆきにけり 五十崎古郷句集
みどり射す松子の鏡定位置に 赤尾恵以
みどり敷く彼方なほあり若菜の野 井沢正江 以後
みどり新たに椎の兄楠の弟 上田五千石 森林
みどり減る北山をみて斧を研ぐ 長谷川双魚 風形
みどり立つ晩学の眼のさまよへば 千代田葛彦 旅人木
みどり立つ松の枝ぶりもいごっそう 高澤良一 寒暑
みどり立つ難閑耳(なかに)ぽつんと良寛堂 高澤良一 寒暑
みどり色脱げば芋虫走れさう 木村淳一郎
みどり萌ゆアルペン号で行く信濃 的野房江
みどり葉を敷いて楚々たり初鰹 三橋鷹女
みどり藻の高波の跡実朝忌 中拓夫
みどり野にわが身一つが浮いてゐる 栗林千津
むかし基地公園となりみどりの日 稲野博明
むき~に赤とみどりの唐辛子 芥川我鬼
むくろじのみどりの玉も西武蔵 古舘曹人 砂の音
めぐる死へ木の名草の名うすみどり 穴井太 天籟雑唱
ゆく春の酒場はみどり灯をともす 岸風三楼 往来
ゆるやかに河のみどりは葡萄より 古舘曹人
よめならばみどりにせばや柳髪 貞徳
わがみどりご声たしかなり蛙の夜 林翔 和紙
わたくしはみどりに化けて鮎つるなり 阿部完市 純白諸事
わらわれる遠いみどりの一法師にも 阿部完市 春日朝歌
われに心理のみどり揺れており猿も 高橋たねを
ゑちご刈田のみどりぐさゑちごをなごら 中塚一碧樓
をちかたのみどりさだまる冬日かな 長谷川双魚
ウインドーの長崎切手みどり透く 伊藤京子
キツネノボタンその実みどりの金平糖 高澤良一 素抱
ゴスペルの樹にこだましてみどりの日 辻村拓夫
シャーベット掬ふみどりは森の風 中尾杏子
セル軽き端居に著莪のみどりあり 森川暁水 淀
トンネル見え雪のみどりの濤頭 中拓夫 愛鷹
ニセアカシアみどりの雨滴浴びせけり 高澤良一 素抱
ハンカチヘみどりの胞子吐く土筆 ふけとしこ 鎌の刃
バッタとぶアジアの空のうすみどり 坪内稔典
バツハ聴く胸のうちよりみどり溢れ 岸原清行
バードウイーク森のみどりに染まるべく 高澤良一 素抱
パスハの夜広場は星斗みどりなり 飯田蛇笏 春蘭
パンケーキほどよく焼けてみどりの日 角川春樹
プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷「鶴の眼」
プール捲き花壇をつつみ芝みどり 川島彷徨子 榛の木
ボランティアの夫の苗売るみどりの日 山口恵子
ボートの少女に青みどり濃く夏日燃え 田川飛旅子 花文字
メロン食うぶみどりの小舟揺らしつつ 林翔「幻化」
レース編むみどりの雨の降る夜は 菖蒲あや
一と雨にしまりしみどり胡瓜苗 岸霜蔭
一と雨にみどりの冴えし貝割菜 瀬戸十字
一枚の空うすみどりお田植祭 伊藤敬子
一筋のみどりを引きて滝落つる 深川正一郎
一里余を急がず歩くみどりの日 小川あやめ
一重簑つけて蓑虫うすみどり 加藤水万
七種のどれも濃みどり粥の中 上田芳子
七種のみどり細しき一籠かな 野澤節子
七草粥匙もて祝ふみどり子は 大熊輝一 土の香
万緑の上にみどりの伊吹山 福田蓼汀 山火
下積の雑木みどりに年木かな 廣江八重櫻
乱鶯や落葉松みどり烟りそめ 仙臥
乳ぜり泣くみどり児の声より薄暑 山田弘子 こぶし坂
乾きつゝふかみどりなる和布かな 高濱年尾 年尾句集
二ン月の雪が山葵のみどりに降る 細見綾子 伎藝天
五月の朝空すいすいと草のみどりが垂れる 人間を彫る 大橋裸木
享年十二歳みどりの柿の花 塚本邦雄 甘露
京菓子の淡きみどりや寒明くる 徳久 俊
人日の粥さみどりに噴きこぼれ 田中俊尾
人日やみどり児にまた智恵一つ 藤陵紫泡
今年藁みどりほのかに新娶り 麦南
今朝の栄大根下ろしのうすみどり 川口重美
今生の妻とみどりの奈良大和 山田桂三「貴船菊」
今生の森のみどりにふりかえる 和田悟朗
仏壇の兄はみどり児小豆粥 深見けん二
仏縁に垂れて胡桃の花みどり 宮津昭彦
伊勢蝦に懸蓬莱のうすみどり 飯田蛇笏 霊芝
但馬城崎海のみどりを梨の肌 石塚友二 方寸虚実
体内の水の流れやみどりの日 和田悟朗
体重計みどり子をのせ聖夜来る 轡田 進
俎の水切って果つみどりの日 岩佐光雄
傀儡のざんばら髪のみどりかな 八田木枯
僧の足袋菜の花あかりしてみどり 河野静雲 閻魔
優曇華の微塵のみどり飽かず見る 大石悦子 群萌
先帝に触れし記事なきみどりの日 渋川優子
児の息を封じてシャボン玉みどり 由利雪二
八幡に白き神馬を冷やす水 西池みどり「森の奥より」
八段の跳箱とべてみどりの日 成智いづみ
八百潮のみどりたたなり桃咲けり(清見潟) 内藤吐天
六月の芭蕉玉巻くうすみどり 小林康治 四季貧窮
内海も陸もさみどり鱚の頃 稲見碧子
冬のかもめと仏具屋の店みどりなり 栗林千津
冬ばらに芝のみどりの乱れけり 林原耒井 蜩
冬ぼたん風に正せるみどりの葉 高澤良一 ぱらりとせ
冬帝の日に抱かれてみどり児よ 稲畑汀子
冬日和みどり児に名の付きにけり 橋本佐智
冬晴の杉のみどりに掌が乾く 中拓夫 愛鷹
冬泉藻のまみどりに湧きやまず 小松世史子
冬海美くしくて岩の草みどりを残す 人間を彫る 大橋裸木
冬濤の反り極まればみどりなす 岸原清行
冬立ちぬ黄蝶の芯のうすみどり 岩淵喜代子 朝の椅子
冬草のみどり明るく御魂やすらかにおはす 人間を彫る 大橋裸木
冬草の根つくしたるみどりかな 長谷川双魚
冬近づきし街に出て菜のみどり 長谷川双魚 風形
冬館タオルみどりの水蒸気 近藤一鴻
凍る滝取巻く闇のうすみどり 岸田稚魚 筍流し
凍空に竹ま直ぐなるみどりかな 上村占魚 鮎
初*かやのさみどりなすや擁きけり 石田波郷「雨覆」
初春の水に放ちし菜のみどり 長谷川久々子
初春の禰宜の袴のうすみどり 小松和哉
初蚊帳のさみどりなすや擁きけり 石田波郷
初蝶やみどり孤ならぬ麦畑 飯田龍太
初郭公みどり萌えよき根城より 木附沢麦青
初鞴みどりの炎たちそめぬ 吉田丁冬
剪口のみどりうすうす桃の花 岩淵喜代子 朝の椅子
勾玉のみどり恋しきなづな粥 野見山朱鳥
北京の宿冬瓜汁のうすみどり 細見綾子 存問
北吹いてあさみどりなる柳かな 五十崎古郷句集
北州忌疾風とはしる田のみどり 成田千空 地霊
十二橋額のさみどり葉に紛れ 石川桂郎 四温
十重二十重なるまみどりに死木の声 飯田龍太
千代田区の柳は無聊みどりの日 大畠新草
千年のはたとせ過ぎし松みどり 松藤夏山 夏山句集
千曲川水みどりなり桜咲く 相馬遷子 山河
友の寐にみどりしたたる夏暁かな 飯田龍太
受洗子の眼もみどりなる復活祭 松林露橋
受験生みどりを連れてあるきけり 長谷川双魚 風形
古株の苔のみどりや牡丹の芽 楠目橙黄子 橙圃
古道をみかへる松のみどりかな 其角
吉事あり新樹のみどりゆたかなる 内藤吐天 鳴海抄
吸ふために吐く息みどり深かりき 長谷川久々子
吾子のロ菠薐草のみどり染め 深見けん二
咥え来し木の葉みどりに二日の猫 北原志満子
喪服着てみどり児あやす蝶の昼 稲井三子
噴きあげるみどり一戸の藁葺澄み 穴井太 ゆうひ領
噴きこぼる七草粥にみどりの香 佐藤信子
囀や札所のこんにゃくうすみどり 鷲見緑郎
園の雨はこべら最もみどりなる 富安風生
土用芽のみどり垣根にみづみづし 今西幸代(あすなろ)
地のものみどり稲妻のまたたきのまの シヤツと雑草 栗林一石路
地の果ての光の網よみどりごよ 夏石番矢
地へ深くみどりの昆虫おりてゆく 穴井太 土語
地下鉄は楽器みどりの席長く 和田悟朗
墓畔八月破れても酒の壜みどり 宇佐美魚目 秋収冬蔵
壁の絵の濤みどりたり春嵐 石田波郷
壁越しに聞く片言もみどりの夜 原裕 出雲
声出さば死ぬさみどりを行く紙片 栗林千津
声高き童女の湯浴みどりさす 金子 潮
売れ残る黄砂の宅地みどりの日 清水晴子
夏川のみどりはしりて林檎園 飯田龍太
夏暁のこゆきみどりの時間かな 平井照敏
夏燕茶畑みどり吹き返す 川原典子
夏草の香にみどり児を抱きとりぬ 長谷川久々子「花香」
夏菊の蜘蛛のさみどり掌に移す 村尾優子
夕かげにみどり顕ちけり初鰹 上田五千石 森林
夕日透けし雲雀の羽は確かみどり 香西照雄 対話
夜の落花月をこぼるゝうすみどり 斎藤空華 空華句集
夜焚火に畦がみどりを残すなり 阿部ひろし
大文字のみどりの梅雨をかけわたし 藤後左右
大枯野牧牛をればみどりあり 深見けん二
大芭蕉母の眼鼻もうすみどり 金子兜太 少年/生長
大菩薩峠を越ゆるみどりの日 山崎ひさを
大西洋沖うすみどり白い家(カサブランカ) 阿保恭子
大阿蘇をまるごと貰ひみどりの日 渋田千々穂
天上も五月みどりの橡世界 後藤比奈夫 めんない千鳥
天瓜粉打ちしみどり児借りて抱く 和田 祥子
天蚕のみどりいつしんふらんかな 安田汀四郎(樹氷)
天蚕の繭のみどりを機の糸 中川芳子
太陽の如き子が来てみどりの日 上村 米子
妃殿下の鍔広帽子みどりの日 河内きよし
妻に憎まれつつありまきの淡きみどり 加藤楸邨
妻の国の粽の粽のさみどりに 中拓夫 愛鷹
妻癒えて故山のみどり滴らす 小島健 木の実
嫋々とのぼるみどりやホップ畑 堀口星眠 営巣期
子の*かやに妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二
子の皿に塩ふる音もみどりの夜 飯田龍太「忘音」
子の蚊帳に妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二「鳥語」
子を産んで金紐の葉の酸きみどり 長谷川双魚 風形
子蟷螂みどりの鎌を我に向け 若林かつ子
学童の駅に溢れてみどりの日 福川悠子
寄せ植の若菜の籠の浅みどり 伊藤たけ
寄生木の春のみどりの御社 川崎展宏
富士川の水みどりなる二日かな 室積波那女
寒き燈にみどり児の眼は埴輪の眼 篠原梵
寒を盈つ月金剛のみどりかな 飯田蛇笏
寒中や柴の虫繭あさみどり 飯田蛇笏 春蘭
寒夜みどり児と眼を瞶めあふ 瀧春一 菜園
寒椿おのがみどりにてり映えて 林原耒井 蜩
寒泳の粥のさみどりたぎりをり 大沢ひろし
小寒や丁字の蕾うすみどり 益田ただし
小春日のみどりのものに跼みけり 河西みつる
少年の街頭暮金みどりの日 田中珠生
尼寺の雨や一葉もまだみどり 及川貞 榧の實
尾鰭すでにみどりに濡れて鯉幟 能村研三
屋根草もみどり深めし蚕の眠り 鈴木鷹夫 風の祭
山々や老婆ゆまればみどり立ち 長谷川双魚
山にみどりの坊主咲きみちわたりたり 阿部完市 春日朝歌
山のみどり吾子に指さるゝ街歩りき 林原耒井 蜩
山のみどり落ち来る妻の膝の上 太田鴻村 穂国
山の娘の交語みどりを滴らす 龍太
山の子の声みどりなる夏隣 小坂優美子
山の温泉のランプにかよふみどりかな 太田鴻村 穂国
山の辛夷は鬱たるみどり夏蚕飼ふ 森 澄雄
山中の贅山繭のうすみどり 後藤比奈夫「紅加茂」
山吹の黄金とみどり空海忌 森澄雄 空艪
山寺の松のみどりの涅槃かな 野村喜舟 小石川
山滴るみどりを浴びてひとり旅 白井よしこ
山繭の二つのみどり櫟枯れ 原石鼎 花影以後
山繭の手荒きもののうすみどり 古館曹人
山繭の深き眠りのうすみどり 片桐久恵
山繭の白くなりたきうすみどり 後藤比奈夫
山繭の野のいろ纏ふあさみどり 船橋かぎ子
山繭や天女の息のうすみどり 近藤悦子
山繭を振りてみどりの音こぼす 石寒太 翔
山脈の空みどりなす春の月 相馬遷子 山國
山葵田のみどりをかこむ鉄条網 土井朝子
山見たく二階へ上るみどりの日 羽根 嘉津
山越えきし君らみどりの目を持ち寄り 市原光子
山開き画布はさみどり滴らす 佐藤いね子
岩魚の斑みどりさす夏来むかへり 千代田葛彦 旅人木
川むかうみどりにお茶の花の雨 田中裕明
巣箱ありみどりさす手をかざしつつ 草間時彦
市の花の苗木をもらふみどりの日 佐野たけ子
布白くレタスのみどり玻璃に透く 小柳佐武郎
帚木の花季の黄滲むうすみどり 中戸川朝人 残心
帚草みどり失ひつゝ乾く 原三猿子
幕間にささやきの波ちまき解く 西池みどり「森の奥ょり」
干瓢の滝の照りあふうすみどり 西本一都 景色
干草の敷きのみどりに牧犬(コリー)の仔 軽部烏頭子
庄川に写るみどりや通し鴨 棚橋正恵
底見えて水のみどりや山女釣る 加賀谷凡秋
庭隅のさみどりを摘み木の芽漬 関科子
御田植雨の水輪のみどりなる 上田幸雄
心太桶に沈みしうすみどり 清水あや子
手にはたくうぐひす餅のみどりの粉 高浜年尾
手をふれて木々の名をあてみどりの日 杉田禎照
手中にみどり褪せ行く早桃かな 前田普羅 能登蒼し
手作りの花壇仕上がりみどりの日 永井靖晁
手品師の五指さみどりの驟雨かな 伊藤 翠
手囲ひの湯茶のみどりも春近き 岡本眸
手花火の闇のみどりを濃くしたり 松下信子
手袋とるや指輪の玉のうすみどり 竹下しづの女
手鏡に眉雪の増えしみどりの日 澤田 緑生
打音のビル耳にみどりの昆虫いて 金子兜太
抜き捨てし草もさみどり業平忌 茨木和生 丹生
指もて切るアンカット本みどりさす 有働亨 汐路
掃苔の花にみどりの高野槇 後藤夜半
掌にのせて団栗みどり山に雪 中拓夫
掛稲にまださみどりの匂ひあり 網谷富貴花
搗きあげて湯気もみどりの蓬餅 木内彰志
摺りつぶす豆の音かもみどりなす 林原耒井 蜩
放鳥もみどり染みたり植樹祭 中戸川朝人 残心
文まつやみどりに透ける蝉の翅 川口重美
新学期みどりの芝生弾むごと 岸風三楼 往来
新年の山深く歯朶はみどりなる 室生犀星
新樹かげ水はみどりをひろげけり 佐野良太 樫
新米を掬ふしみじみうすみどり 三嶋隆英
新聞にみどりの頁みどりの日 森松まさる
新茶濃し山河のみどりあざやかに 橋本鶏二 年輪
新藁のみどりほのかに日の匂ひ 宇佐美ふく
日あるらし林の奧のさみどりに 篠原梵 雨
日曜日挿せば花菜のうすみどり 秋篠光広
日照雨来ぬ山蚕のみどり地を這ひて 田中俊尾
日盛りをみどりや斎の膳のもの 大峯あきら 鳥道
早乙女に早苗さみどりやさしけれ 池内友次郎 結婚まで
早乙女の股間もみどり透きとほる 森澄雄「花眼」
明け方の星のみどりや井華水 太田寛郎
明日葉のみどりに元気貰ふ旅 太田光子
明神の花嫁の列みどりの日 小林淑子
春の草陽が眠る間もみどりかな 藤代静江
春の蚊の腹のみどりに辞書の中 中拓夫 愛鷹
春の鴨水こんこんとみどりさす 古舘曹人 砂の音
春寒や媚薬は暗きみどりいろ 田中芳夫
春暁の嶺々のさみどりさむらさき 福田蓼汀 山火
春服も耳輪の石もうすみどり 江川三昧
春蘭の花さみどりに母恋ひし 中村しげ子
春蘭や朝日集めてうすみどり 穂坂日出子
春蘭や雨をふくみてうすみどり 杉田久女
春雨のみどりの音を見てをりぬ 横田幸子
春雨や明治の墓の淡みどり 相生垣瓜人
春雨や桑のしもとのうすみどり 五十嵐播水 播水句集
昭和史のおほかたを生きみどりの日 千手和子
昼顔や海への恐れみどり子に 植松章治
時雨きて若狭の佛うすみどり 山本洋子
晩春のみどりのつまる魚の腸 宇多喜代子
暁やうまれて蝉のうすみどり 篠田悌二郎「四季薔薇」
曇り来し乾し干瓢のうすみどり 細川加賀 生身魂
曇天から垂れて藤の実さみどりに 中村里子
書に倦めば水遣りに出てみどりの日 宮岡計次
曼珠沙華不思議は茎のみどりかな 長谷川双魚 風形
月光に冬菜のみどり盛りあがる 篠原梵 雨
月明に地のみどり見ゆ余寒の子 飯田龍太
朝さくらみどり児に言ふさようなら 中村草田男
朝ひらき人と耕馬の髪みどり 秋元不死男
朝ゆ夕の夕ゆあかときのみどり濃き 林原耒井 蜩
朝刊のわづかな湿りみどりの日 小島良子
朝日まだささぬみどりの湊を発つ 篠原梵 雨
朝露は白夕露はうすみどり 白井麦生
朝顔の終のいろ張るみどり女忌 蓬田紀枝子
木にやどる滴もみどり修司の忌 成田千空
木のみどり 草のみどりに罠かける 津根元 潮
木の下の草のみどりや雪達磨 岡本松浜 白菊
木洩れ日や滝の千筋のうすみどり 飯久保司郎
木賊には木賊のみどり秋はじめ 神尾久美子
札幌のみどり親しや大通り 高浜年尾
杉玉にみどりの残る新酒蔵 佐藤信子
松の花みどり児の頭の重たしや 片山傘人
松みどりむらだつ山も奥まりぬ 飯田蛇笏 雪峡
松むしやみどりの*かやにひとり臥し 蓼太
松島の松のみどりに船遊 高濱年尾 年尾句集
林檎摘果みどりのつぶて地にそそぎ 堀口星眠 営巣期
枝豆の三ツ子のみどり押せば飛ぶ 久保武
枯るる中みどり必死の枝蛙 矢島渚男 釆薇
枯れそめし水藻のみどり日当れリ 高濱年尾
枯菊といえど切口うすみどり 松元峯子
染屋舟みどり涼しき淦汲めり 林翔 和紙
柳川の柳のみどり松のみどり 高濱年尾 年尾句集
栂山のみどりしたたる目覚めかな 白澤良子
桑巻いて昼顔咲かぬみどりかな 飯田蛇笏 霊芝
梅雨の月樹海のみどり波たてず 木下ふみ子
梅雨深しみどりの卵孵りさう 吉田晶二
梨の柄のうすみどり食ひのこされし 飴山實 少長集
梨の花すでに葉勝ちや遠みどり 富安風生
梨咲くと仰ぐに天のふかみどり 相馬 遷子
梵天や天女や流るみどりの空 平井照敏
棕梠咲くやみどりのしづかなる彼方 千代田葛彦 旅人木
森といふみどりの籠のほととぎす 松村多美
森の中みどりの音す昨日苦しみ 和田悟朗
森の精に会ひにゆこうかみどりの日 斉木樹美
森を来し仔鹿に湖もふかみどり 三嶋 隆英
植木屋の値切られ上手みどりの日 鈴木三四郎
植木屋の日の丸立ててみどりの日 添野光子
植樹祭霧もみどりに霧ケ峰 西本一都 景色
植田よりなほさみどりに伊吹山 福田蓼汀 山火
榛の木の芽だち一夜にみどりせり 川島彷徨子 榛の木
檜葉一位ちさく育ててみどりの日 深谷雄大
母つつむみどりの雨やほととぎす 白澤良子
母衣蚊帳の裾のみどりをにぎり寝る 目迫秩父
毛虫もいまみどりの餉を終へ歩み初む 中村草田男「美田」
水古き深田に苗のみどりかな 蕪村「新花摘」
水平に顎を回せり野のみどり 池田澄子
水掛不動冬みどりなる御身の苔 大石悦子 群萌
水桶の蕗のみどりや春火鉢 角川春樹 夢殿
水照るや枯れつゝ萩のうすみどり 渡邊水巴 富士
水盤の絹糸草の夜のみどり 清水忠彦
水神へ走る水音みどりの日 平井さち子 鷹日和
水芭蕉一日みどりの風の中 藤間治美
汝が吊りし蚊帳のみどりにふれにけり 中尾白雨 中尾白雨句集
江は春のみどりの中を朧舟 二柳
江北に植ゑても松のみどりかな 一茶
池水もみどりに返る木の芽かな 嘯山
汲み置きの水に降るものみどりの日 高橋 ちよ
沢音やみどりの紐の花胡桃 山田みづえ 草譜
河鹿鳴く風みどりなす熊野道 鎌田八重子
泡の言葉のみどりご鉄の夜気びつしり 林田紀音夫
泡立てしクリームに角みどりの日 和田順子
波の引く奈落のみどり葉月潮 中村将晴
注ぐ湯にみどりこきまぜ新茶かな 高澤良一 素抱
洗はれし若菜のみどり盛りあがる 長崎小夜子
洗礼のみどりご小さき嚏せり 藤田 宏
洗礼の済みしみどり児風花に 稲畑汀子 汀子第三句集
流れいま薄氷越ゆる浅みどり 成田千空 地霊
流水の渦みどりさし櫻桃忌 近本雪枝
浅き春空のみどりもやゝ薄く 高浜虚子
浅みどり春七草の小籠かな 高橋淡路女 梶の葉
浅間昏れ肩にみどりの闇重し 森 總彦
浚渫船水草みどりなるに来ぬ 細谷源二 鐵
浜木綿の花茎さみどり蟻のぼる 高濱年尾 年尾句集
浦々の潮のみどりや獺祭忌 大峯あきら 宇宙塵
浮塵子きてわが逼塞にみどり見す 村上冬燕
浮草の芽吹のみどり畳なす 大場白水郎 散木集
海に来て山を見てゐるみどりの日 村岡 悠
海はみどりと聞きて秋思のさだまりぬ 細見綾子 天然の風以後
海直ぐに倦むをゆるさぬ田のみどり 成田千空 地霊
消ゆるべく媼みどりの水汲めり 栗林千津
消防署裏にをんなの住むみどり 長谷川双魚 風形
涼しさやみどりごの振る鈴の音 上田圭子
淵は冬みどりのはての黒を帯ぶ 篠原梵
渚駆く小さな素足みどりの日 後藤亀泉
湧水の砂噴き上げるみどりの夜 水野すみ子
湯あがりのみどりご重し夕木槿 羽部佐代子
満山のみどりを籠めて泉湧く 有働亨 汐路
満目のみどりの中の朴の花 泉清流
源泉守る瑠璃鳥の艶みどりさす 田中水桜
源流の村木枯もうすみどり 石川雷児
滝壺のたぎちたぎちてうすみどり 深見けん二 日月
滴りのみどりいろなる近江かな 岬雪夫
潮引いて三月の岩真みどりに 中村洋子
潮騒に混じる島唄みどりの夜 田中正子
濃みどりといふべし春の山鴉 長谷川櫂 古志
濃みどりの榛に植田の風の縞 大熊輝一 土の香
濃みどりの茶摘の三時唄も出ず 平畑静塔
濤声もみどりなすなり鑑真忌 行方克巳「祭」
火を潜りきしガラス器のうすみどり 岡崎淳子
火山湖のみどりにあそぶ初つばめ 飯田蛇笏 春蘭
火山灰を踏む大靴小靴みどりの日 白井爽風
灯に笑みて苺・みどりごバラ科なり 石川貞夫
灯の下に来て馬追のみどり増す 西野たけし
灯台の玻璃はみどりに花大根 伊藤敬子
炊きあげてうすきみどりや嫁菜飯 杉田久女
炬燵ぬるし泣くみどり児を押しつけ合う 田川飛旅子 花文字
無患子のみどりさわなり樹上樹下 石塚友二
熊笹のみどり敷かるる穴施行 冨坂公子
熔岩づたひきて巻柏のみどりあり 木津柳芽 白鷺抄
熱帯魚冬みどりなる藻に住めり 水原秋櫻子
燈籠を容れみどりなる榎かな 萩原麦草 麦嵐
燕の巣みどりのかげのさしゐたり 大野林火
燕去る皿のスープのうすみどり 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
父の梢に涙のみどりごがそよぐ 林田紀音夫
父逝きて父の盆栽冬みどり 相馬遷子 山河
牧開き日輪みどりにまはりそめ 村越化石 山國抄
独楽澄むや山空たゞにうすみどり 村田翠雨
狭庭にもみどり滴り忌に籠る 山口波津女 良人
玉虫の幽きみどりやくちづけす 長崎玲子
玉虫の羽のみどりは推古より 山口青邨「露団々」
生まれたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女「吉兆」
生れたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女
田を植ゑてみどりの夜を眠りけり 樋口翠人(運河)
田中みどりうづくまりゐて落葉焚く 石原八束 人とその影
田植季わが雨傘もみどりなす 橋本多佳子「信濃」
田植機に乗りさみどりの晩年へ 齊藤美規
田植見て心みどりに染まりけり 相馬遷子 山河
申し訳ほどのさみどり七日粥 菱川瑞枝
畦草も小さき花揚ぐみどりの日 小林葭竹
疲れしかみどりの佐渡の深睡り 永田耕一郎 海絣
登呂掘られ蛙さみどり井噴き易し 平井さち子 完流
白兎いで来よ気多の岬は真みどりに 鷲谷七菜子 天鼓
白梅にみどりさ走る夕ベかな 成瀬櫻桃子 素心
白梅の万蕾にさすみどりかな 鷹羽狩行
白紙に土筆の花粉うすみどり 後藤夜半 底紅
白絹につつむみどりご夕桜 加倉井秋を
白藤や揺りやみしかばうすみどり 芝不器男
白魚のひとかたまりのうすみどり 遠藤若狭男
白鳥を呼ぶみどりごも白ケープ 大熊輝一 土の香
百年は生きよみどりご春の月 仙田洋子
目のあたりみどりのこれる鵙の贄 小原啄葉
目ひらけば母胎はみどり雪解谿 加藤楸邨
真四角な石鹸下ろすみどりの日 たかはしさよこ
眼白きてみどりまぎれず山桜 皆吉爽雨 泉声
矢車や谷戸はみどりの朝風に 西島麦南
石仏に山繭みどり鳥過ぎぬ 大野林火
石屋根の露みどり児の力声 岸原清行
石蕗の花極まるときの濤みどり 中拓夫 愛鷹
碾けばみどり茄でてさみどり走りそば 黒田杏子 花下草上
磨りたまる墨のみどりや家康忌 藤田あけ烏
祝ぎの座にみどり子をりて照葉かな 山本洋子
秋っこと土地人の云ふそのみどり 高澤良一 素抱
秋の田や大藪下のうすみどり 木津柳芽 白鷺抄
秋の蚊帳たたみてみどり古りにけり 行方克巳
秋口の星みどりなる嶽の上 飯田蛇笏
秋晴や午にして寺の松みどり 四明句集 中川四明
秋海のみどりを吐ける鳴戸かな 飯田蛇笏 山廬集
秋蚊帳の干さるるみどり天に富士 村越化石 山國抄
稗蒔や疲れたる眼にみどりなり 富安風生
稚海月若布刈の頃をうすみどり 佐野まもる 海郷
稲干すや海にはじまるうすみどり 古舘曹人 能登の蛙
稲架竹にみどりの稲を滴らす 松村蒼石 雁
稲雀飛来選り取りみどりの田 高澤良一 随笑
空も星もさみどり月夜春めきぬ 渡邊水巴
空母「みどり」秋天に泌みいる血友病 攝津幸彦
立秋の草のするどきみどりかな 鷲谷七菜子
竹林を透かして人語うすみどり 木村真呂
笹生吹く風のみどりをうたがはず 伊藤敬子
笹鳴の声のみどりにさす日かな 飯田龍太
筍やみどり児神にまみゆる日 大峯あきら
筒鳥や二十重のみどり揺れかはし 堀口星眠 営巣期
箱眼鏡みどりの中を鮎流れ 宇佐美魚目
箱舟にみどり汲みあげ蓴採 堀口星眠 営巣期
紀の川の水深みどり雛流す 古川悦子
紅き岩みどりの礁磯あそび 富安風生
納豆の糸光る朝山みどり 三好あさ
紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴「水巴句集」
累卵に馬色のあとのみどりさす 中戸川朝人 星辰
細川にみどりのくぐる葉種梅雨 松村蒼石 雪
経ケ岬むらさきけまんうすみどり 正城恵美子
絵双六みどりは松と決まりけり 秋山幹生
綿菓子やみどりの風に眠くなる 鈴木龍生
編みあげて真菰はみどり失はず 村田三夏
編みたての笊も蛇籠もうすみどり 伊藤敬子
編初の毛糸人形みどり児に 山口恵子
縫初はみどりの刺繍糸通す 大宅量子
美しき緻密のみどり絹糸草 大橋敦子(雨月)
羞明や冬もみどりのうまごやし 内藤吐天 鳴海抄
羽子やす~空の濃みどり越えて来る 中島月笠 月笠句集
翁と媼干す干瓢のうすみどり 大野岳翠
老びとの一握のみどり早苗取 青邨
老松のにぎはひ立てるみどりかな 風生
老耄のごとわがみどりはやと瓜 和知喜八
老鴬やさみどり色の声を張り 太田辰子
耳敏くなるみどり児につゞれさせ 山崎天誅子
育種以後も稲の葉みどり黒き遺髪 香西照雄 対話
胡瓜いでて市四五日のみどりかな 大江丸
胡麻煎ってしっかり摺つてみどりの日 大津幸奈
胸の辺にひらかむと百合うすみどり 石田あき子 見舞籠
胸元にみどり射し込む夏茶碗 殿村菟絲子「路傍」
能面の鬚抜けし穴みどり風 小山和男
自転車の灯を取りにきし蛾のみどり 黒田杏子
自転車の空気入れたすみどりの日 井門 伸
船長の子犬をもらふみどりの日 夏井いつき
良寛の気性さながらみどり立つ 高澤良一 寒暑
色変へぬ松のみどりや夫婦鶴 小俣由とり
芋虫の体液もまたみどりなる 大木孝子
芭蕉枯れ萩枯れ吾に少しみどり 窪田丈耳
花の前に何のみどり木押し出せる 廣江八重櫻
花御堂杉菜のみどりやはらかく 山田弘子 初期作品
花紅く草みどりなり煙柳忌 飯田蛇笏 山廬集
花繁に樟のみどりの八雲たつ 高山れおな
花鋪の日覆みどりに夏きたる 西島麦南 人音
苗代に湖の温泉ひくみどりかな 西本一都 景色
苗代の真澄みに松のみどり立つ 飯田龍太
若松の若きみどりをたゝへけり 高浜虚子
若水のみどりあふるゝ国に在り 岸秋渓子
若牛の角もみどりに早苗どき 百合山羽公
若草を摘む指先のみどりなる 三好菊枝
若菜野の濃みどり若菜のみならず 皆吉爽雨
苦瓜といふ悶々のうすみどり 坂巻純子
茂吉忌の馬酔木初花うすみどり 石田あき子 見舞籠
茅舎忌の身近なみどり箱パセリ 井伊直子「文字に彩」
茶を摘みて木幡のみどりなくならず 辻田克巳
茶を摘むや胸のうちまでうすみどり 本宮鼎三
茶柱のたちて新茶のうすみどり 森田敏子
茹で上げて花菜のみどり深めたる 澤村昭代
茹で上げて青菜のみどり日脚伸ぶ 新井和子
草の門からまみどりの鳥また老女 武田伸一
草枯や時無草のささみどり 室生犀星
草萌や燐寸ももてるみどりの火 耕二
草餅に草の天麩羅みどりの日 御子柴弘子
草餅のみどりひとすぢ濃かりけり 小島健 木の実
草餅の湯気も濃みどり女人寺 大見川久代
菜のみどり燦爛として冬を待つ 有働亨 汐路
菜の花や阿吽の苔もうすみどり 安東次男 昨
華と見しみどりの極み帚草 北原志満子
菱浮葉いまだ汚れぬみどりかな 高濱年尾 年尾句集
萍のしんとみどりの一帝国 高澤良一 素抱
萩焼の湯呑に地酒みどりの夜 河野頼人
落し文端のみどりを残しけり 森田峠 逆瀬川
落柿舎の年初の苔の常みどり 高澤良一 燕音
落葉して竹林みどりとりもどす 吉村ひさ志
落葉松のみどりさす兜飾りけり 堀口星眠 営巣期
落葉松の林の中のみどりの日 高村遊子
落葉松の萌えて河原湯みどりなす 大島民郎
葉がくれに咲く夕顔のうすみどり 軽部烏頭子
葉のみどりかたちうしなひ車窓過ぐ 篠原梵
葉櫻のみどりに甚しくひがむ 藤後左右
葎生の枯にひそみしうすみどり 中村祐子
蒙古斑鮮やかに浮きみどりの日 広瀬杜志
蓋取れば湯気もみどりや菜飯盛る 佐藤扶紀子
蓬莱の千古のみどり掛けにけり 野村喜舟 小石川
蓮如忌の雪をおろせば湖みどり 大峯あきら
薄氷の下のうすうすみどりなる 渡辺しづ
薄氷や藁二三本うすみどり 本宮哲郎
薺洗ふ掌の中みどりたのしめる 中城浪香
藁屋根の氷柱みどりに早起き村 桜井博道 海上
藷掘りて島は目にたつみどりなし 佐野まもる 海郷
藺を植ゑしばかりのみどり見渡され 高浜年尾
蘆影をおき萍にみどりさす 古舘曹人 砂の音
虎杖を手折るみどりの音を立て 日比野里江
虎河豚の怒り極めてみどりの目 沢木欣一
虚子の忌を瀬戸内海のふかみどり ともたけりつ子
虹濃くて苗田のみどりひきしまる 内藤吐天 鳴海抄
蚕豆のみどり香走る五月来ぬ 鈴木真砂女 夕螢
蛇脱ぎしばかりの衣のうすみどり 宮内克樹
蛍獲(え)て少年の指みどりなり 山口誓子 青女
蛍獲て少年の指みどりなり 山口誓子「青女」
蛾の卵しかと着きゐてうすみどり 高橋馬相 秋山越
蛾の翅うすみどりなり何かせむ 青池秀二
蜂の声山のみどりが部屋にさす 太田鴻村 穂国
蜉蝣の命透かせてうすみどり 岩村節子
蜘蛛の囲もあさみどり帯ぶ芦の間に 高澤良一 素抱
蜜豆のみどりや赤や閑職や 北登猛
蜻蛉の一碧の空みどり女忌 石川冬扇
蝉の羽化さみどりの羽根ひりひりり 山本君枝
螢獲て少年の指みどりなり 山口誓子
蟇老いてみどりにしたがへり 長谷川双魚 風形
蟷螂のみどりの活路横目して 古舘曹人 能登の蛙
蟷螂のみどりみづみづしく怒る 山田弘子 こぶし坂
蟷螂の一枚の屍のうすみどり 古舘曹人
蟷螂の枯れゆくみどり遍路道 山内遊糸
蟷螂の死のまみどりに雪が降る 龍太
血管のみどりの肌朝すゞし 片山桃史 北方兵團
血重く立つ西空のみどりの樹 桜井博道 海上
行きずりの家にみどりご帚草 児玉輝代
行水や暮れゆく松のふかみどり 金尾梅門
表札に加う吾子の名みどりの日 野村かおり
表札を洗ふみどりの戦火かな 攝津幸彦
褐色の蟷螂にしてみどりの目 粟津松彩子
見てゆくや早苗のみどり里の蔵 言水
覗く一瞬誤解のみどりの小鳥 金子兜太
観潮の渦まみどりに耀るときも 後藤比奈夫 めんない千鳥
観覧車のてっぺんにをりみどりの日 牧野春江
豆の筋たまりてそれもみどり色 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
貝寄風の海のみどりの涙壷 野見山朱鳥
貸ボート皆出払ひしみどりの日 富岡掬池路
赤坊に水無月の宵うすみどり 福田蓼汀 山火
赤彦の墓にみどりの落し文 五味美子
起伏の丘みどりなす吹流し 角川源義「ロダンの首」
転げ落つ鳥の古巣に藻のみどり 別所信子
追肥に陸稲のみどり夏至曇る 大熊輝一 土の香
逃げ水や麦はみどりの畝つめて 岡本まち子
逢坂の雨のさみどり蝉丸忌 山田弘子「懐」
連翹やみどりごは尿高くあげ 朝倉和江
週末のサラダはみどり春の雪 阿久澤博幸
遠き田の穂立ちたるらむうすみどり 篠原梵 雨
遠郭公山裾の田のうすみどり 大熊輝一 土の香
邯鄲や荷葉のみどりなかなかに 伊丹 丈蘭
郵便受きれいに拭いてみどりの日 小山泰子
野はたのし芽麦のみどりあはけれど 長谷川素逝 砲車
野外能小督に蹤き来し風みどり 大石悦子 群萌
金柑の種さみどりや松の内 大屋達治
銀杏のみどりを皿に風の音 三村絢子
銭苔のうすきみどりの冬木なる 篠原梵 雨
錆鮎の蓼酢のみどり濃かりけり 粟津松彩子
錦木の花のみどりのうすうすと 椎野房子
鎌原と聞けば身に入む菜のみどり 岡本 眸
門松のみどりしづかな雪となる 井沢芹風
門松のみどり目立つや桑畑 滝井孝作 浮寝鳥
間引菜のみどり柔らに朝餉汁 粂田美智子
闇にたつみどりの蒸気松の芯 渋谷道
闇を来し馬追の翅さみどりに 山田弘子 螢川
雛菊にみどり児の眼は常に澄む 吉村ひさ志
雨つよく降りてみどりの日なりけり 辻田 克己
雨となり硝子器に茂るみどり児 阿部娘子
雨の中淡きみどりや罌粟若葉 川口咲子
雨の日の木五倍子の花のうすみどり 鳥居みさを
雨はみどり放流の鮎瀬になじみ 金子 潮
雨月なる卓にみどりのマスカツト 波多野爽波 鋪道の花
雨永し樟樫椎のみどり重ね 中戸川朝人 残心
雪に挿す榊のみどり鍬始め 古市枯声
雪代や檜山のみどり流しつつ 大石悦子 聞香
雪割ると仄めくみどり鳩の胸 成田千空 地霊
雪女けふもみどりの布団にゐる 飯島晴子
雪晴れの月こそあなれ浅みどり 林原耒井 蜩
雪野原涯に昼餉のうすみどり 平井久美子
雲翳り森のみどりをいだききぬ 川島彷徨子 榛の木
電子辞書に鳥のこゑ聞くみどりの日 岩橋玲子
霊泉に散る風花のうすみどり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
霜の中小さきみどりクロッカス 定別當明子
霧ゆらぐ咫尺に羊歯のにひみどり 瀧春一 菜園
露かわく葉の濃みどりに菊の虫 西島麦南 人音
露の畦みどり十字に村境 大熊輝一 土の香
青き煙は秋みどりなる森へゆく 大井雅人 龍岡村
青柿に降るやみどり子泣かしおく 齋藤玄 飛雪
音たてて落ちてみどりや落し文 原石鼎「花影」
風みどり伎藝天女の指の間 角光雄
風みどり母が蕗煮る時かけて 古賀まり子
風垣の網代追ひ挿す葉のみどり 安達実生子
風止みてみどり戻りぬ風知草 井桁蒼水
風邪の目にはや下萌の浅みどり 石井露月
颱風に籠る戸のひまみどりだち 高橋馬相 秋山越
飛んでまたみどりに入るや松啄 惟然
餅白くみどり児の唾泡細か 中村草田男
餅花や柳はみどりはなの春 西鶴
馬が瞬く刈田の闇にみどりの畦 中拓夫 愛鷹
馬はみどりに原子炉の球体岬 駒走鷹志
馬追のいのち果つるもうすみどり 藤井 彰二
馬追のみどりを闇へ戻したる 新開一哉
高浪の葛に必死のみどりかな 飯田龍太
魂もみどりなるべし手の螢 黒田櫻の園
魂棚やみどりまぎれず子蟷螂 千代田葛彦 旅人木
鮎帰る山河みどりを尽しけり 福田甲子雄
鯛に敷く竹も春なるみどりかな 岡本松浜
鰤敷にみどりの星も上りたる 大峯あきら 宇宙塵
鳥声をひとつ覚えてみどりの日 本田はじめ
鳳笙にみどりご眠り初ざくら 藤田直子
鶯菜洗い上げたる浅みどり 木梨皓一
鶴あゆむ二日の畦のうすみどり 米谷静二
麦の芽のみどりすくすく育ちゐる 安藤津子
麦の芽はあふるゝみどりつゝみかね 高橋馬相 秋山越
黒い蝶みどりの蝶も句にならず路地に戻りて妻に叱らる 橋本夢道 無類の妻
黒土をもらひて帰るみどりの日 永野 祥子
黒文字の花はみどりの四月かな 野瀬知佐
黒猫のひとみのみどり野分晴 沢田まさみ
龍太居の松みどり摘む高梯子 上野さち子
龍馬像松のみどりをそそらしめ 高澤良一 寒暑
●翠 
むらぎもゝ翠さすなり旅二日 高橋睦郎 金澤百句
わが庵は翠微に近く書をさらす 四明句集 中川四明
七夕の竹の穂見ゆる翠微かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
余花一朶翠の中に匂はしや 竹冷句鈔 角田竹冷
六月の翠巒を照る日が胸に 柴田白葉女 『夕浪』
出荷後の残り翠菊瓶に挿し 原作一
前山の翠へんぽん鯉幟 小原菁々子
地震ふりて翠微もつるる袋掛く 西本一都 景色
夕寒み翠簾に散る梨の花吹雪 梨の花 正岡子規
大鋸屑をまぶれど蟹の翠さす 高橋睦郎 荒童鈔
客人に埋火小さき積翠忌 辻口静夫
家ふりて幟見せたる翠微かな 蕪村「新花摘」
小春日のかげり早さや翠黛山 西山泊雲 泊雲句集
市に栖んではつかに蚊帳の翠かな 村山葵郷
待花や翠にかへるくづれ樽 調和 選集「板東太郎」
打水す娘に翠巒の雲ゆけり 飯田蛇笏 春蘭
昼顔や翠濤老と浜に出づ 高浜虚子
杉の秀にわだの翠眉や秋夕焼 富安風生
梅雨鳥の籠りてゆるゝ翠薇かな 前田普羅 飛騨紬
梨花の雪どびの雪翠簾の夢寒し 梨の花 正岡子規
武蔵野に翠したゝる筑波哉 滴る 正岡子規
水や空翠の生絹うちひろげ 呂丸
水無月の故国に入れば翠かな 日野草城
河床涸れ翠巒痩せつ秋燕 林翔 和紙
清明や翠微に岐る駅路 松瀬青々
瀧殿に積翠の文字掲げあり 中戸川朝人 尋声
白菜の一圃の翠抜ん出たり 石塚友二 方寸虚実
稲妻のはら~かゝる翠微かな 鈴木花蓑句集
穂翠亡し春田どかどか踏まれたり 宮坂静生 樹下
竹も翠に加はり山を高うせり 中戸川朝人 星辰
紅梅に檐は古びぬ翠簾作り 紅梅 正岡子規
紅梅や翠簾のすき影衣の音 紅梅 正岡子規
紅梅や翠簾をこぼるゝ緋の袴 紅梅 正岡子規
練供養翠微の雨のなか進む 高木石子
翠岱をボートの水に市民の日 石塚友二 方寸虚実
翠巒にかかる暮靄や田を植ゑし 吉武月二郎句集
翠巒に杣家のあぐる施火の煙 飯田蛇笏 霊芝
翠巒のいつ鷹放つ大暑かな 飴山實 『次の花』
翠巒の幾重の波に鯉のぼり 山内遊糸「蘇鉄」
翠巒の落ち込む流れ瓜冷やす 平松荻雨
翠巒や風を漉き込む吉野紙 倉田勝栄(けごん)
翠巒や鵜川しぶきてしづかなり 伊藤敬子
翠巒を降り消す夕立襲ひ来し 杉田久女「杉田久女句集」
翠帳にさしこむ春の朝日かな 春日 正岡子規
翠帳にさしたる月や畑の上 月 正岡子規
翠帳に御池の蛙聞く夜かな 蛙 正岡子規
翠張につらぬきとめし破魔矢かな 飯田蛇笏 山廬集
翠微にもかさねて早苗束投ぐる 井沢正江
翠微より現はれきたるボートかな 岸風三楼 往来
翠微来し巣立鶺鴒尾を振れる 西本一都 景色
翠簾(みす)際に秋海棠の袂かな 立花北枝
翠簾ごしの美人の顔や朧月 朧月 正岡子規
翠簾ちぎれ蔀荒れたりちり紅葉 蓼太
翠簾の灯のこぼれてさむし御仏名 浪化
翠簾懸て一重に白し梅の花 椎本才麿
翠簾捲けば夏山うつる鏡かな 夏山 正岡子規
翠簾越しの誰に落ちけんくらべ馬 蓼太「蓼太句集初編」
翠菊や夫の不安はわが不安 石田あき子 見舞籠
翠菊や妻の願はきくばかり 石田波郷「雨覆」
翠菊や寄りあひてゐしつかのまを 小池文子 巴里蕭条
翠蔭に幽魂あそぶ修那羅かな 西本一都
翠蔭のおよぶや洋燈ひそとあり 文挟夫佐恵 黄 瀬
翠陰をたたふる幹を叩きては 綾部仁喜 寒木
翠黛(すゐたい)の時雨いよいよはなやかに 高野素十(1893-1976)
翠黛とひもすがらある櫻狩 後藤夜半
翠黛と日もすがらある桜狩 後藤夜半
翠黛に聖燭節の雨げしき 飯田蛇笏 霊芝
翠黛に雲もあらせず遅ざくら 飯田蛇笏
翠黛のもと蒟蒻の花咲きぬ 松瀬青々
翠黛の明暗雨の時鳥 稲畑汀子
翠黛の時雨いよいよはなやかに 高野素十
翠黛も王昭君も菖蒲の芽 行方克己 知音
老鴬に雲ゆきのこる翠微かな 飯田蛇笏 霊芝
胸乳は/ 翠/鈴鹿に/春の丘づくし 林桂 銀の蝉
花ふぶき翠簾をかかげる采女哉 井上井月
蒼翠を穿ちて白き夏の湖 富安風生「喜寿以後」
蓮世界翠の不二の沈むらく 素堂「虚栗」
蓮世界翠の不二を沈むらむ 山口素堂
蚊屋つりて翠微つくらむ家の中 蕪村 夏之部 ■ 諸子此枝の僧房に會す、余はいたづきのために此行にもれぬ
蠅帳の裡の翠微や胡瓜もみ 吉屋信子
行く春を翠帳の鸚鵡黙りけり 行く春 正岡子規
野分荒れて翠簾に押さるゝ女哉 野分 正岡子規
野生馬にたかる虻の目翠なり 矢島渚男
金魚玉に聚まる山の翠微かな 青木月斗
青天を余し翠微を織る飛燕 香西照雄 素心
青嵐樫の翠はいとけなき 石塚友二 方寸虚実
騎射の日の晨晴れたる翠微哉 露月句集 石井露月
鷺翔けて雷遠ざかる翠微かな 飯田蛇笏 霊芝
●緑色 
みどり色脱げば芋虫走れさう 木村淳一郎
利根川一月見たるは緑色漁法なり 阿部完市 春日朝歌
火の島の我ら緑色細胞であり 大西健司
緑色とくるい兎の一淋し 阿部完市 春日朝歌
緑色薬瓶 乾く 僧院の黙った刻 伊丹公子 パースの秋
蜘蛛の囲も緑色なる製茶場 鈴木かづ
裏側は緑色なり朧月 中田美子
●紫 むらさき 
*はまなすや豊後水道濃むらさき 横山康夫
あけぼのやますほのすゝきさむらさき 高橋淡路女 梶の葉
あたたかやうすむらさきの玻璃の玉 川島彷徨子 榛の木
あやめむらさき死んだピカソも半裸なれ 竹中宏 句集未収録
いくさ無しむらさきすべく青葡萄 中村草田男「来し方行方」
いちじくを割るむらさきの母を割る 黒田杏子 花下草上
いにしへのむらさき野より若菜籠 北川英子
いややさしむらさきしきぶをりもてば 山口青邨
うき草にむらさきはしる秋の雷 篠田悌二郎
うすむらさき身上として寒あやめ 大橋敦子
うすものゝ重り合ひて濃むらさき 青邨
うすらひのなかのむらさき安楽死 神尾久美子 桐の木
うちむらさきありてひろがる夜の想ひ 大石悦子 群萌
うつぼ草うすむらさきに窓昏るる 釘宮のぶ
おほむらさき太虚(おほぞら)も又年経たる 河原枇杷男
おほむらさき小便小僧の視線 梶浦玲良子
おほむらさき眼前濡らし過ぎゆけり 九鬼あきゑ
かきつばた江戸むらさきは考妣かな 加藤郁乎 江戸桜
かな女忌のむらさきの野に月あがる 落合水尾
かな女忌の来る鉄線の濃むらさき 殿村菟絲子(馬酔木)
かはほりの頭上にきたるまむらさき 黒田杏子
からくりの布袋のむらさきうすごろも 高澤良一 素抱
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
きちこうや白に後れし濃むらさき 耒井
けだるさの桐むらさきに咲きにけり 岸風三楼 往来
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火
こつそりと泳ぎて唇のむらさきに 品川鈴子
ことの忌の雨のむらさき華鬘かな 鈴木しげを
こなきおとめおだまきのはなまむらさき 永野孫柳
この島の椿は散りぬむらさきに 軽部烏帽子 [しどみ]の花
こばん草添ふむらさきの墓尺余 桂樟蹊子
しろがねのやがてむらさき春の暮 草間時彦 櫻山
しんかんと七月いたり母がため茄子もてつくるむらさきの馬 塚本邦雄
すゞしろの花むらさきや省亭忌 碧雲居句集 大谷碧雲居
ちる木槿ナイフ・フォークに軽いむらさき 渋谷道
ちんぐるま掌にむらさきの日暮れあり 菅野梢
つるむらさき歩いては身の忘らるる 岡井省二
ときめきの色に出でたる実むらさき 高澤良一 宿好
なた豆や垣もゆかりのむらさき野 蕪村
なみだしてうちむらさきをむくごとし 石田波郷
はぎれ屋の風のむらさき大根焚 関戸靖子
はだれ野の風むらさきに妻が来る 伊藤松風
ひかる野の芝むらさきの芽をひむる 川島彷徨子 榛の木
ひぐらしに寡婦むらさきの着物縫ふ 藤木清子
ひしひしと充ちゐむ花を思ひつつむらさきの貝を水に放てり 槙弥生子
ひろがりて雲もむらさき花樗 古賀まり子
ふるさとの彩はむらさき桐の花 水落蘭女(ぬかるみ)
ほたるぶくろむらさきだちて霧に浮く 八木絵馬
みせばやのむらさき深く葉も花も 山口青邨
みちのくの星むらさきに凍てにけり 岸風三楼 往来
みちのくの郁子山風をむらさきに 平沢陽子
むらさきしきぶかざせば空とまぎれけり 草間時彦
むらさきにちかきくれなゐ鶴の疵 八田木枯
むらさきになりゆく二羽の青鷹(もろがへり) 矢島渚男(1935-)
むらさきになりゆく墓に詣るのみ 中村草田男(1901-83)
むらさきに佇てば白恋う菖蒲園 花谷和子
むらさきに変りし蓮や魂祭 後藤夜半 翠黛
むらさきに夜は明かゝる春の海 高井几董
むらさきに暮るる遠山田鳧鳴く 今井さだ子
むらさきに暮るゝ障子や雛の窓 高橋淡路女 梶の葉
むらさきに暮れゆく島や花火待つ 本多 勝彦
むらさきに松魚泳がし宵の酒 高澤良一 素抱
むらさきに染まりし塩や茄子漬くる しぐれ
むらさきに水晶山の冴え返る 友岡子郷 遠方
むらさきに海昏れのこる葛湯かな 樋口桂紅
むらさきに煙る沖島冬の雁 池田まつ子
むらさきに白夜の孤島火を焚けり 石原八束 白夜の旅人
むらさきに統べし紅葉の活火山 伊藤敬子
むらさきに見よや桔更を手向艸 高井几董
むらさきに違はぬ桔梗の信(まこと)かな 高澤良一 寒暑
むらさきに遠嶺かがやき寒晒 鈴木虚峰
むらさきに隣る白藤見えわたる 下村槐太 光背
むらさきに雷起す葛の花 萩原麦草 麦嵐
むらさきに鞴初めのほのほかな 石沼雨耕子
むらさきに頃も薄暑のごむの花 松瀬青々
むらさきに顔枯れて巣の女かな 八木三日女 赤い地図
むらさきに骨正月の鰤の塩 後藤夜半 底紅
むらさきのあやめの夕日わが額に 阿部みどり女
むらさきのうすむらさきの室の花 久垣大輔
むらさきのかすみの富士を寝ててきく 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
むらさきのこゑを山辺に夏燕 飯田蛇笏「椿花集」
むらさきのさまで濃からず花菖蒲 久保田万太郎
むらさきのはつきり都忘かな 後藤比奈夫 金泥
むらさきの中白菖蒲白堪ふ 殿村菟絲子 『晩緑』
むらさきの他人ふたりがみてとおる 阿部完市 軽のやまめ
むらさきの僧晴天の栗の花 小檜山繁子
むらさきの冬夕焼を掌にすくふ 古舘曹人
むらさきの冬芽や虫穴のごとき両眼 長谷川かな女 花寂び
むらさきの南部しぐれとなりにけり 黒田杏子 花下草上
むらさきの夜空の下の桜かな 楠目橙黄子
むらさきの大紐つけぬ腰布団 鈴木薊子
むらさきの寄つてたかつて花蘇枋 正木ゆう子 悠
むらさきの寝釈迦の前に薬掘る 池田世津子
むらさきの山いく重にも冬来る 播磨かをる
むらさきの山気そのまま沢桔梗 渡辺恭子
むらさきの山河残して燕去る 鷹羽狩行 十友
むらさきの後れはとらじ油点草 後藤夜半 底紅
むらさきの御肉がひとつ雲の峯 攝津幸彦 鹿々集
むらさきの折紙ひらくごと桔梗 石川星水女
むらさきの散れば色無き花樗 松本たかし
むらさきの森を掠めて小鳥来る 正木ゆう子
むらさきの泡がたちをり茄子漬 『定本石橋秀野句文集』
むらさきの流星垂れて消えにけり 佐藤念腹
むらさきの深くて黒や鴨の胸 正木ゆう子 静かな水
むらさきの砂の流れや風信子 小菅佳子
むらさきの総あり狩の行厨に 吉本伊智朗
むらさきの肝啖うてをり三社祭 渡辺二三雄
むらさきの色を惜まず花蘇枋 飯島正人
むらさきの色衿重ね初鏡 影島智子
むらさきの花のジャガイモ海たひら 山口青邨
むらさきの花の五月の谷間かな 折井紀衣
むらさきの花の天あり桐畠 時彦
むらさきの褪せしがごとく昼寝覚め 加倉井秋を 午後の窓
むらさきの野の突端に初日の出 落合水尾
むらさきの雲押しのぼる春の雷 山口青邨
むらさきの靄を引き寄すラベンダー 菊地弘子
むらさきの風となるとき諸葛菜 稲畑汀子
むらさきの風呂敷包み春山河 藤岡筑邨
むらさきの鯉をしづめて麦の秋 石田郷子
むらさきの鳶職がゐる処暑の寺 田中睦枝
むらさきはむらさきの渦薔薇匂ふ 漁 俊久
むらさきは似合はずなりし春の雪 久米正雄 返り花
むらさきは君が日傘やくれやすき 芥川龍之介
むらさきは執念のいろ葛の花 新谷ひろし
むらさきは忘られやすし苧環も 津森延世
むらさきは恨ふかき色花菖蒲 丸山哲郎
むらさきは月の匂ひの霜ばしら 千代田葛彦
むらさきは朱よりも艶にホクシヤ咲く 岸風三樓
むらさきは母の面影杜若 佐藤吟秋
むらさきは紫のまま菊枯るる 片山由美子
むらさきは虹の欠けいろ逢ひがたき 一瀬信子
むらさきは都忘れや虚子の塔 原裕 出雲
むらさきは霜がながれし通草かな 渡邊水巴
むらさきは須臾に暮色へ桔梗の芽 篠田悌二郎 風雪前
むらさきも水晶さむし買始 渡辺水巴
むらさきも濃し白も濃し花菖蒲 京極杜藻
むらさきも碧も焔のいろ西行忌 神尾久美子 桐の木以後
むらさきを地に低くして仏の座 笹木弘
むらさきを深く信濃の葛の花 片山由美子 水精 以後
むらさきを着ると決めたり年忘 宇多喜代子
むらさきを秘めきれぬ白花菖蒲 稲畑汀子
むらさきを見せむと解きし糸繰草 橋本ひろ子
むらさき圧降下剤はあねもね 田村みどり
むらさき茸夜は土色となつてをり 石脇みはる
もう一彩むらさき欲しき雛あられ 高澤良一 素抱
もぎに出るうちむらさきも忌日かな 銀漢 吉岡禅寺洞
もてなしの火をむらさきに柳葉魚焼く 竹田てつを
もらひ来し通草のむらさき雨となる 横山由
ゆづり合ふ袖摺坂や実むらさき 由木まり
ゆふぐれは地よりむらさきしきぶの実 大石悦子 群萌
よべの雨遠ひかりしてみむらさき 関戸靖子
わが庭の藪はむらさき初日の出 青邨
をみならの山旅の荷に実むらさき 有働 亨
アスパラガスほのむらさきと掘りあげし 小池文子 巴里蕭条
アネモネのむらさき濃くて揺らぐなし 水原秋櫻子
アネモネのむらさき面会謝絶中 石田波郷
アネモネや来世も空は濃むらさき 中嶋秀子
アネモネや煙草のけむりむらさきに 館岡沙緻
アルミ貨のふれあふ音す泪夫藍のむらさきに秋の日とどくとき 栗木京子
エリカ咲くひとかたまりのこむらさき 草間時彦
グラスの酒透けりアネモネ濃むらさき 柴田白葉女
コスモスや遠嶺は暮るゝむらさきに 五十崎古郷句集
リラ一日暮れぬまなうらむらさきに 堀口星眠 営巣期
万葉のむらさき芽吹き人丸忌 藤小葩
上元や靴むらさきに帰化夫人 中尾杏子
中世(なかのよ)はむらさきにして美濃をながれ 渋谷道
久女忌の髪むらさきにしてみたき 姉崎蕗子
亀鳴くや太古の海のまむらさき 二村典子
人は今むらさき深き草を干す 篠田悌二郎
人去れば藤のむらさき力ぬく 澁谷道
人声のむらさきとなる釣船草 木村小夜子
人形の髪むらさきや暑気中り 山口広子
伊夜比古の山むらさきや神無月 倉田松仙子
休日は眠るむらさき式部の実 津高里永子
休窯むらさき紫蘇の吹かれをり 猪俣千代子 堆 朱
信濃路は萩のむらさきぐもりかな 堀口星眠 青葉木菟
倖あれと友が掌に置く実むらさき 石田あき子 見舞籠
元日のむらさきにほふ闇に覚む 篠原梵 雨
元日や湖畔の焚火むらさきに 青陽人
入相の山むらさきに春日かな 春日 正岡子規
八ケ岳むらさき頒けし葡萄かな 久米正雄 返り花
冬こもりうちむらさきをもらひけり 冬籠 正岡子規
冬眠の地のむらさきに藁を撒く 佐野美智
冬草のむらさき極む耐ゆるさま 青邨
冬蝶やうすむらさきを日にひらく 大橋愛子
冬鵙の翔つむらさきの先を読む 鳥居おさむ
冷え性のけふもむらさきけまんかな 辺見京子
冷たしや式部の名持つ実のむらさき 長谷川かな女 花 季
切りためて子が持つ桔梗むらさきの色を流して野の風の中 河合恒治
初さくら貝むらさきに山きゆる 角川春樹 夢殿
初凪の安房の礁のこむらさき 草間時彦
初弁天むらさきかすむ竹生島 和田祥子
初時雨帯むらさきに逢はむとす 河野多希女 琴 恋
初比叡むらさききざす風のこゑ 加藤耕子
初硯墨むらさきに匂ひけり 田中美智子
初秋はうすむらさきの遠嶺かな 豊田都峰
初筑波午後へむらさき深めけり 神原栄二
初茄子切るむらさきの雨の中 関口倭文枝
初雪や膵臟のかげうすむらさき 塚本邦雄 甘露
初霜やむらさきがちの佐久の鯉 皆川盤水
初音せりほのむらさきの雑木山 田中季子
刻一刻虹はおのれを溶かしをり きくちつねこ「うぶむらさき」
加波筑波雲むらさきに蕪村の忌 井水貞子
北海は海豹泳ぐときむらさき 富澤赤黄男
南国の日陰むらさき白牡丹 中戸川朝人 残心
受難節の日矢むらさきに雪の原 鷲谷七菜子
古九谷のむらさきは冬の言葉かな 山田みづえ
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに 草田男
呂丸忌の雪むらさきに羽黒山 神林久子
地に満ちてむらさき杳き寒葵 上井みどり
夏草の丈より高野歯朶むらさき 長谷川かな女 花寂び
夕の日に色を育てて実むらさき 加藤武夫
夕べとはむらさきの刻紫蘇にほふ 藤岡筑邨「城ある町」
夕月や草むらさきに上り鮭 古舘曹人 砂の音
夕潮にうすむらさきの海月かな 大橋櫻坡子 雨月
夜の蜆うすむらさきの吐息せり 平井あい子
夜をこめて咲きてむらさき時鳥草 後藤比奈夫 花びら柚子
夜桜のむらさき色に責めらるる 宇多喜代子
大地より噴きてむらさきヒヤシンス 斎藤 道子
大年のむらさきだちし夕欅 高澤良一 ねずみのこまくら
大根蒔くむらさき濃ゆき風のなか 角川春樹 夢殿
大綿や昔は日ぐれむらさきに 大野林火
大藁屋幕むらさきに春祭 藤岡筑邨
天空のうすむらさきを鶴舞へり 上野さち子
天行やむらさきつよき田螺和え 永田耕衣 殺祖
失速す朝のたてがみ無視のむらさき 攝津幸彦
女らは声深めゆき実むらさき 加藤知世子
女工らの春愁荷縄むらさきに 香西照雄 対話
女等は声深めゆき実むらさき 加藤知世子
如月やうすむらさきの蜆殼 増田龍雨
妻癒えぬ朝むらさきに寒しじみ 綾部仁喜
娘とは何時も少女や実むらさき 板津 堯
子はみどり母はむらさき色の眠り 鎌倉佐弓 天窓から
安達太良の山はむらさき白秋忌 藤田あけ烏 赤松
宋硯の青やむらさき更衣 加藤知世子 花 季
実むらさきいよいよものをいはず暮れ 菊地一雄
実むらさきほどの恋ならこのさきも 仙田洋子 雲は王冠以後
実むらさき一語もて足る友欲しき 松村多美
実むらさき亡き師の言葉序にかへて 八牧美喜子
実むらさき僧の衣と色合はす 牧野春駒
実むらさき嘴よりこぼす山鴉 阿久津渓音子
実むらさき女流は育ち易きかな 後藤比奈夫 めんない千鳥
実むらさき女等は声深めゆく 加藤知世子 花 季
実むらさき心のおしゃれ説く尼僧 大野栄子
実むらさき明治の妣の気骨とも 浜崎古都
実むらさき松の廊下の跡にかな 奥村香都子
実むらさき榾の残り火きよらかに 望月たかし
実むらさき水の深みに目のゆきぬ 手塚美佐 昔の香
実むらさき水音に急ぐ色なるか 河野多希女
実むらさき流れのごとき京言葉 鈴木としゑ
実むらさき色を深めし寒露かな 池田秀水
実むらさき軽みの系譜を考ふる 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
実むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子
室の津の歌ひ女の哀実むらさき 志摩知子
寄居虫のむらさきいろは怒りなり 石倉夏生
寒蜆むらさきのいろせめぎあふ 岡本まち子
寒餅やむらさきふくむ豆のつや 室生犀星(1889-1962)
實むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子 一木一草
寺に駕籠寺領にむらさきしきぶかな 嶋野國夫
?のと瓢まだ明けぬ空のむらさき恵方かな 上山トキイ
小春日のうすむらさきのひとりかな 峠谷清広
小流れを跳びてこぼしぬ実むらさき 及川貞
少年の日へ山葡萄むらさきに 小林夏冬
山の色けふむらさきや日向ぼこ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
山彦やむらさきふかく春の嶺 池田秀水
山焼きの烟むらさきに捲きのぼる 石原八束 空の渚
山脈の遠むらさきや葱囲ふ 三橋迪子
山葡萄むらさきこぼれ山日和 水原秋桜子
山藤のうすむらさきにじゃれる虻 高澤良一 素抱
山藤のむらさき散り込む魚道あり 高澤良一 素抱
岩かげろふ暑し菫のむらさきに 太田鴻村 穂国
峡の空夜はむらさきに星祭る 駒敏郎 遠天
川がらす露撥ねし尾羽むらさきに 堀口星眠 火山灰の道
帰り花濃きむらさきも悼むなり 稲垣きくの 黄 瀬
帰省子に雨の紫陽花濃むらさき 水原秋桜子
干蒲団うすむらさきに沖はあり 菅原鬨也
平安の恋はむらさき杜若 木村仔羊「柿葉」
底紅忌うすむらさきに昏れにけり 肥塚艶子
庭石菖野生といえどむらさきに 松田ひろむ
式部の実むらさき初めて婚約す 石寒太 翔
弥生尽むらさき帯びし招魂祭 近藤 弘
形見なる裾むらさきの春袷 きくちつねこ
影むらさき霜を染なす旭かな 杉 風
後退る桐のむらさき見ゆるまで 村上美枝
恋もなき時雨の貯炭むらさきに 小林康治 玄霜
恋草の若むらさきも萌えにけり 星野麦人
恵方なる名もなき山のこむらさき 豊田都峰
戸隠村菱の実は角むらさきに 土屋未知
手に受けて通草の花粉濃むらさき ふけとしこ 鎌の刃
手鏡のむらさき濃ゆく時雨けり 富沢赤黄男
打撲傷こそむらさきの精神なれ 伊吹夏生
折れそうな芭蕉がゆく野の風むらさき 山田緑光
擬宝珠のむらさき汚れ悲別鉱 堺 信子
故里や家失せてうちむらさきの樹も 二宮貢作
数珠玉にきざすむらさき神衣織る 浜地和恵
数珠玉のむらさき深し一遍忌 原田しずえ
斯く紅きうちむらさきと画きけり 村上麓人
新たなる春むらさきに淑気満つ 室積徂春
新藁を叩けば日ざしむらさきに 廣江八重櫻
新豆腐むらさきの影つくりけり 小笠原草雨
日傘のつくる影のむらさき胸冷やす 野澤節子 黄 瀬
日本の古代むらさき山眠る 横澤放川
昇降機吸はれし闇のむらさきに 篠原鳳作 海の旅
明け易くむらさきなせる戸の隙間 川崎展宏
明易し耳環の石のむらさきに 白水郎句集 大場白水郎
昏々たる空はむらさき雪しきる今宵わが墓あばかるるべし 多田智満子
春ゆふべむらさき貝を拾ひけり 伊藤敬子
春冷やうすむらさきの窯の塵 西本一都
春暁のうすむらさきに枝の禽 飯田蛇笏
春暁の嶺々のさみどりさむらさき 福田蓼汀 山火
春暑し影むらさきに野の女 佐藤惣之助
春深し牛むらさきに野の烟る 露伴
春潮や手をむらさきに雲丹を剥く 皆川盤水
春雷をはらめば雲もむらさきに 山口青邨
春鳥のうすむらさきを哭いてでる 松澤昭 面白
時の日のベルトが むらさきの山脈の 向うへながれる 吉岡禅寺洞
晩夏一週涼しむらさき締る茄子 大熊輝一 土の香
晩年といへばむらさき湿地など 三田きえ子
暮れてゆく嵯峨野むらさき雛の膳 黒田杏子 花下草上
暮れ際のさくらむらさき斑雪山 堀口星眠 営巣期
曇る日や桐の花散るにむらさき 原田種茅 径
曙のむらさきの幕や春の風 蕪村 春之部 ■ 無爲庵會
曙の尾花むらさきふくみけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
月さしてむらさき煙る葡萄かな 日野草城
月に供ふうぶむらさきの山桔梗 きくちつねこ
月上げて沖むらさきに夜振の火 小田中柑子
朝顔のむらさきの夢の谷間 桑原三郎 龍集
朝顔の今朝もむらさき今朝も雨 水原秋櫻子
朝顔の昔の色の濃むらさき 寺谷なみ女
朝顔むらさき海に裏側みせて棲む 桂 信子
朝顔を描くそれよりむらさきに 坊城俊樹
木がいく野でだ一句のむらさきをまはす 加藤郁乎
木曾深しおほむらさきの翅伏せし 伊藤敬子
木槿すこしむらさき木槿すこし乳なり 阿部完市 春日朝歌
末枯の一枝むらさきしきぶの実 山口青邨
本性はむらさきならめまんじゆしやげ 門脇今次
束縛もなく七変化 あなたは花 谷口むらさき
枕べの花はむらさきみじかよの 林原耒井 蜩
枯紫蘇を焚きむらさきの煙あぐ 古賀まり子 降誕歌
染髪の色むらさきに女正月 観山繁子
桃紅くうすむらさきに比叡あり 岸風三楼 往来
桐の花むらさきつくす別れかな 野澤節子「存身」
桐の花寺の和尚はむらさき好き 高澤良一 素抱
桜の実紅経てむらさき吾子生る 中村草田男「火の島」
梨食うてうすむらさきにけぶるかな 川崎展宏
森の枯木のむらさき愛し入り行かず 野澤節子 牡 丹
樹氷林むらさき湧きて日闌けたり 石橋辰之助 山暦
檜山かげむらさき深し縄出荷 宇佐美魚目 秋収冬蔵
櫓に日裂けてむらさきしきぶの実 古舘曹人 砂の音
此の酷暑梅むらさきに干上りぬ 久米正雄 返り花
武蔵野のむらさき見たり遠稲妻 長谷川かな女
歳迎へんと歳送る空夕むらさき 草田男
死人花蘂は変じてむらさきに 高澤良一 素抱
死後も坐すむらさきいろの厨の火 和田悟朗
死者もみひらく寒夕焼の小むらさき 金尾梅の門
残菊にむらさきさして枯れはじむ 朝倉和江
母との世おろそかならず実むらさき 上野さち子
水に墜つ藤の声音のむらさきに 高澤晶子
水切ればむらさき走る蜆かな 岡田耿陽
水浸き咲く花むらさきに春暮るゝ 岸風三楼 往来
水草生ふ深泥ほどけてむらさきに 八木林之介 青霞集
氷の海むらさきはしり日のぼる 長谷川素逝 砲車
沢蟹のむらさき透いて甲斐の国 瀧澤和治「看花」
河原までつゝぬけに見ゆ実むらさき 飴山實 辛酉小雪
河骨の浮葉か寒し濃むらさき 石川桂郎 高蘆
波郷忌のはや暮れなづむ実むらさき 石田あき子
泥吐かす蜆の水のむらさきに 岡本セツ
洩れ陽手にあるむらさきの葡萄剪る(中村星湖賞受賞偶感) 石原八束 『幻生花』
浜寺のおほむらさきで間に合はす 攝津幸彦 鹿々集
浴室に種火むらさき春霙 山下知津子
海かけて天むらさきや籾筵 中島斌雄
消えたがる日向ありけり実むらさき 町田しげき
消えた映画のうすむらさきのさるすべり 栗林千津
消ゆるときむらさき色の走馬燈 山口波津女 良人
渡岸寺さまへむらさきけまんゆれ 加藤三七子
湖めぐる山むらさきに夕焼けぬ 瀧春一 菜園
溜江やむらさき色の水の苔 巴流 俳諧撰集「藤の実」
滝道やむらさきふかきとりかぶと 及川あまき
潮いまむらさきなせり大旦 伊丹さち子
火の山の今日はむらさき麦の秋 東 弘子
火山灰に生ふしかとむらさき蕗のたう 皆吉爽雨 泉声
炎昼や身ほとりの木はむらさきに 下村槐太 天涯
炭を割る音夕凍みのむらさきに 大野林火
無宿人供養の寺やみむらさき 北見さとる
無電とぶ都会むらさき色の餡をねる 赤尾兜子
焼きつくす北上川の蘆むらさきに 黒田杏子 花下草上
熊本のうちむらさきは胸に抱く 坪内稔典
燃え据わる炉火むらさきに夜の凍つる 金尾梅の門 古志の歌
燈も秋のつるむらさきやつゆ女の忌 渡邊水巴 富士
爪ほどの貝むらさきに時雨けり 古舘曹人 砂の音
片栗の淡むらさきを愁ひとも 本庄百合子
牡丹焚く一島の風むらさきに すずき波浪
狐火や武蔵の水のむらさきに 東早苗
独活のいろうすむらさきにまた紅に 田中冬二 俳句拾遺
猪の跡たづねる裾をむらさきに 飯島晴子
珊瑚礁よりむらさきの海栗剥す 沢木欣一
琴立ててうすむらさきに風の秋 加藤耕子
生きたかり埋火割れば濃むらさき 川口重美
生後直ちの髪むらさきや冬暖か 奈良文夫
甲斐駒はむらさき凍り聖夜待つ 古賀まり子 降誕歌
男もぐ杏むらさき樹下に受く 吉野義子
病室にむらさき充てり諸葛菜 石田波郷
白式部むらさきしきぶ嫁がせぬ 猪俣千代子 秘 色
白河の關むらさきにけさの春 今朝の春 正岡子規
白繭の山のむらさきがかるかな 猪俣千代子 堆 朱
白菊のうすむらさきに枯れにけり 笹木雪子
白菊やうすむらさきは窶れのいろ 林原耒井 蜩
百日紅つかれし夕べむらさきに 橋本多佳子
睡蓮は大方むらさきアマゾン棟 高澤良一 寒暑
短日やうすむらさきの餡の出来 石嶌岳
石溜り菫咲くむらさきの濃し 太田鴻村 穂国
石臼の片割れに挿す実むらさき 鳥居美智子
磨崖仏おほむらさきを放ちけり 黒田杏子「木の椅子」
磨崖佛おほむらさきを放ちけり 黒田杏子(1938-)
祗園恋しや一力の実むらさき 辻田克巳
秋山や影むらさきに瘤二つ 水原秋桜子
秋晴やむらさきしたる唐辛子 後藤夜半 翠黛
秋暁の鳩影むらさき癒え初むる 鍵和田[ゆう]子 浮標
秋燕や荒船山も濃むらさき 伊藤敬子
秋風や子に拾ふ貝濃むらさき 堀口星眠 営巣期
穂すすきにむらさきにじむ思ひ草 石原八束
窓の樹や藤たかだかと濃むらさき 飯田蛇笏 春蘭
立版古口むらさきに泳ぎをり 宇佐美魚目 天地存問
竜胆のむらさき鬱の母は灯り 北迫正男
竜胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女
競馬場むらさき丸の海が見ゆる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
竹の奥うすむらさきに雛祭 大峯あきら
竹林の闇むらさきに淑気満つ 松本幹雄
竹藪のむらさきけまん生ぐさし 八幡城太郎
筍と老婆その影むらさきに 橋本多佳子
筑波山むらさきふかく芝生冷ゆ 柴田白葉女 『夕浪』
管物の盃咲きの濃むらさき 高澤良一 宿好
籾殻焼く耳成山はうすむらさき 見市六冬
紅萩に見るむらさきやそこら冷ゆ 渡邊水巴
紫になほ遠けれど実むらさき 藤田八郎
紫はリラのむらさきまでありぬ 後藤夜半 底紅
紫蘇のせて新豆腐ふとむらさきに 稲岡長
紫蘇の葉のむらさきのなか紡ぎをり 佐川広治
紫陽花や一日は水もむらさきに 林翔
紺一身より出でてむらさき茄子の花 きくちつねこ「一人舞」
経ケ岬むらさきけまんうすみどり 正城恵美子
綿虫の山深き色むらさきに 吉年虹二
綿虫やむらさき澄める仔牛の瞳 水原秋桜子
胸に木霊こむらさきの不整脈 浅沼参三
胸焦がすほどの詩欲し実むらさき 小澤克己
舞ひたちて鴉むらさき八重桜 藤岡筑邨
芋茎のむらさきふかく土けぶらふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
芝の芽のむらさきふかし妻とゐて 大野林火
花水葱のむらさき沈み農婦帰る 木村蕪城 寒泉
花活にむらさき褪せしあやめかな 飯田蛇笏 椿花集
花菖蒲まづ濃むらさきほぐれけり 久保田万太郎 流寓抄以後
花著莪のうすむらさきに仏の日 松村蒼石 寒鶯抄
花葛のうすむらさきは母のいろ 吉田紫乃
花野へ助走むらさきになりたくて 栗原節子
若き日の友垣木槿むらさきに 小野希北
茄子苗の茎むらさきを帯びて来し 後藤田白愁
茄子通草九月はものの濃むらさき 稲垣きくの 黄 瀬
草萌ゆる石むらさきにかげりけり 木田一杉
菜の花や山嶽稜々むらさきに 川崎展宏
菫掘るむらさきの時間に耽り 加藤かけい
菱の実の角むらさきに白秋忌 中尾杏子
萌えいでよ春は菫の濃むらさき 麦南 (男孫二人の後、今春はじめて女孫誕生、すみれと名づく)
落葉してむらさきふかき佐久の鯉 篠田悌二郎
落鮎はむらさきの木のなかをゆく 田中裕明 櫻姫譚
葉牡丹のむらさきかなし雪の中 大橋櫻坡子 雨月
葉牡丹の渦のむらさきより暮るる 下地 慧子
葛はつと散るむらさきの爺ヶ岳 石寒太 あるき神
葛切の唇むらさきにすゝりけり 古舘曹人 砂の音
葱畑の青むらさきの秋の翳 富澤赤黄男
蒲生野のうすむらさきの冬霞 伊藤いと子
蔦紅葉くろむらさきを深めたる 高澤良一 随笑
蕗の薹寒ンのむらさき切りきざむ 橋本多佳子
薄氷のうすむらさきや丈草忌 伊藤通明
薄荷咲くうすむらさきの風匂ふ 今井千鶴子
藁氷る地へむらさきに梯子かげ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
藤垂れてむらさきに淵よみがへる 原裕 青垣
藤垂れてわが誕生日むらさきに 山口青邨
藤垂れて水神の空むらさきに 裕
藤老いてむらさきなるは苦しからむ 遠山陽子
藪蘭のうすむらさきに長命寺 山尾玉藻
蘆焼きし日のむらさきに沼暮るゝ 石井とし夫
蚤はむらさきに背を伸ばし朝の体操 荻野雅彦
蛇草と言はれむらさきけまん咲く 青柳志解樹
蜘蛛の糸かかりて脳をむらさきに 鳥居おさむ
蝉とぶを見てむらさきを思ふかな 田中裕明 花間一壺
蝉の森抜けたる影のむらさきに 川口重美
蝉声のむらさきに染む蓬左の庫 伊藤敬子
蝶の翅うすむらさきの四枚かな 大橋櫻坡子 雨月
蟻地獄またむらさきに天炎えろ 榎本冬一郎 眼光
血小板数低し冬薔薇みなむらさき 河野南畦 『元禄の夢』
行く秋の風むらさきに水暮るる 浅沼 艸月
行春やむらさきさむる筑羽山 蕪村 春之部 ■ 召波の別業に遊びて
袴着のむらさきにほふばかりなり 岡田抜山
裁つ布もむらさき淡くリラ咲けり 福永みち子
裕忌の日帰りの旅実むらさき 西田妙子
裾野ゆく汽車もむらさき暁すゞし 佐野青陽人 天の川
襲ねたるむらさき解かず蕗の薹 後藤夜半
見てをりしうすむらさきの春の暮 中村祐子
見のかぎり煙草むらさき日向ぼこ 『定本石橋秀野句文集』
見るかぎり煙草むらさき日向ぼこ 石橋秀野
親不孝むらさきつつじ咲き了り 蓮田双川
観劇の切符むらさき春隣 山田弘子 螢川
解氷の海膽のむらさき箱眼鏡 青葉三角草
谷幽くむらさきけまん咲き揃ふ 塚田 文
象のみずいろ犀のむらさき更衣 富田敏子
貝寄風のむらさきいろに装釘し 田中裕明 花間一壺
貧しき死火を焚くいろがむらさきに 三谷昭 獣身
貫之の姫亡くせし地実むらさき 田中英子
足もとに点るむらさき諸葛菜 草間時彦
身ぞ緊むるおほむらさきの通るとき 大石悦子 百花
身の上をすこしぼかして実むらさき 中村保典
返り花むらさき淡し交はりも 山口青邨
追ひつめてむらさきの天蕨狩 平畑静塔
通草むらさき頸のうしろが皺よるわ 池田澄子 たましいの話
逝く人に葉月新月うすむらさき 諸角せつ子
遊子あり浜豌豆のむらさきに 森田峠
道元の忌の雨粗し実むらさき 吉田鴻司
遠い菜の花むらさきの殻蜆捨つ 金子弘子
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
邂逅や城の冬空むらさきに 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
都忘れ夜はむらさきの沈みけり 鈴木桜子
野あやめに来るむらさきも梅雨の蝶 水原秋櫻子
野あやめのむらさき一つ他は白し 水原秋桜子
野牡丹のむらさき匂ふ花氷 稲荷島人「続夏雲」
野葡萄のむらさきあはき思ひかな 島谷征良
野葡萄のむらさきくもり野菊澄む 西本一都 景色
針山の糸はむらさき松の内 大峯あきら 宇宙塵
鉄線のむらさき僧の父の座に 中山純子 沙羅
鉄線のむらさき深き母情かな 前田鶴子
銀河天に茄子むらさきに我は我に 加藤楸邨
鋤きし田のむらさきつよき日に乾く 篠原梵 雨
鍛ちたての鍬むらさきに雪間殖ゆ 荒井正隆
門の藤むらさきにして夕かな 相馬遷子 山国
闇とても遠むらさきに霧月夜 野澤節子 黄 炎
防風掘るそのむらさきは海のもの 西村数
降り足りて夜空むらさき仏生会 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雁渡る地図にロシアのうすむらさき 川嶋悦子
雁瘡やむらさき色の塗り薬 柴原保佳
雁過ぎしあとむらさきの山河かな 草間時彦
集れば煙むらさき冬廣場 細見綾子
雑俳界むらさき走る蕗のたう 殿村菟絲子 『菟絲』
雛菓子の蝶のむらさき鶴の紅 大橋敦子
雨の花火のむらさきや銀色や 黒田杏子 花下草上
雨後いまだ雲のたゆたふ実むらさき 能村登四郎
雪ちるに捨つむらさきの蜆殻 松瀬青々
雪の嶺むらさき深しつひに暮る 遷子
雪は申さず。先むらさきのつくばかな 服部嵐雪
雪山のむらさきに出す凍豆腐 平沢洲石
雪暮れてむらさきに碾くそばの臼 黒田杏子 花下草上
雲海にむらさき滲む秋意かな 富安風生
雷雲の日にまみれ咲く浅むらさき 阿部みどり女
霄降るや林の芯はむらさきに 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
霧ごと剪る吉野の藤のむらさきを 渋谷道
露けぶるむらさき捧げ紫苑立つ 松本たかし
露散つてうすむらさきの鳩の翼 石田あき子 見舞籠
露草の露もむらさきなりにけり 鈴木豊子
霽るる日も濡るるむらさき鉄線花 後藤比奈夫 初心
頬杖のさきのむらさき靱草 中村祐子
風に咲く楝の花の濃むらさき 星野椿
風の樹氷浅間の裾野むらさきに 宮坂静生 青胡桃
風蘭のむらさきうすく雨催ふ 角田不説
高熱はむらさきがちの豆の花 宇多喜代子
鰯雲むらさき射して鶏早寝 香西照雄 対話
鶴燻ゆるひろげし翼のむらさきに 富澤赤黄男
鷺苔の花のむらさき四人踏みつ 和地 清
鷽替えて遠い人からむらさきに 安西篤
鹿の糞つるむらさきの露に濡れ 長谷川かな女 牡 丹
黒牡丹ならんその芽のこむらさき 米谷孝
黒駒を見てむらさきの葡萄祭 萩原麦草 麦嵐
龍胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女 花 季
*こおろぎは羽根の紫秘めにけり 野村喜舟 小石川
〆野行き紫野行きひばりかな 麦水
あねもねの紫淋し紅を買ふ 高濱年尾 年尾句集
あべの区すぎたり紫木槿花縷縷るる 阿部完市 鶏論
いちじくの濃紫から喪があける 植田次男
いとほしや人にあらねど小紫 森澄雄(1919-)
いにしへの王(おほきみ)のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで 阿木津英
いにしへを誘ふ彩に実紫 山田弘子 螢川
うす皮のうす紫や早筍 大橋櫻坡子 雨月
うら返るほどに咲きみち紫木蓮 金城千代
おきまつり紫衣の楽士の頬の老い 荒牧澄子
おほかたはとなりへ散りし紫木蓮 谷内田三恵子
お机や日想観の紫衣の僧 河野静雲 閻魔
お鏡や紫檀の卓に片よせて 高野素十
かきつばた紫を解き放ちゐし 細見綾子「天然の風」
かさうらに紫の翳しめじ茸 木村育子
かぜふけば紫なだれて淡々し 瀧春一 菜園
からぐろの黒からず茄子の濃紫 茄子 正岡子規
きはまりし郁子の紫十二月 阿部ひろし
きらん草古代紫展げけり 後藤比奈夫 金泥
ぎす鳴くや紫香楽宮の礎石跡 志賀松声
さぞあらむ紫宸殿上の此暑さ 会津八一
さびたりな茄子の紫鮎の腹 錆鮎 正岡子規
さふらんの花は紫冬ざるゝ 野村泊月
しゞみ蝶紫失せて炎天下 高木晴子 花 季
すつきりと紫張りて鉄線花 池田やす子
すり鉢に薄紫の蜆かな 蜆 正岡子規
せんぶりの花も紫高嶺晴 木村蕪城 一位
そこだけが紫けむり懸り藤 高濱朋子
その棘の紫美しき海胆を割る 諸岡孝子
たらちねの春の日向よ紫羅欄花 児玉悦子
だうもかうも天気外れて紫荊 高澤良一 素抱
だらしなさ小児に同じ紫木蓮 高澤良一 燕音
ちらと紅紫柄長も群れる父の林 峠素子
つひに来しこの片陰や紫禁城 加藤楸邨「沙漠の鶴」
てつせんの紫くらしおもひ切 久保田万太郎 流寓抄以後
ぬか味噌の茄子紫にけさの秋 会津八一
ぱつとせぬ天気つづけり紫荊 高澤良一 ももすずめ
ふろしきの紫たたむ梅の頃 大峯あきら
ほたるぶくろ薄紫七月の思案 大沢君江
まひまひの紫を帯ぶ翳に暈 西本一都 景色
むべの実に紫のりし十二月 栗林千津
むらさきは紫のまま菊枯るる 片山由美子
よく見れば薄紫の蜆哉 蜆 正岡子規
わが妻の忌に名づけぬる紫かな 野村喜舟
をだまきの紫賤のものならず 後藤比奈夫
をだまきの芽は紫の渦巻を 山口青邨
アネモネのまづ紫が立ち直る 水原秋櫻子
アネモネの紫挿せる日吉館 二宮英子
アネモネの紫淋し紅を買ふ 高浜年尾
アネモネの紫深きたのみかな 中村汀女
カメレオンが棲む公園の 滅紫いろ 伊丹公子 山珊瑚
ガスの火の紫もゆる一茶の忌 富安風生
サイネリアの花紫に出揃ひし 室積波那女
サフランの紫閉ぢぬ聖母像 河地翠
セーターの紫許せ紫禁城 品川鈴子
ヂキタリス薄紫に富士の影 新村千博
パステルの紫に黄に昼花火 永井龍男
パンジーの紫ばかり金の蕊 平野桑陰
ヒヤシンス紫は祖母眠る色 入口久弥女
ヘリオトロープ紫の呼吸ひそやかに 文挟夫佐恵 黄 瀬
マネキンの手首に切目紫木蘭 相子智恵
ライラック紫うすく漕ぎ疲れ 若森京子
一弁に紫を刷け白桔梗 大橋つる子
一枝の濃紫せる紅葉あり 竹下しづの女 [はやて]
一籠のこき紫や桔梗賣 桔梗 正岡子規
一茎の小夜の紫蘭にペンを擱く 五十嵐播水 埠頭
万葉の恋は紫かたかご咲く 吉田銀葉
丈高きことが淋しく花紫*苑 遠藤梧逸
不景気をぼやいてみても紫荊 高澤良一 随笑
中原に夜が来てをり紫木蘭 有馬朗人 天為
予後の身に曇る小路の紫荊 柴田白葉女 遠い橋
二三日風納まらず紫木蓮 高澤良一 素抱
五七五のうてん通ばら紫金牛 加藤郁乎
亡き母の紫小紋暮の秋 家久喜美子
交りたる鯖の紫鰯汲む 前島たてき
京劇の粘つこき声紫荊 穂苅富美子
人通りなきとき桐の真紫 阿部[しょう]人
今朝秋の蕾あげたる紫かな 河野静雲 閻魔
伊勢菖蒲偽紫の茎つよし 長谷川かな女 花寂び
会わねどもわが師の師なる紫影の忌 村山古郷
傘かゝへ紫いろの負真綿 下田実花
元結の紫匂ふ蚊やりかな 増田龍雨 龍雨句集
光氏(みつうぢ)と紫と寝る布団かな 松根東洋城
光氏と紫と寝る蒲団かな 東洋城千句
入るや涼しく紫いろの礼拝堂 池田澄子
入梅や紫かけし青紫陽花 鈴木花蓑句集
其骨に苔の咲くなり小紫 苔の花 正岡子規
冬枯にうら紫の萬年青哉 冬枯 正岡子規
冬紅葉濃し紫になりたるも 平野桑陰
冬草の紫だちしものは何 白山
冷房に紫褪せし造花立ち 長谷川かな女
凧の絵の貴妃が見おろす紫禁城 大島民郎
初冬や山の鴉は紫に 野村喜舟 小石川
初神楽待つ紫の幕絞り 清崎敏郎
初空や地に葉牡丹の濃紫 碧雲居句集 大谷碧雲居
初蝶のうす紫にとび消えし 星野立子
初雪や紫手綱朱の鞍 井上井月
初鵙や薄紫の夜明雲 杉山えい
初鶏は若紫の声ひけり 平井照敏 天上大風
千振干す花の紫ありながら 肥田埜恵子
千紫万紅の紫のぬきんでてかきつばた 草田男
卑弥呼美貌なりしや紫華鬘摘む 岡部六弥太
反橋や藤紫に鯉赤し 藤 正岡子規
古九谷の紫の濃き残暑かな 笠原古畦
司書の眼をときどきあげて紫蘭咲く 富安風生
君知るや薬草園に紫蘭あり 高濱虚子
吾(あ)も春の野に下り立てば紫に 星野立子(1903-85)
呑みはじむ薄紫に寒の暮 松根久雄
和名あらせいとう紫は母好み 長谷川久々子
咲きそろふ草の紫もの食む子がゐる 人間を彫る 大橋裸木
唇に紫走り井を晒す 今村野蒜
喪に服す梅雨咲く花の紫に 鈴木真砂女 夕螢
喪の知らせまたありさうよ紫荊 高澤良一 ねずみのこまくら
土佐一宮楝の紫忘れめや 小南敏子
土明く紫の日照雨はじきけり 西島麦南 人音
城主なき紫檀の玉座桐の花 本間美香
塩買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子 花 季
夏富士の紫しるき姿かな 吉波泡生「青潮」
夏来ると紫明の空に霊歌湧き 石原八束 空の渚
夏炉焚く煙の紫遊ばせて 羽部洞然
夕風に紫の供華の持たれけり 太田鴻村 穂国
夜の紫一葉の影は濃かりけり 太田鴻村 穂国
夜を照るや黄紫二枝の瓶の菊 石塚友二 方寸虚実
夜桜に星無き空の濃紫 成瀬正とし 星月夜
夢にさへ母見ゆ月日紫*苑咲く 塩谷はつ枝
大かたは打伏す梅雨の紫蘭かな 中道政子
大ばつた紫帯ぶと見ゆるなり 波多野爽波 『骰子』
大屋根を暮色下りくる紫木蓮 西村 旅翠
大根の花紫野大徳寺 高濱虚子
大淀とありてあやめの濃紫 久保田万太郎 草の丈
天上の華となりたる紫木蓮 岩瀬鴻水
天命を待ちくたびれて枯紫 塚本邦雄 甘露
天降りては地の糧となる紫木蓮 杉山とよ
女医二代表札古りて紫木蓮 内田香晴
女足袋紫野行くゆかりなり 椎本才麿
嫗の背のえぞ菊紅紫につばめ帰る 古沢太穂 古沢太穂句集
子の苞に摘む紫の梅雨の花 相馬遷子 山国
宇津の谷のうつつの色の実紫 能村登四郎 有為の山
宗盛の車も見ゆれ地主祭 紫暁「ももちどり」
宝冠の傾ぐかたちも紫木蓮 百合山羽公
実紫このごろ母を忘じをり 片山由美子 風待月
実紫わが詩も小さく円かなれ 正木ゆう子 静かな水
実紫濡れてゐる且つ枯れてゐる 岩田由美 夏安
実紫音なく過ぎし山の雨 山田弘子 こぶし坂
宵やみの紫ふかしはるの雨 素丸
寒餅のうす紫や水にひそみ 伊藤稚草
寒鯉の紫磨黄金の沈むまま 後藤夜半
寸にして紫檀びかりの袋角 八染藍子
小波を堰く紫のあやめかな 阿部みどり女
少しさめ薄紫の蜆汁 中嶋秀子
少年や紫雪を浴びてまぼろしに 和田悟朗 法隆寺伝承
尖り立ち色めく蕾紫木蓮 石川風女
尼寺跡や風のかたちに紫木蓮 山崎千枝子
尼若し薄紫の燕子花 杜若 正岡子規
局塚その面影の紫蘭咲き 下村ひろし 西陲集
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
山笑ふ薄紫の衣着て 長谷川きくの
山紫てふ模糊たる方に夏迫る 殿村莵絲子 雨 月
山紫水明にしてこの蠅叩 小堀紀子
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
岩桔梗紫消えてなほ夕焼 福田蓼汀
岩風にお調子づいて紫蘭咲く 諸田宏陽子
崩れ落つ風なき夜の紫木蓮 仲川記代
川波に紫華鬘咲き隠る 石原八束
巻かれなむ紫野なる野火けむり 赤松[ケイ]子
幸木ほの紫のかけ蕪 呼子無花果
幼子に悪戯教え紫蘭かな 栗本照子
広業寺紫みだれて青尼すむ 石原舟月 山鵲
式部の実紫に寂びまさりくる 林 京子
式部塚訪ふに花散る紫野 大石亜矢子
忽然と/紫影色(セピア)/羽つけし/一家族 折笠美秋 火傅書
恋ふるゆゑ紫の丈を妻の墓 森澄雄
悪相の紫荊雨まみれなる 高澤良一 ももすずめ
惜春やすこしいやしき紫荊 松本たかし
愁なき紫都忘かな 後藤夜半 底紅
懐胎す千の穂紫を証とし 長谷川双魚 風形
戒名は真砂女でよろし紫木蓮 鈴木真砂女
手にしたる紫包いわし雲 松村蒼石 雁
振る袖の若紫の陰になり 三輪初子
掘つて帰る薬草紫花を開きけり 喜谷六花
旅かなし紫あやめ野に咲けば 富安風生
日ざし来て紫うすし藤の花 島村元句集
日に向いてふと紫の寒烏 菅裸馬
日に月に腰折れ紫*苑ゆれとほす 馬場移公子
日を受けてうす紫の尾花かな 原月舟
日盛りを紫はしる蜥蜴かな 宮部寸七翁
春の夜や紫衣をかけたる塗衣桁 大谷句佛 我は我
春の夢濃紫を残しけり 高橋睦郎 金澤百句
春の日や紫の袴茶の袴 春日 正岡子規
春は曙雲紫のつく波山 初春 正岡子規
春光の魚紋の中の鯉紫金 小松崎爽青
春光や紫を帯ぶ毒魚の瞳 富安風生
春寒の雨紫に源氏山 大久保橙青
春愁の襟紫に掻きあはす 長谷川かな女 雨 月
春日野や若紫の惣鹿子 季吟
春暁や紫焔紅焔富士の頂 徳永山冬子
春泥に山紫水明おしとほる 松澤昭 麓入
春深し紫髯の胡人あそぶ壺 水原秋桜子
春睡や天紫に地くれなゐ 余子
春風や山紫に水青し 春風 正岡子規
春風邪をひいて紫じみてゐる 細見綾子 花 季
春駒や染分手綱紫に 松根東洋城
春鴉紫に猫薔薇色に 相生垣瓜人 微茫集
昭君酒春宵を汲む紫砂の碗 田中英子
昼ふかく魔の刻ありぬ紫木蓮 伊東宏晃
晩秋の紫の風にすがる虫 阿部みどり女 笹鳴
晴雪やうす紫の木々の影 前田普羅 飛騨紬
暁天の黄や紫や初手水 松毬路
暮早し紫川ときくからに 高木晴子 花 季
曇りゐて花びら重し紫木蓮 上村占魚 『方眼』
曙はまだ紫にほととぎす/曙やまだ朔日にほととぎす 松尾芭蕉
曲水の歌膝立てて紫衣の僧 小原菁々子
月光に連れゆれにけり紫木蓮 鈴木貞雄
月光の道嵯峨野より紫野 黒田杏子 花下草上
朝ぎりや紫動く牧の牛 菅裸馬
朝どりの茄子の紫生きてをり 黒岩 五月
朝寒や紫の雲消えて行く 朝寒 正岡子規
朝日影羽紫に初烏 初鴉 正岡子規
朝顏や紫しほる朝の雨 朝顔 正岡子規
朝顔のぱつと開きし濃紫 星野椿(1930-)
朝顔の古代紫子だくさん 愛下千鶴
朝顔や紫しぼる朝の雨 子規句集 虚子・碧梧桐選
木々冬芽凍のゆるみに濃紫 前田普羅 飛騨紬
木枯や紫摧(くだ)け紅敗れ 子規
束ねあり紫の花の群がれる 上野泰 佐介
枕元に内紫を竝べけり 朱欒 正岡子規
枝豆は紫頭巾酒の名は 後藤比奈夫 めんない千鳥
枯山に日ざすやいなや紫無し 篠原梵 雨
枸杞の芽のうす紫の籬かな 安藤雅子
染布の紫濃かに梅雨のおし上る 安斎櫻[カイ]子
染汁の紫こほる小川かな 凍る 正岡子規
染汁の紫氷る小溝かな 正岡子規
校塔を放ちて紫木蓮匂ふ 金田咲子 全身 以後
校庭のプール濃紫にて遠し 対馬康子 愛国
栴檀の紫人を選り好み 後藤比奈夫 花匂ひ
桐の花うす紫の風揺れて 久保田彰子
桑の実の紫こぼる石舞台 柴崎左田男
桔梗のつぼみふくれて見る間にも咲かんばかりに紫の濃さ 若山喜志子
桔梗の紫さめし思ひかな 高浜虚子
桔梗や白紫のほかは無く 尾崎迷堂 孤輪
桜の実紅経て紫吾子生る 中村草田男
梅雨永や紅紫若きが品定め 松根東洋城
森深き風のしめりに紫楽陽花 山下美典
正夫忌や紫ふかき竜の玉 竹内武城
武具飾り紫勝ちの部屋となる 今橋眞理子
母の忌や紫蘭細身の明るさに 菊岡素子(萬緑)
母の遺した鋏・針・糸・紫木蓮 松野順子
母をつれて来てをる茄子畑茄子の紫朝に 西垣卍禅子
気力負けせざる紫鳥甲 依田秋葭
水仙や端渓の硯紫檀の卓 内藤鳴雪
水仙や紫袱紗黒茶碗 水仙 正岡子規
水葬の夜を紫陽は卓に満つ 飯田蛇笏 霊芝
永遠に大紫は遅刻せり 攝津幸彦 鹿々集
油点草紫出過ぎても居らず 中谷楓子
波止かなし殊に紫ハンカチは 岡本 眸
洗ひ鯉山紫水明楼の夕 洗膾 正岡子規
洲の砂礫紫帯びぬ谿紅葉 香西照雄 素心
浅間嶺は紫磨黄金に春立ちぬ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
海きら~帆は紫に霞けり 森鴎外
海も山も出雲かなしや紫なす 高柳重信
海胆の針紫にして美しき 野村喜舟
温室や紫広葉紅広葉 歌原蒼苔
源氏をば一人となりて後に書く紫女年若くわれは然らず 与謝野晶子
漢名の音(おん)も締りのよくて紫微 高澤良一 鳩信
潮たれてうす紫の蠑螺かな 原石鼎
澄む日影照る月影や紫*苑咲く 水原秋桜子
濃紫なる春眠の世界かな 成瀬正とし 星月夜
濡れつばめ野を紫の乙女来て 原コウ子
火の神のゐまさぬ阿蘇は濃紫 久米正雄 返り花
炎天下磨滅鉄蓋濃紫 香西照雄 対話
焼いもや山紫水明枯るる京 龍岡晋
熱の瞳に紫うすきぎぼしゆかな 飯島みさ子
片栗の花の紫うすかりき 高濱虚子
牧閉ぢて紫こぼす山葡萄 水原秋櫻子
玉虫の発止と墜ちし紫閃かな 野村喜舟
王女迎ふ躑躅紅紫の蘭館址 下村ひろし 西陲集
瓶の桔梗咲き次ぐは紫褪めつ 原田種茅 径
白すみれ紫すみれ喪明け未だ 三田きえ子
白涼し紫も亦涼しく著 星野立子
白蝶も紫蝶もこの日より 高野素十
白露や紫尾の峠を牛越ゆる 脇本星浪
目のかぎり紫けぶり飛燕草 加藤楸邨「沙漠の鶴」
目細雛紫袴の匂ひて喜雨亭に 及川貞 夕焼
石の花咲く紫の春の夢 小松崎爽青
石垣の上に紫宛と兜屋根 瀧春一
砲煙は紫に冬隣る音 内田百間
磯桶の海胆の紫動くなり 中川けい
秀づると見えし紫蘭の花 後藤夜半 底紅
秋の野の其の紫の草木染 高浜虚子
秋祭紫の幕箔屋町 細見綾子 黄 瀬
秋立つや紫さめし筑波山 会津八一
秋茄子の紫おもし親遠し 石橋秀野
秋草の紫立つは笛の道 長谷川かな女 花寂び
秋風や紫薄き燕子花 秋風 正岡子規
種犬の血は紫よ酷暑来る 平吹史子
稲架解くや南アルプス紫に 後藤冬至男
空家から紫木蓮という合図 楯ひろこ
窓は青紫のー八木にまじり斜めの木 篠原梵 雨
竜胆の紫が好き軽い飢 北村南嶺子
端渓の蓋の紫檀や葭障子 田中英子
笹の子のうす紫や小筆ほど 野村泊月
筍の根の紫の五月かな 野村喜舟 小石川
節々に水の氷れる実紫 長谷川櫂 天球
糠味噌の茄子紫に明け易き 茄子 正岡子規
糠味噌をよごす紫なすを抜く 川崎展宏
糠漬の茄子紫に明け易き 茄子 正岡子規
紅紫檀ひと葉のもみぢ見するかな 石川桂郎 高蘆
紫が好きで通せし木の葉髪 菜畑絹女
紫さむる峰に春光かぎろひけり 日夏耿之介 婆羅門俳諧
紫と名には呼ばれぬ木槿哉 木槿 正岡子規
紫と雪間の土を見ることも 高濱虚子
紫になほ遠けれど実むらさき 藤田八郎
紫になりきれぬまゝ式部の実 福島えつ子
紫に上る時雨も京らしく 星野 椿
紫に似ずてゆかしき野菊かな 高井几董
紫に変る霞や海の上 比叡 野村泊月
紫に夜は明かゝる春の海 几董
紫に箱根連山暮の春 河野美奇
紫に蜆のとるゝ氷かな 野村喜舟 小石川
紫に裏表ある桔梗かな 島田左久夫
紫に雪暮れいまも恋女房 品川鈴子
紫に霞みて暮るゝ都かな 霞 正岡子規
紫のあやめを狂ひ花と呼び 阿部みどり女
紫のがらすにうつる春日かな 春日 正岡子規
紫のくらげと泳ぐ月あかり 蔵巨水
紫のさまで濃からず花菖蒲 久保田万太郎 草の丈
紫のさむる茄子のあつさ哉 正岡子規
紫のさるすべりかやちりしける 高木晴子 晴居
紫のところもありて秋の水 大峯あきら
紫のひしこにかつや唐からし 旧国
紫のふつとふくらむ桔梗哉 桔梗 正岡子規
紫のぶだうを置いて雨の音 細見綾子 黄 瀬
紫のほむらを抱きて桜炭 福嶋千代子
紫のもの紅に末枯るる 風生
紫のゆかり尋ねん筆の海 正岡子規
紫のグラジオラスや雨静か 二階堂大河原
紫の一本見えぬ夏野哉 夏野 正岡子規
紫の一色を持し茄子の花 宇咲冬男
紫の上もめしけん傀儡師 蓼太
紫の丘の起伏はラベンダー 岩崎照子
紫の人ともいはれ立子の忌 星野 椿
紫の似合ふ姉妹や濃竜胆 今泉貞鳳
紫の匂ひ袋を秘めごころ 後藤夜半
紫の匂袋を秘めごころ 後藤夜半 底紅
紫の厚きを都忘とて 後藤夜半 底紅
紫の塵になりけり鉄線花 八木林之介 青霞集
紫の塵やつもりて問屋もの 炭 太祇 太祇句選
紫の夕山つゝじ家もなし 子規句集 虚子・碧梧桐選
紫の夜着にくるまる春の宵 水落露石
紫の少しほぐれし桔梗の芽 梧桐青吾
紫の山へ黄金の春日入る 大峯あきら 宇宙塵
紫の幕紫の総菊黄なり 京極杞陽 くくたち上巻
紫の心を掠めクロッカス 後藤夜半
紫の数かちゆきぬスヰートピー 星野立子
紫の斑の佛めく著莪の花 高濱虚子
紫の斑の賑しや杜鵑草 轡田進
紫の映山紅(つつじ)となりぬ夕月夜 鏡花
紫の春著の似合ふ娘に育ち 岩男微笑
紫の時雨の空もありにけり 大峯あきら 宇宙塵
紫の水も蜘手に杜若 杜若 正岡子規
紫の氷かなしや虎落笛 川端茅舎
紫の河浮き沈む冬筏 横光利一
紫の泡を野に立て松虫草 長谷川かな女
紫の泡野に立てゝ松虫草 長谷川かな女 花 季
紫の泪か露か燕子花 杜若 正岡子規
紫の流紋ゑがく海の崖切り立てり君なき胸きりたてり 春日井建
紫の淡しと言はず蘭の花 後藤夜半 底紅
紫の火をともしけり春の夕 春の夕 正岡子規
紫の火を燃やさんと精神科医 阿部完市 証
紫の灯をともしけり春の宵 春の宵 正岡子規
紫の燕の翼の下に貧し 古館曹人
紫の片かげ作る伏屋かな 上野泰 佐介
紫の玉累々と葡萄哉 葡萄 正岡子規
紫の白へ流れて白菖蒲 林翔 和紙
紫の立子帰れば笹子啼く 川端茅舎
紫の素描にしたり蘭一花 文挟夫佐恵 黄 瀬
紫の翅はかくせり女蟷螂 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
紫の背びれ尾びれや桜鯛 上崎暮潮
紫の花に刺ある薊哉 薊 正岡子規
紫の花の乱れやとりかぶと 惟然
紫の苞そりかへり常山木の実 拓水
紫の菖蒲に妻と入れ替る 古館曹人
紫の菫咲くなり野雪隠 菫 正岡子規
紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく 安永蕗子
紫の蒲団に座る春日かな 春日 正岡子規
紫の蕾より出づ銀の葦 竹下しづの女句文集 昭和十一年
紫の藤ののれんにかこまれて 中村絢子
紫の藤の細工や蜆殻 蜆 正岡子規
紫の藤の雨滴を掌に享くる 吉金白水
紫の被布をこのみて老にけり 池田歌子
紫の袱紗をしごく冬襖 百瀬ひろし
紫の袴をつけし春日かな 春日 正岡子規
紫の許(ゆ)りて紫式部の実 後藤夜半
紫の辱かしからぬ寒あやめ 後藤夜半 底紅
紫の鉢巻歩々に春の熔岩 原裕 葦牙
紫の闇となりゆく牡丹焚く 市野沢弘子
紫の雨の中なる紫陽花寺 田中三郎
紫の雲に鳶舞ふ春日哉 春日 正岡子規
紫の雲の上なる手毬唄 杉田久女
紫の雲も出て居る涅槃哉 涅槃会 正岡子規
紫の雲起きて来て春の雷 細見綾子 花 季
紫の雲間を漏るゝ春日かな 春日 正岡子規
紫の露とんで鹿通りけり 岡井省二
紫の頭巾に恋をせし昔 阿部みどり女
紫はリラのむらさきまでありぬ 後藤夜半 底紅
紫は人を好みて秋袷 田中弥寿子
紫は僧衣に如かずうつぼ草 神尾久美子 桐の木
紫は古き世の色式部の実 山本鬼園
紫は山高き色龍胆摘む 竹下陶子
紫は師を偲ぶ色花菖蒲 福田富き代(春郊)
紫は暗しと思ふ鉄線花 下村梅子
紫は水に映らず花菖蒲 高濱年尾
紫は衣桁に昏し秋の寺 原裕 青垣
紫は都忘よ花氷 平野青坡
紫も白もさびしやかきつばた 加地北山
紫も紅も江戸前切山椒 後藤比奈夫 めんない千鳥
紫も黄も秋蝶のさまに飛ぶ 山田弘子 螢川
紫ゆらす風青空になかりけり 阿部みどり女
紫をん咲き静かなる日の過ぎやすし 水原秋櫻子
紫を俤にして嫁菜かな 松根東洋城
紫を卯つ木の実とす鶲かな 野村喜舟 小石川
紫を玉にぬく実の糸桜 桜の実 正岡子規
紫を目指して来れば烏頭 市村究一郎
紫を着て枯芝にをとめさぶ 太田鴻村 穂国
紫匂いしむさしのくにの文房具店 阿部完市 純白諸事
紫咲き中年過ぐること早し 菖蒲あや
紫女よりも清少が好き式部の実 福島壺春
紫宸殿南廂の下蟷螂老ゆ 川崎展宏
紫木蓮くらき生家に靴脱ぐも 角川源義
紫木蓮たけなはなりしがそれも散り 高澤良一 宿好
紫木蓮アンリ・ルソーの馬車とまる 西岡正保
紫木蓮夕べの水の色吸へり 原田青児
紫木蓮幕あくように陽が射して 小出昌子
紫木蓮戸隠村は膨らめり 栗生純夫 科野路
紫木蓮曇り日の瞳の少女達 吉田未灰
紫木蓮滝ノ口にも腰越にも 高澤良一 宿好
紫木蓮職退く期を図りをり 上野さち子
紫木蓮胎内仏を世に出すな 鳥居美智子
紫木蘭谷間に咲いて水まつり 柴田白葉女 花寂び 以後
紫根草はひそひそ咲きに八幡平 文挾夫佐恵
紫水晶輝りに春暁嶺の霧氷 文挟夫佐恵 雨 月
紫禁城の土塀の外の柿一枝 伊藤敬子
紫禁城を仰ぎて行けば陽は澄めり一線の上に次の門次の門 川田順
紫禁城残暑は紅き色をもつ 磯 直道
紫禁城熟れるざくろにたれも触れぬ 渋谷道
紫禁城秋日乳房のごと落つる 皆吉司
紫禁城高野の僧に会ひて涼し 杉本寛
紫花もありまづ初生りへ茄子傾ぐ 香西照雄 素心
紫苑とは紫そつけなかりけり 後藤夜半 底紅
紫茉莉の花に殘暑の日影かな 残暑 正岡子規
紫草の花の白さを風のなか 飴山 實
紫荊おのれを通す色見たり 高澤良一 燕音
紫荊ひしめき咲きて垣の内 吉村寒雷
紫荊一方的に非を難じ 高澤良一 素抱
紫荊不承々々に咲き出でぬ 山田みづえ
紫荊不景気づらをする勿れ 高澤良一 随笑
紫荊咲いて足枷見ゆる日々 高澤良一 寒暑
紫荊咲きチャイナドレスを着てみたし 星野紗一
紫荊嘘で固めた戦して 高澤良一 素抱
紫荊噴ける莟の箆棒な 高澤良一 さざなみやつこ
紫荊女もすなる頬かむり 猿橋統流子
紫荊妻にをんなのさかりかな 島谷征良
紫荊悪女やさしく手を握る 近藤静輔
紫荊戦はアラーの思し召し 高澤良一 素抱
紫荊枝の元末余すなく 西山泊雲 泊雲
紫荊花の重さを見せざりし 稲畑汀子
紫薇岸のわかれをくりかえし 渋谷道
紫薇花下に極楽おもへとや 高澤良一 随笑
紫蘭いま紅をふかめて雨の中 雨宮抱星
紫蘭もて訪ひ来し人も逢はしめず 加藤楸邨
紫蘭咲いていささかは岩もあはれなり 北原白秋「竹林清興」
紫蘭咲き満つ毎年の今日のこと 高浜虚子
紫蘭咲き軒端流るる水の音 大堀鶴侶
紫蘭咲く艶めきおりし屋根瓦 榎本眞千
紫蘭咲く蟻の巣の上ふうわり跳ぶ 堀之内長一
紫蘭咲く雨上りたる石に觸れ 香下寿外
紫蘭掘る袴の裾に湿る土 長谷川かな女 花 季
紫蘭散華いまし飛翔の葉ぶりのまま 堀 葦男
紫衣の僧いづこへ通ふ蝶の昼 柿本多映
紫陽や崇りに慣れて人栖める 柑子句集 籾山柑子
紫陽花や紫尽きて浅緑 紫陽花 正岡子規
紫陽草や薮を小庭の別座敷 松尾芭蕉
紫香楽や芽吹く山肌須恵の肌 加倉井秋を
紫高々茜しをるが瞳になつく 太田鴻村 穂国
緋袴と紫袴弓始 塩川雄三
緑蔭の深き紫なすあたり 相生垣瓜人 微茫集
縮緬の紫さめし蒲團かな 蒲団 正岡子規
縮緬の紫さめし衾かな 衾 正岡子規
罅多き塀もて囲み紫木蓮 和田悟朗 法隆寺伝承
罌粟咲きぬ紫鬱とくもりつゝ 水原秋櫻子
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
聖護院もの紫野もの茎立てり 百合山羽公
花の名の紫羅欄花を愛しけり 鈴木栄子
花乏し藤の紫柔毛たつ 石橋秀野
花冷えや孔雀の紫金夜をめげず 飯田蛇笏 霊芝
花紫荊帰化陶工の寄せ墓に 奥村喜代子
花菖蒲大淀と咲く濃紫 長谷川かな女 雨 月
花韮に紫の影ひそみけり 稲岡達子
花韮の紫うすき翳りかな 岸 典子
芳草や黒き烏も濃紫 高浜虚子(1874-1959)
英連邦戦没者墓地紫木蓮 池田秀水
茄子の木の紫ふかむ信濃川 松村蒼石 雁
茄子の種紫ならず蒔きにけり 今井千鶴子
草たけて紫華鬘色うすし 川島彷徨子
草籠に秋暑の花の濃紫 飯田蛇笏 山廬集
草藤の阿蘇の紫秋近し 石 昌子
菖蒲咲けり桶に紫白の遅速無く 渡邊水巴 富士
菜の花や一葉は寒の濃紫 渡辺水巴 白日
萱を刈る紫がかって神懸って 渋谷道
落葉松の芽の紫に雲遊ぶ 西村公鳳
葉と落ちて紫金まどかや金亀子 原石鼎
葉牡丹のそらざまの葉の濃紫 下村槐太 光背
葉牡丹の影のほとりの紫に 米沢吾亦紅 童顔
葉牡丹や紫衣重ねても貴女とせず 香西照雄 素心
蓮根掘る秋晴れを市烟紫に 安斎櫻[カイ]子
蓮華草鞋踏み込む秋の紫宸殿 巽恵津子
蕗の薹紫を解き緑解き 後藤夜半 底紅
藤棚の風は紫にて候 山下しげ人
藤棚や雨に紫末濃なる 鏡花
藥草の花紫に霜早し 霜 正岡子規
藥草の花紫に霜白し 霜 正岡子規
虚子にして詠める紫蘭の句を知るや 高澤良一 宿好
虚子の忌の白に遅れて紫木蓮 大井雅人
虹の根に紫つかむ慈姑掘り 加藤知世子 花寂び
蚕豆の花だよ紫の眼がある 北原白秋
蚕豆の花紫の四月かな 三木かめ
蛤の薄紫に乾きけり 虚子
蜆は紫衣浅蜊は幇斗目着たりけり 柳川春葉 ひこはえ
蝌蚪ふゆる音なきものは紫に 古舘曹人 能登の蛙
裏口に菖蒲紫ガス屋です 柴崎左田男
裾野路や薄紫の春りんだう 瀬戸口民帆
襲ねたる紫解かず蕗の薹 後藤夜半
西の京雨となりたる紫木蓮 大山百花
西日して薄紫の干鰯 杉田久女
訣るるはことばぼろぼろ紫羅欄花 山崎聡
谷の蝶紫光を放ち交みをり 石原八束 『藍微塵』
赤富士の雲紫にかはりもし 阿波野青畝「紅葉の賀」
赤帝の座は定まりぬ紫禁城 磯直道「初東風」
起し絵の山紫水明五色摺り 伊藤瓔子(ひいらぎ)
通草熟れ古代紫日のかげり 佐藤郁子
遊蝶花紫濃きが翅たたむ 文挟夫佐恵 遠い橋
遠山のそのまま秋や浅紫 阿部みどり女
遠景の雪は紫夜は聖し 後藤比奈夫 めんない千鳥
遮断機の真向ふ紫木蓮の花 柴田白葉女 『夕浪』
鄙振りに紫に染め負真綿 田村鬼童
野の色に紫加へ濃りんどう 稲畑汀子 汀子句集
野牡丹に雨の紫傘雨の忌 島山允子(海原)
野牡丹の古代紫たぐひなし 五十嵐播水
野牡丹の散りし紫浄土かな 勝又一透
野牡丹の総紫の花粉まで 大橋敦子 手 鞠
鉄線の終の一花も濃紫 松岡ひでたか
鉄線の花の紫より暮るゝ 五十嵐播水
鉄線の蕊紫に高貴なり 高浜虚子
鉄線花に紫衣の紫憑きにけり 後藤比奈夫 祇園守
鍋洗ひ紫の露に溺るゝや 小林康治
鎌倉の空紫に花月夜 松本たかし
鎌倉や紫*苑畠に寺の影 有働亨
鐘に入るまでの少女を紫荊 竹中宏 句集未収録
長江の千紫万紅春夕焼 松崎鉄之介
長雨や紫さめし花大根 橙黄子
門川に濯ぎ紫に高く干し 岸風三楼 往来
除草婦にロベリヤの紫が近くあり 阿部みどり女
陶器めく郁子に紫一寸入る 高澤良一 随笑
雛の日や古紫なる本の出来 長谷川かな女
雛会式ふつと消えたる紫衣の尼 文挟夫佐恵
雛棚や幕紫に桃赤し 雛祭 正岡子規
雨の日は雨の紫蘭を玻璃越しに 高澤良一 宿好
雨を呼ぶ紫よ黄よ大花野 山田弘子
雨を見て眉重くゐる紫蘭かな 岡本眸
雨晴れて庄屋の茄子も紫に 蘇山人俳句集 羅蘇山人
雪ながら山紫の夕かな 雪 正岡子規
雪渓に紫曳いて海迫る 古館曹人
雪間より薄紫の芽独活哉 芭蕉
雲間より垂れたる藤の濃紫 福田蓼汀 山火
電燈に笠の紫布垂れ朝寝かな 龍胆 長谷川かな女
霜融きつつ紫帯びぬ教への庭 香西照雄 素心
霧じめりせし紫や藤袴 射場 秀太郎
露けぶるむらさき捧げ紫*苑立つ 松本たかし
青と見れば紫光る海鼠かな 東洋城千句
青もかち紫も勝つ物芽かな 中村草田男
面上げて紫禁城あり菱を採る 原田青児
頂きに蟷螂のをる紫かな 上野泰 佐介
風に張る氷紫ならんとす 高澤良一 随笑
風の中紫蘭の内緒話かな 高澤良一 寒暑
風塵に紫華鬘幾菩薩 木村蕪城
食ふべう紫匂ふ蒲桃かな 尾崎紅葉
食罰の紫にがき葡萄かな 尾崎紅葉
養蜂家族いま紫の野花に暮す 金子皆子
香をつなぐ白と紫ライラック 稲畑汀子
馬鈴薯の花の紫忘我とは 児玉悦子
高原や桔梗ゆゝしき濃紫 高橋淡路女 梶の葉
鳥交り紫朱をうばひけり 龍岡晋
鳥兜その紫をわたくしす 柿本多映
鴫黒く不二紫のゆふべ哉 鴫 正岡子規
鶯や筑波紫の朝ぼらけ 鶯 正岡子規
鶯や紫川にひびく声 野村喜舟
鹽買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子
黄昏れて家ぬち灯る紫かな 尾崎迷堂 孤輪
黒きまで紫深き葡萄かな 正岡子規
黒キマデニ紫深キ葡萄カナ 葡萄 正岡子規
黒紫光われが繁殖しつつあり 阿部完市 証
●萌黄 
あかつきのひぐらし萌黄いろに啼く 原石鼎 花影以後
あぢさゐの萌黄の毬の照り合へる 深見けん二 日月
すごろくや山は萌黄に河は藍 籾山梓月
とぢ糸の萌黄食ひ入る布団かな 温亭句集 篠原温亭
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
塀ぎはに萌黄のしるき小春かな 室生犀星 魚眠洞發句集
寐ごゝろや萌黄の蚊屋の薄月夜 松岡青蘿
山々は萌黄浅黄やほとゝぎす 子規句集 虚子・碧梧桐選
山繭の目覚め近づく萌黄かな 加藤知世子
御代の春蚊屋は萌黄に極りぬ 越人
朝市の糸葱折れ菜つゆも萌黄 文挟夫佐恵 雨 月
桑畑を萌黄の雨のとほりけり 岡本まち子
白樺林萌黄に雲を流したり 臼田亞浪 定本亜浪句集
競ひ出て藪穂が萌黄梅の辺に 香西照雄 素心
紅も萌黄も見ゆる木の芽かな 木の芽 正岡子規
綴糸の萌黄凹みし布団かな 吉屋信子
芽柳の浅黄萌黄を風の梳く 阪尻勢津子
裾花の鬼女の裳裾はいま萌黄 伊藤敬子
赤薔薇や萌黄の蜘の這ふて居る 薔薇 正岡子規
釣釜や佐保姫という萌黄菓子 森田金峰
馬迄も萌黄の蚊屋に寝たりけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
高々と萌黄の空に夕紅葉 前田普羅 能登蒼し
鶯や慈姑煮上る薄萌黄 小澤碧童 碧童句集
●萌葱 
寒ふかき能装束の萌葱かな 毛利節子
十月の萌葱のべたりうまごやし 木津柳芽 白鷺抄
●桃色 
あす覚める眠りかみがく桃色ひづめ 三橋鷹女
いやな日の木に桃色の花咲ける 津沢マサ子
えいっとばかり桃色に桃の花 池田澄子 たましいの話
まだ起たぬ子鹿の耳の桃色に 吉川康子
もも色の薬まろばせ春の風邪 森本節子
もも色の袋に入りて切山椒 下田実花
コロンボの沙羅 桃色に 海荒れだす 伊丹公子 パースの秋
一筆桃色(みょうがのこ)死者に一重のまぶたはあり 折笠美秋 虎嘯記
五月わが桃色の肌いくとせぶり 赤城さかえ句集
冷肉の芯の桃色雷雨来る 田川飛旅子
処暑の花空もも色にして溢れ 長谷川かな女 花寂び
剪定や昏れてより空桃色に 増田斗志
名月やうす桃色の猫の舌 西村冨美子
土間口に夕枯野見ゆ桃色に 金子兜太 少年/生長
大蚯蚓空に桃色たなびけり 磯貝碧蹄館
形代に桃色人に夢多き 後藤比奈夫 めんない千鳥
新涼の素足桃色蕎麦の花 江川邑節
春はまだ浅く洗面器の桃いろ 高澤良一 素抱
望郷の大あくびして桃色カバ 岸本マチ子
木を植ゑて風桃色に卒業す 小嶋治子
桃いろ多き明治の駄菓子秋風に 古沢太穂
桃の節句獣の舌も桃色に 加藤かけい
桃咲いて村桃色に沈みけり 鈴木真砂女
桃咲けば桃色に死が匂ひけり 結城昌治
桃色に教会灯る五月闇 いさ桜子
桃色に雲の入日やいかのぼり 其木 古句を観る(柴田宵曲)
桃色の夜空を誰のいかのぼり 柿本多映
桃色の布巾かけたり蓬餅 癖三酔句集 岡本癖三酔
桃色の火事迫りくる木の芽かな 齋藤愼爾
桃色の舌を出しけり大根馬 池内友次郎 結婚まで
桃色の貝の死にゆく時間見ゆよごれつつ沖に攫はれはじむ 河野愛子
桃色の馬穴が雪だるまの帽子 高澤良一 随笑
桃色の骨のあるべし磯千鳥 中尾寿美子
桃色は弁天様のはちすかな 蓮の花 正岡子規
桃色を重ねてさくら空に入る 松山瑛子
桃色沙羅 受ける 諸手を器とし 伊丹三樹彦 写俳集
歳晩の夢のかけらの桃色鍵 横山白虹
氷に上る魚は桃色吐息して 宮丸千恵子
白桃の種は桃いろ孤を灯す 梶山千鶴子
真中濃く乙女椿の桃色に 原石鼎 花影以後
罪ありしは桃色時代七変化 香西照雄 素心
蚊とんぼ歩く微熱の空の桃色を 阿部完市 証
蝮出で野に桃色の花ばかり 長谷川櫂
遂に/谷間に/見出だされたる/桃色花火 高柳重信
遂に谷間に見出だされたる桃色花火 高柳重信
金玉糖桃色の餡あからさま 小川春休(童子)
金髪にして桃色の毛絲編む 京極杞陽 くくたち上巻
雀蛾の桃色の胴旋回す 石塚友二
雪深し火事桃色に迫りくる 秋澤猛
青芝に犬の舌桃色に垂れ 池内友次郎
魚は氷に上り土竜は桃色に 小島健 木の実
鵙が奏でて桃色の沖遠くあり 田川飛旅子
黒人の掌の桃色にクリスマス 西東三鬼(1900-62)
●山吹色
●雪白 
ハンカチーフ雪白なりや富士曇る 岸田稚魚
優曇華や雪白の布灯いろさす 加藤楸邨
児のケープ雪白にして聖母祭 飯田蛇笏 霊芝
冬濤を摶つ雪白の大き翼 内藤吐天 鳴海抄
切子見る雪白界を尾の内に 皆吉爽雨
寒泳を了へ雪白のタオル纒ふ 内藤吐天 鳴海抄
恵方嶺噴煙もまた雪白に 上田五千石
枯山の上に忽として一雪白 栗生純夫 科野路
毛衣の雪白他の子の上ぞ 石塚友二 光塵
眼裏に雪白満たすメスの下 加藤知世子 花寂び
碑の陰の碑に黐の花雪白に 加藤知世子 花寂び
薄暑よし受贈の句集雪白に 亀井糸游
赤石の秀の雪白は尺余のみ 栗生純夫 科野路
躑躅照る中雪白のザビエル碑 下村ひろし 西陲集
雪白に劣らじと葛晒しけり 江口井子
雪白に命薄きを妻と称ぶ 斎藤玄 クルーケンベルヒ氏腫瘍と妻
雪白の手袋の手よ善き事為せ 中村草田男
雪白の晒を緊めて裸押 檜 紀代
雪白の牡丹に見たり円光を 瀧春一 菜園
雪白へ泣きじやくる吾子シヤツ干す妻 飴山實 『おりいぶ』
●利休色 
遠山は利休色して鳥曇 岩田洋子
●瑠璃 
*ほうぼうのつばさに瑠璃の斑を隠す 大屋達治
あぢさゐにうづまりて死も瑠璃色か 稲垣きくの 牡 丹
あぢさゐの瑠璃極まらで褪せゆくや 林原耒井 蜩
あぢさゐの瑠璃流しこむ水の音 稲垣きくの 牡 丹
いちご熟れ瑠璃空日々にふかき冬 飯田蛇笏 春蘭
いぬふぐり瑠璃をぶちまけ咲き足らふ 西本一都 景色
いのちなり露草の瑠璃蓼の紅 石田波郷
いもやけて畑火の午天瑠璃ふかし 飯田蛇笏 春蘭
うたた寝すつつじの上の瑠璃蜥蜴 高澤良一 寒暑
うぶうぶと瑠璃光如来ほととぎす 鷲谷七菜子 花寂び
うら枯や咲くつゆ草の瑠璃の雨 渡辺水巴
おほみそら瑠璃南無南無と年新た 飯田蛇笏 春蘭
かはせみの瑠璃の一閃水温む 佐長芳子
かはたれの秋ばら瑠璃の色そへて 角川源義
きつつきや瑠璃沼霧の底に醒む 千代田葛彦
こだまして森をはみだす瑠璃のこゑ 唐澤南海子
この沢やいま大瑠璃のこゑひとつ 水原秋櫻子
しらびその霧の霽れつつ瑠璃鶲 窪田佳津子
その色の天作さしめよ雨の瑠璃鳥 栗生純夫 科野路
ちちろ虫「月光菩薩さまは瑠璃浄土」 辻桃子
つゆくさの瑠璃はみこぼす耕馬かな 西島麦南
とかげ瑠璃色長巻く日本の帯銀無地 三橋鷹女
なだれたる祗の径にも瑠璃一華 前田普羅 飛騨紬
のぶどうの孕む瑠璃いろ波羅蜜多 瀬川公馨
ひぐらしや塔暮れのこる瑠璃光寺 浜 敦子
ひたぶるに大瑠璃の声光前寺 皆川盤水
ひとつぶの瑠璃ころげいづ龍の玉 飴山 實
まち針の頭の瑠璃も供養かな 野村喜舟
みつめあふ秋天の瑠璃沼の瑠璃 鈴木貞雄
もの云ふと詩が消えさう瑠璃沼澄む 加藤知世子 花寂び
やどかりの瑠璃の全身出して羞づ 加倉井秋を
やぶれがさ打つ木しづくか小瑠璃なく 金尾梅の門
ゆきぞらの下にて瑠璃のいらか華奢 久保田万太郎 草の丈
より速く高きの覇者は瑠璃揚羽 筑紫磐井 花鳥諷詠
わだつみは雲放ちつぐ瑠璃揚羽 鍵和田[ゆう]子 浮標
ガラス戸を全身で打つ瑠璃*たては 木村久美子
シートベルトして大瑠璃なり遠く 市野記余子
ピッケルで指して目に追ふ瑠璃鶲 研 斎史
ブナ純林大瑠璃のこゑさきざきに 中戸川朝人
ラベンダー畑や夕日を瑠璃色に 青柳志解樹
ルリ貝の瑠璃ひびき合ふ夏館 石崎多寿子
一と所瑠璃色たもち滝秋冷 鍵和田[ゆう]子 未来図
一天の瑠璃を張りたり鵙の声 伊東 肇
一茎に龍髯の実の瑠璃七ツ 五十嵐播水 播水句集
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり 川端茅舎
三ツ峠湖へと下る瑠璃鶲 峠素子
三光鳥大瑠璃小瑠璃閑古鳥 黒田杏子 花下草上
三角点瑠璃鶲ゐて声澄めり 山谷春潮
下京の仁王の肩の瑠璃蜥蜴 坪内稔典
中の橋過ぎて瑠璃鳴く高野かな 岩木あやこ(萌)
二株の葉牡丹瑠璃の色違ひ 西山泊雲 泊雲句集
五月冷ゆ薬師瑠璃光王の前 神尾久美子 桐の木
五色沼その瑠璃沼の明け易き 山口青邨
交るとき瑠璃鳥大き瑠璃と凝る 栗生純夫 科野路
仏唇のいと濃き方へ瑠璃揚羽 小枝香穂女
伸び縮む鳩の瑠璃首春隣 高澤良一 素抱
佐保川やペルシャ瑠璃透くいぬふぐり 小檜山繁子
冬の瑠璃蝶密着の翅開き初む 中村草田男
冬草の一つに瑠璃の玉を秘む 上村占魚 『石の犬』
出土せる坏の瑠璃いろ露けしや 青木道子
初秋を告げて湖水の瑠璃深し 今橋眞理子
北上の瑠璃に流れて雪晴るる 及川あまき
千姫の墓のあぢさゐ瑠璃深む 井上千恵子
去就いまだ地図より翔ちし瑠璃揚羽 河野多希女 月沙漠
嘲笑うための瑠璃色臭木の実 鈴木光彦
嘴上げて唄ふ瑠璃鳥軽井沢 伊藤敬子
噴煙の或る時瑠璃に大つつじ 長谷川かな女 牡 丹
囀に色あらば今瑠璃色に 西村和子 夏帽子
囀の機嫌の瑠璃に筆とむる 大橋敦子
囀や雨やみ瑠璃の夜明空 岡田 日郎
囀りに色あらば今瑠璃色に 西村和子
囀りや雨止み瑠璃の夜明空 岡田日郎
四つ目垣見えかくれして瑠璃鶲 本木とし子
土砂降りに明けて朝顔の瑠璃ひとつ 水原秋櫻子
声まろぶ大瑠璃鳥樹海かたむくに 皆吉爽雨 泉声
壷焼や瑠璃を湛へし忘れ潮 水原秋櫻子
夏潮の瑠璃しんしんと菊が浜 鈴木しげを
夏蝶の息づく瑠璃や楓の葉 水原秋櫻子
夜明けはや大瑠璃の声森深く 内田 圭介
夢殿を立ち出でて逢ふ瑠璃柳 大橋敦子 匂 玉
大瑠璃に大門の霧晴れにけり 小畑晴子
大瑠璃に耳澄ます時みな詩人 永岡うろお
大瑠璃のこゑころがるや白馬岳 染谷佳之子
大瑠璃のこゑや入江の村しづか 森田かずを「金環蝕」
大瑠璃のこゑ谷空に広がりぬ 丹羽香野
大瑠璃の処替へつつ啼き継げる 小杉伸一路
大瑠璃の声すと深き谿覗く 橋本記縫恵
大瑠璃の声の涼しき立石寺 古賀まり子
大瑠璃の声ひとりじめ露天風呂 山田一恵
大瑠璃の声より明くる御岳山 佐藤 忍
大瑠璃の声をまぢかに書く旅信 冨樫藤予
大瑠璃の声聞く窓を開け放ち 山口ひろし
大瑠璃の声諸鳥に交はらず 橋本 千秋
大瑠璃の谺をかへす虚空かな 加藤耕子
大瑠璃の谿童顔をためらへり 飯島晴子
大瑠璃の鳴き移り来る呂丸の忌 粕谷容子
大瑠璃やまだ濡色の牧の空 平賀扶人
大瑠璃や一渓制し鳴き止まず 岡田日郎
大瑠璃や入江の深さ眼下にす 目黒十一
大瑠璃や山毛欅に倒るる山毛欅の影 根岸 善雄
大瑠璃や岩の鎮もる奥之院 青麻やす子
大瑠璃や岩壁すでに夜明けたる 石野冬青
大瑠璃や岳見る頬を霧が打つ 野中亮介
大瑠璃や峯はなれゆく明の雲 高野 教子
大瑠璃や峰より明くる奥鞍馬 長谷川草洲
大瑠璃や島にオンコの原始林 阿部幽水
大瑠璃や朴の梢を霧動き 渡辺夏舟
大瑠璃や海へせり出す溶岩の原 加藤青女
大瑠璃や渓に鉄泉硫黄泉 鈴木麻璃子
大瑠璃や絶壁攀づる人の点 有働 亨
大瑠璃や羊歯に細りし牧の道 藤澤 石山
大瑠璃や草川音もなく流れ 小川斉東語
大瑠璃や雲より出づるダムの壁 岡田 貞峰
大瑠璃をあちこちに聞く梓川 杉本寛
大瑠璃鳥の仰がれて枝かへにけり 堀口星眠 営巣期
大瑠璃鳥の鳴くと登れば岩仏 市村究一郎
大瑠璃鳥や白灯台に灘の照り 岡部六弥太
大華厳瑠璃光つらら打のべし 川端茅舎
天壇の瑠璃の歳月秋の天 伊藤敬子
天壇の遅日の空の瑠璃瓦 福井圭児
天蚕虫瑠璃光りしてあるきけり 飯田蛇笏 霊芝
天高し飛ばねば見えぬ蝶の瑠璃 香西照雄 素心
天高し龍の踊れる瑠璃瓦 古賀まり子
奥の湯へすぐる岩の門瑠璃鳥高音 皆吉爽雨
子蜥蜴に泉がわかつ瑠璃の色 三谷昭 獣身
守門攀づまづ瑠璃一華咲くところ 岡田日郎
安達太良の瑠璃襖なす焚火かな 加藤楸邨
安達太郎の瑠璃襖なす焚火かな 楸邨
寒梅や瑠璃きはめたる塔の天 川澄祐勝
寸刀のごと苔にあり瑠璃蜥蜴 桂樟蹊子
小瑠璃なき雨の木立の暗からず 和田 祥子
小瑠璃の巣手にとりしとき小瑠璃鳴く 新井 石毛
小瑠璃鳴きから松の穂のきらめけり 棗美沙子
小瑠璃鳴き朝は雫す森の径 原柯城(馬酔木)
小瑠璃鳴き止めばからまつ山暮るる 青柳志解樹
小瑠璃鳴き瀧のひびきの遠からず 中村 省一
小瑠璃鳴き羊歯のそよぎのひろごれる 中村信一(馬酔木)
小瑠璃鳴き胡桃も冷えしヨーグルト 澤田 緑生
小瑠璃鳴き風吹きはらふ山毛欅の雨 中村信一
小瑠璃鳴くまだ日の射さぬ谷の宿 八十嶋祥子
小瑠璃鳴く山田の苗は水に立ち 岩村牙童
就中縁まで瑠璃の朝顔や 久米正雄 返り花
尾の先の遅れがちなり瑠璃蜥蜴 片山由美子 風待月
尾を曲げて瑠璃の濃くなる糸蜻蛉 堀口星眠 樹の雫
屋根の上の瑠璃濃く木の芽ふきこぞる 川島彷徨子 榛の木
山の日の凛々として木の実瑠璃 内藤吐天 鳴海抄
山垣へ葡萄瑠璃光蕩揺す 木村蕪城 寒泉
山巓の雲離れゆく瑠璃の声 唐橋正伊
山影を抜けしとき瑠璃黒揚羽 高橋笛美
山暮るるまで白樺に小瑠璃鳴く 石原栄子
山葵咲く懸崖づたひ瑠璃鳥一羽 橋本鶏二
山門を入る瑠璃揚羽つるみつつ 松尾隆信
山陰の暗き杣路や瑠璃鶲 長谷川草洲
山風や瑠璃深めゆく式部の実 太田 蓁樹
岨の空瑠璃極まりて梅に翳 久米正雄 返り花
峡の水打つかはせみの瑠璃つぶて 平井さち子 鷹日和
崖すみれ神の遊びし淵瑠璃に 鍵和田[ゆう]子 未来図
嶺雲の影濃き朝を瑠璃鶲 小澤克己
川に野の空の瑠璃行く野分かな 小池文子 巴里蕭条
干葡萄瑠璃天蓋に星透き来 小檜山繁子
年守るとさても瑠璃香えんま香 藤田湘子 てんてん
底なし沼忽と瑠璃なす深山霧 鷲谷七菜子
引鶴として天涯の瑠璃に帰す 有馬草々子
引鶴の瑠璃美しく飛び去りぬ 川西加古
彫刻のうしろ大瑠璃こゑみがく 河野多希女「卑弥呼の風」
微風湧くなり朝顔の瑠璃の淵 高澤良一 寒暑
手にふれば瑠璃やくもりて初茄子 大江丸
散る照葉火口湖深く瑠璃なせり 角川源義
新雪の蔵王瑠璃光浴びて聳つ 小倉英男
旅の私に大瑠璃はりついて取れぬ 若森京子
日光月光瑠璃光如来花会式 窪田あさ子
日矢きはだつ楢幾樹過ぎ瑠璃鳥また鳴く 中戸川朝人 残心
春禽の瑠璃の羽立てて嘴曲ぐる 水原秋桜子
昼暗き走り根の道小瑠璃鳴く 茂木敏子
晩年や瑠璃色の飴口中に 塚本邦雄 甘露
晴れ渡る*ぶなの樹海に小瑠璃鳴く 長谷川草洲
晴雪へ瑠璃なすわれの影法師 篠田悌二郎 風雪前
暮れ残る田水明りに小瑠璃鳴く 鈴木麻璃子
曝涼の色鮮やかに瑠璃の杯 龍頭美紀子
月読の山は瑠璃晴れ花芒 粕谷容子
朝靄の山に立ちこめ小瑠璃鳴く 雨宮美智子
朝顔の瑠璃に愕く燕かな 原石鼎
朝風に小瑠璃下り来し水場あり 望月たかし
木曽川の瑠璃なす渕の番鴨 小倉眞子
杉の香や霧の奥より小瑠璃鳴く 沼田淑子
松風の声となりゆく瑠璃鶲 渡辺夏舟
枯原や溝よりたちし瑠璃鶲 銀漢 吉岡禅寺洞
枯芝にまじりし瑠璃の翅こぼつ 石井祥三
柿紅葉貼りつく天の瑠璃深し 瀧春一
梅雨の月光をましぬ瑠璃光院 山口青邨
檣に瑠璃燈懸けよ海の秋 芥川龍之介 我鬼窟句抄
止まらんと瑠璃糸とんぼ間合詰め 高澤良一 燕音
正月の雲のももいろ瑠璃光寺 上野さち子
歯朶くらし小瑠璃のこゑのまろびくる 水原秋櫻子
殻を脱ぐ蝉生誕の翅の瑠璃 小原菁々子
母います瑠璃がしたたる茄子漬 田中束穂
母の日の大瑠璃のこゑ濡れひひく 沼澤 石次
毒蔓の実の瑠璃しるく爽気かな 飯田蛇笏 春蘭
水音を抜けて小瑠璃の声聞こゆ 茨木和生
氷片の瑠璃を流して最上川 松本進
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま 中村草田男「来し方行方」
沖膾天の遠きに瑠璃の山 松瀬青々
沢を吹く歯朶の嵐に瑠璃鶲 山谷春潮
沢風に吹きさそはれて鳴く小瑠璃 山谷 春潮
深山蝶瑠璃虎の尾を選びたる 内山茂
深耶馬の空は瑠璃なり紅葉狩 杉田久女
清明の雨に光れる瑠璃瓦 古賀まり子
渡りきし鴛鴦に瑠璃なす雪の淵 小田 司
湖の瑠璃は掬べず水澄めり 今橋眞理子
湖瑠璃色揚羽は己が影脱けず 河野南畦 湖の森
源泉守る瑠璃鳥の艶みどりさす 田中水桜
漁やめて瑠璃の海底秋祭 百合山羽公 寒雁
瀞小春碧より瑠璃へ舟下り 落合水尾
灌頂や瑠璃瓶中の春の水 松瀬青々
焼きおにぎり小瑠璃に声を促せり 武田仲一
燈心蜻蛉(とうすみ)は瑠璃一色の針とんぼ 高澤良一 素抱
爆心といふも瑠璃なす冬の空 堀内薫
牡丹の芽瑠璃の影生む雪の上 馬場移公子
犬ふぐり瑠璃濃き日なり素陶干す 中村 彌
玉虫のむくろのとはに瑠璃光り 浅井青陽子
玉虫の瑠璃色きよき寒さかな 細見綾子 天然の風
理髪師の瑠璃の鏡にたつ卯浪 佐野まもる 海郷
瑠璃いろの蝶見失ふ滝の空 森藤千鶴
瑠璃てふは眼を洗ふ色犬ふぐり 村上杏史
瑠璃ながす空に一鳥石鼎忌 原コウ子
瑠璃のこゑ厚朴の葉脈ありありと 瀧春一
瑠璃の巣や二人静の咲くほとり 山谷 春潮
瑠璃の穂を吐きつぐ牡丹焚火かな 原 コウ子
瑠璃の空柿の枯枝の曲折に 瀧春一 菜園
瑠璃やなぎ名も美しき月照寺(松江) 角川源義 『冬の虹』
瑠璃光仏閻浮の闇は虫しぐれ 加藤楸邨
瑠璃光寺塔見上げてはやぶ椿 小平披露
瑠璃光院百日紅の花いまだ 田村了咲
瑠璃光院鳳仙花咲き人が住む 山口青邨
瑠璃啼いて天杉の闇渡りゆく 渡部利久子
瑠璃啼いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
瑠璃啼くや暁紅湖にさしわたり 小倉英男「磐座」
瑠璃啼くや浅間の天の底知れず 和泉千花
瑠璃天は固より照らふ紅梅も 草城
瑠璃揚羽わたしのにおい嗅ぎにこよ 鎌倉佐弓 天窓から
瑠璃揚羽蒼空の蒼持ち去れり 木内徹
瑠璃揚羽逢魔が刻を待ちゐたり 石寒太 炎環
瑠璃沼に瀧落ちきたり瑠璃となる 水原秋櫻子
瑠璃沼の塵にひとしき水馬 長田等
瑠璃沼の暁け谺して里鶫 伊藤いと子
瑠璃沼の水に瑕瑾の水すまし 伊藤孝一
瑠璃沼の瑠璃のさざなみ通し鴨 阿部子峡
瑠璃沼の瑠璃乱さずに通し鴨 岡部六弥太
瑠璃沼の瑠璃深めたる照紅葉 鎌田 茂
瑠璃沼の色より生まる糸蜻蛉 草野悦
瑠璃沼を高きより見る蔓手毬 小野宏文(橡)
瑠璃王の東西南北みずけむり 夏石番矢(1955-)
瑠璃盤となりて五月の海遠し 日野草城
瑠璃紺の身をさかしまに鯉の空 久保純夫 聖樹
瑠璃色にして冴返る御所の空 阿波野青畝
瑠璃色のニイスも何の破芭蕉 小池文子 巴里蕭条
瑠璃色の朝顏さくや松の枝 朝顔 正岡子規
瑠璃色の朝顏咲きぬ下厠 朝顔 正岡子規
瑠璃色の水を零せり柿若葉 真鍋つとむ
瑠璃色の海を秋待つ心とし 細見綾子
瑠璃色の空どこまでも冴返る 山田閏子
瑠璃色の空を控へて岡の梅 夏目漱石 明治三十二年
瑠璃色の虫の交めり梅雨晴間 ふけとしこ 鎌の刃
瑠璃草の花瞬かず巣立鳥 堀口星眠 営巣期
瑠璃草の見えずなるまで涼みけり 阿部みどり女
瑠璃草やしとしと曇る浅間山 前田普羅「春寒浅間山」
瑠璃菊や児と一字の塔かなし 西本一都
瑠璃蜆蝶紅蜆蝶ここより美き村か 香西照雄 対話
瑠璃蝶やながるゝごとく維摩経 筑紫磐井 婆伽梵
瑠璃蟻の蛹おそろし空海忌 塚本邦雄 甘露
瑠璃金銀玉虫にさへとほく生き 永高爽
瑠璃鳥に山荘の森貸してをり 伊藤敬子
瑠璃鳥のあそべり散るは紅空木 山谷 春潮
瑠璃鳥の居らずなりたるさるをがせ 不泥
瑠璃鳥の瑠璃隠れたる紅葉かな 原石鼎
瑠璃鳥の色のこしとぶ水の上 長谷川かな女 雨 月
瑠璃鳥の色残し飛ぶ水の上 龍胆 長谷川かな女
瑠璃鳥の谿渡るらし古今集 角川春樹 夢殿
瑠璃鳥の鳴くほの暗き籠の中 藤井 俊一
瑠璃鳥や覗くカメラの中に鳴く 阿部竹子
瑠璃鳥澄める連山の夜をはがしつつ 宇咲冬男
瑠璃鳴いて湖おほらかにあけにけり 近藤貴美子
瑠璃鳴いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
瑠璃鳴きて靄の晴れゆく美女平 朝妻力「晩稲田」
瑠璃鳴くやなほ林中の夕明り 戸川稲村
瑠璃鳴くや一磐石に水くだけ 斎藤優二郎
瑠璃鳴くや日当りながら山の雨 鵜飼登美子
瑠璃鳴くや樹海をはしる霧迅き 吉澤 卯一
瑠璃鳴くや渓に横たふ杉丸太 加納圭子
瑠璃鳴くや熔岩の湿りに掌をおけば 星野麦丘人
瑠璃鳴くや矢野の神山松荒れて 高井北杜
瑠璃鳴くや雨降つて朝みづいろに 大野林火
瑠璃鳴くや頂きけむる越後駒ヶ岳 佐藤草豊
瑠璃鳴けば樹海の霧の澄みゐたり 田中由貴子
瑠璃鳴けば蓼科に雲厚くなる 秋山花笠
瑠璃鳴ける雪崩跡日の洽しや 岡田貞峰
瑠璃鶲てのひらに来て指つつく 阿部ひろし
瑠璃鶲ふと筆を置く山日記 安田和義
瑠璃鶲一姿一声われを招く ひらきたはじむ
瑠璃鶲姫川白き波猛る 上埜是清
田楽の青串こげて瑠璃のこゑ 角川照子
異境かな瑠璃遍照の桔梗咲く 小林康治 四季貧窮
疲れ鵜の瑠璃の泪目なせりけり 石川桂郎 高蘆
白山に月傾くと瑠璃鳴くや 角川源義 『口ダンの首』
白樺に来鳴く小瑠璃や日の出前 岡田日郎
白檜曾の樹海岩荒れ瑠璃鶲 岡田 日郎
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白露や瑠璃光薬師目を守れ 龍岡晋
白露や瑠璃空に生きて逆流る 石原八束
白馬鑓雪まださはに瑠璃巣立つ 澤田緑生
盛り上る藍の瑠璃光染始 由木みのる
真つすぐに朝餉の煙瑠璃来鳴く 右城暮石 声と声
眼の前にひるがへる瑠璃夏燕 川崎展宏
短夜の烏に瑠璃のありしこと 正木ゆう子 静かな水
磯鵯の襟首瑠璃に礁空 高澤良一 随笑
神の山瑠璃鳥に風引きしまる 目貫るり子
秋さむや瑠璃あせがたき高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
秋しじま瑠璃に沈める竹生島 伊藤敬子
秋光が秋光を呼び瑠璃の碗 狹川青史
秋冷やか湖円錐に瑠璃深め 岡田貞峰
秋冷や瑠璃色尽す山上湖 宮田俊子
秋霞みしてゐる瑠璃鳥や朴の先 飯田蛇笏 霊芝
科の皮煮る大釜や小瑠璃鳴く 阿部月山子(春耕)
空が日を浴びて二月の瑠璃日和 中村草田男
空の瑠璃ここにしたたる竜胆花 太田鴻村 穂国
空は瑠璃 沙羅咲かすべく 散らすべく 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
立石寺大瑠璃鳴ける岩襖 皆川盤水
糸遊にフラスコが瑠璃と見ゆるかな 松瀬青々
納骨の膝つけば瑠璃いぬふぐり さぶり靖子
純粋に木の葉降る音空は瑠璃 川端茅舎
素潜りや瑠璃の魚見てすぐやめし 小池文子 巴里蕭条
紫陽花の瑠璃に面伏せ匂ひなし 川崎展宏
紫陽花の瑠璃の遠心又求心 林原耒井 蜩
紫陽花の瑠璃凝れば地に牽かれけり 林原耒井 蜩
網引くや闇に瑠璃なす蛍烏賊 池田笑子
綿虫の一点の瑠璃他郷なる 山本くに子
羊歯くらし小瑠璃のこゑのまろびくる 水原秋櫻子「古鏡」
翡翆の一閃に瑠璃残しけり 冨田みのる
耕耘にくもるつゆくさ瑠璃あせず 飯田蛇笏 春蘭
腰引いて大瑠璃*たて蝶の寝所追ふ 攝津幸彦 鹿々集
臘梅に天冥きまで瑠璃きはむ 原柯城
臭木の実群青といひ瑠璃といひ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
色鳥の抜羽ひろひぬ瑠璃濃ければ 稲垣きくの 牡 丹
芝枯れて瑠璃照壁のごと海は 山口誓子
花合歓や凪とは横に走る瑠璃 中村草田男
花散るや瑠璃の凝りたる夢の淵 阿波野青畝
芽吹きたる枝から枝へ瑠璃鶲 青木政江
草の実の瑠璃色燦と枯れはじむ 稲垣きくの 牡 丹
荒鵜の目瑠璃深めつつ春逝かす 北見さとる
菖蒲葺く簷あり小瑠璃うたひゐる 水原秋櫻子
菱形となりて大瑠璃駆くるそら 高澤良一 さざなみやつこ
萩咲きて瑠璃光如来在します 大橋敦子 匂 玉
萩紫苑瑠璃空遠く離れけり 飯田蛇笏 霊芝
落葉松に森の大瑠璃うたひ出す 伊藤敬子
薪割つてをれば濃ゆしや空の瑠璃 川島彷徨子 榛の木
薬喰座右に瑠璃の砂糖壺 妻木 松瀬青々
藪漕の間近に瑠璃鳥の騒ぎけり 西尾美穂子(山茶花)
藻の花やこれも金銀瑠璃の水 重頼「佐夜中山」
虫籠を覗けば何と瑠璃蜥蜴 高澤良一 素抱
虹立ちて十和田湖の瑠璃濃かりけり 堤剣城
蛇の髯の實の瑠璃なるへ旅の尿 中村草田男
蜩や金色仏に瑠璃が見ゆ 加藤知世子 花 季
蝉の瑠璃ちらっと脳裏掠めけり 高澤良一 随笑
蝋燭の焔の瑠璃や夏の暮 山西雅子
血を喀けば勿忘草の瑠璃かすむ 古賀まり子 洗 禮
行きし瑠璃鳥またかへしきぬ山葵澤 橋本鶏二
衣かけて岩に銭おく瑠璃鶲 古舘曹人 樹下石上
見えて鳴く瑠璃鳥か樹海の立枯に 皆吉爽雨
誰がための深き瑠璃いろ竜の玉 鈴木二郎
谷の出す雲の徒労や瑠璃鶲 中戸川朝人 尋声
谷川岳雪解滂沱と瑠璃ながる 千代田葛彦 旅人木
豊年の瑠璃空つゞる雀かな 久米正雄 返り花
赤松を吹き過ぐる風瑠璃鳴けり 西 苓子
赤蜻蛉天の瑠璃には縫目なし 伊丹丈蘭
走り来て波打つ腹や瑠璃蜥蜴 早川暢雪
足もとは瑠璃色淡きいぬふぐり 黒谷光子
跼まればここ瑠璃世界いぬふぐり 鈴木貞雄
遊船の瑠璃まぶしがる二人づつ 文挟夫佐恵 雨 月
郭公や瑠璃沼蕗の中に見ゆ 水原秋櫻子
野の病舎春りんだうの瑠璃そよぐ 古賀まり子
野葡萄の瑠璃さんざめく風日和 文挟夫佐恵
金銀瑠璃*しゃこ瑪瑙琥珀葡萄かな 松根東洋城
金魚田や瑠璃を惜しまず螢草 石田あき子 見舞籠
鉛毒の女形瑠璃湯にもがり笛 宮武寒々 朱卓
陽を砕く貝殻のみち瑠璃あそぶ 堀 葦男
雁の声生れゆるぎなき空の瑠璃 木下夕爾
雨のなか瑠璃やなぎ咲き夕ごころ 角川源義 『西行の日』
雨の日は雨の大瑠璃鳴きにけり 原 天明
雨打つや必死の瑠璃のほたる草 堀口星眠 営巣期
雨晴れて末黒芒に瑠璃もどる 立野丘秋
雪中に瑠璃冴えにけり竜の玉 荻野泰成
雪嶺に重なりて瑠璃きつき峰 内藤吐天 鳴海抄
雪降るや瑠璃光寺池鏡なす 合田岩雨
霜いたるつゆぐさは瑠璃固めゐて 松村蒼石 雪
霜鏡全天瑠璃をなせりけり 野見山朱鳥
霧氷林日を得て沼の瑠璃極む 角川源義
露をのむ瑠璃鳥や涅槃の楢林 永田耕衣
露噴いて夜明け瑠璃なす観世音 加藤知世子 花寂び
露草のひとつぶの瑠璃天の幸 柴田白葉女
露草の瑠璃いちめんの昼寝覚 木村蕪城 一位
露草の瑠璃や勲記は筒の中 飯田龍太
露草の瑠璃より明くる紀の山河 松本 幹雄
露草の瑠璃をとばしぬ鎌試し 銀漢 吉岡禅寺洞
露草の瑠璃を寝覚の床の道 山口青邨
青葉蔭薬師瑠璃光の出湯とぞ 高橋睦郎 金澤百句
青鷺の影の揺れゐる瑠璃の湖 畠 友子
風にうまみ梢よりこぼる瑠璃の声 河野多希女 月沙漠
風入るる藤村旧居瑠璃鳥のこゑ 堀口星眠
飛花たかく瑠璃空風は濁りけり 西島麦南 人音
驟雨来て瑠璃岩盤に萩散りぬ 沢木欣一 雪白
鬼やんま瑠璃の目玉を廻しけり 都筑智子
鱒跳ねる瑠璃やその値は妻ささやき 加藤知世子 花寂び
鳥渡る瑠璃陶片のさまざまを 小檜山繁子
鳩の首瑠璃光放つ朱夏の宮 加藤耕子
鳴き合ふ時鴨の青頸瑠璃含む 知世子
鴛鴦や瑠璃を沈めし明けの瀞 小川斉東語
鵙の翔つ雲間瑠璃なり炎天寺 羽田貞雄
黄落にまぎれはせずて雉子の瑠璃 細見綾子 黄 炎
黒髪山は神在す山瑠璃鳴けり 小山陽子(杉)
●ろうかん 
*ろうかんのごとく山ある大暑かな 安東次男 裏山
*ろうかんの泉を鳴らす大柄杓(黒羽大雄寺) 角川源義 『秋燕』
*ろうかんの湖芯へ引けり花筏 中村石秋
*ろうかんの潮あびては巌冴ゆる 加藤耕子
*ろうかんの空より来たり夜の秋 高野途上(鷹)
*ろうかんの竹*ろうかんの露の玉 西村千鶴枝
*ろうかんの竹に影して蟻のぼる 内藤吐天 鳴海抄
*ろうかんの竹の四つ手の白魚網 舘野翔鶴
*ろうかんの竹春雨の樋となりぬ 青邨
*ろうかんの竹筍を白く生む 粟津松彩子
*ろうかんの簷の葡萄に寿 木村蕪城
*ろうかんや一月沼の横たはり 石田波郷(1913-69)
*ろうかんや夏の日射しの砕け散り 藤松遊子
*ろうかんをくだく白波石蕗の崖 石原八束 『藍微塵』
かなかなや一*ろうかんの山上湖 山下知津子
十月の*ろうかん湖や少女過ぐ(裏磐梯) 角川源義 『神々の宴』
恵那峡に*ろうかんの水小鳥来る 伊藤敬子
日輪に飛ぶ*ろうかんの千鳥かな 川端茅舎
春夕焼水の*ろうかん利根の凪 古市絵未
朝靄に*ろうかん曇る今年竹 木村蕪城
海水浴*ろうかん色の深きとこ 井出寒子
滴りの*ろうかんを踏むほとけかな 鴻司
秋の灯の*ろうかんは色深めたり 藤木倶子
紀ノ川もまた*ろうかんや竹の秋 実
若竹の*ろうかん苔に立ちならぶ 水原秋櫻子
青柿の*ろうかんたるや活けてあり 野村喜舟
●若紫 
初鶏は若紫の声ひけり 平井照敏 天上大風
振る袖の若紫の陰になり 三輪初子
春日野や若紫の惣鹿子 季吟
春雨にうつとり読みし若紫 筑紫磐井 婆伽梵
●藁しべ色
●ホワイト 
ホワイト・メロン月に転げて止りて白し 林原耒井 蜩
●つまくれない 
つまくれなゐ幾とせ零れ咲きにけり 松村蒼石 雪
ほろほろとつまくれなゐの散る別れ 西本一都 景色
墓掃除つまくれなゐの盛りかな 田中寒楼
萎れたるつまくれなゐの枕花 吉武月二郎句集
虎吠えてつまくれなゐの零れたる 岡本洋子
行水やつまくれなゐの一ト並び 増田龍雨 龍雨句集
風なきにつまくれなゐのほろと散る 仁尾正文
廃園の爪紅の実をはじきなど 臼田亞浪 定本亜浪句集
爪紅(つまぐれ)のさきにひとびと点るかな 松澤昭 宅居
爪紅に素足古風なつばくらめ 長谷川双魚
爪紅のうすれゆきつゝみごもりぬ 篠原鳳作 海の旅
爪紅の手をのべて芙蓉折らんとす 芙蓉 正岡子規
爪紅の濡色動く清水かな 長サキ-卯七 六 月 月別句集「韻塞」
爪紅の種を飛ばしにふるさとヘ 中嶋鬼谷
爪紅の素足古風なつばくらめ 長谷川双魚 風形
爪紅の雪を染めたる若菜かな 鏡花
爪紅の鯵干す中に咲けるあり 鷹野清子
爪紅は其海棠のつぼみかな 蕪村
爪紅や叱られて地に何を描く 藤村克明
爪紅や童女の世界夕焼けつつ 岡本まち子
爪紅を播きたることを言ひたかり 大石悦子 聞香
行春の爪紅落す女かな 行く春 正岡子規
●菜の花色 
体内の地図を菜の花色にする 岡村行雄
夕暮の菜の花色となつてゆく 唐笠何蝶
家々や菜の花色の燈をともし 木下夕爾
菜が咲いて菜の花色の海の月 数馬あさじ
酔えぬ夜は菜の花色の夢が欲し 橋石
●くれなゐ 
*さんざしのくれなゐの蕊黒の蕊 深見けん二 日月
*ざりがにのむくろくれなゐ秋澄めり 小島健 木の実
あさがほや咲けば跡なきうすくれなゐ 林原耒井 蜩
あながちにくれなゐならぬ紅葉かな 橘仙 五車反古
あめつちのくれなゐ消ゆる秋の暮 藤田湘子 てんてん
あやとりの川の川浪くれなゐに 大石悦子 群萌
あやとりの紐のくれなゐ小正月 中野青芽
いぢわるの髄はくれなゐ桜しべ 西川 織子
いろは楓を凌ぐくれなゐ唐楓 藤原たかを
かはほりの天地反転くれなゐに 小川双々子
くれなゐといふ重さあり寒椿 鍵和田「ゆう」子
くれなゐにひびきもつれぬ除夜の鐘 永田耕衣 真風
くれなゐにまなこ溺るる西瓜くふ 赤松[ケイ]子
くれなゐに仏の暮れる春の雪 吉田鴻司
くれなゐに布染めてゐる鵙の昼 谷中隆子
くれなゐに暗さありけり葉鶏頭 廣瀬直人
くれなゐに枯れたる草にさす日かな 西嶋あさ子
くれなゐに焚かれ因幡の捨雛 立澤 清
くれなゐに白かしづきて寒牡丹 荒川香代
くれなゐに蕎麦を刈り伏せ野の小春 皆吉爽雨
くれなゐのこゝろの闇の冬日かな 飯田蛇笏
くれなゐのほたる烏賊食ぶ寺泊 佐川広治
くれなゐのゆく手となりぬ梅の道 井沢正江 晩蝉
くれなゐの一反を抱く雪の町 中嶋秀子
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる 正岡子規
くれなゐの夕べ鳰が首だす寂しくて 小寺正三
くれなゐの夢より蝉かひとつ落つ 枇杷男
くれなゐの奉白文や賀茂祭 中田余瓶「百兎集」
くれなゐの実を荒きとも神迎 宮坂静生 山開
くれなゐの寄りて密談毒茸 笹本カホル
くれなゐの富士に真向ひ誓子の忌 神谷青楓
くれなゐの小貝ちりばめ寒渚 内藤吐天 鳴海抄
くれなゐの巫女の歩めり冬の草 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
くれなゐの座布団一つ余りけり(悼石橋秀野) 石塚友二
くれなゐの影淡くゆれ花水木 小島花枝
くれなゐの日の出しばらく一葉忌 廣瀬直人
くれなゐの星がとびとぶ牡丹の芽 齋藤愼爾
くれなゐの星を真近に草泊 野見山朱鳥
くれなゐの春といふもの惜しみけり 角川春樹 夢殿
くれなゐの暮より蝉かひとつ落つ 河原枇杷男 訶梨陀夜
くれなゐの桃齧らむに何処ありや 下村槐太 天涯
くれなゐの残暑は背中より来ると 櫂未知子 蒙古斑
くれなゐの気配にありし雪女郎 伊藤通明
くれなゐの沖ッ白波を初景色 飴山實 『次の花』
くれなゐの泪ぎつしりざくろの実 和田知子
くれなゐの浪打ちよする緋の牡丹 稲垣きくの 牡 丹
くれなゐの疫病(えやみ)みぞれの中の紅葉 塚本邦雄 甘露
くれなゐの白けて咲ける大牡丹 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
くれなゐの瞼をとぢぬ撃たれ雉子 橋本鶏二
くれなゐの祭の後の花ひろふ 佐々木六戈 百韻反故 初學
くれなゐの空のさざなみ滝ざくら 神蔵器
くれなゐの笛の袋を冬乙女 鈴木鷹夫 大津絵
くれなゐの糸のごとくに花しぐれ 角川春樹 夢殿
くれなゐの絹糸桜綻びぬ 糸桜 正岡子規
くれなゐの肌透き羊刈り終る 尾高せつ子
くれなゐの舌を使へり春の鳥 鈴木鷹夫 大津絵
くれなゐの色を見てゐる寒さかな 綾子
くれなゐの色紙を選ぶ筆始 野見山ひふみ
くれなゐの蓮鑑真のために咲く 津田清子
くれなゐの薩摩げんげ田馬車通る 佐川広治
くれなゐの虫籠抱いて高麗の子よ 並木葉流
くれなゐの表紙華甲の初日記 宮田祥子
くれなゐの袂かかへる初詣 石原八束
くれなゐの裸木に水注ぎけり 原田喬
くれなゐの襷一本年用意 岡部名保子
くれなゐの豚の耳より春の風 江口干樹
くれなゐの重さの薔薇を腕にす 大石悦子 群萌
くれなゐの鈴虫の籠神にかな 大橋敦子
くれなゐの錦木越しの桜島 大高弘達
くれなゐの闇あたたかき雛の間 西村梛子
くれなゐの雪は世界の屋根の峰 阿波野青畝
くれなゐの雲を浮かべて文化の日 角川春樹
くれなゐの頬のつめたさぞ唇づくる 篠原鳳作 海の旅
くれなゐの骨肉裂けて懸り凧 野見山朱鳥
くれなゐの魚のごとくに紅葉の散りくるときに身を低くしき 山下陸奥
くれなゐの鴉を探す鑑真忌 岩淵喜代子
くれなゐはくれなゐをもて鎮むべし萩は残花を正眼に見しむ 雨宮雅子
くれなゐは土の信号芽芍薬 佐藤うた子
くれなゐは目覚めの早し牡丹園 片山由美子 風待月
くれなゐもかくてはさびし烏瓜 蓼太
くれなゐや夕日もへたつ雉子の声 立花北枝
くれなゐをしぼりて楓冷ゆるかな 鷲谷七菜子 游影
くれなゐをはなれて桃の花雫 伊藤通明
くれなゐをみどりを籠めて花氷 日野草城
くれなゐを一瞥に糶る金魚市 稲住津綸子「大津絵」
くれなゐを天へつなげり糸桜 井沢正江 湖の伝説以後
くれなゐを籠めてすゞしや花氷 日野草城
くれなゐを苦悶の色に武者侫武多 鈴木鷹夫 風の祭
げんげ田にくれなゐ暗き彼方あり 赤松[ケイ]子
さみだれて此処に友住む薔薇くれなゐ 林原耒井 蜩
しだれつつ夢のくれなゐ檀の実 堀口星眠 営巣期
しんじつを籠めてくれなゐ真弓の実 後藤比奈夫 初心
すかんぽのくれなゐの波鷺かへる 堀口星眠 営巣期
すかんぽの筋のくれなゐ特攻碑 安崎久子
たつ春のくれなゐ浅しひの菜漬 中勘助
つくば峰のほのくれなゐの初日かな 安江眞砂女
てのひらにくれなゐの塵実朝忌 永島靖子
てのひらのくれなゐ嫁ケ君頭上 手塚七木
なでしこに低く残れるくれなゐの花ただ一つ年をこえたり 玉城徹
はなうめのくれなゐに童が鉄*かま 飯田蛇笏 春蘭
ははきぐさ雨たかぶればくれなゐに 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
はんざきの傷くれなゐにひらく夜 飯島晴子「儚々」
ひとすぢのくれなゐ走る飛蝗かな 対中いずみ
ほのぼのと沼のくれなゐ夕蓮 羽根尾一孝
まなかひに蔦のくれなゐ岩を這ふ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
まぼろしの水より生れしくれなゐの蜻蛉はけふ山をくだりぬ 武下奈々子
みづひきの終のくれなゐ二尊院 大石悦子 群萌
みどりさしくれなゐがさし薄氷 鷹羽狩行
むらさきにちかきくれなゐ鶴の疵 八田木枯
よく晴れて凧くれなゐや二月空 高橋淡路女 梶の葉
わが骨の髄はくれなゐ夕月夜 沼尻巳津子(1927-)
わくら葉にくれなゐの疵雨の杜 吉田 明
インディアン唇くれなゐに夜涼かな 飯田蛇笏 春蘭
サルビアの真つくれなゐに自負一つ 松本千恵女
バイブルの天はくれなゐ胼の手に 山口青邨
フレームの花のくれなゐしづかにも 清原枴童
一さかり萩くれなゐの秋の風 松岡青蘿 (せいら)(1740-1791)
一夜城趾よりくれなゐの蝶来たり 松尾隆信
一月の翳くれなゐに江戸切子 鳥居美智子
万両の実にくれなゐのはいりけり 千葉皓史
三鬼忌のくらきくれなゐばかりかな 斎藤玄 雁道
人の子もはじめくれなゐ楓の芽 清水里美
伊那よ汝に落ちてくれなゐ金亀子 石寒太 あるき神
佗助のわぶと応へてうすくれなゐ 川崎展宏 冬
侫武多去るくれなゐが去る総て去る 鈴木鷹夫 風の祭
停年やみなくれなゐの青木の実 秋元不死男
八月のくれなゐばかり墓の花 大木あまり 雲の塔
冬の虹くれなゐは濃きさやかなる応えのごとくまなかひに立つ 篠 弘
冷まじきくれなゐ過ぐる鵜舟かな 鈴木鷹夫 大津絵
冷麦にくれなゐ一縷水打たす 作田文子
凍解やくれなゐ潰ゆる万年青の実 高橋淡路女 梶の葉
出会ひたる蓮はくれなゐ終戦日 九鬼あきゑ
出雲冷ゆ神楽の鬼のくれなゐも 鈴木鷹夫 風の祭
切り屑もくれなゐ通ひなづな爪 井沢正江 以後
切株の芯のくれなゐ仏生会 伊藤乃里子
初の忌の三汀にくれなゐの梅 石塚友二 光塵
初夏の埃の中の祭の列みどりくれなゐゆるがして行く 尾上柴舟
初湯出てうすくれなゐのふくらはぎ 相沢有理子
初釜や花びら餅のうすくれなゐ 伊東余志子
千両の実のくれなゐの日暮にゐ 角川春樹
吾亦紅野のくれなゐの渋かりし 大橋敦子
啄木鳥やくれなゐ震ふ蔦かづら 徳永山冬子
土用芽にうすくれなゐの走りけり 脇 祥一
土用芽のくれなゐ赤彦歌碑の前 池上樵人
地に還るまでのくれなゐ落椿 守谷順子
垣の木瓜くれなゐそめて家壊つ 松村蒼石 露
夏の力余り黍葉に噴くくれなゐ 香西照雄 対話
夕影にくれなゐふかし梅筵 内藤吐天 鳴海抄
夕風にうすくれなゐや鮎の口 大峯あきら
大寒の反故焼く火のくれなゐに 大石悦子 群萌
天の川白き夜去りて朝風の中なる萩にくれなゐ走る 宮柊二
天窓のあはきくれなゐ驟雨すぎ 中田剛 珠樹以後
奥方の約ぶくれなゐ今日の雲雀ら 加藤郁乎
嬬恋のくれなゐきざす花すすき 辻美奈子
嬬恋や春の炭火のくれなゐも 鈴木鷹夫 春の門
孤高とはくれなゐ深き冬の薔薇 金久美智子
学僧の耳のくれなゐさくら冷 つじ加代子
寒き故くれなゐ色がうち沈む 細見綾子 花寂び
寒さくら乙女さびたるくれなゐと言ひさしてやむ 死者杳かなり 山本かね子
寒卵呑みくれなゐの声発す 栗林千津
寒椿てふくれなゐの荒々し 竹下陶子
寒牡丹散るくれなゐの羽ひらき 石原八束 『断腸花』
寒菊のくれなゐふかく昃りけり 金尾梅の門 古志の歌
寝を誘ふ子もなし炉火をくれなゐに 神尾久美子 桐の木
山畑やくれなゐの薔薇ひとつ咲く 岸本尚毅 鶏頭
山粧ふけものの道もくれなゐに 檜紀代
山茶花のくれなゐひとに訪はれずに 橋本多佳子
山霞み海くれなゐのゆふべかな 闌更
岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め 日原傳
岩魚焼くうすくれなゐの炭火かな 佐川広治
峰雲やほのくれなゐの弥生土器 山本洋子「渚にて」
市に出る花くれなゐに室を捨て 中村汀女
帯解やくれなゐにほひ初めしとも 今橋眞理子
干梅のくれなゐにまた眼をもどす 大岳水一路
恋の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 青邨
恩愛の言葉短く薔薇くれなゐ 古舘曹人 能登の蛙
意志に色あらばくれなゐ水引草 都筑智子
戀の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 山口青邨
掃き寄せてうすくれなゐの雛あられ 鷹羽狩行 七草
新松子沖くれなゐに明けてゆく 谷中隆子
旅籠屋の夕くれなゐにつゝじかな 蓼太
日に透きてひたくれなゐの寒牡丹 深見けん二 日月
早春やうすくれなゐの旅の空 草間時彦 櫻山
早梅としてくれなゐを惜しまざる 八染藍子
春愁の煙草に点す火やくれなゐ 鈴木しづ子
春睡や天紫に地くれなゐ 余子
時差疲れ癒ゆ土用芽のくれなゐに 吉田 明
曼珠沙華マチスは部屋をくれなゐに 小山森生
月さしてくれなゐなるも棉の花 瀧春一 菜園
朝の蝉富士のくれなゐ褪せゆけり 水原秋櫻子
朝靄にくれなゐ溶けて桃咲けり 相馬遷子 山河
木々芽吹くくれなゐすこし痛からむ 辻美奈子
来るものはみなくれなゐに恵方道 宇多喜代子
枝の芯までくれなゐのななかまど 大坪景章
枯れながら芒のいろのくれなゐに 今井杏太郎
枯草のうすくれなゐや西の京 山本洋子
枯菊のくれなゐふかき久女の忌 林十九楼
枯蘆にくれなゐ残るはつかかな 高橋睦郎 舊句帖
柾の実裂けてくれなゐまさやけし 大橋敦子
柿の葉のくれなゐ拾ふ桂郎忌 市橋千翔
桃はくれなゐゆく水に星あふれ 黒田杏子 花下草上
椿の木そのくれなゐに染まり立つ 中山純子 沙 羅以後
楪のくれなゐ深く父の家 中村祐子
楪の柄のくれなゐに雪紬ぐ 古賀まり子
楪の柄のくれなゐの淑気かな 鈴木貞雄
死の側より照明せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも 斎藤史
残雪や「くれなゐの茂吉」逝きしけはひ 中村草田男(1901-83)
毛槍梵天くれなゐかざし道中雛 大橋敦子 勾 玉以後
水底にまことくれなゐ冬紅葉 深見けん二 日月
水引のくれなゐに口引結び 大石悦子 百花
水引の鋭きくれなゐを貴船みち 藤本和子
水木の枝くれなゐさやに繭玉を 小松崎爽青
氷壁を攀づくれなゐの命あり 大串章 山童記
流氷のうすくれなゐの余光かな 涌井信雄
浴身にくれなゐの創夏はじめ 大石悦子 百花
淡雪や鯉の洗ひのうすくれなゐ 辻美奈子
滅びへの星はくれなゐ雁渡し 北川英子
火止窯まだくれなゐや夕牡丹 野見山朱鳥
煤の湯の爪のくれなゐよみがへる 大竹きみ江
燃ゆるとき竹はくれなゐ春のくれ 市川千晶
父母逝きてくれなゐうすき冬牡丹 杉本寛
牡丹の芽にくれなゐの寒さあり 飯田龍太
牡丹忽ちくれなゐに根分した手也 尾崎紅葉
獣園の梅くれなゐに牡丹雪 石原舟月 山鵲
玉の緒のうすくれなゐや霜日和 石塚友二
畦塗に天くれなゐを流したる 相馬遷子 山国
白に酔ひくれなゐに醒め梅の中 手塚美佐 昔の香
白帝城くれなゐを濃く桃の咲く 谷中隆子
白桃にくれなゐの種耕衣亡し 大木あまり 火球
白牡丹くれなゐぼたん寒の色 石寒太 翔
白蓮の縁のくれなゐうひうひし 矢島渚男 延年
皇帝のマントくれなゐ冬さうび 坂井建
盂蘭盆や軸くれなゐの支那御香 呉屋菜々
睡蓮のくれなゐ毛沢東旧居 片山由美子 水精
睡蓮のくれなゐ空にうつりけり 長谷川久子
睡蓮のはるかにひらきくれなゐに 永井由紀子
石のかどほのくれなゐに地蟲いづ 百合山羽公
神橋の水にくれなゐ一位の実 瀧澤伊代次
秋の日やうすくれなゐのむら尾花 青蘿
秋没日松は花よりくれなゐに 誓子
秋深しやまとことばのくれなゐも 加藤耕子
秋袷振りのくれなゐ目に立ちぬ 高橋淡路女 梶の葉
種雄牛眼にくれなゐをまじへ冬 大串章 百鳥
立子忌や空の裳裾はくれなゐに 藤田直子
笹百合の風聴く耳のうすくれなゐ 嶋田麻紀
糸屑のくれなゐ咥へ寒雀 寿美子
紫陽花の常くれなゐや大旱 相馬遷子 山河
紫雲英野を発つくれなゐの熱気球 塩出佐代子
綾取の川くれなゐに雪降れり 山崎節子
縷紅草のくれなゐともる昼の闇 小金井欽二
織る茣蓙の花くれなゐに雪ごもり 田村了咲
老梅のくれなゐの艶風生忌 鈴木貞雄
肉厚き花のくれなゐ啄木忌 瀧澤和治
自らへ贈るくれなゐ強き薔薇 櫂末知子
自滅するまで菜殻火の芯くれなゐ 津田清子
興亡や千万の蓮くれなゐに 山口青邨
花ならば爪くれなゐやおしろいや 白粉花 正岡子規
花よりもくれなゐうすき乳暈かな 眞鍋呉夫
花よりも散華くれなゐ寒牡丹 山田弘子 螢川
花よりも水くれなゐに洫の木瓜 飯田蛇笏
花魁草暑の一塊をくれなゐに 阿部みどり女
茨の実くれなゐ深く野川澄む 武笠美人蕉
草木瓜のくれなゐも冷えまさるなり 飯田龍太
草木瓜のくれなゐを踏む忌日かな 木下夕爾
萩挿してくれなゐさやに律の墓 深見けん二
萬両の実にくれなゐのはひりけり 千葉皓史
落日はうすくれなゐの霧まとふ 福田蓼汀 山火
落椿とはくれなゐと決めてゐし 齊藤美規
葉を落とし牡丹冬芽のくれなゐに 平手むつ子
葉牡丹の芯のくれなゐ一葉忌 岡本正敏
薄氷のうすくれなゐの朝ありぬ 鷹羽狩行
藁灰の芯のくれなゐ北近江 鈴木鷹夫 大津絵
蘭さいて貌くれなゐに雉子孵す 飯田蛇笏 春蘭
蚊の姥や爪のくれなゐ見せあうて 佐々木六戈
蚋打ちし血のくれなゐの野中なる 皆吉爽雨
蝶凍てて富士くれなゐに染りゐる 角川春樹
行く春や吾がくれなゐの結核菌 石田波郷
袖口のくれなゐ古りぬ冬籠 つゆ女
訥々と露にくれなゐさすことよ 中田剛 珠樹
誰が見よと梅くれなゐに奥の坊 立花北枝
豚の耳うすくれなゐや竹の春 多賀よし子
貝雛のくれなゐ世界閉ぢにけり ほんだゆき
買初や文字くれなゐの筆の銘 鈴木鷹夫 風の祭
身に巻きし紐のくれなゐ若ちちろ 野澤節子 花 季
身ぬちより溢るくれなゐ着衣始 飯田綾子
転任なくまたくれなゐの梅漬くる 榎本冬一郎
遠目には供華のくれなゐ落葉焚く 伊藤京子
酒焼の胸くれなゐや秋の風 野村喜舟 小石川
酢茎計る婆の皺の掌くれなゐに 春名耕作
里鳥にくれなゐかなしとも立秋 吉田素糸
野茨の実のくれなゐに月日去る 飯田龍太
金魚玉方尺の冷気くれなゐに 内藤吐天 鳴海抄
銀の爪くれなゐの爪猫柳 竹下しづの女
錦木の実もくれなゐに染るとは 後藤夜半 底紅
門松に夕くれなゐやかざり海老 李呂
閉ぢし眼の中のくれなゐ鵙の声 鈴木鷹夫 大津絵
関跡の砂くれなゐの蟻地獄 藤江 昭
閻王のくれなゐの舌の埃かな 富安風生
除幕とは序幕冬芽のくれなゐに 中村明子
陽に倦みてひな罌粟いよよくれなゐに 木下夕爾
雑炊に蟹のくれなゐひそめたる 山田明子
雛壇のくれなゐ山を隔つとも 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪嶺をひたくれなゐと思ひけり 中村千絵
雪投げしくれなゐの手が医にはべる 平畑静塔
雪解宿鮭の薄身のうすくれなゐ 野澤節子 黄 炎
雫してくれなゐふふむ糸桜 神山果泉
青天にくれなゐ少し落葉籠 磯貝碧蹄館
青梅に今日くれなゐのはしりかな 飴山實「次の花」
鵙になるおのれか木の実ひたくれなゐ 斎藤玄 雁道
鶏頭のくれなゐ黒をきはめたる 沢木欣一
鶏頭の終のくれなゐ冷まじき 古賀まり子
黄桜の本性は黄かくれなゐか 山田弘子
黄鶲の富士くれなゐに暁けゆけり 角川源義
黒椿とてくれなゐをまぬがれず 吉野義子

 以上

# by 575fudemakase | 2022-06-25 17:26 | ブログ

色の種類2 類語関連語(例句)

色の種類2 類語関連語(例句)

●金●銀 しろがね●銀灰色●金と銀●銀鼠●金縁●草色●朽色●朽ち葉色●隅●栗色●グリーン●栗毛●グレー●紅蓮●黒●黝●玄●黒髪●黒々 くろぐろ●黒し●黒潮●群青●紅白●黄金色●黒衣●黒色●黒白●焦げ茶●呉須●コバルト●濃緑●濃紫●紺●金色●金色堂●紺青●紺碧●サーモンピンク●桜色●紫紺●漆黒●渋色●朱肉●朱蝋燭●純白●白壁●白雲●白々 しろしろ しろじろ●白砂●白(ら)む●白●白一色●白黒●白し●白っぽい●白葱●白さ●白き●白い●黒む●黒み●黒ずむ●黒づくめ●白づくめ●白牡丹●白湯●白靴●白息●白帆●白南風●白桃●白障子●白絣●白芙蓉●裏白●白扇●白桔梗●白粉●白蓮●白萩


●金 
あかあかと山焼のさま金屏に 武藤紀子
あしび咲く辺をすぎゆけば金の鴟尾 阿波野青畝
あの世かくして金の唐紙古りにけり 寺井谷子
うそ替の木鷽の金の光る闇 木庭俊子
えにしだが金環生めり誰も居らず 下村槐太 天涯
えにしだの金に天気のたちなほる 上村占魚 『方眼』
おぼろなり彫りし葡萄は金にして 山口青邨
かくれ家に金のとゞきし師走かな 比叡 野村泊月
かつかつと金の輪ひびく火鉢哉 会津八一
かなかなに遠き金の扉ひらかれし 長谷川浄泉
かなかなの長鳴くしじま金打(かぬち)の地 宇多喜代子
かもめ来よ天金の書をひらくたび 三橋敏雄 まぼろしの鱶
からたちの金の玉垣八一の碑 宮坂静生 雹
きりぎりす夕日は金の輪を累ね 友岡子郷 未草
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
ぎつしりと金看板や寒の雨 川端茅舎
この恋に生きなば麦の金の禾 林桂 銅の時代
こまちやくれ顔の金黒羽白かな 早川とも子
こもり居や茶がひらきける金の蘂 水原秋櫻子
これやこの梨金のごとし君にすすむ 山口青邨
しられじと旅の身に添ふ金気かな 黒柳召波 春泥句集
しろ金や霰ふる夜の年忘れ 上島鬼貫
そぞろ寒金掘る人形またたかず 吉田銀葉
そのむかし繭の金より授業料 有賀辰見
それにさへ願ひ絶えめや金んの蚤 服部嵐雪
たくはへし月日を金に福寿草 山田弘子 懐
ただいまは古酒盛られたり金欄手 加藤三七子
つちふるや大仏さまの金の蓮 ふけとしこ 鎌の刃
つばさ張るかに金秋の水噴けり 三田きえ子
つゆくさの金いちじるくまたほのか 飯田蛇笏 雪峡
どこにひそむ金の狐や蕨狩 平畑静塔
どぶろくや金切声の鵙去りて 西東三鬼
どんみりと金粉ふえて木の葉髪 加藤郁乎
ねんごろな枯金ペンを寝かし置く 丸山嵐人
はこせこの金の鎖や福寿草 戸板康二
はなたれの金の釦のきんぽうげ 上杉竜介
ばら溢れ金を塗りたる兜の絵 長谷川かな女 花 季
ひえびえと緑金ひかる薔薇の虫 飯田蛇笏 春蘭
ひつそりと古巣にめざむ金の髪 小池文子 巴里蕭条
ひとわらふ金歯ひかるはさびしきかな 片山桃史 北方兵團
ひもとける金槐集のきらゝかな 山口青邨「雑草園」
ふたがみに沈む金烏や青畝の忌 中川晴美
ふためいて金の間を出る燕かな 蕪村遺稿 春
みしか夜や金商人の高いひき 短夜 正岡子規
もろこしの花の金粉遠囃子 永方裕子
ゆく年の瀬田を廻るや金飛脚 蕪村 冬之部 ■ 春泥舎に遊びて
ゆさぶれば金の煙や杉の花 瀧澤伊代次
ゆふぐれの金水引の一條も 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
よこたへて金ほのめくや桜鯛 青畝
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
わが影を金のふちどる泉かな 野見山朱鳥
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
ケルンよりケルンヘ金の虻つれる 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
シャガールの金の雄鶏秋澄めり 永方裕子
ソムリエの金のカフスや師走の夜 深田やすを
ダイヴィング金の鴎を率て迅し 多田裕計(鶴)
ドライブの金毛の肱刈田寒 香西照雄 対話
ナイル河の金の睡蓮ひらきけり 石原八束(1919-98)
ニュートンも錬金術師冬籠り 有馬朗人
ハンドベル金の蕊振る朝の百合 吉原文音
パンジーの紫ばかり金の蕊 平野桑陰
ベタ金の心臓の心音清し 阿部完市 証
ペン先の金やはらかき暮春かな 小川軽舟
モロッコ皮に金の背文字や書庫の冷え 早川典江
一体は金に塔内仏の寒 皆吉爽雨
一望の冬海金粉打ちたしや 中村草田男
一茎の金の繊さよ猫じやらし 山口青邨
万歳や佐渡より金の湧き貌に 野村喜舟 小石川
万緑や異国の仏陀金まみれ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
三日月の金無垢を置く茅の輪かな 野見山朱鳥「運命」
上元の朱蝋の金字焔をふくむ 朝永律朗
下萌や金の幣立ていくさ神 脇坂啓子
中学生となる金釦初ざくら 中山純子 沙 羅以後
乙鳥は金看板をよごすかな 野村喜舟 小石川
九つの無意識を金の輪転機 阿部完市 証
五月雨に金はしめらぬ手わざかな 上島鬼貫
五月雨や金の小笠の馬印 五月雨 正岡子規
京菓子の金封ほそし秋の風 恩田侑布子
人間に飽きて牝牛の金の蝿 高澤晶子「鈍愛」
仁母は金残雪に歩み入り 古舘曹人 能登の蛙
今朝の春金の帯解く吟醸酒 坪井耿青
今生にもうなき金環蝕澄めり 野見山ひふみ
仏像は金の冷たさ秋日和 山口波津女
仏壇に似し金閣よ水を打つ 岩田由美 夏安
仏壇の金をくもらす蒸し藷 檜 紀代
仙人掌の棘金に透き厄日過ぐ 茂恵一郎
仲秋の金蝿にしてパッと散る 波多野爽波 『骰子』
伊賀越えて金の洛(みやこ)に絵双六 大屋達治 絵詞
会釈して金壷眼冬木伐 森澄雄
住めば金殿夏月光の屋に充つ 石塚友二 光塵
何盛らむ春三日月の金の皿 岡田章子
余命の金数へてなんぞ冷まじき 小林康治
倒れ菊金泥の如土砂を塗り 上野泰 春潮
元日の夕日金閣かがやかす 倉光迪子
元日の金玉の時過ぎて行く 瓜人
元日や金の話のかしましき 元日 正岡子規
光琳の金屏の前に祝はれし 石川梨代
光背の金を零れし秋の蝶 岸原清行
兜金(ときん)ひしと少年山伏咳ころす 平井さち子 鷹日和
全身の金をふるつて死の灯蛾 河野南畦 湖の森
全集に背文字の金や大南風 宇多喜代子 象
八ッ手咲いて金の三日月よく光る 渡辺水巴 白日
八十八夜ひとつ水縫ふ金の蛭 百合山羽公 寒雁
六月の顔の大きく金を煮る 神蔵器「二代の甕」
其の上(かみ)の金の荷揚げ路燕抜け 高澤良一 寒暑
内裏雛五曲の金の屏風背に 石井いさお
再犯の金蠅なれば許さざり 高澤良一 ぱらりとせ
冬夕焼ときには金の馬車を駆り 吉本和子
冬天に透く金の葉や樺の梢 相馬遷子 山河
冬柳金繕ひの唐津かな 恩田侑布子
冬立つや金のなる木に薄埃 小見山希覯子
冬雲の三日月の金つゝみ得ず 野澤節子
冴えて書の天金浮けり病世界 秩父
冴返る金毛閣は人入れず 阿波野青畝
冷まじや金残のこと祖父へさかのぼり 宮津昭彦
凍死人つけし守の金ン耀らひ 宮武寒々 朱卓
凍鶴の翼に金ンの生れけり 永田耕衣
初凪に豚の金ン玉遊びをり 川崎展宏
初売や金地の色紙店頭に 寺井 治
初夢の金粉を塗りまぶしたる 高浜虚子
初日いま大字聖書の天金に 田川飛旅子 『山法師』
初日浮くや金波銀波の太平洋 初日 正岡子規
初明りして金鱗の波がしら 野村久子
初桜天金の書を開かしむ 嶋田麻紀
初茜寝釈迦は金の御衣着て 吉野胡桃
初蝶の金ふんぷんと降り来る 白山晴好
初蝶の金粉まみれ黙示録 伊藤敬子
初雪の中に光るや金の鯱 初雪 正岡子規
初鴉金泥の声あびせけり 岩下四十雀
初鶏や胸毛の金を打ちふるひ 六本和子
助け呼ぶ金切声や蟻地獄 成瀬櫻桃子 素心
動かねば寒鯉の金くもらざる 西川 織子
北山は見えず金閣雪しまく 冨田みのる
十六夜の金蝿よよと出てゆけり 鳥居真里子
十薬や墓地買ふ金も安くはなし 成瀬櫻桃子 風色
千年の楠の大樹の金若葉 高橋悦男
印籠の蒔絵の金ンや夏羽織 野村喜舟 小石川
厨なる蕨の上に金指環 前田普羅 春寒浅間山
受験期や宝塔攀づる金の竜 大島民郎
口ぢうを金粉にして落椿 長谷川櫂 古志
古屏風の金泥淑気はた寒飢 鈴木鷹夫 春の門
古草の金を金堂跡に踏む 井沢正江
各各の水洟顔や金の事 会津八一
同人会忘年会と金嵩む 高澤良一 鳩信
名月や金でつらはるかぐや姫 高井几董
向ひ山より金蠅のまつすぐに 小島健 木の実
向日葵の金の雨だれ終りしよ 秋元不死男「万座」
向日葵の金ンの古びや秋の風 野村喜舟 小石川
向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ 前田夕暮
含みたる水に金気や日雷 須賀一恵
吾子あらば金の鯉幟を立てん 後藤綾子
和田金の肉しきり恋ふ雪二日 石川桂郎 高蘆
咲き揃ひ金の盃石蕗の花 阿部みどり女 『石蕗』
品替る金玉の声や玉毬打 重昌
啓蟄の耳に金ンさげバッハ聴く 鳥居おさむ
善き人の皆金くさき牡丹かな 牡丹 正岡子規
喪へいそぐのみの金蝿熱の視野 木村敏男
囀や天地金泥に塗りつぶし 野村喜舟 小石川
四日果て金海鼠(きんこ)色なる鳥羽の空 高澤良一 鳩信
土筆もう見えぬ三日月の金二重 千代田葛彦
地に金の首飾売る冬旱 宮坂静生 山開
堪へたりし金神奈落寒明けぬ 稲垣きくの 牡 丹
塵ふかく萬巻の書の金ン凍てぬ 西島麥南
墨はじく金地めでたし筆始 下村ひろし 西陲集
壺にさす郁子の金葉二三片 飯田蛇笏 春蘭
壺割つて金の罅入る冬夜空 小檜山繁子
夏シャツや金の寝台つま立ち見て 小池文子 巴里蕭条
夏潮の金の水紋もみしだく 工藤茶亭
夏草や立よる水は金気水 一茶 ■寛政年間
夏菊の土金神に香を焚く 松村蒼石 寒鶯抄
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ 水原秋櫻子
夕焼の金をまつげにつけてゆく 富澤赤黄男
夕焼の金板の上水馬ゆく 山口青邨
夕焼の金龍飛べり冬の空 山口青邨
夜業終へ出づるや金の把手押し 菖蒲あや
大地より金を放てる福寿草 山田閏子
大塔の金の相輪初日受く 山口耕堂
大山祇(やまつみ)の放つ金の蛾薪能 野沢節子 八朶集以後
大御堂金泥はげしかすみかな 岡本松浜 白菊
大服や家の宝は金で接ぐ 梶野香代子
天つ日に金の蘂吐き黒牡丹 松本澄江
天台の金水引の吹かれをる 佐々木六戈
天地なき金の色紙に筆始め 澤田緑生
天臺の金狗尾草の吹かれをり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
天金こぼす神父の聖書秋夜汽車 齋藤愼爾
天金の一書重たきしずり雪 小林もりゑ
天金の一書重たき桜桃忌 伊藤喜太郎
天金の復刻開く漱石忌 奥村八一
天金の怺へつづける夏はた秋 沼尻巳津子
天金の書などは持たず秋刀魚焼く 福田てつを
天金の書の閉ざさるるおぼろかな 黒田杏子 花下草上
天金の書を繙くや初燕 山川安人
天金の辞書立ちならび月を待つ 大屋達治 絵詞
太陽の金のたてがみ青嵐 吉原文音
太陽も金の汗する田草取 辻田克巳
奥えぞの金の仏に初蛙 沢木欣一 地聲
奥飛騨や金扇つけし注連飾 羽部洞然
女房は金の入歯や深見草 牡丹 正岡子規
女郎蜘蛛金龍院の空を降り 高澤良一 鳩信
如月の金の届きし書生かな 前田普羅
妻に金ありやいちにちよく啼く鵙 榎本冬一郎 眼光
姫むかしよもぎや稚児の金産毛 佐藤鬼房
子の腕の金のうぶ毛や烏麦 永方裕子
子を産んで金紐の葉の酸きみどり 長谷川双魚 風形
學帽の金の幼なさ鳥渡る 斉藤夏風
宵越しの金もて鮑仕入れけり 鈴木真砂女
家売つた金なくなりぬ秋の暮 鶴英
家隷から金をかりるや年の暮 年の暮 正岡子規
宿生木の冬青々と金蓮寺 望月皓二
富士新雪落葉松の金厚くなる 青木よしを
寒夜わが酔えば生るる金の虹 古沢太穂 古沢太穂句集
寒月の金の稚し水の上 角川源義
寒柝が金の話をして行けり あかぎ倦鳥
寒波来る明星金の翼揺り 相馬遷子 雪嶺
寒風に曝され金に突きとばされ 石橋辰之助
寒鯉の金泥のごと沈みゐる 鈴木貞雄
寒鯉の金鐶の眼を嵌めにけり 福田蓼汀
寿司もくひ妻の得し金減り易し 林田紀音夫
小硯に金泥かわく夏書哉 夏書 正岡子規
小粒柿干されてゐたり金瓶村 栗田やすし
小雪聴く金を蒔きたる馬上杯 黒田杏子 花下草上
少年のいちずなる目を焦したる金環蝕 のちの永久の焚口 米満英男
少年の街頭暮金みどりの日 田中珠生
屠蘇重し軽き朱金の酒杯に 草城
山の端に冬三日月の金沈む 阿部みどり女
山吹や井手の下帯に包金 西石 選集「板東太郎」
山吹や金(こがね)のすたる水の底 我則
山吹や金閣も見ず雨の京 雑草 長谷川零餘子
山眠る磨きこまれし金の匙 田中 都
山羊の子がしきりにはねる金ぽうげ 高浜虚子
山茱萸や雨に一滴づつの金 片山由美子 風待月
山茶花の金の蘂病癒えしかな 石田波郷
山車曲る金をはじきて山の雨 鳥羽とほる
山靴を脱ぎ金屏の間にとほる 石川桂郎 高蘆
岬が分つ紺と金との春の海 原子公平
嶺々こごし春やむかしの月の金 飯田蛇笏 春蘭
川の音金水引草に触れてをり 藤田美代子
巣鴉に月の周りの金砂子 千代田葛彦
差し金の鼠消えたり明易き 龍岡晋
巻き貝をたくさん生んで金環蝕 中村安伸
布袋台金冷まじき機関樋 高澤良一 素抱
師よりの金妻よりの金冬日満つ 石田波郷
師走の燈にひたりし金の靴を売る 斉藤夏風
干柿の金殿玉楼といふべけれ 山口青邨
干飯噛む錆びし昭和の金歯かな 五島エミ
年の瀬の金得てけがれ果てにけり 小林康治 玄霜
庭万年青玉は朱金に年果つる 飯田蛇笏 春蘭
弟切草日照雨に金の蕊張れり 山田春生
弾き金音よくかゝる日傘かな 松藤夏山 夏山句集
待春の金の成る木に花が咲く 伊藤いと子
後の月聖堂のうち金秘めて 中戸川朝人 残心
得し金の雪見酒とはなし難き 石塚友二 光塵
御斎会や大極殿の金の鵄尾 松浦敬親
御新造(ごしんぞ)の葛切添へし烏金 筑紫磐井 婆伽梵
忙しや金が入る出る歳の暮 寺田寅彦
悴むや鞄へひとの金満たし 皆川白陀
慈悲心鳥紺紙金泥一切経 三谷道子
截り金のごとき月浮く涅槃西風 荒井正隆
手にさはる金の蔓や今朝の秋 斗文
手まくらの金ことに照る寝釈迦かな 皆吉爽雨 泉声
手をふれて金末犀の夜の匂ひ 中村汀女
手水水涼しかりしを金火鉢 曲言 選集「板東太郎」
抱く輪に金砂ちりばめ寒三日月 相馬遷子 雪嶺
指輪もねじ曲つて政府に金を売る日が来た 橋本夢道 無礼なる妻
振り向けば金ゑのころの道なりし かとうさきこ
描初の金泥を溶き銀を溶き 奥野素径
揺動く萩など金を得るほかなし 石田波郷
故郷の冬へおくる金がない大きい日ぐれの國旗であつた 橋本夢道
文廟や西日蒸すなる位牌の金 下村ひろし 西陲集
文金の合せ鏡や風ひかる 風光る 正岡子規
新涼や金眼銀眼の猫とゐて 宮川喜子
新蕎麦や金が大事といふ話 龍岡晋
旅の日の秋日を金に雄物川 細見綾子 黄 炎
日の本や金も子をうむ御代の春 一茶
日を捏ねて金泥まみれ*むつ五郎 谷口自然
日照るとき金を横たふ寝釈迦かな 阿波野青畝
早春の夕月金に道掃く子ら 古沢太穂 古沢太穂句集
旭に生れて金葉冠る筍は 八牧美喜子
旭の中や金粉こぼし囀れり 中村明子
旭の金ンの一番芦を刈り倒す つじ加代子
星の金・樹の紺てのひらに呼ぼう 鎌倉佐弓 天窓から
春の夜や金たばかりし人可笑し 青峰集 島田青峰
春の闇無銘の金の位牌見ゆ 香西照雄 対話
春を待つ金の鵝鳥を追ひながら 長谷川かな女 花寂び
春光の金の振子の置き時計 工藤隆子
春光やこぼれてはづむ金米糖 龍野よし絵
春光や金の鳩抱く乙女像 満田玲子
春塵や木馬の金の目の卑し 中村和弘
春夜とや書架の金字の寒きのみ 林原耒井 蜩
春愁やミイラに履かす金の靴 池松幾生
春愁や灯は金殿に満つれども 赤木格堂
春愁や金の眼の深海魚 山下かず子
春愁や金槐集をふところに 高橋淡路女 梶の葉
春昼の賭くるべき金残憎みけり 杉本寛
春暁の金三日月や吾子生まる 岸原清行
春月や衣桁に金を散らす帯 橋本榮治 麦生
春泥に月の金片きらきらす 福田蓼汀
春泥の金泥となり夕日落つ 福田蓼汀 秋風挽歌
春浅き月像乗せて金三日月 中村草田男
春潮が湧く大盃に金蒔くに 古舘曹人 能登の蛙
春燈や金泥にほふ塩草子 加古宗也
春眠や金の柩に四肢氷らせ 三橋鷹女
春隣おろし金にも裏表 鈴木真砂女 夕螢
春雨やはなればなれの金扉風 許六 正 月 月別句集「韻塞」
春雪や金閣金を恣(ほしいまま) 松根東洋城
春雪や金閣金ンを恣 東洋城千句
昼の蛙間のびして鳴く金の不安 古沢太穂 古沢太穂句集
昼寝覚友二金餓鬼の句を思ふ 細川加賀 『傷痕』
昼顔や流沙の波紋金に炎ゆ 石原八束 『仮幻』
晩秋や金屏除けて富士を見る 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
暖房や絨氈赤く壁は金 京極杞陽 くくたち上巻
書写山に来て金芒銀芒 山田木染
書庫にかへす詩書の天金麦の秋 木下夕爾
曼珠沙華の蘂の金環欠けるなし 嶋田麻紀
曼珠沙華描かばや金泥もて繊く 長谷川素逝 暦日
月しろや金の波をまくら上 高井几董
月光を溜め天金の句集かな 吉原文音
月蝕のをはる琉金ひらひらと 武井成野
有金の束もめでたし店卸 中村烏堂
朝に銀夕べに金のねこじやらし 内山靖子
朝の日に金を抱ける寒椿 宗像夕野火
朝は金ゆふべは銀の花すすき 文挟夫佐恵
朝光の金刷く初夏の孔雀歯朶 渡邊水巴 富士
朝日さす雪原金沙銀沙照り 鈴木貞雄
木犀のこぼせし金を純金と 後藤比奈夫 めんない千鳥
木犀のほろほろ金の雨雫 佐藤礼子
木犀の金の着崩れはじまりぬ 加倉井秋を 『欸乃』
木犀の金の零れを見棄てけり しかい良通
木犀の金の香濡らす庵庇 加藤耕子
木犀の金を小出しに法然院 伊藤敬子
末弟の我もやや老い金風忌 村松紅花
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
朴の葉に金蝿を置く蒸暑かな 富安風生
杉の間に夏の朝日が金の輪に 高木晴子
束の間や寒雲燃えて金焦土 石田波郷
東京西日金なき妻子家におく 古沢太穂 古沢太穂句集
松過ぎの金屏を立てのこしたる 皆吉爽雨
枕頭に金の匙ある夏の風邪 四ツ谷龍
枝しなひきぶしの金の鎖垂れ 岡田日郎
枯桜幹は金泥帯びにけり 高澤良一 鳩信
枯芝や金の茶壷の二坪ほど 石口光子
枯野は雲に金ちりばめて旗も静か 田川飛旅子 花文字
柚味噌焼く閻浮檀金の焔かな 西島麦南 人音
柚子の実の金の彼方に山眠る 長田群青
桜紅葉車寄せなる金モール 立川京子
梅の宮手綱を金に縁起駒 加藤耕子
梅天や金の闇垂れ九品佛 古舘曹人 砂の音
梅花渓夜々金泥の月上げぬ 内藤吐天
梅雨の夜の金の折鶴父に呉れよ 中村草田男「来し方行方」
梅雨の月金ンのべて海はなやぎぬ 原裕 青垣
梅雨杉の雲に金棺出現す 水原秋櫻子
梅雨茸をたふし金閣去りにけり 大木あまり 雲の塔
植ゑるより金蜂花に紅椿 飯田蛇笏 春蘭
楓画きある金屏も広間の灯 高木晴子 花 季
楮屑吸ひこみ金ンの鯉が居る 吉本伊智朗
橋涼みこゝにも金の咄かな 古白遺稿 藤野古白
橙の金ンの寂びゐる十日かな 野村喜舟
檜扇の金の月夜でありにけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
歳旦に僧来て金の出てゆけり 堀井ひろし
歳晩の金の栞の歎異妙 川原アヤ子
死金を一壺に蓄めて紙漉婆 近藤一鴻
母の灯へつづくよ風の金ぽうげ 高橋美智子
比良八荒寝ぬるも金の鎖して 宮坂静生 樹下
水いろの夕ぐれ薔薇を買ふ金なし 林田紀音夫
水を着て金魚の金のくもりゐる 上田五千石 琥珀
水切れば金のさやぎや縮緬菜 松藤夏山 夏山句集
水揚げのはたはた腹に金刷けり 宮津昭彦
水洟をかむ百姓の大事な金 榎本冬一郎 眼光
水澄みて金閣の金さしにけり 阿波野青畝
氷る岩肌初日さし金屏となりぬ 岡田日郎
沈黙は金なり松葉牡丹も金 みつはしちかこ
沈黙は金なり金木犀の金 有馬朗人 母国
沈黙は金のレモンの香なりけり 細川加賀 『玉虫』
沖はるかに火口の雪や金槐忌 伊丹さち子
没日いま金環となる流氷原 松村栄子
沢瀉の金覆輪の夕かな 斎藤夏風
河骨や金の待針湖に刺し 坂本祥子
波の上に金の秋日の貼りつける 西村和子 夏帽子
泥眼の金泥を溶くつくつくし 山口都茂女
派出所の金ンの記章に燕の巣 石原栄子
浅草は地の金泥に寒夜かな 飯田蛇笏 春蘭
浅草や古着コートの金ボタン 小池 都
浮寝鴨薄眼入日の金枯葦 桂信子 花寂び 以後
海一句金短冊に筆始 有働 亨
海界に金の綰(わがね)や春隣 八木林之介 青霞集
涅槃像金泥は目にあたたかし 加古宗也
涅槃図の余白を金に埋めつくす 石嶌岳
涅槃図の鬼の金冠粗なりけり 稲荷島人
涅槃西風金の際立つ仏具店 松下信子
涼しさや息に波うつ金の箔 吉藤春美
淡雪も金米糖もあをさかな 石寒太 あるき神
清盛が金扁光る紅葉哉 幸田露伴 谷中集
渓声の延金をなす露の中 鈴木貞雄
湖の日の金環枇杷の熟れにけり 丹羽 啓子
満堂の閻浮檀金(えんぶだごん)や宵の春 夏目漱石 明治三十四年
満月に金炎え立ちし銀杏かな 川端茅舎
満鉄の金釦/手厚きは皇恩 仁平勝 東京物語
滝津瀬に三日月の金さしにけり 飯田蛇笏 春蘭
炎上を過去に金閣かぎろへる 今井妙子
炎天に繋がれて金の牛となる 三橋鷹女「羊歯地獄」
炎天淋しラッパの金の輪を向けて 友岡子郷 未草
炭斗を満たし蒔絵師金を刷く 今村泗水
炭焼きのともして障子金にせり 大野林火
点晴に金を入れたる囮鴨 茨木和生 往馬
照れば金日かげれば銀芒かな 下村梅子
煮南瓜の金に盛られし喜雨祝 大熊輝一 土の香
熊ん蜂トランペットは金ピカに 成田千空
熊野路の金の落穂をふり鳴らす 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
燭置けば金屏巌のごときかな 橋本鶏二 年輪
父が夢の煉金薔薇霧暗し 内藤吐天 鳴海抄
父に金遣りたる祭過ぎにけり 藤田湘子(1926-)
父の世の如金屏と寒牡丹 松本たかし
父の日や遺品のなかの金釦 遠藤若狭男
父はわたしを金にして戻つて行つた日照らぬ田ヘ 橋本夢道
片袖欠け金ンの葉っぱに埋れるまで 八木三日女
牛の眼を金の虻すぎ五月来ぬ 岸風三樓
狐火消ゆ金の狐をしたがへて 齋藤愼爾
狛犬の金歯赫々木下闇 河野静雲 閻魔
狩くらに啼くははるけき金の鵄 飯田蛇笏 雪峡
猫柳緑金に炎え児の時間 佐藤鬼房
獺祭金の尾がしら金の川 佐藤宣子
玉葱にとまる金蝿夕映えて 岸本尚毅 鶏頭
玉虫に紺紙金泥の経を思ふ 高浜虚子「虚子全集]
甘露煮や寒鮒の金なほのこり 加藤楸邨
甘露煮や寒鯉の金なほのこり 楸邨
田作りに金は残らず風船虫 丸山海道
町川の鯉金に照り鴎外忌 皆吉爽雨 泉声
留金に風をほどきて厩出し 岡田史乃
畳まれて眼の金環や鯉幟 有働亨「蘆刈」
病む父の金の指環や夜の秋 岡本 高明
痩金体気どりの被奴も試筆すや 高山れおな
癇癪よ小言よ金よ年の暮 尾崎紅葉
癌すゝむ金三日月のかかるとも 菖蒲あや 路 地
白れむに夕日の金の滴れり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白息や友よりの金手にし収む 清水基吉 寒蕭々
白牡丹金に染りしところあり 八木春
白綾に金王桜さきにけり 史邦 芭蕉庵小文庫
白芙蓉金の鞍置き三彩馬 野村喜舟
白靴の中なる金の文字が見ゆ 波多野爽波 鋪道の花
白魚汁金気を嫌ふ何何ぞ 石川桂郎 高蘆
白鳥に暁光金を張りにけり 野見山朱鳥
百姓の金歯光るや秋の暮 猿橋統流子
盃洗に金粉泛いてゐる寒さ 鈴木鷹夫 春の門
盆過の紺紙金泥日課経 斉藤夏風
盗人の金や隱せし冬木立 冬木立 正岡子規
相伝の金創膏や梅の花 夏目漱石 明治三十二年
看護婦のピアスの金も夏景色 綾部仁喜 樸簡
県居の大人も知らじな金槐忌 菅 裸馬
眞清水や眞金の鋺を越ゆるほど 高橋睦郎
真清水や真金の鋺(まり)を越ゆるほど 高橋睦郎 稽古飲食
真金吹く丹生の真赭な草紅葉 冨山俊雄
眦(まなじり)に金ひとすじや春の鵙 橋本鶏二(1907-90)
眦に金ひとすぢや春の鵙 橋本鶏二 年輪
矢車の金の暗さよ昼の酒 石川桂郎
矢車の金の真下に茶の芽立つ 百合山羽公 寒雁
短夜や金も落さぬ狐つき 蕪村遺稿 夏
短日の金門橋下汐変る 高濱年尾
短日や金を届けに妻来たる 椎橋清翠
石仏に金と朱のこる草雲雀 本多静江
石蕗浄土金ンのくしゃみをしたりけり 高澤良一 鳩信
砂糖水金泥で経写し来て 茨木和生 三輪崎
破蓮や降る日月の金の斧 大原千鶴子
祝言の金屏梅に触れにけり 橋本鶏二 年輪
祭酒海女の金歯の唇ゆるび 冨田みのる
福寿草雪をかぶりて金ほのか 山口青邨
秀衡塗金の一筋雑煮椀 松本澄江
秋のくれ哀れはとかく金にあり 秋の暮 正岡子規
秋の山中にも金洞と申すは 秋の山 正岡子規
秋の蚊の金切声を落しけり 藤田湘子 てんてん
秋は金の王座に進む列にあり 古舘曹人 能登の蛙
秋冷や佛にのこる金の耳 古舘曹人 砂の音
秋旻や金龍昼の月争ふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋気満つ金閣を出て銀閣へ 高澤良一 宿好
秋深む天金褪せし詩書聖書 村田白峯
秋澄みて金閣は憂愁の花 遠藤若狭男
秋霖や金しづめたる九体仏 大橋敦子 手 鞠
秋風に嶽の日は金ン水鏡 石原舟月 山鵲
秋風や屋根に淋しき金の鳳 秋風 正岡子規
税吏汗し教師金なし笑ひあふ 加藤楸邨
稻妻に金屏たゝむ夕かな 稲妻 正岡子規
稻妻や金碧うつる杉の隙 稲妻 正岡子規
積つて見よ花見の金を江戸の船 一松 選集「板東太郎」
空梅雨の金環雲をそびらにす 相馬遷子 山国
立春の雪の金閣発光す 梶山千鶴子
竜の字の金粉に跳ね賀状書く 水田むつみ
竹はねて一瞬金の雪舞へり 中嶋秀子
竹を伐る刹那きらめく金の斧 脇本星浪
竿灯百本金に帆立ちてゆらぎけり 本庄千代子
等身の金ンの寝釈迦に燭一つ 近藤一鴻
箸置に金の折鶴年酒酌む 赤羽岳王
篝火の金粉こぼす鵜のまはり 平畑静塔
米俵金となりゆく冬日閑 瀧春一 菜園
紅梅も白梅も金ふちどりぬ 原裕 『王城句帖』
紅葉忌金がかたきの恋今も 渋沢渋亭
紅葉焚く金闇寺燃えおつるかな 有馬朗人
納豆に金の朝日をまぶしける 須原和男
紙雛の女雛の金ンの帯ゆるし 橋本鶏二
紺紙なる金泥の蘭秋扇 高浜虚子
経蔵や黴臭し紺紙金泥一切経 橋本夢道 無類の妻
絵襖の金地銀地にある枯野 三田和子
絵馬兎金眼をきかす月の寺 大木あまり 山の夢
綿入の袂探りそなじみ金 綿子 正岡子規
総歯金あをき入学児を連るる 宮武寒々 朱卓
総金歯の美少女のごとき春夕焼 高山れおな
緑星金の純粋紛れなし 高屋窓秋
緑樹炎え日は金粉を吐き止まず 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑蔭に読みて天金をこぼしける 誓子
緑金の歯朶や寒巌みづみづし 内藤吐天 鳴海抄
緑金の羽を牝にかけて秋の頸 飯田蛇笏 霊芝
緑金の虫芍薬のただなかに 飯田蛇笏 春蘭
縫初の小鋏に鳴る金の鈴 穂坂日出子
羅や匂ひ袋に金の糸 羽野里美(古志)
羅や相思てふ字を金で剌す 松瀬青々
美しき金短冊の絵雛かな 坂東みの介
羽子日和睫毛が金になりけらし 上野泰 春潮
羽子板の押絵の帯の金匂ふ 山口青邨
翁金扇拡ろげ初神楽 石原栄子
翼あらば秋金閣の屋根に触れむ(三月、生母(より)死す。納骨) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
背ふるはせ海牛の金と銀 山西雅子
胸の辺に金の鯖火の連なれり 岸田稚魚 筍流し
腹がけに金の一文字昼寝の嬰 山田登美子
臘梅の匂ふや金地曼陀羅絵 矢野宗律
自然薯の枯葉を金に山日濃し 上條勝
舞そめや金泥ひかる京扇 舞初 正岡子規
色男金はなくとも吉葉山 仁平勝 東京物語
芝桜安金剃刀捨て場なし 宮脇白夜
芥子赤し金をもていのち購ふか 瀧春一 菜園
芭蕉実に金気のはしる産湯の井 宮坂静生 樹下
花*うぐひとて金鱗に朱一線 福田蓼汀
花の世を伺う金の眼 牛蛙 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
花冷えや孔雀の紫金夜をめげず 飯田蛇笏 霊芝
花枇杷や病む放浪に金散じ 八牧美喜子
花楓紺紙金泥経くらきかも 水原秋櫻子
花烏賊にひやりひやりと金の串 長谷川櫂 天球
花粉金粉ぶつかけられて駄目になる 阿部完市 証
花芯より一すぢの金牡丹咲く 石嶌岳
花菜畠ゆくには金ぴか馬車でゆけ 津沢マサ子 華蝕の海
花菜黄に黄に黄に金ンに死はそこに 津沢マサ子
花鰔とて金鱗に朱一線 福田蓼汀
茎漬や金の指輪を二つして 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
茶が咲いて夕月の香の金の蘂 千代田葛彦
茶の花に金の三日月高からず 須佐たつを
茶の花の金を沈めて垣低し 今井千鶴子
茶摘籠金と緑の込み合へる 百合山羽公 寒雁
草の穂に夕日の金や魂まつり 上村占魚
草市やかの虫金のうしろざま 野村喜舟 小石川
草萌や金亡びざる殷の戈 千代田葛彦 旅人木
荒寺や金屏はげて夕紅葉 紅葉 正岡子規
荒矧の破魔矢なれども金の箔 久米正雄 返り花
荘厳に閻浮檀金の夜の闇花散りどきの阿修羅彷彿 筑紫磐井 未定稿Σ
菊かをり金槐集を措きがたき 水原秋櫻子
菊供養進む金龍鳩翔たせ 福田蓼汀
菊描く金ンの花びら長短 後藤夜半 底紅
菜の花や金蓮光る門徒寺 菜の花 正岡子規
萱草の花や金気の浮きし水 川崎展宏
葛切を金椀にわが壮年や 永末恵子「ゆらのとを」
蒔絵師の金をみるたび蝶ふゆる 森好子
蒼天に金きらきらの秋の田の 池上浩山人
蓑虫の金戀しとは鳴くなめり 蓑虫鳴く 正岡子規
蓴生ふ金毛閣に遊山せり 岡井省二
蕊の金袖に一刷き牡丹散る 石原八束 『風霜記』
蕊は金花烏羽玉の黒牡丹 石原八束 『黒凍みの道』
蕊金ンに風に弁解く黒牡丹 高井北杜
蕋の金初日に匂ひ庵椿 風生
蕗むくや金の盥に水揺れて 長谷川櫂 蓬莱
蕪村忌の蒔絵の金のくもりけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
薄命へ金ぴかの苜蓿うまごやし 阿部完市 春日朝歌
薄墨の鱗の金ンや紅葉鮒 松根東洋城
薪能火蛾金粉となりにけり(新宿御苑) 細川加賀 『傷痕』
薪能鬼女の金欄火に染まる 品川鈴子
薬味酒発酵 月夜は 金波銀波の町 伊丹公子 山珊瑚
藪巻を柑子の金のこぼれけり 大石悦子 百花
藪色は金といふべし竹の子生る 香西照雄 対話
蘭鋳の重たき金を身にまとひ 粟津松彩子
虫つどふ金の王宮女郎花 堀口星眠 青葉木菟
虫の夜の子よりも古き金のペン 坂本宮尾
虫干に金の燭台ありにけり 山本洋子
虫鳴くや夕日の金のかすれ音に 内藤吐天
蚊の声や金ン刻んで暮るゝ鎚 東洋城千句
蚊をとらふ眼が金屏の剥落に 古舘曹人 能登の蛙
蜃気楼錬金術師歩きゐる 岩城久治
蜘蛛の罠金泥の都会暮れなづむ 三好 城
蜜蜂の山風吹けば金の縞 永方裕子
蜩や永久にと書きし金字かも 林翔 和紙
蜻蛉の羽根に微量の金ありぬ 正木ゆう子 悠
蜻蛉はや金閣映す水を打つ 大橋宵火
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子 久米正雄 返り花
蝉の昼池の萍緑金に 内藤吐天 鳴海抄
蝋燭の金ンの焔や寒詣 村上杏史
蝕甚の金環ほそる露の空 飯田蛇笏 春蘭
蝶々の金伽羅童子制多迦も 佐々木六戈 百韻反故 初學
蠅がみな金ンに見えしよ滝不動 吉田紫乃
衝立の金おとろひぬ河豚の宿 楠目橙黄子 橙圃
裏山に金粉散らし春の月 原和子
誰に賣らん金なき人に菊賣らん 菊 正岡子規
豆柿にまさぐる旅の金米糖 岡井省二
豊年の農婦に金のネックレス 羽吹利夫
豊年や湖へ神輿の金すすむ 西東三鬼
豊饒の稲抱くしぐさ金の獅子 吉原文音
貝雛の貝金を刷き紺を引き 舘野翔鶴
貫きし善の光の金冬日 下村ひろし 西陲集
赤と金経たるまぶしさ夏朝日 香西照雄 素心
身を離れ金のくさりのすぐ冷ゆる 上野さち子
遊女なき室とて冷えつ金蒔絵 有働亨 汐路
運動会大きく軽く金メダル 中里正子
酒槽の金紋総朱寒造 西本一都 景色
酒蔵は寒し試飲の金粉酒 大場艶子
釈迦の国金ンを貴び涅槃像 比奈夫
重陽や帯に織り込む金の蝶 阿戸敏明
野路の秋内陣の金ン遠眼にも 大岳水一路
金(こがね)にて鋳つべき顔や合歓の花 斯波園女
金々やあれは土手馬あさ蛙 加藤郁乎 江戸桜
金かんや南天もきる紙袋 一茶
金と時間に追はる卯の花腐しかな 岩田昌寿 地の塩
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
金に黄に青になり這ふ毛虫かな 粟津松彩子
金の「渓谷」にて・医師達の偽証 阿部完市 証
金のペン先を買ひ替へ八雲の忌 村上 清
金の事とはじ木賃の蚊屋の夢 立花北枝
金の事思ふてゐるや冬日向 籾山庭後
金の入日沼に沈めて春待たむ 角川源義
金の匙霞一皿平らげる 栗田日出子
金の吹口虫の音籠り紙風船 中村草田男
金の夕日纒ひし地蜂穴に入る 内藤吐天 鳴海抄
金の尾を持つ鶏夏至の点告ぐる 長谷川かな女 花 季
金の帯まく白菜の市長賞 吉田ひさ枝
金の帯水浸きてかなし流し雛 米澤治子
金の弁こぞりて開く福寿草 阿部みどり女 月下美人
金の斑の鹿駆けてゆく御陵道 佐川広治
金の時計は東京経由枯野行き 山内康典
金の月へ遠き蝙蝠とんで消ゆ 原石鼎 花影以後
金の柾もて屋根替を終へし廟 田村了咲
金の矢のごと落葉松の枯葉降る 伊藤柏翠
金の箔おくごと秋日笹むらに 占魚
金の粉をあげて梅雨茸崩れけり 野村親二
金の絨氈刈れど富まずば出稼ぎに 橋本夢道 無類の妻
金の芒はるかなる母の祷りをり 石田波郷(1913-69)
金の芒遥かな母の祷りをり 石田波郷
金の芒頂上駅に降り立ちぬ 原裕 『王城句帖』
金の虻よろめき出でし牡丹かな 藤田湘子 てんてん
金の蜥蜴の金の瞳が考へをり 平井照敏 天上大風
金の輪の春の眠りにはひりけり 高濱虚子
金の針胸に打たれし愛の羽根 谷中淳子
金の間の人物云はぬ若葉かな 蕪村遺稿 夏
金の間の庭一ぱいや八重桜 李由 三 月 月別句集「韻塞」
金の間をさびしがらする鶉哉 乙由
金の雪紺の雪春遠からじ 齋藤愼爾
金の靴一つ落ちゐし謝肉祭 有馬朗人 天為
金の鯉泳ぎていよよ秋澄めり 影島智子
金の鶴折る手のひらにある聖夜 対馬康子 愛国
金の麦刈られてゆくは胸の幅 寺田京子 日の鷹
金は地に嘴をすり虹はえぬ 飯田蛇笏 春蘭
金ほのぼの雨を釣られて春の鮒 大野林火
金よりも銀美しき破魔矢かな 串上青蓑
金を以てメロンの皿の瑕をうづむ 後藤夜半
金を掘りたのしみうすく雪に住む 松崎鉄之介(1918-)
金を蒔く天職五月高窓に 古舘曹人 能登の蛙
金ピラノ社ヲカクス茂カナ 茂 正岡子規
金ヶ崎落花の帯が磴走る 吉野よしゑ
金・銀で酬ゆる恩の涼しかり 筑紫磐井 婆伽梵
金三日月よもやの願ひ叶ひしぞ 富安風生
金串の熱さもメリークリスマス 鈴木鷹夫 春の門
金串の突き抜けてゐる蕗の薹 綾部仁喜 寒木
金入れて子へまれの文麦の秋 赤松[けい]子 白毫
金公事もつくづくにして事納 山店 芭蕉庵小文庫
金冠の珱珞稚児の眼まで垂れ 山口誓子 不動
金剣宮の滝より小蟹這ひ出せり 田上さき子
金剥落秋冷まとひ屏風の虎 鍵和田[ゆう]子 未来図
金唯々と賜ふは老いしか春暖炉 風間ゆき
金屏にうつるは遠き花篝 川名句一歩
金屏におしつけて生けし桜かな 高浜虚子
金屏にしばらく夕日松の内 大峯あきら 宇宙塵
金屏にともし火の濃きところかな 高浜虚子
金屏にものの翳ある寒さかな 武藤紀子
金屏にもんぺの新婦鼓のごとく 宮武寒々 朱卓
金屏にわたる虫ある牡丹かな 岡本松浜 白菊
金屏に人日の目見ず寒牡丹 岡本松浜 白菊
金屏に君が五木の子守唄 京極杞陽
金屏に吹き衰へぬ山颪 大峯あきら
金屏に夢見て遊ぶ師走かな 支考
金屏に大事がらるゝ泊りかな 生田露子
金屏に宮様虚子を語らるる 星野椿
金屏に旅して冬を籠る夜ぞ 加舎白雄
金屏に明暗はあり菖蒲の日 古舘曹人 砂の音
金屏に昼を灯す雛の店 野見山ひふみ
金屏に灯火の影あるばかり 本田あふひ
金屏に筆投げつけつ時鳥 時鳥 正岡子規
金屏に群れつゝ嫁が君走る 嫁が君 正岡子規
金屏に若葉の窓を放ちけり 会津八一
金屏に袈裟ちかぢかと燭もゆる 飯田蛇笏 春蘭
金屏に雨吹きいるる野分かな 蓼太
金屏に風防く鉢の桜哉 桜 正岡子規
金屏のうしろのひとのゆききかな 橋本鶏二 年輪
金屏のかくやくとして牡丹哉 與謝蕪村
金屏のさかさに夜ごろ燭ともる 飯田蛇笏 春蘭
金屏のすそのうもるゝ毛皮かな 大橋櫻坡子 雨月
金屏の前にて賞でぬふきのたう 辻桃子
金屏の松の古さよ冬籠り 芭蕉
金屏の松もふるさよ冬籠 芭蕉 芭蕉庵小文庫
金屏の畳んでありし寒さかな 大石悦子 聞香
金屏の空の如くに翳りけり 上野泰
金屏の紅葉に秋の夕日哉 寺田寅彦
金屏の羅は誰ガあきのかぜ 蕪村 秋之部 ■ 旅人に別る
金屏の虎が睨んでゐるところ 長谷川櫂 虚空
金屏の裡の泊りに父の夢 木村蕪城 寒泉
金屏の金くろずめり山桜 茨木和生 野迫川
金屏の金の剥落山桜 齋藤愼爾
金屏の金ンを放てる虚空かな 上野泰
金屏の金痩せにけり秋の風 小川軽舟
金屏の隅に追儺のこぼれ豆 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
金屏の雲や燭燃ゆ夷講 松瀬青々
金屏やある日弥生の松の影 月舟俳句集 原月舟
金屏や一輪牡丹瓶の中 牡丹 正岡子規
金屏や刺繍屏風や亀城館 高野素十
金屏や寒風描きあるごとく 長谷川櫂 虚空
金屏や晶子百首をちらしたる 土山紫牛
金屏や父の世に古りいまに古り 上田五千石 風景
金屏や賢き妹が筆始 会津八一
金屏を祝はれ吾れは喜寿なりし 武原はん女
金屑をひざにひろひて雛師かな 森川暁水 黴
金床に鎚に盛り塩鍛冶始 柴田寛石
金彩のチェンバロの音に年迎ふ 佐藤美恵子
金扇に紅き日輪武者飾 山口誓子 大洋
金扇の雲浮かしたる冬の翳 飯田蛇笏 椿花集
金扇よき光ぞとあふぐなり 在* 選集「板東太郎」
金掘る山本遠し閑居鳥 蕪村遺稿 夏
金柑を煮含めまこと金の艶 岩本あき子
金梨地の磁器凍てかへるさびしさに 石原八束 空の渚
金槐祭はやも柘榴の割るゝ日ぞ 久米正雄 返り花
金槐集の名もまぶしくて実朝忌 森澄雄
金槐集霰たばしる日なりけり 奥田杏牛
金殿のともし火細し夜の雪 雪 正岡子規
金殿や春の夜毎を鼓打つ 露月句集 石井露月
金気だつ芝の風につつまるる 岡田史乃
金水引終の町石梵字跳ね 田中水桜
金泥で書く波羅蜜の涼しさよ 筑紫磐井「筑紫磐井集」
金泥に塗り込めし死や大櫻 火村卓造
金泥に塗り込めたりし余寒かな 行方克己 昆虫記
金泥に帯び描くことも冬安居 京極杜藻
金泥に朱を落したる淑気かな 鈴木鷹夫 千年
金泥の一巻を展べ春の海 八染藍子
金泥の仁王の乳首あをあらし 川崎展宏
金泥の全身ねむる冬の鯉 正木ゆう子 静かな水
金泥の屠蘇や朱塗の屠蘇の盃 漱石
金泥の月のぼりをり春怒濤 木村風師
金泥の水の落日鳰くぐる 桂信子 遠い橋
金泥の淡きもしるき夏書かな 加藤三七子
金泥の無地の衝立春寒し 松藤夏山 夏山句集
金泥の筆先乾く夏書かな 大谷句佛 我は我
金泥の荒渦や人面を痺れしむ 橋本夢道 良妻愚母
金泥の菩薩刺さんと春の蚊が 古川水魚
金泥の額の古びや冬籠 会津八一
金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盃 夏目漱石 明治三十二年
金泥もて枯葦描かむ久女の忌 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
金泥をもて描くべし豊の秋 県多須良
金泥を塗られしごとき春の風邪 大木あまり 火球
金泥を引きてゑがける青蕨 後藤夜半 底紅
金泥を海に流せり盆の月 澤木欣一
金泥を溶く夜桜の冷えのなか はりまだいすけ
金泥を練る箆や冴え返るなり 内田百間
金泥経を出て凍蝶の吹かれけり 各務麗至
金泥経蔵して山の眠りゐる 菊地一雄
金湛へ秘仏くろずむ夕花菜 荒井正隆
金溜まることに縁なき柚子湯かな 鈴木真砂女 夕螢
金無地の襖牡丹まつさかり 柴田白葉女 花寂び 以後
金無垢のほとけに花の寂いたる 上田五千石
金無垢の耕牛置けり野の没日 内藤吐天 鳴海抄
金無垢の蜂を放ちぬ枯木の枝 内藤吐天 鳴海抄
金獅子の毛の落葉松の落葉かな 田中康子
金獲たり本の神田の雁高し 松崎鉄之介(1918-)
金環の目の魚釣れて島万緑 木村里風子
金環の眼見ひらく青葉木菟 石川冨美子
金環蝕ぼうぼうほろぶ一番鶏 佃悦夫
金環蝕名誉ある吾等かな 阿部完市 証
金環蝕極まれり白蝶舞ひ縮む 永井龍男
金瓶は茂吉の村や樫落葉 中谷五秋
金瓶梅うらゝかな顔で読みにけり 野村喜舟 小石川
金瓶梅浅草で買ふや祭中 野村喜舟
金甲三百鴨居に光る夏館 下村ひろし 西陲集
金短冊差しかへてをり蟻走る 松村蒼石 雪
金秋の愛語聖とならんかな 平井照敏 天上大風
金秋の鍋を煮くづす煮とろかす 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
金秋や人待つ駱駝膝を折る 岩淵喜代子
金筋の駅長混じり雪を掻く 西川朝夫
金米糖板の間に散る二月かな 小川軽舟
金粉の散ると見えたる鳴子かな 野村喜舟 小石川
金粉の沈める屠蘇を干しにけり 滝戸蓮
金粉の袖に附きくる朧かな 竹内悦子
金粉は盃の底七日暮れ 平野 卍
金粉をこぼして火蛾やすさまじく 松本たかし
金粉をこぼすごとくに春の月 山下由理子
金粉をみなぎらせたり黒牡丹 下村梅子
金粉を散らしてわれに墓はなし 津沢マサ子 楕円の昼
金縋を置く寒厨の片隅に 伊東宏晃
金芒ひとかたまり銀芒ひとかたまり 高浜虚子
金花佐久ゆめの万葉仮名涼し 山田みづえ 木語
金花虫(たまむし)や漆の椀をふたつほど 本田ひとみ
金落せしわれを憐れめ烏瓜 清原枴童 枴童句集
金蒔絵春の埃を近づけず 梶山千鶴子
金蜂のただよひ焦がす掛煙草 角川源義
金蝶の眠り過せしが銀蝶か 田中芥子
金蝿のきらきらとして遍路かな 岸本尚毅 舜
金蝿のこどくに生きて何をいふ 加藤楸邨
金蝿のごとくに生きて何をいふ 加藤楸邨「起伏」
金蝿の乾ける音をたてつるむ 辻桃子 ねむ 以後
金蝿の五重の塔にとまりけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
金蝿の叩かれやすく生れたる 小林洸人
金蝿も銀蝿も来よ鬱頭(うつあたま) 飯島晴子(1921-2000)
金蝿やあら銀蝿や老夫婦 鳴戸奈菜「天然」
金蝿やチャリーチャツプリン其処に 毛呂篤
金蠅とかまきり招きわが燈火 西東三鬼
金蠅やあら銀蠅や老夫婦 鳴戸奈菜
金褪せず色褪せにけり古雛 大橋敦子 手 鞠
金褸梅や留守居のごとき昼餉して 手塚美佐 昔の香
金襖すずめさかるを背にききぬ 太田鴻村 穂国
金襴の綾なす鯉と金閣と 高澤良一 宿好
金覆輪の雲分け出づる大初日 山田みづえ
金運の白蛇様も穴を出づ 後藤 章
金鈍る三日月は霜かゝるらし 渡邊水巴 富士
金銅の持仏を船に目白捕 茨木和生 往馬
金閣にほろびのひかり苔の花 遠藤若狭男
金閣に尻炙られて松手入 辰巳比呂史
金閣に日のありながら春時雨 中村正代
金閣に舟つなぎあり残る鴨 田村愛子
金閣のはじく余光や凍ゆるむ 竹中碧水史
金閣の屋根にとどまり永き日よ 尾崎八重子
金閣の影を大事に鴛鴦遊ぶ 田畑美穂女
金閣の歩廊めぐれりマント着て 原子公平
金閣の裾を団扇で煽ぎけり 大木あまり 雲の塔
金閣の金とは知らずあめんぼう 鈴木紅鴎
金閣の金の樋にも花の雨 品川鈴子
金閣の金を破りて錦鯉 高澤良一 宿好
金閣へ行つたきりなる寒雀 大石悦子 聞香
金閣や金箔はげて苔の花 苔の花 正岡子規
金閣をにらむ裸の翁かな 大木あまり 雲の塔
金閣を呑まんばかりに鯉の口 高澤良一 宿好
金閣を残して消えし蜥蜴かな 田中仁(たかんな)
金閣炎上知らぬ子と立ち大文字 桂樟蹊子
金風に提げて野のもの山のもの 馬見塚吾空
金風の美しければ蝶も又 星野椿
金風の翳す仏顔ほのに笑む 臼田亞浪 定本亜浪句集
金風の面影塚を包みをり 星野 椿
金風や廡壁の論語あな鮮し 下村ひろし 西陲集
金風や若狭の旅の餉鯛づくし 北野民夫
金風や虚子記念館古里に 稲畑廣太郎
金風忌念仏唱へつづけをり 北村光阿弥
金風白露いつしか雁聞く夜となりぬ 寺田寅彦
金餓鬼となりしか蚊帳につぶやける 石塚友二「方寸虚実」
金龍が吐くみたらしも初大師 大竹孤悠
金龍の尾の逆立ちて天高し 片山由美子
金龍の舞の奇瑞や暮の秋 久保田万太郎 流寓抄以後
釜神の金壷眼神の留守 猪股洋子
針金の金気切れたる鳰 宮坂静生 山開
銀の鹿と金の夕日と入れ代る 脇本星浪
銀杏散り金を呉れむと番号呼ばれ 岩田昌寿 地の塩
銀杏黄葉金の小鳥の生るるかな 西川治枝
銀波生れ金波消えつつ良夜かな 坂井建
鍋いまし金環蝕や盲汁 下村梅子
鐘氷る夜床下にうなる金の精 鐘氷る 正岡子規
閣涼し金碧はげて笙の声 涼し 正岡子規
闇汁に金鍔入れし人や誰 会津八一
阿夫利嶺に雪降る金の寝釈迦かな(相州大山) 石原八束 『幻生花』
陋巷や花火が撒きし金砂子 内藤吐天 鳴海抄
降る雪に金の卵を想ひゐる 林桂 銅の時代
降る雪や天金古りしマタイ伝 長谷川双魚(1897-1987)
除夜の灯は金の砂子を撒いてをり 阿波野青畝
雑煮祝ぐ秀衡椀の金まぶし 上村占魚 『石の犬』
難波江に金の太陽生身供 猪股洋子
雪の上に金の炎のとぶ焚火 大橋桜坡子
雪の精金粉わき立たせ金屏風 永井龍男
雪空に野火が舞はせる金砂子 能村登四郎 菊塵
雪舞ひの金粉となる没日かな 立川華子
雪見るや金をまうける道すがら 雪 正岡子規
雪解や馬の金沓打つひびき 瀧 春一
雪野照り莎の金ンの紛れたる 成田千空 地霊
雲のうら金泥ならむ初鴉 小枝秀穂女
雲の峯立つそのかみの金の露頭 津田清子 二人称
雲海や金の時計が腕にあり 九鬼あきゑ
雲雀落ち天に金粉残りけり 照敏
霙降る金の神輿を封じこめ 藤井圀彦
霞む日やさしあたりとは金のこと 藤田湘子
露けさの金閣見んと一歩寄る 高澤良一 宿好
露の金閣屋根は椹と申されき 高澤良一 宿好
露寒や走者に金の首飾り 原田豊子
露晴るるほすすきの金ただにゆれ 飯田蛇笏 春蘭
青あらし金のばれんの光りかな 幸田露伴 谷中集
青嵐聖書背文字の金こぼす 長田等
青松に金閣の金ン飛ばしけり 高澤良一 宿好
青葉光一生涯を天金に 野見山ひふみ
青葉蔭金の涙を眼にたたへ 野見山朱鳥
青蛙ぱつちり金の瞼かな 川端茅舎「華厳」
青蜜柑どこかに金の影ひそむ 百合山羽公 寒雁
風呼ぶ夕映え花菜は金の環浮かべ浮かべ 古沢太穂 古沢太穂句集
風花の金閣金を深めけり 大原教恵
風薫る金のボタンの乗馬服 船越和香
風邪患者金を拂へば即他人 相馬遷子 雪嶺
風邪秘めて耳輪に金の鈴二つ 赤松[けい]子 白毫
飽きられており木犀が金こぼす 田川飛旅子 花文字
餅花に金の草履のぬいであり 大野朱香
餌を奪ふ金黒羽白負けてゐず 岡田 日郎
馬刀掘りのひたと金壺眼かな 西田青沙
馬刀貝掘りのひたと金壺眼かな 西田青沙
騎馬少女金のボタンの五月来る 原田青児
高き棕櫚の花房金に一路たたかい 古沢太穂
鬼会晴火の粉金粉闇に舞ふ 津留崎順子
鬼柚子は歪みて金となりにけり 細川加賀 『玉虫』
鯉の金しづめし水の冴ゆるかな 鷲谷七菜子 花寂び
鳥威す金銀金は火に見ゆる 山口誓子
鳩の目に金のまじれる桜かな 夏井いつき
鴉の子さびしいか胸の金ボタン 遠山郁好
鴛鴦の水金砂銀砂をまぶすごと 高澤良一 素抱
鴨なけり枯穂の金がひた眩し 楸邨
鶏の眼の金環冴えて初時雨 北原志満子
鷹の威は金環もてる目にぞある 田畑比吉
鷹渡り日矢の金粉散らしけり 澤田緑生
鷽替の金の当りて埓もなき 後藤比奈夫 めんない千鳥
鷽替の鷽の金泥めでたけれ 田中祥子
麦の秋一と度妻を経てきし金 中村草田男「萬緑」
麦踏に金覆輪の入日あり 大峯あきら
麦飯に拳に金の西日射す 西東三鬼「今日」
黄金虫走路に金を点ずるは 加藤水万「恩寵」
黄金週間残んの金ンとなりにけり 藤本草四郎
黒いガラスに金環の笑みスラムの肩 古沢太穂
黒き壷金冬心の梅を挿す 山口青邨
黒猫の金の瞳やパリー祭 吉田ひろし
龍跳ねて金粉散らす賀状かな 中嶋秀子
●銀 しろがね 
*たらの芽や銀を運びし山路荒れ 岡部六弥太
あつまりて像歪めあふ銀器の秋 渋谷道
あはあはと銀漢面影は消えず 福田蓼汀 秋風挽歌
あんこうを銀で作つている自信 阿部完市 証
いくたびも暗きに跼み銀竜草 藤木倶子「火を蔵す」
いぶし銀のやうな仲なり冷奴 梨本怜子
うすものの中より銀の鍵を出す 鷹羽狩行「平遠」
うすものの僧の啣へし銀煙管 佐川広治
うすらひのとけゆく無双銀屏風 加藤耕子
うたたねの日傘のはじに銀の凪 鬼野海渡
うつくしき抱一か画や銀の露 露 正岡子規
おどろきて銀婚夫婦着膨れぬ 細川加賀 生身魂
おほかたは追慕に燃えて銀縷梅 山本つぼみ
お軽銀涼しき矢立給ひけり 石川桂郎 高蘆
かたかごに銀の日の懸りをり 石田勝彦
かちあたる馬車も銀坐の師走哉 師走 正岡子規
きさらぎや銀器使はれては傷を 大井雅人
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
くちびるは柔らかきゆえ罪深し針魚の銀の細身を好む 松平盟子
こほろぎや路銀にかへる小短冊 室生犀星(1889-1962)
さざなみのひかりを銀の襖かな 日原傳
さびしさは紙風船の銀の口 中村与謝男
さびしさは銀青梅の育つ夜 菅原和子
さらば御嶽銀漢に見送らる 福田甲子雄
しらしらと銀漢往古は絹の道 伊東杏花
でで虫に銀の雨降る子の熟睡 石田厚子
とかげ瑠璃色長巻く日本の帯銀無地 三橋鷹女
とり落す銀のスプーンや夜の秋 三橋 迪子
なきがらや光ひしひしと銀屏風 斉藤夏風
なめくぢの描きゐる銀誰も見ず 平畑静塔
はつはるや余糸銀糸の加賀手毬 田村愛子
はばたく蛾の銀粉を紗に微光の町 桂信子 黄 瀬
ひえびえと二日の夢に銀の檣 友岡子郷 日の径
ひとりゐに銀漢たわむ祭笛 相馬遷子 山國
ぴりぴりと日に欠け 香料と銀の富 伊丹公子 ガルーダ
ふえの音の今夜おそろし銀のめし 星永文夫
ぶるぶると葛饅頭や銀の盆 千原草之
ほそぼそと朝の雨ふる銀のはり清くつめたくわがはだをさす 片山広子
ぼこぼことして銀竜草にぎられし 金田咲子 全身 以後
まぼろしとうつつを破りタチウオの銀鱗瞬時空をつらぬく おおのいさお
まゆ玉をかざせる銀の屏風かな 稲垣きくの
みじか夜や枕にちかき銀屏風 蕪村 夏之部 ■ 雲裡房に橋立に別る
みだれたるわが銀の髪さへも淡く映して野の水氷る 山下陸奥
みなづきの何も描かぬ銀屏風 黒田杏子「花下草上」
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信
よく泳ぐ烏賊に銀の目十二月 神尾久美子
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
をし鳥や廣間に寒き銀屏風 鴛鴦 正岡子規
アメヤ横丁海鼠の棲める銀盥 渡辺二三雄
アラー称ふあれは銀漢これは砂 マブソン青眼
ウインドの銀器に映る街師走 西村和子 かりそめならず
エスカレーターは銀の遁走曲ぞ寒に入る 鳥居おさむ
エリカ咲き山手に銀の細工店 和気久良子
オホーツクの秋潮の紺銀狐の目 加藤楸邨
オリーブの銀緑叢中夏帽子 福永耕二
ガラシヤ忌虫の音銀沙撒くごとし 宮脇白夜
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
コンと咳 砂山に捨て 薄暮の銀 伊丹公子 パースの秋
サルーンの銀の柱の爽やかに 五十嵐播水 埠頭
セーターの胸にV切る銀ぐさり 渡辺寛子
ゼリー食ぶ銀の小匙を遊ばせて 広田恵美子
バレエ果て銀の風鳴る星月夜 吉原文音
パパイヤへ銀の額をもてる朝 高澤良一 ぱらりとせ
ホルンの音屋根突きぬけて銀漢へ 椿 ひかる
メロンにも銀のスプーン主婦好み 高濱虚子
ライラック朝の銀輪地を滑り 佐藤喜俊
ラジオ消し銀漢船に迫りたる 深見けん二
一月のさよりの銀を一包み 辻桃子
一本の華やぎ 晩年の銀の匙 伊丹公子
七月や銀のキリスト石の壁 大野林火
不知火を待つ銀漢の鮮かに 渡辺安山
乾きゆく煎子に銀のもどりつつ 野見山ひふみ
予感のごと砲車と銀器並べてあり 阿部完市 絵本の空
二月の銀の純度を量りをる 岡本信男
亭主留守銀の太刀魚唐揚に 吉田ルツ
仁丹の銀こぼれつぐ涼しさよ 青邨
仁丹の銀まろび落つ春の土 高橋敦子
仁母の銀こぼれつぐ涼しさよ 山口青邨
仏名やかるい銀撰る妹が指 野坡
仲秋や銀の腕輪が腕締めて 辻桃子 童子
作る畳へ銀針出没鮎釣りたく 香西照雄 素心
優曇華の銀糸指さす茶山にて 野澤節子 遠い橋
光堂かの森にあり銀夕立 山口青邨(夏草)
八月の銀を伸べたり太刀の魚 石塚友二
六面の銀屏に灯のもみ合へる 上村占魚 鮎
其銀で裘なと得よ和製ユダ 中村草田男
冬の帆や銀ねずみなる雲飛ぶに 細谷源二 鐵
冬の星わが鬢髪に銀を差す 中島斌男
冬月や銀の魚棲む沈没船 甲斐由起子
冬浪の銀扇の飛ぶ虚空かな 上野泰 春潮
冬瓜の銀あん下処理ねんごろに 高澤良一 素抱
冬萌や水の銀圏隆まりて 香西照雄 素心
冬銀漢灌ぎ出さるる途中かな 柚木紀子
冬青空いつせいに置く銀の匙 水野真由美
冴え返る屏風の銀や霽月忌 三由孝太郎
冷飯に鳴らして寒し銀の箸 龍胆 長谷川かな女
凍蝶を埋む銀砂のひと握り 島田節子
刈草に鳴りてまぎれぬ銀の紙 宇多喜代子
初夢のいくらか銀化してをりぬ 中原道夫
初旅や銀の器に洋酒入れ 小島健 木の実
初日浮くや金波銀波の太平洋 初日 正岡子規
初明り粉乳へ挿す銀の匙 田川飛旅子 花文字
初東風や翡翠が嚥む銀の魚 堀口星眠
初蝶や銀髪額へかげを生み 原コウ子
初雁や銀短冊の五六枚 野村喜舟 小石川
初髪といふも銀髪束ねたる 鳥越すみこ
初鮭の荷や銀さびの夜明ごろ 素丸
劇中に銀の斧あり卒業す 中村和弘
十錢の銀を銅貨に両がへて 正岡子規
千鳥駈る干潟銀無垢に冴え返る 内藤吐天
友らみな白髪をまじへ銀木犀 三橋鷹女
反転の寒鯉黄銀日矢の中 中村明子
句をえらみてはちかむ死か銀懐爐 飯田蛇笏
吹き口の銀のしめりや紙風船 岩井英雅
吾等また銀婚のこと花ゆふべ 山口青邨
啼く田鶴の一身銀の日矢の中 橋本榮治 麦生
噴煙の夜は銀漢へのぼるらん 猿橋統流子
囚はれて凍蝶銀をこぼしけり 山田弘子 懐
四十雀銀の笛吹く山日和 大塚宏江
國狭く銀漢ながれわたりけり 西島麥南
土間闇の前で銀線祭の雨 香西照雄 素心
地は銀の暗さ春天日蝕す 朱鳥
城垣や銀の鎧の太蜥蜴 澤田喜久一
埼玉のもののあはれの銀やんま 桑原三郎
夏未明銀坑洞に火を点す 吉田木魂
夏草に分け入り銀のオートバイ 稲葉南海子
夏霧に銀だちて野猿の毛 甲斐すず江
夏鹿の森の刻々銀時計 攝津幸彦
夕月の銀のさばしる鳥総松 飯田龍太
夕霞乗鞍岳に銀の鞍 伊藤敬子
夜のメロン銀の匙より冷たくて 持丸寿恵子
夜の定時銀香炉拭く青葉木菟 宮武寒々 朱卓
夜の秋の理髪店より銀の音 十時海彦
夜歩きの名残銀漢烟りけり 中島月笠 月笠句集
大伽藍跡は茅花の銀の波 小路紫峡
大利根の水を見にゆく銀やんま 火村卓造
大夏炉銀鱗荘の主たり 高濱年尾
大寒ややおら銀屏風起ちあがる 佃 悦夫
天もるる日や銀竜草が発光す 近藤忠
太刀魚の銀の傷だらけなる 辻桃子
太刀魚の銀の移りし箸を置く 石丸ただし
太刀魚の銀はくもれど悪友なり 飯島晴子
女郎蜘蛛暮色へ銀の糸を吐く 岐志津子「駆けてきて花野」
如月やひとの華燭の銀の匙 渡邊千枝子
妻と寝て銀漢の尾に父母ゐます 鷹羽狩行
娘は銀婚母は金婚万年青の実 西山すみ子
子と摘みにゆく銀(しろがね)の蓬かな 山西雅子
子の夫婦銀婚迎ふ花楝 田中英子
実むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子
宵宮に銀髪投手現はれし 今坂柳二「白球論」
家路やすらか太刀魚の銀を見て 友岡子郷 春隣
富士に雪来にけり銀木犀匂ふ 伊東余志子
寒鮒の生きゐて暮天銀いろに 杉村 惇
實むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子 一木一草
屯田村の銀芽や百年川なだめて 平井さち子 完流
山の蛾がふらす銀粉九月果つ 桂信子 花寂び 以後
山刀伐を越ゆ水引の銀を手に 安藤五百枝
山撓宝珠銀の蕊吐き秋風に 木村蕪城 一位
山麓の百年の家銀木犀 坪内稔典
帰り船灯は銀漢の尾に触れて 稲葉三恵子
幸木に編まれて光る銀の鶴 深川知子
幸来ずや苺をつぶす銀の匙 佐野まもる
幹銀の/辛夷の/空を/雲追ふ風 林 桂
律の風槌で打出す銀の花器 阿部月山子
御降りやなでて畳みし銀の帯 江崎紀和子
忘却の扉を開く銀の鍵つめたし 内藤吐天 鳴海抄
愛情のほのぼのとある銀懐炉 飯田蛇笏 雪峡
愛情は秘むべし柳の裏葉銀 香西照雄 対話
慎重に銀木犀を思いたり 阿部完市
憂ひなし桔梗の空に銀氷河 有働亨 汐路
戦華のあと金木犀銀木犀 永末恵子
手焙に銀瓶の斜なる夜更 尾崎紅葉
指先の銀はつぶせし紙魚のもの 品川鈴子
指弾して聖樹の銀の鐘鳴らず 山口誓子 紅日
掃初や銀元結の屑すこし 岡本松浜 白菊
掌に銀の影置く蓬かな 春日鳥宇
描初の金泥を溶き銀を溶き 奥野素径
放埒は銀木犀の花に始まる 福富健男
放射能雨か冷玻璃へ増す銀の刺 香西照雄 対話
故郷や玻璃にぶつかる銀やんま 中沢城子
故里の銀漢小さくなりにけり 瀧澤伊代次
新松子銀の指輪の祝婚歌 松井桂子
新涼や金眼銀眼の猫とゐて 宮川喜子
旅櫛の銀のよごれや紅薊 島村元句集
日をはじく実は銀鈴のあふちかな 若林いち子
日陰れば芒は銀を燻しけり 米岡津屋
明星の銀ひとつぶや寒夕焼 相馬遷子 山國
星凍る銀明水や土用の入 土用 正岡子規
春の夜の銀延ぶる小槌かな 雉子郎句集 石島雉子郎
春の漁密かに四五尾銀の鮎 飯田蛇笏 雪峡
春はすぐそこ離乳期の銀の匙 山崎ひさを
春を待つものに銀化の涙壺 野見山ひふみ
春三日月お伽の国の銀の舟 渡辺ゆり子
春宵や菓子鉢銀のいぶしいろ 及川貞 夕焼
春愁や銀鎖のベルトゆるく巻く 鍵和田[ゆう]子 未来図
春星の銀の小籠を見つけたる 堀口星眠 営巣期
春昼や踏絵に残る銀の色 中川宋淵 詩龕
春暁の地震がどしんと銀婚なり 奈良文夫
春灯つぶら『銀の匙』より復るもの 友岡子郷 遠方
春灯や菊勇のかげ銀屏風に 田中冬二 俳句拾遺
春近く桜の幹のいぶし銀 高澤良一 鳩信
春陰の岩吹き出づる水の銀(球磨川の水源地を探る) 上村占魚 『玄妙』
春雷やかの日の銀の耳飾り 坪内稔典
春霜満地銀狐の餌はきざまるゝ 前田普羅 春寒浅間山
春風や銀髪肩に揺らし来る 石川風女
時鳥鳴くや局の銀屏風 時鳥 正岡子規
暗やみへ銀の道生む蛞蝓 高瀬恵子(アカシャ)
暮れてなほ黄金に銀に花芒 勝西健二
最上川は鬱の銀いろ野分過ぐ 沼澤 石次
月が置く銀の環柩ある家に 文挟夫佐恵 黄 瀬
月夜しぐれ銀婚の銀降るように 佐藤鬼房
月待つや影こそ佳けれ銀沙灘 加藤安希子
月涼し銀の簪薄紙に 奥本芳枝
月祭る芒の銀のこぼれけり 太田鴻村
朝に銀夕べに金のねこじやらし 内山靖子
朝の舟搖りつ浦人銀葉草(ギバサ)掻く 高澤良一 寒暑
朝は金ゆふべは銀の花すすき 文挟夫佐恵
朝日さす雪原金沙銀沙照り 鈴木貞雄
朧銀の水のめぐりて初櫻 加藤三七子
木犀の銀の十字や誕生日 角川源義
木犀の銀疲れたり遺跡遺居 平井さち子 鷹日和
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
朴咲くや津軽の空のいぶし銀 沢木欣一 赤富士
朴咲くや銀漢低くひんがしに 佐野青陽人 天の川
朴落葉いま銀となりうらがへる 青邨
東大寺銀の皿にも鹿彫られ 大島民郎
松が嫉(やく)水がね(銀)飲ません荻が上 洞雨 選集「板東太郎」
枯蘆のはて銀婚の影落す 古舘曹人 能登の蛙
枯銀の杏空のあをさの染むばかり 竹下しづの女句文集 昭和十四年
柊の花も蕾も銀の粒 橋爪巨籟
柴漬の手間ひま銀の夕立す 古舘曹人 砂の音
桃を剥く銀のナイフを曇らせて 岩垣子鹿
梧桐の銀置く空や明け易き 会津八一
森の中塵と銀扇露まみれ 阿部みどり女
椴松の根方にひょっこり銀龍草 高澤良一 燕音
楡大樹銀の芽もて濡るる空 柴田白葉女 『冬泉』
橋の灯は神旅立ちの銀の馬車 藤原千紗子
櫻桃や妻銀髪をひたかくす 古舘曹人 砂の音
歌いまくる炭子の唄に銀漢伸ぶ 金子兜太
歳月の八十八夜銀の匙 伊藤君江
残雪や北欧に買ふ銀の匙 吉野義子
母の世の金糸銀糸や土用干し けんとう千草
母亡くて銀鱗こぼす初御空 角川春樹
毒薬のありそうな部屋 銀映え 伊丹公子 パースの秋
水中花銀の泡つけ夜深き燈 内藤吐天 鳴海抄
水底に銀の太陽みづすまし 山本歩禅
水音は銀の重さに山ざくら 児玉南草
沈む桃に銀膜赤き処は浮べ 香西照雄 素心
沖の銀圏消えぬ脚下に花菜展く 香西照雄 素心
油いため終り銀漢かがやきぬ 宮坂静生 青胡桃
波音や応挙の銀の屏風より 三浦久子
流星にとどろきなびく銀の髪 高澤晶子
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
海原に銀漢の尾の触れてゐむ 西村和子 かりそめならず
海胆割つてゐる銀鼠の雨の中 友岡子郷
海鼠漁の手応え 銀の日暮れのなか 伊丹公子 陶器の天使
涼しく銀鱗抗し得し魚数尾くるる 古沢太穂 古沢太穂句集
湖こめて降りつむ雪や銀狐鳴く 佐野青陽人 天の川
満山の銀の芒や鷹渡る 橋本鶏二 年輪
満載の橇に銀漢尾を垂れつ 栗生純夫 科野路
瀬波相摶ち銀やんま急降下 西村和子 かりそめならず
火事の夜の女がつかふ銀の匙 古舘曹人 樹下石上
灯に吊す銀新巻の蝦夷ぶりぞ 山崎千鶴子
灯の涼しかんざし店に銀の蝶 千手 和子
炎天の羽音や銀のごとかなし 川口重美
焼鳥や銀の髪もつ露語教師 日原傳
照れば金日かげれば銀芒かな 下村梅子
熊蝉の放射してゐる銀の糸 小檜山繁子
燧灘銀泥延べし良夜かな 渡部抱朴子
父の日や古りし遺愛の銀時計 近藤一鴻
牡蠣に添ふ二つのみある銀フオーク 及川貞 榧の實
犬馳けし足跡雪の銀砂灘 右城暮石 上下
猫に買ふ銀の小鈴も盆支度 桑原立生
猫柳初心の銀と思ひけり 岩瀬良子
猫柳風に光りて銀鼠 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
玉虫の飛翔は銀の翅つかふ 児玉南草
珈琲秋思の 銀匙 重くも軽くもなく 伊丹三樹彦 一存在
甕に落つ蛾の銀粉のひろがれり 福田甲子雄
甘蔗の花摩文仁の丘に銀波なす 野原培子
甘酒の銀泥怖るのんどかな 磯貝碧蹄館「馬頭琴」
生きた銀天国へ行けぬのに逃る 阿部完市 証
甲板に寝て銀漢を胸の上 奈良文夫
男ありむさしをあるく銀狐つれて 阿部完市 にもつは絵馬
病棟へ岡持ち駛すよ銀茅花 平井さち子 完流
発掘の一分銀駒返る草 吉田紫乃
登頂の荒息聞き合ひ銀婚なり 香西照雄「壮心」
白木蓮の滾りて銀の宙にあり 八村廣
白絣銀魚のごとく着てをれり 火村卓造
白菊にうはの空なる銀化粧 秋色 俳諧撰集玉藻集
白魚を汲む瓏銀の潮の色 茨木和生 往馬
白鶴の銀と化したる屏風かな 大石悦子 百花
百の幼女ほしがる桃とそして銀 阿部完市 春日朝歌
皆既月蝕凍て王女めく銀の匙 河野多希女 彫刻の森
眼が寒しストリツパーに銀の陰 磯貝碧蹄館 握手
知らぬ間に過ぎし銀婚松の芯 松村多代子
短夜やうすものかゝる銀屏風 短夜 正岡子規
短夜やともし火うつる銀屏風 短夜 正岡子規
短夜や枕にちかき銀屏風 蕪村「蕪村句集」
石焼藷銀の匙もてすくへるよ 山口青邨
祇園会や黄金の巴銀の月 大釜菰堂
祖父が先ず触れ モレーン・レイクの銀の櫂 伊丹公子 アーギライト
秋しぐれ上着を銀に濡らしける 川崎展宏
秋の夜の路銀かぞふるふしどかな 西島麦南 人音
秋の夜や紅茶をくゞる銀の匙 日野草城
秋の蛇銀婚の夫婦おどろかす 山口青邨
秋の蝶銀粉ちらす鞍馬山 松崎 豊
秋光をさへぎる銀の屏風かな 前田普羅 新訂普羅句集
秋刀魚船銀のしぶきを運び来し 目黒穎子
秋海の銀に五体を投ぜんか 大口元通
秋深む銀のフオークに血がついて 藤岡筑邨
秋澄むやひろげて銀の舞扇 藤村克明
秋澄んで銀燃ゆる蜘蛛の糸 石塚友二 光塵
秋行くとオリーブ林の銀の風 石田 波郷
秋逝きぬ銀の燭台盗らねども 大西淳二
稜線を銀にかがりて秋入日 加藤耕子
稲妻の銀の眼を沖合に 高澤良一 ぱらりとせ
空蝉をのせて銀扇くもりけり 魚目
立秋や銀の茶釜の市に出る 寺田寅彦
立雛や袴の銀のさびまさり 野村喜舟 小石川
端居して銀漢をまた遡りゐし 河原枇杷男 蝶座 以後
築地川跡銀葉アカシア咲く高さ 松田ひろむ
簟名残におきし銀煙管 松瀬青々
米櫃に銀の紙貼り秋の母 磯貝碧蹄館
粒選りの銀舎利箸に万座屋忌 上田五千石
紅梅やかの銀公の唐衣 貞徳
紙魚の銀身をうねらせて走るかな 野村喜舟
紙魚を追ひけだかき銀にたぢろぎぬ 林翔「あるがまま」
紫の蕾より出づ銀の葦 竹下しづの女句文集 昭和十一年
絵襖の金地銀地にある枯野 三田和子
織初や金絲銀絲の杼をとばす 高橋淡路女 梶の葉
義兄弟銀木犀の屋敷にて 飯島晴子
義士の日や銀をふちどる朝の雲 沢田まさみ
羮や銀匙うらゝかに舌青春 松根東洋城
翁草銀の絮かな祭笛 飯田龍太「百戸の谿」
老毛虫の銀毛高くそよぎけり 原石鼎「花影」
脚長き銀の燭台夜の秋 櫛原希伊子
脳中にも銀髪まざるおもしろさ 立原雄一郎
自動車の銀のひかりが躑躅ごし 京極杞陽 くくたち上巻
船数へながらすすきの銀の中 友岡子郷 日の径
芒野に遊べば一夜で銀の髪 本郷和子
芭蕉布の銀糸を紡ぐ鳥曇 芝 由紀
花の夜の昂ぶりに置く銀の匙 加藤三陽
花の窓銀の仏は御手をのみ 永井龍男
花の闇ひらくに銀の鍵使ふ 鳥居真里子
花の露地遠く過りしバスの銀 香西照雄 対話
花冷えや矢立の銀のくもるさヘ 石川桂郎 四温
花冷や狂女の面の裏は銀 対馬康子 愛国
花菜の海汝が銀の靴遠く泛く 磯貝碧蹄館 握手
花過ぎて秋の気もする銀屏風 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
苔くぼに銀の水玉福寿草 静雲
若菜野に銀冠の樹々ひとそよぎ 火村卓造
茶の花の新らし銀の雨が降る 星野立子
草笛を吹き銀髪となりにけり 市村究一郎
落花得つつ水の銀点大粒に 香西照雄 素心
著換売つて路銀にしたる袷哉 袷 正岡子規
葭障子銀瓶ひとに過去ありき 及川貞 夕焼
蒙古塚夜は銀漢を掲げけり 岸原清行
蕪村忌や暮れきつてより銀の雨 若山允男
薬味酒発酵 月夜は 金波銀波の町 伊丹公子 山珊瑚
藍凝つて銀を生ずる鰹かな 松根東洋城「渋柿句集」
蚊の声の銀の如しといきどほり 赤松[ケイ]子
蛇捕りの忘れてゆきし銀煙管 原田青児
蛞蝓の銀かわきたる酒船石 羽田 岳水
蜘の子や一つ居て這ふ銀屏風 会津八一
蜘蛛の糸葉陰にありて銀に 中田剛 珠樹以後
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子 久米正雄 返り花
蝙蝠や沙漠に銀の飛翔線 加藤知世子
蟻地獄月下に渇く銀の砂 花田春兆(萬緑)
蟻引けり蛾の銀粉をこぼしつつ 下村梅子
行秋を銀の茶釜の売られけり 寺田寅彦
袖にかくす銀簪や春の雷 阿部みどり女
被爆後のいつ竣(な)りし噴水銀の棒 友岡子郷 遠方
製油所の銀の血管鳥ぐもり 磯貝碧蹄館
襟寒き絹の蒲團や銀襖 蒲団 正岡子規
襟巻の銀狐獣の爪をもてり 岸風三楼 往来
角巻をとめたる襟の銀の蝶 上村占魚
貝寄風やじゆごんのおならは銀の珠 大住日呂姿
貨車の扉に銀の封印クリスマス 松下晴耕
賃銀と切り離された労力の皮膚が汗して震動している機械 橋本夢道 無禮なる妻抄
賢治碑の蝉銀の尿したたらす 田村了咲
輝きて銀狐は銀狐雪は雪 依田明倫
遍照光家陰に霜の銀を敷き 香西照雄 素心
遠き日の鮎は銀器の残光を 吉田紫乃
選り迷ふ菓子銀皿に聖夜くる 小川濤美子
野分が七重八重にかこんで銀の宿 阿部完市 春日朝歌
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
金よりも銀美しき破魔矢かな 串上青蓑
金・銀で酬ゆる恩の涼しかり 筑紫磐井 婆伽梵
金塊と並ぶ銀塊秋の風 野見山朱鳥
金芒ひとかたまり銀芒ひとかたまり 高浜虚子
金蘭も銀蘭もまだ草若葉 浦野芳南
金蝶の眠り過せしが銀蝶か 田中芥子
金蝿も銀蝿も来よ鬱頭(うつあたま) 飯島晴子(1921-2000)
金蝿やあら銀蝿や老夫婦 鳴戸奈菜「天然」
金鶏も銀鶏も秋風の中 野見山ひふみ
釣りにけり銀の諸子魚(もろこ)の倖せを 堀口星眠 樹の雫
鈴虫や銀器触れ合ひ唯の音 香西照雄 素心
鉄線花壁をこぼるる銀砂子 野村喜舟
銀(かね)もてば兎角かしこし須磨の月 上島鬼貫
銀いろにかへ水おもし金魚玉 高橋淡路女 梶の葉
銀さびて片蔭をゆくひとの帯 原 俊子
銀と照る干鰯のなぞへ海に墜つ 山口草堂
銀どろのろくぐわつ鳥の肝を刺し 八田木枯
銀ねずの霙の雫能登の(あて) 西村公鳳
銀のさびしさ青麦の中で逢えぬか 廣嶋美恵子
銀の匙おけばチリンと冬隣 大塚憲二
銀の匙に麦粉そなへん漱石忌 中勘助
銀の匙もてゴンドラのメロン漕ぐ 浅賀渡洋
銀の匙もて雪嶺を窓に指す 神谷九品
銀の匙アイスクリームを削りけり 野村喜舟 小石川
銀の匙光り寒九の水の中 鈴木初男
銀の匙嬰にふくませる砂糖水 河本修子
銀の匙添へて出されし雛あられ 高木耕人
銀の匙象牙の箸やクリスマス 太田育子
銀の器か天の器かフィヨルド 金子皆子
銀の城わが国に生れる言葉 阿部完市 証
銀の強き秋刀魚の並びけり 如月真菜
銀の月の隈無き修二会かな 栗林圭魚
銀の柄のナイフが欲しき虫の闇 皆吉司
銀の泡珊瑚をはなれ昇りくる 三橋敏雄 まぼろしの鱶
銀の爪くれなゐの爪猫柳 竹下しづの女
銀の空蝉かさね秤るかな 山本掌
銀の笛ほし滝しぶき虹となり 桂信子 黄 瀬
銀の箔散らすと紛ふ花芒 中沢サク子
銀の肌の曇りや秋の鮎 塩谷鵜平
銀の薄煙の中が子の遊び場 田川飛旅子
銀の蛇かくしていそうな柿若葉 三宅やよい
銀の鈴鳴らして冬の鴎呼ぶ 仙田洋子 雲は王冠
銀の鈴鳴るよ晩夏の空とほく 仙田洋子 橋のあなたに
銀の雨切つてからまつ萌えにけり 矢島渚男 天衣
銀の魚銀の泪をさがしている 大西泰世 世紀末の小町
銀の鹿と金の夕日と入れ代る 脇本星浪
銀の黴引く子供達が散ってゆく 松本恭子 二つのレモン 以後
銀ぶちの眼鏡おでこの十夜婆々 河野静雲 閻魔
銀ぶらも絶えて久しや鰯雲 吉田久子
銀やぐら崩れて白し天の川 縁台将棋 中勘助
銀やけて月見えわかず秋扇 長谷川かな女 雨 月
銀やんま一閃兄者来てゐるよ 小出秋光
銀やんま水のたひらを返しけり 鈴木しげを
銀やんま運河の黒き水を打つ 佐藤至朗
銀やんま静止空間のふわふわ 豊口陽子
銀を冷やして置くよ未来の月明に 林桂 ことのはひらひら 抄
銀シャリてふ眩しき死語や今年米 岡田飛鳥子
銀パリも昔語りの巴里祭 岸みよ子(山茶花)
銀ブラの言葉古りゆく年の市 岩崎照子
銀三十枚の頭にはあをさぎのとまる淋しさ 加藤郁乎
銀冠の軸の青さよ翁草 沢木欣一
銀化する貝のまどろみ花氷 磯貝碧蹄館
銀合歓に戦跡かくし月を上ぐ 中戸川朝人 星辰
銀器に顔小さく住めり夜の秋 伊藤京子
銀塊の夕月熊笹原照らす 岡田日郎
銀夕日栃の芽ばかり荒々し 堀口星眠 営巣期
銀婚のうたげの若葉ぐもりかな 久保田万太郎 流寓抄以後
銀婚のエニシダも散り森に月 和知喜八 同齢
銀婚の吾等の影を掛稲に 山口青邨
銀婚の妻その孫に毛糸編む 百合山羽公 故園
銀婚の式はせずとも軒の梅 鈴木花蓑句集
銀婚の旅雪山の虹に入り 影島智子
銀婚の秋あをあをと藻の梳かれ 鍵和田[ゆう]子 浮標
銀婚の近づき沙羅のひとつ咲く 石田あき子 見舞籠
銀婚はまだまだ若し古茶新茶 山田弘子 こぶし坂
銀婚やかがよう妻の髪の霜 橋本夢道 良妻愚母
銀婚や倚れば冬木の匂ひたつ 松倉ゆずる
銀婚や枯草色の毛糸買ふ 石川文子
銀婚を忘ぜし夫婦葡萄食ふ 相馬遷子 雪嶺
銀屏にとびつくごとく灯ともりぬ 上村占魚 球磨
銀屏に淡し愛子の柩影 伊藤柏翠
銀屏に燃ゆるが如き牡丹哉 牡丹 正岡子規
銀屏に萩を焚く火や光悦寺 橋本鶏二 年輪
銀屏に葵の花や社家の庭 野坡「小柑子」
銀屏に蕪村の打てる凍み米点 高澤良一 随笑
銀屏に魍魎あそぶ冬燈 富安風生
銀屏の古鏡の如く曇りけり 高浜虚子
銀屏の夕べ明りにひそとゐし 杉田久女
銀屏の銀の老い行くめでたさよ 池上浩山人
銀屏や崩れんとする白牡丹 牡丹 正岡子規
銀屏風にうつす緑や青葉山 盧元
銀屏風無月ときめて直しけり 野村喜舟 小石川
銀屏風立てし残暑の月夜かな 尾崎紅葉
銀屏風紅葉の風に立揺らぎ 京極杞陽 くくたち下巻
銀忌妻の常着へ日の移る 松谷俊弘
銀懐炉まだなきがらの懐に 長谷川櫂 虚空
銀懐炉恋たんのうす奴かな 飯田蛇笏 霊芝
銀扇に書きし献立女正月 河野頼人
銀扇の外骨きつく押しひらく 野沢節子
銀扇の如くに水を打ちにけり 上野泰 佐介
銀扇や灯を吸ひ飽かぬ色尊と 村上鬼城
銀日輪飛雪を凌ぎゆくものに 成田千空 地霊
銀木犀は金木犀を未だ知らず 攝津幸彦 鹿々集
銀木犀指切るほどの兄もゐず 塚本邦雄 甘露
銀木犀文士貧しく坂に栖み 水沼三郎
銀木犀詩の投函は昏れてより 宮脇白夜
銀沙灘雪降りうめぬ義政忌 名和三幹竹
銀波生れ金波消えつつ良夜かな 坂井建
銀泥に撫子薄き扇かな 野村喜舟
銀漢といふにはうすしピアノうつ 安東次男 裏山
銀漢にぬれてもどれば熱き風呂 栗生純夫 科野路
銀漢に外寝の腕高く伸べ 福井圭児
銀漢に尻尾振りたくなりぬ無し 池田澄子
銀漢に抱かるるごとし婚約す 仙田洋子 雲は王冠
銀漢に溺れてゐしを呼ばれけり 藤崎久を
銀漢に触れ山姥の舞ひいづる 黒田杏子 花下草上
銀漢に青き空洞病師いかに 上田五千石 田園
銀漢に鳴りとよもせる那智の滝 鈴木貞雄
銀漢のこの世におくるほの明り 道山草太郎
銀漢のさざなみ寄する杓子岳 星野恒彦
銀漢のしぶときまでに野を圧す 栗生純夫 科野路
銀漢のたぎち入る沖左千夫の忌 上田五千石 田園
銀漢のたちふさがりぬ酔ひにけり 千代田葛彦 旅人木
銀漢のとなりに眼鏡置き忘れ 鳴戸奈菜
銀漢のはづれにまはる観覧車 谷口摩耶
銀漢のまつしぐらなり補陀落寺 角川春樹 夢殿
銀漢のもと蘭盆の宝炉もゆ 野見山朱鳥
銀漢の下に父母なき山河あり 深川正一郎
銀漢の中にちちの星ははの星 船津實生子
銀漢の声はるかなり抱影忌 熊谷恵子
銀漢の多摩にかたぶく露台かな 中島斌雄
銀漢の夜毎なだれて学に倦む 宮坂静生 青胡桃
銀漢の奥のさみしき人通り 鳴戸奈菜
銀漢の尾に触れて父臥やるなり 宮坂静生 春の鹿
銀漢の尾をふりかぶり鯨割く 崎浦南極
銀漢の尾を垂れにけり島泊り 清崎敏郎
銀漢の巨杉にかかり出石寺 和気祐孝
銀漢の彼方より来したましひのほのかに白き山ぼうしの花 馬場あき子
銀漢の後尾は己が母郷へ落つ 伊藤敬子
銀漢の果てまで送りゆき戻る 長田等
銀漢の流れや白き骨の白 正木美和
銀漢の瀬音聞ゆる夜もあらむ 芥川龍之介
銀漢の砂底乾き蛾の舞へる 櫛原希伊子
銀漢の立ちふさがりし裏戸かな 池上浩山人
銀漢の結氷の音すゝむなり 小川軽舟
銀漢の記憶につゞく山路あり 星野立子
銀漢の銀の荒粒持ち帰る 伊藤敬子
銀漢やいつよりわれのねぢれ川 小檜山繁子
銀漢やおとこ斃れてなお長身 澁谷道
銀漢やごとりごとりと牛車[く」 日野草城
銀漢やどこか濡れたる合歓の闇 加藤秋邨 雪後の天
銀漢やひそかにぬぐふ肌の汗 鈴木しづ子
銀漢やべートーヴェンのデスマスク 仙田洋子 雲は王冠
銀漢やまだ開けてある厩の戸 吉武月二郎句集
銀漢やみなし灯ともる仙巌寺 鈴鹿野風呂 浜木綿
銀漢やわが死の箱は誰が造る 後藤綾子
銀漢やナイフとフオーク触るる音 長谷英夫
銀漢や世に生きてゆく証見む 下村梅子
銀漢や並びて待てる洋車の灯 五十嵐播水 埠頭
銀漢や二十年前一兵士 相馬遷子 雪嶺
銀漢や京の山々北にあつまり 岸風三楼 往来
銀漢や僧衣の裾の闇暑し 小林康治 玄霜
銀漢や兄弟多き曲馬団 日原傳
銀漢や函を得しかに嬰の睡り 神尾久美子 桐の木
銀漢や北半球に住み慣れて 稲畑廣太郎
銀漢や千里の果に妻子寝て 長谷川櫂 虚空
銀漢や原子力発電所無音 奥坂まや
銀漢や史記にて絶えし刺客伝 日原傳
銀漢や吾に老ゆといふ言葉きく 星野立子
銀漢や喝采黒人ピアニスト 仙田洋子 橋のあなたに
銀漢や四十になりて虚子を思ふ 星野高士
銀漢や安房の湊に土佐の船 大串章
銀漢や少し坂なす社宅街 遠藤梧逸
銀漢や山は太古へ還りたる 下村非文
銀漢や峰越の疾風うちひびき 水原秋櫻子
銀漢や応召の日の覚悟成る 瀧春一 菜園
銀漢や悲しきことはいふまじく 星野立子
銀漢や指鉄砲をこめかみに 栗本洋子
銀漢や放馬にまじる牛一つ 橋本鶏二
銀漢や旅愁といふもたゞ淡く 高濱年尾 年尾句集
銀漢や月日と共に人遠く 福田泊水
銀漢や死すれば踰ゆるいろは坂 春樹
銀漢や男の腔をみな照らす 攝津幸彦
銀漢や砂丘砂散る未明音 鷲谷七菜子 花寂び
銀漢や研師佐助は父の祖父 清水青風
銀漢や礼文に小さき川一つ 高柳かつを
銀漢や胸の風音鳴りやまず 仙田洋子 雲は王冠
銀漢や芦でつながる村二つ 大峯あきら
銀漢や蜑が家夜半を閉さず寝る 小原菁々子
銀漢や誤解の横顔鉄壁なす 川口重美
銀漢や身に応へ船向き変ふる 津田清子
銀漢や野に花ありて白き愁 細谷源二 砂金帯
銀漢や野山の氷相さやり 窓秋
銀漢や馬房に馬の数足らひ 石田勝彦 秋興
銀漢や馬柵をこえ発つ登山隊 金子 潮
銀漢や高野山上川流れ 小早川恒
銀漢や齢の中に戦の日 岡本 眸
銀漢をうす雲ほのとよこぎれり 西山泊雲 泊雲句集
銀漢をせきとめてをる庇かな 泰
銀漢をひき寄せ海の匂ひけり 吉田ひろし
銀漢を五体たしかに仰ぎ立つ 渡邊千枝子
銀漢を仰ぎし記憶くりかへす 吉村ひさ志
銀漢を仰ぎ疲るゝこと知らず 星野立子
銀漢を見かへりひたに家欲しき 杉山岳陽 晩婚
銀漢を見ざる妻子を寝にやりぬ 島田牙城
銀無垢の茶托の翳り冬灯 中村汀女
銀燭の更けて露けし貸小袖 伊藤松宇
銀燭の燦爛として菊合 菊 正岡子規
銀狐わきを出でたるごとく去る 平井照敏
銀狐棲む谷土器のかけら出づ 岡田日郎
銀献納冬日が凍るいとまなし 萩原麦草 麦嵐
銀盆に熟柿の揺れの静まりぬ 日原傳
銀盆もゆめの山河や煮くずれて 澁谷道
銀砂子撒ける蓮池(れんち)のいと涼し 高澤良一 随笑
銀積みし港の跡や秋の蝿 磯貝碧蹄館
銀竜草スペースシャトルは又宙ヘ 阿部ひろし
銀竜草夢の如くに立つ夜明 長谷川久代
銀竜草滝のしぶきを摘みきしや 宮津昭彦
銀竜草滝の飛沫の結晶めく 毛塚静枝
銀竜草鵺の忘れし笛かとも 堀口星眠 青葉木菟
銀竹やかぞへ敢へずもつめりきず 加藤郁乎
銀箭の雨ほころばすかきつばた 藤森成吉「蝉しぐれ」
銀綴る帯の桔梗の雨の背 中戸川朝人 残心
銀線を曳くなめくぢと奴隷船 糸 大八
銀翼去る傷つき易き寒の空 鍵和田[ゆう]子 未来図
銀芒丹波山系光りけり 岩崎照子
銀芒触れあふ音を聴かんとす 小室善弘
銀蘭や汝も黙せる明るさに 花谷和子
銀蝿の野にとび街に君やすし 津沢マサ子 楕円の昼
銀閣の銀の砂より牡丹の芽 鈴木育子
銀闇に浪華の人や大文字 与謝蕪村
銀髪のそのことごとくきらめく死 八木三日女 赤い地図
銀鱗に秋がきてゐる志摩の海 田村英一
銀鱗のしぶく包丁はじめかな 三田きえ子
銀鱗めくさざなみ率行くぞ寒釣人 香西照雄 素心
銀鱗限りなし月の鰯雲 渡部抱朴子
銀鼠に空の整ひ大旦 高澤良一 寒暑
銀鼠色の夜空も春隣 飯田龍太
闇にありて銀の光を放ちいるしなやかな幹まだ若き幹 大島史洋
闇に出て銀木犀の香に触れぬ 山本 祐三
防風つむ砂とんで日は銀いろに 八牧美喜子
雛納め忘れ銀婚の夜なりけり 村尾香苗
雪原を北狐また銀狐 天本美沙絵
雪女郎の銀の簪拾ひたる 田中冬二 行人
雪女郎銀の半襟してゐたり 原田青児
霜柱銀にはなやぐ父の死後 平井照敏 天上大風
露けさのゑのころ銀に穂立ちけり 織田 耀子
露けしや平らに置いて銀の匙 中尾杏子
露の他省き尽くして銀沙灘 高澤良一 宿好
青き王妃よ/朝の/やつれの/銀の髪 高柳重信
青嵐銀叉ジェリーに没りて透く 林原耒井 蜩
青簾銀屏よりも撥の冴え 沢木欣一
顔の熱うばふ銀板夜の秋 田中裕明 櫻姫譚
顔赤く髯銀の如き鵜匠哉 鵜匠 正岡子規
風の中銀鈴となる山椒喰 きくちつねこ
風はおんな銀合歓の葉ずれの燠 野ざらし延男
飛魚の銀鱗光る魚市場 秋川ハルミ
首に捲く銀狐は愛し手を垂るる 杉田久女
馬の背にまたるる銀やとしのくれ 黒柳召波 春泥句集
馬入は地を這う銀の蛇、天馬に乗る(飛行機上) 荻原井泉水
高楼の銀燭見えかくれ若葉哉 寺田寅彦
髪染めんといふ妻かなし銀木犀 里木野雨
鬱の日のゼリーを崩す銀の匙 末永雅子「春嶺同人句集」
鯉釣や銀髯そよぐ春の風 幸田露伴 拾遺
鯵の皮剥いても銀や桜冷え 鳥居美智子
鳥威しの銀遡ぼる浅間かな 田川飛旅子
鴛鴦の水金砂銀砂をまぶすごと 高澤良一 素抱
麦の穂を挿しある銀の花瓶かな 篠原鳳作
黄葉ふる風に銀狐の逆毛立つ 瀧春一 菜園
黒き瞳と深き眼窩に銀狐 竹下しづの女句文集 昭和十一年
黒南風や帯の銀にも涙落つ 赤松[けい]子 白毫
鼬去る銀木犀の白浄土 村上冬燕
あさまだき原爆ドームしろがねに 大西政司
あはうみはしろがねのべぬ西行忌 大石悦子 百花
こめかみに音のしろがね梨食ぶる 赤松[けい]子 白毫
しぐれこぼす空のしろがね女寺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
しろがねにねむる蔵王や茂吉の忌 井沢馬砂人
しろがねにボートレースの水飛沫 猪俣千代子
しろがねに川昏れ残る光琳忌 山本右近
しろがねに濡れたる湖や鴨来そめ 堀口星眠 営巣期
しろがねに照る千曲川みえかくれ一望千里あんずは咲けり 松坂弘
しろがねに透き寒晴れの干さより 花谷和子
しろがねに雲洩る日射し松虫草 加藤耕子
しろがねのこがねの芒鳴りわたる 照敏
しろがねのこゑびつしりと霜柱 田口紅子
しろがねのしぶき白鳥争へる 八木マキ子
しろがねのどろめのれそれ生姜擦れ 小澤實
しろがねのひこ乾上りぬしろがねに 林原耒井 蜩
しろがねのやがてむらさき春の暮 草間時彦 櫻山
しろがねのキヤムプの雫樹は聴けり 下村槐太 光背
しろがねの一畝の棉の尊さよ 栗生純夫
しろがねの冬の針曳く紅一糸 野澤節子 『八朶集』
しろがねの出羽を立ちけり裘 斎藤梅子
しろがねの刃のためらはぬメロンかな 日野草城
しろがねの刻を研ぎ出す暁の虫 林翔
しろがねの匙もて淡き陽を掬へ 永井由清
しろがねの双羽を杳と冬の鳥 鈴木鷹夫 大津絵
しろがねの噂好きなる尾花かな 橋石 和栲
しろがねの器ならべつ泉殿 松瀬青々「鳥の巣」
しろがねの大湖を据ゑて冬霞 柏 禎
しろがねの富士に湯気立つ寒土用 村松ひろし
しろがねの尿のごとくに蓮の水 行方克己 昆虫記
しろがねの山々梅の香もしろがね 伊藤二瀬
しろがねの手応へ鏡餅ひらく 遠藤若狭男
しろがねの指の間を洩れ山清水 檜紀代
しろがねの日に風ふるゝ秋の空 渡邊水巴 富士
しろがねの日の渡りゐる枯野かな 藤田あけ烏 赤松
しろがねの日暮れの雲や棉の花 布施れい子
しろがねの春空わたりをはりし日 篠原梵 雨
しろがねの月を一輪牡丹園 片山由美子 風待月
しろがねの月走りけりとりかぶと 黒田杏子 花下草上
しろがねの木の芽ぐもりの日を秘めて 長谷川素逝 暦日
しろがねの毒を浮かべり 萬華陀羅 よみのうたげは笹舟の音 筑紫磐井 未定稿Σ
しろがねの水くろがねの水馬 西本一都 景色
しろがねの水の中より水芭蕉 斎藤信義(円)
しろがねの水を束ねて寒晒 伊藤敬子
しろがねの水尾弓なりに鰆舟 部谷千代子
しろがねの水田一枚春の田に 富岡掬池路
しろがねの水蜜桃や水の中 日野草城(1901-56)
しろがねの湖に真向ふ琴始 白柳淑子
しろがねの潮たる初日濤をいづ 飯田蛇笏 雪峡
しろがねの甲冑つけて一雪嶺 古川京子
しろがねの白菜として完結す 辻美奈子
しろがねの砂さゝめかし手長蝦 森夢筆
しろがねの秋のこぼれ蚕拾ひけり 佐坂鳴渦
しろがねの穂波となりぬ枯れ尽くし 佐々木比呂子
しろがねの網に暴れし白魚かな 阿波野青畝
しろがねの能郷白山花の上 清水弓月
しろがねの芒折れたり水の上 会津八一
しろがねの草木に触るる夢の手や 宇多喜代子
しろがねの葬花八月十五日 猿山木魂
しろがねの蜩の翅 京ことば 鈴木石夫
しろがねの襖を開けて河鹿聞く 茨木和生 野迫川
しろがねの鎖造りは梅雨の奥に 細谷源二
しろがねの雨が走れる青芒 池田苦茗
しろがねの雨粒のせて蓮浮葉 大場活刀
しろがねの霞に湖国ありにけり 櫛原希伊子
しろがねの露の走れる黒牡丹 田畑美穂女
しろがねの露玉虫厨子の中 中田剛 珠樹以後
しろがねの風のはじめのきりぎりす 坂巻純子
しろがねの魚買ふ秋の小漁港 野澤節子
しろがねの鮫反り交す無月かな 石寒太 あるき神
しろがねの鯉が統べゐる神の留守 都筑智子
しろがねの鷹となりつつ渡るかな 邊見京子
しろがねもあはきみどりの薄かな 中田剛 珠樹以後
しろがねもまぜて銭ある寒さかな 室生犀星 犀星發句集
たそがれの声しろがねや草雲雀 根岸善雄
はつはつに芽吹くもありてしろがねに光る枝枝暁の空指す 三國玲子
ぼうたんやしろがねの猫こがねの蝶 與謝蕪村
みはらしみわたしこころにことにしろがね 阿部完市 春日朝歌
トンネルを出てしろがねの蝉時雨 五島高資
一枚の湖しろがねや大旦 中村けさ子
一湾のしろがねの夕麦を焼く 堀口星眠 営巣期
一羽鳩腋しろがねに年新た 野澤節子 黄 瀬
三輪山のしろがねの日に冬ひばり 山本古瓢
乾鮭の貌のしろがね夜に入る 藺草慶子
伊勢ゑびにしろがねの刃のすゞしさよ 草城
優柔な魚であるから尾はしろがね 宇多喜代子
凍らむとしろがね震ふ滝の袖 岡本まち子
凍瀧のしろがね闇をつらぬけり 桂信子
十月の滝しろがねに轟けり 玉川鴦鳴
卯月 しろがねの鱗を飛ばす母系かな 宇多喜代子
受難曲満天星の雨しろがねに 古賀まり子
受験期や夜明の田水しろがねに 中拓夫 愛鷹
合流のしろがねびかり鯊を釣る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
噴水のしろがねを水かけのぼる 鯉屋伊兵衛「遍在」
夕つかた町とよもして地震過ぎつわれはしろがねの粥食みゐしを 高橋睦郎 飲食
夕焼雲月のしろがねつゝみけり 久保田万太郎 流寓抄
大前のしろがねの雪跪く 小原菁々子
太陽にしろがねの環春北風 森澄雄
姫沙羅の芽のしろがねや波郷の忌 渡辺方子
子と摘みにゆく銀(しろがね)の蓬かな 山西雅子
寒林やしろがね色に日の面テ 高橋淡路女 梶の葉
寒鯉のしろがねびかり異人館 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
尾花寂ぶしろがね積みし古港 宮津昭彦
山椒喰地にしろがねの砂満ちて 堀口星眠 営巣期
嶺を落つ水のしろがね葛根掘 中拓夫
干藁にしろがねの日の沁むばかり 中島斌雄
息青くかもめ憑きくる髪しろがね 八木三日女 石柱の賦
日本黎明海しろがねにアラーの神 隈 治人
日輪もしろがね闌けし芒原 渡邊千枝子
早乙女に水しろがねにたひらかに 柚木紀子
春の雨しろがねの馬過ぎゆけり 児玉悦子
暮れながらしろがねいろの霜くすべ 今井杏太郎
月光のしろがねの芯種瓠 原 徹
朝凍みの山しろがねの春の露 奥山公世
枯蘆にしろがねの猫うづくまる 鶏二
柿の木に月しろがねでいまそがり 船曳青峰
桃冷やす水しろがねにうごきけり 百合山羽公
椿の実滝しろがねに鳴るなべに 橋間石
楊貴妃桜しろがねを張る峡の空 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
槙垣にしろがねの雨年惜しむ 御木正禅
櫛もまたしろがね色の雪女郎 本郷桂子
河骨に月しろがねを展きつつ 柴田白葉女 牡 丹
法師蝉しろがねのこゑ放ちけり 小川軽舟
波郷山河茅花しろがね打ちなびく 山田みづえ
活鯛をしろがね造り朝ぐもり 赤松子
浜ぐみの芽のしろがねにくもり来つ 太田鴻村 穂国
海士帰るしろがねの太刀魚ひつさげて 道川虹洋
潮筋はしろがねびかり烏賊をさく 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
瀬戸またぐしろがねの橋秋あかね 小川恒子
照る月のしろがね浴びて高野槇 宮津昭彦
父は亡し日はしろがねの枯木道 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
牡丹開かば吾れしろがねの船行らん 中島月笠
牡蠣殻へしろがねの雨ふりにけり 吉田紫乃
眼を貫くはしろがねのすすきの穂 富澤赤黄男
秋風裡 われしろがねの刃を投げむ 富澤赤黄男
種子はしろがねの鈍さの刈田走り 鈴木勁草
種浸すしろがねの濃き空の裾 中拓夫 愛鷹
稲刈って星しろがねと降りそそぎ 北原志満子
穂すすきのしろがねよする風にあふ 太田鴻村 穂国
筍や嵯峨しろがねの雨ふりて 月笠
老い鮭のしろがねいろに流れゆく 成田智世子
老鴬やしろがね炎ゆる昼の海 高山れおな「荒東雑詩」
腐りつつ馨る玉葱少年の指(および)触れなばおよびしろがね 高橋睦郎 飲食
腹も背もしろがね深き初鰹 宇多喜代子 象
芒野はしろがねに日は富士に落つ 高木蒼梧
芭蕉糸しろがね光り糸車 沢木欣一
花卉の春しろがねの蜘蛛顫ひゐる 飯田蛇笏 霊芝
花氷花びらの端のしろがねに 加来義明
葉月潮又しろがねの魚釣れし 鯨洋
蕗の上にしろがねのべて霧の湖 水原秋櫻子
薇の渦のしろがね子へ初潮 井桁白陶
蜘蛛の糸しろがね色に明け初むる 五木田政子
買初となすしろがねの干鰈 岡本差知子
身ほとりやしろがね色の春の暮 草間時彦 櫻山
返しくるときのしろがね群千鳥 伊藤孟峰
還暦やしろがねの雁さかしまに 塚本邦雄 甘露
邯鄲のこゑのしろがね綴りけり 根岸 善雄
邯鄲の声のしろがね風落つる 関根黄鶴亭
雉啼くや日はしろがねのつめたさに(上州神津牧場) 上村占魚 『萩山』
雨の糸鶴の命をしろがねに 北さとり
雨空がしろがね降らす恵方道 鈴木鷹夫 渚通り
雨足のしろがねなせる苗はこび 飴山實 『次の花』
雪積みて闇しろがねに奥の院 つじ加代子
霧の杉しろがねの息旅に見ゆ 小檜山繁子
風立ちて去るしろがねの夏野かな 鈴木修一
飛魚のいのちしろがね濤を翔び 神尾久美子「中啓」
飛魚の飛ぶしろがねや熊野灘 宇多喜代子
香を忘れたるしろがねの沙羅咲けり 田畑美穂女
魚梯とぶ魚のしろがね初嵐 小山えりか
鮠食うてしろがね瞼薄日射す 小檜山繁子
●銀灰色
●金と銀 
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
●銀鼠 
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信
海胆割つてゐる銀鼠の雨の中 友岡子郷
猫柳風に光りて銀鼠 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
銀鼠に空の整ひ大旦 高澤良一 寒暑
銀鼠色の夜空も春隣り 飯田龍太 春の道
●金縁 
富士暮れしそば金縁の雲うかぶ 篠原梵 雨
●草色 
たうたうと冬草色して川ながれ 高澤良一 さざなみやつこ
まなうらを草色にして水鶏笛 大木孝子
まひる野や土色草色のバツタ跳ね 中拓夫 愛鷹
ホーレン草色よく茹でて二人膳 蕪木啓子
京鹿子富士の下草色もなし 言水 選集「板東太郎」
十月の草色したる馬の糞 大木あまり 雲の塔
子と谷地へ一と日七節虫草色に 宮坂静生 山開
幻想遺跡 枯草色の家族住む 伊丹公子 パースの秋
母通る枯草色の春日中 飯田龍太
水無月は皮屋の指より垂れし草色 攝津幸彦
父の死のたちまち草色雪の中 寺田京子 日の鷹
筑波を見む夢のつくばは餅草色 折笠美秋 君なら蝶に
職に慣る草色の露ややいびつ 香西照雄 対話
花苺草色の虫をりにけり 高田風人子
草色に染まる石臼餅を搗く 伊藤孟峰
草色の土器のかけらや春の雲 伊藤 翠
草色の翅に息する蝉の羽化 黒川良子
草色の蚊をつぶしたるてのひらに顔埋めて君も透きゆくばかり 平井弘
草色の蜘蛛軽々と草渡る 千原叡子
草餅の草色深き忌明けかな 宇多喜代子 象
蟻を吸ふとき草色となる蜘蛛よ 依光陽子
銀婚や枯草色の毛糸買ふ 石川文子
餅花にまじる草色にぎにぎし 古舘曹人 樹下石上
●朽色 
朽色蝶羽を開けば炯眼紋 香西照雄 対話
●朽ち葉色
秋日閑雀下りたる朽葉いろ 瀧春一 菜園
●隅
●栗色 
一茶生地ひらたき栗が栗色に 香西照雄 対話
団栗の栗色兄らに栗拾はれ 香西照雄 素心
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
妻を語る秋栗色の大きな眼 成田千空 地霊
栗虫のその栗色に個性あり 如月真菜
道詮忌栗色の濃き栗供ふ 右城暮石
●グリーン 
接待のグリーン茶賜ふ秋遍路 小林定子
●栗毛 
一病と年の関越す膝栗毛 高澤良一 ももすずめ
初鳩の栗毛かがやくめでたけれ 酒井湧甫
天球のずぶ濡れにして栗毛佇つ 攝津幸彦 未刊句集
復活祭四肢しなやかに立つ栗毛 片山由美子
春の閨に散るや一九の膝栗毛 春 正岡子規
暁や栗毛駆けぬく葛が露 齋藤玄 飛雪
栗の秋栗毛まつ毛の当年駒 矢島渚男 延年
白河や花吹きかゝる膝栗毛 中村史邦
芦毛より栗毛は早し競馬 競馬 正岡子規
身に一具なし雪晴の栗毛馬 荒井正隆
鹿毛・栗毛・芦毛よ芝の枯るる中 正木ゆう子 悠
●グレー
●紅蓮 
かまつかの紅蓮を見栄とおもふ日も 高澤良一 随笑
たてがみ吹く風も紅蓮の武者侫武多 高澤良一 寒暑
ぬきんでて紅蓮散るを待てるなり 松村蒼石 雁
まるい葉の中の紅蓮母が咲く 和知喜八 同齢
一弁の力の抜けし紅蓮 山田閏子
午后九時の西日紅蓮にムンクの町 石原八束 白夜の旅人
口まで来て紅蓮となりしことばかな 河原枇杷男 蝶座 以後
和上にも見えてや一つ紅蓮(唐招提寺鑑真廟) 飴山實 『辛酉小雪』
夢を食む女よ揺るる紅蓮田 鍵和田[ゆう]子 未来図
大紅蓮大白蓮の夜明かな 高浜虚子(1874-1959)
大紅蓮見られ尽くしてさびしがる 津田将也
娑婆といふ紅蓮を堰きて網戸あり 高澤良一 寒暑
寒雷や紅蓮の氷わるる夜に 中勘助
山焼の一夜の紅蓮奈良に雪 野澤節子 『駿河蘭』
扇燈籠(おぎどろ)の紅蓮見送り立ちん棒 高澤良一 寒暑
朴の実の紅蓮にけふの風迅し 堀口星眠 営巣期
濡れ豆腐焼くや炭火の総紅蓮 中村草田男
火祭や漢紅蓮の匂ひせり 槍田良枝
白蓮の中の紅蓮を指しぬ 松藤夏山 夏山句集
秋の日やまなこ閉づれば紅蓮の国 白泉
窯中に紅蓮の炎山眠る 上田佳久子
紅蓮 咲くとき 散るとき 枯れるとき 大島道子
紅蓮つひの一花を見届けに 神尾久美子
紅蓮の一とふくらみを加へたる 綾部仁喜 寒木
紅蓮の實飛びぬ白蓮の實も飛ぶ 蓮の実を結ぶ 正岡子規
紅蓮の鉢並びたる浄水場 岩瀬鴻水
紅蓮の開かむとしてゆるるなり 秋篠光広
紅蓮やまだ新発智は素足にて 北原白秋
紅蓮上野の山の負け戦 高澤良一 素抱
紅蓮信濃御寺の嫁迎へ 斎藤夏風
紅蓮天上をいま櫂の音 九鬼あきゑ
紅蓮田一遍踊り来しごとく 神原栄二
紅蓮開かんとする揺らぎかな 西尾君子
紅蓮靄を払うてひらきけり 日野草城
紫雲山より来し雨や紅蓮 岸風三楼 往来
耳在れば耳の邊暗き紅蓮かな 河原枇杷男 訶梨陀夜
至福の月日紅蓮白蓮 九鬼あきゑ
蒟蒻掘紅蓮の焚火あげて暮る 馬場移公子
蕩児いま帰る紅蓮の鯉のぼり 浅井周策
西方へ日の遠ざかる紅蓮 野澤節子
身の裡の藁火が付きし紅蓮 齋藤玄 『雁道』
道成寺堂の左右の紅蓮 河野静雲
都鳥時折紅蓮見せにけり 日原傳
閻王の紅蓮の舌の埃かな 富安風生「草の花」
雲白し山蔭の田の紅蓮華 泉鏡花
駱駝に乗れば夕焼紅蓮のピラミッド 石原八束 『仮幻』
●黒 
*さんざしのくれなゐの蕊黒の蕊 深見けん二 日月
*たらは芽を黒文字は花つけにけり 後藤比奈夫 めんない千鳥
*はまなすや沖にかゝりて船黒し 岸風三楼 往来
*はまなすや黒牛は遠灘のごとし 田口満代子
「常住漂泊」末黒の薄見てしまう 松田ひろむ
あがなひぬ彼岸の市の黒椿 星野麦丘人
あたらしき末黒野の息しづかなる 上野さち子
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
いくら掘つてもおんなじ黒さ烏貝 加倉井秋を 『真名井』
いつしかに桑の葉黒し秋の風 秋風 正岡子規
いつまでの髪の黒さよ春の日よ 北さとり
うしろより鏡に入る黒揚羽 摂津よしこ
うたた寝に畏友のごとく黒揚羽 鈴木鷹夫 千年
うつうつと死姦に入りし黒揚羽 加藤かけい
うつうつと黒牛を乗り殺したり 桑原三郎 春亂
うば玉を見ずして何の黒牡丹 手塚美佐
うまや路や麦の黒穂の踏まれたる 定本芝不器男句集
おおかみうお黒の羅(うすもの)はおりけり 高澤良一 燕音
おでん屋を出て真つ黒な土手がある 岡本眸
おのづから夜気醸しけり黒葡萄 辻美奈子
からっ風黒革手帳を垣間見せ 神田九十九
からつ風吹きて黒富士くつきりと 倉内法子
ぎつしりと並ぶ黒靴虚子忌なり 奥坂まや
くらやみの冬木の桜ただ黒し 三橋敏雄 畳の上
ここいらの犬みな黒し芋嵐 遠山陽子
ここではないここではないと黒揚羽 林 朋子
この天の下に黒着やふのり掻き 加藤しげる
こほろぎや目を病む母の黒眼鏡 今泉貞鳳
これちょうだい まっくろ黒助凍てなまこ 高澤良一 寒暑
これもうし菊に晴着の黒小袖 菊 正岡子規
これやこの大夢の如き黒牡丹 橋本夢道 『無類の妻』以後
これ一つ父の遺品は黒マント 古賀まり子
ころがつて出る焼藷の黒だるま 辻田克巳
さきぶれは黒揚羽蝶彼が来る 熊谷愛子
さして行く牛島黒し月見船 不白
さすらひて小箕よ乙女よ黒穂とり 中勘助
さびしさよ鵜の羽広ぐ黒十字 茂木和子
さよならの手をしまひたる黒コート 内田美紗 浦島草
しぐるるや潮も黒ずむ熔岩岬 下村ひろし 西陲集
しぐるるや田の新株(あらかぶ)の黒むほど 松尾芭蕉
しぐるるや黒みてここに去来の墓 高澤良一 燕音
しやわせのうすい手 黒ぶどうをつまむ 吉岡禅寺洞
しろがねの露の走れる黒牡丹 田畑美穂女
しんかんと日のおもくなる黒牡丹 野澤節子 『存身』
すたすたと麦の黒穂を抜きにゆく 三浦ミヨ子
すでにして黒穂と育つ他はなし 湯川雅
そこに火のとまり末黒の芒折れ 成瀬正俊
たそがれの黒を増す桐ならびたり 篠原梵 雨
ちりぢりに漣照るや末黒葦 能村登四郎
とこしへの黒本尊や煤払 川名句一歩
としよりの日や神官の黒財布 櫻木久子
どこまでが影どこからが黒揚羽 飛永百合子
どの木にも触れずにゆきし黒揚羽 宮崎すみ
なきがらの蜂に黄の縞黒の縞 橋本多佳子
なにか唾棄して末黒野を立去れり 上田五千石 田園
にちりんに末黒の径の撓ひかな 上野さち子
にんげんは黒ずくめにて初日の出 正木志司子
ぬばたまの実といふ晴るる日の黒さ 後藤比奈夫 祇園守
ぬばたまの黒主山の団扇かな 大石悦子 百花
ぬれ鶴やす黒の薄分けて行く 大江丸
のど渇く子と末黒野をよぎりたる 細見綾子 黄 炎
はつきりと霞の中に鳶黒し 霞 正岡子規
ぱんぱんのひじの黒さよ夏了る 石橋辰之助
ひとのため末黒野を行き落膽す 藤田湘子(1926-)
ひと憎むこころをつつむ黒マント 文挟夫佐恵 遠い橋
ひら~と黒蜻蛉ゆく竹の径 比叡 野村泊月
びつしりと地に寂光の羊歯黒し 三谷昭 獣身
ふしだらのはじめの黒を鶏頭花 都筑智子
ふるさとのしよせんは路傍黒揚羽 古館曹人
ふんどしややうやう黒む初明り 初明 正岡子規
ほうろくや黒塚に見し鬼の豆 井原西鶴
ほつかりと月夜に黒し鹿の影 鹿 正岡子規
ほのぬくみある末黒野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
ほのぼのと鴉黒むや窓の春 野坡
まぎれたる雨後の末黒の芒かな 稲畑汀子
また黒揚羽林中の秘境より 上田五千石 田園
まつむしのりんともいはず黒茶碗 服部嵐雪
まつ黒な鯉さげてゆく冬隣 小笠原和男
まつ黒な鯉住む山のけむり茸 栢尾さく子
まつ黒になれと訓示す夏休 有原悦子
まつ黒の鯉さげてゆく冬隣 小笠原和男
みんな親切粒よりの黒ぶだう 小林一子
むらさきの深くて黒や鴨の胸 正木ゆう子 静かな水
もう何処へも行かぬ黒靴西東忌 岡 典子
もくれんじ雪に拾へば黒瞳もつ 猪俣千代子 堆 朱
もろもろの寒さ育てゝ海苔黒し 右城暮石 上下
よく肥えて鯉は黒しや蕗の薹 茨木和生 木の國
よべの疾風ぬばたまの実の黒に帰す 栗生純夫 科野路
わが指紋とどめはるかへ黒揚羽 片山由美子 風待月
わが旅の黒手袋のゆびぞ透き 関口みぐさ
わが身なき黒外套や壁に垂る 榎本冬一郎
わが魔羅も美男葛も黒ずみし 矢島渚男 延年
アネモネに黒の舟唄聞かせたる 近藤季美
アネモネの蕊黒し家追はれをり 岡田貞峰
ウィーンの夜の雫なす黒葡萄 猪俣千代子
オルガンの黒に 粉雪 日本海 伊丹公子 時間紀行
オルガンの黒布ゆゆしや受難節 下村ひろし 西陲集
クレヨンの黒はまつ黒冬隣 小川軽舟
グッピーに遭ひておもたき黒コート 吉田紫乃
グライダー基地も末黒の芒原 柴原保佳
コスモスの花粉を吹けり黒表紙 田中裕明 山信
シスターの黒から黒へ衣更 坂口晴子
シチリアの夜の好漢の黒外套 河合公代
シベリアが叩き込む黒埋葬図 高澤良一 燕音
スカルノ死す金雀枝の実の黒莢に 宮坂静生 山開
ステンドグラスに挑む黒蝶 外人村 伊丹公子 メキシコ貝
ストーブや黒奴給仕の銭ボタン 芝不器男(1903-30)
スラムの掌うごめく黒と代赭の壁 安西篤
デコ木型黒びかりして凍てにけり 高澤良一 さざなみやつこ
ネクタイの黒が集ひぬ寒雀 鈴木鷹夫 大津絵
バード・ウイーク鴉の黒を持て余す 鳥居おさむ
ビル街に残る黒塀ちちろ鳴く 秦野淑恵
ベールかけるには春の髪黒すぎる 今瀬剛一
ペアリフト末黒の芒の上をゆく 満田玲子
ボスに對う意志の黒靴足裏濡れ 鈴木六林男
ポケツトに黒ずみてをり龍の玉 三浦照子
ポスターの中の黒豹寝冷えせり 皆吉司
モナリザの笑まひに似たり黒牡丹 樋口津ぐ
ラバ深みよる瀬の汐のド黒ロに釣れて 河東碧梧桐
ルオーの黒佐伯の黒や冬立てり 伊丹さち子
レーダーの円黒南風の操舵室 河原芦月
レーダーの基地をかすめし黒揚羽 森 高子
一めぐり塚も黒むや冬木立 水田正秀
一ツ葉の緑といへぬ黒さかな 一つ葉 正岡子規
一団の黒の礼服石蕗日和 高澤良一 素抱
一塊の黒に還りて忍枯る 富安風生
一塊の黒を陸とし藻刈の夜 斎藤梅子
一塵もゆるさず黒の冬帽子 前田普羅
一日の奧に日の差す黒揚羽 桂信子(1914-)
一月の風花呼びて樅の黒 村越化石 山國抄
一瞬のときめき嬉し黒揚羽 三吉礼子
一箱の闇より出でて黒葡萄 谷元左登
七月の家ゆるがせて汽車黒し 桂信子 黄 炎
丈ひくく活けて茶亭の黒牡丹 菊井稔子
丈高にわれ殿中を黒揚羽 古舘曹人 能登の蛙
三つとは数の妖しき黒揚羽 倉橋羊村
三寒の黒竹粋な一商家 高澤良一 宿好
三月や丘に黒牛出揃ひて 高橋悦子
三界に末黒の葱を抜きすすむ 島田牙城
三角に神島黒し初日の出 大川嘉智香
下校の子散りゆき黒し雪深し 宮津昭彦
不知火や黒糸威の大鎧 佐藤史奈
世に混じるべく外套の黒ねずみ 橋本榮治 逆旅
並び立つ末黒芒やむちのごとし 佐田光王
並ぶ鵜のみづかき黒し月の舷 吉野義子
並ぶ鵜の黒の端正寒日和 吉年虹二
久里浜は燕の黒の似合ふ町 高澤良一 素抱
乙字生家黒実つぶらな車輪梅 八牧美喜子
九官鳥の黒の旱のバツケヤロ 寺田京子 日の鷹
九官鳥黒し烈しき夏なりき 甲田鐘一路
二つ程拾ひ海鼠の黒奴 高澤良一 素抱
五月 石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
五月来ぬ水田黒畑光噴き 相馬遷子
亡き友の話にもどる黒椿 石田あき子 見舞籠
人の服黒より白へ花菜咲く 波多野爽波 鋪道の花
人麿忌末黒古蘆刈られけり 藤田湘子
人黒し朧月夜の花あかり 朧月 正岡子規
仁王像の片腕さがす黒蟻よ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
今さらに土の黒さや朧月 来山
今朝より冬黒ビロードのかがやく足袋 古沢太穂 古沢太穂句集
今朝見れば若菜に揃ふ地黒好 江戸-秋色 俳諧撰集玉藻集
仕あがれば日向にだして黒花輪 飴山實 少長集
仮位牌焚く線香に黒むまで 夏目漱石 明治二十四年
休日をとざす冷雨の松黒し 大井雅人 龍岡村
佳き声の黒鶫くる安居寺 池内けい吾(春耕)
俎に流す血黒し秋夕焼 桂信子
信濃路や濃黒の揚羽まへうしろ 小林康治 四季貧窮
信長忌黒豹といふ牡丹かな 岩田 諒
俺の落下地点をさがす黒鳥かな 小川双々子
傘の黒茎の白千本しめぢ佳き 相馬遷子 山河
傘立ての外の黒傘終戦日 大木あまり 雲の塔
傷つきてとびすさむなり黒揚羽 山口誓子
僧のくる野辺の末黒を旅はじめ 宇佐美魚目 天地存問
僧帰る月黒谷や木菟の声 滝川愚仏
兄弟の黒帯同志初稽古 堀 磯路
先生の黒のトンビの寒さかな 野村喜舟 小石川
光秀の生国黒穂踏みて佇つ 中澤康人「山居]
八つ手の葉を欠いてゐた手の煤黒ろ 梅林句屑 喜谷六花
八月や地獄の沙汰の黒たまご 水原 春郎
八月や黒も炎えいろ黒地蔵 猿田咲子
冬の川黒し酔ふため集ふ灯か 佐藤鬼房
冬の旅びろうどの黒身に添へり 櫛原希伊子
冬の日や鵜匠の羽織る黒紬 殿村莵絲子 花寂び 以後
冬帝に黒靴下の猫火照る 攝津幸彦
冬帽の黒さが似合ふ齢来ぬ 篠原梵 雨
冬帽の黒脱げば斑らなり黄塵 石塚友二 方寸虚実
冬帽子買ひ替へて黒まさりたる 綾部仁喜 寒木
冬服と帽子と黒し喪にはあらぬ 谷野予志
冬薔薇紅く咲かんと黒みもつ 細見綾子 雉子
冴え返る身辺白し黒を着て 殿村菟絲子 『樹下』
凌霄花の花に黒めん鎧壁 史庭 俳諧撰集「藤の実」
凍つる夜の地震しづまりし黒羊羹 和田耕三郎
出目金の話したがりの黒まなこ 上田日差子
切株の 黒蟻が画く 黒い円 富澤赤黄男
切西瓜発止々々と種黒し 後藤比奈夫
列の尾に黒パンを買ひ夏の終り 平井さち子 紅き栞
初午や雪解田に鶏冠黒ずめる 中拓夫 愛鷹
初成りの茄子の黒さの輝きて 和光弘
初潮に鵜の黒耀の絶ゆるなし 遠山壷中
初燕仰ぐ黒人黒瞳秀で 香西照雄 対話
初蝶が黒蝶である何ならむ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
初鴉黒をおのれの色として 加藤有水
利尻暮れ海鵜一羽の黒礁 高澤良一 素抱
動かねば冬日に溶ける黒豹か 斎藤梅子
北に他郷の黒つぐみ、ふるさとは父(ペール) 加藤郁乎 えくとぷらすま
北を指し黒みだれなき除夜の貨車 大井雅人 龍岡村
北国や雪消えやらず黒つぐみ 鈴木純子
十五夜の和服黒がち地影がち 古沢太穂 古沢太穂句集
十六夜やしばし黒谷眞如堂 青雨
十字軍より元気にて黒コート 櫂未知子 蒙古斑
十羽ゐて同じ黒瞳や初雀 友岡子郷 翌
千切りの黒文字干して秋彼岸 福島文江
千年の建物黒し冬木立 冬木立 正岡子規
千年を石に問いつつ黒揚羽 久保純夫 熊野集
午後からはおどろく重さ黒揚羽 河村まさあき
南薫と看板黒し柿若葉 長谷川櫂 古志
友の寝息晴夜の山は親しき黒 大井雅人 龍岡村
古戦場より一斉に黒揚羽 坂部新蔵
只今を水を垂らせる黒揚羽 柿本多映
合掌の舘の夏炉黒光る 寺島初巳
合歓咲いておしやれ少女の黒づくめ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
合歓咲かせ男鹿の旧家は黒造り 鍵和田[ゆう]子 未来図
吊鐘に前のめりして黒やんま 高井北杜
名月やともし火白く犬黒し 名月 正岡子規
向日葵の大き黒蕋秋の風 瀧春一 菜園
向日葵をつよく彩る色は黒 京極杞陽 くくたち上巻
吾等の祖の村土黒し蝶鮮らし(内田稔神戸より来たり遊ぶ登呂遺蹟) 飴山實 『おりいぶ』
咲きつづく天の夕顔黒雨以後 小田保
哀話のようにくけくけくくく黒鶫 小木ひろ子
唖者が飼う鳩白に黒乗り言葉見える 堀葦男
囀や乾して黒帯二三本 鈴木鷹夫 千年
土人哀史いまも黒砂炎ゆるのみ 河野南畦 湖の森
土塊をはさみて末黒野の芒 浦野哲嗣
土用三郎黒牛に乗り来りけり 中条明
土用太郎礁は黒に徹しけり 小原山籟(俳句饗宴)
土竜の屍黒菱形に北の夏 成田千空 地霊
土筆の子末黒汚れの袴穿き 後藤比奈夫 祇園守
地にころがる釘抜黒し油照 目次翠静
地獄図絵昼つかさどる黒揚羽 河野多希女 こころの鷹
城垣の闇を住処に黒揚羽 加藤佳子
城趾山眠る黒本尊とともに 松村蒼石 雁
城跡の茶席へ一花黒牡丹 秋本芳枝
城跡の赤黄黒の桜の実 瀧澤伊代次
堕天使に悪相見えず黒葡萄 吉原文音
塀いとも軽々越せり黒揚羽 高澤良一 素抱
墓石の黒刻まるる桃の花 古賀まり子 緑の野以後
墨こねて服まで黒し女来な 品川鈴子
壁面に黒塗られゆく寒い夏 佐藤鬼房(天狼)
壁黒み影向したる星佛 尾崎紅葉
夏つばめ是非なき黒を身にまとひ 岡本菊絵
夏の月頬黒の多き女哉 夏の月 正岡子規
夏帽に眼の黒耀や恋がたき 飯田蛇笏 山廬集
夏帽子目深にけものめく黒眼 柴田白葉女 『月の笛』
夏帽子黒を自信の色として 小田三千代
夏来る樹影の黒と土の白 香西照雄 素心
夏蝶の黒さを夢にもてあます 高橋謙次郎
夏黒足袋脱げば対なす洞かな 加倉井秋を
夕だちやわづかに降りて田の黒み 肥前-紫白 俳諧撰集玉藻集
夕方の黒富士あるゝ極暑かな 瀧澤伊代次
夕暮の谷戸に谺し黒つぐみ 長谷川草洲
夕涼し鯉黒耀の躬をしづめ 佐野良太 樫
夕狩の野の水たまりこそ黒瞳 金子兜太 暗緑地誌
夕立の黒雲韋駄天走りかな 高澤良一 素抱
夕鶴の全長全幅黒十字 吉野義子
外套の黒着るかくれごころかな 福井隆子
多寿黒顔の冬眠の亀瞼素く 中村草田男
夜に入る鬱のかたちの黒葡萄 奥坂まや
夜の冬木とほり過ぐれば黒にかへる 篠原梵 雨
夜の海の静かさが仇黒葡萄 池田栄子
夜は閉す扉の外の金魚黒 香西照雄 対話
夜へつながる黒砂 いまは陽に返礼 伊丹公子 機内楽
夜を待ちてゐたるごとくに黒牡丹 片山由美子 風待月
夜を脱ける黒の真澄や初鴉 知世子
夜涼し身をはなれたる背広の黒 大井雅人 龍岡村
大き夕陽に黒ぐろ雪を下しおり 北見弟花
大仏の鼻梁真夏の黒びかり 高室有子(白露)
大南風黒羊羹を吹きわたる 川崎展宏
大暑なり能登黒瓦かがやけり 高島筍雄
大根の花咲く厩出す黒馬の艶 安斎櫻[カイ]子
大根を下ろして明日は黒ずめり 津沢マサ子 華蝕の海
大観の黒の一筆冬に入る 川井政子
大雪や能登巡礼の黒づくめ 井上雪
大露の黒滝村に忌を修す 大峯あきら 鳥道
大頭の黒蟻西行の野糞 金子兜太 旅次抄録
天つ日に金の蘂吐き黒牡丹 松本澄江
天使祭黒を着たがる娘たち 鈴木明
天蓋を褥となせり黒揚羽 柿本多映
太宰忌の黒長靴の脱げば折れ 福永法弘
太陽に黒点のあり黒穂生ふ 石井とし夫
太陽に黒穂の黒き粉が育つ 堀内 薫
太陽を醸してかくは黒葡萄 野沢節子 八朶集以後
奈良墨の黒さ秋行く画仙紙に 富田潮児
奥の院八丁とあり黒揚羽 近藤笑香(地平)
女医明るし狂院の池昼黒し 八木三日女 紅 茸
女面打つ黒足袋を穿きにけり 山口都茂女
妻よ子よ黒焦げ秋刀魚食膳に 村山古郷
媾曳の跨ぎし水の蝌蚪黒し 藤田湘子 雲の流域
子が跳べば届く高さや黒葡萄 金子 蜂郎
子とあるく盲いの父の黒マント 三谷昭 獣身
孫と瞻てナマコ忍者の黒装束 高澤良一 素抱
宗鏡寺の庭に出て舞ふ黒揚羽 八木善一
室の花黒んぼ人形笑ひけり 仙田洋子 橋のあなたに
宵月のたしかに暮るゝ黒牡丹 牡丹 正岡子規
家に入る電線黒し柿若葉 日向野初枝
宿の膳こんがり焼きの黒ハチメ 高澤良一 寒暑
寂然と黒雲おこる安居かな 村山古郷
寒々と黒漆塗りの首桶なり 冨田みのる
寒夜の餉とろりと烏賊の黒づくり 北野民夫
寒念仏黒谷を出て帰りけり 赤木格堂
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
寒泳の身よりも黒眸濡れてくる 能村登四郎
寒潮の彼方夕黒雲がゆく 松村蒼石 雁
寒釣にゆくいでたちの黒づくめ 池田秀水
寒鯉雄々し黒天鵞絨の座布団も 草田男
寒鴉道士と黒を競ひけり 有馬朗人 耳順
寒鴉黒胡麻のごと過疎の里 山下美典
寵愛の白牡丹黒牡丹かな 大橋敦子 手 鞠
射干をつかんでは下げ黒揚羽 川崎展宏 冬
小暗くて木深くて黒揚羽ゐる 高木晴子
少年の黒瞳が澄めり睫毛に雪 鈴木貞雄
少年は眠れり木莵を黒と決め 齋藤愼爾
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
居待月南部黒牛歩み来て 熊澤さとし
山すその草の深さに黒揚羽 高木晴子 晴居
山の寒さかぶるま黒なお寺見ゆ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山半面焼けし末黒のすすきかな 森 無黄
山国御陵黒蟻大きすがる腰 鈴木榮子
山廬春黒竹直と立てりけり 池田秀水
山影を抜けしとき瑠璃黒揚羽 高橋笛美
山桜濡れ身の黒を観世音 上田五千石
山桜防火用水黒ずめる 行方克巳
山眠るごとくにありぬ黒茶碗 長谷川櫂 蓬莱
山脈の脈より生まれ黒揚羽 高野ムツオ「蟲の王」
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
岩つばめ高澄み示す黒十字 栗生純夫 科野路
岩窪に深き海ある黒菜かな 山口誓子
岩辿る黒蟻は一登攀者 河合凱夫 飛礫
岩鏡山雨に男濡れて黒し 村越化石「独眼」
岩黒しわが名呼ばれて死ぬ日まで 津沢マサ子 楕円の昼
岬の家南風にふくらむ黒幔幕 品川鈴子
岬黒み来し風前の帰雁かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
峠路は遥か黒穂の捨てゝあり 山口草堂
巌の鵜の闇より黒し初日待つ 清水貴久子
川波の光の針や末黒葦 岡本まち子
巴投げ決めて黒帯初稽古 那須淳男
巻きそめし眉間のつむじ黒仔牛 正木ゆう子 静かな水
師の逝くや麥のかなしび黒穂なせ 成瀬桜桃子
干草の山黒馬と動きだす 林翔 和紙
平貝の殻の大いさ愚なるがごとくにて黒し 中塚一碧樓
年つまる黒佗助の花一つ 松村蒼石 雁
幼児きて部屋を野となす黒ぶどう 寺田京子
延年舞黒凍みの堂鳴らしけり 高澤良一 ぱらりとせ
建国日黒装束の鴉かな 青柳志解樹
弥撒のヴェール透して熟るゝ黒葡萄 殿村菟絲子
影と来て影よりも濃く黒揚羽 高橋笛美
御像の鉄より黒し秋時雨 沢木欣一
御木本に一粒の黒春妖し 筑紫磐井 婆伽梵
御車に梅ちりかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
微笑のみ町の確かさ黒夕焼 鈴木六林男 谷間の旗
忍者寺裏へ廻りし黒揚羽 久保木信也
志賀直哉全集美髯黒衿巻 林 朋子
忘られしところもつとも末黒濃し 加倉井秋を
忘られし冬帽きのふもけふも黒し 橋本多佳子
思索重ねてとつくりの黒セーター 成井 侃
性を欠き黒蟻の脚ひたのぼる 古舘曹人 能登の蛙
恋う寒し鼻黒犬と生まれ来て 三谷昭 獣身
恋路しかすがに末黒の薄かな 岩城久治
恍惚のかたちのひとつ黒葡萄 鈴木太郎
悠々と暮れて青嶺のいま黒嶺 高澤良一 随笑
悪しき日のために黒穂をつみて挿す 田川飛旅子 『邯鄲』
悪霊がきてざわめきぬ黒葡萄 小澤克己
悪魔親しき夜のにぎはひ黒葡萄 和田耕三郎
愛ほろびしのちも受話器の黒懼る 樋口喜代子
我来ると黒を凝らして蝶ゐるも 河原枇杷男 訶梨陀夜
戒壇の末黒の芒萌えにけり 岩崎照子
或る高さ以下を自由に黒揚羽 永田耕衣 驢鳴集
或高さ以下を自由に黒揚羽 永田耕衣(1900-97)
戦盲に雪降りかかる黒眼鏡 榎本冬一郎 眼光
戸口暫し天日仰ぐ黒セーター 鍵和田[ゆう]子 未来図
房垂れに櫨の実黒し初時雨 五十嵐播水 播水句集
手のうちを見せぬつもりの黒手套 神林久子
打たんとす蜘蛛黒し蜘蛛身をひろげ 畑耕一 蜘蛛うごく
投げ足の黒靴下に下萌ゆる 上田五千石 田園
探鳥の谷沿ひとなる黒つぐみ 早川慶子
掬ひたる出目金の黒抽んでぬ 高澤良一 素抱
描かんとして黒ばらは黒ならず 水見寿男
換気口より末黒野の匂せり 辻美奈子
故国へかへる真つ黒の汽車にゆられかへる 酒井桐男
教壇を去りて外套今も黒 森田峠 避暑散歩
散はなによき人がらや黒小袖 松岡青蘿
散る柳女も黒と茶が似合ふ 滝春一
敵手と食ふ血の厚肉と黒葡萄 能村登四郎 枯野の沖
斑牛黒牛牧は朝曇 市川典子
斑雪野に黒牛といふ鬱を置く 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
斜陽こそまぶたに重し黒葡萄 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
新発意の黒の輪袈裟や野路の秋 河野静雲 閻魔
新茶青く古茶黒し我れ古茶飲まん 正岡子規
旅にゐて装黒づくめ近松忌 森澄雄
旅の靴黒穂を燃やす火を跨ぐ 橋本鶏二
旅五日黒牛ばかり見てすごす 中山純子 茜
旅人に山の末黒はまださめず 伊藤東吉
日が暈をいちにち脱がず黒椿 大石悦子 聞香
日に憤怒る黒豹くろき爪を研ぎ 富澤赤黄男
日の下にわが子をさがす黒揚げ羽 津沢マサ子
日の涯より風となる末黒葦 千代田葛彦 旅人木
日の渡るときは紅透く黒葡萄 廣瀬直人
日の雫あまさず結び黒葡萄 藤井照子
日曜の市民が溢れ黒干潟 田川飛旅子 『薄荷』
日永きや柳見て居る黒格子 加舎白雄
日矢走り来て黒耀の山葡萄 岡田貞峰
日輪は宙に小さし黒牡丹 能村登四郎「芒種」
日雇の列に黒蟻ついてゐる 丸山嵐人
日食や芋の葉に憑く黒揚羽 高橋淡路女 淡路女百句
昏れ落ちて秋水黒し父の鉤もしは奈落を釣るにあらずや 馬場あき子
星涼し昼は黒砂に雲母賞でぬ 香西照雄 素心
春の川清きに晒し黒八丈 内田衣江
春の海ビニールすでに黒ずみぬ 攝津幸彦
春光や薩摩黒酢の畠の壺 福谷美保子
春夏秋冬用の土用の黒ネクタイ 池田澄子 たましいの話
春夫忌や真竹黒皮脱ぎ散らし 伊藤静代
春愁や黒の混み合ふバーコード 内田美紗 魚眼石 以降
春愁や黒ばかり着る画学生 松本まり
春服疲れし訥々の弁黒瞳澄み 赤城さかえ
春着の子黒瞳いきいき畦を跳ぶ 清子
春筍に夢のたぐひの黒斑あり 藤田あけ烏 赤松
春雨によごれて黒し赤鳥居 春の雨 正岡子規
昨夜の雨末黒の芒濃くしたり 戸川稲村
昼食に煮付礼文の黒がしら 高澤良一 素抱
時の日の時を見廻る黒揚羽 百合山羽公
時忠忌黒米植うる配所の田 高村俊子
時雨るるや煙出しの黒誘ひ出し 櫛原希伊子
時雨るゝや隠岐の小島の松黒み 竹冷句鈔 角田竹冷
時鳥黒牛黒いグランドピアノ 藤野武
晩年や黒穂の黒に指染まり 加倉井秋を
晩春これ肉に含める黒真珠 鳴戸奈菜
晩涼の黒の勝ちたる斑(ぶち)の猫 高澤良一 燕音
晴れた日のルオーの黒と喉湿布 徳弘純 レギオン
暁の雨や末黒の薄はら 蕪村
暗黒の強き黒らは産卵せり 攝津幸彦
暗黒の黒まじるなり蜆汁 攝津幸彦
暮るるまで恋のまことを黒鶫 市村究一郎
暮早し機関車刻々黒さ増す 永田耕一郎 氷紋
曲いつか魔王に変り黒牡丹 熊谷愛子
月の出の蛙らさわぐわが黒弥撒 高柳重信
月は歩をはやむ末黒の芒かな 三田きえ子
月光の集まり船首文字黒し 阿部完市 無帽
月斗句碑鎮魂の蟻黒づくめ 塩川雄三
月落つる山の黒さを怖れ見し 青峰集 島田青峰
木の芽活けて壁に青年の黒帽子 古沢太穂 古沢太穂句集
木の霊を逐うて揚羽の黒軽ろし 河野南畦 湖の森
木曽馬の黒瞳みひらく二月かな 大峯あきら
木洩日や黒ばらは紅深きゆゑ 原 不沙
木蓮花鉄燈籠の黒さかな 木蓮 正岡子規
木賊刈る翁に飛べり黒蜻蛉 高浜虚子
末黒とはなりたる奈良の野の名残 千原叡子
末黒なる目鼻まるまる祖の貌 成田千空 地霊
末黒ふえをりどことなくいつとなく 石井とし夫
末黒より萩ぞくぞく死の如し 金箱戈止夫
末黒畦とべば撓めり浮島村 中戸川朝人 残心
末黒葦湖に晩年ありにけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
末黒葦身の天日を探すかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
末黒野となりては静かなるものよ 細見綾子 桃は八重
末黒野となりぬ一と日を籠るまに 松本田寿子
末黒野にすでに命のはじまれる 稲畑汀子
末黒野にのこる遍路のしるべ石 橋田憲明
末黒野にまさしく月ののぼりけり 松村蒼石 雁
末黒野にをりをり見ゆる鬼火かも 日夏耿之助
末黒野に二重廻しの裾ひきずる 細見綾子 黄 炎
末黒野に兎の糞の焦げてをり 蒸野弘平
末黒野に古墳のごとし水塚跡 金井玲子
末黒野に布目瓦を拾ひけり 阿部みどり女
末黒野に弔ふごとく人佇てり 四宮輝代
末黒野に春りんだうの真先に 杉千代志
末黒野に昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野に昼月の照る妖しさよ 久米正雄 返り花
末黒野に松笠焦げて匂ひけり 阿部みどり女
末黒野に残るムンクの赤い空 三嶋隆英
末黒野に突き刺してある火摶棒 深沢暁子
末黒野に窯観世音幣白し 下村ひろし 西陲集
末黒野に立つ父の耳朶少年めく 石川和子
末黒野に蝶さしかかる日暮かな 森田伊佐子
末黒野に透明の水湧きゐたり 辻田克巳
末黒野に雨の切尖限りなし 波多野爽波(1923-91)
末黒野に鳶離れぬ一日かな 市野沢弘子
末黒野に鴉の遊ぶ山田寺 吉原田鶴子
末黒野のいづこより風吹きはじむ 福田和子
末黒野のいのちいざなう裳裾かな 川田由美子
末黒野のかけらの如く鴉翔つ 渡辺清子
末黒野のかばかり大きく怖ろしき 阿部みどり女
末黒野のくろみ渡れる小雨かな 高橋淡路女 梶の葉
末黒野のせせらぎの音天へ抜け 井手功子
末黒野のつやつやとして新しき 石井とし夫
末黒野のはや青みたるひとところ 八木秋水
末黒野のはるかに赭く逝き給う 和知喜八
末黒野の一つの山は硫黄噴く 友成ゆりこ
末黒野の一本の川夜が来る 原田 喬
末黒野の中の無傷のつくづくし 村上喜代子
末黒野の匂ひに馴染み旅暮るる 山田弘子 螢川
末黒野の南の切尖限りなし 波多野爽波 『鋪道の花』
末黒野の夕焼飛べぬもののため 高野ムツオ
末黒野の大きな鳶でありにけり 斉藤夏風
末黒野の昼の三日月いつか失し 加倉井秋を 『風祝』
末黒野の昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野の果てに猟師と遊女墓 脇坂啓子
末黒野の海の際まで安房天津 鈴木真砂女
末黒野の焦げし巌の威風かな 菅原敏郎
末黒野の燻り立ちて夕ざるる 伊豆萩波
末黒野の空胎動のありにけり 中川須美子
末黒野の端に漢の無聊かな 野澤節子 『八朶集』
末黒野の緩急消して春の雪 行方克己 昆虫記
末黒野の色濃く棚田長四角 冨山洋子
末黒野の芒夜盗のごとくなり 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野の薄や富士の裾長し 堀古蝶
末黒野の起伏に兵の影走る 蛇嶋知誠
末黒野の限りふるさと離れ得ず 加藤燕雨
末黒野の雨にけぶらふ一団地 木村蕪城 寒泉
末黒野の雨はひとりのうしろより 松本高児
末黒野の雨も新しと古墳塚 河野南畦
末黒野の雨をかなしと見て過ぐる 高濱年尾 年尾句集
末黒野の雨を遥かに人わたる 波多野爽波 鋪道の花
末黒野の風びしびしと自負育つ 高野力一
末黒野の風呑んでおり大欅 熊坂てつを
末黒野の風清潔に吹き始む 嶋田麻紀
末黒野の鴉の舌は赤きかな 久米正雄(三汀)(1891-1952)
末黒野の黒のかなしみ言ひ足して 斎藤玄 雁道
末黒野へ踏み出て素足病波郷 肥田埜勝美
末黒野やきりりと細き月浮ぶ 清 きくえ
末黒野やヘッドホーンの中はジャズ 仙田洋子 雲は王冠
末黒野や倭建命はみづら髪 ふけとしこ 鎌の刃
末黒野や心とむれば径の枝 尾崎迷堂 孤輪
末黒野や戦禍を抜けし少年期 有坂馨園
末黒野や梁より出でし連判状 坂本みどり
末黒野や水のにほひの立返り 福島壺春
末黒野や汽車に飛び起つ時鳥 佐野青陽人 天の川
末黒野や淀急流となりて曲る 小沢満佐子
末黒野や現れ出でし標石 吉田ひろし
末黒野や間のび声なる牧の牛 田島飛燕
末黒野や鮒のにほひの川ながれ 篠田悌二郎
末黒野ゆく雲のすこぶる女性的 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野をぐいと曲りて川が合ふ 山田みづえ 手甲
末黒野をゆく防人の道をゆく 太田土男
末黒野を墨染めの僧来るはよし 森澄雄
末黒野を抜け旅一夜経しごとし 山口 速
末黒野を斜め斜めに誰かの父へ 安井浩司 赤内楽
末黒野を来て野良犬に嗅がれたり 加藤憲曠
末黒野を歩き始めし定年後 長谷川瑞恵
末黒野を行けば幼なの瞳澄む 谷中隆子
末黒野を見てきてよめり方丈記 龍岡晋
末黒野を踏み来てうまき夕日の水 佐々木有風
末黒野を踏めば水沁む日蔭村 蓮尾あきら
末黒野来て人形の面無表情 中村明子
村口に他所者見張る黒案山子 下村ひろし 西陲集
杖のごとき永良部鰻の黒焼よ 高木良多
来黒野に雲影牛の頭ほど 田中裕明 山信
東寺の塔黒し田水の沸きにけり 宇佐美魚目
松の木のすき影黒し青簾 青簾 正岡子規
松原や黒津の里の高燈籠 草間天葩
松明に梅散りかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
松杉の上野は黒し雪の中 雪 正岡子規
松虫のりんともいはず黒茶碗 服部嵐雪
松風や末黒野にある水溜り 沢木欣一 雪白
枇杷熟れて黒雲のゆく迅さかな 岸本尚毅 舜
枝々の黒美しき夕紅葉 川崎展宏 冬
枯れし明るさ黒手袋を深く嵌む 鷲谷七菜子 黄炎
枯れてゆく黒瞳のうごく疣むしり 鈴木貞雄
枯芝や庭の小椅子に黒鶫 三好達治 俳句拾遺
枯葎母の和服の黒澄めり 羽田貞雄
枯野ゆくまづしきものの服黒し 成瀬桜桃子 風色
枸杞の芽の傷みて黒し春の霜 高橋春灯
染めたての黒布はためく朝焚火 香西照雄 対話
柿の傷黒みちぢまり遺子の黒子 香西照雄 対話
柿の木の幹の黒さや韮の雨 原石鼎
柿の黒枝のうねり蒸す夜の水が照る 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
桜えび潮の匂ひの黒眼持つ 小出文子
桜の実赤し黒しとふふみたる 細見綾子 黄 瀬
桜吹雪前後見知らぬ黒の列 殿村莵絲子 牡 丹
梁のいよいよ黒し雪囲 片山由美子 天弓
梁をわたる寝所の黒揚羽 原裕 『王城句帖』
梅の花隣の蔵の黒さ哉 梅 正岡子規
梅雨明くる黒潮の黒引き締まり 竹本仁王山
梅雨晴間旅の鞄は黒が好き 松本旭
棟壊えて幹の黒ぐろ杏花村 伊藤敬子
森がうごくのだ黒牛の逃亡経路 中村加津彦
森茱莉逝く前にうしろに黒揚羽 文挟夫佐恵
森黒し月夜に光る屋根の露 露 正岡子規
棺を担げば棺の下ゆく黒揚羽 吉田さかえ「海程句集」
植ゑて去る田に黒雲がべつたりと 西東三鬼
楠の実の黒涙を踏む爆心地 三嶋隆英
榛の木の伐られし畷末黒なす 川島彷徨子 榛の木
槌を何にかする末黒草にほかし 梅林句屑 喜谷六花
横這の目の真つ黒や太閤忌 菱科光順
橋すぎて黒蟻はなほ戻れるか 平井照敏 天上大風
檸檬忌のれもんの木より黒揚羽 文挟夫佐恵 遠い橋
死が黒ならば腐敗は焦茶こげちやよりくろに到らむうつはぞわれは 高橋睦郎 飲食
死にかけた子が黒鬼の絵を画いた 八木三日女 赤い地図
死の使者といふ黒揚羽来て逝けり 新井遊子
死の国の黒葉櫻のはしばしに 堀葦男
死は晩夏も黒マント着て角を曲る 有働亨 汐路
残照の黒富士穿つ寒の空 久保村香花
母ならむ鶴引く頃の黒箪笥 栗林千津
毛皮して瞳の黒耀は凍てがたし 飯田蛇笏 雪峡
水仙や紫袱紗黒茶碗 水仙 正岡子規
水仙や羨しき尼の黒もんぺ 殿村莵絲子 雨 月
水捨てて鶏驚かす末黒季 鈴木鷹夫 渚通り
水煙に昇りもあへず黒揚羽 藤田湘子 てんてん
水鳥の月出て黒し眠らんか 金子兜太
氷上に黒礫載せ母の国 加倉井秋を 『隠愛』
汗光る黒牛押せども押せども啼かず 川口重美
汽罐車の黒さ秋風暮るる中 古沢太穂 古沢太穂句集
沈黙の海の深さの黒葡萄 藤岡筑邨
河上徹太郎尋めむ黒畦枯山越ゆ 石川桂郎 含羞
河光り末黒野の道うながしゆく 成田千空 地霊
河黒し暑き群集に友を見ず 西東三鬼
泉まで遡る蝌蚪黒緊り 中戸川朝人 残心
波風を立てて帰りし黒セーター 諸田登美子
洗い場守る蜷黒びかりまた山雨 中島斌雄
洗つても洗つても黒烏貝 桑野昌宜
流行の黒づくめなる案山子かな 松木幸子
浜風に色の黒さよたん生仏 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
浮世哉菊に晴レ着の黒小袖 菊 正岡子規
海士村の末黒や牛の食みゐたり 加藤楸邨
海女乙女黒眼大きくひとを見る 柴田白葉女 花寂び 以後
海松の黒混り魚類に朝日さす 相良六浦
海老の眼のあまりに黒し年忘れ 横山白虹
海老赤く穂俵黒し鏡餅 鏡餅 正岡子規
海苔黒し観音堂に登り来て 右城暮石
海茜みる手袋は黒が佳し 柴田白葉女 雨 月
海青く樹間を出でず黒揚羽 野澤節子 遠い橋
海黒し子の手袋に掴まれて 田原千暉
涸滝を遡りゆく黒揚羽 平林孝子
涼し黒し一船は皆丸裸 涼し 正岡子規
涼風を着こなす黒もまた派手に 岡地蝶児(アンソロジー俳壇)
淋し淋し夏黒足袋を穿き違へ 加倉井秋を
淵は冬みどりのはての黒を帯ぶ 篠原梵
混血児と保姆と麦より黒穂抜く 島津亮
港公園の休日 黒正装の手品師跳ね 伊丹公子 山珊瑚
湖の月通りかくるる黒檜山 中村草田男
湖風を真正面の黒手套 山田弘子 懐
湾に浮く朝の黒富士敗戦忌 益田 清
漁火をはなれ黒雁浮寝かな 佐藤宣子
漆工の爪先黒し初仕事 漆谷豊信
潮照りのさかり過ぎたり黒揚羽 友岡子郷 春隣
濡れしるき若布刈女わかめより黒し 町田しげき
瀬戸黒のまへを大蟻走りけり 百合山羽公 寒雁
灌仏や雨は黒身の蝌蚪に降り 村越化石 山國抄
火の合ひて末黒つながりゆきにけり 稲畑汀子 汀子第二句集
火消壺昼のくらがり馴れて黒し 殿村莵絲子 遠い橋
火祭の火守りの役の黒紋服 高村圭左右
灯の涼し手にずつしりと黒薩摩 片山由美子 風待月
灯をやどす黒葡萄掌にショパン聴く 川口重美
灯心蜻蜒黒もし召すは龍田姫 尾崎紅葉
炎天を真つ黒な傘さしてをり 久米正雄 返り花
炎昼の黒牛舌を見せず食む 桜井博道 海上
炎昼や黒眼もたざる石膏像 川口重美
炭火途中にて真つ黒に消えゐたる 右城暮石 声と声
烏の子もとより黒し泣きにけり 成瀬櫻桃子
烏瓜黒しと言へば黒くあり 攝津幸彦 鹿々集
焼帛(やきしめ)の融けたるものの黒しづく 茨木和生 往馬
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
焼酎の濃度をとこの黒単衣 柴田白葉女 『冬泉』
煉炭の十二黒洞つらぬけり 西東三鬼
煤掃や玻璃に黒影の蜜柑山 中拓夫 愛鷹
煤煙に黒ずみあはれ枯芒 高浜虚子
煤黒の仏の立てる余寒かな 茨木和生 往馬
熔岩とまがふ黒牛夏野原 小松 幸
熟睡なすまれびととあり黒揚羽 久保純夫「比翼連理」
熱風や黒をアラブの色として 日美清史
燈の向けるギリシャ黒壺梅雨に入る 中戸川朝人
燈台の膝の高さに黒揚羽 和久田隆子
燻炭の黒の極みに一飛鳥 成田千空 地霊
父と子に十五夜の森黒ふかく 大井雅人 龍岡村
父の帯どろりと黒し雁のころ 大石悦子
父悼む黒着て九月始まりぬ 伊藤淳子
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子 花寂び 以後
片枝は磨鉢黒し梅の花 梅 正岡子規
牛帰る梅雨の黒幹いくつも見て 桂信子 黄 瀬
牡丹崩れて黒血のごとし土真昼 五十嵐播水 播水句集
牡丹焚いてシルクハットの黒を焼く 仁平勝 花盗人
犇めいてゐる白魚の黒瞳かな 矢野呂山
猪山に踏み入りたりし黒長靴 藤田あけ烏 赤松
猿楽の里深谿へ黒揚羽 松井利彦
獏眺む黒外套の大男 古澤千秋
珠洲焼の引き緊りたる黒涼し 沢木欣一 往還以後
琉球の夏の日よけの黒眼鏡 高濱年尾 年尾句集
琥珀よりよみがへりたる黒揚羽 菅原鬨也
瑠璃沼の暁け谺して黒鶫 伊藤いと子
甕の濡れ一条黒し万緑下 静塔
甕竝めて白酒(しろき)や黒酒(くろき)濃き淡き杓に汲み分け賣るぞわがわざ 高橋睦郎 飲食
生家黒し茶の花はまた雨の花 塩野谷仁
生涯のここに佇ちをり黒牡丹 野澤節子 『駿河蘭』
田を植うる黒比売の里飾るかに 宮津昭彦
甲冑は眠つてゐたか黒揚羽 斎藤梅子
病癒え来て黒南風の黒に堪ふ 三好潤子
登る者に天轟々と黒霧しまく 加藤知世子 花寂び
白と黒もみにもみあふ野分霊 阿波野青畝
白も黒も悲しみに著る夏衣 宮田節子
白地着る髪の黒さを大切に 朝倉和江
白川も黒谷もみなもみぢかな 嵐山 五車反古
白梅や香取奥宮黒づくめ 内海良太
白毫か黒豹の眼か春の闇 福田甲子雄
白河も黒谷も皆もみぢかな 嵐山
白襖の黒枠不吉隙間風 香西照雄 素心
白閃々黒閃々の初燕 北島大果
白鳥に黒のこりゐるをさなさよ 辻美奈子
白鳥の白黒鳥の黒と会ふ 蔦三郎
白鳥の黒曜の瞳に雪ふれり 鈴木貞雄
白鳥は悲しからんに黒鳥も 高屋窓秋
百合祭黒酒白酒の缶(そんほどき) 磯野充伯(河鹿)
百日の闇を禊の黒葡萄 小檜山繁子
百粒の黒蟻をたたく雨を見ぬ暴力がまだうつくしかりし日 浜田到
皺のなき黒カーボン紙事務始 河原芦月
盆の月森の黒さに墓抱かれ 大熊輝一 土の香
目の黒ひ人と生れて手鞠かな 手毬 正岡子規
相逢ひて過去はまぼろし黒シヨール 柴田白葉女
真つ黒な帽子の上の春の月 鈴木鷹夫 千年
真つ黒な牛の顔ある通草かな 岸本尚毅 鶏頭
真つ黒な鳥が物言う文化の日 出口善子
真宗の国や麦生の一黒穂 向田貴子(俳句研究)
真昼間の影と狎れ合ふ黒揚羽 木村晶子
真清水の極みは黒し鮴のうを 高橋睦郎「金沢百句」
眼をそむけてはならぬ古傷末黒の芽 稲垣きくの 牡 丹
着てみたし賢治先生(せんせ)の黒マント 辻桃子
着やせする黒といふ色単物 山下寿美子
瞬間が雨の黒揚羽であつた 永田耕衣 自人
石摺のその跡黒し山桜 山桜 正岡子規
石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
石灼けて生絹のやうな黒揚羽 長谷川櫂 天球
石磨くインディアン 聖なる黒に執し 伊丹公子 アーギライト
研ぎあげて包丁黒し秋の空 長谷川櫂 古志
硝子戸に肩衝たりたる黒揚羽 長谷川櫂 古志
碧梧桐忌碾臼うつす黒御影石 砂井斗志男
秋さぶや脇侍欠いたる黒仏 上田五千石
秋の海双眼鏡に帆が黒し 宇佐美魚目
秋の田をくる黒傘のキリストは 飛旅子
秋冷の黒牛に幹直立す 飯田龍太 童眸
秋刀魚黒焦げ工場の飯大盛りに 山崎ひさを
秋夕焼不二の黒さを残しけり 三木十柿
秋川を黒犬游ぐ薄日かな 内田百間
秋日差ことに黒胴置ける廊 川崎展宏
秋暑し仮装悪魔の黒尻ッ尾 文挟夫佐恵 黄 瀬
秋潮の沖の黒さや塩屋閉づ 沢木欣一
秋茄子の暮色にまかす黒びかり 藤岡筑邨
秋草を背負ひ黒牛引いて行く 高木晴子 晴居
秋蔭のほとんど黒に近い紺 藤本草四郎
秋雨の 黒牛は 仏陀のごとく濡れよ 富澤赤黄男
秋風や生きのこりたる黒金魚 川口重美
移動せり梅雨の黒雲バッファロー 高澤良一 ぱらりとせ
稜線はだんだんに黒稲架を解く 松塚大地
種子を採る黒に信頼感を置き 後藤比奈夫
稲は穂に嶽真つ黒に星を生み 雨宮抱星
窓外に黒ずむ山や扇置く 角川源義 『口ダンの首』
立枯の木々おぼろなり黒斑山 堀口星眠 営巣期
立葵よぎる尾長の黒帽子 堀口星眠 営巣期
竹の子の黒装束は折られたり 阿波野青畝
竹の葉や近くは黒し冬日向 滝井孝作 浮寝鳥
筧ありつゝじは赤く米黒し つつじ 正岡子規
箱釣の黒出目金を狙ひけり 榎本文代(万象)
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 高澤良一 随笑
篁の秋の空より黒揚羽 小川軽舟
篁を出て硬質の黒揚羽 西嶋あさ子
粟を刈る黒穂よごれの蜑の顔 塩谷はつ枝
紅葉やく烟は黒し土鑵子 紅葉 正岡子規
紛れゐるつもりか末黒野の鴉 大橋敦子
素袷や黒三郎が妾 子規句集 虚子・碧梧桐選
紫蘇の葉の黒びかりなる柏崎 小島千架子
紫陽花や黒の絽羽織しつとりと 渡邊水巴 富士
紫雲英田に入りて黒牛喰み始む 沢木欣一
細註の朱も黒ずみし書をさらす 斎藤香村
組上や下座の黒御簾やぶ畳 龍岡晋
給油所の流し水吸ふ黒揚羽 村川節子
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
縁側は家内か外か黒揚羽 宇多喜代子
縹照る一筋の川末黒野に 加藤耕子
罌粟に黒斑スタンダールに赤と黒 福田蓼汀 秋風挽歌
羅臼沖背黒鴎に海霧去来 高澤良一 燕音
羊蹄の酢甕といふも黒薩摩 加古宗也
群がつて蟻が密議す黒密議 塩川雄三
義士祭来る尼寺の黒びかり 殿村菟絲子
羽根ひろぐ岩礁の鵜の黒十字 秋元不死男
羽繕ふ間も黒蝶の華麗な生 上田五千石 田園
翁二人がすれちがうとき黒牡丹 安井浩司 阿父学
老いたくはなし黒薔薇を黒と見ず 加倉井秋を 『欸乃』
老鶯や黒パン温く動かぬ木椅子 新間絢子
考への行止りより黒揚羽 藤田湘子 てんてん
耕馬の胴黒奴一撥の報ここに 成田千空 地霊
聖夜なり前髪切りて黒散らす 鳥居真里子
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に 鈴木真砂女 夕螢
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉 瀧春一
背の厚き新斧老の黒ジャケツ 香西照雄 素心
背黒鶺鴒新樹を過る時しろし 小松崎爽青
背黒鶺鴒波に驚きとと走り 高澤良一 ぱらりとせ
胸の前黒蝶まぼろしのごとく過ぐ 柴田白葉女 『月の笛』
腰を確かの寒肥撒きは黒づくめ 村沢夏風
舗装路に黒穂東京都に入れり 中島まさを
舞ひ込んだ福大黒と梅の花 一茶
色惜しみつつ夜明けつつ黒葡萄 廣瀬直人
色街めぐるその川底の黒葡萄 八木三日女 落葉期
芋の葉に火山灰の黒露紬織る 大岳水一路
花の下黒煌々と牛闘ふ 吉野義子「荒鋤」
花咲いて坊主の顔の黒さ哉 花 正岡子規
花咲て王子の森の黒さ哉 花 正岡子規
花散るや黒母衣武者の眠る丘 寺島初巳
花曇り南に黒しかはら竈 言水
花枕して黒揚羽横たはる 上野泰 佐介
花柘榴また黒揚羽放ち居し 中村汀女
花桐に烏がとまりあな黒し 林原耒井 蜩
花石蕗や黒つややかに焼仏 吉野義子
芳草や遺影百日髯黒し 百合山羽公 寒雁
芽寒竹黒芽ばかりの早熟児 中村草田男
若き頃都会派なりし黒ビール 青木新造(鑛)
茨の実きつぱり浮けり黒聖母 小池文子 巴里蕭条
茶の花や黒を着込みて喪へ廻る 宇野由希子
草刈女黒本の門に午休 高野素十
草千里末黒に朝の雨そそぐ 竹下流彩
荒行太鼓ひびく椎茸榾黒し 加賀美子麓
荒鋤きの黒賞で雷の鳴り出せり 村越化石 山國抄
落日運ぶ少年の船黒ぶどう 伊藤 和
落花待つ御製を彫りし黒みかげ 筑紫磐井 婆伽梵
落葉参道黒紋付のうなじ艶 鍵和田[ゆう]子 未来図
葛飾の土は黒しも麦芽ぐむ 五十嵐播水
葛飾の鯉の黒さや寒の雨 野村喜舟 小石川
葬列に黒揚羽来て十字切る 岩田洋子
蒟蒻の白と黒とが秋水に 辻桃子 花
蓑虫となるまで巻きぬ黒シヨール 高瀬恵子
蔵涼し千両箱の黒びかり 山田紀子
蕊金ンに風に弁解く黒牡丹 高井北杜
蕗原や黒瞳大きな女学生 永島靖子
薔薇嗅ぎて去る黒髭の郵便夫 辻田克巳
薪能五重の塔の黒装束 津田清子
藷殻の黒塚群れてわれを待つ 西東三鬼
蘇鉄の実の朱色を慾りて黒揚羽 細見綾子 黄 瀬
虹の輪をくぐる黒薔薇かざしつつ 三谷昭 獣身
虻の子黒天鵞縅を纏うたり 富安風生
虻の王黒天鵞絨を纏うたり 富安風生
蚕豆の花の黒瞳を子の貰ふ 文挟夫佐恵 雨 月
蛇の眼へ墜ちゆく壺の水黒し 河野多希女 こころの鷹
蛍光灯に黒の生まれて燕来る 大石雄鬼
蛍火や黒津の梢児が嶋 向井去来
蜆つぶさに子ら北ぐにの黒眸もつ 成田千空 地霊
蜜なめて黒瞳かがやく春の暮 桂信子 花寂び 以後
蜩や庇に余る黒檜山 羽部洞然
蝌蚪の水黒し汚職の雲映り 岩田昌寿 地の塩
蝌蚪黒し汽笛が山にへだてられ 右城暮石 声と声
蝙蝠の黒繻子の身を折りたたむ 正木ゆう子「悠」
蝙蝠は飛んで五重の塔黒し 蝙蝠 正岡子規
蝶黒黒舞ひ込む木蔭けうとしや 太田鴻村 穂国
蟇這い出す赤と黒との不眠地図 八木三日女 赤い地図
蟇鳴いて黒雲かくす燧岳 福田蓼汀 秋風挽歌
蟷螂の黒炭のごとなりても生く 宮坂静生 青胡桃
蟹を食ふ濡れし荒磯に黒が満つ 中拓夫 愛鷹
蟻が蟻と闘ふ黒さ憎み合ひ 右城暮石 上下
蟻の列蜒蜒として黒さ統ぶ 右城暮石 声と声
行きずりに黒外套の裏のいろ 南 典二
街の日は霜にさやけく黒手套 飯田蛇笏 雪峡
装束は黒にきはむる鷹野哉 浪化
西空焼け人影冬木ともに黒し 三谷昭 獣身
見たることあらず干しゐる黒毛布 茨木和生 三輪崎
親戚の家の中から黒揚羽 佐々木六戈 百韻反故 初學
観桜や黒塀つづく角館 継田ひでこ
角矯めてなお黒牛や露しぐれ 橋石 和栲
訥々と篠の子を売る黒瞳 殿村莵絲子 雨 月
誰がための権力政治黒南風す 相馬遷子 雪嶺
誰も眠りて黒馬一頭を知らぬ秋 金子皆子
誰れも来ぬ日や黒葡萄したたらす 小西久子
貨車黒しひまはりの影とどきても 木下夕爾
賤が屋に蚕は白く牛黒し 蚕 正岡子規
赤い柿抱へて吸へる黒揚羽 上野泰 佐介
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼(1900-62)
赤城黒檜背に坂東の冬霞 石塚友二 方寸虚実
赤子の頬ねんねこ黒襟母へつづき 中村草田男
赤微塵はた黒微塵金魚苗 小路智壽子(ひいらぎ)
赤松に黒揚羽くる不思議かな 金子兜太「東国抄」
赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き 上村占魚 鮎
走り海雨鷺の粗巣の黒ずみて 大熊輝一 土の香
起きていた鏡ぼく真つ黒に存在して 堀葦男
越中海鵜黒し黒くて寄るとさわると 阿部完市 軽のやまめ
身に入むや女黒服黒鞄 田中裕明 櫻姫譚
身の二月黒なほにほふきもの着て 下村槐太 光背
車椅子一歩先ゆく黒揚羽 中村昭南
軒の氷柱に息吹つかけて黒馬よ黒馬よ 臼田亜浪 旅人
軽井沢麦の黒穂にきつね雨 小林貴子
追羽子や君稚児髷の黒眼がち 夏目漱石 明治三十二年
逃げし風船赤から黒にもう逢へぬ 中村明子
逃水に黒豹の見え隠れせり 石倉夏生
通夜の雪指に影置く黒真珠 吉野義子
連絡船降りし一人の黒シヨール 西村和子 かりそめならず
遅き日の畦に刺したる黒洋傘 柿本多映
道塞ぎ来る赤ブーツ黒ブーツ 岸風三樓
遠く来て夢二生家の黒揚羽 坪内稔典
遠景に近景黒し蔦の家 森田智子
遠足の子に黒豹のこゑ立てず 吉田汀史
那智黒のかがやき坐り鮨の石 桂樟蹊子
那智黒の小石拾ひぬ浜涼み 楠目橙黄子 橙圃
那智黒をいよいよ黒く男梅雨 中戸川朝人 星辰
那須五峰冬日に黒さつらねけり 渡邊水巴 富士
郭公昼休みせよ黒津舟 水田正秀
里宮に黒駒太子黍の秋 西本一都 景色
重ね着の黒をかさねて修道女 谷本恵美子
野ざらしの黒酢の甕を初景色 藤田あけ烏
野に寝たる牛の黒さをけふの月 服部嵐雪
野の力見せて末黒の芒かな 谷口和子
野の春黒塀にへだてかたくなに住みゐる 人間を彫る 大橋裸木
金管楽器に黒を散らせし揚羽かな 松本文子
金粉をみなぎらせたり黒牡丹 下村梅子
金色の雄蕊とろりと黒牡丹 矢島渚男 延年
金髪に染め帰途は黒恋い雪積む樹々 寺田京子 日の鷹
鉛筆が倒れる方位黒揚羽 対馬康子 吾亦紅
鍋鶴の黒しや足の爪までも 木田千女
鎧太刀見に黒南風の海わたる 高木良多
鏡にふれて衣紋つくろへり黒ソフト 飯田蛇笏 山廬集
開帳の仏真つ黒みそさざい 菅原鬨也
闇をよこぎる鼻黒鼬彼の詐欺漢 加藤知世子 花寂び
闇黒の水つながりて氷りおり 西谷剛周
闇黒より胡頽子一枝を持ち来たり 石田波郷
闘牛の横綱といふ黒光 稲畑廣太郎
闘牛の黒縅ゆく豊の秋 綾部仁喜
阿武隈の山に雪降る黒空穂 八牧美喜子
阿蘇島の黒穂焼く火と判るまで 荒川あつし
降り出して末黒の雨のやみがたく 波多野爽波 鋪道の花
降る雪やもの言ひて眼の黒さ増す 今瀬剛一
隙間風剃らるる鬚に黒ぞなく 石川桂郎 高蘆
雀子の髪も黒むやあきのかぜ 式之 芭蕉庵小文庫
雀翔ち末黒を空へ撒きにけり 宮津昭彦
雁来るや黒縮緬の染上り 野村喜舟 小石川
集団に蝌蚪の黒さやしづむ街 大屋達治 絢鸞
雛の眼は黒し飛行機とゞろける 渡邊水巴 富士
雨しみて幹の黒さや冬ごもり 阿部みどり女 笹鳴
雨となる末黒芒に火の匂ひ 加藤三七子
雨のひま霊のごとくに黒揚羽 河野南畦 湖の森
雨はげし花冷えはげし黒箪笥 柴田白葉女 『月の笛』
雨ふりていよ~黒し冬木立 高橋すゝむ
雨上り末黒の芒背を伸す 時広智里
雨乞や多度の社の黒御幣 香原政春
雨傘の赤青黒黄核の時代 鈴木六林男 王国
雨合羽峡の田植はただ黒し 林翔 和紙
雨晴れて末黒芒に瑠璃もどる 立野丘秋
雨残る櫟の幹に黒揚羽 小島千架子
雨蕭々建蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雨蕭々蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雪くれて昭和彷う黒マント 浅井愼平
雪ぐれや接骨院の黒瓦 中戸川朝人 尋声
雪しづか碁盤に黒の勝ちてあり 澁谷 道
雪しづる鬼射し弓の黒漆 林翔 和紙
雪の田に黒一点の羽摶くも 今泉貞鳳
雪の遠近けむり 僧侶の黒 進む 伊丹公子 時間紀行
雪や降るたちまち黒が一切事 松山足羽
雪を被し樹々黒ぐろと村眠る 宮崎敏明
雪渓へ馬柵黒黒と新冠 毛塚静枝
雪空に黒鳥ひとつ渡りけり 中勘助
雪解山裾の黒杉手をつなぐ 殿村莵絲子 花寂び 以後
雪起し帰山の僧の黒ごろも 石原八束
雲のなかに黒雲育ち桐花咲く 大井雅人 龍岡村
雲は雨こぼさず末黒野の鴉 鷹羽狩行
雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀 西東三鬼
雷の夜の黒やわらかくミシンの首 大井雅人 龍岡村
雷火にも逆立つ馬の黒たてがみ 桂信子 黄 瀬
霊招ばひしをり寒九の黒づくめ 後藤綾子
霍乱の髪の黒さの言はれけり 榊原薗人
霞む日へ領巾振るもこの黒シヨール 殿村菟絲子 『樹下』
霧けさに翔ちて黒負ふ阿蘇鴉 加倉井秋を 『真名井』
霰うつ糶値の立たぬ黒なまこ 中戸川朝人 残心
露まみれ毛虫の黒黄伸びちゞみ 川崎展宏
露涼し騎馬の少女の黒づくめ 堤 高嶺
青岸渡寺一羽よぎりて黒揚羽 古賀まり子 緑の野以後
青柿や丹波黒牛その仔牛 右城暮石 声と声
青空の果ては黒ずみ夏木立 吉田成子(草苑)
静脈の黒さ汗の手吊革に 石塚友二 方寸虚実
面取の家具黒びかりさくら散る 中戸川朝人 星辰
靴黒しなほ雪中を進みをり 徳永山冬子
鞄提げ洋傘かずくシャツも黒 三谷昭 獣身
鞘堂に吹かれて来たる黒揚羽 山本洋子
須臾にして逆光のジャンク黒揚羽 川崎展宏
頬杖にペンを遊ばす黒セーター 金井 栞
頬黒のすゝけてをりぬ寒雀 閻魔 河野静雲
風の盆男踊りの黒づくめ 菖蒲あや
風浪や貝独楽に賭けたる子の黒眼 柴田白葉女
風花の舞ひ連れて来し黒瞳がち 栗林千津
風邪はやる黒装束の男ゐて 藤岡筑邨
颱風は去りぬつくづく牛黒し 榎本冬一郎 眼光
首塚の末黒の芒鋭かりけり 西本一都 景色
駅路や麦の黒穂の踏まれたる 芝不器男「芝不器男句集」
骨屑のごとき冬日や黒怒濤 齋藤玄 『狩眼』
高潮に黒舟祭ユツカ咲く 石原舟月
髪も黒綸子もほむら親鸞忌 赤松[けい]子 白毫
髪切虫の黒紋付の男ぶり 富安風生
髪濡れてゐれば黒牛怖ろしや 八木三日女 紅 茸
髪黒と嬰児まどろむひつじ草 文挟夫佐恵 遠い橋
髭黒の上手又出よくらべ馬 高井几董
髭黒の大将に花ふゞくかな 久保田万太郎 流寓抄
魂ぬけて喪いろただよふ黒揚羽 柴田白葉女
魂ぬけの身を吹かるるよ末黒野に 稲垣きくの 牡 丹
魂の一つ一つの黒葡萄 和知喜八 同齢
魂魄も袂あるべし黒揚羽 河原枇杷男 蝶座
魔女が杖ふり黒チューリップひらく 成瀬櫻桃子 素心
魔女めくは島に生まれし黒揚羽 大竹朝子(若葉)
鮠川の黒生のすゝきふみもする 銀漢 吉岡禅寺洞
鯉老いて黒剥落す山ざくら 森澄雄 空艪
鯛焼のはらわた黒し夜の河 吉田汀史
鰤敷にまとひ居る藻もか黒なる 鈴鹿野風呂 浜木綿
鳥曇黒身鴉のうしろ向く 村越化石 山國抄
鳥棲まず風が果ゆく黒炎天 河野南畦 湖の森
鳩の爪黒ずみ祭囃子かな 大石雄鬼
鳩胸は母似セーターは黒で決め 水野禮子
鳴き出して春蝉の黒見えねども 川崎展宏
鴉と農夫の間隔 ともに黒際立て 伊丹公子
鴉の子もとより黒し声太し 右城暮石 声と声
鴉の子至極の黒を展べにけり 大石悦子 百花
鴛鴦もゐて黒谷の景ふかむ 呉藤幸子
鵙の瞳の黒眼がちなり実朝忌 大木あまり 火のいろに
鵜の庭に滴りて干す黒合羽 辻 恵美子
鶏頭のくれなゐ黒をきはめたる 沢木欣一
鶏頭の黒づみ雑事身を縛す 根津恵美子
鶯の糞の黒さよ笹の雪 鶯 正岡子規
鶯の糞の黒さよ篠の雪 鶯 正岡子規
鶯の糞の黒さよ豆腐汁 鶯 正岡子規
鶯の黒焼もかな上根岸 鶯 正岡子規
鶴の尾羽短黒矍鑠と夏袴 香西照雄 素心
鹹き一日なりし黒葡萄 友岡子郷 春隣
麥蒔や色の黒キは娘なり 麦蒔 正岡子規
麦に黒穂ひと日のストに鉄路錆び 福田蓼汀 秋風挽歌
麦に黒穂多く償ひ得ざることせし 油布五線
麦秋の夜は黒焦げ黒焦げあるな 金子兜太 詩經國風
麦笛を捨て工場の塀黒し 萩原麦草 麦嵐
麦黒穂阿呆と罵りし父は亡し 榎本冬一郎 眼光
黄も黒も強烈な色大毛虫 佐柳芦郎
黄落や墓群の貧富黒づくめ 吉田未灰
黒ぐろと太き幹なり雨水なり 中村契子
黒し白し雪渓交ふ地の牙は 林翔 和紙
黒すぐりのぱん食べすぎて夏かな 阿部完市 軽のやまめ
黒ずくめにて 寒紅を濃くすると 向山文子
黒ずみし常滑磐や花うぐひ 山口峰玉
黒ずみて落椿とはもう言はず 宮津昭彦
黒ずみて野性のまなこ冬の鹿 山下美典
黒ずめる連翹の芽に雨つめた 高澤良一 ももすずめ
黒ずんだ楽屋茶碗や寒の入り 今泉貞鳳
黒ずんでゆく桑の実を桑知るや 菅原鬨也
黒つぐみあけぼのの富士雲払ふ 篠田悌二郎(野火)
黒つぐみきゝとめ蕨捨てゝ立つ 水原秋櫻子「旅愁」
黒つぐみつぎつぎ浴びて木の実落つ 及川貞 夕焼
黒つぐみはるかなり山萌えにけり 堀口星眠 営巣期
黒つぐみ昔のろしを上げし山 青柳志解樹
黒つぐみ朱走る朝の白馬岳 野垣 慶
黒づくめおたまじやくしに水浅し 石川桂郎 高蘆
黒づくめにて暗からず種案山子 大熊輝一 土の香
黒といふ春光にあり孔子廟 大木さつき
黒といふ派手な色あり黒揚羽 木村淳一郎
黒といふ色の明るき雪間土 高嶋遊々子
黒といふ色の重さの種を採る 片山由美子 風待月
黒とんぼ稲の葉末にとまりけり 増田龍雨 龍雨句集
黒とんぼ野川は渦も孤りなる 中島斌男
黒と黄の班百足虫にたたら踏む 久岡千代子(砂山)
黒どりの海鵜があそぶ若布刈り 佐野まもる 海郷
黒はえや校倉ふたつ間の松 下村槐太 光背
黒はまた慶びの色桜炭 佐々木紅春
黒は待つ色で ナザレの女に朝 伊丹公子 山珊瑚
黒ばえに山かつの井をのぞきけり 銀漢 吉岡禅寺洞
黒ばらに近き紅ばらかと思ふ 落合水尾
黒ひとすぢ混じる菫を束ねけり 中田剛 珠樹
黒ぶだう閻魔の舌となりにけり 高澤良一 寒暑
黒ぶちのめがね大きく白梅忌 半田あき子
黒ぶどう日暮れてからの川奔る 石川元彦
黒ぶどう留守番電話の声もどす 川崎ふゆき
黒ぼこの松のそだちや若緑 土芳 芭蕉庵小文庫
黒みけり沖の時雨の行どころ 内藤丈草
黒みつつ充実しつつ向日葵立つ 西東三鬼「変身」
黒めばるいとほしく見る齢かな 菅原鬨也
黒もまた涼しき色よ夏帽子 野坂 安意
黒もんぺ干しあり春の雨降れり 中山純子 沙 羅以後
黒ゆりの花の重さをゆらしけり 根岸善行
黒をきて鵜匠鵜のごと坐るなり 見原一朶
黒をもて派手と言ひなす三鬼の忌 中原道夫
黒を着て勝負師めける十二月 藤川喜子
黒を着て涼しき心お盆なり 井上 雪
黒を着て秋の女と言はれけり 岩崎照子
黒を着て身の充実や春の山 石嶌岳
黒を着て黒の落着安吾の忌 須佐薫子
黒ん坊の笛吹き合ひし昔かな 谷口つね
黒ん穂に叩かれし顔よく眠り 豊島蕗水
黒キマデニ紫深キ葡萄カナ 葡萄 正岡子規
黒シャツをまとひて合歓の花かげに誰待つとなく一日暮らす 杉原一司
黒シヨール吹かれ沖にはある光 鷲谷七菜子
黒ストール豊かにはおり未婚なる 橋本榮治 逆旅
黒セーター詩人のやうに生きたくて 山根繁義
黒ネクタイ汗の首より引き抜けり 藤陵紫泡(雪解)
黒ビール白夜の光すかし飲む 有馬朗人 耳順
黒ビール飲み冬の夜の食堂車 長谷川青窓
黒ペンキ塗り了へ宵闇栄もなく 香西照雄 素心
黒マントからクルクル牙が花びらが 八木三日女 赤い地図
黒マントで来て白鳥を脅す 鈴木栄子
黒マント浮ぶ町の端出雲崎 下田稔
黒マント脱ぐや世界を脱ぐやうに 櫂未知子 蒙古斑以後
黒マント角ばりしもの中に負ふ 山口誓子
黒メガネ氏来たつて問ふは♂か♀か 筑紫磐井 花鳥諷詠
黒レースのような海苔透く 基地の湾 伊丹公子 メキシコ貝
黒主のよみ人にまはるかるたかな 龍岡晋
黒仏いづこか春の光あり 山口青邨
黒仏までの足音除夜詣 斎藤夏風
黒傘ににじむこの雨伊香しぐれ 下田稔
黒傘の尖が群れ飛ぶ手槍混じえ 堀葦男
黒傘を日傘に唯一神を説く 工藤克巳
黒傘突き人外境を行く如し 齋藤愼爾
黒光る馬にもっとも風薫る 源鬼彦
黒凍(くろじ)みの道夜に入りて雪嶺顕(ゆきねた)つ 石原八束(1919-98)
黒凍みの南天棒の南天棒 高澤良一 随笑
黒凍みの道は師の道われも行く 吉田未灰
黒出しも了へしと今宵月まつる 瀧春一 菜園
黒北風にわけておどろや鰯の値 辻田克巳
黒北風や船霊に水あたらしく 大石悦子
黒十字背に長城のてんと虫 加藤耕子
黒南風にのりてぞひとの還りける 加藤楸邨
黒南風に吹かるる人体解剖図 河合由二
黒南風に嫌人癖の亢ずる日 相馬遷子「山国」
黒南風に幟はためく野間大坊 多和田きみ
黒南風に白南風ありて稿進む 池内友次郎
黒南風に草打つてゆく板ながし 横山白虹
黒南風に跼み通しの沙蚕掘り 下村ひろし 西陲集
黒南風のいづこを蹴りて狂ひたる 平松弥栄子
黒南風のねむき瞼とさくらんぼ 石寒太 炎環
黒南風のまゆみが砦死後の園 殿村莵絲子 牡 丹
黒南風のやがて白南風長命寺 大峯あきら 鳥道
黒南風のやんだる没日ころがりぬ 八木林之介 青霞集
黒南風の一湾を航きかくれなし 行方克己 昆虫記
黒南風の切傷に沁む運河べり 秋元不死男
黒南風の叢打つて人来る 棚橋影草
黒南風の埠頭淋しき倉庫群 酒井みゆき
黒南風の山じわじわと家に入る 六角文夫
黒南風の岬に立ちて呼ぶ名なし 西東三鬼
黒南風の島に蒙古の碇石 松本 学
黒南風の日比谷にをりぬ湘子亡し 戸塚時不知
黒南風の林泉山へつづきをり 大峯あきら 鳥道
黒南風の枝条架遠くなる島に 宮津昭彦
黒南風の浪どろどろと庵の裏 石寒太 翔
黒南風の浪累々と盛り上がる 河野真(白露)
黒南風の海揺りすわる夜明けかな 芥川龍之介 蕩々帖〔その二〕
黒南風の湾処に爽波知る人と 島田たみ子
黒南風の漁家あけすけの声笑ふ 山口草堂
黒南風の潮の湿りを二の腕に 坪井耿青(葭の花)
黒南風の舌先に蝶狂ひけり 広谷一風亭
黒南風の蘆原雲のごとくなり 松村蒼石 雪
黒南風の裏磐梯は荒々し 猿渡青雨
黒南風の辻いづくにも魚匂ひ 能村登四郎
黒南風の雀は細身閣は古り 下村槐太 天涯
黒南風の雨に浸かれる富士裾野 長谷川裕(夏至)
黒南風は伏屋のものを染めつくす 相生垣瓜人 微茫集
黒南風は洲の葦原を束ね吹く 松村蒼石 雁
黒南風やふいに駱駝の微笑せる 殿村莵絲子 雨 月
黒南風やニーチエの狂気伝はり来 堤 保徳
黒南風や一歩一歩の重かりき 篠原弘脩
黒南風や乾き初めたる鯨肉 内田美紗 魚眼石
黒南風や人なき家の蔓の薔薇 田中冬二 俳句拾遺
黒南風や傘煽らるる歩道橋 肥後秋晴子
黒南風や回転木馬修理中 一ノ木文子
黒南風や城に秘蔵の火縄銃 北村妍二
黒南風や城の守護霊鎧抜け 生駒清三
黒南風や大河に臨む芭蕉像 須田修一(梛)
黒南風や嫌人癖の亢ずる日 相馬遷子
黒南風や嬰児葬る甕出土 宮坂静生 青胡桃
黒南風や小蟹は穴へ海くるる 古賀佳子
黒南風や屠所への羊紙食べつつ 中村草田男
黒南風や山皆墓の大谷廟 榎並悦子
黒南風や岬のはなの照り曇り 岩佐東一郎
黒南風や島山かけてうち暗み 高浜虚子「句日記」
黒南風や巌削りたる舟著場 早坂萩居
黒南風や帯の銀にも涙落つ 赤松[けい]子 白毫
黒南風や廻船問屋に隠し部屋 早川利浩
黒南風や手首重たき朝餉前 日越意津子
黒南風や明石大門に潮うねり 田部みどり「貝桶」
黒南風や昼なほ糶の羅臼港 村上喜代子
黒南風や枝葉騒ぐに振り返り 岩田由美 夏安
黒南風や栗の花紐垂りしづる 臼田亞浪 定本亜浪句集
黒南風や校倉ならぶ間に松 下村槐太 天涯
黒南風や水夫もみあげの汗微塵 塚本邦雄 甘露
黒南風や河童百図の動き出す 北見さとる
黒南風や波は怒りを肩に見せ 鈴木真砂女 夕螢
黒南風や浜に弔ふ鯨の死 勝山彦義
黒南風や浪音からむ榕樹林 下村ひろし 西陲集
黒南風や火の爪あげて蟹はしる 赤松[けい]子 白毫
黒南風や燭盡きたれば鐵の針 竹中宏
黒南風や生家を壊す話出て 古川千鶴
黒南風や病む母をただ傍観し 相馬遷子 雪嶺
黒南風や目高が鉢のそとに死し 篠田悌二郎
黒南風や筑波の二神雲がくれ 後藤真佐子(秀)
黒南風や紺青の波蹴立て行く 堤俳一佳
黒南風や絵を抜けて鰐絵に還る 須川洋子
黒南風や群牛の波だちて来る 田口満代子
黒南風や蔵の古文書湿り帯ぶ 米山方士
黒南風や蘭渓道隆結跏趺坐 川崎展宏
黒南風や虚ろに開く魚拓の眼 小山徳夫
黒南風や西瓜のつるの裏返る 藤井乃婦
黒南風や覆刻本の文字かすれ 石川桂郎 四温
黒南風や見飼きて戻る飯匙倩の恋 鈴木寿恵
黒南風や買つてすぐ嘸む陀羅尼助 鈴木真砂女
黒南風や轆轤の首のすぐ太り 杉本 渚
黒南風や鉄塔に鳴く群れ烏 下間ノリ
黒南風や陋港いつも魚臭し 西堀真爾
黒南風や階段にある息づかい 二村典子
黒南風や雑魚流れゆく糶の果 鍋島貞子
黒南風や電子レンジにもの弾け 今田恒子
黒南風や鞭つ如く描く顔 相生垣瓜人 微茫集
黒南風や鯉飛び跳ねる草の上 笹川悦子
黒南風を呂宋にはこぶ八幡船(ばはんせん) 筑紫磐井 婆伽梵
黒南風を航く丸の字は浪の下 中村鈍石
黒南風日々怒りは希望つちかわん 赤城さかえ句集
黒塀にしだるゝ雨の柳かな 柳 正岡子規
黒塀や星に透かして梅を得たり 夜の梅 正岡子規
黒塗の火桶座右にみちのくに 成瀬正とし 星月夜
黒塚の大岩舐める秋の蝉 棚山波朗
黒塚の月と遊べり雪女郎 櫛原希伊子
黒塚の老杉雷を呼ぶごとし 石原八束
黒塚の道に乱れる野紺菊 平野みさ
黒塚の雪折れ杉のばさら髪 きくちつねこ
黒塚やつぼね女のわく火鉢 言水
黒塚や人の毛を編む雪帽子 芥川龍之介 我鬼窟句抄
黒塚や傘にむらがる夏の蜂 夏の蜂 正岡子規
黒塚や葛うらがへる風の出て 藤田あけ烏
黒塚や蚋旅人を追ひまはる 曉台
黒塚や赤子の腕の風呂吹を 風呂吹 正岡子規
黒塚をよぎる蜻蛉の胴焦げて 高澤良一 さざなみやつこ
黒天にあまる寒星信濃古し 西東三鬼
黒奴あり児に夏めきし車窗 飯田蛇笏 雪峡
黒富士と鉄塔はるかなり寒暮 松村蒼石 雁
黒富士に一痕の月よそよそし 富安風生
黒富士のぎいと傾ぐやご来光 豊口陽子
黒富士を借景とするわが庭に小さきかまきりの生れて身構ふ 藤岡武雄
黒小袖焚きほこりして福涌し 成美
黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ 葛原妙子
黒島の藷の畑に時雨虹 松藤夏山 夏山句集
黒帯で正座の乙女鏡割る 宮本修伍
黒帯の柔道衣手に卒業す 鈴木篁舟
黒幹を霧の出てくる縁かな 宮坂静生 樹下
黒手套嵌めたるあとを一握り 岡本眸
黒手袋を見事に落し気がつかず 田川飛旅子 『山法師』
黒手袋指にぴちりと神を説く 齋藤愼爾
黒揚羽 かたまり翔つは 何の示唆 伊丹公子 時間紀行
黒揚羽いつもどきりと現はれぬ 高橋久江
黒揚羽いつも片道切符です 丸山嵐人
黒揚羽おっとこちらの道でなし 高澤良一 素抱
黒揚羽おどろに川原毛地獄越ゆ 高澤良一 素抱
黒揚羽が去つた 太陽はむしばまれていない 吉岡禅寺洞
黒揚羽が去つた 或女のように 吉岡禅寺洞
黒揚羽すと消え飛石あるばかり 高澤良一 素抱
黒揚羽するどく脚を組みかへぬ 山西雅子
黒揚羽するどし巡礼のうしろ 伊藤淳子
黒揚羽ただよひやすくゐて勁し 柴田白葉女 花寂び 以後
黒揚羽とまる烈しき翅づかひ 川崎展宏
黒揚羽のぼりのぼりて摶たれくる 長谷川櫂 天球
黒揚羽の舌が校長となつている 西川徹郎
黒揚羽はじめ鬱たること多し 友岡子郷 日の径
黒揚羽ふっと掠めて温き風 高澤良一 素抱
黒揚羽もつれて鉄扉くぐりけり ふけとしこ 鎌の刃
黒揚羽ゆらりと現れし穴居址 鷲谷七菜子 黄 炎
黒揚羽ロールシャツハを飛び立ちて 倉島成子
黒揚羽一つの花に二つ来る 岩田由美
黒揚羽一息入るゝ大樹の根 高澤良一 随笑
黒揚羽七堂伽藍秋の影 川崎展宏
黒揚羽上へ上へと雲巌寺 岩田由美
黒揚羽九月の樹間透きとほり 飯田龍太(1920-)
黒揚羽佗居を継ぐに変りなし 百合山羽公 寒雁
黒揚羽切符拝見致します 丸山嵐人
黒揚羽地の影の上に下りつきぬ 篠原梵 雨
黒揚羽地を歩くとき魑魅となり 上野泰 佐介
黒揚羽宙より降れる晋山式 高澤良一 ももすずめ
黒揚羽己が影の少し後 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
黒揚羽庶子ゆゑに墓小さきや 羽部洞然
黒揚羽廃墟の城の水汲み場 細見綾子
黒揚羽廊下の奥へ追ひつめし 亀田虎童子
黒揚羽微量の毒は誰も持つ 中尾杏子
黒揚羽忽たり怯みつづけをり 林翔
黒揚羽我をみめぐり産卵す 清水美千
黒揚羽手離す茎が揺れてをり 高澤良一 素抱
黒揚羽晝はひとりであそびけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
黒揚羽武蔵総社の相撲かな 斉藤夏風
黒揚羽水の匂ひの法隆寺 あざ蓉子(1947-)
黒揚羽水辺の石で息したり 細見綾子 天然の風以後
黒揚羽無垢日光の波の中 石塚友二
黒揚羽生れて濃きもの濃くなりぬ 後藤比奈夫 金泥
黒揚羽発つ神隠しより解かれ 櫛原希伊子
黒揚羽神居古譚を渡り切る 柏原眠雨
黒揚羽神戸の花を病ましむる 攝津幸彦
黒揚羽秋のひかりを曳いて飛ぶ 長谷川櫂 蓬莱
黒揚羽空き巣のごとく裏手より 高澤良一 素抱
黒揚羽突如現れ昼深し 杉村孝子
黒揚羽等身大をはみだせり 内田美紗 誕生日
黒揚羽紛れてゐたる小涌谷 井出智恵子
黒揚羽絶えず飛びゐる安居かな 川上一郎
黒揚羽網膜に穴あけにくる 坂本宮尾
黒揚羽胸中を過ぎとはに過ぐ 小檜山繁子
黒揚羽脳ひんやりと裏返る 藤木まり
黒揚羽舞ひ来て樹下に風起す 茂恵一郎「六白金星」
黒揚羽花を蔽ひてとまりけり 上野泰 佐介
黒揚羽花魁草にかけり来る 高濱虚子
黒揚羽茅葺門のくぐり初め 鈴木フミ子
黒揚羽赤きつゝじを好むかに 高木晴子 晴居
黒揚羽身ぬちに棲める荒ごころ 鍵和田[ゆう]子 浮標
黒揚羽身重に翔けてけだるき午後 吉野義子
黒揚羽軋める音をこぼしけり 宮坂静生
黒揚羽軒をさまよふ雨もよひ 関塚光子
黒揚羽追ひゆく別の黒揚羽 高澤良一 さざなみやつこ
黒揚羽邪心にはかにはばたきて 藤原たかを
黒揚羽鎌倉古道横ぎれり 橋本美智代
黒揚羽雪舟の海わたりけり 大井東一路
黒揚羽風にさからふ時はなやぎ 遠山りん子
黒揚羽飛ぶ水滴に映るまで 桂信子 緑夜
黒揚羽黒き羽音を残しけり 田口啓子
黒揚羽黒と交わる神の前 出口善子「刺茨牡丹」
黒揚羽黒を散らさず去りゆけり 岩淵喜代子 朝の椅子
黒文字と和菓子と八十八夜かな 玉木克子
黒文字の木に水ふえて春の谷 宇佐美魚目 天地存問
黒文字の花ざかりなる湯治かな 大岳水一路
黒文字の花はみどりの四月かな 野瀬知佐
黒文字を矯めて香らす垣手入れ 武田和郎
黒文字植え清明の水遣りにけり 高澤良一 素抱
黒日傘乞食坊主か高僧か 辻田克巳
黒曜の瞳のほころびしとき涼し 大橋敦子
黒曜の鶫ひそめり谷卯つ木 堀口星眠 営巣期
黒杉へ駈けて冬来る柔道着 鈴木鷹夫 渚通り
黒杉を讃へて去りぬ冬帽子 鈴木鷹夫 渚通り
黒松の黒のさらなる油照り 鈴木節子
黒板といふ黒見つめ受験待つ 櫻井幹郎
黒板の黒を鎮めてほととぎす 鈴木修一
黒染にいが栗つかむ松か岡 栗 正岡子規
黒染のうしろすがたや壬生念仏 太祗
黒栄に水汲み入るゝ戸口かな 原石鼎
黒栄や浪に打たれて天の在り 野村喜舟「小石川」
黒森をなにといふとも今朝の雪 松尾芭蕉
黒椀に岩魚の酒を廻し呑む 角川照子
黒椀に白魚淡き色を添へ 山下孝子
黒椿とてくれなゐをまぬがれず 吉野義子
黒椿まざと遺影となりにけり 石田あき子 見舞籠
黒椿貌をあげぬは愛の証 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
黒楽茶碗七種粥の匂ふなり 近本雪枝
黒樫の冬に入りたる浪がしら 齋藤玄 飛雪
黒樺に来てゐる春や雪なだれ 野村喜舟 小石川
黒檀のなにゆゑの黒残る虫 鳥居美智子
黒檻の涼しく眼そらしけり 上村占魚 鮎
黒比売の里の代田の夜を光り 田中英子
黒毛虫妻譏ること譏ること 高澤良一 随笑
黒氷柱吾が失着もまた絶景 永田耕衣 奪鈔
黒汐の海夏蜜柑落果して 右城暮石 上下
黒潮の黒の深まり菜種蒔く 延平いくと
黒濡の波のかゝれる石蕗の花 瀧澤伊代次
黒濡れて声なし音の操車場 鈴木六林男 第三突堤
黒焦げの鴉とびたつ夏断かな 北 光星
黒燦々正月五日の護美袋 林翔
黒燿の眼が驚きし雪の雷 細見綾子
黒牛が鋤きて丹波の神の御田 茂里正治
黒牛が駅に顔入れ菜の花嗅ぐ 加藤楸邨
黒牛にかつと夏来て桑畑 臼井千鶴
黒牛に朝日渦なす川の夏 岸秋溪子
黒牛に横乗りをして佐保姫は 大石悦子 百花
黒牛に雨の降りゐる夏野かな 福島壺春
黒牛のどつと通りし坂の檀 阿部完市 軽のやまめ
黒牛の光るお十夜牛車 後藤比奈夫 めんない千鳥
黒牛の尿の音たて夏日落つ 脇 いそじ
黒牛の涎一筋秋彼岸 川井しほり
黒牛の疲れ癒えざる新春野 殿村莵絲子 牡 丹
黒牛の眸と枯野の眼われに向く 原裕 葦牙
黒牛の瞳を消すまつ毛冬ぬくし 赤松[けい]子 白毫
黒牛の背が春嶺に重なりぬ 今井 聖
黒牛の腹の底より白息吐く 殿村莵絲子 牡 丹
黒牛の藁かみつくし雪無限 金子とよ
黒牛の重き跳躍厩出し 清水久美子
黒牛の黒瞳が聴いて法師蝉 香西照雄 対話
黒牛の鼻面にある梅雨あかり 高井利夫
黒牛は大根の花食い残す 宇多喜代子
黒牛も小粒に見ゆる大夏野 村上有秋
黒牛やうつうつとして翔ぶもあり 国武十六夜
黒牛ゐて雪焼け一家に田が湿る 桜井博道 海上
黒牛を磨く男に土用東風 下田稔
黒牛を越ゆ夏蝶のあらあらし 那須淳男
黒牛若し春昼の炉火馬臭し 加藤知世子 花寂び
黒牡丹あはれ日に透き紅きざす 稲垣きくの 牡 丹
黒牡丹ならんその芽のこむらさき 米谷孝
黒牡丹ほのかに秘むる臙脂かな 高橋淡路女 梶の葉
黒牡丹もどきの閨とおもひけり 大木孝子
黒牡丹千一夜読む身のほとり 原裕 青垣
黒牡丹咲くや真昼の闇を抱き 羽部洞然
黒牡丹無言の黒が水を吸ふ 原 和子
黒牡丹稲葉天目茶碗かな 大屋達治 絵詞
黒牡丹赤を極めて行き尽きし 稲畑汀子
黒牡丹黒き煩悩燃えにけり 大西一冬
黒犀の背の縫合や*はたはた跳ぶ 磯貝碧蹄館
黒犬の腹這うてゐる躑躅かな 野村泊月
黒犬も氷海を来し船の客 有馬朗人 耳順
黒猿の黒き夫婦の日向ぼこ 三好達治 路上百句
黒真珠頸にするりと今朝の冬 佐藤まり子
黒眼鏡かけた女が石に休んで居るばかり 尾崎放哉
黒眼鏡かけ炎天の墨絵かな 上野泰 佐介
黒眼鏡暗しふるさと田水沸く 西村公鳳
黒瞳がちに御崎の馬は肥えにけり 山口麻子
黒砂の浜椰子泳ぎ子土語ばかり 河野南畦 湖の森
黒神殿御燈奥へ奥へ涼し 石川桂郎 四温
黒穂など憶いしだいに酔いはじむ 徳弘純 麦のほとり
黒穂には黒穂のさだめありにけり 川口咲子
黒穂ぬく老いをな吹きそ山の風 中勘助
黒穂の粉ばさと双手に一揆村 松本旭
黒穂もて丁々と打ち魂鎮む 田川飛旅子 『山法師』
黒穂より黒き眸光るおばこの地 成田千空 地霊
黒穂一本まづ抜き麦を刈り始む 嶋田麻紀
黒穂出て村八分とは悲しけれ 星野椿
黒穂抜き女ざかりを困りたる 後藤綾子
黒穂抜く何と重たき俤よ 松崎貞子
黒穂抜く島の真昼は気だるくて 鈴木真砂女
黒穂抜く愉しさ心病むならむ 福永耕二
黒穂抜く火山灰のいたみもさりながら 泊喜雨
黒穂抜く童や顔に黒穂つけ 岩田麗日
黒穂抜く黒に徹せるものはよし 鷹羽狩行
黒穂抜けばあたりの麦の哀しめり 木下夕爾「遠雷」
黒穂焼く煙よりあはき星うまれ 木下夕爾
黒穂麦多し米軍返還地 古賀三十五
黒竹の節に日あたる葛湯かな 三木聆古
黒竹一もと佛起しに起し植う 廣江八重櫻
黒米は晩稲も晩稲捨田めく 中戸川朝人 星辰
黒米をてのひらにして神の留守 平柳草子
黒糖に熱湯注ぎ暑気払い 桃原ノブ子
黒糖をほろと噛みけり雁渡し 小林篤子
黒紋付そでの短かき壬生念仏 新井郁子
黒紫光われが繁殖しつつあり 阿部完市 証
黒繻子に緋鹿子合はす暮春かな 飯田蛇笏 霊芝
黒繻子の肌てらてらとくんち勢美 下村ひろし 西陲集
黒纏ふ御用始となりにけり 吉村玲子
黒羊羹照葉を敷けり山の音 中戸川朝人 尋声
黒耀の眼が驚きし雪の雷 細見綾子
黒耀の鶫ひそめり谷卯つ木 堀口星眠
黒耀石にもどる日時計鳥曇 中戸川朝人 尋声
黒胡麻を固めたる菓子十三夜 中戸川朝人 星辰
黒胴の馬ひかるかな氷水 榎本冬一郎 眼光
黒膳の整然並ぶ年忘 高木 静花
黒臘梅には生れつき茶の心 後藤比奈夫 めんない千鳥
黒舟と果てて漂ふ灯籠かな 阿波野青畝
黒船の黒の淋しさ靴にあり 攝津幸彦(1947-96)
黒艶の民具生きゐて飛騨の秋 河野南畦 湖の森
黒芦の折れし穂先に水触れず 能村登四郎
黒茶碗牡丹すでに散るこころ 菅原鬨也
黒菜あり青きひかりの魚族あり 山口誓子
黒葡萄いささか渋き昭和かな 鍵和田「ゆう」子
黒葡萄いよよ漆黒農一忌 皆川盤水
黒葡萄こころ痺るるほど食べて 鍵和田釉子
黒葡萄ささげて骨のふんわりと 飯田龍太
黒葡萄しづくやみたり敗戦のかの日より幾億のしらつゆ 塚本邦雄
黒葡萄すする微熱の唇よ 佐藤洋子
黒葡萄その後のユダの舌を染む 村田冨美子
黒葡萄の酸をなだむる朝の舌五十年後の老人として 米川千嘉子
黒葡萄よりも冷たき女の手 名取文子
黒葡萄天の甘露をうらやまず 一茶
黒葡萄月ゆく音を耳のうら 庄司圭吾
黒葡萄爪がおしへる沖ツ浪 小堀寛
黒葡萄父をまぶしく見し日あり 鎌倉佐弓 潤
黒葡萄男のなかで熟れており 久保純夫 熊野集
黒葡萄祈ることばを口にせず 井上弘美
黒葡萄童は母の倍も酸し 楠節子
黒葡萄聖書いつよりなほざりに 山岸治子
黒葡萄表裏を食うべ九月十日 蓬田紀枝子
黒葡萄鋏を入るる隙のなし 嶋田麻紀
黒薔薇はもつとも皮肉なる笑ひ 熊谷愛子
黒薩摩まことに黒しねむの花 邊見京子
黒蜻蛉の恋濁流をかけのぼり 百合山羽公 寒雁
黒蜻蛉浮木に群るゝ泉かな 西山泊雲 泊雲句集
黒蝶に添ふ黒蝶のただならず 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
黒蝶のばさらばさらと日の盛り 吉田鐵四郎
黒蝶のめぐる銅像夕せまり 西東三鬼
黒蝶のもつれ越したり百合の花 島村元句集
黒蝶の塊を擦る原爆忌 殿村莵絲子 雨 月
黒蝶もひだるき魂も昼の家 秦夕美
黒蝶も澄まねば舞へず最上川 加藤知世子 花寂び
黒蝶や素木(あらき)の塔に朝日さす 柴田白葉女 『夕浪』
黒蝶や香水つよきひととゐて 桂信子 黄 瀬
黒蝶を初蝶として来る未来 岡本志陽
黒蟻に自尊の歩みありにけり 杓谷多見夫
黒蟻の密集ギリシヤ語の聖書 有馬朗人 知命
黒蟻の彷徨を見る神の位置 平井照敏 天上大風
黒蟻の数見てよりの夜のふかさ 古賀まり子 緑の野
黒蟻の荷の重そうで軽そうで 長島たま
黒蟻の這へり山城復元図 小林紀代子
黒蟻やいのちの列の一行詩 林昌華
黒血川に沿ふ村里や罌粟の花 中條睦子
黒血流す春夜がらくたトラックが 寺田京子 日の鷹
黒谷の初夜きく月の野川哉 高井几董
黒谷の和紙を漉きをる十三夜 石嶌岳
黒谷の夜を鳴き交はす梟かな 五十嵐播水 播水句集
黒谷の方タの暗さに十夜かな 松根東洋城
黒谷の松や蓮さく朝嵐 河東碧梧桐
黒谷の松吹く雪となりにけり 西村和子
黒谷の紙祖神ひそと春を待つ 小原清子
黒谷の隣はしろしそばのはな 蕪村 秋之部 ■ 題白川
黒谷や十夜過ぎたる風の音 高城樹み乃
黒谷や木魚たゝけば風薫る 大塚甲山
黒豆は黒汁びたり初明り 山本紫黄
黒豹の尾のゆきもどる夕ざくら 横山房子
黒豹の牝にうす日してやむ雪か 飯田蛇笏 雪峡
黒豹はつめたい闇となつてゐる 富澤赤黄男
黒貂のとぶ朝の月朝の森 依田明倫
黒足袋の聖處女ミサヘ磯づたひ 下村ひろし 西陲集
黒酢飲めという天敵の叔母が来て 大坪重治
黒釉に爽やかな白巴紋 沢木欣一
黒金魚揚羽のごとく藻にとまり 奥野花鳥女「四季選集」
黒闇を生きて黒髪冷まじき 文挟夫佐恵 雨 月
黒陶の寒姫の舞のきびしさよ 瀧井孝作
黒雁の 黒の際立つ 男鹿日昏 伊丹公子 山珊瑚
黒雨風は鵺かや病篤くなる 品川鈴子
黒雪渓山の睡気を持ち歩く 津田清子 二人称
黒雲から風髪切虫鳴かす猫 西東三鬼
黒雲から黒鮮かに初燕 中村草田男(1901-83)
黒雲に鴨の声して竹の秋 佐野良太 樫
黒雲のにわかに騒ぐ日傘かな 日傘 正岡子規
黒雲のふち金色に氷橋 柴田白葉女 花寂び 以後
黒雲のまゆずみの下寝待月 平松措大
黒雲の冬雲を見て牛怒る 萩原麦草 麦嵐
黒雲の折々かかる青葉かな 嵐竹 芭蕉庵小文庫
黒雲の晴れて見たれば月もなし 月 正岡子規
黒雲の月隠さんとけはしけれ 池内友次郎 結婚まで
黒雲の流れに乗らず寒の月 白木原玲子
黒雲の縁金色に氷橋 柴田白葉女
黒雲の見ゆる避暑地を指してゆく 岸本尚毅 舜
黒雲の鯤の胴より月昇る 笹野俊子
黒雲やわれめわれめのけふの月 今日の月 正岡子規
黒雲を仕掛けゐのしし包囲網 脇本星浪
黒雲を出し鴨見ゆる西の天 右城暮石 上下
黒雲を起こしてゆくや蒸氣船 正岡子規
黒雲母岩の陽炎ホームレス 斉藤夏風
黒霧白雲巌をしまきて合流す 加藤知世子 花寂び
黒青万のドラム缶の一個胃痛む 鈴木六林男 桜島
黒靴を黒に磨いて万愚節 梅本豹太
黒鞄さげて陽炎責めに遇ふ 鈴木鷹夫 春の門
黒頭に白頭まじり天の川 斎藤玄 雁道
黒頭浮かべ泳げる漁港かな 右城暮石
黒馬はロシアタンポポ敷きつめて 金子皆子
黒駒を見てむらさきの葡萄祭 萩原麦草 麦嵐
黒髪の黒ふえもどる氷割り 寺田京子 日の鷹
黒鳥のあかき嘴餌を得たり 佐川広治
黒鳥のほそ鳴きに雪散りにけり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
黒鳥の翼をすべる秋の雨 岡崎桂子
黒鳥の背に降る霰樗牛の忌 小林千恵
黒鳥の赤い顔ぬれ秋の石 和知喜八 同齢
黒鳥の赤き嘴よりをとこごゑ 佐川広治
黒鳥の頸よく動き水温む 尾辻和子
黒鳥はいづこの王子薔薇匂ふ 堀口星眠 樹の雫
黒鳥を置いて落葉の水窪む 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
黒鶫いちにち湖をみて過ごす 井上閑子
黒鶫啼くや姨捨とのぐもり 棗美紗子
黒鶫山郷はまた雲の郷 市村究一郎
黒鶫掟一条諳んじぬ 宮坂静生 樹下
黒鶫朝の山脈走り出す 小田利恵子
黒鶫木々の雨粒歌ひだす 市村究一郎「土」
黒鶫講中着きし棟に鳴く 岡本まち子
黒鶫雨に榛名を見失ふ 毛塚静枝
黒鷽の嫌はれつゝも飼はれをり 岡田耿陽
黒黒と蛇が噤みて山つ方 和田悟朗
鼻涕かめば鼻黒みたり古暦 幸田露伴 江東集
●黝 
かまつかの形骸黝し恋の果 成瀬櫻桃子 風色
この黝きをねずみの糞とはよう云ふた 高澤良一 随笑
しまきても晴れても北の海黝く 桑田青虎
わかるるや月の噴火の黝き跡 田邊香代子
グラビアより黝し秋風と乗鞍は 鴻巣又四郎
トレドヘ? 秋風のなかの黝い辞書 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
中年をつつむ空洞黝い潮 三谷昭 獣身
人住まぬ炉べりのひたすらに黝し 加倉井秋を 午後の窓
佐倉照り日陰は黝き稲架襖 北野民夫
八月の巖のか黝く東尋坊 高澤良一 宿好
冬の海人の輪黝く煙あぐ 阿部みどり女
冬の雲捨田の水の黝みたる 豊長みのる
冬山とおなじの黝の雲が増す 篠原梵 雨
冬黝き槙電線をふりかぶり 石田波郷
凍月の森黝々と呑みし闇 白石かずこ
出土の土師器黝く秋冷到りけり 阿部みどり女
北陸は紫陽花多く海黝し 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
名月にならびて黝き仏たち 中川宋淵
吾亦紅独りごころを通す黝 高澤良一 随笑
地吹雪や一切黝き夜明前 加藤知世子 花 季
夏雲をきざす晴天海黝む 飯田蛇笏 雪峡
夕霧忌その琴爪の黝みて 品川鈴子
夜目にも黝し湖の向ふの雪崩跡 加藤知世子 黄 炎
大阪ややゝに黝む秋没日 大橋敦子
山海居冬を枯れざる樹々黝き 日野草城
山青し黝し颱風洋を来る 相馬遷子 雪嶺
岬の日に干されて黝き海鼠かな 不破 幸夫
常盤木の槇の黝さや寒了る 石田波郷
明神の朱聖堂の黝梅雨晴るる 橋本榮治 逆旅
楽興の時や仮面のうち黝ずむ 楠本憲吉
沼水の黝きがままに温みけり 依田明倫
浚渫船東風のわたるにひと黝し 細谷源二 鐵
海は冬の黝みのあをい太陽 シヤツと雑草 栗林一石路
海黝ろむ艙庫は暑き日を抱けり 飯田蛇笏 霊芝
滝涸れて垂水の黝く岩づたふ 篠原梵 雨
漁舸かへる夏海黝ろむ波濤かな 飯田蛇笏 霊芝
瀧涸れて垂水の黝く岩づたふ 篠原梵
炎天の高みの黝む緑樹帯 飯田蛇笏 椿花集
烏の子まことしやかに黝きかな 成瀬桜桃子 風色
煩悩や荒梅雨の幹みな黝し 柴田白葉女 花寂び 以後
白樺の黝むしじま雪を待つ 殿村莵絲子 花寂び 以後
白鳥の見られたくない黝い足 水野幸子
砂丘沃ゆ西瓜の黝き蜑の昼 飯田蛇笏 霊芝
砂抱いてか黝き馬刀の虚せ貝 高澤良一 素抱
秋霖の空より黝しノートルダム 林翔 和紙
純白に砕けたり冬濤の黝 酒井 京
紛々と黝き雪噴き日食す 栗生純夫 科野路
花終りぬ泉いよいよ黝し 栗生純夫 科野路
虹の裏その下は黝き海ならむ 井上青穂
蝌蚪の尾の黝きを夢のつづきとす 小浜杜子男
蝌蚪黝く足がうまれて游ぐなり 下村槐太 光背
蟋蟀がくる頼家と仮面黝し 萩原麦草 麦嵐
蟋蟀の黝いのが出て十夜かな 原 裕
観世音念じ黝き春雪に 長谷川かな女 雨 月
豊年や黝きひかりの湯もみ板 佐川広治
貨車黝くつながれて蝌蚪泳ぎけり 萩原麦草 麦嵐
針葉樹林たゞに黝くて秋の逝く 林原耒井 蜩
隼に山稜黝し灘の晴 斎藤梅子
雁渡る月下に黝き防砂林 柊 愁生
雪の枝黝む枝うら差しまじへ 楠目橙黄子 橙圃
雪の野や畝なす茶垣遠黝し 杉山岳陽 晩婚
雪催ふ江の黝々と梅ひらく 松村蒼石 寒鶯抄
雪渓の黝ずみたりし月日かな 鈴木貞雄(若葉)
雲の翳黝みつ富士の鋭きそそり 日夏耿之介 婆羅門俳諧
霧の中黝さが勁さ日田の牛 延平いくと
露置きて灼けし瓦礫も秋黝し 内藤吐天 鳴海抄
風花の空を黝しと見る不惑 根岸善雄
鬱と翔つ黝き蜂ありベツドの辺 石寒太 炎環
黝い茸など傘とさしかけ馬鹿な切株 三橋鷹女
黝きまで寒紅梅の紅驕る 長谷川素逝 暦日
黝きまで麦青ませて神と在り 栗生純夫 科野路
黝く灼けわが影われに先んじゆく 梵
黝づめる団栗空をさびしくす 福永耕二
黝汐にのりて春趁ふ鴎かな 飯田蛇笏 霊芝
●玄 
家も事あるさまの玄猪かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
ぐわんぐわんも玄界も抱く冬旅篭 たまきまき
しぐるゝや真菰すがれて水玄き 幸田露伴 蝸牛庵句集
ふぐ供養憲吉すすむ玄秀雄 尾村馬人
万歳の間に玄界のどよもしぬ 野中亮介
三か月のをぐらきほどに玄猪かな 其角
凍鶴の地軸となりし脚玄き 渡辺恭子
初雪や末の玄猪の荒れついで 斗文
印肉を箆もて均す玄冬なり 内藤吐天 鳴海抄
土用浪玄界灘に壱岐沈む 高崎小雨城
大師講抑揚つけて玄義読む 遠藤止観
大花火玄界灘をゆさぶりぬ 大島きんや
天地玄黄あれよあれよと蛇穴に 栗林千津
寒鯉の鰭あほりたる水玄(くろ)き 高澤良一 素抱
山焼きし夜は玄界のとどろけり 三谷 和子
御玄猪や火燵もあけぬ長屋住 亥の子 正岡子規
御玄豕も過ぎて銀杏の落葉かな 李由 十 月 月別句集「韻塞」
手習や天地玄黄梅の花 夏目漱石 明治二十九年
投錨の音玄冬の波に消ゆ 山本輝明
日脚伸ぶ撫づれば温き玄の墓 福田露幸
春の夜も亦玄々と言ふべけれ 徳永山冬子
暮るる日や落葉まじりの玄圃梨 吉田冬葉
枯れざまの梵字でもなし玄圃梨 今井妙子
枯野もとの枯野玄室より出づる 斉藤夏風
桑倉の暗さ玄室めきにけり 森田峠
楪葉や玄孫まで抱く一系図 三好夜叉男
橋渡り終え振り向けば橋玄冬 楠本憲吉
毛布かぶり寝る玄界の濤を聴き 福田蓼汀 山火
水薙鳥波の幣めく玄界灘 田中英子
深秋や足腰玄き田の貴人 磯貝碧蹄館
湯浅玄達さてもさてもと賀状かな 如月真菜
滴りて玄室に溜ることもなし 桂樟蹊子
玄き諸仏春禽宙に愛しあふ 磯貝碧蹄館 握手
玄として色ををさめし初鴉 菊地一雄
玄上の琵琶据ゑ厳島おぼろ 尾野恵美
玄上は失せて牧場の朧月 寺田寅彦
玄冬に桂林巍々と峨々とあり 竹中碧水史
玄冬の何せむとする拳なる 毛塚静枝
玄冬の地蛸粗塩すり込まれ 高澤良一 さざなみやつこ
玄冬の川を見てゐることが旅 鳥居真里子
玄冬の微かに照れる厠神 攝津幸彦
玄冬の日食巨き喪のごとし 栗生純夫 科野路
玄冬の河口におろす波ころし 大図四星
玄冬の波に唇ささくれて 高澤良一 寒暑
玄冬の海に百の目啼鴎 高澤良一 さざなみやつこ
玄冬の田に焚かれゐる太けむり 大熊輝一 土の香
玄冬の蝿の結跏趺坐してゐるつもり 攝津幸彦 未刊句集
玄冬の鮪に見入る背広かな 攝津幸彦 鹿々集
玄冬や好んで鋲となる男 栗林千津
玄冬を緊めて美僧の青つむり 中村明子
玄圃梨くれて山の子もうゐない 山田弘子
玄孫弟子亜浪序文を読初めに 高澤良一 ももすずめ
玄室に冬の短き蚊柱よ 山田弘子 螢川
玄室に吉備のどんぐり許さるる 岡本照世
玄室に棲む豪族のこほろぎよ 品川鈴子
玄室に臥て堪へがたきまで紅葉 竹中宏
玄室の上に突き出て今年竹 辻桃子
玄室の奥に影顕つ遠蛙 田中水桜
玄室の暗きに入りて虫時雨 塩川雄三
玄室の暗さは冬に他ならず 山田弘子 こぶし坂
玄室の蜥蜴彼の世の光もつ 町田しげき
玄室の闇を思へば雪加鳴く 柿沼茂「河岸段丘
玄室の階の数歩や霜柱 斉藤夏風
玄室へ靴の運びし春の泥 八染藍子
玄室を出て人の世の日傘さす 有馬朗人 母国
玄室を覗きて吾も枯野人 西村さち
玄海灘の玄は吾子の名冬怒濤 石寒太 翔
玄猪餅抛ればうけぬ牛の口 西山泊雲 泊雲
玄猪餅牛の口ヘも二つ三つ 西山泊雲 泊雲
玄猿の一幅を下げ花の宿 藤岡筑邨
玄界に一舟もなし神渡 生島花子
玄界に本の栞の紅葉飛ぶ 福田蓼汀 山火
玄界の仮幻の花の海照らし 石原八束 仮幻の花
玄界の冬濤を大と見て寝ねき 山口誓子
玄界の潮騒聞ゆ芒原 江頭 景香
玄界の紺ゆるぎなき鵙日和 木原不二夫
玄界の騒立つて来し障子かな 野中亮介
玄界を水尾の割りゆく冬銀河 矢野緑詩
玄界灘に夕日落ちゐる袋掛 一丸文子「隠の出の笛」
玄界灘渡る風音九州場所 杉山花粉子
玄翁でわるや鍛冶屋の鏡餅 鏡餅 正岡子規
玄翁の狙ひたがはず鏡割 本宮鼎三
玄賣を世にみる様か干菜賣 榎本其角
玄鳥の泥見てありく田面かな 尾崎紅葉
玄黄の間に蓑虫下りけり 宮地良彦
白服に玄沁みもどる原爆図 水巻令子
石工あり玄翁宙に風冴ゆる 飯田蛇笏 雪峡
神の杉神の玄さに初日うく(秩父三峰神社七句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
秋澄むや焼酎甕の玄光り 香原政春
節分の文箱に玄のひかりかな 平松良子
紙魚喰うて玄白訳と読まれけり 岩田深叢
脊振嶺も玄界灘も大霞 山田紀子
色ながら散る玄界に鳥群れて 秦夕美
芋の葉に玄翁の火や石碑彫る 西山泊雲 泊雲句集
芋の露天地玄黄粛然と 平井照敏
花石榴ここに玄白解剖の碑 稲垣きくの 牡 丹
蒼茫と玄界暮るる白牡丹 小関芳江
薔薇をもて栄えの玄義唱へけり 稲畑廣太郎
蚊帳吊草玄燈のいつ始まるか 高澤良一 素抱
軒玄鳥八声の鶏をきゝ居らめ 加舎白雄
鐵兜玄光迸る氷雨かな 幸田露伴 拾遺
門前の家商へる玄猪かな 松藤夏山 夏山句集
隆起して富士玄くなる秋の風 野沢節子 八朶集以後
雁わたる啄木の坂玄の坂 本庄登志彦
青空にして玄冬の鷹ひとつ 小林益枝
颱風の去つて玄界灘の月 中村吉右衛門
高き天玄からざるは惜しむべし 相生垣瓜人 明治草抄
鯊釣をやめ玄界の入日見よ 福田蓼汀 山火
鰯雲玄界灘を出発す 松本ヤチヨ
麦の香や玄界は星あふれたる 橋本榮治 越在
黄塵や僧玄奨の歩む音 磯 直道
●黒髪 
ありあまる黒髪くぐる茅の輪かな 川崎展宏「夏」
いつまでを黒髪といふ雛流す 児玉輝代
うかれ女の黒髪焦せ散り花火 大魯
うそ寒や黒髪へりて枕ぐせ 杉田久女
うば玉の黒髪山の秋の霜 従二位家隆
くちなはの夢見て伸ぶる黒髪か 黛執
たをやかに結ぶ黒髪初神楽 伊藤敬子
つれだちて黒髪にほふ初燕 松村蒼石 寒鶯抄
ひえびえと来るものを知る黒髪(かみ)の芯 宇多喜代子
ほんだはら黒髪のごと飾り終る 青邨
まだ母にならぬ黒髪花水木 中島登美子
めい月や黒髪しぼる蜑小舟 蓼太
ゆく秋の黒髪庵の門たゝく 林 千恵子
わが死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
ダリア剪る長き黒髪背に廻し 上野さち子
ニーチェ読む黒髪の蠅うつぶして 増田まさみ
初夢の母の黒髪見たりけり 稲荷島人
初弓へ黒髪剪つて出掛けたり 山内なつみ
剃り捨てて黒髪山に衣更 松尾芭蕉
剃捨て黒髪山に衣更 曽良
古衾悪魔に黒髪掴まれぬ 藤木清子
吾が死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
四十路なり泳ぎて重し黒髪も 吉野義子
壺の梅夜は黒髪の冷えにけり 鷲谷七菜子 黄 炎
夏近し黒髪切って身重の娘 佐藤耶重
夕焼やみな黒髪を持つ誇り 池内友次郎
夕立過ぐ黒髪奈保町歌姫町 片山由美子 水精
大寒の夜の黒髪の濡れてあり 仙田洋子 雲は王冠
天の川仰ぎ黒髪背に流す 川又曙光
威銃黒髪一本落しけり 新 福 寿
寒卵黒髪解きし頭のかたち 中村草田男
寒垢離や黒髪といふ煩悩は 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
寝しづみしひとの黒髪連翹忌 飯田蛇笏
小寒や地に黒髪の一握り 井上静川
広島忌人集まつて黒髪なり 池田行三
形代に黒髪の無き怨みかな 鈴木鷹夫「春の門」
彼のあたり二十の前の我を知る蛇島(さしま)・仙島・黒髪の島 与謝野鉄幹
愛染堂にむすぶ黒髪花おぼろ 木田千女
新海苔の黒髪に似て匂ひけり 荻野千枝
旗とほり黒髪とほり薄原 中田剛 珠樹以後
春愁や熱の黒髪頬にしき 神尾久美子 掌
春愁や黒髪をとく肩のうへ 橋本鶏二 年輪
春潮を観る黒髪を身に絡み 石原八束
朧夜の海にも似たる黒髪よ 河野多希女 両手は湖
柳散る千筋となでし黒髪も 尾崎紅葉
桜咲く我が黒髪の忌なりけり 中尾寿美子
梅雨湿りゴヤの巨人の黒髪も 高澤良一 ももすずめ
梳初の吾子の黒髪手にあふれ 鹿島あけみ
樫若葉黒髪庵は暗きかな 川原みや女
樽に乗り海女黒髪を指で梳く 影島智子
母亡くて雛の黒髪梳きたしよ 大木あまり 火球
水上夏至乳あらはに黒髪洗ふ婦も 宮武寒々 朱卓
沈丁や黒髪に手をさし入れて 中田剛 珠樹
沖に出て泳ぐ黒髪かと思ふ 山口誓子
泳ぎ並ぶ夫も天与の黒髪にて 平井さち子 完流
泳ぎ来し黒髪を解き放ちけり 澤村信男
浪化忌や黒髪塚に樫の雨 岩崎夜鶴
海姫の黒髪曳けり荒布舟 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
海苔舟や黒髪さらふ風が来て 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
満月よ黒髪の子を吾も生まむ 三橋敏雄
火の珊瑚黒髪に挿し布海苔干す 野見山朱鳥「荊冠」
火を抱けば黒髪流河となりにけり 山口 伸
火祭へ行く黒髪とすれちがふ 鈴木鷹夫 千年
炎昼や虚に耐ふるべく黒髪あり 野澤節子 黄 瀬
父母くれし黒髪乱す桜東風 大木あまり 山の夢
現身の黒髪にほふ雛の前 西島麦南
病床の黒髪断ちて髪洗ふ 庄野禧恵
看護婦の黒髪深く金亀子 原月舟
瞑れば我が黒髪も月光となる 篠原鳳作 海の旅
石の上に黒髪映るそぞろさむ 松村蒼石 雁
秋の卑弥呼の千の黒髪万の白髪 夏石番矢 神々のフーガ
紅梅や常黒髪のみようと神 百合山羽公
終ひの日はいつ来る雛の黒髪よ 河野多希女 両手は湖
繭玉に黒髪ふれて巫女出づる 林 晴美
芍薬に黒髪五寸断つ奢り 中村明子
苺食む黒髪の子よ巴里は危し 林原耒井 蜩
茱萸の花とめしを知らぬ黒髪か 堀口星眠 営巣期
蕗味噌や黒髪愛でし世ありけり 天藤青園
誰よりも長き黒髪多佳子の忌 ながさく清江
貴船菊数奇凝らしたる黒髪庵 角田双柿
逢ひし夜雪の香脱けぬ黒髪よ 三好潤子
長城裡黒髪灼くる香なりけり 白澤良子
雛愛しわが黒髪をきりて植ゑ 杉田久女
雨つけて菠薐草も黒髪も 岸本尚毅 舜
雪あそび黒髪長き子を賞づる 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪なだれ黒髪山の腰は何 桃隣
露霜や死ぬまで黒髪大切に 橋本多佳子
青年の黒髪永遠に餓鬼忌かな 石塚友二
青麦と黒髪なびき易きかな 伊藤敬子
願かけの黒髪つるす彼岸寺 田島君子
鳥帰る母の黒髪怖ろしき 宗田安正
黒闇を生きて黒髪冷まじき 文挟夫佐恵 雨 月
黒髪がいのちのむかし針供養 太田寛郎
黒髪にからめる羽蟻流産か 中戸川朝人 残心
黒髪にすがりて点る螢かな 鈴木貞雄
黒髪に吹きつける風紅梅へ 高澤良一 さざなみやつこ
黒髪に山鹿灯籠点りけり 岩切貞子
黒髪に戻る染め髪ひな祭 西東三鬼
黒髪に打電いくつも夏の海 渡辺誠一郎
黒髪に挿すはしやみせんぐさの花 横山白虹
黒髪に結びしを山鹿灯籠と 後藤比奈夫
黒髪に芝火のにほひ伊豆の女中 鷹羽狩行 誕生
黒髪に落葉そのまま五十年 鳴戸奈菜
黒髪に雪とめて巫女初帚 大橋敦子 勾 玉以後
黒髪のいつ失せるやと福笑 飯島晴子
黒髪のおとろへ知らぬ雛かな 長井紀子
黒髪のおどろに針を納めけり 加藤三七子
黒髪のしろくなるまで相寄ればいにしへびともさきはひとせり 土岐善麿
黒髪のたたまれてゆくそぞろ寒 渡部陽子
黒髪のわつと広がる初湯かな ますぶち椿子
黒髪の中に耳あり夜の梅 鈴木鷹夫 千年
黒髪の冷き棺に崩折れて 京極杞陽
黒髪の冷を束ねる初ざくら 舘岡沙緻
黒髪の匂ふ雛市日和かな 水田光雄
黒髪の国の二日を黙し征く 平畑静塔
黒髪の女人へ弾み初蹴毬 高見寿放
黒髪の如くゆらぐ藻箱眼鏡 小林樹巴「かつらぎ選集」
黒髪の根よりつめたき雛かな 田中裕明
黒髪の母が降り来る椿山 斎藤愼爾 冬の智慧
黒髪の涼しく眼そらしけり 上村占魚 『鮎』
黒髪の白くなるまで牡蠣を打つ 本宮鼎三
黒髪の細る音して春の闇 糸山由紀子
黒髪の黒ふえもどる氷割り 寺田京子 日の鷹
黒髪は宇治の生れと掻氷 鈴木鷹夫 風の祭
黒髪は海女にもいのち真水浴ぶ 石井とし夫
黒髪は眠らずにゐるきりぎりす 大木あまり
黒髪もうなじも婚期風光る ましお湖
黒髪も雪になびけてわれ泣かず 篠原鳳作 海の旅
黒髪も風に波立つ春岬 丸毛房子
黒髪や水を塒の秋の水 河原枇杷男 定本烏宙論
黒髪や汝が影という異郷 斎藤冬海
黒髪や足袋干す下の梳り 野村喜舟 小石川
黒髪をかきあげてわが銀河かな 仙田洋子 雲は王冠
黒髪を乱してかるたとりにけり 下村梅子
黒髪を剪りそびれたる遅日かな 仙田洋子 雲は王冠
黒髪を手にたぐりよせ愛しさの声放つまでしひたげやまず 岡野弘彦
黒髪を持つ憂さ枇杷の熟るるころ 三木照恵
黒髪を束ねしのみよ合歓挿さな 佐々木有風
黒髪を梳くごと麻を挽きにけり 鈴木貞雄(若葉)
黒髪を梳くにも瀬に佇つ峡もみぢ 柴田白葉女
黒髪を梳くや芙蓉の花の蔭 日野草城
黒髪を波にあづけて泳ぎ出づ 檜 紀代
黒髪を洗ひて宿の大晦日 飯田法子
黒髪を男刈りせり牡丹咲く 殿村莵絲子 牡 丹
黒髪を船に祀りて鮪追ふ 歌津紘子
黒髪を首にからめて雪女 松村多美
黒髪山は神在す山瑠璃鳴けり 小山陽子(杉)
黒髪庵涼しや路地の奥まりに 石黒哲夫
●黒々 くろぐろ 
たかんなの今朝黒々と見捨てらる 下坂富美子
もぐら塚濡れて黒々大花野 竹内雪絵
ものうい通夜の星空へ夜業の煙が黒々とのぼつている 橋本夢道 無禮なる妻抄
ハブの子の目の黒々と雨期となる 岸本マチ子「残波岬」
九輪水煙黒々とあり初茜 川崎展宏 冬
人形の目の黒々と夜長星 島田仙海
北風や黒々と立つ防風林 浅井ふみゑ
双眸の黒々として夜の秋 川口真理
合掌の梁黒々と根深汁 初川トミ子
名月や寺の大屋根黒々と 石川とみ子
夕日背に黒々と山眠りたる 稲畑廣太郎
夜桜や幹黒々と逞しき 石崎鬼門
幽霊茸引けば黒々土掴む 鈴木貞雄(若葉)
接骨木の花や黒々土間の土 ますぶち椿子
春日や種子黒々と地に移す 北園克衛
暮春かな山黒々と川を抱き 中村苑子
月白の森黒々と発光す 横井理恵
杜若に水黒々と暮れにけり 青峰集 島田青峰
櫨は実を黒々垂らし冬に入る 山口青邨
氷雨降る鹿のひとみの黒々と 金子純子
淵瀬より黒々のぼる寒き山 松村蒼石 雁
耕せば土黒々と息をせる 倉田健一
肥効いて稲黒々と田水沸く 市村究一郎「東皐」
蝶黒黒舞ひ込む木蔭けうとしや 太田鴻村 穂国
雪渓へ馬柵黒黒と新冠 毛塚静枝
鷹を吹き上げて黒々鞍馬杉 茨木和生 遠つ川
黍畑の闇黒々と黍の立つ 井上 隆幸
黒々とうしろ立山曼珠沙華 山路紀子
黒々とひとは雨具を桜桃忌 石川桂郎 含羞
黒々と冬木そのものありにけり 京極杞陽 くくたち上巻
黒々と初髪結ひし頃もあり 鈴木民子
黒々と夜船かゝれる千鳥かな 岡田耿陽
黒々と富士の素顔や九月尽 栗田やすし
黒々と寒の鰍の男ぶり 矢島渚男 延年
黒々と山動きけり夜の秋 星野椿
黒々と幹走り居り花の中 温亭句集 篠原温亭
黒々と日向の芝の焼けて行く 高浜虚子
黒々と松の傾く寒の雨 山田弘子 懐
黒々と松前帰る日の礁 三上冬華
黒々と藻の打ち上がる秋の風 長谷川櫂 天球
黒々と雪に影あり松の月 雪 正岡子規
黒黒と蛇が噤みて山つ方 和田悟朗
おでん酒風くろぐろと吹き通り 草間時彦
かまつかに吾れくろぐろと征かむとす 金子兜太 少年/生長
くろぐろと*ひつじ田かへす耕運機 長谷川太郎
くろぐろとふはと藁灰夏炉かな 舩山東子
くろぐろと前へゆくのみ寒行者 伊藤通明
くろぐろと和銅坑開く岩菲かな 橋本檜山「青峠」
くろぐろと土の匂いの穀雨かな 針ヶ谷里三
くろぐろと大文字待つあたま数 川村悠太
くろぐろと富士は宙吊り冬霞 横山白虹
くろぐろと東寺はありぬ春の雨 川崎展宏
くろぐろと梅雨入の八ケ岳の大つむり 高澤良一 ももすずめ
くろぐろと沖波あがる十三夜 川崎展宏 冬
くろぐろと波畳まれて十三夜 河合凱夫
くろぐろと津軽がありし雪起し 青山法破来
くろぐろと海立ち上る大夕立 稲井優樹(白桃)
くろぐろと熊野の零余子こぼれ落つ 岩淵喜代子
くろぐろと田毎の土を耕せる 京極杞陽 くくたち下巻
くろぐろと睫毛のあれば春眠し 草深昌子
くろぐろと立つ雷鳥の夏姿 由山滋子
くろぐろと精霊舟を曳きし跡 高澤良一 ねずみのこまくら
くろぐろと行きあかあかと除夜詣 渡辺啓二郎
くろぐろと調律師出て花曇 鳥居おさむ
くろぐろと闇たぐりこみそそり立つ大樟おとこならば惚れむに 久々湊盈子
くろぐろと雪のない路ちかく見ゆ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
くろぐろと雪片ひと日空埋む 相馬遷子 山國
七夕の夜はくろぐろと広瀬川 石垣絢子
人肌を知りてくろぐろ雪うさぎ 櫂未知子 貴族
八月や月餅の餡くろぐろし 内田美紗 魚眼石
回遊の鱒くろぐろと葛嵐 中戸川朝人 尋声
夕ざくら髪くろぐろと洗ひ終ふ 鷲谷七菜子(1923-)
屋根替の人くろぐろと跳ぶごとし 冨田正吉
山桜髪くろぐろと那智詣 斉藤夏風
岸の草青めり川はくろぐろと 石塚友二
後の月東寺くろぐろ浮かびけり 今井圭子
掘り起こす土くろぐろと穀雨かな 伊藤節子
揚花火貨車くろぐろと迫るかな 中戸川朝人 残心
星まつりたゞくろぐろと空がある 林原耒井 蜩
木犀が匂いくろぐろ眉毛のび 和知喜八 同齢
桜餅顔くろぐろと男まへ 川崎展宏
梅の幹くろぐろと梅雨待ちゐたり 高澤良一 ねずみのこまくら
流星群能登くろぐろと北へ伸ぶ 綾野南志
漆掻く溝くろぐろと天台寺 高杉利十
烙印は二等辺三角形 恥毛くろぐろとある 山田敏郎
破芭蕉欠航の文字くろぐろと 長谷川閑乙
秋燕や海中は藻のくろぐろと 岸本尚毅 舜
種浸す朧夜の杉くろぐろと 中拓夫 愛鷹
肥効いて稲くろぐろと田水沸く 市村究一郎
花豆をくろぐろ煮たる二月かな 市村究一郎
見夜火堂夜叉倍子の実のくろぐろと 高澤良一 鳩信
逆光の塔くろぐろと遅日かな 玉垣 咲良
酒精欲りくろぐろ寝れば海鼠めく 豊間根則道
野火止の土くろぐろと牛蒡引く 太田明子
降りそそぐ雨くろぐろと送り梅雨 清水孝男
雪ふんで靴くろぐろと獄吏かな 飯田蛇笏
露の那智護符にくろぐろ烏文字 宮津昭彦
露霜にくろぐろとして菊の叢 彷徨子
鰻屋の字のくろぐろと花吹雪 仙田洋子 雲は王冠
●黒し 
*はまなすや沖にかゝりて船黒し 岸風三楼 往来
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
いつしかに桑の葉黒し秋の風 秋風 正岡子規
おもかげに顕ちくる君ら硝煙の中に死にけり夜のダリア黒し 宮柊二
くらやみの冬木の桜ただ黒し 三橋敏雄 畳の上
ここいらの犬みな黒し芋嵐 遠山陽子
ここ過ぎて霜陣営の賤ヶ岳山柿の実は棘より黒し 山崎方代
さして行く牛島黒し月見船 不白
はつきりと霞の中に鳶黒し 霞 正岡子規
びつしりと地に寂光の羊歯黒し 三谷昭 獣身
ほつかりと月夜に黒し鹿の影 鹿 正岡子規
もろもろの寒さ育てゝ海苔黒し 右城暮石 上下
アネモネの蕊黒し家追はれをり 岡田貞峰
七月の家ゆるがせて汽車黒し 桂信子 黄 炎
三角に神島黒し初日の出 大川嘉智香
下校の子散りゆき黒し雪深し 宮津昭彦
並ぶ鵜のみづかき黒し月の舷 吉野義子
九官鳥黒し烈しき夏なりき 甲田鐘一路
人黒し朧月夜の花あかり 朧月 正岡子規
休日をとざす冷雨の松黒し 大井雅人 龍岡村
俎に流す血黒し秋夕焼 桂信子
元日の炭売十の指黒し 其角
冬の川黒し酔ふため集ふ灯か 佐藤鬼房
冬服と帽子と黒し喪にはあらぬ 谷野予志
冬雁のゆき水中に畦黒し 西村公鳳
切西瓜発止々々と種黒し 後藤比奈夫
千年の建物黒し冬木立 冬木立 正岡子規
南薫と看板黒し柿若葉 長谷川櫂 古志
名月やともし火白く犬黒し 名月 正岡子規
吾等の祖の村土黒し蝶鮮らし(内田稔神戸より来たり遊ぶ登呂遺蹟) 飴山實 『おりいぶ』
地にころがる釘抜黒し油照 目次翠静
墨こねて服まで黒し女来な 品川鈴子
夏草や母親のみな衣黒し 中村汀女
夜桜の幕の隙間の海黒し 皆川白陀
女医明るし狂院の池昼黒し 八木三日女 紅 茸
媾曳の跨ぎし水の蝌蚪黒し 藤田湘子 雲の流域
子祭や大根白く神黒し 嘯山
家に入る電線黒し柿若葉 日向野初枝
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
岩山に生れて岩の蝶黒し 西東三鬼
岩鏡山雨に男濡れて黒し 村越化石「独眼」
巌の鵜の闇より黒し初日待つ 清水貴久子
平貝の殻の大いさ愚なるがごとくにて黒し 中塚一碧樓
御像の鉄より黒し秋時雨 沢木欣一
御車に梅ちりかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
忘られし冬帽きのふもけふも黒し 橋本多佳子
房垂れに櫨の実黒し初時雨 五十嵐播水 播水句集
打たんとす蜘蛛黒し蜘蛛身をひろげ 畑耕一 蜘蛛うごく
新茶青く古茶黒し我れ古茶飲まん 正岡子規
早乙女の遠き欠伸の口黒し 平畑静塔
昏れ落ちて秋水黒し父の鉤もしは奈落を釣るにあらずや 馬場あき子
春雨によごれて黒し赤鳥居 春の雨 正岡子規
月光の集まり船首文字黒し 阿部完市 無帽
月明のトロッコ走りたく黒し 渋谷道
東寺の塔黒し田水の沸きにけり 宇佐美魚目
松の木のすき影黒し青簾 青簾 正岡子規
松明に梅散りかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
松杉の上野は黒し雪の中 雪 正岡子規
枯野ゆくまづしきものの服黒し 成瀬桜桃子 風色
枸杞の芽の傷みて黒し春の霜 高橋春灯
梁のいよいよ黒し雪囲 片山由美子 天弓
森黒し月夜に光る屋根の露 露 正岡子規
水鳥の月出て黒し眠らんか 金子兜太
河黒し暑き群集に友を見ず 西東三鬼
海老の眼のあまりに黒し年忘れ 横山白虹
海老赤く穂俵黒し鏡餅 鏡餅 正岡子規
海苔黒し観音堂に登り来て 右城暮石
海黒し子の手袋に掴まれて 田原千暉
涼し黒し一船は皆丸裸 涼し 正岡子規
渦潮に朝蝉の島青黒し 宮津昭彦
漆工の爪先黒し初仕事 漆谷豊信
濡れしるき若布刈女わかめより黒し 町田しげき
火消壺昼のくらがり馴れて黒し 殿村莵絲子 遠い橋
烏の子もとより黒し泣きにけり 成瀬櫻桃子
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
父の帯どろりと黒し雁のころ 大石悦子
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子 花寂び 以後
片枝は磨鉢黒し梅の花 梅 正岡子規
甕の濡れ一条黒し万緑下 静塔
生家黒し茶の花はまた雨の花 塩野谷仁
画をかき字をかきて長松が扇終に黒し 尾崎紅葉
白き掌にコルト凛々として黒し 日野草城
盆のともしび仏眼よろこびて黒し 飯田龍太
真清水の極みは黒し鮴のうを 高橋睦郎「金沢百句」
石摺のその跡黒し山桜 山桜 正岡子規
研ぎあげて包丁黒し秋の空 長谷川櫂 古志
秋の海双眼鏡に帆が黒し 宇佐美魚目
立てかけて雨月の傘の皆黒し 大野林火
竹の葉や近くは黒し冬日向 滝井孝作 浮寝鳥
筧ありつゝじは赤く米黒し つつじ 正岡子規
紅葉やく烟は黒し土鑵子 紅葉 正岡子規
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
花にうき世我が酒白く飯黒し 松尾芭蕉
花桐に烏がとまりあな黒し 林原耒井 蜩
芳草や遺影百日髯黒し 百合山羽公 寒雁
荒行太鼓ひびく椎茸榾黒し 加賀美子麓
落ちさうな冬オリオンヘ椰子黒し 都筑智子
蛇の眼へ墜ちゆく壺の水黒し 河野多希女 こころの鷹
蛭泳ぐ余呉湖の田螺蜷黒し 右城暮石
蜜豆の寒天ごしの蜜黒し 如月真菜
蝌蚪の水黒し汚職の雲映り 岩田昌寿 地の塩
蝌蚪黒し汽笛が山にへだてられ 右城暮石 声と声
蝙蝠は飛んで五重の塔黒し 蝙蝠 正岡子規
西空焼け人影冬木ともに黒し 三谷昭 獣身
賤が屋に蚕は白く牛黒し 蚕 正岡子規
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼(1900-62)
越中海鵜黒し黒くて寄るとさわると 阿部完市 軽のやまめ
遠き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼
遠景に近景黒し蔦の家 森田智子
雛の眼は黒し飛行機とゞろける 渡邊水巴 富士
雨ふりていよ~黒し冬木立 高橋すゝむ
雨合羽峡の田植はただ黒し 林翔 和紙
雨蕭々建蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雨蕭々蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀 西東三鬼
颱風は去りぬつくづく牛黒し 榎本冬一郎 眼光
鯛焼のはらわた黒し夜の河 吉田汀史
鴉の子もとより黒し声太し 右城暮石 声と声
麦笛を捨て工場の塀黒し 萩原麦草 麦嵐
黒し白し雪渓交ふ地の牙は 林翔 和紙
●黒潮 
あたたかや黒潮逃ぐる指の股 高井北杜
うごきゆく黒潮が見ゆ花茨 大屋達治 絵詞
つちふる夜黒潮を来し鰹食ふ 矢島渚男 延年
はや花菜黒潮も端はみどりなす 宮津昭彦
フレームや黒潮の玻璃めぐらすか 加藤三七子
ホピー摘む声に黒潮応へけり 赤羽正行
初東風に沖黒潮の帯をひく 富安風生
初東風に沖黒潮の帯太く 富安風生
坊津に黒潮やすむ仏桑華 矢島渚男「船のやうに」
壺焼や夜も黒潮の流れゐる 井上康明
天の川真夜黒潮とゆれかはす 渡辺恭子
岬鼻を黒潮洗ふ椿かな 深見けん二 日月
探梅や黒潮流るあきらかに 中拓夫
枇杷啜り土佐の黒潮したたらす 渡辺恭子
梅雨明くる黒潮の黒引き締まり 竹本仁王山
椿は実に黒潮は土佐を離れたり 米澤吾亦紅
浜木綿に 黒潮の・背を きこうとする 吉岡禅寺洞
海苔掻きの手を黒潮に曳かれけり 古舘曹人 樹下石上
湾に入る黒潮の波干大根 川崎展宏
病みぬけし寒の黒潮ながれたり 千代田葛彦 旅人木
竹皮を脱ぐ黒潮の高鳴りに 渡辺恭子
花曇黒潮曇いづれとも 伊藤柏翠
若菜野に黒潮の風ゆきわたり 猪本清代子
蘇鉄咲き黒潮荒き雨降らす 神尾季羊「石室」
遍路笠沖は黒潮流れをり 益本三知子
野馬に霧ながれ黒潮夜も蒼し 神尾久美子
長子得し胸に冬黒潮の紺 大岳水一路
鯉幟沖を黒潮とほりゐる 中拓夫
鰹舟南風の黒潮漕げり見ゆ 西島麦南 人音
鳥帰る黒潮しぶく熔岩岬 阪井節子
鳥雲に入る黒潮の憮然たり 鈴木鷹夫 千年
鷹渡るとき黒潮の満つる音 宮田正和
黒潮か血しほ岸を打つ硫黄島 中勘助
黒潮と別るる岬雁渡し 鈴木鷹夫 千年
黒潮にふるゝ銀河の響かな 武田玄女
黒潮に乗りしもあらん花筏 増田河郎子
黒潮に影もこぼさず鳥渡る 上野さち子
黒潮に秋がひろがりゐたりけり 柏 禎
黒潮に秋陽たゆたひねむりけり 中川宋淵
黒潮に突き刺さりては飛魚の群 長谷川閑乙
黒潮のいろ濃き鮪糶り落す 松本幹雄
黒潮のうねりて太し雲の峰 溝口みさを
黒潮のうねりて秋刀魚競る町に 青畝
黒潮のうねりの彩の握り鮨 富田昌宏
黒潮のうねりを沖に畑を打つ 安福春水
黒潮のその色なせる鰤を揚ぐ 前田鶴子
黒潮のとどろき寄する深田打 渡辺 立男
黒潮のどよもしてゐる蕗の薹 高木良多
黒潮の下の径ゆく遍路かな 中島月笠
黒潮の中の一点鰹船 坂本鬼灯
黒潮の人魚にもなり髪洗う 中村竹子
黒潮の午後のかゞやぎ椿照り 高濱年尾 年尾句集
黒潮の寄せる白波海桐の実 青木起美子
黒潮の帯あきらかに海四温 井沢正江
黒潮の気勢に乗りて船起し 大西比呂
黒潮の沖が雲呼ぶ袋掛 岩崎洋子
黒潮の沖に島ある朧かな 福島せいぎ
黒潮の沖へひびきて行々子 深見けん二
黒潮の沖透くままに鵯の木々 佐野まもる
黒潮の海より立てり雲の峰 道先凛宗
黒潮の潮の岬のさくらかな 原子公平
黒潮の礁を砦に天草海女 楓巌濤
黒潮の紫紺に夏は立ちにけり 渡部抱朴子「天籟」
黒潮の色香染み込みたる鰹 岩城鹿水
黒潮の荒磯狭しと初鴉 楓巌濤
黒潮の遠かがやきに桃の花 織田鶴子
黒潮の闇に灯れる鯖火かな 楓巌濤
黒潮の風あたたかき冬の蝶 土永竜仙子
黒潮の風に色もつ金盞花 長野美恵子
黒潮の風立つ島の鬼やらひ 佐野美智
黒潮の香のいまだある鰺叩く 間地みよ子
黒潮の騒ぐ匂ひや鯨追ふ 田中化生
黒潮の黒の深まり菜種蒔く 延平いくと
黒潮は旧正荒れや卓球す 宮武寒々 朱卓
黒潮は鰤場鰤場を経ていたる 長谷川素逝
黒潮へ傾いてゐる葱坊主 坊城 俊樹
黒潮へ傾き椿林かな 高濱年尾 年尾句集
黒潮へ揺るる思慕かも島桜 渡辺恭子
黒潮も端はみどりぞ大南風 伊藤通明
黒潮や憚かるごとくすみれ淡く 香西照雄 素心
黒潮や渓に沿ひ来る夏遍路 林 晴美
黒潮を二枚三枚白拍子 夏石番矢 楽浪
黒潮を控へて岬の寺の梅 高濱年尾 年尾句集
黒潮を流れ来たりしさくら貝 神尾久美子
黒潮を眼下に竜馬像暮春 宮武寒々 朱卓
黒潮を背負ひし色の鰹かな 坊城中子
黒潮を貫く海女の命綱 山下兎月
黒潮を越え来し漁夫に愛の羽根 南光 翠峰
黒潮を食い散らしゐる伊豆の国 佃 悦夫
●群青 
八月ちりぢり逃げて逃げて群青 森田緑郎
冬波の古代群青の水かゞみ 齋藤玄 飛雪
初弥撒や群青の馬の充ち来よ 山本 掌
双つ峰群青に暮れ橋涼み 沖山政子
天に劇場ありK百番は群青 前田圭衛子
帯締めを群青にきめ花を見に 伊藤敬子
底ひなき瀞の群青岩燕 高橋道子
曼荼羅の群青涼し芦峅寺 新保ふじ子
月凍つる群青の村その下に 岡田順子
桜鯛猛き群青鰭に秘め 神尾久美子
海霧透きて波の群青よみがへる 仙田洋子 雲は王冠
瀧落ちて群青世界とゞろけり 水原秋櫻子
白魚に群青の息残りたり 宇多喜代子
破れ障子から群青の東京湾 櫂未知子 貴族
秋暑き洲に群青の川ひとすぢ 松村蒼石 雁
群青が満ちてひとりの刻揺るる 大西泰世
群青といふ名の囀りを聞いてゐし 安東次男
群青に川の流るる桜かな 野村喜舟
群青に雲刷く朱夏の国大和 太田鴻村
群青のあやめや蝶を炎えたたす 萩原麦草 麦嵐
群青のすぢひいて雉翔りけり 林徹
群青の乳房盛り上げ夏岬 高橋悦男
群青の毛布の時化てをりにけり 櫂未知子 蒙古斑
群青の氷河湖見えて夏木立 中村昌恵
群青の海と照り合ふ椿山 野間喜代子
群青の海に櫂漕ぐ冬の夢 妹尾 健
群青の秋見ていたり赤ん坊 津沢マサ子 華蝕の海
群青の空あたたかに波郷の忌 石塚友二
群青の空の戻りて小鳥来る 田畑由子
群青の空ひるがへし海女潜く 堀 康代
群青の空張る池塘ゐもり浮く 近藤 暁代
群青の空抜けられず岩つばめ 鈴木正子
群青へ滝こそひびけ喜雨亭忌 矢野 聖峰
群青をなほ染め上げし冬の海 山岡正嗣
群青をぬけ白鳥の白きわむ 蔵 巨水
群青をゆたかに溶かし光琳忌 高浜虚子「虚子全集」
群青を岩にぶつつけ秋の水 小坏健水
群青を恋ひ一月の船にあり 友岡子郷 未草
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
臭木の実群青といひ瑠璃といひ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
草矢飛ぶ群青界を突き抜けて 山内遊糸
見上ぐれば五十億年の群青や 冨岡和秀
阿夫利嶺の空群青に鯉幟 三橋喜代
霧を来ていま群青の登山隊 篠田悦子
額づきし草城の墓碑冬群青 山本つぼみ
●紅白 
おしろいの花の紅白はねちがひ 富安風生
おのづから罌粟紅白に蔬菜園 飯田蛇笏 春蘭
おぼろにて一樹紅白の落椿 水原秋櫻子
こゝに二人梅に紅白あるごとく 久保田万太郎 流寓抄
さきがけし紅白二本梅林 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
じやがたらの花の紅白相涼し 西本一都
ぼうたんの終の紅白大雄寺 河合寿子
み仏に切る紅白の千日草 野口丈二
ワイングラス合はせよ卓に吾亦紅 白岩 三郎
乗込口幟紅白鳥渡る 毛塚静枝
人の世のからくり白玉紅白に 鈴木真砂女 夕螢
八重椿紅白の斑のみだりなる 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初剪りの紅白の牡丹靄の中 阿部みどり女 月下美人
咲きわけて紅白淡し冬の梅 小林碧郎
如来賞でらるる紅白の花氷 山口超心鬼
宝恵駕の紅白の紐いのち綱 橋本美代子
床の間に梅の紅白闘病とは 鈴木鷹夫 大津絵
御手洗へ雨がこぼせし萩紅白 永井龍男
恋衣紅白彼岸の青芝に 香西照雄 素心
新春や綱紅白に神の牛 中山咲枝
春一番紅白饅頭届きけり 内田美紗 浦島草
松蔭や紅白しるき牡丹なる 尾崎迷堂 孤輪
梅園や紅白枝垂れ且つ撥ねて 石塚友二 光塵
梅紅白戦後所帯に国旗無く 鍵和田[ゆう]子 未来図
梵天の餅紅白よ雪に売る 宮野斗巳造
海潮音木瓜の紅白冴え分る 瀧春一 菜園
源平桃にも紅白散りみだれ 花蓑
源平桃地にも紅白散りみだれ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
瀬を挟み梅紅白に咲き分かれ 伊東宏晃
白粉の花の紅白はねちがひ 富安風生
睡蓮の紅白妻も夢保て 中村草田男
磨硝子ごしの紅白シクラメン 山中弘通
秋風や紅白粉も身に古りし 岡本眸
紅白に空を分ちて梅ひらく 高橋悦男
紅白のさみしきものや秋櫻 上野泰
紅白のなますのけぞる藁盒子 岡田文子
紅白のはんぺんの寒見舞かな 小林篤子
紅白の切山椒を打ち重ね 増田手古奈
紅白の幔幕つかみ稲子麿 安部元気
紅白の幕のふくれて卒業す 田中英子
紅白の提燈ともすキャムプかな 田中冬二 行人
紅白の松葉牡丹に母をおもふ 原石鼎
紅白の枝差し交す梅浄土 野間口一夫
紅白の梅や埼玉よき日和 川崎展宏
紅白の梅両袖に葺き上る 荒井正隆
紅白の梅見えてくる氷かな 岸田稚魚 『雪涅槃』
紅白の牡丹と競ひ招かれぬ 杉本寛
紅白の牡丹朝日に開きけり 牡丹 正岡子規
紅白の睡蓮水も紅と白 鈴木鷹夫 風の祭
紅白の紅水引の花の紅 後藤夜半 底紅
紅白の菓子高坏に業平忌 本谷久邇彦
紅白の萩こぼれつつ風を呼ぶ 伊藤芙美子
紅白の萩伯仲と見えにけり 阿波野青畝
紅白の萩門前に咲き分けし 館岡沙緻
紅白の蓮を隔つ陶の橋 後藤夜半
紅白の蓮擂鉢に開きけり 夏目漱石 明治二十九年
紅白の餅の柱やお命講 高濱虚子
紅白の餅大いなり大師祭 喜多栄子
紅白は大伯大津や寒牡丹 三嶋隆英
紅白もさみしきものよ秋桜 上野泰
紅白梅圖地底の踏みきり衝突あり 竹中宏 饕餮
繭玉の紅白なにごころなく揺らす 柴田白葉女 花寂び 以後
花杏紅白のあり紅晩る 西本一都 景色
萩根分して紅白を失したる 山田弘子 懐
藪入に梅の紅白咲きにけり 野村喜舟 小石川
鳳仙花紅白砂にけがれざる 林原耒井 蜩
●黄金色 
木苺の黄金色淡甘きかな 金子皆子「花恋」
黄金色の正午 からんと椰子殻干す 伊丹公子 ドリアンの棘
●黒衣 
ひらかねば孔雀は黒衣枯るる中 金子篤子
ゆく年を黒衣の僧と思いけり 久保純夫 熊野集
ラストシーンめきて黒衣の枯を行く 吉野義子
一月の桜並木は黒衣たり 中山洋子
伴僧は黒衣の幼児法然忌 猪股万起
修二会僧堂くらがりを出て黒衣 早崎 明
冬晴れの禍福いづれぞ黒衣装 飯田龍太
初彌撒へ黒衣白衣の尼出仕 保田白帆子
北海の冷えし海鼠のはらわたを買ひて提げたり黒衣まとひつ 倉地与年子
十三夜駅のベンチに黒衣人 伊藤京子
夏果てのよつてたかつて黒衣かな 内田美紗 魚眼石
憩ふときモデルは黒衣そぞろ寒 小金井絢子
掃き拭きに夏も黒衣の聖處女ら 下村ひろし 西陲集
曼珠沙華吉凶共に黒衣着て 田中政子
枯木燦黒衣少女の顎とがる 仙田洋子 橋のあなたに
枯野来る悪意と黒衣離れずに 久保純夫 熊野集
森たどる黒衣の神父ほととぎす 大島民郎
水汲女夏枯草を黒衣にて 加藤耕子
汗すべる黒衣聖母の歯をうがち 西東三鬼
炎天を黒衣まとひて神の使徒 林 友次郎
熱風の黒衣がつつむ修道女 中島斌雄「火口壁」
秋彼岸黒衣まとふは鴉のみ 坂本満子
秋涛に黒衣サーファー起ちて堕つ 恩知陽子
秋満つ寺蝶の行方に黒衣美女 西東三鬼
秋濤に黒衣サーファー起ちて堕つ 恩知陽子
粉雪が似合ふ黒衣の三姉妹 櫂未知子 貴族
紫雲英田に鴉の黒衣ピカソ逝く 橋本美代子
綿虫の狂ひとぶとき黒衣なる 阿部みどり女
聖黒衣成人式の晴着中 下村ひろし
茫々と月夜の花菜父は黒衣 大井雅人 龍岡村
著ぶくれて黒衣の農婦ロバでゆく 高木晴子 花 季
蛇苺黒衣聖女の指が摘む 秋元不死男
親鴉黒衣ひろげて子と別れ 鳥越すみこ
躬の汗や黒衣聖女に触れまじく 岸風三樓
遠蛙黒衣をひらく夜の欅 大井雅人 龍岡村
釜ケ崎黒衣まぎれこみ雨に 井沢唯夫
鵜の匠鵜と同族の黒衣装 野澤節子 黄 炎
黒衣の鵯が蹴散らす花襖 茂木連葉子
黒衣より掌を出し神父枇杷をもぐ 津田清子 礼 拝
黒衣一枚、凡夫である私が歩いている 住宅顕信 未完成
黒衣僧月界より橇に乗りて来ぬ 飯田蛇笏 山廬集
黒衣欲し木へ鋭角にとまるため 渋谷道
黒衣着てどこか破調の蝉時雨 櫂未知子 貴族
黒衣着てヨハネの墓を拝みけり 下村梅子
黒衣著て孫の後見初芝居 中村吉之丞
●黒色 
黒色の滲み容れたる冬夕焼 岡田三矢子
聖霊はきつと黒色クリスマス 田川飛旅子 『邯鄲』
●黒白 
むささびの飛ぶ黒白の夕景色 長谷川双魚
処刑塔に黒白の鳩朝ぐもり 鍵和田[ゆう]子 浮標
尼の衣の黒白すがし竹の秋 瀧 春一
惜春の妻を黒白にして撮す 吉館曹人
挨ふかし黒白綿かかる神の留守 調試 選集「板東太郎」
捨菊に黒白分ちなほ枯るる 齋藤玄 『狩眼』
揚羽飛ぶ黒白といふけぢめあり 藤田湘子 てんてん
日食や飛雪黒白こもごもに 栗生純夫 科野路
梅雨の森黒白の蛾のもつれたつ 福永耕二
目つむるや黒白さだかに虫の闇 石塚友二 方寸虚実
突風や喪服黒白春うたた 阿波野青畝
雲の黒白袂にあそぶ秋の銭 斎藤玄
風死んで黒白分つ一街路 有馬朗人 母国
黒白の斎藤茂吉雪降れり 和田悟朗
黒白の櫻あらがふ國つ神 仇なせる筑紫・白縫のつくし 筑紫磐井 未定稿Σ
黒白の魂魄ちゞれ蟻の塔 八木三日女 石柱の賦
黒白を以て眼なり涼し 桑原三郎
黒白を問ふ鋭さにつかのまの稲妻われをあらはにいたる 蒔田さくら子
●焦げ茶
●呉須 
さやけしや呉須を溶きたる硯石 井山幸子
呉須淡く嘉兵衛が陶の舟枕 品川鈴子
猫そばに呉須愛で庭の萩をめづ 及川貞 榧の實
砥部の呉須ことに色さゆ石蕗の花 松崎道子
陶枕の呉須の長江下りかな 飴山實 『花浴び』以後
陶枕や呉須の七賢夢に出よ 秋田卯子
●コバルト 
コバルトの 空の下からきた 山笠見の人たち 吉岡禅寺洞
コバルトの湖の覗ける樹氷かな 谷口白葉
コバルトの空の雫や竜の玉 内山眠龍
夏潮のコバルト裂きて快速艇 牛田修嗣(狩)
絵芝居の絵のコバルトの空も秋 久米正雄 返り花
雪虫のコバルトほどの愛が欲し 金箱戈止夫
●濃緑 
あさみどり濃みどり綾に冬菜畑 星野立子
からし菜が濃緑に夜や明けぬらし 前田普羅 新訂普羅句集
七種のどれも濃みどり粥の中 上田芳子
早苗束濃緑植田浅緑 高野素十
窪みあるあたり濃緑青き踏む 上野泰 春潮
緑蔭の濃みどり未生以前の父母 松井利彦
羽子やす~空の濃みどり越えて来る 中島月笠 月笠句集
若菜野の濃みどり若菜のみならず 皆吉爽雨
草餅の湯気も濃みどり女人寺 大見川久代
藍茂り初めし濃みどり薄みどり 上崎暮潮
●濃紫 
*はまなすや豊後水道濃むらさき 横山康夫
いちじくの濃紫から喪があける 植田次男
うすものゝ重り合ひて濃むらさき 青邨
かな女忌の来る鉄線の濃むらさき 殿村菟絲子(馬酔木)
からぐろの黒からず茄子の濃紫 茄子 正岡子規
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
たかんなの産毛の奥の濃紫 宮津昭彦
ややねびし人の春著の濃紫 松本たかし
アネモネや来世も空は濃むらさき 中嶋秀子
グラスの酒透けりアネモネ濃むらさき 柴田白葉女
ヒヤシンス二列に咲きて濃紫 城戸崎松代
ヘリオトロープ香籠めに千々の濃紫 文挟夫佐恵
一枝の濃紫せる紅葉あり 竹下しづの女 [はやて]
冬すみれ雨の重たき濃紫 清田たか
初空や地に葉牡丹の濃紫 碧雲居句集 大谷碧雲居
別霜夜干のものの濃紫 石橋秀野
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
喪に服しゐる間にもはや濃紫花 辻口静夫
夜桜に星無き空の濃紫 成瀬正とし 星月夜
大淀とありてあやめの濃紫 久保田万太郎 草の丈
富士は雲に沈みあやめは濃紫 渡辺水巴
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
己生えしてゐて紫蘇の濃紫 藤田文子
帰省子に葉がくれ茄子の濃紫 水原秋桜子
手に受けて通草の花粉濃むらさき ふけとしこ 鎌の刃
早春の松に烏や濃紫 星野立子
春の夢濃紫を残しけり 高橋睦郎 金澤百句
春眠や覚むれば夜着の濃紫 松浜
春駒や染分手綱濃紫 籾山梓月
朝顔のぱつと開きし濃紫 星野椿(1930-)
朝顔のまだ咲きつゞく濃紫 桐野 慎吾
朝顔の昔の色の濃むらさき 寺谷なみ女
朝顔の蔓を離れて濃紫 星野 椿
朝顔の裂けてゆゝしや濃紫 石鼎
木々冬芽凍のゆるみに濃紫 前田普羅 飛騨紬
校庭のプール濃紫にて遠し 対馬康子 愛国
桔梗の二夫にまみえて濃紫 阿部宗一郎
河骨の浮葉か寒し濃むらさき 石川桂郎 高蘆
濃紫なる春眠の世界かな 成瀬正とし 星月夜
火の神のゐまさぬ阿蘇は濃紫 久米正雄 返り花
炎天下磨滅鉄蓋濃紫 香西照雄 対話
生きたかり埋火割れば濃むらさき 川口重美
秋燕や荒船山も濃むらさき 伊藤敬子
秋風や子に拾ふ貝濃むらさき 堀口星眠 営巣期
窓の樹や藤たかだかと濃むらさき 飯田蛇笏 春蘭
竜胆の日を失ひし濃紫 山口誓子
管物の盃咲きの濃むらさき 高澤良一 宿好
紫の袷袖口濃紫 高野素十
紫蘇の実も夜明の山も濃紫 木下夕爾
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
花菖蒲大淀と咲く濃紫 長谷川かな女 雨 月
芳草や黒き烏も濃紫 高浜虚子(1874-1959)
茄子通草九月はものの濃むらさき 稲垣きくの 黄 瀬
草籠に秋暑の花の濃紫 飯田蛇笏 山廬集
菜の花や一葉は寒の濃紫 渡辺水巴 白日
萌えいでよ春は菫の濃むらさき 麦南 (男孫二人の後、今春はじめて女孫誕生、すみれと名づく)
葉牡丹のそらざまの葉の濃紫 下村槐太 光背
蟻出でし穴は日照りて濃紫 中村汀女
鉄線の終の一花も濃紫 松岡ひでたか
雲間より垂れたる藤の濃紫 福田蓼汀 山火
風に咲く楝の花の濃むらさき 星野椿
高原や桔梗ゆゝしき濃紫 高橋淡路女 梶の葉
鰭見せて逃ぐるかぢきは濃紫 拓水
●紺 
*はまなすや親潮といふふかき紺 豊長みのる
あくがれて夏蝶と越ゆ海の紺 金箱戈止夫
あさあけの男体山は紺のいろふかくふくみて目に近くあり 鹿児島寿蔵
あさがほの全き紺に寺をとこ 柴田白葉女 花寂び 以後
あぢさゐにさびしき紺をそそぎゐる直立の雨 そのかぐはしさ 大辻隆弘
あらあらと紺ながれたる捨団扇 川崎展宏
いよゝ濃し種下ろす日の沼の紺 石井とし夫
うすうすと紺のぼりたる師走空 飯田龍太
うすものの胸いたく緊む海の紺 櫛原希伊子
うすものや月夜を紺の雨絣 泉鏡花
うばはれし紺の裏おく歌留多かな 皆吉爽雨
おぼろ夜や紺を長子の色となし 石川雷児
かいつぶりいくど引きこむ空の紺 武川一夫
かせを干す紺屋の柳散りにけり 柳散る 正岡子規
かなかなや夕日のあとの海の紺 中拓夫 愛鷹
かなかなや夕雲の間の紺うごく 中拓夫 愛鷹
かばかりに高くて天の紺うすれ 井沢正江 以後
かもめどり截れば截らるる空の紺 楠本憲吉
きりぎりす鳴くたび緊まる海の紺 福谷俊子
けものみち猟夫の刺し子紺匂ふ 鈴木竜骨
この涼を色にたとへてみれば紺 星野立子
さくら咲きみちのくの空せつに紺 岡部玄治
さくら蘂降る制服の紺の肩 高澤良一 ねずみのこまくら
しかと着て身に沁む紺の絣かな 長谷川かな女 雨 月
その中の紺を選びし九月かな 木村三男
そもそものはじめは紺の絣かな 安東次男(1919-)
たましひは紺にてあらむ雪螢 三嶋隆英
たんぽぽや崖にくひ入る海の紺 太田 鴻村
ちぬ釣りの底は数十枚の紺 鳥居おさむ
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子(1901-94)
つばくらや海は季節の紺まさり 佐野まもる 海郷
はしたなく水薬にぬれし紺足袋よ 青愁 佐竹草迷宮
ひげ深く天の紺秘め龍の玉 河野静雲
ひとつ盗る秋なすの紺極まれば 角川春樹 夢殿
ひとへもの紺なか~に匂ふかな 野村喜舟 小石川
ふところに紺の香高し秋袷 前田普羅
ふと紺足袋そして一僧行つて谷 阿部完市 春日朝歌
ふるさとにただ親しきは茄子の紺 小寺正三
ふるさとに朝顔の紺海の紺 有働亨 汐路
ふるさとのひと雨ありし茄子の紺 伊藤京子
ふるさとの野菊の紺に溺れをり 秋山素子
ぼろ市や塀に拡げし紺絣 渡辺育子
まぶしさの鶴おちてくる北は紺 宇多喜代子
みちのくの菱の実採りの紺づくめ 松崎鉄之介
もぎたての茄子の紺や籠に満てり 星野立子
やすやすと亡母の齢くる野紺菊 つじ加代子
よく上げてゐる鮎釣りの紺づくめ 綾部仁喜 樸簡
よく焼けしたうもろこしや海の紺 きくちつねこ
よこはまに近づく紺の冬帽子 長谷川双魚 『ひとつとや』
りんだうのひらかぬ紺を供ふなり 柴田白葉女 花寂び 以後
わだつみの紺をまぢかに秋すだれ 若井新一
をだまきの紺の深さの父子の情 末増省吾
アスファルト隆まりて紺桐の花 香西照雄 対話
オホーツクの秋潮の紺銀狐の目 加藤楸邨
カンナの風農夫の影の紺となる 桜井博道 海上
タオルの紺泳ぎし体固く閉づ 中嶋秀子
プールの紺十月の寮ひつそりと 蒲田陵塢
メーデーヘ同紺の服同車の揺れ 榎本冬一郎
レグホン次々冬沼の紺見ゆる枝へ 香西照雄 対話
一の酉夜空は紺のはなやぎて 渡邊千枝子
一掬の風とよぎりし紺揚羽 伊藤柏翠
一氷湖空の紺さへ許さざり 古内一吐
一渓の紺を絞りぬ寒の川 稲垣陶石
一途なる上げ潮の紺鳥雲に 峯岸壽雄
万作やゆるびそめたる海の紺 行方克巳
万緑の一紺として四葩冴ゆ 石塚友二
三寒の四温紺屋の藍がたつ 青山久女
下り鮎山稜紺を裁ちにけり 大嶽青児
乾しものは紺の法衣や豆の花 高浜虚子「句日記」
二合より炊かぬ小釜や茄子の紺 蓬田紀枝子
亡き母の父の忌いつも紺のセル 田中英子
亡き母へ友も摘みをり野紺菊 古賀まり子
仰ぎ得し巴里の秋の空の紺 河野静雲
伊豆の海紺さすときに桃の花 澤木欣一
伏流に堪へず雪割る紺真水 平井さち子 紅き栞
光なき遠嶺の紺や十二月 大岳水一路
光太郎忌わが紺絣着古りたり 富岡掬池路
入れし刃をしめつけてをり茄子の紺 中村正幸
入社式紺一色に犇めけり 相馬沙緻
八朔の人の出入の紺のれん 安田源二郎
六甲の冷宿す紺竜の玉 山田弘子 懐
再会の紺を絞りぬ西出口 攝津幸彦
冬に入る山国の紺女学生 森澄雄
冬の日や茶色の裏は紺の山 夏目漱石
冬の蝿紺美しくあはれかな 野村喜舟
冬の雁紺の法被を落しけり 磯貝碧蹄館
冬帽子勃海の紺抜けて来し 井上 康明
冬待つや白善くいでし紺絣 野村喜舟 小石川
冬日消えとほき島山に紺還る 篠原梵 雨
冬服の紺まぎれなし彼も教師 星野麦丘人
冬服の紺ネクタイの臙脂かな 久保田万太郎 流寓抄
冬木立透きて深まる海の紺 小松世史子
冬来れば母の手織りの紺深し 細見綾子
冬浜を一川の紺裁ち裂ける 中村草田男(1901-83)
冬海の紺のひそかに忌を修す 原裕 青垣
冬海の紺を見つめて墓白皙 細見綾子 花寂び
冬滝の真上かの世の天の紺 井口☆子
冬田ゆく汽車や紺いろのわが座席 桂樟蹊子
冬蝶を翔たす庭師の紺の足袋 石川文子
凌霄花に紺の水着の群つどふ 大屋達冶
凧の子や仕立おろしの紺絣 高橋淡路女 梶の葉
凧高くいよいよ涸るる多摩の紺 中島斌男
凩の吹ききはまりし海の紺 深見けん二
刃を研ぐは人おもうこと野紺菊 渋谷道
切株が坐れと二つ野紺菊 太田土男
刈田ゆく袖を四角に紺絣 桂信子 遠い橋
初商の法被の紺が匂ふなり 古山千代子
初大師なり紺足袋の男など 神尾久美子 桐の木以後
初春や紺衣匂はす小袖海女 千葉艸坪子
初蝶に明けしばかりの海の紺 神尾久美子 掌
初雲雀海坂の紺胸高に 千代田葛彦 旅人木
初鵙に峡空の紺深まりぬ 藤嶋紫峰
北上川さむざむと遠く紺たたふ 川島彷徨子 榛の木
十月の紺たつぷりと画布の上 福永耕二
千代尼忌の朝顔紺の露ためて 泊 康夫
千屈菜のすこし藍染む紺屋裏 一丸文子
千曲川雪入れて紺発色す 矢島昭子
午後からは春日さんさん海の紺 星野立子
半天の紺半天のいわし雲 遷子
厚司展あり大綿の紺ごのみ 中戸川朝人 星辰
友の忌の黴ほのかなる紺絣 古沢太穂 古沢太穂句集
右往左往の紺事務服や桜草 鈴木鷹夫 渚通り
合歓の花沖には紺の潮流る 沢木欣一
吹き晴れし大つごもりの空の紺 星野立子
吹雪晴れ碧紺すゝむ雲の照り 金尾梅の門 古志の歌
咲きみちて梅林の空紺深し 植田廣子
咲き残る朝顔の紺衰へず 白井良治
咲く前の姿幼し野紺菊 古賀まり子
喇嘛僧の子の春服の紺匂ふ 西村公鳳
噴きあげる一本の紺茄子の苗 有馬朗人 知命
四十雀のつむりの紺や深山晴 加藤青圃
団扇太鼓紺の腹掛けして摶てる 高澤良一 随笑
土うすき岩の対島の野紺菊 林 翔
土用干し紺糸威は美男の具 伊藤敬子
土用鰻うの字大きく紺暖簾 蕪木啓子
地下足袋の紺の匂ひて麦を刈る 門岩明子
地下足袋の紺の匂へる七日かな 北見さとる
地下足袋の紺来て朝顔市開く 島崎省三
基地ヘオネスト・ジョン朝顔の紺に走る縞 橋本夢道
堪ふることばかり朝顔日々に紺 橋本多佳子
墓原に咲く曼珠沙華誰が「死後の恋」突き抜けて天上は紺 小川太郎
声のぼる桃の節句の空の紺 堀 古蝶
夏の海遠きは紺の平らけく 上村占魚 鮎
夏山の紺ひりひりと萱の中 飯田龍太
夏果つるこころよ紺の絞り着て 稲垣きくの 牡 丹
夏海の紺の中なる能登の尖 家田小刀子
夏痩せて帯締まりよき紺献上 野澤節子 『駿河蘭』
夏痩の内儀覗くや紺暖簾 高浜虚子
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ 水原秋櫻子
夕ながし紺引締めてすみれ草 岸田稚魚 筍流し
夕潮の紺や紫紺や夏果てぬ 藤田湘子「途上」
夕焼の海せりあがる茄子の紺 阪本謙二
夕空の紺よみがへる沙羅の花 大槻紀奴夫
夕空の紺より藍へ蕎麦の花 石嶌岳
夕空は雪降りつくし漂ふ紺 中西舗土
夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪 桂信子(1914-)
大いなる火の島の紺春隣 大岳水一路
大原女の紺が匂ふよ初時雨 富岡犀川
大原女の紺の衣干されみそさざい 田中英子
大原女の紺着のにほふ端午かな 石原舟月
天は紺 藁を掴んでわめくかな 富澤赤黄男
女生徒の紺われのみが淡く冷ゆ 徳弘純 非望
妻の寝嵩に朝顔紺を明るうす 柴田白葉女 花寂び 以後
実朝の海秋晴れの紺流す 小室善弘
家をいでゝ今宵も明治の紺かすりを着てあるく夏の夜 安斎櫻[カイ]子
寒の川近づけば透き去れば紺 南 俊郎
寒泳のまだ濡らさざる紺水着 長田等
寒潮や小茜雲は早も紺 香西照雄 対話
寒肥やつくばの紺のことのほか 神郡 貢
少女期の紺一色の水着干す 三雲檜里子
少年の紺の絣の春着かな 岩倉憲吾
少年の紺の闇ゆくほたるいか 松本照子
少年の風邪の三日を紺絣 蓬田紀枝子
屋上や酷暑はげゆく空の紺 阿部みどり女
屑買ひは青空仕事紺ジャケツ 香西照雄 対話
山にはさくら海女をしずめて海の紺 栗林一石路
山のいろ山より湧きぬ野紺菊 手塚美佐
山の子の制服の紺冬苺 黒川礼子
山妻の着る紺絣露の秋 山口青邨
山山は紺に日暮れて雛まつり 福田甲子雄
山翡翠の飛び立ち残る淵の紺 板谷芳浄
山路やうつぎの隙の海の紺 阿部みどり女 笹鳴
山里の蕣藍も紺もなし 正岡子規
岩へ滴るゝ巖の紺や月の潮 渡辺水巴 白日
岩燕擦りては鞣湖の紺 殿村莵絲子 花寂び 以後
岬が分つ紺と金との春の海 原子公平
峠小屋きのふで閉ぢし野紺菊 星野恒彦
島山は紺あたらしや百千鳥 綾部仁喜 寒木
崖登りつめ朝顔の紺ひらく 山口草堂
布を積んで春を隣りの紺屋かな 阿部みどり女
帷子の洗ひ洗ひし紺の色 松本たかし「鷹」
帷子の紺あでやかに初嵐 野村喜舟 小石川
幟一尾大小干して紺ズボン 香西照雄 対話
干し衣は紺の五月晴のよく乾き 高濱虚子
干し衣は紺の単衣のよく乾き 高浜虚子
平家納経紺地黄落ふりかゝる 細見綾子
幼な木より蝉とんでいま海の紺 桜井博道 海上
広重忌紺の暖簾に日照雨降る 戸川稲村
彼岸花傷つきやすき空の紺 菖蒲あや あ や
律僧の紺足袋穿つ掃除かな 足袋 正岡子規
性格が紺の浴衣に納まらぬ 櫂未知子 貴族
恋はものゝ男甚平女紺しぼり 高浜虚子
愛の羽根はじまる服も帽も紺 和田暖泡
慈悲心鳥紺紙金泥一切経 三谷道子
戀はものの男甚平女紺しぼり 高濱虚子
手を放さば紺に喰入る凧をあぐ 細谷源二 砂金帯
手折らるることなくすがれ野紺菊 石塚雅子
手甲の紺に浮きたる日照雨 萩原麦草 麦嵐
手計りの塩の機嫌や茄子の紺 廣嶋美恵子
控えめの女が好きです野紺菊 清水うた子
数へ日のいよよ澄みけり海の紺 伊丹さち子
数へ日の紺の山より大鴉 廣瀬直人
敷網の内外の紺も鰤の海 皆吉爽雨
文月の北浦紺を流しそむ 大竹孤悠
斑猫や空ある限り紺尽きず 田中妙子(あざみ)
斑雪空へつながる海の紺 加藤憲曠
新らしき紺のズボンで秋風分けて 細谷源二
新海苔や薄口醤油皿の紺 阿片瓢郎
新海苔や誰が袖が浦紺ちゝぶ 古白遺稿 藤野古白
新涼や張板ならぶどれも紺 波多野爽波 鋪道の花
新漬の頃合しぼる茄子の紺 きくの
日あたりや紺屋のうらの杜若 許六 四 月 月別句集「韻塞」
日の本の此処や東雲草の紺 池田澄子 たましいの話
日曜の紺まだらなる朝涼し 原裕 青垣
日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし 皆吉爽雨
日輪を追ふ繊月や空の紺 正木ゆう子 静かな水
早稲の香や紺深みゆく日本海 千手 和子
早苗饗の夜気ゆるやかに紺を張る 奥村 愛
早苗饗の紺にうるほふ夜空かな 有泉七種(白露)
星の金・樹の紺てのひらに呼ぼう 鎌倉佐弓 天窓から
春さむし髪に結ひたるリボンの紺 鈴木しづ子
春の雨紺屋機屋が斜向ひ 阿部静雄
春みぞれ刺子の紺の匂ひたつ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
春待つや一幹の影紺を引き 井沢正江
春潮の紺深まりて日向灘 中野はつえ
春潮の紺緊りゆく岬の日 柴田白葉女 牡 丹
春雨に陶榻の紺深めたり 阿部みどり女 月下美人
春雪のあとしんしんと海の紺 佐野まもる 海郷
暁の紺朝顔や星一つ 高浜虚子
暖簾の紺濃やかや柱餅 広江八重桜
暗きまで紺引き締めて龍の玉 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
更衣紺を好みし齢過ぐ 馬場移公子
曼珠沙華一水の紺飛びちれり 石嶌岳
朝涼や紺の井桁の伊予絣 清水基吉
朝顔が紺折りたたむひらく前 橋本多佳子
朝顔のきのふの紺を咲きつげる 岸風三樓
朝顔の二輪重なり紺深し 福田蓼汀 山火
朝顔の名残の紺の深かりし 江頭信子
朝顔の富みたる紺を乏しとも 細谷源二 砂金帯
朝顔の生粋の紺母の紺 村中登子
朝顔の白さよ紺は咲かざりし 渡邊水巴 富士
朝顔の的*れきと紺ばかりかな 石塚友二 光塵
朝顔の紺いさぎよし喜雨亭忌 水原春郎
朝顔の紺に傾きゐたりけり 五十崎朗
朝顔の紺に執して帯の紺 稲垣きくの 黄 瀬
朝顔の紺に山風疾走す 萩原麦草 麦嵐
朝顔の紺のかなたの月日かな 石田波郷(1913-69)
朝顔の紺のしじまや飛騨格子 渡辺恭子
朝顔の紺の向ふの遠伊吹 近藤一鴻
朝顔の紺の寂しさ子が言へり 関戸靖子
朝顔の紺の小さき暮らしかな 岡本猿人
朝顔の紺の彼方の月日かな 石田波郷
朝顔の紺の彼方の波郷かな 鈴木鷹夫 春の門
朝顔の紺ひらき子も覚めにけり 杉山岳陽 晩婚
朝顔の紺や律義に咲きつづき 水原 春郎
朝顔の露経し紺や貧久し 小林康治 『華髪』
朝顔は紺水甕に朝日満つ 内藤吐天 鳴海抄
朝顔や紺の薄足袋きしみ穿く 松村蒼石 春霰
朝顔小さく杉の梢の紺一輪 島村元句集
枕頭に波と紺足袋漁夫眠る 鈴木六林男 第三突堤
林檎紅し千曲忘れ江紺を張り 西本一都
柳ちる紺屋(こうや)の門の小川かな 夏目漱石 明治二十八年
根づきたる茄子苗に紺のび上り 上村占魚
桐の花むかし紺屋の中の庭 平手むつ子
桑黄落林檎紅潮千曲紺 西本一都 景色
桜前線過ぎてぞ深む海の紺 小金井絢子
梅咲いて紺の野良着がよく似合ふ 石川文子
梨咲いて紺いろの夜ひたひたと 井上雪
棒状に燕来る日の海の紺 千田一路
楓萌えわが服の紺寂びにけり 藤田湘子
樫の扉に暖流の紺毛糸編む 中戸川朝人 残心
次女に生れて朝顔の紺が好き 渡辺恭子
母の白父の紺あさがほひらく 久保山敦子
母訪ふや師走の空の紺一色 星野麦丘人
水やつて朝顔の紺ふやしけり 山本柳翠
水打つて紺まさりける年の空 大石悦子 聞香
水温む紺屋に届く布百反 小林千穂子
水音の方へ傾ぎて野紺菊 ふけとしこ 鎌の刃
水音の紺屋に遠く山眠る 渡辺みどり
永き日の絵硝子の紺そして赤 日原傳
汗し集いて母らは白と紺満たす 赤城さかえ句集
河童忌や表紙の紺も手ずれけり 小島政二郎
油蝉紺屋の屋根へ鳴きにゆく 原田喬
法被の紺匂ふ墓守御命講 中川はぎの
波照間の秋潮の紺眼にしみる 上村占魚
泳ぎ子に紺島山のよこたはる 加藤三七子
流氷の動きて紺を引き直す 能登裕峰
流燈の浮みし紺の夜空かな 細川加賀 生身魂
浅草や初仕入なる紺包み 荒井正隆
浴衣の紺刷く白粉の淡ければ 石塚友二 方寸虚実
浴衣裁つ紺が匂ひて夜深まる 矢島寿子
海で紺なり紫雲英の上の疾風は 八木原祐計
海といふ秋一色の紺を航く(フェリーまりも客中) 上村占魚 『かのえさる』
海の紺いつまでも紺多佳子の忌 塩川雄三
海の紺くろきがまでに夏ふかむ 佐野まもる 海郷
海の紺ゆるび来たりし仏桑花 清崎敏郎
海の紺巌より咲きし桔梗の紺 佐野まもる 海郷
海の紺木々芽ぶかぬが不思議なほどに 川島彷徨子 榛の木
海の紺木守柿より高きかな 杉村凡栽
海の紺梯梧は花の火焔立(沖縄本島) 上村占魚 『自門』
海の紺白く剥ぎつつ土用波 瀧春一「瀧春一全句集」
海の紺透りて白き蚊帳に覚む 佐野まもる 海郷
海の風神輿の列の紺煽る 毛塚静枝
海原の紺の椿の色消すまで 杉本寛
海女にして野良着の紺や小六月 大串章
海峡は紺を尽くせり鷹渡る つじ加代子
海水浴この朝潮の紺に染まむ 大谷碧雲居
海苔干すや路地ごとにおく海の紺 寺島ただし
海見れば紺きはみなし蝶の昼 佐野まもる 海郷
海軍の紺を選びて毛糸編む 鈴木栄子
海風に紺をもらひて秋茄子 桑島啓司
涅槃図の暮れゆく紺に誘われる 稲葉 直
深川や紺屋干場の冬至雲 宮坂静生 春の鹿
湖は雨の暗さよ野紺菊 八木林之介 青霞集
湯ざめしてより美しき海の紺 今井杏太郎
滝落ちし白さをかこみよどむ紺 篠原梵 雨
漬茄子の水はじきたる今朝の紺 鈴木慶子
漬茄子の紺さえざえと赤坂昏れ 楠本憲吉
漬茄子紺きつぱりと朝の卓 松本有美子
潮の紺鰤場つらぬきやまぬなり 皆吉爽雨 泉声
瀧落ちし白さをかこみよどむ紺 篠原梵
火口湖の紺深くして笹子かな 福島壺春
点々と耕人の紺うすがすみ 川崎展宏
熔岩踏みしあかぎれ疼く海の紺 殿村莵絲子 牡 丹
燕去ぬあまりに遠き海の紺 佐野まもる 海郷
爪しごく紺糸強し夏痩せじと 榎本冬一郎 眼光
父となる日朝顔の紺萎ゆるとも 杉山岳陽 晩婚
父の忌は紺母の忌は緋の朝顔よ 松尾隆信
父想ふたびに厚司の紺匂ふ 山内山彦
玄界の紺ゆるぎなき鵙日和 木原不二夫
玉虫に紺紙金泥の経を思ふ 高浜虚子「虚子全集]
珈琲濃しあさがほの紺けふ多く 橋本多佳子
瑠璃紺の身をさかしまに鯉の空 久保純夫 聖樹
甘藷畑の崖下に紺日本海 茨木和生 遠つ川
生身魂妙高紺を全うす 大峯あきら 鳥道
田の子らに半天の紺つめたかり 桜井博道 海上
田植え進む同紺の尻朝日に向け 山口 伸
田植進む同紺の尻朝日に向け 山口伸
画展出て紺の印象午後の雪 神尾久美子 掌
畦塗の夕空の紺塗りこめし 今井杏太郎
畦塗らむ紺股引にふぐり緊め 大熊輝一 土の香
登高やみな紺の羽に谷鴉 皆吉爽雨
白梅や紺地金泥一切経 長谷川櫂 天球
白足袋にいと薄き紺のゆかりかな 河東碧梧桐
白鳥の白まぎれなしダムの紺 石川文子
白鳥の羽根てのひらに海の紺 金箱戈止夫
百仏に一怨の翳野紺菊 金子青銅
盆過の紺紙曹洞日課経 斎藤夏風
盆過の紺紙金泥日課経 斉藤夏風
直ぐ消えし富士の初雪空の紺 森田游水
眉目よしといふにあらねど紺浴衣 高濱虚子
真夏日の茄子紺 亡母の好きな色 中田敏樹「デ・キリコの箱」
眠る山紺紙槿みたるごとくなる 阿波野青畝
眼に古典 紺々とふる牡丹雪 富沢赤黄男
眼を病めば片眼淋しく手紺書き居る 尾崎放哉
瞳に古典紺々とふる牡丹雪 富澤赤黄男(1902-62)
瞳を澄ますほどの風あり野紺菊 きくちつねこ
短日や重なり伏せる山の紺 角川春樹
石あれば仏と思ふ野紺菊 吉田健二
石蕗咲いていよいよ海の紺たしか 鈴木真砂女
磯鵯の天上天下紺ばかり 林翔
神護寺の紺地経紙漉きにけり 平井 梢
秋の田やむかし似合ひし紺絣 高柳重信
秋の航一大紺円盤の中 中村草田男(1901-83)
秋の蝶利島へ紺の海十里 和泉 好
秋天の紺きつぱりと子の嫁ぐ 鹿喰悦子
秋天へ紺を投げたる山上湖 伊代次
秋彼岸麓の馬の紺に見ゆ 友岡子郷
秋愁や白雲むらがり海の紺 阿部みどり女 月下美人
秋曇男の裏地いつも紺 香西照雄 素心
秋潮の紺より生れて月のぼる 神尾久美子 掌
秋潮の紺消す雲の蟠り 阿部みどり女
秋潮の紺漲れる力かな 波多野爽波 鋪道の花
秋濤の紺へ葬りの船すがる 角川源義
秋茄子にこみあげる紺ありにけり 鈴木鷹夫 千年
秋蔭のほとんど黒に近い紺 藤本草四郎
秋風にあらざるはなし天の紺 高橋馬相 秋山越
種茄子のやうやく紺を失しけり 渡辺何鳴
稲扱にかぶせしおほひ紺がすり 星野立子
稲穂村はたらく紺をみなまとふ 渡辺千代子
稽古着の紺が匂ひて雪晴れぬ 古賀まり子 緑の野
穀雨くる紺のスカートはいてくる 角田睦美
穴出づる蟻春光に紺ならずや 香西照雄 対話
空の紺 ふかく 原爆のあの日ちかづく 吉岡禅寺洞
空席があり冬山の紺の襞 友岡子郷 日の径
立冬や紺の上衣に紺の闇 飯田龍太
立秋の紺落ち付くや伊予絣 漱石
紀の川の紺濃き二百十日かな 大屋達治
紀の海の紺極まりて薊咲く 高橋好温
紅葉にあたらしき紺空にあり 伊藤敬子
紅葉薄き天城を越えて紺の海 林原耒井 蜩
紙を漉く冬百日の紺絣 山田春生
紙漉の里なれば濃し川の紺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
細格子朽ちて朝顔紺深し 林翔 和紙
紺いろのからだつかれて過ぎて浪華 阿部完市 にもつは絵馬
紺かきが竹虎がくれや花林檎 高井几董
紺かきの藍の香ひも暑さ哉 四明句集 中川四明
紺さびし秋の燕と見たるより 三輪青舟
紺つよき大洋に倚り年送る 原裕 葦牙
紺と白わが好む色夏来たる 稲畑汀子
紺に溺れていくたびも鳴く秋の鴨 細谷源二
紺のすみれは死者の手姉さんだめよ 西川徹郎 死亡の塔
紺のれん(質)といふ字もおぼろかな 吉屋信子
紺の厚司で魚売る水産高校生 能村登四郎 合掌部落
紺の夜を朱の月いでぬ昆沙姑巌 渡辺水巴 白日
紺の旗かざして骨折した九月 竹中宏 句集未収録
紺の汗手へ流れけり駕の者 一茶
紺の濤くづれて夾竹桃のうへ 大屋達治 龍宮
紺の荷の毒消売を西日追ふ 大野林火
紺の香きつく着て冬空の下働く 尾崎放哉
紺ひたに刈田の果ての有磯海 大屋達治
紺ふかき装束翁や初蹴鞠 桂樟蹊子
紺を紺とし翔ぶ白鳥の未明音 栗林千津
紺一身より出でてむらさき茄子の花 きくちつねこ「一人舞」
紺克明に鶯の谷渡り 大坪重治
紺切濃く底に沈める泉かな 西山泊雲 泊雲句集
紺天のすつぽり沈む水馬 田中水桜(さいかち)
紺天を一刀断ちに刺羽飛ぶ 石井いさお
紺屋いまも用心籠とつづれさせ 加古宗也
紺暗く夜空は簾ふちどりぬ 石田波郷
紺服の芯の細頸新入生 林翔 和紙
紺朝顔直哉旧居はまださめず 加藤三七子
紺毛糸編み山行の計煮つまる 都筑智子
紺法被匂はせ仕事始かな 南るり女
紺着流す風樹相摶つ七月の 桂信子 花寂び 以後
紺糸こく蜩近鳴き遠応へ 野澤節子 牡 丹
紺紙なる金泥の蘭秋扇 高浜虚子
紺紙金銀泥経残花冷 黒田杏子 花下草上
紺絣冬の初めの音立てぬ 原田喬
紺絣春月重く出でしかな 飯田龍太(1920-)
紺絣野を焼きし香の沁みゐなり 戸川稲村
紺脚絆岩を飛びけり山女魚釣 柿原けん一(雪解)
紺菊の闇のしぶきのおぼえかな 斎藤玄 雁道
紺菊も色呼出す九日かな 桃隣
紺足袋の女も冬の初めかな 大谷句佛 我は我
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
紺足袋の強げに見ゆる女かな 会津八一
紺足袋の紺に好みのありしこと 後藤夜半 底紅
経蔵や黴臭し紺紙金泥一切経 橋本夢道 無類の妻
結局は喪中も紺の冬衣 斉藤夏風
絵行器や定紋匂ふ紺暖簾` 中村素山
綿虫やひと日身につく紺絣 藤田湘子 雲の流域
緑蔭を出て仕事着の紺しるし 香西照雄 対話
羅の紺にほやかや太り肉 野村喜舟
羅やたたみて紺の濃かりける 大室 達恵
翔ちてまた返す千鳥に海の紺 橋本佐智
耕して百年前の空の紺 坪内稔典
背骨の型に褪せ草取の紺絣 加藤知世子
腹当の紺のゆゆしき菊師かな 野見山朱鳥
腹掛の紺の匂や心太 露月句集 石井露月
自立せる山々の紺こぶし咲き 桜井博道 海上
興るとき紺天冒す一雷雲 野澤節子 黄 瀬
良夜かな盥に紺の衣漬けて 塚本邦雄(1922-)
色褪せてむしろ魅かるる野紺菊 米尾 芳子
芦刈の眼を見せてゐし空の紺 斎藤玄
花びらが絣の紺の肩につく 中嶋秀子
花みかん山に喰ひ込む海の紺 関森勝夫
花冷えや老いても着たき紺絣 能村登四郎(1911-2002)
花冷の羽織りて父の紺絣 鈴木しげを
花吹雪紺より青き九十九湾 浅賀渡洋
花楓紺紙金泥経くらきかも 水原秋櫻子
花衣紺を己の色として 鈴木真砂女
花野過ぎて紺屋の前に出でに鳧 内田百間
若人にたのしき暑さ海の紺 河合嵯峨
若水や紺ほのかなる鞍馬苔 下村ひろし 西陲集
茄子の紺ふかく潮騒遠ざかる 木下夕爾
茄子の紺緊り野良着の中学生 飴山實 『おりいぶ』
茄子の紺転がして刃の入れどころ 植松てる
茄子の苗一天の紺うばひ立つ 有馬朗人 知命
茄子畑に紺の戻りし祭来る 青木重行
茄子紺に恵那山昏るる涼しさよ 西本一都
茄子紺の会津の空や雁渡る 今泉貞鳳
茄子紺の空と暮れける我鬼忌かな 鈴木しげを
茄子苗や茄子紺といふ茎の色 瀧春一
茸狩るといでたつ妻の紺がすり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
草いきれ脚絆の紺を頼みかな 野村喜舟 小石川
草に寝て秋空の紺眼に溶かす 道部臥牛
草の絮つく機関士の紺の服 茨木和生 木の國
草刈るや萩に沈める紺法被 杉田久女
草刈女行き過ぎしかば紺匂ふ 軽部烏頭子
草市の小山内薫紺飛白 久米正雄 返り花
草木瓜の花山国の紺を極め 飯田龍郎
草矢打ち込みすべなし空は無定の紺 川口重美
草餅の重の風呂敷紺木綿 高浜虚子
菊枯れていよよ緊まれる海の紺 松本三千夫
菜の花や旅路に古りし紺絣 沢木欣一 雪白
萩咲いて雨の蛇の目の紺へ降る 池内友次郎 結婚まで
落花すぐ紺の上衣の青年に 杉本寛
葉の紺に染りて薄し茄子の花 高濱虚子
葉月潮海は千筋の紺に澄み 草田男
葡萄摘むと嵌めたる籠手の紺飛白 正雄
蓮の実のとぶを待ちをる空の紺 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
蓮見船浮かべてみたし空は紺 星野椿
蕣の世にさえ紺の浅黄のと 横井也有 蘿葉集
蕪はこぶ女盛りの紺絣 つじ加代子
薔薇園に小鳥来る日の海の紺 原田青児
藍刈るや誰が行末の紺しぼり 藍刈る 正岡子規
藍華を咲かせ紺屋に幟立つ 三輪陽子
藤の宮紺幕張りて氏子寄 河野静雲 閻魔
藤咲きて海も日毎に紺まさる 山口波津女 良人
藤咲くや妻なき人の紺絣 柴田白葉女 遠い橋
蘆刈の眼を見せてゐし空の紺 斎藤玄 雁道
蘆刈や誰が行末の紺しぼり 芦刈 正岡子規
蚊を打つて甲斐は龍太の紺の闇 中尾有為子(天為)
蚊絣の紺のにほへる釣荵 石川桂郎
蛙鳴く洗いざらいの紺木綿 穴井太 原郷樹林
蝉わづか眠りて紺の夜明けたり 殿村莵絲子 雨 月
行年の暖簾そむる紺屋哉 行く年 正岡子規
街中を紺の矢車草一束 原田喬「長流」
袋小路に霰愛犬紺太の屍 塚本邦雄 甘露
見とほしに夏海紺をふかめたり 柴田白葉女 遠い橋
親潮の紺の上なる雲の峰 大峯あきら 宇宙塵
角帯は紺の献上明の春 今泉貞鳳
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎
貝雛の貝金を刷き紺を引き 舘野翔鶴
買初は日暮れの町の紺の足袋 鈴木鷹夫 千年
赤富士も見せたし紺の夕富士も 深川正一郎
越後屋ののれんの紺の燕かな 野村喜舟 小石川
足袋の紺匂ふを知りつ階上る 久米正雄 返り花
足長き紺や文珠の田植人 殿村莵絲子 牡 丹
踊浴衣は白波模様裾は紺 香西照雄 素心
身に合わせて冬服の紺旅に出る 本多草明
身を包む紺の深さも帰燕以後 岡本眸
軒つばめお紺の枕灯し見る 宮武寒々 朱卓
輪飾や月さして夜の紺にあり 高野途上
農衣干す雫も紺の鵙日和 大岳水一路
遠つ世の紺を裾まで初筑波 中山一路
遺品そのまま紺朝顔の殖ゆるまま 福田蓼汀 秋風挽歌
郷はるかに紺絣着て母の冬 神尾久美子 掌
野紺菊ついばみ染まる鳥の嘴 杉本 幸
野紺菊や人は仏に癒されて 佐柳妙子
野紺菊一日家を忘れゐる 北澤瑞史
野紺菊下見二度目の新居にも 都筑智子
野紺菊始祖にまみゆる信濃かな 関口 勉
野紺菊嫁菜の花も畦日和 鈴木しげを
野紺菊川は馬入と名をかへて 北澤瑞史
野紺菊志功耕衣の丸眼鏡 依光陽子
野紺菊日々つつましくつまらなく 津田ひびき
野紺菊日ざし逃さぬ髪束ね 花谷和子
野紺菊狐に枕縫うてやろ 大石悦子
野紺菊眦色を崩しけり 河野多希女
野紺菊飛ぶ雁をくらうせり 齋藤玄 『雁道』
野紺菊骨となりゆく烟濃し 高橋有
野菊野に出し三日月の少し紺 数馬あさじ
金の雪紺の雪春遠からじ 齋藤愼爾
鉄線花竹刀打込む紺少年 中村草田男(萬緑)
鏡餅しばらく紺の潮目あり 友岡子郷 未草
長子得し胸に冬黒潮の紺 大岳水一路
除夜守る火紺地金泥なせりけり 加倉井秋を
陸稲刈るにも赤き帯紺がすり 西東三鬼
雁渡る山脈は紺を引き締めて 磯田とし子
雉子翔ちてひとすぢの紺亡びけり 宮坂静生 山開
雑巾堅く絞る朝顔紺と白 鈴木鷹夫 渚通り
離れ住む子の夢をみて茄子の紺 廣瀬町子
雨あとの紺屋と話す目白のこと 飯島晴子
雪晴の洗つて緊まる紺セーター 中拓夫 愛鷹
雪片の裏返り紺ばかり降る 殿村菟絲子 『牡丹』
雷雲や轟々変る海の紺 加藤知世子 花寂び
霧をゆき父子同紺の登山帽 能村登四郎「合掌部落」
霧をゆく父子同紺の登山帽 能村登四郎
露天風呂首の高さに野紺菊 毛塚静枝
露深く紺屋のお方咲きにけり(紺屋のお方とは露草の方言なり) 金尾梅の門 古志の歌
露草に古き紺なし鶏二の忌 大岳水一路
露草の紺に覚めたる髪膚かな 永方裕子
露草の紺のむらがる小暗さよ 亀井糸游
露草は紺のなみだを一つづつ 藤田美代子
露路の奥紺屋一軒秋の暮 近藤一鴻
靄に透く紺の山なみ四月かな 三森鉄治
青き踏む一町先に海の紺 片山由美子 水精
青葉潮深く紺なし時彦逝く 皆川盤水
青葡萄しだるる隙に湖の紺 佐野美智
頓に冬教師の服の紺寂びて 石田波郷
風に罅あり紺布張りの魯迅の書 穴井太 穴井太集
風呂敷の紺を匂はす冬木立 桂信子
風花に紺のまひとぶ染場かな 石橋秀野
飛魚とぶや日本海の紺を抜け 大橋敦子 匂 玉
飛魚とんで玄海の紺したたらす 片山由美子「天弓」
餅の杵海潮の紺流れつぐ 友岡子郷 遠方
餅搗きに山川の紺ゆく力 大峯あきら
餅搗のあと天上の紺に溶け 飯田龍太
髭剃りて内衣の紺の匂かな 会津八一
魂が呼ぶ海軍紺(ネービーブルー)の盆の凪 平井さち子 紅き栞
鮎釣の紺に統べをり千曲川 宮坂静生 春の鹿
鯖の背に沖の紺あり流紋あり 香西照雄 対話
鯛網や刺子の沖着紺ばかり 井上土筆
鰹釣る灘の紺より引き抜いて 稲松錦江
鱚の海紺が紫紺にかはりけり 大橋櫻坡子 雨月
鳥追の手甲の紺の饐えにけり 八田木枯
鴎目をつぶらにとまつて居る春晝の紺の海の頂點 安斎櫻[カイ]子
鵙啼けり天上は紺ひらきつつ 武宮 至
鵜の下りる寒潮紺を張るところ 皆吉爽雨
鶏頭や紺屋の庭に紅久し 尾崎放哉
鶯に山家の人の紺絣 鈴木鷹夫 風の祭
鶯や水にくぐりし紺木綿 栗林千津
鶴の野に荒崎の海紺たゝゑ 小原菁々子
鹿の峰の紺屋なほあり豆の花 高浜虚子(風早懐古)
鹿啼くや紺地金泥の経の文字 松根東洋城
麦秋やよろこび深き天の紺 仙田洋子 雲は王冠
黍嵐みづうみの紺吹きたわめ 川村紫陽
黒き手に紺屋の掬ぶ清水哉 山本洒石
黒塚の道に乱れる野紺菊 平野みさ
鼻を摶つ法被の紺や供の春 喜太郎
龍の玉紺を極めてをりにけり 田中君子
龍馬忌や穿きふるしたる紺袴 楠瀬薑村
●金色 
あかときの鰡金色に跳べりけり 緒方敬
かなしめば鵙金色の日を負ひ来 楸邨
からたちの実の金色を刺囲ふ 野沢節子
きちきちの翔てば金色夕日谷 野澤節子 遠い橋
さくらちる鴟尾金色に光るとき 岸風三楼 往来
ささ啼のとぶ金色や夕日笹 原石鼎
つばくらめ死は金色をもて祀る 山西雅子
ほととぎす金色発す夕富士に 中村汀女
もみ合へる雲金色に初日出づ 戸川克巳
よき子生せいま金色の初日の妻 大槻紀奴夫
アルプスは金色に照り鳥威 大野花子
ガラシャ廟蘇鉄の花の金色に 山口玖磨加
一匙の栗金色に離乳食 都筑智子
一行の詩は金色に美女柳 都川一止
七月の少女の産毛金色に 芦川巣洲
三日、強風、"金色夜叉"の夜に入れり 久保田万太郎 流寓抄以後
下金色の夕日に菜を間引く 高澤良一 ももすずめ
乗馬クラブの少女 金色のたてがみ持つ 伊丹公子 アーギライト
九体仏金色の冷えまさりけり 能村登四郎
九体仏金色壺焼芋もきん 川崎展宏
何に還る火の金色や春の窯 嶋田麻紀
余剛峯寺より金色の秋の蜂 綾部仁喜 樸簡
元朝や八ツ岳の稜線金色に 五十川敏枝
冬の掌や一筋の藁金色に 内藤吐天 鳴海抄
冬サボテン護身の針を金色に 柴崎左田男
冬日没る金色の女体かき抱かれ 山口誓子
冬空に宝塔暮るゝ金色に 高木晴子 花 季
冬耕の一人となりて金色に 西東三鬼
冬薔薇日の金色を分ちくるゝ 細見綾子 花 季
冬薔薇金色の日を分ちくるゝ 細見綾子
冬蝿にして金色を負い来たる 穴澤篤子
凍蝶の金色の眼よさざなみよ 上野まさい
凍鶴に金色の額縁を嵌めよ 田仲了司
列車いま金色となり稲の国 斎藤康子
初富士の金色に暮れたまひつゝ 竹下しづの女句文集 昭和十四年
初日さすいま金色の盲導犬 佐藤瑛子
初蝶の朱金色に飛べりけり 山口青邨
初護摩の焔生きたり金色仏 高島筍雄
初鴨の羽うてり首の金色に 鈴木厚子
北窓に金色の凧あがりけり 橋石 和栲
取らず置く実梅大きく金色に 岩田由美 夏安
古妻の眼に秋の金色仏 橋本夢道 無類の妻
向日葵の金色冷ゆれ月の秋 渡邊水巴 富士
囀りの金色帯びてきたりけり 奥坂まや
回診の来るとき時雨金色に 岩田昌寿 地の塩
夕を経て夜は金色の鰯雲 相馬遷子 雪嶺
夕東風や黒猫の目の金色に 原田ゆふべ
夕霜や湖畔の焚火金色に 泉鏡花
夕鵙や諸仏金色を深くせり 米沢吾亦紅 童顔
夜焚火に金色の崖峙てり 秋櫻子
大火聚の金色しばし野焼かな 松瀬青々
大袖の金色匂う神楽かな 渡辺ゆり子
妻はいま金色如来秋澄みぬ 森澄雄
子の尿が金色に透き落葉降る 沢木欣一
寒の鯉金色の身をひと揺らし 橘川まもる
寒風に売る金色の卵焼 大木あまり
封筒にある金色の月一枚 対馬康子 純情
山よりの日は金色に今年米 成田千空
山吹の蘂も金色乳かゆし 田川飛旅子 花文字
山毛欅の芽の金色に明けぬ雪崩跡 殿村莵絲子 花 季
山深く金色の日や雪崩あと 村田脩
峯々にたつ金色の雲掌のごとし 横山白虹
巣のほとり初夏金色の雨けぶる 水原秋櫻子
師走圏外金色を経て一紫雲 香西照雄 素心
干されある藻の金色や紫や 篠原鳳作
広前に欅芽吹きの金色相 高澤良一 素抱
御柱金色なれば煤もなし 山口青邨
悪評は覚悟の毛虫金色に 白岩三郎
情なく濡れて金色甘茶佛 清水径子
文化の日雁金色の蘆花を活く 百合山羽公
斑鳩に見し金色の穴まどひ 来栖三代子
日向ぼこ金色の爪伸びてくる 上田貴美子
日当りて金色垂るゝ棕櫚の花 五十嵐播水
早乙女の耳の産毛の金色に 福田甲子雄
明星いまだ金色保つ初明り 相馬遷子 山河
春の蕗母金色に煮てくれぬ 脇祥一
春ふかく芋金色に煮上りぬ 桂信子
春水の影亀甲に金色に 右城暮石
時逝くや日に金色の芦を刈る 鍵和田[ゆう]子 浮標
時雨るる瀧金色と見し旅一瞬 松村蒼石 雪
月いづる波金色を孕むより 岸風三樓
月一痕雪金色の夜明かな 福田蓼汀 秋風挽歌
月日また金色に去る春惜しむ 西本一都 景色
木の葉散る金色に刻染まりつつ 野澤節子
木偶の目の夜は金色に木枯吹く 桂信子
木枯の中金色に秩父暮る 田中冬二 行人
末枯の行く手金色仏おはす 澤井我来
杉の秀のときに金色冬深し 田中哲也
枝打ちの落ちてくるもの鬱金色 田川飛旅子
枝打の落ちてくるもの鬱金色 田川飛旅子 『山法師』
枯芦を金色の日がつつむなり 柴田白葉女
枯草のひと思ふとき金色に 鈴木真砂女
枳殻の実の金色に白秋忌 三吉美知子
桐一本金色の年立ちにけり 原田喬
梅雨滝を金色と見し旅一瞬 松村蒼石 雪
梟の金色の目は雪呼ぶ目 清水緑子
樫若葉金色仏の如くあり 沢出蒼子
池普請鯉の金色宙を舞ひ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
波の穂の金色に散る実朝忌 大木 茂
洗ひ髪かわく夕雲金色に 柴田白葉女 遠い橋
深秋の鯉金色に有備館 菅原静風子
漁港への一路 路鋲の金色光 伊丹公子 メキシコ貝
濡れたまひいよよ金色甘茶仏 野村慧二
濡れたまひこよひ金色甘茶仏 野村慧二
炎天に金色の蓮廟の前 山口超心鬼
焚火人金色の眼におし黙り 内藤吐天 鳴海抄
煤竹の映る金色の御柱 山口青邨
熊楠の忌や金色のモジホコリ 関塚也蒼
熟れ麦の禾金色に風立ちぬ 堺みちを(圓)
燕子花鴟尾の金色射すところ 下村槐太 天涯
父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色の獅子とうつれよ 佐佐木幸綱
牡丹の蕋金色に発光す 丸山嵐人
猫の目の奥の金色五月闇 宇多喜代子 象
猫の眼の金色が透く夏まつり 柴田白葉女 雨 月
畏れ見る遅日金色の御仏を 水原秋桜子
百合の蘂金色に妹とく癒えよ 澤木欣一
真剣に鼻梁匍いいる金色よ 阿部完市 証
石の蝶金色すべく没日まつ 加藤楸邨
神農の虎生薬の鬱金色 松井良子
秋冷の仮死金色をなせりけり 柚木紀子
空蝉に金色の風溢れけり 大橋俊彦
窯中の炎金色に春の雨 水原秋櫻子
竹林を過ぎ来て乞食金色に 攝津幸彦
笛吹川金色に秋うかびゆく 千代田葛彦 旅人木
簀もれ日の遠金色に茶を摘める 皆吉爽雨 泉声
紅梅の寺金色の仏ます 本宮鬼首
繭玉に金色の風ゆらぎ立つ 横光利一
翻へるとき金色に凍鴎 石塚友二
胸も頬も金色の土砂土用過ぐ 岩田昌寿 地の塩
臘八の日矢の金色雲間より 倉橋弘躬
自動車が好きで好きで金色の自動車にのつてゆく子 中原礼二
舞ひ終へて金色さむし獅子頭 鷹女
芒野の金色を来て喪章剥ぐ 橋本榮治 麦生
花筏金色の鯉潜めけり 川村紫陽
菊の香の堂の金色われをつつむ 加藤知世子 花寂び
萩刈つて金色の日を賜はりぬ 嶋田麻紀
落葉してならぶ木の金色背文字 渋谷道
落鮒の深処金色浄土かな 松村蒼石
葱の花ふと金色の仏かな 川端茅舎
蜩や金色仏に瑠璃が見ゆ 加藤知世子 花 季
蜷遊ぶ水金色の春となり 細見綾子 花寂び
襤褸市や大学芋の金色に 辻 桃子
西日燦金色放つ仏達 塩見瑞代
試歩疲れ小菊のつぼみ金色に 鍵和田[ゆう]子 浮標
身慄へて金色の羽を銀杏脱ぐ 石塚友二 方寸虚実
郭公も金色ならん落暉いま 栗生純夫 科野路
酒後の尿金色なせり蕗の薹 遠藤梧逸
金柑は黄に仏塔は金色に 佐野 五水
金色になるまで親指を見つめている 折笠美秋 君なら蝶に
金色にひかる朝寝の障子かな 阿波野青畝
金色に乾きあがりし海蘿かな 岡田耿陽
金色に咲くとは菊の口をしき 菊 正岡子規
金色に涅槃し給ふくらさあり 下村非文
金色に湯花かがやく出湯の秋(草津温泉大阪屋旅館泊) 上村占魚 『球磨』
金色に照るが雀の帷子で 佐々木六戈
金色に照るが雀の鉄砲で 佐々木六戈 百韻反故 初學
金色に秋の祭の菓子を焼く 有馬朗人 天為
金色に竹落葉飛ぶ行方あり 舞原余史
金色に芽吹く欅を敬へり 山田みづえ 木語
金色に茗荷汁澄む地球かな 永田耕衣 殺佛
金色に萱立てかけし馬の墓 村越化石 山國抄
金色に襖百枚うちかさね 佐藤琳子
金色のあかき日の出の若葉ごし 原石鼎 花影以後
金色のみなぎる梅雨の蝶生れし 宮崎敬介
金色のみほとけくらき牡丹かな 橋本鶏二 年輪
金色のみほとけ在す無月の灯 藤松遊子
金色のものの減りたる五日かな 櫂未知子
金色のコーランの文字枇杷熟るる 有馬朗人 知命
金色の一トすぢはしる破魔矢かな 久保田万太郎 草の丈
金色の一瞬ありき朴落葉 茨木和生 往馬
金色の仏ぞおはす蕨かな 秋櫻子
金色の仏見し眼に散る紅葉 福島裕峰
金色の佛ぞおはす蕨かな 水原秋櫻子
金色の凍てし烏や黒部川 折井眞琴
金色の壷は新茶よ身ほとりに 青邨
金色の夕映え鶴を呼びもどす 原裕 『出雲』
金色の失せつつ涅槃し給へり 北澤瑞史
金色の寸に満たぬ火芝火もゆ 大橋敦子 手 鞠
金色の封蝋バレンタインの日 水田光雄
金色の小菊入りぬ枯葎 耕衣
金色の尾を見られつゝ穴惑ふ 竹下しづの女句文集 昭和十四年
金色の巫女の元結若井汲む 立花波絵
金色の御堂に芭蕉忌を修す 山口誓子
金色の日かげ氓びぬ冬の蝶 内藤吐天
金色の日に猥雑な蓮の骨 磯貝碧蹄館
金色の日輪一つ乾く刈田 柴田白葉女 花寂び 以後
金色の朝の藁より寒卵 白岩三郎
金色の柚子を青空よりもらふ 三島敏恵
金色の歯朶にかくるゝ鷦鷯 大谷秋葉子
金色の海へ初漁船押出す 齋田鳳子
金色の焔の牡丹焚火かな 山崎ひさを
金色の無花果籠に盛る老人 金子皆子
金色の狐はいずと蕨狩 平畑静塔
金色の猫翻る 雪の茶房 伊丹公子 メキシコ貝
金色の目をあけて亀不思議そうに沈んでゆく 橋本夢道 無禮なる妻抄
金色の笏を手握り閻魔王 高浜虚子「虚子全集」
金色の羯鼓打つべう福寿草 文挾夫佐恵
金色の老人と逢ふ暮れの町 平井照敏 天上大風
金色の芒の穂波湖に落つ 石原八束 空の渚
金色の花芽を立てて冬ぬくし 中田陽子
金色の蛇の冬眠心足る 加藤楸邨
金色の蛾眉をあらはにクロッカス 西村和子 夏帽子
金色の蜂蜜秤る日永かな 千手和子
金色の西日に消ゆる杖の夫 北 美枝子
金色の豪奢豪放夕みぞれ 鍵和田[ゆう]子 未来図
金色の走りしは鯉雪催 茨木和生 倭
金色の鈴ころげ出す初電車 富士原拓
金色の鍵奉る山開き 神沢英雄
金色の雄蕊とろりと黒牡丹 矢島渚男 延年
金色の雲丹をほろろと再会す 内田冬至
金色の雲打ち延べて神還る 黛執
金色の音のひぐらしを祠べり 村越化石
金色の風十方に銀杏散る 狹川青史
金色の髪は白夜に似合ふもの 高木晴子 花 季
金色の鯉の浮きくる灌仏会 山城英夫
金色の黴をまとへる魚板かな 中本一九三
金色の黴を咲かせて阿弥陀仏 木内彰志「仏の座」
金色を冬日はぐくみゐたりけり 松崎鉄之介
金色仏実梅は太ること止めず 鍵和田釉子
金色仏終の牡丹に来迎す 野澤節子 黄 炎
金色柚子夜を重るべし癩日記 村越化石
金雀枝や喪の裏窓の鬱金色 小池文子 巴里蕭条
雨蛙のまぶた金色嬰児も不思議 金子皆子
雨降れば雨金色に甘茶仏 福原紫朗
雪のうへの月や金色銀世界 貞徳
雪はれて小角を照らす金色の征矢 横山白虹
雲を割る金色光に蚋の陣 加藤楸邨「穂高」
霧だちて金色しづむ樺の蝶 飯田蛇笏 椿花集
霾るや没日の前を金色に 吉本一江
青梅雨の金色世界来て拝む 水原秋櫻子「帰心」
韃靼国よりの金色逮捕状 阿部完市 証
颱風や彌撒の聖燭金色に 内藤吐天 鳴海抄
鮭のぼる金色けぶりその夜以後 和知喜八 同齢
鳥渡る雲の笹べり金色に 杉田久女
鴨の死を金色の日が包むなり 柴田白葉女 『冬泉』
鴨睦むとき金色を発しけり 成瀬櫻桃子 素心
鵜匠より金色の鮎抛げもらふ 西本一都 景色
鶴舞ふや日は金色の雲を得て 杉田久女(1890-1946)
黍高梁野の朝焼の金色に 相馬遷子 山国
黒雲の縁金色に氷橋 柴田白葉女
黴くさや金色五月去りて遠し 石塚友二 光塵
いてふこんじき舟唄をうたはんか 松澤 昭
からまつ散るこんじきといふ冷たさに 鷲谷七菜子 花寂び
こひびともかもめも炎天のこんじき 夏井いつき
こんじきの棺炎天の湖わたる 飴山實 『おりいぶ』
こんじきの菌斜面に四月かな 柚木紀子
人参の太さこんじきぐらしかな 松澤昭 宅居
父ら暑いとこんじきにならぬかや 松澤昭 面白
立科の雲の峰なりこんじきに 岡井省二
風呂吹に芥子こんじき癌家系 竹鼻瑠璃男
●金色堂 
ひでり星ともる金色堂の上 有吉桜雲
みくじ結ふ金色堂の山百合に 白瀬陽子
人混みに秋の蚊払ふ金色堂 横山房子
今日の月三体浮くや金色堂 川崎展宏 冬
四月一日金色堂に詣でけり 今井杏太郎
桐の実や金色堂へきつね雨 小林康治
燦然と金色堂や春の昼 河野静雲
白露や扉を開く金色堂 露月句集 石井露月
眠るミイラは何色金色堂発光 伊丹三樹彦
秋の昼ガラスの中の金色堂 川崎展宏
金色堂たましいあれば底冷えす 駒走鷹志
金色堂ゆるがぬ燭の凍みにけり 宮津昭彦
金色堂出づや蒔絵の散紅葉 大橋敦子 匂 玉
金色堂出て現し世の紅葉晴 伊東宏晃
金色堂出でてもつとも青き踏む 石寒太 翔
金色堂奏づる月の虎落笛 沼澤石次
金色堂飛雪にひらく淑気かな 佐藤国夫
霜柱金色堂は鎮されて 石井露月
●紺青 
たこあげて誰が子ぞ紺青の汚点とせし 細谷源二 砂金帯
ぢか火とて紺青焦げし目刺かな 銀漢 吉岡禅寺洞
まうへ舞ふ蝶のまうへは唯紺青 川島彷徨子 榛の木
インキ壺紺青湛へ灯に親し 吉屋信子
世にあいづしもつけあり紺青の縁 阿部完市 軽のやまめ
光琳や水紺青に白千鳥 千鳥 正岡子規
冬の海紺青の斑の鯉澄める 水原秋桜子
冴返るささくれ妙義紺青に 堀口星眠 営巣期
凛然と降る雪のさまかそかなる夜の紺青を吸ひて光れり 大滝貞一
初潮や海紺青の岬重ね 星野椿
初鴎紺青の水木場に澄む 有働亨 汐路
土壁の竹紺青し花菖蒲 菅野潤子
土用浪紺青の夜を追ふごとし 松永晩羊原
垣の芥子海の紺青さしせまり 佐野まもる 海郷
大空は紺青に枇杷は鈴をなす 鈴鹿野風呂 浜木綿
女正月伊豆の紺青欲しいまま 横山左知子
子のたぐる空の紺青火伏せ凧 伊藤三十四
寒泳の首紺青の海へ出す 池田秀水
火を恋ふや隠岐紺青の潮鳴りに 永井由紀子
磯川の紺青みだし雪捨つる 佐野まもる 海郷
秋晴や杉生の面紺青に 五十嵐播水 播水句集
穂高岳秋立つ空の紺青に 及川貞 夕焼
糸とんぼひぐれ紺青透きにけり 加藤楸邨「怒濤」
紺青の乗鞍の上に囀れり 普羅
紺青の夜涼の空や百貨店 飯田蛇笏 霊芝
紺青の孔雀の瀧といひつべし 宮坂静生 樹下
紺青の日輪渡る雪晒 高橋悦男
紺青の海ひき寄せて独楽回し 鷹羽狩行
紺青の海へかざして山帰来 太田鴻村 穂国
紺青の海坂まろし秋天下 中田貞栄
紺青の空が淋しや萩の花 石橋辰之助 山暦
紺青の空と触れゐて日向ぼこ 篠原鳳作 海の旅
紺青の空や野分の戸をあける 及川貞 夕焼
紺青の背色つらねし目刺かな 楠目橙黄子 橙圃
紺青の蟹のさみしき泉かな 青畝
紺青を塗りもあまさず初御空 轡田進
翼張つて飛魚の紺青大皿に 野澤節子
花の上の道紺青の空へ行く 池内友次郎 結婚まで
茄子/牛となり/今宵紺青/一盞の 上田 玄
草の穂に雨後紺青の嶺せまる 大島民郎
藻の林冬澄む水の紺青に 五十崎古郷句集
蜜柑むく海の紺青手の中に 新井英子
蜜柑山紺青の江に高からず 米澤吾亦紅
蜥蜴草にその紺青を重ねたり 加藤燕雨
蝉の背の紺青にして樫の風 石鼎
蝌蚪増ゆるまで紺青の水鏡 滝谷泰星
鉄線花天の紺青はりつめて 石原八束 空の渚
降り足りし空の紺青桃熟るる 堀 佐夜子
雲を出し富士の紺青竹煮草 遠藤梧逸
霞みても紺青コリントス運河 石原八束 人とその影
露けくて壺は千古の紺青に 古舘曹人 能登の蛙
風冴えて高嶺紺青雪のこる 飯田蛇笏 雪峡
風花や湖紺青に凪ぎわたる 木下ふみ子
麦門冬の実の紺青や打ち伏せる 篠原鳳作
黒南風や紺青の波蹴立て行く 堤俳一佳
●紺碧 
たちしようべん紺碧の空あけわたす 早瀬恵子
どのヨツトにも紺碧の空ありぬ 会田仁子(未央)
不意に戦後来る紺碧のひと日冴え 桜井博道 海上
冬空の紺碧の下に咳をする 道部臥牛
揺れやまぬ夜行列車に紺碧の老師 金子兜太
春霧に天の紺碧ただならぬ 飯田蛇笏 椿花集
柚子切つて紺碧に空拡げたり 松下千代
烏賊襖透く紺碧の響灘 飯久保司郎
熱帯魚紺碧の海恋しからむ 福永鳴風
瓜を啖ふ大紺碧の穹の下 [え】 富澤赤黄男
秋潮の紺碧変ること迅し 阿部みどり女
紺碧にそまりたくなり泳ぎだす 和田耕三郎
紺碧の伊吹山見ゆ夏座敷 梶山千鶴子
紺碧の小春を得たり大根引く 松尾章子
紺碧の沖を楯とし流氷来 田村すゝむ
紺碧の波にたゝめる日傘かな 上村占魚 鮎
紺碧の波走りくるサーフィン 藤原照子
紺碧の海にも沈んでいるバンザイ 三好夜叉男
紺碧の海に育ちし鰤の色 飯島正人
紺碧の海より抜きし鰹かな 遠藤逍遥子(風土)
紺碧の画布へ裸木林立す 桜井昭子
紺碧の空に帰燕や草千里 佐々木筆子
紺碧の空の涙かいぬふぐり 室岡純子
紺碧の空を招いて潮まねき 火村卓造
紺碧を切り裂いて行くボートかな 清水静子
菜の花の沖は紺碧日本海 塚田恵美子
誰も往かぬ/かの碧落の/紺碧へ 酒巻英一郎
青芝に坐して紺碧の海を恋ふ 阿部みどり女
鶴引きしあと紺碧の空残る 村上淑子
●サーモンピンク 
鮮紅のサーモン切身聖夜くる 高澤良一 宿好
斜里町はサーモン色の夕焼けに 高澤良一 燕音
●桜色 
初空や日の本明くる櫻色 初空 正岡子規
春の雪桜色して降りにけん 高橋睦郎
朝日いま浴びたる鶴の桜色 増田原子
桜満ちる十日 障子の桜色 伊丹公子 ドリアンの棘
桜色に闇ほぐれ来る御万燈 渋谷亮子
桜色失せずに焼けしうぐひかな 竹本袴山
榾煙桜を焚けば桜色 吉年虹二
河につけし指桜色行々子 阿部みどり女
●紫紺 
かはせみの紫紺一閃よき日なれ 成田千空 地霊
とほきひと湖の紫紺にかさなりぬ 川島彷徨子 榛の木
とりかぶと紫紺に月を遠ざくる 長谷川かな女 花 季
なす漬の紫紺かがやく食卓に 山岡千枝子
ラグビーは紫紺の怒濤「前へ」「縦に」 川崎展宏
初空に紫紺をつらね夫婦松 佐藤喜俊
初霞赤城紫紺の裾引けり 岡田日郎
土間闇寸前紫紺の飛燕訪はぬ恋 香西照雄 対話
夏薊山は紫紺を深めけり 四條好雄
夕潮の紺や紫紺や夏果てぬ 藤田湘子「途上」
夜の穂高紫紺あせざる五月来ぬ 澤田緑生
寒月下しんと紫紺のしなのかな マブソン青眼
明治てふ紫紺の時代梅雨の蝶 坂本宮尾「木馬の螺子」
暮れ際の紫紺の五月来りけり 森 澄雄
朝顔の白に紫紺にちんちろりん 林原耒井 蜩
朝顔の紫紺簇がり車掌住む 石塚友二 方寸虚実
朝顔の紫紺葬りをきのふとす 高澤良一 素抱
桔梗のしんと紫紺の英治遺居 川崎慶子
潅水の紫紺の茄子の苗そよぐ 篠原梵
潮暮るるときの紫紺や吾亦紅 谷崎トヨ子
父と子へ紫紺の山湖ラムネ抜く 佐川広治「光体」
片栗の蕊を紫紺のなみだとも 和田知子
白妙の春の月ある空紫紺 高浜虚子
真昼間へ紫紺の蝶のこぼれ落つ 柿本多映
紫紺なほ呼びあふ風の秋あざみ 成田千空 地霊
紫陽花の紫紺をつくし竜飛岬 成田千空「人日」
芥子畑の紫紺を浴びる旅のはじめ 北原志満子
花菖蒲紫紺まひるは音もなし 中島斌雄
芽吹く木の紫紺の影を踏みゆくも 内藤吐天 鳴海抄
茄子の馬紫紺滴るばかりなり 石川空山
茄子苗やふた葉紫紺の雨のこり 長谷川久代
荒星や絞りあがりし紫紺染 黒田杏子 花下草上
葉牡丹のうづまく紫紺寒ン充ちぬ 渡邊水巴 富士
葡萄棚の地面の紫紺 家族老いて 伊丹公子 時間紀行
返り咲く紫紺のあやめ暮の秋 福田蓼汀 山火
野を焼きて富士を紫紺に燻しけり 加々美鏡水
降る雨をはじく茄子の紫紺かな 馬場五倍子
陽に心ゆるして紫紺の花菖蒲 横内照代
雪渓のほかは紫紺に暮れにけり 若井新一
雪眼鏡紫紺の岳と相まみゆ 谷野予志
雲井なる富士八朔の紫紺かな 飯田蛇笏 霊芝
雲割れて紫紺の空の枯木かな 池内友次郎 結婚まで
雹晴れし遠山襞の紫紺かな 楠目橙黄子 橙圃
霜枯の中に紫紺の竜の玉 阿部みどり女 月下美人
顕はれて紫紺きはまる初筑波 火村卓造
鱚の海紺が紫紺にかはりけり 大橋櫻坡子 雨月
黒潮の紫紺に夏は立ちにけり 渡部抱朴子「天籟」
●漆黒 
あねはあおさぎ漆黒のピアノに映る 金子弘子
ががんぼや漆黒の夜をありがとう 蝦名石蔵
つばめ帰して漆黒の寺の簷 山下廣
ぬばたまの実の漆黒は夜の一点 栗生純夫 科野路
エジプトの布の漆黒首に巻く 岸本マチ子
コスモスや髪漆黒に狂女達 池田定良
ハイビスカスの花に漆黒島の蝶 茂里正治
レコードの回る漆黒天の川 皆吉司
七夕や男の髪も漆黒に 草田男
七月やロダン立像漆黒に 石田あき子
主病みたり漆黒の甘茶仏 小林昭子
伝教会漆黒の母漆黒の鯉 松田ひろむ
兜虫漆黒なり吾汗ばめる 石田波郷
兜虫漆黒の夜を率てきたる 木下夕爾(1914-65)
初富士や漆黒の襞は雪をとめず 渡邊水巴 富士
南円堂漆黒に浮き薪能 橋川敏孝
囮鮎まだ漆黒に傷つかず 野澤節子 遠い橋
夏野駆け放馬いよいよ漆黒に 北 光星
夜鷹聴けり病みても髪の漆黒に 酒井鱒吉
天体に漆黒の筒さしいれる 遠藤進夫
子規の忌の漆黒の貨車大きかり 秋山重子
山夕焼牛の漆黒ひき出だす 落合水尾
山火事のあと漆黒の瀧こだま 飯田龍太
山脈の夜影漆黒きりぎりす 内田典子
平原にあり漆黒の椿の実 対馬康子 吾亦紅
日盛やテレビも牛は漆黒に 石田波郷
春昼の漆黒に蒔く鷺羨し 古舘曹人 能登の蛙
春隣燈下子の髪漆黒に 加畑吉男
曼珠沙華漆黒の蝶つゆ吸へり 松村蒼石 露
月朧たゞ漆黒の吉野なる 桑田青虎
月餅の中の漆黒鉦叩 正木ゆう子 静かな水
木の芽風漆黒の膳拭き清め 桂信子 黄 瀬
朴の実の漆黒に春惜しみけり 折井眞琴
桑括る漆黒の鳶に村が晴れ 中拓夫 愛鷹
森閑と漆黒の蟻たたかへり 根岸善雄
海胆怒る漆黒の棘ざうと立ち 橋本鶏二
海鵜とんで春漆黒となりにけり 九鬼あきゑ
漆黒に光る瓦や梅三分 畠山美緒
漆黒に柱ねむれり春の闇 小檜山繁子
漆黒に生れ繋がれ兜虫 有働亨
漆黒に秋を灯してバス行けり 稲畑廣太郎
漆黒のみほとけ在す花の冷 永峰久比古
漆黒のピアノより生れ春の蝿 本庄登志彦
漆黒のピアノ据ゑたる大暑かも 林翔 和紙
漆黒の円空仏や雁渡し 田阪笑子
漆黒の冷えをまとひて思惟菩薩 児玉喜代
漆黒の切り火を灘へ初つばめ 渡辺恭子
漆黒の列車は北へ直哉の忌 櫂未知子 貴族
漆黒の壺に鬼百合挿せば父 石倉夏生
漆黒の夢の切れ目に鴨のこえ 澁谷道
漆黒の大日如来涼しけれ 川崎展宏
漆黒の天に星散る野分あと 相馬遷子 山国
漆黒の山が夜空に文覚忌 鷲谷七菜子
漆黒の怒濤ひびけり鮟鱇鍋 酒井みゆき
漆黒の揚羽蝶彫り陶枕 辻桃子
漆黒の梁に山風蛇笏の忌 廣瀬悦哉
漆黒の楷書に戻る冬の山 松浦敬親
漆黒の樟は寒気を放ちけり 有働亨 汐路
漆黒の水晶岳へ星飛べり 山下智子
漆黒の背に沖のあり冷し牛 向野楠葉
漆黒の薬師輝く花会式 平尾圭太
漆黒の蛙天国医書を閉ぢ 堀口星眠 営巣期
漆黒の蝶もつれ舞ふ浦日和 楠本向谷
漆黒の野良猫にして恋すなり 松村蒼石 雪
漆黒の銀河を指でなぞりけり 角田沙織
漆黒の闇のいろもて地虫出づ 山崎千枝子
漆黒の闇の刃の竹落葉 山田弘子 懐
漆黒の闇を川ゆく秋まつり 栗田九霽子
漆黒の闇虫出しの雷ひとつ 金谷まさる
漆黒の除夜のみ曾て記憶せり 相生垣瓜人 微茫集
漆黒の雲急ぎすぐ厄日かな 樋笠文
漆黒の馬のとけゆく青水無月 山本掌
漆黒の髪の子に来しお正月 水野一風子
漆黒や鯉の跳ねたる夕立雲 秋篠光広
濡れ鵜まぶし漆黒まといたき齢 八木三日女 赤い地図
炉開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞
無主義者つまみ蟻の怒りは漆黒に 川口重美
爐開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞 夕焼
牛いよよ漆黒となる冷やされて 田辺ふゆ
疲れ鵜の漆黒を大抱へにし 細見綾子 黄 炎
眉月の漆黒の闇切り取らむ 泉澤光子
眠りさえもこの漆黒の羽摶く音 安達昇
破芭蕉漆黒に立つ夜の輪血 秋光泉児
神の杜へ来て漆黒となる揚羽 北田夏生
秋の牛乳房のほかは漆黒に 中島斌雄
秋雨や漆黒の斑が動く虎 渡邊水巴
立つ船の見えて聖夜の松漆黒 殿村菟絲子 『繪硝子』
美しき嘘漆黒の絹扇子 木田千女
船員螢籠提げ漆黒の夜の汽船に戻る 人間を彫る 大橋裸木
花大根に蝶漆黒の翅をあげて 杉田久女
落葉敷き漆黒の熊眼がうるむ 沢 聰
薫風やめばるの瞳漆黒に 堀口星眠 営巣期
蛇穴を出づ漆黒の尾を連れて 村本恭三
蝌蚪漆黒氷の如き水に拠り 瀧 春一
遺されしこの漆黒の冬帽子 鈴木鷹夫 大津絵
雨太し幹漆黒にさくら咲く 高井北杜
雪晴れや牛の漆黒かがやきぬ 小島健 木の実
青梅の一枝漆黒の塀に垂れ 内藤吐天 鳴海抄
風花や爪漆黒の能登の牛 黒田櫻の園
馬刺は冷たき食いもの漆黒の活火山 野田信章
鴨鳴きて漆黒の闇動かしぬ 川口洋子
黒板の朝の漆黒スイートピー 片山由美子 天弓
黒葡萄いよよ漆黒農一忌 皆川盤水
●渋色 
澁色の袈裟きた僧の十夜哉 十夜 正岡子規
朝顏の澁色茶色なども咲きぬ 朝顔 正岡子規
渋色に沁みし染桶枯れ重ね 影島智子
●朱肉 
くろずめる朱肉に御用始かな 西川狐草
これも黴底なし梅雨の朱肉壺 石塚友二 光塵
区役所の朱肉うすれし秋暑かな 鈴木庸子
啓蟄の朱肉ゆるびてゐたりけり 柿本多映
峯雲や朱肉くろずむ村役場 土生重次
抽斗に朱肉をさぐる事務始 岡田貞峰
朱肉つけて一塊涼し山の石 碧雲居句集 大谷碧雲居
朱肉煮て油返すも日短き 内田百間
行秋の見え居て探す朱肉皿 原石鼎
鶏毟る女に朱肉の月昇る 斎藤愼爾 夏への扉
●朱蝋燭 
上元やまぶしき数の朱蝋燭 中村やす子
上元や祈福敬謝の朱蝋燭 下村ひろし 西陲集
年神へ吾が還暦の朱蝋燭 水谷芳子
煤さはぎすむや御堂の朱蝋燭 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
●純白 
かりんの実純白同志の看護婦らに 友岡子郷 遠方
久しぶりに純白シーツ冬のバラ 皆吉司
元日の川純白な鳥の胸 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
初秋の純白をもて参籠す 加倉井秋を
初釜や傘寿の衿を純白に 及川貞
去年今年いま純白の睡り来る 千代田葛彦
口ケット純白地の汚穢に遺る者ら 神田はじめ
基地扼す大根純白且つ無数 町原木佳
夏手袋純白の刻たいせつに 猪俣千代子 堆 朱
夏濤の発端純白立志めく 香西照雄 素心
大滝の音純白と謂つべし 深川正一郎
太陽の純白の死の桜谷 攝津幸彦
子が持ち来夏純白の通知箋 相馬遷子 山国
山百合の純白守り抜く香なり 廣瀬町子
崖さむし海鵜の糞の純白に 矢島渚男 延年
師と仰ぐ面影椿純白に 檜垣長子
息止まるほど純白のアマポーラ 吉原文音
手を打てば純白の鯉年立てり 渡辺恭子
教堂に純白の壁原爆忌(神戸にて) 飴山實 『おりいぶ』
斑雪より純白の鳥舞ひあがる 斎藤信義
朝の日に画布の純白小鳥来る 橋本榮治 麦生
朝戸出のマスク純白なるはよし 岸風三楼 往来
木犀の香や純白の犬二疋 高野素十
杓子菜の茎の純白葉へ伸びて 香西照雄 対話
枇杷の花らしからぬこの純白は 夏井いつき
林火先生純白諸事言う村咲く 阿部完市 純白諸事
桜桃の花純白を通しけり 福田甲子雄
森に開く手帳純白日雀鳴く 橋本榮治 越在
椿真紅椿純白霊気満つ 滝青佳
母の愛とは純白のさくら草 川原和子
沙羅散るや純白かくも錆び易し 関礼子「逃げ水」
狐火見し純白の夜を妊れり 齋藤愼爾
白の中の純白手袋妻へ買ふ 本宮鼎三
白木蓮に純白といふ翳りあり 能村登四郎
白萩に神純白ををしむなく 竹下しづの女句文集 昭和十五年
白鳥の純白をわが炎とす 高松文月
白鳥の腋の純白恋兆す 平井さち子
睡蓮の純白のこす山の暮 桂信子 黄 瀬
秋扇のその純白を愛しめり 楠本憲吉
純白で私を避ける雪ばかり 櫂未知子 貴族
純白な鶏に冬日がまはり来る 阿部みどり女
純白にこころをのせて餅を切る 岡田和子
純白に子をくるまんと編む毛糸 赤松[ケイ]子
純白に砕けたり冬濤の黝 酒井 京
純白のマスクぞ深く受験行 岸風三楼 往来
純白のマスクを楯として会へり 野見山ひふみ
純白の初蝉にして快翔す 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
純白の富士をたまはる十一月 川崎展宏 冬
純白の屍衣に翳なし雪満つ窓 内藤吐天 鳴海抄
純白の布巾揃へて初厨 芝 由紀
純白の心に今日の花ひらく 阿部みどり女
純白の想像 影が肩たたく 穴井太 土語
純白の手袋も買ひそろへたる 西村和子 夏帽子
純白の放つ光に百合の花 今橋眞理子
純白の時間とまらず花辛夷 藤岡筑邨
純白の服もて日焼子を飾る 林翔
純白の服着て旅す陽市は 阿部完市 無帽
純白の棚の一線梨の花 酒向敏子
純白の水泡を潜きとはに陥つ 三橋敏雄 巡禮
純白の点訳楽譜小鳥来る 丹羽啓子
純白の眠りに入るや雪の鶴 渡辺 昭
純白の睡蓮われも目覚めよし 桑島啓司
純白の砂漠に死にし黄金虫 仙田洋子 雲は王冠
純白の紙にひたひたと蟲の闇 神生彩史
純白の結び目北風の遺骨一つ 成田千空 地霊
純白の雪の進軍のかたちみえる 阿部完市 にもつは絵馬
純白の霧に夜明けて沼住ひ 石井とし夫
純白の鬱であり暗く大きな鱈 大西健司
純白へ試練まだある子白鳥 安居正浩
純白もて己れ縛せし春手套 田部谷紫
脱ぎ惜しむ手套純白海鳴る夜 鷲谷七菜子 雨 月
花野来て夜は純白の夜具の中 岡本眸
若菜摘む空に純白天守と雲 林昌華
菊純白にかなしみの香を放つ 龍太
蓮落花泥にささりて純白に 中戸川朝人 残心
街に雪この純白のいづこより 橋本榮治 麦生
身ごもれる子に純白の毛糸玉 渡部良子
遠花火思ひ出のみな純白に 田中とし子
鑑真の寺純白の蓮開く 倉持嘉博
陽の射さぬ純白の椅子むごい微笑 堀葦男
飾り羽子純白えらびくれしかな 加藤三七子
鴉の子純白の糞落としけり 西本一都 景色
●白壁 
あしかびや白壁のぼる水陽炎 神蔵器
あたたかに白壁ならぶ入江哉 正岡子規
ざぶざふと白壁洗ふ若葉かな 一茶
つるし柿陽の白壁に老婆溶け 大井雅人 龍岡村
のどかさや昼は白壁夜は灯 長閑 正岡子規
ほほけた草を刈つてしまつた白壁 人間を彫る 大橋裸木
もう鳴かぬ蟲白壁は日を溜めて 松村蒼石 雁
タイプの音ひびく白壁薄暑来ぬ 大井雅人 龍岡村
トマト炸裂教会の白壁に 今井 聖
今日も生きて虫なきしみる倉の白壁 尾崎放哉
倉敷の白壁家並柳絮とぶ 中林健人
厠蔵白壁に年あらたまる 下田稔
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女
夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと 前川佐美雄
大寒の空の白壁日もすがら 阿部みどり女
家成りて春の白壁鏡なす 高橋克城
春立てり野の白壁の暗き方 千代田葛彦 旅人木
枝蛙居たり塔頭の白壁に 尾崎迷堂 孤輪
毛虫焼く焔の首尾を白壁に 中戸川朝人 残心
洗濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄
浴衣着て四角白壁部屋ごもり 林翔 和紙
渋濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄 素心
満月を上げ白壁の蝋屋敷 清水美和子
燕や白壁見えて麦の秋 麦秋 正岡子規
独楽抱いて帰る白壁が痛い 村上雅子
畳畳と照る白壁や朱欒割く 小池文子 巴里蕭条
白壁がこんなに続くのも愛か 大西泰世 椿事
白壁が廻る廻るよ秋の風 阿部みどり女
白壁と冬空の壁人死せり 阿部みどり女
白壁にあをじ映れる光琳忌 石寒太 あるき神
白壁にかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁につゝじ咲たる庄屋哉 つつじ 正岡子規
白壁にひたと影置く枇杷の花 阿部みどり女
白壁にひゞく蘇州の水砧 森田峠 逆瀬川
白壁にわが影折れて島小春 植田桂子
白壁に影歩ませる冬日かな 山下芳男
白壁に月さやかかる野分かな 岡本松浜 白菊
白壁に氷遠にとまれる蝿を見き 白泉
白壁に消えも入らずに毛糸編み 平畑静塔
白壁に濁の一点寒波来る 橋本榮治 麦生
白壁に白服うつる真田町 田中三二良(屋根)
白壁に秋逝かんとす武家屋敷 山田弘子 初期作品
白壁に蜂がぶつかる藤の花 鈴木鷹夫 渚通り
白壁に蜂つきあたりつつ入日 桂信子 黄 瀬
白壁に蜻蛉過る日影かな 黒柳召波 春泥句集
白壁に見失ひけり歸り花 帰り花 正岡子規
白壁に雨のまばらや初嵐 西山泊雲 泊雲句集
白壁に雪ちりかかる都かな 闌更
白壁のあれば水影枯柳 世古諏訪
白壁のかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁のそしられつゝもかすみけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
白壁のふゑる町あり年のくれ 年の暮 正岡子規
白壁のままに倉古る寒造 榎本冬一郎
白壁の一閃二閃夏つばめ 村上良三
白壁の倉を見当てに水見舞 今村野蒜
白壁の割れ一筋に仏の座 古屋村木
白壁の向う側から秋の声 渡辺鮎太
白壁の囹圄白息紛れやすく 香西照雄 素心
白壁の影をひき据ゑ蓮開く 西村公鳳
白壁の日は水のよな深雪かな 佐野良太 樫
白壁の焔硝蔵や雲の峯 寺田寅彦
白壁の町を旅してサングラス 森田峠 逆瀬川以後
白壁の白あふれだす春の暮 岩井三千代
白壁の白暮れのこり鴎外忌 若井新一「雪田」
白壁の眩しき蔵や夏きざす 渡辺喜久子
白壁の蔵にいかりの子蟷螂 雨宮抱星
白壁の蔵の上ゆく初の雁 伊藤敬子
白壁の蔵の高窓枇杷熟るる 松尾照子
白壁の蔵囲みをり秋桜 須藤繁一
白壁の街に売らんと鴎鳴かす 山中葛子
白壁の里見くだしてかんこ鳥 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
白壁は女なく場所卯浪ゆえ 福田甲子雄
白壁は秋空のある窓に厚し 池内友次郎 結婚まで
白壁へ影が月から一本の電話線で 渡辺砂吐流
白壁へ歩みて消えてしまふ冬 鈴木鷹夫 千年
白壁や子供がすさみ筆始 黄口
白壁や青葉明りの秋篠寺 大河内京子
白壁をすばやく過ぎし秋弱日 岸田稚魚 筍流し
白壁をキャンバスにして蔦紅葉 大澄利江
白壁を映す外濠鴛鴦泳ぐ 高井のぶを
白壁を汚さぬやうに燕の巣 鷹羽狩行
白壁爽か大時計の秒針が赤 池内友次郎 結婚まで
白壁高高と爽か大階段 池内友次郎 結婚まで
秋の日の白壁に沿ひ影とゆく 林火
秋ふかし白壁をゆく手話の指 奥村比余呂
竹馬が倚る白壁のうらの湖 民郎
老鴬や白壁の蔵残りをり 小山ナオ子
薔薇咲いて白壁フェリス女学院 稲野博明
藻の花や白壁落ちし角櫓 子規句集 虚子・碧梧桐選
虹の根に白壁光る青田哉 青田 正岡子規
見返れば白壁いやし夕がすみ 越人
起絵のむかし白壁ばかりの村 神尾季羊「権」
遠足や白壁沿ひの朝の道 大野林火
●白雲 
いちめんの白雲となる春の坂 大野林火
かがやける白雲ありて照紅葉 高浜虚子
くらがりに白雲のこる網戸かな 阿部みどり女 『陽炎』
くるみ負ひ一歩一歩を白雲へ 村越化石 山國抄
げんげ田に寝て白雲の数知れず 林火
さびしげに白雲わたる焼野哉 焼野 正岡子規
さらさらと白雲わたる芭蕉かな 正岡子規
たえずしも白雲おこる氷室守 氷室 正岡子規
とんぼうや白雲の飛ぶ空までも 几董
またくらに白雲起る清水哉 清水 正岡子規
まだ彷徨う亡弟が来し夜の白雲 峠 素子
むさし野の秋は白雲よりととのふ(疎開先の高崎より東村山に移り住む) 上村占魚 『一火』
ゆつくりと白雲のゆく海鼠桶 児玉輝代
よしきりの声白雲を呼んでをり 若林蕗生
りんだうに白雲うごき薄れけり 柴田白葉女 遠い橋
オオバギボウシ白雲翳り易くして 高澤良一 宿好
キャベツ畑を祝福し アヴィニヨンで融ける白雲か 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
クローバに坐し白雲に愛さるる 村越化石 山國抄
七月のこゑ白雲が蜂起せり 千代田葛彦
下萌えて白雲しづかなる移り 太田鴻村
不二は白雲桜に駒の歩みかな 松岡青蘿
両手を挙げる白雲ありき出雲ありき 夏石番矢 神々のフーガ
井の底に白雲あそぶ針供養 飯田龍太
人ごゑは白雲に触れ山廬の忌 井上康明
伊賀富士に白雲流る今朝の秋 澤井とき子
伐りし竹かつぎ白雲隨へし 大串章
何に屋根へ上つてゐるこども夏の白雲 中塚一碧樓
傍に白雲を置き蕎麦刈れり 脇本星浪
元日の白雲すみやかに通る 大峯あきら 宇宙塵
八方に夏白雲や日照雨けり 松村蒼石 雁
凍桑にまた白雲のひつかかり 大峯あきら 鳥道
唐紙の白雲形や冬籠 冬籠 正岡子規
唐黍に白雲盆も過ぎにけり 大野林火
喪へるひかり白雲谿を覆ふ 石原舟月
土手のすみれ昏れて白雲残りけり 林原耒井 蜩
土用芽のそら白雲の溜り易し 高澤良一 素抱
地を照らす白雲杏拾ひをり 宮津昭彦
夏に入る白雲あふぎ師に近づく 松村蒼石 雪
夏帽に白雲遠く望みけり 青峰集 島田青峰
夜は夜の白雲靆(たなび)きて秋の岳 飯田蛇笏
夜は春の白雲遊ぶ古墳群 西村公鳳
夢二忌や白雲尽くる時もなし 安成三郎 山魯俳句集
天にみち白雲冬をとざしけり 原石鼎 花影以後
天平のころの白雲ひなまつり 中田剛 珠樹以後
安達太良に白雲生まれ袋掛 阿部みどり女 『雪嶺』
寧楽のあかるさ白雲に水草生ひ 鷲谷七菜子
小梅恵草行者白雲まとひ来ぬ 岡田日郎
山裾を白雲わたる青田かな 高浜虚子
山越えてゆく白雲も涅槃かな 岡澤康司
山越えて来る白雲も松の内 大村昌徳
干瓢乾し村に白雲殖やすごとし 大串章
年木樵また白雲の流れ込む 友岡子郷 日の径
急がざる白雲仰ぎ春子摘む 伊藤京子
扉のひらくたびに白雲十二月 友岡子郷 日の径
摘草の子に白雲のながれけり 月二郎
数へ日の白雲とゐて山仕事 友岡子郷 春隣
新樹山白雲移り易きかな 高澤良一 素抱
春嵐白雲海へ海へとぶ 井村美治子
昼中の白雲涼し中禅寺 涼し 正岡子規
晴の日も*けの日も白雲花辛夷 鍵和田[ゆう]子 浮標
月あれば白雲集ふ枯ポプラ 野澤節子 黄 炎
月みせてはとぶ白雲や深山槇 飯田蛇笏 山廬集
木がらしや白雲過る月凄し 闌更
杉の奥に白雲起る紅葉哉 紅葉 正岡子規
枇杷もげば白雲とみに目をそそる 太田鴻村 穂国
林から生まの白雲昼蛙 子郷
枯枝に湧く白雲や百千鳥 石鼎
柿の木の空の白雲馬肥ゆる 小原菁々子
桃*もぐや白雲まとひ越後富士 宇野慂子
欠伸すれば白雲口に入る閑古鳥 会津八一
氷室の戸白雲深く閉しけり 河東碧梧桐「碧梧桐句集」
泥田にも浮かぶ白雲苗育つ 松倉ゆずる
泰山木の一花結印白雲に 近藤一鴻
泰山木咲き白雲へ風届く 川村紫陽
海鼠食ふ夕白雲のかがやきに 中拓夫
淡墨の残花白雲持ち去れり 野沢節子
湖山の遠白雲にげんげ刈る 松村蒼石
田に白雲サイクリングの脚も消えて 瀬戸 密
男山葡萄を絞る白雲の明りを身にうけ 安斎櫻[カイ]子
白雲と共に行く雁のふる里遠く清しと思ふ 安斎櫻[カイ]子
白雲と冬木と終にかかわらず 高浜虚子
白雲と老母うやむやの関に遊べ 安井浩司 牛尾心抄
白雲にさゝやかな希ひもちて久し 片山桃史 北方兵團
白雲にのる村もあり山ざくら 榎本其角
白雲に千鳥こもるやきらきらす 川島彷徨子 榛の木
白雲に時代祭の毛槍飛ぶ 辻本斐山
白雲に枯木の小枝ひろがりし 高木晴子 晴居
白雲に椿の貝殻虫も照る 川島彷徨子 榛の木
白雲に碧き空洞川施餓鬼 向井 秀
白雲に秋立つてまだ地は暑し 立秋 正岡子規
白雲に肩入れ剪定の男あり 天野武雄
白雲に雪の御嶽まぎれつゝ 田中王城
白雲のあと何も来ぬ秋湯治 山本洋子
白雲のうしろはるけき小春かな 飯田龍太(1920-)
白雲のしづかに行きて恵方かな 村上鬼城
白雲のもとに翔び得ぬものは蛇 片山桃史 北方兵團
白雲のゆたかなれども菊月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
白雲の上に家あり桜あり 桜 正岡子規
白雲の上に岩あり蔦紅葉 蔦紅葉 正岡子規
白雲の下に横なる国ありや 安井浩司
白雲の下に鬱気の蟹といる 宇多喜代子
白雲の中へ中へと登高す 加藤三七子
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
白雲の中白雪の中を来ぬ 岡田日郎
白雲の人の居を訪ふ春の昼 鷲谷七菜子 天鼓
白雲の他来ぬ谷の接木かな 大峯あきら
白雲の匂ひて通る飾かな 大峯あきら
白雲の去ぬればみえる山の餓鬼 安井浩司
白雲の去来見送る冬籠り 遠藤はつ
白雲の夏野の果てや村一つ 会津八一
白雲の大火の中のわらびかな 田中芥子
白雲の奥かを出でて夜の空に月ぞかがやくわれを牽かんと 醍醐志万子
白雲の奥の奥よりななかまど 元砂輝代
白雲の妬心にかくす春日かな 前田普羅 春寒浅間山
白雲の寂花蓼の露百顆 石原八束 空の渚
白雲の影きれぎれの海月かな 暁台「暁台句集」
白雲の影も動かず春の水 春の水 正岡子規
白雲の映れる池の菱を取る 高浜虚子
白雲の春へ春へと動きけり 阿部みどり女 『石蕗』
白雲の根をおろしけりさくら苗 眠獅
白雲の死のかげ崩れ赤とんぼ 阿部みどり女
白雲の流転の尾根に紅葉濡れ 岡田日郎
白雲の滑り尽せり青泉 関森勝夫
白雲の白を移せり諏訪破魔矢 静塔
白雲の空ゆりすゑて牡丹かな 蓼太
白雲の立ちつぐ山の破魔矢かな 村田 脩
白雲の絶えず湧き出る若葉かな 三森幹雄
白雲の行方うつして秋の水 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
白雲の触れては芽吹く雑木山 山田弘子 こぶし坂
白雲の誘ひに乗れり初雲雀 関森勝夫
白雲の迅きがゆゑの安居かな 田中裕明 先生から手紙
白雲の野に腹かへす*いもりかな 島村元句集
白雲の限りなく過ぐ野の泉 近藤一鴻
白雲の雲影よぎるカラマツ草 高澤良一 宿好
白雲の静かに行きて恵方かな 村上鬼城
白雲の龍をつゝむや梅の花 服部嵐雪
白雲は乱礁の浪や雁来紅 渡辺水巴 白日
白雲は二百十日を遊ぶかな 野村喜舟 小石川
白雲は動き噴井は砕けつゝ 中村汀女
白雲は山をはなれて電波の日 岡澤康司
白雲は遠いものなり菊の上 乙二
白雲へ杉まつすぐに四月尽 寺井治
白雲や三千丈の蔦紅葉 蔦紅葉 正岡子規
白雲や上戸の目には花盛 九之 選集「板東太郎」
白雲や女の歯がすみ冬の月 立独 選集「板東太郎」
白雲や実がちに咲きし桐の花 渡辺水巴
白雲や山の麓の蜜柑畑 青蜜柑 正岡子規
白雲や山分け入れば草の露 露 正岡子規
白雲や広く青きは田なるべし 青田 正岡子規
白雲や林檎の花に日のぬくみ 大野林火
白雲や湯の湖をめぐる夏木立 夏木立 正岡子規
白雲や漕ぎつれ競ふ鰹舟 吉武月二郎句集
白雲や秋の暮また春の暮 永田耕衣 殺祖
白雲や芽吹く力に大樹揺れ 川村紫陽
白雲や茅の輪くぐりし人の上 乙二「乙二発句集」
白雲や萩の若葉の上を飛ぶ 若葉 正岡子規
白雲や雪解の沢へうつる空 炭 太祇 太祇句選後篇
白雲や青く広きは田なるべし 青田 正岡子規
白雲や青葉若葉の三十里 若葉 正岡子規
白雲よ女は祷るときかなし 片山桃史 北方兵團
白雲をいくつか許し斧始 大峯あきら 宇宙塵
白雲を出て春愁もなかりけり 中川宋淵
白雲を出る日仰ぎつ緑蔭に 草田男
白雲を吹き尽したる新樹かな 椎本才麿
白雲を吹尽したる新樹かな 才麿「難波の枝折」
白雲を押し出す水面花*あさざ 中戸川朝人
白雲を滝へ蹴落す雲雀かな 膳所-万里 俳諧撰集玉藻集
白雲を率てまたひとり苗運び 友岡子郷 翌
白雲を雪嶺と見て年忘れ 阿部みどり女
白雲紅葉ともし火見えて日暮れたり 紅葉 正岡子規
白鳥の空や白雲にも翼 鞍悦子
眼のなかの秋の白雲あふれ去る 山口誓子
秋愁や白雲むらがり海の紺 阿部みどり女 月下美人
秋深く白雲の多き年かな 太田鴻村 穂国
秋風や白雲迷ふ親不知 秋風 正岡子規
種茄子白雲を吸ふこと幾日 栗生純夫 科野路
稲刈つて田水の底を白雲飛ぶ 中拓夫 愛鷹
穴まどひ白雲に乗りそびれしか 和田耕三郎
立待やただ白雲の漠々と 原コウ子
竹やぶはなれぬ白雲のまま月夜となり シヤツと雑草 栗林一石路
絶えずしも白雲おこる氷室かな 正岡子規「子規句集」
背戸の山白雲わたる若葉哉 若葉 正岡子規
背戸山に白雲わたる若葉哉 若葉 正岡子規
脚下より春の白雲流れけり 響月句集 村上黍月
花を折つてふり返つて曰くあれは白雲 古白遺稿 藤野古白
若葉して白雲近し東山 若葉 正岡子規
茸飯白雲低くよぎりけり 蓬田紀枝子
草競馬眺め白雲眺めをる 成瀬正とし 星月夜
薄雪草震ふ白雲来ては触れ 岡田日郎
薬莱山に白雲かかる麦の秋 宮脇良子
薺粥遠白雲に家冷ゆる 中拓夫
虹の輪をくぐる白雲童子かな 野澤節子 『駿河蘭』
西行の白雲あそぶ弥生かな 岡澤康司
貧しさに耐へつつ生きて或る時はこころいたいたし夜の白雲 佐藤佐太郎
辛夷の白雲に重なり佳き日なる 毛塚静枝
野に山に白雲ゆくよ煙柳忌 飯田蛇笏 山廬集
陸橋の眞空白雲秋彼岸 石原舟月
陸橋の空の白雲秋彼岸 石原舟月
隙々を白雲わたる新樹かな 西山泊雲 泊雲句集
青空の白雲動き春の蟻 阿部みどり女 『陽炎』
青空を白雲走る木の芽かな 原石鼎 花影以後
青胡桃白雲は夜も太りをり 伊東 肇
青雲と白雲と耀り麦の秋 日野草城
飄と行く白雲高し日向ぼこ 貝塚放朗
飛びかゝる白雲望を隠し得ず 旭川
高原の白雲に濡れ黍熟るる 岡田日郎
鬼やらひ夜の白雲のひと刷きに 中拓夫 愛鷹
鶯や白雲は影残さざり 直人
鶴咳きに咳く白雲にとりすがり 日野草城
麦秋の星白雲にひそみけり 西村公鳳
黄梅や白雲杉にこぞる迫 原石鼎
黒霧白雲巌をしまきて合流す 加藤知世子 花寂び
龍胆に白雲うごき薄れけり 柴田白葉女 『冬椿』『遠い橋』『岬の日』
●白々 しろしろ しろじろ 
つと入や縁白々と足の跡 喜谷六花
はてどなく白々春雪の少しづゝ 西山泊雲 泊雲句集
まなうらの瀧白々と風邪きざす 馬場移公子
みぞれには非ず白々したる雨 高木晴子
ドロの木の白々梅雨の十三湖 矢島渚男 延年
一人分の米白々と洗ひあげたる 尾崎放哉
下り簗白々月の磧かな 松根東洋城
冬隣る屑屋の籠の竹白々 内田百間
初鶏や富士白々と明心 友之
卓布白々と夜寒のカフェー静かかな 青峰集 島田青峰
堰落つる水白々と夕紅葉 大橋櫻坡子 雨月
夏の蝶白々浮きて通りけり 上林暁
夕送る札所の梅の白々と 山田弘子 初期作品
夜食する箸白々と狎妓かな 久米正雄 返り花
大人(うし)逝きて桜吹雪の白々し 小出秋光
大文字消えて月星白々と 山田弘子 螢川
宵闇の白々浮かむ棺ひとつ 平松 綾
寒芹の根の白々と父の古稀 皆川白陀
帷子に白々とある滑走路 糸 大八
息白々昨日を痣のごとく負ふ 加藤楸邨
新涼の雲まばらなり白々と 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
春雨や白々けぶる堰の水 西山泊雲 泊雲句集
月は寒く日は白々と低くなる 斎藤空華 空華句集
枇杷の芽立白々と春の夕なる 碧雲居句集 大谷碧雲居
椎若葉白々と墓地暮れにけり 富田木歩
横ざまに雨白々と牡丹かな 根根東洋城
樹にのぼる蛇白々と水展け 松村蒼石 雪
水冴えてカーヴす鯉の白々と 渡邊水巴 富士
水鳥や白々明けの尖り浪 野村喜舟 小石川
湛水の夜を白々と秋闌けし 臼田亞浪 定本亜浪句集
燕麦の白々熟るるこよひ泊つ 山口青邨
狐雨白々と聳つ秋の槍ケ岳 羽部洞然
獨り居や梅雨寒の窓白々と 内田百間
病む人の足袋白々とはきにけり 前田普羅 新訂普羅句集
白々と何の新樹か吹かれ立つ 高木晴子「晴居」
白々と余白めでたし年賀状 七三郎
白々と女沈める柚子湯かな 日野草城
白々と寝釈迦の顔の胡粉かな 高浜虚子
白々と木の間の空や十夜寺 柏木白雨
白々と梅あり粥のありにけり 相生垣瓜人 明治草抄
白々と浄土ケ浜の年明ける 磯野充伯
白々と海女が潜れる秋の海 前田普羅 能登蒼し
白々と灼け居る奥の細道よ 楠節子
白々と立夏の月の在りどころ 高木晴子 花 季
白々と縁にさし来ぬ後の月 前田普羅 新訂普羅句集
白々と華やぐ鼓楼団扇撒 磯野充伯「五七五」
白々と障子しめあり冬安居 前沢落葉女
白々と雲湧き由布の月夜かな 石橋梅園
白魚汲む湖の曙の白々と 玉置仙蒋
石除るや十薬の根の白々と 西山泊雲 泊雲句集
秋風や蝶々さへも白々と 野村喜舟 小石川
花冷や白々と居る障子内 池上浩山人
花禰宜の息白々と祓ひをり 山田文子
芹摘みが来れば空港白々し 静塔
苗代田に幣白々と夜明けたり 青峰集 島田青峰
苧の露白々と結びけり 奥園操孔
萍に白々浮くは捨団扇 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
葉桜や逢うて手を挙げ白々と 青邨
蔕のあと白々とある木の実かな 西山泊雲 泊雲句集
藪茗荷白々とはや実をかかげ 山西雅子
虎河豚の白々として夜の生簀 小林葭竹
身にしむやそよや銀河の白々と 椎本才麿
雨あとの花白々と桜かな 原石鼎 花影以後
くちなしの逢魔が時をしろじろと 下村梅子
しろしろと畠の中の梅一本 阿波野青畝(1899-1992)
しろしろと色紙の雛の余白あり 後藤夜半 底紅
しろしろと花びら反りぬ月の菊 杉田久女
しろしろと馬刺啖うて年の内 諸角せつ子
しろじろとくだけて寒き仏かな 太田鴻村 穂国
しろじろと一月をはる風の畦 綾部仁喜 寒木
しろじろと地梨を咲かせ御師の家 西本一都 景色
しろじろと夜がうねりだす花万朶 那須淳男
しろじろと夜風に揺れて蝉の羽化 岡本昭子
しろじろと安女(やすめ)太郎次相擁く 毛利 令
しろじろと日は流るるよ散る柳 堤 まさ子
しろじろと春日に甍反りゆけば危うく自恃を喪わんとす 大野とくよ
しろじろと月の残れる淑気かな 柴田美枝子
しろじろと月光わたる木の芽道 山本智恵子
しろじろと月暁けてをり寒稽古 辻岡夏人
しろじろと洗ひざらしぬ夏の足袋 西島麦南 人音
しろじろと花を盛りあげて庭ざくらおのが光りに暗く曇りをり 太田水穂
しろじろと草木吹かるる厄日過ぎ 片山由美子 水精
しろじろと豆腐が沈みゐたる午後 小沢青柚子
しろじろと越後くにはら夜の出水 斉藤美規
しろじろと道通りたり祭あと 相馬遷子 山河
しろじろと霧の姥捨山があり 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
しろじろと頬杖たてぬ梅雨安居 赤松子
しろじろと顕ちて真闇の滝の丈 伊東肇
しろじろと風流れゐる切籠かな 吉田速水
はまゆふに雨しろじろとかつ太く 長谷川素逝
ふと羨し息しろじろと地を嗅ぐ犬 川口重美
ビキニ忌のしろじろとして海の照り 衣川次郎
信楽の涼夜をしろじろと狸腹 能村登四郎 天上華
冬服や襟しろじろとつつがめく 飯田蛇笏 山廬集
初螢得てしろじろと夜のありぬ 大石悦子 群萌
夜濯ぎの物しろじろと駅舎裏 大村道子
大熊手かつぐしろじろ夜靄ひき 石原八束 空の渚
大蕪しろじろ洗ふ夢の母 松村多美
姫女苑しろじろ暮れて道とほき 伊東月草
岩走る水しろじろと秋の声 小倉虹男
峭崖や花しろしろとして散らず 豊長みのる
干されたる萱しろじろと暮れにけり 阪本早苗
早稲の花しろじろと夏忘れ酒 佐野良太 樫
昼の虫しろじろ息を交はしけり 岩田昌寿 地の塩
曲水の夜もしろじろと花筏 冨田みのる
河口に浪しろじろと寄り吾子も夏へ 金子兜太 少年/生長
流さるる蚕しろじろ芦に寄る 石原舟月
烏瓜の花しろじろと由布泊 松村越子
父逝きしこの世しろじろ萩月夜 櫛原希伊子
秋の繭しろじろ枯れてもがれけり 飯田蛇笏 山廬集
秋の雲しろじろとして夜に入りし 飯田蛇笏 山廬集
花茗荷しろじろ命燃えてゐし 大石悦子 群萌
里山の明けしろじろと柄長群れ 安西篤
隣子貼つて灯のしろじろと豫後を住む 石原舟月 山鵲
鮭のぼる川しろじろと明けにけり 皆川盤水
●白砂 
お火渡りあしたに白砂凍みこごる 中戸川朝人 星辰
この庭の白砂に萌ゆるもの許さず 鈴木貞雄
さくらんぼ寄進の白砂とどきけり 中戸川朝人 星辰
ほだはらは玉白砂の上にあり 加藤みき
亀孵る白砂と御坊指さしぬ 高澤良一 宿好
佐渡見えず白砂掌より洩れ終り 阿部完市 無帽
分葱萌ゆ白砂混じりの島の畑 中島真理
初空や青松白砂ところがら 尾崎迷堂 孤輪
初鐘の楼へ白砂を渡りけり 比叡禽化
名月に白砂玉とも見ゆるかな 名月 正岡子規
夏風邪や青松白砂夜遊びて 尾崎迷堂 孤輪
夢殿へ白砂敷き足す年用意 山田孝子
年祝ぎの波白砂に敷きのべて 津田清子
庭坪の白砂弾んで初雀 勝村茂美
御白砂に数珠の音なしかんこ鳥 浜田酒堂
恐山血の池地獄の白砂に吾を裏切りし人の名を書く 石野公子
揚舟に湖の白砂と花の屑 伊藤京子
斑猫もまぎるる白砂秋の声 田中水桜
日に鴨の白砂あゆむ尾ぶりかな 白雄
早生紅葉白砂育ちの繊細に 香西照雄
春泥は王の墓域の白砂にも 河野頼人
晴昊や白砂に置いて鯊の顔 小澤實 砧
暮れなづむ白砂に残る若布の香 植田 桂子
月の白砂に腹がつかへてゐる餘裕 藤後左右
東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる 石川啄木
松葉散る白砂道や三穂神社 散り松葉 正岡子規
梨剥くや山水白砂を滲み出て 香西照雄 対話
椎匂ふ白砂のごとき頭痛薬 鈴木鷹夫 千年
椿落ち白砂に咲きぬ子安神 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
渚まで続く白砂や仏桑花 古賀まり子「暁雲」
白砂に別雷の実梅かな(上賀茂神社) 波多野爽波 『骰子』
白砂に松の実生や春の雨 比叡 野村泊月
白砂に水に飛石かきつばた 堀 葦男
白砂に熊手の波やちり松葉 散り松葉 正岡子規
白砂に犬のゐねふる小春哉 小春 正岡子規
白砂に犬の寐ころぶ小春哉 小春 正岡子規
白砂に葉を散らしをり沙羅双樹 森田公司
白砂に雀足ひくあつさかな 遅望 俳諧撰集「有磯海」
白砂のきらきらとする熱さ哉 暑 正岡子規
白砂の山もあるのにしくれ哉 時雨 正岡子規
白砂や露の貝殻鏤めて 石塚友二 光塵
白砂光り早箸さばき白子干す 丹羽卓
白砂安堵の息するすると蔓南瓜 飯田龍太
白砂拾ふともなく浜へ世阿弥の忌 上田日差子
白砂青松怒濤に縮む干大根 百合山羽公 寒雁
白砂青松磯に群がる鰯引 寺田寅彦
白砂青松踊子鞍を卸さるゝ 安斎櫻[カイ]子
石庭の白砂すがしき若葉かな 中野 薫
石庭の白砂ひかる薄暑かな 久保田万太郎 流寓抄以後
神籬の白砂にとんで道をしへ 大橋敦子 匂 玉
落し文安宅の白砂巻きにけり 小原啄葉
蕎麦の花白砂の海を行くごとし 田野やゑ
薔薇は白砂に散り緑蔭に猿の檻 田川飛旅子 花文字
長元坊現るる白砂や虚し貝 小枝秀穂女
陽炎や白砂がいだく塚一基 鷲谷七菜子 雨 月
青松を白砂へ出たる春着かな 森田 峠
須磨の白砂跡つけて雛の落ちゆくや 久米正雄 返り花
鷹の子や岩山裾に白砂の帯 成田千空 地霊
●白(ら)む 
うしろから白む端山の雉の声 雉 正岡子規
ねこ柳のほほけ白むや雛の雨 室生犀星 魚眠洞發句集
ほとゝぎす口すゝぐ間も夜の白む 相馬遷子 山國
シャガールの月恋人に夜が白む 橋本榮治 麦生
何事もなく水番の夜が白む 池田風比古
反転々白むには間の熱帯夜 及川 貞
吹き白むことを欅も厄日空 皆吉爽雨 泉声
寝ねさせよ白むまで咳く咳地獄 及川貞
恥らひて鼻白む雛の灯かな 安斎桜[カイ]子
悴みて海苔漉き了へし窓白む 長谷川史郊
摶つ濤に眼鏡の白む寒暮かな 中戸川朝人 残心
明け白む荒海の方ゆ初放送 安立恭彦
明星の白む焚火にあたゝまる 百合山羽公 故園
明鶯寒屋の穴みな白む 百合山羽公 寒雁
朝富士に月も雪白むすこ病む 和知喜八 同齢
氷る河わたる車室の裡白む 山口誓子 黄旗
池白むほどの雨なる遠桜 久米正雄 返り花
照り白む道のわが影原爆忌 嶋田麻紀
献盃式果てゝ白むや菱燈籠 名和三幹竹
産ごゑと紅葉の香と明け白む 廣瀬町子
縄綯ひて夜の耳白む結氷音 豊山千蔭
舌白む朝よ青大将が過ぐ 柿本多映
舞は過ぎし夜を春に塵白む灯よ 安斎櫻[カイ]子
芹匂ふ顔白むまで雲を見て 子郷
苗代や抜くたび白む農の脚 石川桂郎
街路樹の小雨短夜ほの白む かきね草 藤井紫影
谷空のやうやく白むけらつつき 三田きえ子
身に入むや夕べを白む?(ぶな)林 黛執
逆波の白む世阿弥の忌なりけり 三田きえ子
長雨の暁白む蛙かな 雉子郎句集 石島雉子郎
馬頭観音盆道白むほどの雨 野沢節子
あいの風弥彦山(やひこ)の沖に浪白らめ 高澤良一 寒暑
人声やこんもり白らむ踊り更け 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
原ひろくなれば白らけつ寒きかな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
夜は白らむ籠の螢のにほひはげしき 原田種茅 径
夢にかよひて戸の面の雪の暮れ白らむ 木歩句集 富田木歩
山なみへ夜の白らむ冬の旅する 橋本夢道
戸の隙を雪吹き白らめ神代記 野澤節子 黄 炎
春の日にみ仏の前土白らむ 原田種茅 径
枯草を音たてて男等没日白らめ 桜井博道 海上
水洗ひ白らけし塀や返り花 内田百間
海女潜き薫風磯に白らみたる 仙臥
白らむ旅寝遥かな闇に妻を託す 隈治人
簀の外の路照り白らむ心太 木歩句集 富田木歩
舷窓に白らむ濤音秋遍路 伊藤敬子
闇凍てて遠くの闇の白らむなり 松澤昭 神立
雨空の北から白らむ夜寒かな 廣江八重櫻
雪に白らみ遠く呼ばれる眠りのなか 大井雅人 龍岡村
雷とどろその夜わが家白らみけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
露寒や草に白らけし蛇の衣 梧月
食卓のもの急に白らける雪の風 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●白 
*さ夫藍の白咲きつづき志功の死 沢木欣一
*はまなすや白兎海岸兎波 赤坂八重子(京鹿子)
*はまなすや白兎祀りて宮小さし 松原文子
「延年の舞」は白濤秋の風 渡辺恭子
あかつきは白蜀葵あるいは奏上 阿部完市 春日朝歌
あか白とうち重なりぬ散蓮華 池内友次郎
あこがるる夕顔白花種子の冷え きくちつねこ
あさがほの蘂さし出づるところ白 正木ゆう子
あさきゆめみし白椿白たんぽぽ 塩野谷 仁
あしたばや足裏ま白に海女潜る 石川錠子
あほちたる肩白鷹の肩の幅 依田明倫
あるだけの雪降らしゐて白孔雀 木山杏理
あをあをと壬生菜一畝白毫寺 丹野富佐子
あをじ去り頬白来り雪催ひ 島村元句集
いたつきや庵春さむき白衾 西島麥南 金剛纂
いちご切れば秘めたる白のあらわるる 中島あわし
いちはつの白夕闇を漂へり 岡田佳子
いちはつの白真つ先に明けにけり 森尾仁子
いち早し白りんだうの草もみぢ 瀧井孝作
いつの世の乙女白歯そ桜貝 佐藤惣之助 蛍蝿盧句集
いつぽんの白長睫毛初鏡 高澤良一 寒暑
いつぽんの陰の白毛も江鮭 宮坂静生 樹下
いつ散りし白薔薇そらを濤の音 桜井博道 海上
いつ来ても白秋の町炬燵舟 小柳正之
いとけなき霊はや橇の白轍 成田千空 地霊
いまはただ眼白の鳴ける霧の木々 水原秋桜子
いわし雲と白を競ひて蕎麦の花 羽部洞然
いんげんの白花むつと曇りづめ 高澤良一 ももすずめ
うしろ姿を白と決めたる立葵 柿本多映
うすずみは白よりあはし天の川 藤村真理
うち透きて男の肌白上布 松本たかし
うら白のおもてを妻ときめてをり 西田 孝
えんぴつは白首のごとし宿の朝 阿部完市 鶏論
おどろきが初蝶となり白となる 中村明子
お四国へ一番発ちの白浄衣 つじ加代子
お小姓にほれたはれたや白重 高濱虚子
お山焼く僧六人の白頭巾 田村愛子
お年玉白寿の父に包みけり 遠藤秋尾
お涅槃に女童の白指触れたりし 飯田蛇笏
お白朮の火消ゆる火縄をまはさねば 松井亀羅
お花畠斜めに雲の白奔る 近藤一鴻
かきわける白のゝれんや風薫る 薫風 正岡子規
かぎりなく白に近づく海暮春 吉田紫乃
かくも小さき白足袋ありし七五三 林 翔
かくれ水ひゞきて白膠木紅葉かな 藤岡玉骨
かくれ泣く妻が肩見ゆ白薔薇 有働亨 汐路
かげりきてむしろ白湧く冬桜 中村 房子
かげろふの白洲を舟に歩みをり 中村雅樹
かしこみて白粥二椀寒のうち 石橋秀野
かたがたの身の上きかん白重 白重 正岡子規
かたくなに定めて白襟白足袋と きくちつねこ
かたまれば白とて燃える曼珠沙華 花谷和子
かはほりや小庭明るき白菖蒲 石井露月
かへり来し命虔しめ白菖蒲 石田波郷「酒中花」
かまどなき家に白朮火持ち帰る 金子篤子
からすみや酒ならなくに白飯に 林原耒井 蜩
きさらぎの白鞘ともる死者の胸 鈴木鷹夫 大津絵
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
くさむらに月光を踏む白毫寺 大串章
くちなしに飛ぶ白蝶の白からず 阿部みどり女 『石蕗』
くちなしの無意識界に白浮ぶ 殿村菟絲子 『旅雁』
くるみ咲く窓白粥の煮ゆる香を 松村蒼石 春霰
くれなゐの奉白文や賀茂祭 中田余瓶「百兎集」
けさ秋の敷布の白にめざめゐる 河合凱夫 藤の実
けふ多き白朝顔や忌に籠る 立花豊子
げぢげぢや風雨の夜の白襖 日野草城
げんげ束白混れるをよしとせり 五十嵐播水 播水句集
こけし未だ白面雪女来て覗く 有馬籌子
ことほぎの灯に来る蛾ありま白なる 岸風三楼 往来
このごろの夜の朧さや白椿 朧夜 正岡子規
この広き丘白芒銀芒 塩川雄三
この降りに頬白の雛巣立つとは 南耕風
こぼれ梅まさかも貝のごとく白 上村占魚 鮎
こゑ出して夜明けの白の都鳥 森澄雄
ご城下に諸白小路うめもどき 中戸川朝人 尋声
さくらの夜白装へばすぐに祝者 加倉井秋を
さはやかや絵の中に添ふ白鸚鵡 吉野義子
さへづりや白杖頼り旅に出る 高原喜久郎
さらすなり浪のうねうね白縮 疎計 選集「板東太郎」
さりげなき小菊の白や十三夜 野村喜舟 小石川
さるすべり白を尽くして咲き勤む 高澤良一 素抱
さわさわと白着て坐る孟蘭盆会 能村登四郎 民話
しくるゝや東へ下る白拍子 時雨 正岡子規
しづかなる汗八朔の白がさね 筑紫磐井 野干
しばらくの白を打ち敷き春霰 藤村克明
すき焼の白たきの濤子と分つ 佐川広治
すぐ汚れる白ハンカチは薄幸ぞ 清水径子「清水径子全句集」
すさのをのくしなだひめの白朮の火 石田小坡
すはだかにねおぼれにける白蚊帳 飯田蛇笏 春蘭
せめぎあひては睡蓮の白ばかり 中野陽路
そぞろ寒白毛を抜きし喉ぼとけ 角川春樹
そだちゆく対岸の夕景に白犬 金子皆子
そのかみの廓白焼鯊ひさぐ 市川這児
その墓域白の落花の蔽ふべし 野沢節子 八朶集以後
その白描冬瓜あはくなりにけり 赤尾兜子
それ讃岐の山に白犬蹴り上り 阿部完市 軽のやまめ
たいつり草咲きて白とは遺憾なり 山本京子
たうがらし売白頭の翁かな 高井几董
たかうなに白箸置きて句を案じ 笹沢美明 春光秋色
たくはへる白髯ならず寒ゆるぶ 石川桂郎 四温
たたずめば頬白の鳴く狩野なり 阿部ひろし
たひらかに心音ありぬ白菖蒲 須賀一恵
たまきはる白のひびけり貴椿 神蔵 器
たましひの抜けしにあらず白南天 片山由美子 水精
たまむしをつけ行乞の白脚絆 南 典二
たり蔓の白花ならべて秋やたつ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
たんぽぽの白の孤高に黄を配す 稲畑汀子 汀子第三句集
たんぽゝもけふ白頭に暮の春 召波
ちり鍋や白滝結ひし藁一本 今泉貞鳳
ちゝはゝとまた呼ぶを得し露白光 杉山岳陽 晩婚
つまみたるだけ白蛾の白奪ふ 加倉井秋を
つむる眼の中まで晴れて白菖蒲 櫛原希伊子
てんとむしだましの技術白襷 阿部完市
とびぬけて赤きは白膠木紅葉かな 右城暮石
どうだんの白鈴の花日を振りて 猿山木魂
どくだみの白美しき日陰かな 小野茂川
どくだみや真昼の闇に白十字 川端茅舎「華厳」
どこも見てゐず菊人形の白面輪 関戸靖子
なきがらの冷えよりも冷え白浴衣 小原啄葉
なぜ見えぬ白村江の落花落日 夏石番矢
なほ北へ行く船の白冬かもめ 赤塚五行
なまめきて白猫ひとつ花野かな 小池文子 巴里蕭条
にごつた空 どこかの家に 白燕がきている 吉岡禅寺洞
にはたづみ冬日まみれや白毫寺 岸田稚魚 筍流し
ねむたくて河鹿か石か白千曲 和知喜八 同齢
はくれんのたっぷりな白宙に浮く 田中公子
はくれんの白鷹となり翔たむとす 安東次男 昨
はく日からはや白足袋でなかりけり 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
はまゆふの白へ紛れる波の音 福川悠子
はるばると引くも白濤神の留守 神尾久美子
ぱんは白綾につつみゆくなりあめつち 阿部完市 春日朝歌
ひさかきの花に眼白の巣引かな 大場白水郎 散木集
ひそひそと白侘助の内緒ごと 立野靖女
ひと夜経し白濤に夏老見せて 鈴木鷹夫 渚通り
ひなあそび十津川渓谷白光塵 夏石番矢
ひやひやと白気の上る氷室かな 氷室 正岡子規
ひるがへり去りし鶲の紋の白 坊城としあつ
びしびしと雨降る銀座白秋忌 佐藤秀蒼仔
ふきのたう風に呆けて白面子 高澤良一 燕音
ふすまたおして十二月十日白噺 阿部完市 春日朝歌
ふたたびの寝酒にかへす白枕 山口草堂
ふとめくり私白蜀葵であつたりす 阿部完市 鶏論
ふる雪に木々の撓ひや白吉野 宇佐美魚目 秋収冬蔵
ふれあへば白炎をひく冬の蝶 仙田洋子 橋のあなたに
ほがらかに黛そびゆ白重 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
ほぎごとの白足袋も入れ旅鞄 柴田只管
ほぐれそめ翳知りそめし白菖蒲 林 翔
ほしひ碾く観蓮さんは白襷 本田一杉
ほつほつと闇のめくれて白辛夷 辻美奈子
ぼうたんの数多の先づは白に倚り つじ加代子
ぼうたんの濤に緋の刻白の刻 手塚美佐 昔の香 以後
ぼうたんの白に浸りてゐる浴後 高澤良一 ねずみのこまくら
ぼうたんの白炎を挿し原爆忌 木田千女
ぼうたんの緋に綿の刻白の刻 手塚美佐
またたびの目立ち吹かるる白葉かな 本田空也
またちがふ鳥が来てをり白椿 大木清子
まだ珠の泰山木の白蕾 八木林之介 青霞集
まっ白な脳天いつも落伍して 青木貞雄
まつ白な旅のはじめの花こぶし 杉山マサヨ
まつ白な日傘に雨の落ちはじむ 名取里美
まつ白な風の岬に踏む蟻よ 皆吉司
まつ白のオウム鳴き出す秋彼岸 乙武佳子
まつ白の島又島は除虫菊 和田ふく子
まどかさや片面は白茶白團扇 渡邊水巴
まはさねばきゆる白朮火まはしつゝ 井上治憧
まぼろしと言うはやさしい白椿 大西泰世 世紀末の小町
まぼろしの藍ただよへり白菖蒲 草間時彦 櫻山
まゆみの実真つ白な雨山消して 八木林之助
まゆ玉や白ちりめんの肌障り 一音
まろ~と白大嶽や峡深雪 松根東洋城
みじか夜の白狐吾を見てわれも見る 角川春樹 夢殿
みじか夜やいとま給る白拍子 蕪村 夏之部 ■ 探題老犬
みたび原爆は許すまじ学帽の白覆い 古沢太穂
みづうみに諸子取れ出す白伊吹 高澤良一 燕音
みめよきは白縦縞の烏瓜 大橋迪代
み仏にはべり果報の白頭巾 高岡智照尼
むしかりの白花白花オルゴール 金子皆子
むらさきに佇てば白恋う菖蒲園 花谷和子
むらさきの中白菖蒲白堪ふ 殿村菟絲子 『晩緑』
むらさきを秘めきれぬ白花菖蒲 稲畑汀子
めつむりし中の星空白雄の忌 鷲谷七菜子
もつるるは白侘助の心の緒 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
もみぢして松にゆれそふ白膠木かな 飯田蛇笏 山廬集
ももいろの光は空に海に溶け白兎海岸夕ぐれんとす 石川不二子
もり入れる三盆白や小豆粥 小澤碧童 碧童句集
やうやくに癒えて障子の白は白 中田てる代
やはらかに月光のさす白薔薇 飯田蛇笏 春蘭
やませ除け黄花白花屋根に石 相原左義長
やまぶきこでまり白猫と喪の夫人 窪田丈耳
ゆく春の飯白すぎる昼奈落 宮崎あや
ゆづり葉や巖に白筋吾に血脈 香西照雄 素心
ゆりかもめ来しゆめの世の白の来し 山根真矢
ゆるやかに岬を押えて尾白鷲 小林寿子
よき声の病者ありけり根白草 飯田龍太
よく鍋に躍る白繭糸を引く 佐山滄々子
よべの凍ミ月にのこれり白磧 中戸川朝人 残心
よるがおをふりかえりつゝ白狐逃げ 八木三日女
わが好みのストックは白洲崎 高澤良一 素抱
わが好む白ふんどしの裸かな 飯田蛇笏 山廬集
わが寝屋の闇の一角白破魔矢 橋本多佳子
わが箸の白の歳月水溢れる 寺田京子 日の鷹
わが辿る白道無限年新た 桜木俊晃
わが鉾の句碑が白朮の縄の先 後藤比奈夫 めんない千鳥
をとゝひのけさのきのふの白朝顔 鈴木鷹夫 春の門
をんなは女外出気負うて白足袋に 河野多希女 琴 恋
アカシア白花昂揚の日の来し方 金子皆子
オホーツクの空ひろげたる尾白鷲 木村燿子
オホーツク朝日に向かふ尾白鷲 榎 美幸
カサブランカリリーの白で嫁ぎゆく 長谷川智弥子(麓)
カタン糸の白がするする伸びて夏 嶋田麻紀
クローカス黄・白・柴咲き揃ふ 林原耒井 蜩
グラバー邸港月夜の白椿 西本一都
コウ子忌や野を飾る花白づくし 渡辺蟹歩
コスモスの白がもつともゆれやすし 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
コスモス見る尼僧の帽の白庇 田川飛旅子 花文字
コック帽無菌の白に鰯雲 六角耕
シクラメン白馥郁と忌日過ぐ 古賀まり子
シクラメン縮れし白を求めけり 華 風女
シテとツレ白装束に月涼し 本橋 節
ジンジャーの白極まりて香を高む 平岡喜美子
スそッグにくちなしの白傷つけり 瀧井孝作
セルは古びわが髪白を加ふなる 森川暁水 淀
セルむかし、勇、白秋、杢太郎 久保田万太郎 流寓抄以後
セーターの白は誰にも似合ふ色 稲畑汀子
セーラー服白のきはまる五月かな 谷口桂子
ダム開くや吹きすさぶ白彼岸花 澁谷 道
ダリヤ植う白大輪は窓近く 尾崎木星
ダ・ヴィンチの白貂の見る春の闇 佐藤祝子
チカチカと水面の埃頬白来る 中拓夫 愛鷹
チゴガニの応援団の白手套 高澤良一 寒暑
ドル買いが沖見る 白光マーライオン 伊丹公子 ドリアンの棘
ネクタイの白は知鼻の汗は情 古館曹人
ハンカチの木のハンカチは白ばかり 坂本宮尾「木馬の螺子」
ハンカチーフ雪白なりや富士曇る 岸田稚魚
バッグより白兎のごときスキー靴 奈良文夫
バレンタインデーの奇襲の白*しょ古聿(ショコラ) 鈴木栄子
ベレーはみ出る白鬢 神戸でなら死にたい 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
マスクして白装束を決めてゐし 常見知生
マフラーの白にとびつく野のひかり 赤尾冨美子
ヤクルトの殻の白傷木々芽吹く 大石雄鬼
ランプ幾つ白秋生家添水鳴る 門脇美智子
レグホンの白が混みあふ花曇 耕二
レース編む白を飽きざる色として 池田秀水
ロベリアの白をめぐらす時計塔 つじ加代子
ワイン酌む白より赤へ夏料理 水見寿男
一つ落つ一つの音の 白侘助 高橋千鶴子
一ツ火に白道濡れむばかりなり 高澤良一 ねずみのこまくら
一人より二人は淡し白芒 齋藤愼爾
一八の白は夜の花風荒ぶ 阿部みどり女
一団の白装束や土筆原 脇坂啓子
一寸留守眼白落しに行かれけん 高浜虚子
一島を守る一家系白椿 毛塚静枝
一弁を欠きて曇れる白はちす 冨田みのる
一教師たかが青天白月ぞ 香西照雄 対話
一月の砂洲の白張り尽したる 伊藤京子
一本のいたく傾く白楊樹 京極杞陽 くくたち下巻
一本の白菖蒲また一行詩 中村明子
一汁の芋殻甘し白隠忌 酒井絹代
一湾の風となりゆく尾白鷲 市村正之
一灯に音なく狂ふ白蛾かな 大竹朝子
一生を和服で通し白上布 成見九一
一白は吾が生まれ星若葉澄む 雨宮抱星
一白艇冬の濤穂が発射せしか 香西照雄
一礁に一濤の白松毟鳥 友岡子郷 風日
一穢なきこと怖ろしき白菖蒲 中尾杏子
一羽なる源平つつじ白つつじ 吉田吼文
一羽見えてより枯枝の眼白たち 野澤節子 遠い橋
一誌持てば眼が大切や白椿 肥田埜勝美
一路なる白毫寺村籾おろす 赤松子
一輪の梅白毫の光あり 福田蓼汀 山火
一輪は天の白毫返り花 井沢正江 晩蝉
一輪車白セーターの女の子 大井雅人
一陣の風を仰げば白椿 下村槐太 光背
一面の白を裁ちゆく橇の鈴 横尾桂子
一駅を乗る山姥の白団扇 下田稔
七変化はじまる白は毬なさず 吉年虹二
七夕の赤の千代紙裏は白 池田澄子 たましいの話
七夕や宵の畳の白団扇 碧雲居句集 大谷碧雲居
七月の朝白粥の微光かな 山下淳
七月の燈台の白波濤の白 吉田未灰「独語」
七種の日の額白の馬とをり 友岡子郷 未草
七種の白猫畦を歩きをり 大峯あきら 宇宙塵
七草粥佛に選ぶ白茶碗 八牧美喜子
万両の白たいせつに喪正月 嶋田麻紀
万座より落せる水の白菖蒲 前田普羅 春寒浅間山
万灯引く衆の白足袋白法被 高澤良一 随笑
万里をゆく夏の白花手に挿頭し 金子兜太 遊牧集
丈草忌修す御岳白装束 加藤耕子
三井寺の門にかけたり眼白籠 松瀬青々
三代の爼にほふ根白草 新田祐久
三伏の白粥に芯ありにけり 小野恵美子
三宝に御供米の白初霞 毛塚静枝
三寒やエンデバの富士白一点 唐木培水
三月の筆のつかさや白袷 飯田蛇笏 霊芝
三状の寺一白の遍路の衣 高橋柿花
三男として白蟻を見つめけり 宮崎斗士
三白草二白のときを剪られけり 山田弘子 こぶし坂
三輪山にみな向きてをり白椿 穂苅富美子
三重吉旧居の白い鳥ことり白式部 澤柳たか子
上枝下枝に頬白はずみ氷照る 渡邊水巴 富士
下北のこれは白花吾亦紅 黒田杏子 花下草上
下帯も白足袋も濡れ出初式 宮田 勝
下駄箱に白緒がひとつ寒灸 石田勝彦 秋興
世界との距離か白バラまで散歩 坪内稔典
世阿弥忌の月白明り竹の奥 佐野美智
世阿弥忌の白を尽せる瀧なりし 松尾隆信
両眼の雫も寒し白がへし 中村史邦
丹の馬に山茶花の白花ぴかり 阿部完市 軽のやまめ
九文の白足袋はかす死出の母 品川鈴子
九月はや白をさみしきいろとなす 工藤久仁年
乱世にあらずや桜白過ぎる 沢木欣一
乳燕に白機あがる虹明り 西島麦南 人音
二つある白朮燈籠と云ふを見し 小松虹路
二河白道蝉のもどれぬ蝉の穴 吉田紫乃「一尋」
五月白嶺恋ひ近づけば嶺も寄る 橋本多佳子
五月雨の*(白+)生ゆらんか蝶の羽 五月雨 正岡子規
井戸地相す白霜のところ露霜のところ 山崎斌 竹青柿紅
亡き妻の植ゑし鉄線白ばかり 松崎鉄之介
交(あざ)はらず愛遂ぐるてふいろくづの累卵のせて今朝の白飯(しらいひ) 高橋睦郎 飲食
京へゆく日のハンカチは白と決む 吉田紫乃
人に死期田の神に白化粧季 加倉井秋を
人の世の嘘に汚れし白ハンカチ 下山宏子
人の服黒より白へ花菜咲く 波多野爽波 鋪道の花
人の踏む月より更にはるかにて白光浄く鷲座アルファ星 山田あさ
人を無視世を無視檻の尾白鷲 村松紅花
人参の花の白などうるさけれ 齋藤玄 『雁道』
今宵かぎりの白充ち枝垂れ夕桜 山本つぼみ
今朝秋や白蚊帳ごしに佐渡淡く 林翔 和紙
今生に白は紛れず冬かもめ 神蔵器
今白岳双峰赤天狗青天狗 福田蓼汀 秋風挽歌
仏性の火炎となりし白つつじ 椎橋清翠
仏見し瞼重しや白椿 澤村昭代
仕事着の白を守りて去年今年 毛塚静枝
仙洞に梅の白とぶ疾風かな 筑紫磐井 野干
仲秋や葉子と名付け白づくめ 宇佐美魚目
休暇はや白朝顔に雨斜め 汀女
似せ白がたかうな掘るやけつもどき 加藤郁乎
似もつかぬ白装束の更衣 飯田蛇笏 山廬集
伽羅蕗やふと白粥の恋ひしき日 堀口星眠 営巣期
低く飛ぶ白鳩雪の出稼ぎ村 隈 治人
佐保姫に山童の白にぎりめし 大串章
何故にあるのか白の曼珠沙華 細見綾子
佗人や眼白落しに誘はれ 尾崎迷堂 孤輪
佛蘭西の弘法麦か白熟す 八木林之介 青霞集
便箋の白に螢火近く置く 井上雪
俗権得て白装の椅子雪の梅 香西照雄
信濃紀行白の一章蕎麦の花 水谷洋子
信頼は白に還へれり朴一花 稲垣暁星子
修道女セーターの白許さるゝ 平林とき子
傘の黒茎の白千本しめぢ佳き 相馬遷子 山河
傷つきし白猫月が癒すなり 宮坂やよい
僧正の白緒の草履初蝶来 大石悦子 聞香
優曇華や雪白の布灯いろさす 加藤楸邨
元日のたそがれのある白襖 鈴木鷹夫 風の祭
元日や忘られてゐし白兎 飯田龍太 山の木
元朝の祗園はよかり白朮酒 後藤比奈夫 紅加茂
元結の白のめでたし結初め 五十嵐象円
兄弟(ひんでい)に問ふ紋白の落處かな 筑紫磐井 婆伽梵
先生が通つたような白団扇 小倉喜郎
光放つが最後の思想白芒 齋藤愼爾
光点なす白蝶ただよひ桜桃忌 鍵和田[ゆう]子 浮標
光琳やうつくしき水に白千鳥 千鳥 正岡子規
光琳や水紺青に白千鳥 千鳥 正岡子規
児のケープ雪白にして聖母祭 飯田蛇笏 霊芝
全貌を見せぬ雪嶺白皚々 右城暮石
八十八夜火よりも熱き餅の白 大木あまり 火のいろに
八十八夜白毫落ちし仏あり 三嶋隆英
八十八夜過ぎ山国の白豆腐 児玉南草
八月のついたちの白づくしかな 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
八月や老いの愛せし白襲 筑紫磐井 婆伽梵
八朔の祠に供ふ白だんご 藤野澪子
公魚を白の世界に釣り上げる 板谷クララ
六日はや鳥籠で売る白マウス 小林清之介
六月の夢の怖しや白づくし 岸風三樓
六月馬は白菱形を額(ぬか)に帯び 中村草田男(1901-83)
六白の無花果嫌ひ通しけり 榎本冬一郎 眼光
内庭を見せかけにけり白つつじ 嵐竹 芭蕉庵小文庫
冥府より翔つは五月の白孔雀 石寒太 炎環
冬に入る白粥の味かみしめて 瀧井孝作
冬の川白髯橋を以て渡る 山口青邨
冬帝は白装束で来ると決め 櫛原希伊子
冬待つや白善くいでし紺絣 野村喜舟 小石川
冬暖の濃き夕焼に橋の白 野澤節子 黄 炎
冬浪の白起つばかり鯨望荘 高澤良一 燕音
冬海の紺を見つめて墓白皙 細見綾子 花寂び
冬濤を摶つ雪白の大き翼 内藤吐天 鳴海抄
冬瓜の清しき白をサクと切る 祝 恵子
冬草や白猫座せる廃寺跡 三国義輝
冬萌に群れて白鶏汚れをり 根岸善雄
冬蕪の真つ白な尻積みあげゆく 太穂
冬薔薇の白の奥なる暗さかな 菱田瞳子
冬薔薇反逆の白崩れゆく 伊藤 梢
冬闇の広袤漁火と汀白のみ 香西照雄 素心
冬鴎越後の旅は白づくし 福永耕二
冴え冴えと手術待つ夜の白枕 毛塚静枝
冷まじや地獄絵仕置の白女體 高澤良一 素抱
冷麦や見れば白滝くへば雪 冷麦 正岡子規
凍滝の一徹の白垂れにけり 小林草山
凜凜と初水を吸ふ白椿 谷本淳子
凡白の句弟子杖曳く亜浪の忌 岡部義男
処女らコートの白に統べられ霧の航 上野さち子
凧二三裏の白見す流寓者 香西照雄
凧吹いて島の峠の白薄 和知喜八 同齢
凧糸の白のひとすぢ身より出て 桂信子(1914-)
凶作の白穂を流す河童淵 小川斉東語
出羽びとの山を神とす尾白鷲 武甕静江
刀匠は白の通し着山桜 茨木和生 往馬
切味よし卵で作る白睡蓮 香西照雄 素心
切子見る雪白界を尾の内に 皆吉爽雨
切株の白打つて雨盆の山 高澤良一 ねずみのこまくら
切株をたつ頬白の一呼吸 堀口星眠 営巣期
切株ノ 白イ時問ガマハル 年輪 富澤赤黄男
初凪や白鬚橋はうす~と 山口青邨
初刷の多色グラビア白は富士 上田五千石
初午や女人提げくる白狐絵馬 林 昌華
初夏や蓬が中の白薊 高田蝶衣
初嵐白蚊帳に透き父母が見ゆ 冨田みのる
初弓の振袖しぼる白だすき 岸川素粒子
初弥撒や白繭に似て嬰の睡り 中尾杏子
初春の鶴まつ白に風ひろぐ 吉原文音
初東風の山越えに逢ふ白弥山 鷲谷七菜子
初秋や舟子が着たる白襦袢 阿部みどり女 笹鳴
初稽古刺子の白の潔し 荒井正隆
初虹や梅の花まだ白許り 初虹 正岡子規
初蝉のそれ以後白粥かきまぜぬ 矢野千代子
初蝶に会ふ白足袋に退け目なし 神尾久美子 桐の木
初蝶や藍に白彫る浴衣染 百合山羽公 寒雁
初蝶を見し日空白多きかな 細見綾子 黄 瀬
初詣白歯よろしき矢大臣 松藤夏山 夏山句集
初雪の白を禁色とも思ふ 竹中弘明
初雪や嬰の産着の白づくめ 栗山妙子
初雪や裾へとゞかぬ白丁花 服部嵐雪
利休忌の海鳴せまる白襖 鷲谷七菜子 花寂び
利休忌やすすぎあげたる白茶巾 近藤一鴻
前の世の河に捨てけり白枕 齋藤愼爾
剪るは白薔薇か鋏の鋭き音は 加倉井秋を 『武蔵野抄』
勅使門裾濃に据はり白椿 久米正雄 返り花
動く時きて翔ちゆけり尾白鷲 永田耕一郎 雪明
勧進の白提灯も寒の内 館岡沙緻
匍匐せる木を出て海へ眼白飛ぶ 茨木和生 遠つ川
化石めざしたまなざしの白兎 柴勇起男
化身めく白蛾の翔ちて溺谷 毛塚静枝
北上川の白瀬見せつつ朝ざくら 高澤良一 宿好
北上川の雨の飛びくる白菖蒲 菅原多つを
北吹くと北向きしまま尾白鷲 田代朝子
十二月白鷺の白嫌いです 岡田寿子
十人は居る寺男白つつじ 岡田日郎
十代の秋去る手に載る白文鳥 松尾隆信
十六夜の白瀬や滝に発しつつ 野澤節子 黄 炎
十薬の白汝が胎内の十字架 石寒太 翔
千日紅千日白の束の中 松本武千代
千里来て白鳥の白翳りなし 新海りつ子
半夏生の白は化粧の白ならめ 酒井土子(惜春)
南風の一日白富む岬の町 櫛原希伊子
南風や白のまぶしき定年後 工藤義夫
卯の花に兼房みゆる白毛かな 曽良
卯の花の白に触れゆく瀬音あり 山田弘子 こぶし坂
即興の言葉うしなふ白睡蓮 北見さとる
卵生のラフマニノフや白辛夷 増田まさみ
原爆の日や白茶けし雀ゐて 森田公司
厳寒や白のみがわが里の色 高津ますえ
友あり白蟻の棲む言語在り 河原枇杷男 流灌頂
友二忌や紙風船の白と赤 星野麥丘人
友去りぬ春夜の床の白椿 阿部みどり女 笹鳴
友舟へ白菖(しゃうぶ)一本流しけり 星野恒彦
双魚忌の野菊は白をつくしけり 玉貫甲子郎
受粉後の白を深めて花りんご 佐藤信子
受難日のシモンの家に白鶏鳴く 堺 信子
口誦む童謡いくつ白秋忌 黒岩英子
口開けしあけび白痴の白を見す 三好潤子
古白とは秋につけたる名なるべし 夏目漱石 明治二十九年
古白死して二年桜咲き我病めり 正岡子規
句一念わが白足袋の指太き 岡本圭岳
句碑までの歩をねんごろに白虹忌 森松まさる
合い性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦
合性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
合歓咲いて白瀬よく見ゆ停留所 大串章 山童記
吊鐘を廻り初蝶白整ふ 殿村莵絲子 雨 月
同行二人朝すでに白犬は眠り 金子兜太
名月や院へ召さるる白拍子 井月の句集 井上井月
名無き嬰も白をまとひぬ初蝶も 文挟夫佐恵 雨 月
向き白由容ち自由に*かりん熟る 山田弘子 螢川
向日葵と白猫ともにふりむかず 堀口星眠 営巣期
吾ヲ啖フ勿レ晩白柚曰ク 坂本宮尾
呉羽山晴れて眼白の枝移り 青木和枝
和すれども同ぜずにゐて白上布 有馬朗人
咲きそめて白は神慮の花菖蒲 藤岡筑邨「葛西橋」
咲きはじむ野ばらの白よ旅衣を解く 高橋信之
唐子頭大市場通りの晩白柚 高澤良一 素抱
唐椿白極まれり詩仙堂 尾関佳子
唖者が飼う鳩白に黒乗り言葉見える 堀葦男
商才にたけ白服を着こなせり 木場田秀俊(狩)
啼く鵜あり白崩崖際の鵜捕鳥屋 石原八束 黒凍みの道
喪ごもりの目に水鳥の白が過ぐ(妹百合子逝く) 岸田稚魚 『花盗人』
喪に替ふる白衿都忘れ咲く 野見山ひふみ
噴水の白穂もて何の字を書かむ 柴田奈美
噴煙は鬱屈の白林檎もぐ 中島斌雄
四つ白の馬のあがきや摩耶詣 前田秋皎
四谷見附の白球よ遠く飛べ 中烏健二
四階に見るシャガールの虹は白 対馬康子 純情
囲はれて白極まりし寒の菊 河本好恵
国分尼寺静かに消えて白兎 攝津幸彦
国旗買ひ帰るや冬の白襖 赤尾兜子
土くさき遺跡の炉辺の白蛾かな 堤高嶺「五嵐十雨」
土筆伸ぶ白毫寺道は遠けれど 水原秋櫻子
土筆摘む白隠祭の夕ぐれに 萩原麦草 麦嵐
地に白花そらに繊月淡路女忌 文挟夫佐恵
地の塩が白を凝らせり灼け砂漠 品川鈴子
地を蹴って大根の白せりあがる 大橋浄
地獄門 血の葡萄酒に火を放てり 幻想と戀の白羊宮かな 筑紫磐井 未定稿Σ
地球儀の海にヨットとなる白蛾 石川文子
地蔵会のおさがりの白甜瓜 大石悦子 百花
垣なくて妹が住居や白つゝじ 雁宕
埋葬行夜の白服に白釦 中村草田男「母郷行」
埴輪の目より深き小窓持てりアテネ黄白の壁は続きぬ 河野愛子
堰落ちし水の白炎ほたる噴く 関森勝夫
塔遠み耕す人と白蝶と 和田悟朗 法隆寺伝承
塗師の町ここにも白膠木紅葉かな 坂本明子
墓山に眼白啼く日を帰郷せり 宮岡 計次
墓石に煙草一本の白寒椿 中拓夫 愛鷹
壮年の暁白梅の白を験(ため)す 赤尾兜子
声凍みて頬白とべり夕穂高 堀口星眠 火山灰の道
夏に一歩出で白足袋の人迎ふ 村越化石 山國抄
夏めくや男結びの白の帯 篠原美加英
夏めくや葡萄酒の白冷しをり 角川春樹
夏をかし白蝶とんで日いまだ 原石鼎 花影以後
夏寒き白粥煮るや古火桶 室生犀生
夏山に白球打ちて何かなしむ 相馬遷子 雪嶺
夏掛の白を揃へて父母安寝 冨田みのる
夏暁のなほ白燈の船あはれ 山口誓子
夏来ると白蝶貝のボタン選る 文挟夫佐恵 黄 瀬
夏来る樹影の黒と土の白 香西照雄 素心
夏神楽舞ふ狩衣に白袴 見浦町子(愛媛若葉)
夏立つと誰に告ぐべく挿す白花 佐野美智
夏菊のよりどころなし白ばかり 成瀬桜桃子 風色
夏行僧白粥に塩落しけり 土居伸哉
夏越餅名はみなづきや白撓み 吉野義子
夏足袋の白が飛び出す能舞台 木島斗川
夏足袋の白怖れけり訃の続く 小高和子(玄火)
夏雲や青墓の出の白拍子 宇佐美魚目 天地存問
夏鴬白手拭を身の護り 村越化石
夕ごころ片白草の化粧ふより 石田勝彦
夕しぐれ柩を蔽ふ白レース 吉野義子
夕ひぐらし屋根の凹みに白球乗り 友岡子郷 遠方
夕光の石の放てる白蛾かな 岩崎雅巳
夕弥撒や扉に花蕎麦の白挟み 大岳水一路
夕日さす峠の白膠木紅葉かな 山本順子
夕暮れて白の冷えゆく花大根 五十島典子
夕月や林泉めぐる白団扇 島村元句集
夕朧笈摺堂に白ふやす 杉本寛
夕潮の音白鱚に箸執らむ 瀧春一
夕立に烟り蘇堤も白堤も 山本歩禅
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて 芭蕉
夕顔は白光仏におはすかや 上川井梨葉
夕顔や白狐見返えるたび透ける 八木三日女
夕風や白薔薇の花皆動く 薔薇 正岡子規
多佳子忌や七曜啼けり白孔雀 本橋定晴
夜々の露あしたのために日記の白 加倉井秋を
夜の秋白絹の冷え手に残り 勝又星津女
夜の野火や一字あやまつ白封書 神尾久美子 桐の木以後
夜の黒猫 雪の白兎 実態のないもの飼い馴らし幻想の街に住む 梓志乃
夜は秋のみつしりと織る白紬 三田きえ子
夜もつづく白の緊張花辛夷 山田弘子
夜桜の白を極めて女人堂 影島智子
夜濯ぎの白ばかりなる手くらがり 井上雪
夜濯ぎの白泡家を流れ出づ 右城暮石 上下
夜神楽の神のつぶやき白ろ面 竹内一笑
夜空かなはじめてつかふ白團扇 渡邊水巴
夜蝉鳴く白林荘はまくらがり 阿部みどり女
夜露触る耳を垂らして白兎 長谷川かな女 花 季
夢の中に茅花の白を摘み来る 河野南畦 『黒い夏』
夢見ざる枕まつ白ほととぎす 岩永佐保
大いなる白薔薇にして冬晴るる 師竹
大いなる白蝶来たる味噌づくり 斉藤夏風
大いなる迂回路と知る白椿 五島高資
大伽藍越えて白蝶酔いゆけり 和田悟朗 法隆寺伝承
大佛の白毫にまつ月見かな 幸田露伴
大名行列白狐にたぶらかされゐる圖 高澤良一 燕音
大和絵の引目鉤鼻白上布 田口一穂
大夕立白狐のごとく打ち来たる 大高松竹(けごん)
大寒のひろがりいたる白の創 中村和弘
大寒の白鎮まれる休み窯 佐藤鬼房
大寒や白緒草履の足捌く 村野秋果
大小の梅の莟の白嵌まり 長谷川素逝 暦日
大山蓮華包む双掌の白光す 野見山ひふみ「大山蓮華」
大山蓮華白毫の香を放ちけり 瀬戸清子(湾)
大年や寺真つ向に白磧 石原舟月
大根の白はちきれんばかりかな 岡純子
大根の白供へある常楽会 上野一孝
大根洗ふや風来て白をみなぎらす 大野林火
大欅白樹しんしん去年今年 斎藤夏風
大王のごとき白鶏照紅葉 道下則子
大瑠璃鳥や白灯台に灘の照り 岡部六弥太
大白は瀬見の小川か砂糖水 重頼「名取川」
大白鳥白が好きとは限らない 池田澄子
大秋と白林を弟子や秋の風 飯田蛇笏 山廬集
大穹に鶏頂山の白鶏冠 高澤良一 素抱
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大花白豚(はくとん)歩いてゆくぜ白鳥だぜ 金子兜太 皆之
大輪の白朝顔はハイカラよ 京極杞陽 くくたち上巻
大露の海見ゆ谷戸の白墓標 石原舟月
天上の声溜めおらん白椿 寺井谷子
天守閣よりハンカチの白を振る 長屋きみ子(諷詠)
天心の月の白毛稲を干す 中拓夫 愛鷹
天日を遮りて翔つ尾白鷲 深谷雄大
天牛の黄金比なる白と黒 柳澤君代(駒草)
天界へ跳んで白隠雪嶽描く 高澤良一 随笑
天風の圏に入り凧白を増す 羽部洞然
太箸や眉にも白を加へたる 森澄雄
太陽の白光となる揚雲雀 都筑智子
夫が辺に白粥を吹く淑気かな 大石悦子 百花
夫の忌の白足袋濡るる傘の中 日野晏子
夫の風邪癒えて白粥けさ炊かず 及川貞 榧の實
夫亡くす友白炎の雪の国 対馬康子 吾亦紅
夾竹桃白のたぎるは雨の前 蓬田紀枝子
夾竹桃白鮮烈にアポロの暾 中尾杏子
奈良団扇すなはち白を選びけり 長谷川櫂 蓬莱
奉安殿の白の記憶や花万朶 河野南海
奉納をされし頬白囀れり 茨木和生 倭
契らばや君は赤われ白椿 椿 正岡子規
奥ふかく砂しく門や白丁花 無徳「新類題発句集」
女出て沼を見てゐる白暖簾 町田しげき
女郎花尾白の馬をあそばしむ 槐太
如月や海の底ゆく白鰈 桂信子(1914-)
妙な充実白便器に多量の水流し 上月章
妹山の夏めく裾の白瀬かな 田中英子
妻にて候死後の証しの白足袋は 栗林千津
妻の裸身白背掻きやる赤らみぬ 中村草田男
妻子寄り白餅を食ぶ乗のごと 小林康治 玄霜
姿見にむけば白頭昼の凍て 飯田蛇笏 雪峡
娘のつくる白粥匂ひ風邪籠り 城間芙美子
娼婦ゐる木天蓼の葉の白光し 宮坂静生 樹下
嬰も母も灼けし白濤眸にやどす 大岳水一路
子が泣くや満月過ぎの白磧 宮坂静生 山開
子と別る白膠木の紅葉時雨はや 小林康治 四季貧窮
子に抛る白球の線薄紅葉 原裕 青垣
子の血享け紅さす爪や白椿 石田あき子 見舞籠
子守唄やむ白繭のほの明り 櫛原希伊子
季白来ば山に笋掘らんもの 松瀬青々
学僕や出代わる時の白袴 佐藤滴泉
安否まづ嗅ぎ合ふ白狗聖樹の下 香西照雄 素心
安楽死願ふは鬼か白椿 阿部みどり女
安達太良の山はむらさき白秋忌 藤田あけ烏 赤松
宝前の百日白に人憩ふ 高浜年尾
実桜やいにしへきけば白拍子 麦水「葛箒」
実無稲のそゝけ白穂も刈るらむか 石塚友二 光塵
客船に白鵜は近く浮き涼し 大場白水郎 散木集
家々の釜の白飯露深し 石橋辰之助 山暦
家厳は白に紅斑の椿かな 松瀬青々
家捨てし白ねずみたち雪が降る 寺田京子
家郷なり端山に白ナプキンの富士 奈良文夫
家鴨ま白に倚る石垣の乾き 芥川龍之介
寂かなる雨六月の白襖 石原舟月
寂光院の山茶花まろし白深し 市野沢弘子
富士たらたら流れるよ月白にめりこむよ 金子兜太 旅次抄録
富士は/白富士/至るところの/富士見坂 高柳重信
寒の月白炎曳いて山を出づ 飯田蛇笏
寒声やあはれ親ある白拍子 高井几董
寒明けの少しよごれし白孔雀 吉屋信子
寒暮の谿滝白光となり展く 鷲谷七菜子 雨 月
寒月やわれ白面の反逆者 原石鼎
寒月や灯影に冱てん白拍子 飯田蛇笏 山廬集
寒月や路上ピエロの白化粧 仙田洋子 橋のあなたに
寒泳の衆目を負ふ褌(こん)の白 能村登四郎 幻山水
寒泳を了へ雪白のタオル纒ふ 内藤吐天 鳴海抄
寒潮仏みな海女が名の白幟 佐野美智
寒牡丹白光たぐひなかりけり 水原秋櫻子
寒蝉や陰の白毛は秋の霜 栗生純夫 科野路
寒行の白装束や闇を行く 高濱年尾 年尾句集
寒鯉に手叩き寺の白飯粒 中山純子 沙羅
寝積むや耳の穴より白毛出て 吉本伊智朗
寝落ちたる夜陰の畳白団扇 松村蒼石 雪
寝足りたり花隠元の白と朱 阿部みどり女
寺に駆け込むまつ白な捕虫網 川澄祐勝(春耕)
封切つて白折と知り桜餅 石川桂郎 四温
小日向の鷺坂に舞ふ白すすき 石原八束 黒凍みの道
小机の白毫光や去年今年 齋藤玄 飛雪
小江戸に春来て鹿皮白鞣し 加倉井秋を
小走りに続く小走り白鶺鴒 麓 晨平
小雪や月の夜干しの白野菜 細木芒角星
小鳥来る白帝城の空深し 武山愛子
少年よ白たぐひなき兎抱く 大石悦子
尚白の家に会して鮒膾 鮒膾 正岡子規
尼五山のままの竹の香白式部 田中水桜
尼寺や卯月八日の白躑躅 飯田蛇笏 山廬集
尼御前の白足袋濡らす著莪の雨 井口 秀二
尾のながき猫のまつはる白沈丁 横山房子
尾の力抜いて頬白囀れり 堀口星眠 樹の雫
尾白鷲の気配に万の鴨翔ちし 高橋桐子
尾白鷲大岩壁の背後より 高澤良一 燕音
尾白鷲天に流氷きしみ哭く 長谷川史郊
尾白鷲棲みつくに海青過ぎぬ 長沼三津夫
尾白鷲現れ一天のひきしまる 古賀昭子
尾白鷲空手のままに舞へりけり 阿波野青畝
尾白鷲翼大事にたたみけり 久保田重之
尾白鷲雪降るときも止むときも 福島壺春
屏風碑の太陽は白踊子は黒 田村了咲
展望台頬白逃げもせずに鳴く 森田峠 避暑散歩
屠蘇つげば頬白鶲つぎつぎに 黒田杏子 一木一草
屠蘇の座をはなれて仰ぐ白伊吹 近藤一鴻
山の宿襖に止まる白蛾かな 鈴木勘之
山の木は白葉をかへし土用灸 鷲谷七菜子 游影
山の闇吸ひし辛夷の白ならむ 山田弘子 懐
山上の妻白泡の貨物船 金子兜太 金子兜太句集
山上へ闇を縫ひくる白切子 つじ加代子
山吹の白には昔語りなし 後藤夜半 底紅
山吹の白は騒がしからずして 後藤夜半 底紅
山国の夜まっ白に梨の花 酒井弘司
山月を遊ばせて白鉄線花 有働 亨
山梔子の新しき白古き白 山田弘子 螢川
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
山水は澄み残心の梅の白 櫛原希伊子
山百合の白にうたれて頭が重し 阿部みどり女
山百合の白の鮮烈爆破点 鷹羽狩行 平遠
山繭の夕営みの白ほのと 加倉井秋を
山若し清水さらりと白茶碗 岡部弾丸
山茶花の白のこぼるる鳳凰堂 近藤明美
山茶花の白ばかりなるこぼれけり 今井杏太郎
山茶花の白より昏るる埴輪群 つじ加代子
山茶花の白をこゝろに喪に服す 大橋敦子 手 鞠
山茶花の白哀しみの母に散る 山田弘子 こぶし坂以後
山茶花の白尋めゆくや石鼎忌 原裕 青垣
山茶花の白見て時間無駄にする 加倉井秋を
山茶花の累ねの白や惜命忌 星野麥丘人
山茶花や亭さしはさむ白と赤 尾崎迷堂 孤輪
山葵のはなのまっ白な仇討ちです 水口順子
山路来て報恩講の白襖 大峯あきら
山遠く白尾の鷹を見送りて 尾崎紅葉
山間に靄立ちのぼり白遍路 吉野義子
山陰の白鱚に割る檜箸 揚石八重子
岩をかむ人の白歯や秋の風 飯田蛇笏 山廬集
岩魚よし白檜の箸よし温泉の宿り 田中冬二 俳句拾遺
岳人のふるさと奥又白は秋 福田蓼汀 秋風挽歌
峯入りのしんがりを守る白脚絆 塩崎 緑
峯雲の白をひとりの哭ののち 友岡子郷 未草
峰二つ踏みきし汗の白脚絆 小島千架子
島の子が跣で走る白秋碑 河野南畦 『元禄の夢』
島栄ゆ鈴なる鴎白珊瑚 横光利一
川の洲に晒の白や梨の花 淡々
川施餓鬼弁当箱に白だんご 水田悦子
川狩や白とびとびに嶺の数 矢島渚男 木蘭
川蒸気船過ぎて 杞柳の白光増す 伊丹公子 時間紀行
巷間や夾竹桃は白に出て 菅家瑞正
師と夫に供ふ彼岸の白だんご 梅田 葵
帰る刻きて白炎の山桜 大木あまり 火のいろに
帰省子の投げし白球頭上で受け 鳥飼土筆
帰郷とは令法の花の白房にあり 金子皆子
幕間に白膠木紅葉を活けもして 竹田小時
干しあげて夏足袋もとの白ならず 室伏文恵
干大根白失ひて海に向く 菖蒲あや あ や
干梅の匂ひて夜目の白怒濤 伊藤京子
干瓢の白縮緬の花の夕 西本一都 景色
干紙の白は清少納言の白 有馬朗人 天為
年々に澄み勝る白百日紅 高澤良一 燕音
年の尾や白朮火赤う見え初めぬ 大谷句佛 我は我
年暮るる干足袋の白空跳んで 殿村莵絲子 花寂び 以後
幸せを編み込んでゐる白毛糸 土橋いさむ
幽けさの定家かづらの花の白 後藤夜半 底紅
幽霊みえて 白ねぎが煮えている 松本恭子
幾穐の白毛も神のひかり哉 向井去来
広々と紙の如しや白菖蒲 星野立子
床の間の一輪の白夏座敷 長谷川通子
庭園をゆっくりと見て白式部 高澤良一 随笑
庭山に頬白の来て又鳴ける 寺田 コウ
庭椅子の白が寒さを呼ぶ頃に 山田弘子 こぶし坂以後
庭稲荷留守なる瓶子真ッ白に 久米正雄 返り花
廣々と紙の如しや白菖蒲 星野立子
廻廊の雨したたかに白椿 横光利一
弓始め射手の少女の白袴 高橋悦男
弔問のハンカチの白蟇鳴けり 鈴木鷹夫 大津絵
弔問や門辺の木槿白極め 大橋敦子
引際の白を尽して葉月潮 岡本眸
弥生卯月と遅遅たり籠に白よもぎ 金子兜太 詩經國風
強東風に掃かるる水鳥の白 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
形代の白にひとしく波がしら 林田紀音夫
彦三頭巾白鉢巻が夜涼呼ぶ 高澤良一 素抱
影の世が見え白芒白芒 鷲谷七菜子 天鼓
彼岸潮白浮かび来て海女となる 鈴木鷹夫 千年
待宵の白張りつめて会下障子 吉野義子
御几帳や尼将軍の白頭巾 高橋淡路女 梶の葉
御手洗をかこむ遍路の白脚絆 森田峠 三角屋根
御沓をぬがせまゐらす白重 雑草 長谷川零餘子
御白洲や膝つきすゑる秋の霜 秋の霜 正岡子規
心ある人のすがたや白重 白重 正岡子規
心算といふ字面白西鶴忌 高澤良一 燕音
念々の白でありけり今年米 清水道子
念仏の渦の中より白すみれ 池田照子
思ひ出すは古白と申す春の人 夏目漱石 明治二十九年
恵方にてことりことりと母白寿 斉藤美規
恵方嶺噴煙もまた雪白に 上田五千石
悼文霞 白炭の骨にひらくや後夜の鐘 蕪村遺稿 冬
惜しげなく沙羅の白寄せ朝の僧 荒川雅夫
愛弟子の頬白鳴かす腹部かな 攝津幸彦 鹿々集
懐に紙重からめ白重 雑草 長谷川零餘子
懐紙白鶯餅の色残る 稲畑汀子
成人の日の白椿一穢なし 五十嵐播水
我が鬢に白毛を噴くも冬の意志 栗生純夫 科野路
戦昨日終る白レース服裾かろし 文挟夫佐恵 黄 瀬
戸口守るごとし白杖朧の夜 村越化石
戸隠の火蛾の白毫朱眼かな 風生
戸隠山の螢見てゐる白狐かな 佐川広治
扇骨の白干しの巨花牡丹咲く 中戸川朝人 残心
手をかがむ白装束や秋の*かや 飯田蛇笏 山廬集
手を重ね寝る月明の白臥床 吉野義子
折からの雪面白や謡初 池松迂巷
折鶴の白ばかりふえ麦青む 坪内稔典
抱き戻る破魔矢の白と京の冷 山田弘子 螢川
抽出しの白足袋の波母老いぬ 小檜山繁子
持ち山を白狐守り蛇の舌古り 八木三日女 落葉期
指にもろき昼顔の白海鳴れり 伊藤京子
指細くしては摘みけり根白草 今泉陽子
据りよき筆立て買へり白秋忌 阿部すず枝
掃き初めて白南天のあたりまで 古舘曹人
掘り上げていぶせき白の野老かな 藤田あけ烏 赤松
揺れて白揺れやみて紅秋桜 中村芳子
摺足に白進み来る能始 高橋睦郎
撓はせて白穂の稲を刈りにけり 八木林之介 青霞集
撫子の八重は一重は緋は白は 会津八一
擦れ違ふ白装束の草虱 羽深美佐子
放心の真昼で白蟻増殖す 森須 蘭
散らぬゆゑ花アカシヤの白汚す 稲畑汀子 春光
散りがての牡丹の白に日を惜む 阿部みどり女
散る花の白より白へうらがへる 坊城俊樹
数の子に父祖の白歯もひゞきけむ 日野草城
文月や豆腐の白にある一偈 野村喜舟 小石川
新しき白を選びて海芋剪る 石井とし夫
新涼やバケツにおろす白雑巾 石川文子
新涼や白楊の葉のうらおもて 岩淵喜代子 硝子の仲間
新涼や白粥を煮る塩加減 久米はじめ
新絹裁つぬめらかな白畏れけり 寺村朋子
新緑のダム白炎の水吐けり 前山松花
新調の白服まぎれてはならず 福井隆子「新調」
新雪に頬白の影聚り来 内藤吐天 鳴海抄
方丈の廂一文字月白に 荒木東皐
旅人に白皆ゆらぐ夕牡丹 近藤一鴻
旅先の雨の白朮火かざしけり 松村多美
日あたれる蒲の白穂辺憩はんか 大野林火
日がさして白ばかりなる走馬燈 藤岡筑邨
日だまりの熟柿に来るやみな眼白 大峯あきら 宇宙塵
日の入りをみている陸の白兎 宇多喜代子
日の障子十一月の白ならん 大井雅人
日の黄道月の白道鷹渡る 福田蓼汀
日は南中に白樫の春落葉 藤田あけ烏
日向ぼこ眼白とる子を妨げそ 大橋櫻坡子 雨月
日向歩む冬の白蝶覚ましつつ 野澤節子
日当たれば溶けさうな白幽霊草 山田弘子 懐
日当りて彼岸寺なり白毫寺 外川飼虎
日月のあかあか椿白椿 高澤良一 宿好
日本的な白で 人影すぎる障子 伊丹公子
日焼け船長白髭殖やし上陸す 佐川広治
日焼子の白尻父に少女めき 石川桂郎 含羞
日盛の潮の汚れに白秋碑 木村蕪城
日盛りや身延詣の白脚絆 神田美穂子
早春の涸川砂は産着の白 大井雅人 龍岡村
早春の遊心白汀を檻と観ず 藤後左右
早梅に早瀬こそ白飛ばすもの 林翔
早梅の白光色の戦火あり 対馬康子 吾亦紅
旭光に枝張る霧氷白珊瑚 福田蓼汀
昇る日の先づ白れんを捉へけり 笠 慶子
明け易き夜をおもしろの白拍子 明け易し 正岡子規
明の月白ふの鷹のふみ崩す 鷹 正岡子規
昏れそめて累卵の白クリスマス 竹腰千恵子
昏れてより白を極めぬ花みづき 加賀谷硯子
昏睡の海にただよふ白菖蒲 石寒太 炎環
星のこる欅頬白の鳴きそめぬ 原 柯城
星生る百日白の花の上 粟津松彩子
星白の馬青麦に立ち向かせ 汀女
春の土白足袋で踏む鬼まつり 木下きよ子
春の地震白鶏百羽揺すりたる 高澤良一 ねずみのこまくら
春の夜の夢をさますや白拍子 春の夜 正岡子規
春の夜や船へ召さるゝ白拍子 春の夜 正岡子規
春の宵白鳩の尾に影たまる 四ッ谷 龍
春の日や卒寿白寿と先長し 藤田湘子 てんてん
春の灯に白足袋をぬぐ疲れかな 久米正雄 返り花
春はまた白ふくろふの赤子かな 木村敏男
春や昔古白といへる男あり 正岡子規
春光や白猫に透く肉の色 浅生田圭史
春光を白樺白として受ける 手塚基子
春分の湯にすぐ沈む白タオル 飯田龍太
春北風白嶽の陽を吹きゆがむ 飯田蛇笏
春夜泣くカスタネットの白腕 文挟夫佐恵 雨 月
春天をふり仰ぐ白歯とぢまけて 飯田蛇笏 山廬集
春寒や編めば汚るゝ白毛絲 久米正雄 返り花
春日無心鼻おぼめかす一白兎 中村草田男
春日若葉みこは白絹あまき酒 中勘助
春日野の白蛾舞ひ来る薪能 中村富子
春昼や尼ぜの下駄の白鼻緒 高濱年尾 年尾句集
春暁のまつ白な掌を窪にする 平井照敏 天上大風
春暁の鵯が落とすは白椿 大峯あきら 宇宙塵
春泥の敷藁にほふ清白寺 土屋なつ
春浅し白兎地をとぶ夢の中 飯田龍太
春窮やよごれ飼はるる白孔雀 下村槐太 光背
春落葉焚いてけぶれり白毫寺 下里美恵子
春障子白鶏高く枝に乗る 長谷川かな女 花 季
春雨や車を下りる白拍子 春の雨 正岡子規
春風のちぎれて鶏の白散れり 太田土男
昭和は過去白りんだうの先充つる 松村多美
昼の虫債鬼白皙なれば憂し 小林康治 四季貧窮
昼吸ひし白光を吐き夕牡丹 山口青邨
昼寝覚六牙の白象降り佇ちて 高澤良一 随笑
昼月の白じろと枯れ木立中 阿部美恵子
昼月の白よりこぼれ淡雪に 水田むつみ
昼月や白木の鵜舟白緒結ひ 吉野義子
昼深く東司の窓の白躑躅 瀧 春一
昼醒めて春雪の白たてよこに 沼尻巳津子
時価とある白焼うなぎ肋撫づ 石川桂郎 四温
時鳥夜を白鬚の白みけり 時鳥 正岡子規
晒菜升麻白狐のごとし霧がくれ 古賀まり子
晩学にごろごろと白瓜のあり 藤田あけ烏 赤松
晩年やきつぱりと白花菖蒲 吉岡泰山木
晩白柚ごろり施錠岩屋の前 鈴木明
晩白柚叩いてその句褒めてをり 中戸川朝人 尋声
晩白柚美童と一夜ゐるごとし 大石悦子 百花
暁けてゆく障子の白に秋来る みどり女
暗きより潮さしくる白切子 佐野美智
暮しの中の波音烏賊の白乾され 鈴木六林男 第三突堤
暮れぎはの白増すごとく花なづな 木内怜子
曇り日の稲刈あとの白野菊 中拓夫 愛鷹
曇り日の花を重ねて白菖蒲 渡辺 立男
曇天へまづ白点や辛夷蕾む 香西照雄 素心
曉剪る名「はつあらし」白椿 吉野義子
曙や眉墨匂ふ白重ね 白重 正岡子規
曲水や白拍子の太刀梅に触れ 平田羨魚
曳山の白幣逸りたつ桜東風 つじ加代子
書初におろす白穂の奈良の筆 きくちつねこ
曼珠沙華白は文珠の知恵の彩 長野澄恵
月(しまぼし)よ 白粥谷のふりむきに 折笠美秋 虎嘯記
月は珠雲の白竜これをとる 荻原井泉水
月上げて白を彩とす冬の滝 町田しげき
月光にかたち崩さぬ白薔薇 石嶌岳
月光に白曼珠沙華反りはじむ 黒田杏子 花下草上
月光に花びら傷め白菖蒲 岡田日郎
月光もいくとせかみし白団扇 渡邊水巴 富士
月光も幾年か見し白団扇 渡辺水巴
月前や四月八日の白つつじ 飯田蛇笏 椿花集
月明や白光流れ真葛原 武田玄女
月照るや両岸氷る南白亀川 前田普羅
月白に姿見せ初め記念館 稲畑廣太郎
月白に月の使者の灯ありありと 上田日差子
月白に祈りて心乱すまじ 河合正子
月白に色生るるもの消ゆるもの 後藤比奈夫 花匂ひ
月白のダンスシユーズを脱ぎにけり 岡田詩音
月白の亀の大きくなりさうな 斉藤夏風
月白の少年牛を引き帰る 善積ひろし
月白の戸口にゐたり聖書売 辻桃子 花
月白の森黒々と発光す 横井理恵
月白の楽器の坂と思ふべし 山西雅子
月白の濃くなりまさり月に消ぬ 篠原梵 雨
月白の稲にぬくもりありにけり 東野照子
月白の虎の衣裳をたたみをり 辻桃子
月白やこの道母のくにに向く 児玉輝代
月白やふわりと跳べるトウシユーズ 石井秀子
月白や人驚かす鯛の引き 宇佐美魚目 天地存問
月白や大阿蘇吹きて空濁る 有明むつごろう
月白や指などからむ遊びせむ 熊谷愛子
月白や瀧の真上の幣吹かれ 黒田杏子 花下草上
月白や猫ねんごろに身を舐めて 降旗牛朗
月白や花火のあとの角田川 花火 正岡子規
月白や讃岐の山のうねりだす 今井誠人
月白や関帝廟の屋根の反り 鈴木千恵子
月白や音を繰り出す水車小屋 山本恵美子
月白を北へ一遍ほかの者 黒田杏子 花下草上
月祀るための白足袋替へにけり 青木まさ子
月蝕や笠きて出たる白拍子 月 正岡子規
月見草白沙を神の御前まで 前田普羅 能登蒼し
有明の四條を渡る白拍子 有明 正岡子規
朝かげやすこしほぐれて白菖蒲 長谷川櫂 古志
朝の樹々眼白のこゑの降るごとし 根岸善雄
朝凪の渦のはじめの白走り 北川英子
朝寒や白粥うまき病上り 草城
朝寒や禰宜のさゝぐる白和幣 朝寒 正岡子規
朝市や解けば荷の中白菖蒲 高木聡輔
朝曇白足袋はいて出でにけり 増田龍雨 龍雨句集
朝顔のをはりの白を海士の家 川崎展宏
朝顔の白に紫紺にちんちろりん 林原耒井 蜩
朝顔の白や叔母来る咳ばらひ 鈴木鷹夫 大津絵
朝顔の白を咲かせて無欲なり 桜木俊晃
朝顔や雷の絶えまの白浅黄 渡邊水巴
朝顔白咋日逢つても今日逢ひたし 鈴木栄子
朧夜の白絹に置く一分金 井上康明
朧夜の鶏が夢見る白世界 能村研三 騎士
木の芽風燈台白をはためかす 桂信子
木天蓼の白葉吹かるる魂送り 沢田まさみ
木曽谷の素白の石の淑気かな 山上樹実雄
木枯の川引きよせて白蒲団 齋藤愼爾
木枯を秘色としたり白襖 齋藤愼爾
木槿散り白犬交る地のほめき 宮武寒々 朱卓
木槿白花おのおのはなれおのおの咲き 阿部完市 軽のやまめ
木洩れ日に白惜しまずよ鉄線花 石田あき子 見舞籠
木犀の落葉掃きけり白丁花 常磐木落葉 正岡子規
木犀や乾漆佛の白光し 宮坂静生 雹
未知と云ふ白の重さや初日記 田中玲子
本尊は榧の一木白椿 村上あけみ
朱欒垂る白秋生家川沿ひに 宮地美保子
朴や白恋の山霧しげきかな(湯殿山) 河野南畦 『広場』
杉垣に眼白飼ふ家を覗きけり 寺田寅彦
杉山を出てゆく蝶や白一筋 青柳志解樹
杉皮を剥げば杉舞茸の白 茨木和生 遠つ川
来る年へ山また山や白連ね 村越化石 山國抄
来る鳥に潮気もらひて白桜 吉本伊智朗
東風に照る白毫堂の荒るるまま 亀井糸游
杵一吐こねどり白陀草餅搗く 八木林之介 青霞集
松かぜにぼうたんの白菩薩かな 藤田あけ烏 赤松
松に垂るる白藤が白鬚の明神の松 荻原井泉水
松の根を白足袋の行く涅槃かな 鈴木鷹夫 春の門
松影や夕栄え着なす白重ね 吉武月二郎句集
松籟や馬上の人の白襲 竹内尚子(草苑)
松茸を白象様へお福分け 高木晴子 花 季
松蝉をいきなり啼かす白毫寺 上田五千石 森林
松風や白犬細うすぎにけり 芥川龍之介
林檎園千摘花して千の白 加倉井秋を
枝垂れ桃白のきはみを池映す 石川桂郎 四温
枯れ尽す桐に風鳴る白秋忌 中島寿美
枯山に生れて滝の白秀づ 伊藤京子
枯山の上に忽として一雪白 栗生純夫 科野路
枯芝に白猫飛ぶや黙読す 中拓夫 愛鷹
枯草原白猫何を尋ねゆくや 石田波郷
枯野来し白ハンカチに折目あり 神尾久美子 桐の木以後
枳殻の実の金色に白秋忌 三吉美知子
柊挿す卯の一白は浮気星 稲垣きくの 牡 丹
柳挿すやしばし舟押して白腕 飯田蛇笏 山廬集
柳鮠白秋もかく遊びし子 阿部小壷
柿干して一城の白映ゆるなり 舩山東子
柿落葉白毫寺坂を急にせり 米沢吾亦紅 童顔
栂を出てあそぶ良夜の白蛾あり 飯田龍太
栞はさみあるふみをひらく白薔薇に 鈴木しづ子
根白草けさ晴れわたる水の上 児玉輝代
根白草ばらまかれたる薄日かな 井出渉
根白草仏の山の日だまりに 高木良多
根白草摘みに靄立つ泉まで 古川芋蔓
根白草摘み来し妻の手が匂ふ 安住敦
根白草雉子酒の微醺残りけり 山県瓜青
根開きの靄立つ梢の尾白鷲 畠 友子
桃の日を白瀬の照りのなかにをり 斎藤梅子
案山子の白つぽいのを立てゝもう帰りゆく阿爺 中塚一碧樓
桐一葉麦屋踊りの白だすき 前田時余
桑の葉のひしひし暮るる白団扇 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
桔梗の白の切り込みくるひなく 龍男
桔梗や白紫のほかは無く 尾崎迷堂 孤輪
桜々帰りは酔ふて白拍子 桜 正岡子規
梅が香や流行(はやり)出したる白博多 井上井月(1822-86)
梅の白散れるそこより耕せり 太田土男
梅便り昨日白球便り今日 今坂柳二
梅干すやおどろの髪に白手拭 原石鼎「花影」
梅干や汐風越して千鳥の白調 幸子 選集「板東太郎」
梅白を張る成満の僧迎へ 毛塚静枝
梅白を枝にちりばめ建国祭 西村公鳳
梅雨のれん白に白置く浄め塩 平井さち子 紅き栞
梅雨の蝶黄は舞ひ白は沈みけり 信清愛子
梅雨寒の朝の白粥命愛し 伊東宏晃
梅雨山中白茫々の狂ひ滝 岡田日郎
梅雨暗しスピッツの白沈みゐて 今泉貞鳳
梔子やみどり子の白怖しし 文挟夫佐恵 雨 月
梟に白装束の夜の富士 有働亨
梟や闇のはじめは白に似て 齋藤愼爾
梨を食ふ白歯さびしや子無妻 森川暁水 黴
梨散るよ白濤の生む風のつづき 大野林火
梨花と梨花白極まりて触るるなり 林翔 和紙
梨花の冷え手術の足の白枕 中戸川朝人 残心
梨齧る児に真つ白な永久歯 丸山依子
棹さすは白寿の三鬼花筏 佐藤鬼房
椋鳥仰ぐみな白襟の女学生 中戸川朝人 残心
業車まわし花朴よりも白 和知喜八 同齢
楮全き白に晒して初仕事 毛塚静枝
極めたる色の白なり冬の星 高石幸平
極月の礼拝堂の白扉 有光令子
楽きけり白蛾はほそき肢に堪ヘ 篠原鳳作 海の旅
樹上にて魚を割きたり尾白鷲 滝沢伊代次
樹氷林白を豪華な彩と知る 福田小夜
樹海の果て白照るリーフ見ゆるのみ 金子兜太 少年/生長
次は三鷹職安日本白蟻研究所前です 田川飛旅子 『邯鄲』
此頃は薄墨になりぬ百日白 百日紅 正岡子規
武蔵野の尾花に入るか大白熊(はぐま) 椎本才麿
歩かぬと寒いよ白の落椿 池田澄子
歩をゆるめ木槿の花の白感ず 村越化石 山國抄
死が残す地鳴りに浮きぬ夜菊の白 加藤知世子 黄 炎
死なば五月一羽の白鶏従へて 加倉井秋を 『隠愛』
死にたれば白から白のうすごろも 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
死に怯えおり夕顔の白に和し 長谷川草々
死はときめき白椿の半開き 鳴戸奈菜
母がもぐ白繭黄繭露の中 石原八束 『秋風琴』
母に呼ばるるごと山茶花の白に寄る 大串章
母の忌の円描き重ね白蛾とぶ 原コウ子
母の汗拭へば終の白額(八月三日寂行年八十六歳) 野澤節子 『八朶集』
母の白父の紺あさがほひらく 久保山敦子
母の辺の祷りに白蛾たちのぼる 桂信子 黄 瀬
母系家族は白のあけくれ油照 長谷川双魚 風形
毒蛇を見し山百合の白を見し 山田弘子 螢川
比良に雲げんのしようこは白なりき 吉岡三枝子
毛衣の雪白他の子の上ぞ 石塚友二 光塵
気前よし鈴蘭狩の白束ね 依田明倫
水あまき寺にてありし白はちす 上村占魚 鮎
水うまき国の夕べの根白草 伊藤通明
水かげろふに棹さして白秋忌 植村通草
水ぎはは白にてぞあれ杜若 井上井月
水くぐり夜は白鯉と遊ぶかな 桂信子 草樹
水したたるごとくにしだれ梅の白 野澤節子 黄 炎
水なめてからのこれから白兎舞(しらうさまい) 阿部完市 軽のやまめ
水にさす白服の翳露の秋 石原舟月 山鵲
水に添はばまた名もあらむ白ぼたん 千代尼
水のごとき夜を愉しめり白上布 石原舟月
水の辺や散れば白蛾も花に似て 金箱戈止夫
水よりも風の冷たし根白草 角納金城
水を揉み落とす深雪の白竜頭 岡田日郎
水仙は怯まざる白怒涛音 西谷 孝
水仙やいざ白足袋を履きかえて 鈴木美智子
水仙やゆかしがらるゝ白拍子 水仙 正岡子規
水屋より師匠のくさめ白椿 鈴木鷹夫 春の門
水巴忌の白菊白に徹しけり 松田碧霞
水平に水平に白蔓珠沙華 小宅容義
水思ふとき白面の椿落つ 中川須美子
水洟の富士の白毫久しかり 齋藤玄 飛雪
水満たし淑気に締まる白薩摩 田中英子
水源へ山葵の花の白つどふ 羽部洞然
水激し白を現ぜよ樹々芽ぶく 香西照雄 素心
水無月や白塀に径岐れては 神尾久美子 桐の木以後
水盗みつゝ白飯の炊けて来し 萩原麦草 麦嵐
水脈一筋真向きに鴎の白ひらく 成田千空 地霊
水芭蕉としてのみどりと白なりし 嶋田一歩
水草に白楼ひくき門もてり 橋本多佳子
水面より白澄みのぼる水芭蕉 和布浦喜代
水面胸面に辛夷の白が揺れて揺れて 折笠美秋
水鳥の白ははの死を告げに行く 中島恭子
水鳥の眠りにまじる白枕 藤井孝子
水鶏啼く夜の白凪に打たれけり 臼田亜浪 旅人
水鶏啼く黎明(しののめ)庵の白襖 中川宋淵
氷像に白詰まりけり浅間透き 西本一都
氷塊を爪に殺して尾白鷲 深谷雄大
氷湖ゆく白犬に日の殺到す 岡部六弥太
氷眠の山もあるべし白菫 大木あまり 雲の塔
氷菓工場出でても工女白づくめ 野澤節子
永病まず逝きし父なり白毛布 伊藤京子
汗し集いて母らは白と紺満たす 赤城さかえ句集
汗たれて白粥吹きぬ生き得たり 石田あき子 見舞籠
汚れざる白といふ色花菖蒲 細江大寒
汚れなき白はまぎれず蝶の昼 稲畑汀子 春光
汚れ犬白尾がゆたか枯芒 香西照雄 素心
汝が禿びし指もてとぼす白切子 村越化石
決闘にゆく綿虫か白マント 堀口星眠 営巣期
沖に顕つ五月白嶺婚の唄 平井さち子 鷹日和
沖を走る波の白兎や柿接木 中拓夫
沖波とつばなの白と暮れてあり 森 澄雄
沖白浪切子の白に重ならず 近藤一鴻
沙庭にはあんくうどでで白膠木るゝ 加藤郁乎
沙羅の木に添うて白蛾の柱立つ 大坪景章
沙羅の花踏み白面の僧なりし 小倉由紀
沙羅ひらく晴れの白より雨の白 卯之木智子
沙羅一花浄土に白を還しけり 三浦正弘
沙羅仰ぐ 口端 自ずと 花白の語 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
沙羅落花して白汚れなかりけり 稲畑汀子
沙羅落花白の矜持を失はず 大高霧海(風の道)
沢蟹に白頭映す家郷かな 金子兜太 皆之
河童忌の白鷲に雨しぶきをり 堀口星眠 営巣期
河豚ばかり釣れて白兎の秋の濤 川澄祐勝
法の山桜の花の白光す 石井いさお
法体のあどけなき貌白襲 茨木和生 三輪崎
法起寺の塔赤椿白椿 星野立子
泡立ち草みな白面で擦れ違う 上林 裕
泥鰌鍋のれんも白に替りけり 大野林火
泳ぎ来し身の素直なり白タオル 櫛原希伊子
洋館に祖父の世の風白薔薇 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
洗ひ薤ひと夜に伸ばす芯の白 亀村佳代子
洗ひ髪夜風に吹かれ白を増す 鎌居千代
流れ藻に白花いづこの便りかな 一ノ瀬タカ子
流木や白鳥の白冷まじく 殿村莵絲子
流氷の海に日の落つ尾白鷲 大森三保子
流氷の点晴として尾白鷲 和久田隆子
流氷を青と見白と見独り酒 石川桂郎 高蘆
流氷期湯浴児くるむ白タオル 大平照子
浄白は黄泉の色かも月見草 小松崎爽青
浅黄とも白ともつかぬ袷かな 袷 正岡子規
浜どんど渚の白を浮きたたす きくちつねこ
浦島草蕭白好みの画材にて 高澤良一 鳩信
浪裡白跳河童の多見次ほとゝぎす 久保田万太郎 流寓抄以後
浮寝していかなる白の冬鴎 森澄雄 浮鴎
浮寝鳥覚めて失ふ白ならむ 後藤比奈夫 花匂ひ
浴後の雪行白ひろき書を繰りつ 中戸川朝人 残心
海のなき国紫陽花の白がちに 川崎慶子
海を見る秋の白服とは佳かり 福井隆子
海光に白を尽くして冬桜 舘岡沙緻
海暮れて風の変はれり白切籠 井上 雪
海棠の雨が止んだり白雫 高澤良一 寒暑
海蝶のふたつあはれや白と白 富沢赤黄男
涅槃会の燠白じろと果てにけり 川村祥子
涅槃図の白を余して慟哭す 相良哀楽
涅槃西風胸毛に白の容赦なく 加藤 学
消る雪の味やとゞまる根白艸 松岡青蘿
涼しくしづか白繭に音こもりゐて 高島 茂
涼しさや水楼を下る白拍子 涼し 正岡子規
淀殿の墓山梔子の白似合ふ 池田とみ子
淡墨桜の白の崇さに洗はるる 田中水桜
淡墨桜風立てば白湧きいづる 林火
淡路忌の一輪ざしに白椿 田中房子
深く捲き尖る白薔薇自省勝ち 香西照雄 素心
淵に映る紅や撫子白や何 島村元句集
混沌の世の一隅の白椿 吉野義子
清少納言に白花菖蒲ほどな恋 草深昌子
清水のんで立つ白ズボン草の中 大橋櫻坡子 雨月
清水諸白涼しきゆへに其の名をうる 吉林 選集「板東太郎」
清純が誇りコスモス白ばかり 大熊輝一 土の香
渓の虫団扇の白を恋ひとまる 阿部みどり女
渓流の藍にも染まず白鶺鴒 石田あき子
渓谷を渡り白蝶夢こぼす 山ノ内治一
渡殿は百日白に折れ下る 山田弘子 こぶし坂
温泉の丘の頬白とまる桑の先 飯田蛇笏 椿花集
湖さむくホテルの白は招かぬ手 大井雅人 龍岡村
湖に向け素面の白の種案山子 上田五千石
湖ほとり柳は芽持つ白描画 高澤良一 鳩信
湖国ゆく始終うしろに白伊吹 高澤良一 燕音
湧水につどふ眉白谿の風 吉見京子
湯口に踊る白繭小春の糸を繰る 古沢太穂 古沢太穂句集
満地落花なほ片々の白加ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
滝おとを白と思ひぬ薄暮かな 富川明子
滝の前白粥をふきはじめけり 阿部完市 軽のやまめ
漂泊の大根咲けり白秋碑 殿村莵絲子 花寂び 以後
潮がはり白鱚の食ひ止まりけり 田島 秩父
濁世熱し和尚赤裸々所化白裸々 暑 正岡子規
濯ぎしもの白づくめなる虫の闇 中山純子 沙羅
濯ぎ女に白鶺鴒のはしりけり 友岡子郷
火の島の白濫費して袋掛 加倉井秋を 『欸乃』
火を消して寂寞の白走馬燈 能村登四郎
火取蛾に電球の白極まれり 高澤良一 寒暑
火祭の白足袋凍てし土を踏む 金田義子
火薬工場の真昼眼帯の白現われ 杉本雷造
火袋に生きて白蛾も涅槃衆 野澤節子 遠い橋
灯だんだん暁けぐむ白気涼しみぬ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
灯をめざし白蛾のやうな雪がふる 佐藤公子
灯を消して逃がす白蛾よ友逝けり 伊藤京子
灯台の一徹の白初景色 片山由美子
灯台の白たちあがる夏岬 佐藤信子
灯台の白のしたしき牡蠣の旬 友岡子郷 風日
灯虫落つ卓布は白を惜しまざる 波多野爽波 鋪道の花
炎ゆる日の頬白鳴くも焼罪跡 下村ひろし 西陲集
炎天の浜白泡を長く保つ 右城暮石 上下
炎天の海見たき日の白帽子 伊藤京子
炎天の白皚々の塩湖かな 森田峠 逆瀬川
炎天の軸とし立てり孤寥の白 小松崎爽青
炎天はるか来し白象の礼をなす 大山安太郎
炎帝や白寿の父の葬の列 黒田京子
炭焼きの小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
炭焼の小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
烈風の辛夷の白を旗じるし 殿村菟絲子 『樹下』
烈風の青空白足袋だけを干す 川島千枝
烏の子白は不徳と教へられ 堀切武雄
烏帽子着て送り火たくや白拍子 送り火 正岡子規
焔をつつく白朮の縄の尖ともる 丸山海道
焚く煙の白透明に秋立ちぬ 大熊輝一 土の香
熊出づる夕崩せし白豆腐 長谷川かな女 牡 丹
熔接の白光へ顔梅雨のドック 古沢太穂「火雲」
熟るゝ柿*もぐにもあらず白婦人 吉良比呂武
熱の子に白粥煮ゆる二日かな 永島理江子
熱の子の冬夜の白の濡れタオル 大井雅人 龍岡村
燃ゆるてふ白のあるなりシクラメン 芳野年茂恵
燃ゆる如きつゝじが中の白つゝじ つつじ 正岡子規
燈台の曳くえぞにうの白裳裾 原柯城
燈台の白染める陽よ多佳子の忌 桂信子 花寂び 以後
燈台は白に徹せり酔芙蓉 山口超心鬼
燈籠にはや灯を入れよ白栄えす 林原耒井 蜩
爪白の石のあはれや秋の霜 上島鬼貫
爪立ちて生く朝顔の白ばかり 千代田葛彦 旅人木
父の情はあらはに出さず水引白 成瀬桜桃子 風色
父の死顔そこを冬日の白レグホン 森澄雄 花眼
父母会に臨む白服着たりけり 樋笠文
父穿きし白足袋穿きし記憶なし 後藤比奈夫 めんない千鳥
爽やかや丹後松島白渚 鈴木しげを
爽雨忌の白皙に朴残花あり 井沢正江
片寄せられ等外の菊白ばかり 高澤良一 ねずみのこまくら
片白の何をたくらむ半夏生草 松岡心実(橡)
片白草や風土記の丘に土饅頭 小高正子
片白草式部職なる鵜匠の家 田中英子
片白草花立ち鑑真和上の故地 北野民夫
牛喰つて水際白の百日紅 吉田紫乃
牛守の古稀の白髭おぼろかな 太田土男
牡丹の白に触るべき指は持たず 稲垣きくの 牡 丹
牡丹の白の重たきとのぐもり 齋藤玄 『狩眼』
牡丹ほのぼの白と定まる蕾かな 松村蒼石
物欲らぬ母に初湯の白肌着 山上カヨ子
犬の眼の風を見てをり白菖蒲 鈴木鷹夫 渚通り
狂うなら今と白椿が囃す 大西泰世 世紀末の小町
狂言白(もう)さく鼻腔饐ゆれば天地酸しと 竹中宏 饕餮
狐舎の径白膠木の紅葉赫と燃ゆ 水原秋桜子
独り尼藁屋すげなし白躑躅 松尾芭蕉
独楽の紐よりも白朮の縄やさし 後藤比奈夫
独楽の辺の猫の白腹また睡し 中拓夫 愛鷹
独活きざむ白指もまた香を放ち 木内影志
猫が吐きそして茶の花の白の早起き 阿部完市 軽のやまめ
猿の白歯秋蚊に剥いで哀れかな 島村元句集
猿楽と申すは白の夜なりけり 毛呂 篤
獣の匂ひして白兎やはらかし 木塚眞人
玉虫をつけ行乞の白脚絆 南 典二
現身を真つ白にする蜃気楼 下山光子
琴糸に白繭の冷こもるなり 吉野義子
生えかはる歯のまっ白にみかん吸ふ 満田春日
生き過ぎて卯波の白をまぶしめり 沢木欣一 遍歴
生活の確かさ白足袋乾き切る固さ 中村明子
生涯の大喜利へ梅白極む 都筑智子
生身魂白蚊帳にとく寝ねたまふ 下田稔
産み呆けた白鶏に着せるものがない 新井哲囚
産んで来て白高靴にまたも載る 鷹羽狩行 遠岸
田のしめり踏んで運ぶや餅の白 鷲谷七菜子 花寂び 以後
男なり小菊ながらも白を咲く 菊 正岡子規
男鹿に冬ながし白皙の流木群 能村登四郎 合掌部落
町中に提灯を吊り白秋祭 井山幸子
畳紙の紙縒りの固き白重 宮野やよひ(*ろうかん)
病みぬけし胸に白矢さす初日かな 石田波郷
病よし医師の白足袋目にしるく 島村元句集
病上り白足袋ゆるく人と逢ふ 野澤節子 黄 瀬
病葉や学問に古る白浴衣 原石鼎
痩牛の白昂然と冬田鋤く 有馬朗人 天為
白(はく)牡丹といふといへども紅(こう)ほのか 高浜虚子(1874-1959)
白*かやに髪のもつともけぶるらん 大石悦子 聞香
白がさねにくき背中に物書かん 蓼太「蓼太句集」
白がねの寒満月の面てかな 粟津松彩子
白がねの濤音ばかり年惜しむ 大村フサエ
白がねの目ぬきやさしや藤袴 浜田酒堂
白がねの砂の乾きや福壽草 会津八一
白がねの耳環や秘むる頭巾かな 楠目橙黄子 橙圃
白がねの背くらべかな霜柱 持田子
白ぎくと黄菊のまさり劣りかな 久保田万太郎 流寓抄
白ぎくにとどく莨のけぶりかな 蒼[きう]
白ぎくや三旬の家居をしからず 日夏耿之介 婆羅門俳諧
白ぎくや籬をめぐる水の音 二柳
白げしや片山里の濠の中 太祇「太祇句選」
白じらと菊を映すや絹帽子 芥川龍之介
白じろと風渡るなり蕎麦の花 高橋淡路女 梶の葉
白すぎる一日は魚の眼かな 幅田信一
白すぎる一日季節なき窓を拭く 吉川真実
白すぎる女の素足夕薄暮 的場秀恭
白すぎる雪降りゐたり母の墓 瀧澤宏司
白すすき吹かれけむりて地に昏るる 八束
白すみれ紫すみれ喪明け未だ 三田きえ子
白たへに花や桜の枝くばり 立花北枝
白たへの塑像いだきて海の旅 篠原鳳作 海の旅
白たんぽぽこの孫僧になると言ふ 小澤満佐子
白つつじきのふは弾みゐしこころ 樋笠文
白つつじこころのいたむことばかり 安住敦
白つつじ奏者それぞれ試し吹く 友岡子郷 風日
白つつじ小さきはたごに夕べ来ぬ 阿部みどり女
白つつじ挿して大山崎の庵 後藤夜半 底紅
白つつじ純情にさへ個性無し 香西照雄 対話
白つめくさいちめん水上バス乗り場 高澤良一 燕音
白つゝじまねくやうなり角櫓 服部嵐雪
白つゞり始めし雨の花卯木 今橋眞理子
白づくめなる燈台に炎暑来る 森田峠
白づくめの病褥もまた冬用意 能村登四郎
白づくめ灯台立ちて炎暑来る 森田 峠
白という孤独運動靴の少年 高階健一
白といふさびしさ冬日の下着売 岡本眸
白といふしづかな色の紙を漉く 大崎ナツミ
白といふはじめの色や酔芙蓉 鷹羽狩行
白といふ厚さをもつて朴開く 富安風生
白といふ未知なるものよ日記買ふ 庄野よしみ
白といふ本当の白雪柳 福島テツ子
白といふ気の張る帯に汗かけず 田畑美穂女
白といふ激しき色に瀧躍る 森本之子
白といふ終ひのいろして花辛夷 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
白といふ色とも違ふ春障子 本庄登志彦
白といふ色に疲れて棉を摘む 宮木砂丘
白といふ色の段階葛さらす 西村旅翠
白といふ色をたためる扇かな 深川正一郎
白となる前のさみどり山法師 河野美奇
白と云ふ艶なる色や寒椿 浩山人
白と化し枯野出られぬ新聞紙 加倉井秋を
白と決めし死までのいろや大牡丹 伊藤松風
白と白布とそしてきつね狩るなり 阿部完市 春日朝歌
白と白重ね無月の皿小鉢 竹内順子
白と見し黄と見し花の忍冬 前内木耳
白と黒もみにもみあふ野分霊 阿波野青畝
白にして薄くれなゐや帰り花 東洋城千句
白に咲く朝顔恋はもつるゝよ 清水基吉 寒蕭々
白に徹して白鳥の気品かな 長田等
白に敏き肌や障子を貼りし夜は 櫛原希伊子
白に白重ね形代納めけり 落合水尾
白に酔ひくれなゐに醒め梅の中 手塚美佐 昔の香
白のまぶしさレグホン百羽夏野に飼ふ 加藤楸邨
白のみでとほすハンカチの我鬼忌かな 石川桂郎 四温
白のみの夜濯ぎことば家に置く 寺田京子 日の鷹
白の原種蓮とゆきかい乳歯落つ 安井浩司 赤内楽
白の子に日本海野菊咲き 古舘曹人 能登の蛙
白の帷子を着る愧るところなくゐたり 梅林句屑 喜谷六花
白の秋シモオヌシモンと病む少女 高篤三
白の郭公森を荒しけり 堀口星眠 営巣期
白はけむるいろ 陸中真昼の 朴の花 伊丹公子 山珊瑚
白はちすうすけむらひてあきらけき 石原八束 空の渚
白はちすゆふべの雨を帯びてあり 滝井孝作 滝井孝作全句集
白はちす夕べは鷺となりぬべし 三好達治 路上百句
白はちす手のとどきたる匂ひかな 加藤知世子
白はちす濁流沖をおしながる 石原八束 空の渚
白はちす目覚めむとする薄瞳して 上野さち子
白は供華赤は書斎に秋薔藪 稲畑汀子 汀子第二句集
白は強すぎる色 体操服の少女 伊丹公子 陶器の天使
白は白く五月光れるセルロイド 長谷川かな女 牡 丹
白は目に涼し夾竹桃さへも 稲畑汀子
白は鷺柩のごと冬沼の詩は嫁ぐ 橋本夢道 良妻愚母
白は黄に花を譲りて野の晩夏 吉村ひさ志「ホトトギス名句集」
白ばえて岬の鼻に風もなし 内田百間
白ばえに曉めく街の鶏音かな 富田木歩
白ばらやピアニッシモの恋心 千田知都子
白ばらを抱けば裏心身に疼く 古市絵未
白びやうし兄のすまふにかくれけり 大江丸
白ぼたん崩れんとして二日見る 成美
白ぼたん覚醒という言葉ある 星野一郎
白や赤や黄や色々の灯取虫 火取虫 正岡子規
白ゆかた飢ゑいつしかに忘じたる 宮田正和
白ゆふのはしぎれをかし汗とりに 野村喜舟 小石川
白れむに夕日の金の滴れり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白れむやあしたの霜を語り過ぐ 臼田亞浪 定本亜浪句集
白れんげ燃えたつ昼をひとり鬼日向の芝にうしろ向きおり 馬場あき子
白れんに月深海のごとくあり 矢島渚男 梟
白れんに道小川のごとくあり 齋藤愼爾
白れんの成れの果也平家琵琶 津田将也
白れんの日和や宰相病むと云ふ 小西蕗生
白れんの羽二重明りのなかにかな 柿沼盟子
白れんの花の吹雪よ父母は老ゆ 小檜山繁子
白れんや家一軒の建ち上る 宮脇幸子
白をもて一つ年とる浮鴎 森澄雉
白をもて喪のいろとなす野梅かな 大石悦子 群萌
白をもて神に仕へる氷室祭 吉江テルヨ
白を失ふ鶏のだんまり冬の霧 星野沙一
白を愛で薄紅愛でる花水木 岡村容子
白を着て俄かに腕の細りたる 松本陽平
白を着て風の辛夷と昏れのこる 渋谷道
白を足す立秋の海かがやいて 浅井恵美子
白オール翼と構へ少女待つ 香西照雄「対話」
白ズック祭の日よりおろしたる 細見綾子 黄 炎
白タイルまでを導く蝶番 宇多喜代子
白ハンカチ青春は畳みこんで置く 蔦 悦子
白ベレー大和しぐれに濡れてをり 佐川広治
白一衣まとふ雲逝く涅槃空 林昌華
白一途もて舞ふ冬の鴎かな 池田秀水
白丁(かくちょう)の根に吹きまくるあられかな 支考 俳諧撰集「有磯海」
白丁(よぼろ)らの顔の小さき賀茂祭 後藤夜半「翠黛」
白丁に随ふ賀茂の牛童 後藤夜半 翠黛
白丁の如くに水に杜若 上野泰 佐介
白丁の組む脚細し享保雛 上野さち子
白丁の顔の小さき賀茂祭 後藤夜半 翠黛
白丁らの顔の小さき賀茂祭 後藤夜半
白上布むかし時間のゆつくりと 永方裕子「洲浜」
白上布よく新涼にたへにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
白上布似合ふ二枚目盆狂言 渋沢渋亭
白丸のなかのいくつの白兎 阿部完市 春日朝歌
白五月枝をひろげて村を抱く 和田悟朗
白仔馬親へ脚挙げ蹠黒く 香西照雄 素心
白侘助遺言二十七行半 塚本邦雄 甘露
白光す夜の城壁木々芽ぶく 原裕 葦牙
白光のかの蓬まで行かば死す 永田耕衣
白光のレールを月に向はしむ 上田五千石 田園
白光の一筋通ひ去年今年 平井照敏
白光の中に人馬や湖凍る 山口青邨
白光の初富士に聴く師のこころ 都筑智子
白光の千の露おく惟然塚 清水青風
白光の湯冷めをそそる秋蛍 殿村菟絲子
白光の秋白皙の痩羅漢 原裕 青垣
白光はのべし首より白鳥来 井沢正江 一身
白光をかかげ泰山木咲けり 満田たけを
白光を放つ産毛も袋角 出口恵美子
白光を蕊に灯して梅昏れぬ 加藤耕子
白兎あすあさってを吐きつくす 夏石番矢 神々のフーガ
白兎いで来よ気多の岬は真みどりに 鷲谷七菜子 天鼓
白兎かかえて雨にかこまれる 大坪重治
白兎はたらきはじめていて鼓声 阿部完市 春日朝歌
白兎月に住みしを語り草 鈴木栄子
白几夏書の僧のかぶさりぬ 大石悦子 百花
白凪に鼻の日焼の見られけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白凰の塔の真下の田螺かな 宮岡計次
白切子炎の一丈となりにけり 芝口早苗
白切子眼に残るもの綿々と 櫛原希伊子
白切子高野の闇につつまるる 民井とほる
白制札呼ぶかに光り遠桜 香西照雄 素心
白加賀といふ痩骨の梅の花 西岡正保
白加賀に長居豊後に又長居 高澤良一 素抱
白加賀の老来ますますかほる花 高澤良一 寒暑
白動車の灯に邸内の落椿 大橋櫻坡子 雨月
白匂う卯の花月となりしかな 宇咲冬男(あした)
白千鳥干潟を走り影置かず 安田芳子
白和にまぎれもあへず根芹かな 長谷川櫂 蓬莱
白和は飛騨の十六ささげかな 清水基吉
白団扇けふも独りをあふぐなる 渡邊水巴 富士
白団扇一とせ過ぎて何も書かず 松村蒼石
白団扇妻には貸さじ老けて見ゆ 渡邊水巴 富士
白団扇廻して水の如く居る 桑尾黒潮子
白団扇旅寝の妻の胸の上に 大野林火
白団扇母に薄痘痕(うすいも)ありしかな 佐野青陽人
白団扇置かれて庫裡に人を見ず 香山節子
白地着て白に吸はるるごと眠る 中村祐子
白地着て白逸る夜を人と逢ふ 櫛原希伊子
白埴の瓶こそよかれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり 長塚節
白埴の甕春愁の翳つくる 村山古郷
白埴の異国の酒器に菊を挿す 瀧春一 菜園
白堤は西湖を分くる柳かな 中瀬喜陽
白塊の山霧(ガス)が押し寄す山母子 高澤良一 随笑
白塊の鳥のデフォルメ涼気曳き 高澤良一 宿好
白塔にひら~高し蚊喰鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
白塔は火雲の翳に蒼古たり 西村公鳳
白塗の門番小屋や桐一葉 寺田寅彦
白塗りののつぺらばうの梅雨茸 藤田湘子 てんてん
白塗りの手首窶れし姉弟 宇多喜代子
白塗りの顔ばかり過ぐ桜狩 山田諒子
白壽までたつぷりとある雑煮餅 河西みつる
白夜の燈溶けゐるごとし白ビール 関森勝夫
白夜更く琥珀の濁りの白ビール 関森勝夫「親近」
白天に原ありにがよもぎありけり 阿部完市 春日朝歌
白天のさなか真日照り真日見えず 原石鼎 花影以後
白夾竹桃のたそがれながし予後の旅 角川源義 『西行の日』
白子煮る白蝶の飛ぶ時間をかけ 加倉井秋を
白孔雀冬毛たくはへはじめけり 大石悦子 百花
白孔雀啼く春潮の流れざま 斎藤梅子
白孔雀涅槃の翅をひらきけり 渡辺恭子
白孔雀白鮮かな木の葉髪 山口誓子
白富士や雪に奔つて一稜絶え 竹中宏 饕餮
白富士を輪投げの的に裾野の子 五島エミ
白寿の嶺はるかに望む更衣 細見しゆこう
白少し透きし三日の鏡餅 森澄雄
白屏風谷の魚どちさびはじむ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
白山の白浮き出して春隣 竹中文男
白山へ靡く奥美濃白芒 橋本茶山
白岳の白根の端山焼ける見ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
白帝といふ名の城の百千鳥 石田野武男
白帝と亢(たかぶ)る波のたてがみと 高橋睦郎 稽古
白帝の鷺の幻聴鶴の恩寵 沼尻巳津子
白帝や六万年の火星来る 五座育乃
白帝や風紋崩しゆく駱駝 清水紀子
白帝城くれなゐを濃く桃の咲く 谷中隆子
白帝城幕おとす如春夕焼 田中英子
白帝城彩雲のごと桐の花 松崎 鉄之介
白帳割れて修二会の僧が見ゆ 大石悦子 聞香
白帽の流れ朝の日疾く高く 金尾梅の門 古志の歌
白幣の切れ端の飛ぶ枯山中 飯野きよ子
白干や大井にかへす御祓串 言水「東日記」
白式部ことば失ひたるごとく 片山由美子 風待月
白式部むらさきしきぶ嫁がせぬ 猪俣千代子 秘 色
白式部風の過ぎゆく墳一つ 斎藤一骨
白張の蝙蝠傘や薬売 寺田寅彦
白手套手綱を取つて汚れなし 森田峠 逆瀬川以後
白手袋はめて門衛交替す 小笠原須美子
白拍子乗せおとなしき祭馬 山本道三郎
白拍子柳の門に這入りけり 柳 正岡子規
白拍子舞ふや照葉の影引きて 石塚友二 光塵
白拍子雪見の舟にはいりけり 桜井芳水
白指も編棒のうち毛糸編み 鷹羽狩行
白描の三つ目の白沢(はくたく)お風入れ 高澤良一 燕音
白描の二月の枝を鋭く引く 高澤良一 素抱
白描の普賢しづかにほととぎす 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
白描の絵巻ほどかれお風入 加藤三七子「無言詣」
白描の聖観音や瑞香(ぢんちやうげ) 文挟夫佐恵
白描の雪渓白濁の霧の中 岡田日郎
白揚羽未だ見ぬ姉が塩道に 攝津幸彦
白揺れて少し虎尾草らしくなる 山田庄蜂
白擬宝珠たそがれの指やわらかき 戸田富美子
白散よ酒に交へて生く薬 松瀬青々
白文を読み下されてどつと汗 筑紫磐井 婆伽梵
白映や日没閉門熊本城 内田百間
白晢にして鶏頭の群れに入る 中田剛 珠樹
白曼珠沙華はたりはたりと鶏番ひ 大石 悦子
白曼珠沙華月光に剪り余す 黒田杏子 花下草上
白服にてゆるく橋越す思春期らし 金子兜太「金子兜太句集」
白服にねむり成層圈を航く 高澤良一 ねずみのこまくら
白服にプラットフォーム端好む 田中灯京
白服に月光沁みて寝にもどる 大島民郎
白服に浜の豆ッ子鼓笛隊 高澤良一 随笑
白服に玄沁みもどる原爆図 水巻令子
白服に腕輪の色を利かせをり 佐藤うた子
白服の一人は誰ぞや螢狩 鈴木花蓑句集
白服の人甘苧の花を折る 下村槐太 光背
白服の女の肘の嶮しけれ 小川軽舟
白服の旅の汚れも二日目に 稲畑汀子
白服の澄みてさびしき眸とおもふ 岸秋渓子
白服の皺は汚れのごときもの 福永耕二
白服の笞のごとくに佇てりけり 川口重美
白服はカルダンと決めコンサート 大村フサエ(松籟)
白服や循吏折目を正しうす 日野草城
白服や海を見たりし釦はめ 加藤楸邨「雪後の天」
白服を吊るし一日を過去とする 広渡詩乃「春風の量」
白服を置くあけぼのの操舵室 岸原清行
白朝顔なにかが終る身のほとり 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
白木槿妻の逝きたる朝の白 沖津をさむ
白木槿寝て起きて白里帰り 和知喜八 同齢
白木蓮女人高野に白凝らす 森下光江
白朮の火闇夜の風に消すまじく 金子晉
白朮火のくらきに紛れ蜑が顔 小島ノブヨシ
白朮火のひとつを二人してかばふ 西村和子
白朮火のほのかに顔の見られけり 矢島渚男
白朮火の一つを二人してかばふ 西村和子 夏帽子
白朮火の一寸先の都かな 松尾隆信
白朮火の大き小さき二人の輪 小嶋樹美子
白朮火の妻のほとりをゆきにけり 古舘曹人 樹下石上
白朮火の水明りにはほど遠き 斉藤夏風
白朮火の渦なす闇の陰詣 野澤節子
白朮火の祇園小路を曲りけり 大森光栄子
白朮火の輪のゆく闇に人の声 神原廣子
白朮火の輪の中小さき顔うかぶ 山本つや女
白朮火の闇うつくしき大路かな 鳥羽とほる
白朮火の闇美しく妻とゐる 羽成 翔
白朮火の風にみだれし焔かな 田村ふみよ
白朮火やふと故郷の炉のにほひ 藤崎実
白朮火や火の危ふさもいただけり 福田万紗子
白朮火や突当るみな善男女 鈴木鷹夫 大津絵
白朮火を傘に守りゆく時雨かな 大谷句仏
白朮火を先づ亡き夫に灯しけり 刈米育子
白朮火を受けて真顔になりにけり 村上喜代子
白朮火を廻して通る祇園茶屋 松本澄江
白朮火を廻す八坂の杜の闇 佐々木静江
白朮火を消さじとおもひ子を念ひ 関戸靖子
白朮火を輪に振る中に人の顔 四明句集 中川四明
白朮詣のだらりの帯とすれ違ふ 清水基吉
白朮酒といひて屠蘇とはいはざりし 後藤比奈夫
白杖に八十八夜の杉雫 村越化石
白杖の人を追ひ越す汗なりき 松山足羽
白杖の先の触れたる茅の輪かな 板倉馨子
白杖の右も左も青浄土 村越化石
白杖の行きたる音も彼岸過 綾部仁喜 樸簡
白松が最中をまへに花疲れ 川崎展宏
白枕いづこに置くも雁のこゑ 齋藤愼爾
白林を湯へよぶ柝や冬木立 飯田蛇笏 山廬集
白栄えて我がくれないの軍船 松田正徳
白栲の如月寒し駿河町 尾崎紅葉
白梅の白を持さんと帯ぶる蒼 大橋敦子 手 鞠
白梅の白を食べたる鳥のこゑ 関戸靖子
白棺や月光胸に重からん 折笠美秋 君なら蝶に
白椅子に胃の検査待つ漱石忌 伍賀稚子
白椿うすみどり帯び湿らへる 大野林火
白椿そこは鬼のあつまる木 松本恭子 二つのレモン 以後
白椿に錆さす雨の酒匂川 原 裕
白椿ふかきはひかりこもりけり 豊長みのる
白椿一枝の先の重さかな 飯村周子
白椿主治医祝ぎ言賜ひけり 石田波郷
白椿名刀の冷え思ふべし 西村和子 かりそめならず
白椿咲いていて僕寝ていたり 五島高資
白椿團體さんは急ぎ足 八木林之介 青霞集
白椿墓碑銘は森林太郎 中島正夫
白椿挿して「山齢」読み籠る 影島智子
白椿日に透きながら汚れゆく 高橋千鶴子
白椿昨日の旅の遥かなる 中村汀女
白椿気位捨てては生きられず 稲野和子
白椿汚れ易きをけふ厭ふ 石田あき子 見舞籠
白椿白を失ふはやさかな 見永千恵子
白椿白痴ひうひう研究せり 攝津幸彦
白椿老僧みずみずしく遊ぶ 金子兜太 詩經國風
白椿落ちたる音に囚はれし 藤田湘子 てんてん
白椿落ちて腐りし日数かな 落椿 正岡子規
白椿赤椿幹黒くして 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白楊の梢つぶやくに似て秋隣 加藤楸邨
白楊の瘤一と年風と去るごとし 成田千空 地霊
白楊の絮を拾ふ旅愁のひろごりぬ 阿部みどり女
白樫は直情の樹ぞ秋の声 池田弥寿
白樺の根方の白は水芭蕉 森田峠 逆瀬川
白樺の白の織りなす青葉かな 加藤由美子(梟)
白樺の白極まりて猟期来る 宮澤 薫
白樺の白極まりぬ雪月夜 古賀まり子
白樺は白つらぬけり霧の中 西川五郎
白樺林ゆく白蝶に逢ひしのみ 山口草堂
白樺街道雪の香を呼ぶ白ばんば 鳥居おさむ
白檜曾に月のさしたる道をしへ 宮坂静生 樹下
白檜曾の幹を好める霧が出て 高澤良一 さざなみやつこ
白檜曾の木の香にむせぶけらつつき 内藤総子
白檜曾の樹海岩荒れ瑠璃鶲 岡田 日郎
白毛布はなびら溢れして抱く子 赤松[ケイ]子
白毛布チカ~柊の花に干す 久米正雄 返り花
白毛布殉死のやうに眠りたる 大牧 広
白毛布泣きたきときの深かぶり 明田和子
白毛糸ぐるみの「おいしそうな顔」 右城暮石 上下
白毛糸編みをり洗礼式前夜 長田等
白毛糸編むと手濯ぎ来て坐る 大橋敦子
白毫か黒豹の眼か春の闇 福田甲子雄
白毫がとらへし萩の驟雨なる 吉田紫乃
白毫と凝らす汗なり恥ぢにけり 赤松[ケイ]子
白毫にけふの冬日の尽きんとす 山田桂三
白毫にとどける煤の帚かな 名見崎 新
白毫に山蛭宥し千手仏 つじ加代子(蘭)
白毫に日の当りをり百千鳥 岡澤康司
白毫のごとき月山鐘霞む 磯貝碧蹄館
白毫の三つならびし春の寺 鈴木太郎
白毫の光る磨崖や佛生会 小池萬吉
白毫の塔まぼろしに山時雨 小島千架子
白毫の甘茶にぬれし灯影かな 会津八一
白毫や烏犀角などたしなみて 沼尻巳津子
白毫寺今年しみじみ蝶を見き 猿橋統流子
白毫寺坂なる露の跫音かな 鷲谷七菜子 花寂び
白毫寺坂のかるかやをかるかや 宮坂静生 樹下
白毫寺村へ一筋残る虫 岸田稚魚 筍流し
白毫寺秋篠までの夜長かな 松根東洋城
白毫寺萩の根分を僧もする 今井妙子
白毫寺鹿垣の竹届きけり 西山純子
白毫救相の示現を前に氷水 磯貝碧蹄館 握手
白波と競ふ寒梅白点じ 伊藤京子
白波のごとくはるかに白菖蒲 山口青邨
白泥の壺にさしたる冬すみれ 伊藤敬子
白洲ある古き舞台の能始 松本たかし
白洲場のごとし寒夜の手作りは 福田甲子雄
白洲跡石ひとつづつ冷えてをり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
白浴衣老女を蝶のごとくしぬ 中尾寿美子
白海とわれに雪舞ふ僧待てば 吉野義子
白海月(くらげ)汀(みぎは)の氷流れけり 調栄 選集「板東太郎」
白涼し紫も亦涼しく著 星野立子
白滝の忽と現はる秋気かな 上田佳久子
白滝や六月寒き水煙り 松岡青蘿
白濤が白波をのみ涅槃西風 加藤紀久子
白濤に乗る何もなしきりぎりす 千葉皓史
白濤の灘晴れきつて厄落 斎藤梅子
白濤の白極まりぬ夏霞 香西照雄 対話
白濤の高きを恵方道とせり 斎藤梅子
白濤は寒のひびきのなかに顕つ 山崎満世
白濤を見る足もとにきりぎりす 冨田みのる
白瀧の二筋かゝる紅葉かな 紅葉 正岡子規
白灣は青しつつじは花紅く 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
白灯蛾さくら一本喰ひねむる 鳥居美智子
白炎となりしづもれる牡丹かな 深見けん二 日月
白炎をひいて流氷帰りけり 石原八束(1919-98)
白炎天鉾の切尖深く許し 橋本多佳子(1899-1963)
白炭の割りて粉のなし十三夜 毛塚静枝
白炭の揃へて干さる南風筋 西尾智美
白炭の組み方までは教へざり 後藤比奈夫 めんない千鳥
白炭や彼の浦島が老の箱 芭蕉
白炭や焼かぬ昔の雪の枝 忠知
白烏に極彩色の鴛鴦の沓 西本一都 景色
白烏の一羽が擢(ぬき)んでて翔べり 佐川広治
白烏の声はづみをり濤沸湖 伊舎堂根自子
白烏の翅もぐごとくキャベツ*もぐ 能村登四郎「咀嚼音」
白焔の縁の緑や冬日燃ゆ 松本たかし
白焼のうなぎ巴里風シェフ若し 大島民郎
白焼の諸子に曇る玻璃戸かな 田中英子
白焼の鱚皿ごとに届きけり 宇佐美魚目 天地存問
白熊が食パンを喰ふ食事時 瀧井孝作
白熊の昼寝失神かと思ふ 津田ひびき
白熊を連れジプシーの女来る 山田弘子 懐
白燈台統ぶ夏洋に戦絶えよ 香西照雄 対話
白牛を率て冬耕の詩ありき 飯田蛇笏 雪峡
白牛を見に行く家や罌粟の花 井月の句集 井上井月
白犬に好かれてをりし良夜かな 木塚眞人
白犬の貌神さびぬ洗ふうち 下村槐太 天涯
白狂や横にかげろふけむりだし 加藤郁乎
白狐いや雪をんな邪鬼一瞬 大里泰照
白狐の尾見えたか燕翻る 丸木美津子
白狐天を翔け顔見世のはねにけり 西村和子 かりそめならず
白狐汝は稲荷の事触れか 名和三幹竹
白猫と音声菩薩と向うべし 阿部完市 軽のやまめ
白猫に不実な霰ふりかかる 宇多喜代子
白猫に乗りて死にゆく梅の花 攝津幸彦
白猫に炎昼の光古びたり 西矢籟史
白猫に真つ黒子ねこ聖五月 片山亀夫
白猫のうづくまる如夜の牡丹 上野さち子
白猫のひらりと沈む金葎 渡部良子
白猫のみるみる穢れ冬隣 福永耕二
白猫のみれどもたかき帰燕かな 飯田蛇笏
白猫の俄か閉ざす目メーデー歌 河野多希女 月沙漠
白猫の尾の黒きをり初詣 田村千勢
白猫の恋のはじめの闇夜かな 藤本始子
白猫の松を降りくる灌仏会 星野恒彦
白猫の田を渡りくる神無月 古舘曹人 樹下石上
白猫の白もてあます秋の昼 佐藤智恵子
白猫の秋の名残の塀歩く かとうさきこ
白猫の綿の如きが枯菊に 松本たかし
白猫の行衞わからず雪の朝 雪 正岡子規
白猫の見れども高き帰燕かな 飯田蛇笏
白猫の通ひ路となる萩の庭 横山房子
白猫の通りぬけする庭紅葉 川崎展宏
白猫は汚れ泰山木の花 依光陽子
白猫へ恋の一瞥野良の猫 大脇良子
白猫やとかげ喰ふてふ閨の秋 飯田蛇笏 山廬集
白猫をゑがく火桶をとほざくる 松村蒼石
白玉の白の浮力を冷しけり 中尾有爲子
白玉や産着のごとき白表紙 八牧美喜子
白王の牡丹の花の底ひより湧きあがりくる潮の音きこゆ 太田水穂
白球のゆくて筑波の山笑ふ 後藤郁子
白球の野菊に近く濡れてをり 菅原鬨也
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白瓜や川が近くてをんなの子 斎藤夏風
白瓜を提げて越路の女衆 川崎展宏
白甃をゆくまへうしろ燕とぶ 西村公鳳
白百合の白を揺らしてゆはへつけ 神谷一枝
白皃の墓守にして紫蘇のはう 中田剛 竟日
白皙の立ちて舞ふより淑気かな 文挟夫佐恵
白皙の青年なりし遍路笠 松島千代
白皿のふれあふ音の夜の秋 吉野義子
白真砂すこしこぼれて若茱籠 甲斐すず江
白睡蓮一花を端に賢沼 大熊輝一 土の香
白睡蓮閉ぢて普賢の重目蓋 田口一穂
白瞑の自伝の荒野雪が降る 深谷雉大
白破魔矢武に苦しみし神達よ 橋本多佳子
白破魔矢潮騒空にひろがり来 友岡子郷
白磧より草笛か麦笛か 神尾久美子 桐の木以後
白社丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
白禅に斑の満ちて神還りけり 堀口星眠 営巣期
白秋という方角に二、三人 坪内稔典
白秋と思ひぬ思ひ余りては 後藤比奈夫 祇園守
白秋にゆかりといへり雛の客 長谷川櫂 蓬莱
白秋にをけらの花を加へけり 矢島渚男 延年
白秋の生家へ一里炬燵舟 坂井たづ子
白秋も啄木も夢明易し 倉田紘文
白秋や少年独り終電車 阿部美代子
白秋や川に香を立つ杉丸太 宮田祥子
白秋や触れて崩れし父の竿 宇佐美魚目 天地存問
白秋亡し緋目高のぼる三の井手 有働亨 汐路
白秋忌切つ先青きまま乾き 宮坂静生 山開
白秋忌雨こぼれてはすぐ止みぬ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
白秋祭島も露めく風の色 河野南畦
白穂立つ田ある限りは彼此もなし 石塚友二 光塵
白箸に色かぐはしき薺かな 秋皎
白箸に飲食清め道元忌 本多静江
白箸や瀬々の網代木氷鮒 花流 選集「板東太郎」
白籏に顕つ秋風や笛まつり 伊藤いと子
白粥にたふとがらする十夜かな 水田正秀
白粥にも入れてもらひぬうぐひす菜 長谷川かな女 花寂び
白粥に人隔てゐて春を待つ 野澤節子
白粥に坐して新涼あきらかや 村越化石 山國抄
白粥に塩一とつまみ夏負けす 森英恵(曲水)
白粥に大き梅干震災忌 館岡沙緻
白粥に宝珠とおとす寒卵 谷野予志
白粥に振る島の塩バリさやか 高地房子
白粥に春のかたみの箸つかふ 三田きえ子
白粥に春暁の雨いとかすか 宋淵
白粥に梅干おとす春のあさ 伊東月草
白粥に梅干埋めいくさなし 赤尾恵以
白粥に溺れてゐたる春の風邪 木村敏男
白粥に粗塩ふりて夏至近し 池上貴誉子
白粥に終りし行や実南天 野中亮介
白粥に芹のあをさを加へけり 佐川広治
白粥のうす塩味や暑気中り 日野草城
白粥のこの頃うまし梅の花 石田波郷
白粥のとろりと煮えて時頼忌 上田澪子
白粥の一椀のみの涼しさよ 藤崎久を
白粥の一椀をおく淑気かな きちせあや
白粥の三度が三日春の風邪 乗本真澄
白粥の日数のなかの寒ざくら 鷲谷七菜子 花寂び
白粥の朝餉に夏のものばかり 原石鼎 花影以後
白粥の温もりに似て豆の花 森川吾城生
白粥の湯気すぐに消ゆ夜の秋 福田甲子雄
白粥の老人冬日たゆたひて 松村蒼石 雪
白粥の花椀くまなし初日影 丈草
白粥の香もちかづけず身ごもりし 篠原鳳作 海の旅
白粥はおかか梅干日永かな 石川桂郎 四温
白粥は花明りとぞ啜りけり 山上樹実雄
白粥や沙羅の落花と一卓に 村越化石 山國抄
白粥や起き直りえて風涼し 原田種茅 径
白粥や雨風の中蕗煮ゆる 斎藤空華 空華句集
白粥をまぶしくしぐれ通りけり 田中鬼骨
白粥を吹きくれる妻晩夏光 目迫秩父
白粥を啖ぶ春暁のあはれかな 石原八束 空の渚
白粥を夫に吹きやる年の暮 品川瑩子
白粥を所望す京の桜どき 水原春郎
白粥を朧にはこぶ看とりかな 橋本鶏二
白粥を煮て月明に遅れ来し 井上菜摘子
白粥を父にまゐらす夏ゆふべ 大石悦子 群萌
白結飯すずしく被爆石の上 赤松[ケイ]子
白絹で碁石を磨く小六月 浅井陽子
白絹につつむみどり児夕桜 加倉井秋を
白絹に嬰包み来て春祭 茨木和生 野迫川
白絹に待針を打つ菊日和 佐藤 緑
白絹に置く一刀や夏の果 きくちつねこ「五浦」
白絹のつめたさを縫ひ冬新し 能村登四郎 枯野の沖
白絹は勝者の肩に競べ馬 山田由紀子
白絹は葬りのごとし雛をさめ 井沢正江 以後
白絹を縫ふ縁先の青木の実 鳥井信行
白絹を裁つ妻と居て寒土用 北野民夫
白綾に金王桜さきにけり 史邦 芭蕉庵小文庫
白綾の衣の青みや冴返る 菅原師竹句集
白綿をはみ出す我も初蝶も 大木あまり
白緑の蛇身にて尚惑ふなり 飯島晴子
白縮片手上げたる別れかな 津幡龍峰(初蝶)
白縮緬ゆふがほの花浮かみ出で 川崎展宏 冬
白繭となるころ月も満つるらめ 大串章
白繭となるまで青き嶺が囲み 神尾久美子 桐の木
白繭にこもる踊の酣は 宮坂静生 樹下
白繭のいのち静かに透けてをり 相川やすし「筥その後」
白繭のうちなる闇をおもひをり 片山由美子 天弓
白繭のごとき行者を滝打てり 吉武千束
白繭のひかり二時打つ山の寺 龍太
白繭の信夫の里となりにけり 加藤三七子
白繭の山のむらさきがかるかな 猪俣千代子 堆 朱
白繭の翳れば山河はたと暮れ 井澤正江
白繭や母を思へば父なくて 河野邦子
白繭をのせて小さな秤かな 星野稔代
白繭を手にして今日の力湧く 多田照江
白繭を掌にして今日の力湧く 多田照江
白罌子も岨路も暮るるほととぎす 松村蒼石 露
白罌粟に煤はく家や加茂の里 高井几董
白罌粟に照りあかしたる月夜哉 松岡青蘿
白罌粟の紙のごとくに咲けるかな 山本岬人
白罌粟の花より高し罌粟坊主 前田普羅
白罌粟の辺りより暮れつひに暮る 福永みち子
白罌粟も五月の雲もまぶしさよ 水原秋櫻子
白罌粟も岨路も暮るるほととぎす 松村蒼石 寒鶯抄
白罌粟や形見の蝶ぼろぼろの桑 仁平勝 花盗人
白罌粟や片山里の朦の中 炭 太祇 太祇句選
白肘の当りしも落ち桃摘花 中戸川朝人 残心
白胡麻の乾きて自づからはじけ 米谷孝
白脚絆冬濤とほく崩れけり 斎藤梅子
白脚絆洗ひ栄えして春の旅 吉武月二郎句集
白脛に春風新進女教師よ 藤本節子
白脛をかくさず風に踊るなり 藤田湘子 てんてん
白舟や谷間の底で厄落とし 井上秋魚
白良浜良き名を灼きて荒布干す 宮津昭彦
白芒海へ出たくて駆けとほす 猪俣千代子 堆 朱
白芥のうしろの原や青嵐 青嵐 正岡子規
白芥子に秘密の扉開く黴匂ふ 筑紫磐井 婆伽梵
白芥子に羽(はね)もぐ蝶の形見哉 松尾芭蕉
白芥子に麦の朝風強すぎぬ 高田蝶衣
白芥子のちりかゝりけり梅法師 芥子の花 正岡子規
白芥子の妬心まひるの陽にこゞる 篠原鳳作
白芥子の波折りの風も夕まぐれ 文挟夫佐恵 遠い橋
白芥子の美人かくるゝ草の庵 松岡青蘿
白芥子の花透く朝日夕日かな 闌更「半化坊発句集」
白芥子やどこに火を焚く藁ぼこり 山内曲川
白芥子や冷たきこゑを忘れざる 仙田洋子 橋のあなたに
白芥子や時雨の花の咲きつらん 芭蕉「鵲尾冠」
白芥子や莟の中の花一つ 小澤碧童 碧童句集
白花の芙蓉のをはりしづかなる園はいさよふゆふべの光 山本友一
白花の芯に食ひ入る蟻一つ 古屋村木
白茅刈る兄の太腕盆支度 堀口星眠 営巣期
白草に日はきらきらと枯野かな 森鴎外
白莱をきしきし漬けて明日があり 嶋田麻紀
白菊と札の付いたる根分かな 古白遺稿 藤野古白、正岡子規編
白菖蒲おののき易き花もてり 樋笠文
白菖蒲おもひしづむにまかせをり 坂間晴子
白菖蒲おもひを凝らすとき翳る 鈴木 まゆ
白菖蒲とびたたむまで見てをりぬ 木村 ふく
白菖蒲別れし夫の訃を聞けり 館岡沙緻
白菖蒲剪つてしぶきの如き闇 鈴木鷹夫 渚通り
白菖蒲剪つて水音をまとひけり 雨宮きぬよ
白菖蒲子を恋ひをれば翳りけり 成瀬櫻桃子 素心
白菖蒲母がちらちらして困る 北上正枝
白菖蒲母の袂に風こもり 大関靖博
白菖蒲水を舞台に爪で立つ 星野光二
白菖蒲白は無念のいろならむ 斎藤梅子
白菖蒲眦切つてひらきけり 櫛原希伊子「百鳥俳句選集」
白菖蒲神泉に立つ風の筋 福本天心
白菖蒲空よりも地の明るき日 中村路子
白菖蒲蕾きりきり鏃めく 高澤良一 鳩信
白菖蒲過去なくて人生きられず 稲垣きくの
白菖蒲風の離れるときゆらぐ 沢木欣一 往還
白菩薩たちや鬼無里の水芭蕉 羽部洞然
白菫黄昏は物のあはれなり 碧梧桐
白華鬘菩薩の慈悲を偲ばせて 坂井建
白葡萄シルクロードの月を来し 手繰直美
白葵大雨に咲きそめにけり 前田普羅
白葵藪の幽邃暾を得たり 飯田蛇笏 椿花集
白蒲団鏡の如く干されあり 上野泰 佐介
白蓼の雨ふる夢のつづきかな 吉田紫乃
白蕪の土這ひ出でて坐りゐる 目次翠静
白薔薇おもおもしくも朝ぐもり 飯田蛇笏 春蘭
白薔薇と成る黄蕾や赤子いかに 香西照雄 素心
白薔薇に花期を譲りて菫実に 田川飛旅子 花文字
白薔薇に饗応の麺麭温くからぬ 飯田蛇笏 霊芝
白薔薇のいよゝ色増す日暮かな 飯塚博子
白薔薇のつぼみ解きゆき聖母月 中塚久恵
白薔薇の名はプリンセス嫁ぎけり 伊藤京子
白薔薇の城のやうなる蕾かな 石田郷子
白薔薇の天使が墜ちる朝の卓 吉原文音
白薔薇の百蕾不死男夫人葬 本宮鼎三
白薔薇の胸の高さに咲きにけり 小川原嘘帥
白薔薇の花をつめたる棺かな 薔薇 正岡子規
白薔薇の開ききつたる翳りかな 橋本榮治 麦生
白薔薇一輪遠嶺発行所 小澤克己
白薔薇口渇く日の続きけり 谷口桂子
白薔薇沸々と死が近くあり 石嶌岳
白薔薇買ふ山下りんの絵を見し日 森尻禮子
白藤の白に嫁ぐ日決まりけり 市村季子
白虹のごとくよぎりし雪礫 柴田果
白虹の貫く天や畑打つ 五十嵐播水 播水句集
白虹忌銀杏大樹を燭とせり 寺井谷子
白虹日を貫いて蟷螂起つ 石井露月
白蚊帳と波音と吾子をいねしめず 林原耒井 蜩
白蚊帳にうすき寝嵩もひとりなる 鷲谷七菜子
白蚊帳に入りたるごとし西湖微雨 関森勝夫
白蚊帳に奇跡の目覚めある如し 川口重美
白蚊帳に孤独の母が透きとほる 藤井 亘
白蚊帳のしづかなたるみ覚めにけり 大野林火
白蚊帳のとなりに吊りしよもぎ蚊帳 前田普羅
白蚊帳の丈山中に目を覚ます 藤井亘
白蚊帳の大紋どころ避暑の寺 皆吉爽雨
白蚊帳の寝覚や鳩鳴く京泊り 北野民夫
白蚊帳の雑草園に寝ねしこと 田村了咲
白蚊帳をくゞる偽善の身を屈め 丘本風彦
白蛾の目玻璃に紅彩原爆忌 原田孵子
白蛾来る辞書の重さのわが窓に 中村汀女
白蛾舞い木曽の春の夜あらあらし 城取信平
白蜀葵の身命ややあおし愛す 阿部完市 鶏論
白蜀葵は九十年生きゆく舞なり 阿部完市 春日朝歌
白蜜へ匙さし出せる優しき日 宇多喜代子
白蝋の一基を点ず月の家 松村蒼石 寒鶯抄
白蝋の彫刻となりて五月逝く 阿部みどり女
白蝶々飛び去り何か失ひし 綾子
白蝶のふるさと熟睡したまへる 殿村莵絲子 花寂び 以後
白蝶の失せしはいづこ光堂 野澤節子
白蝶の弱く落ち来ぬ秋の雨 長谷川かな女 雨 月
白蝶の森に這入るを見て涼し 阿部みどり女
白蝶の白置いて来るやうに翔ぶ 後藤立夫
白蝶は天より来る風葬野 加倉井秋を
白蝶も紫蝶もこの日より 高野素十
白蝶や生れしばかりの風に会ふ 神蔵器
白蝶や野に福音の湧くごとく 新村長門
白蟻に山蟻襲ひかかりけり 岸本尚毅 舜
白蟻の家ならなくに崩れゆく 文挟夫佐恵 遠い橋
白蟻の柱を抜けて吹き荒ぶ 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
白衿に針はこぶ夜の鰤起し 井上雪
白衿を恃みて寒の闇すがし 川端京子
白袖振つて巡りゆく川夕河鹿 草田男
白袴薩摩飛白に霙れけり 久米正雄 返り花
白装の少女羨しも齢に富む 山口誓子「和服」
白装束神に仕へて冬田打つ 薗田郁子
白装束霜に声あり寒念仏 露章 選集「板東太郎」
白襖の黒枠不吉隙間風 香西照雄 素心
白襖よりまじまじと見つめられ 石田勝彦 秋興
白襖入れたることの病みはじめ 坂巻純子
白襖幼児笑へば亡母来る 飯田龍太 忘音
白襖染みを鳥とも茄子とも 依光陽子
白襷白鉢巻に和布刈禰宜 金森柑子
白詰草たどれば渡来人の裔 柿本多映
白詰草咥えて世阿彌のひびきあり 中北綾子
白詰草真っこと冷たかりけるよ 高澤良一 素抱
白詰草飯盛ることののどかなり 新間絢子
白豚や秋日に透いて耳血色 杉田久女
白象が大橋渡る花まつり 前田圭史
白象に苦しむ姉に江戸の春 攝津幸彦
白象のごとくけだかく雲灼けて 高澤良一 ぱらりとせ
白象の牙上げて哭く涅槃絵図 松本圭二
白象の糸のまなじり仏生会 長谷川櫂 蓬莱
白象の耳もて哭けり涅槃絵図 安田新参子
白象を笑ひ嘆かせ涅槃図絵 赤松子
白豪寺坂なる露の跫音かな 鷲谷七菜子 花寂び
白足袋にいと薄き紺のゆかりかな 河東碧梧桐
白足袋に狭目の下駄も好みかな 野村喜舟
白足袋に皺殖え老母花見得たり 香西照雄 素心
白足袋のいちにん深山朝櫻 黒田杏子 花下草上
白足袋のじよんがら弾のづかと来る 田中英子
白足袋のつるつる縁やつく手毬 野村喜舟
白足袋のどこまでゆけば弥陀に会ふ 神尾久美子 桐の木
白足袋のひたひたと来る破芭蕉 川崎展宏
白足袋のよごれもつかずぬがれけり 富安風生
白足袋のよごれ盡せし師走哉 師走 正岡子規
白足袋のチラチラとして線路越ゆ 中村草田男(1901-83)
白足袋の一斉に浮く踊かな 坂本たみ
白足袋の一糸乱れぬ演武かな 丸谷領一
白足袋の位置の磐石弓始 岩田千恵
白足袋の僧より落ちし名刺かな 桂信子 樹影
白足袋の暑中稽古や鞍馬寺 小中勿思
白足袋の汚れざりしがさびしき日 鷲谷七菜子 黄 炎
白足袋の汚れのほどの人疲れ 向田貴子
白足袋の汚れもあはれ鹿踊 田村了咲
白足袋の熔岩原を踏み行けるかな 草間時彦 櫻山
白足袋の爪先そろへて御仏がくらい 人間を彫る 大橋裸木
白足袋の爪先の春待つごとし 影島智子
白足袋の父にしたがふ墓参かな 五十嵐播水 播水句集
白足袋の糊の硬さや花八ツ手 浅野啓子
白足袋の若き和尚や花あせび 田中冬二 麦ほこり
白足袋の足の先まで几帳面 竹崎玉子
白足袋の踏んでゆきける瓦礫かな ふけとしこ 鎌の刃
白足袋の過ぎゆく盆の廊下かな 角川春樹 夢殿
白足袋の鞐に母の名のありぬ 佐藤晴代
白足袋も五つこはぜの針供養 今泉貞鳳
白足袋も鼻緒もきつめなのが好き 榊原弘子
白足袋や使はず捨てず姑のもの 野見山ひふみ
白足袋や大僧正の袈裟の下 野村喜舟 小石川
白足袋や寒叟春の粧も 松根東洋城
白足袋や帯の固さにこゞみ穿く 阿部みどり女 笹鳴
白足袋や母の天寿をわれ知らねど 平井さち子 完流
白足袋や箱階段の黒き艶 今泉貞鳳
白足袋や継もなか~清浄に 野村喜舟 小石川
白足袋をぬぐや流るる天の川 野澤節子 『駿河蘭』
白足袋を一歩も退かず怒濤見る 神尾久美子 桐の木
白足袋を叩き干したり松納め 福田邦子
白足袋を手に嵯峨念仏楽屋入り 野川義宣
白足袋を穿きて心を立つるなり 岡野美代子
白足袋を穿けば歩幅の改る 小林一鳥
白足袋を箪笥が銜へゐる寒さ 鈴木鷹夫 春の門
白足袋を脱ぐや流るる天の川 野澤節子
白足袋を雨に濡らして弓始 沖久治
白足袋裾ずれこの用もあの用も 河東碧梧桐
白足袋遺し泣くほか寝るほかなかりしか 中村草田男
白躑躅日に透くあたり来世見ゆ 都筑智子
白躑躅遅れて雨に花盛り 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白転車つづく朝の小手毬道へでて 川崎展宏
白轢の倒れ木もある月の道 比叡 野村泊月
白辛夷円空仏にかしづける 土岐錬太郎
白辛夷咲き秀でたる木の間かな 山本歩禅
白遍路番外終へて一切終ふ 秋を
白過ぎてあはれ少し蓮の花 蓮の花 正岡子規
白道の左右より咳御滅燈 高澤良一 ねずみのこまくら
白釉のすこし紅さし風花す 一丸文子
白重ね夫人たまたま夜の卓に 吉武月二郎句集
白重涙のしみのなかりけり 野村喜舟「小石川」
白銅の銭に身を売る夜寒かな 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
白銅貨はまんなかに穴あきて哀し 日野草城
白長須鯨を花に誘ふかな 栗林千津
白閃々一夫一婦の鶴の舞 中村草田男
白閃々黒閃々の初燕 北島大果
白陀亡し地に秋茄子の露まみれ 村上高悦
白陀亡し炉煙りもなし白木槿 青木重行
白陀忌のひかり孕めり草の露 松本三千夫
白隠に妊り申す万愚節 萩原麦草 麦嵐
白隠の書画踏み破る花ごころ 高澤良一 随笑
白隠元豆食べつくすまで枯木鳴る 長谷川かな女 花寂び
白雁といふ大いなる一羽かな 中野津久夫
白雁の一羽まじれる旅愁かな 三宅 句生
白雁や野馬をおどす草の露 許六 九 月 月別句集「韻塞」
白雄忌と言へば信濃の彼を思ふ 細川加賀 『玉虫』以後
白雄忌の人恋ふ雨となりにけり 島田洋子
白雄忌の人食はぬ人ものを食ふ 攝津幸彦 鹿々集
白雄忌の海鳴りしるき鴫立庵 田中英子
白雄忌の火取蛾一夜蔦沼に 鳥居美智子
白雄忌の酒粕の肌理炙るなり 中原道夫
白雄忌へ百椀の酒たてまつれ 矢島渚男
白雄忌やご城下のころ連歌町 中戸川朝人
白雄忌を過ぎたるころや冷し酒 青柳志解樹
白雄碑や遣らずの雨をつまべにに 高岡すみ子
白面に干戈のひびき微かなり 徳弘純 レギオン
白面の眉間発止と雪崩れけり 林昌華
白鞘の一刀まつる滝まつり 桑原視草
白鞘を出づる小太刀や炉を開く 後藤比奈夫 めんない千鳥
白頭のバイオリニスト秋の宵 佐久間慧子
白頭の吟を書きけり捨團扇 捨団扇 正岡子規
白頭の耳の上まで砂糖水 磯貝碧蹄館
白頭鵠(べたこふ)の一樹明るし雨上り 千代田葛彦 旅人木
白飯に飢ゑしは昔霰はね 桂信子 花寂び 以後
白飯やいづこの山も日暮にて 桑原三郎 龍集
白飯や今日はさかえ忌浅蜊汁 橋本夢道 無類の妻
白首に近づく雨と馬匹かな 徳弘純 レギオン
白驟雨人恋ひ虫のこもり鳴く 石原八束 『高野谿』
白驟雨桃消えしより核(さね)は冴ゆ 赤尾兜子
白髪に白髯に春あふれけり 久保田万太郎 流寓抄以後
白髭の笠木も見えて秋の水 黒柳召波 春泥句集
白髯の神の椿は湖に落つ 岩崎照子
白髯の露人胸はりてゆく街は冬 五十嵐播水 埠頭
白鬚の鳥居に波や神渡し 宮地恒子
白鬚の鳥居をくぐるはぐれ鴨 倉持嘉博
白鬚を飾り野老を飾りけり 上羽津由子
白鳥の白を限りに求愛す 照井 翠
白鳥の白消しがたし秋の暮 鍵和田釉子
白鳥の白誇らかに羽摶きし 田村紅子
白鳥を呼ぶみどりごも白ケープ 大熊輝一 土の香
白鳩の屋根に来てゐる終戦日 福田芳子
白鶏だけが神を感じて走り行く 安井浩司 乾坤
白鶏の竹の中行く寒さかな 成美
白鶺鴒あさざの水に移りけり 鈴木しげを
白鶺鴒とんと川原の雪醒まし 高澤良一 寒暑
白鶺鴒逝く間石をば礼叩き 永田耕衣
白鷲は榛の宿水に二月尽 松村蒼石
白鷲や今日こそ秋のことぶれに 林翔
白鷹を据ゑて憂ひのなき花野 長谷川かな女 花寂び
白鷺のはるかな白に居りにけり 不破 博
白鷺の白をあゆませ植田水 木内怜子
白麹冬を昼寝の母怖ろし 成田千空 地霊
白麻の日傘の陰にひそかにゐ 長谷川櫂 虚空
白鼠はしり出でけり蔵開 西李
白鼠わるや祕藏の萬古やき 正岡子規
百千の白兎駈け来る冬の浜 山田みづえ
百日白近江の空こそ縹色 増田十王
百済野の白栲の衣の案山子たち 上野さち子
百獣に白象やさし涅槃像 河野静雲
百足屋も白蚊絣も昔かな 石川桂郎 高蘆
皺ひとつ無き白服の強気なり 櫛原希伊子
皿カップ白で揃へて聖母月 檜 紀代
皿山の白崩崖けぶる霞空 石原八束 空の渚
盆の灯に加はる父の白切子 毛塚静枝
盆舟にまだあたたかき白団子 山崎祐子
盛り塩の白の目を引く事始 山下美典
目に触るるもの白ばかり春の風邪 永方裕子
目白頬白赤腹小雀上野駅 攝津幸彦 未刊句集
盲ひ子の座右に白猫ながし吹く 飯田蛇笏 雪峡
直感のうすくらがりに白菖咲く 本田ひとみ
直面の白皙にして秋扇 西村和子 かりそめならず
眉に立つ白毫剛し初鏡 富安風生
眉描いて来し白犬や仏生会 川端茅舎
眉白に旭が当り出すぶな林 平田繭子
眉白の一声に場の和みたる 三谷尚子
眉白の森に鳴きゐて姿見ず 森美代子
眉白の高音に天城晴れわたり 豊長哲也
眉白の高音ひびけり天城越え 橋本記縫恵
眉白や朝餉の匂ふキャンプ村 樟真弓
眉白や雨がつつめる妹背山 城ちはる
眞つ白な布巾をつかふ花茗荷 秋枝初子
真つ白なあの世見たくて芒原 務中正己
真つ白なシーツを敷けば冬の海 和田耕三郎(1954-)
真つ白なハンカチ使ひそびれたる 藤本悦子
真つ白なブラウス復活祭のミサ 都筑智子
真つ白な犀が来てゐる春の風邪 齋藤愼爾
真つ白な産着が真中初写真 金森教子
真つ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真つ白に雨がふるなり除虫菊 楠部九二緒
真ッ白な蛍ぶくろも梅雨の黙 酒井龍也
真菰の芽おびただしはや白蛾ゐつ 川島彷徨子
眠れねば白狐いざなふ霧氷林 野澤節子
眩暈や白芒すら暗すぎる 齋藤愼爾
眺めゐて誰も買はざりき晩白柚 古賀まり子
眼に見えぬ糸の張られて白椿 桂信子 黄 瀬
眼に遣るは遍路の白のどの部分 加倉井秋を
眼白来て庭の春秋はじまりし 稲畑汀子
眼白来て庭の楽しさ音となる 斎藤翠
眼白籠恵那晴るる日は簷に吊る 水谷晴光
眼白頬白一つ籠なる冬日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
眼白飼ふや父が集めし棚人形 月舟俳句集 原月舟
眼白鳴く磧つづきの家の中 飯田龍太
眼裏に雪白満たすメスの下 加藤知世子 花寂び
着ぶくれてまぶしむものに白燈台 中山純子 沙 羅以後
着るものの終を白とす雁渡し 豊長みのる
睡蓮の一むら離れ白ばかり 大場白水郎 散木集
睡魔来る眼白のいつも来る時間 山田弘子 螢川
睫伏せ白満月の雪の樅 和知喜八 同齢
瞬きをするたびに綿菅の白 正木ゆう子 悠
知床の断崖踏まへ尾白鷲 丸茂良子
知床の風をはらみて尾白鷲 小森行々子
短夜の山中白瀑落し明け 村越化石 山國抄
短夜をかつがつねむる白鸚鵡 大石悦子 百花
短日の出湯の上を白蛾飛ぶ 矢島渚男 延年
短日の白機すすむ筬の音 石原舟月
石に坐し恍惚のとき白すみれ 丸山嵐人
石・流木秋めく白にあばれ川 大熊輝一 土の香
石弓で眼白落しぬ今朝の冬 冬葉第一句集 吉田冬葉
石柱に鳩降り鳩降り白拍子 八木三日女 石柱の賦
石組みの冬日るいるい白虹忌 静間まさ恵
石鹸玉割れる音聞く白寿なり 澤井我来
砂丘白肌見せて薄暑の酒田港 大野林火
砂礫白エーデルワイスまぎれけり 岩崎照子「かつらぎ選集」
研白といふ美しき繭出荷 石橋郷水
破れ傘白花かかげかけこみ寺 東福寺薫
破魔弓の白矢をたとふ一矢かな 安斎櫻[カイ]子
硯する傍にうつくし白がさね 服部嵐雪
碑の陰の碑に黐の花雪白に 加藤知世子 花寂び
磨る墨に酒の一滴白雄の忌 竹中龍青
磯神の一燈の白野分浪 近藤一鴻
祝ぎごころさりげなけれど白重 清水忠彦
祝ぎ事の済みし白足袋干されけり 高橋利雄
神の座の白岳照らす日一輪 福田蓼汀 秋風挽歌
神代桜甲斐の山気に白を帯ぶ 有働 亨
神官の白から白へ更衣 板谷芳浄
神木めぐるどくだみの花白十字 松村蒼石
神苑を歩む白鶏秋をの忌 金丸トミ
神葭流し澪標にも白提燈 佐野美智
神話女神の白肌にして春かもめ 対馬康子 愛国
祭服の涼しき白や起工式 稲畑廣太郎
祭町橋に白髭泪橋 渡邊千枝子(馬酔木)
禅寮に積む白ぶとん臘八会 亀井糸游
福寿草や卓にかけたる白錦 村上鬼城
禪寺の柚味噌ねらふや白藏主 柚味噌 正岡子規
秀野忌や白絹にあるうらおもて 矢部るみ子
秋くると云ひし子の柩ま白なる 萩原麦草 麦嵐
秋のリボンは白蝶と姉妹かも知れぬ 細谷源二
秋の服どこかに白のまだ欲しく 近江小枝子
秋の湯に白蛾をすくふもろ手かな 宮武寒々 朱卓
秋の田に石の標や白毫寺 田村鬼現
秋の蝶黄色が白にさめけらし 高濱虚子
秋は喫茶白手套ぬぐ愉しき世 飯田蛇笏 雪峡
秋冷の白襖またはるかかな 飯田龍太
秋天にクルスは白を色とせる 有働 亨
秋嶺行く光る白点あれが吾子 田所節子
秋彼岸白のおこわも上総ぶり 大坪景章
秋愉し知らぬ夫人も白手套 飯田蛇笏 雪峡
秋暑また仏飯の白無慚なり 櫛原希伊子
秋暑やおはしたながら肌白に 野村喜舟 小石川
秋来ると町屋根越しの白マスト 野澤節子 花 季
秋水の白瀬青淵まさやかに 松本たかし
秋澄むに白杖を身の光りとも 村越化石
秋繭の白の豊作嶺の家 大岳水一路
秋耕の人に蹤く犬白と黒 杉本 寛
秋蝶の白追へば白失せやすし 雨宮きぬよ
秋蝶や春そのまゝの黄に白に 尾崎迷堂 孤輪
秋風に吹かれ白増す母の骨 茂里正治
秋風に白蝶果を狂ひけり 青蘿
秋風に閉ざす離宮の白吟子 西岡 翠
秋風のたてがみ見ゆる白芒 斎藤愼爾 冬の智慧
秋風の隠岐こころざす靴の白 高橋睦郎 稽古飲食
秋風の鬣見ゆる白芒 齋藤愼爾
秋風や旅もハンカチ白がよし 鈴木真砂女
秘色見る外は畠の白椿 松瀬青々
稔り田の白や俄に鷺となる 中山婦美子
稲の花白より味を育てたる 稲畑広太郎
稲光り白ちりめんを積み重ね 鳥居美智子
稲刈後の校庭をあるく白兎 中拓夫 愛鷹
穂孕みを白す八田部の郎女が 廣江八重櫻
穴子白焼どこかで始まる人の離別 藤本常彦
空に咲く白のはじめの花辛夷 宮津昭彦(1929-)
空に藍足し雲に白足して秋 蔦三郎
空の碧落花の白のもとに濃し 池内友次郎 結婚まで
空よりも水の明るき白菖蒲 伊豫田道子
突く羽子の白をたよりの身の在りど 田中みどり
窓越しに手折りて重き白椿 横山房子
窺いて白球を打つ葬後の空 杉本雷造
立ちのぼる白光秋の繭上がる 藤原たかを
立ち出でて白がねふまむ春の雪 立花北枝
立冬のたちまち正午白卓布 友岡子郷 未草
立春のまだ垂れつけぬ白だんご 中山純子 沙羅
立葵一輪白をあげて枯る 阿部みどり女
端午なり鴎の白とはやり唄 鈴木鷹夫 大津絵
競べ馬勝の白絹鞭にうけ 田畑比古
競馬場白系の騎手並み憩ふ 田村了咲
競鳴の賞状の下目白鳴く 中戸川朝人 星辰
竹の幹白服の人通しけり 桂信子 草樹
竹の春朽ちて白ずむ寺の梁 高井去私
竹の花うなづきゆけば白枕 夏石番矢
竹を伐る男しだいに白狐たり 熊谷愛子
竹育つ白光の径五月雨 長谷川かな女 花 季
笛の尾の白装束の行方かな 八木三日女 落葉期
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
筆とつて冨士や画かん白重 白重 正岡子規
筆洗う梅のつぼみの白のため 増田萌子
篝守月の白洲に水を打つ 西尾りん三
籠の目を雑木と思ひ頬白は 永田耕衣 吹毛集
籠を出て考へてをり白兎 清水基吉
籾摺りし糯の白佳し笊すわる 大熊輝一 土の香
粧へる白膠木紅葉や甲斐も奥 矢頭萩花
糸瓜忌の落日淋し白芙容 竹の門句集 筏井竹の門、木津螢雪編
紀のはての白濤ばかり雁帰る 米沢吾亦紅 童顔
紅椿白椿恙なかりけり 星野麥丘人
紅葉湖へ潜水服は白がいい 河野薫
紅葉谿白光曳けりひとつ蝶 石塚友二
紙干すや白を拒絶の色として 文挟夫佐恵
紙漉きて天与の白をかがやかす 落合水尾
紙漉く家白鷲流るごと渡る 西村公鳳
紙魚喰うて玄白訳と読まれけり 岩田深叢
紙魚老いて白毫の如し秋の暮 永田耕衣 闌位
紛れなき白に育ちし毒茸 岩瀬操舟
素謡の洩れて白れん風に舞ふ 鍵和田[ゆ